-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載8回)
~研修記録の重要性~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

第5回(2013.5)の連載で触れた「農の雇用事業」を始めて8ヵ月が経過しました。この事業は、全国農業会議所の助成事業で、毎日の研修内容と月別の記録簿を4ヵ月毎に報告書にまとめ、全国農業会議所の会長宛てに補助金の申請を行わなければなりません。最初は「面倒な仕組みだな」と感じていましたが、報告書にまとめると、研修責任者と研修生の連携の状況が日々進展していくその課程がよく見えてきました。

  弊社の場合は、私が研修責任者の資格(農業経験5年以上)がないため、農家である弊社の専務がその役割を担っています。この研修責任者が、栽培技術指導の研修対象者と、もう一人の社員に対し同時に指導しています。従って私は、全ての研修指導に立ち会っていないのが現状です。

  しかし、現場でどのような指導がなされているのかが、指導者と研修者双方からの書面による報告書で読み取ることができます。日常のコミュニケーションによりある程度情報としては伝わってきていますが、それぞれの行動が具体的な記録として残していけるシステムとして、このような報告書には意義があると思います。

  報告書には、研修生が研修責任者から毎日受けた研修内容を記載したものと、研修で学んだこと、感想、そして自分の勉強課題を月ごとにまとめたものがあります。また、研修責任者からは、月毎の指導経過と、課題についての報告をいただき、代表の私がそれらを編集して作成しています。完成した報告書は、弊社取締役会で同意を得た後、全国農業会議所会長宛てに提出しています。


  研修生には作業日誌を書かせ、記録の重要性を理解させていますが、この事業を導入したことで義務化され、お陰で研修がスムースに運べると考えています。報告書の提出のみではで補助金の申告書が受理されたことにはならず、その報告書に基づいて、本事業の監督者である農業会議所による現地調査があります。他の県の現地調査の内容は存じあげませんが、和歌山県の場合は、研修生と研修責任者に対して個別の聞取り調査が行われています。代表者である私と事務職員には、出勤簿と賃金台帳の提出が求められます。これらの現地審査に問題がなければ書類が受理され、全国農業会議所に申告書が転送され、そこで再び審査を受けて、合格すれば補助金が交付される仕組みです。ここで、書類不備や現地調査の結果が計画と一致しなかった場合には、補助金の交付が遅れたり、打ち切られたりするそうです。弊社の第1回報告の結果は無事合格し、補助金の交付を受けることができました。第2期は現在審査中となっています。

  話は変わりますが、農業研修生の指導にあわせて、農業生産法人として、専務らと一緒に学校教育の支援にも取り組んでいます。この9月には、有田中央高校の地域協育会アグリスマイル部会の部会長に就任しました。私が推薦された真意は聞いていませんが、前号の記事に書きました農業高校における農場運営の先生方の研修会でのスピーチの影響かも知れません。

  このアグリスマイル部会とは、農業クラブの充実と「目指せ!全国優勝」であります。有田中央高校の本年度の成績は、3課題が近畿大会にエントリーでき、入賞はしたものの一位にはなれず、生徒らは悔しい思いをしたとのことです。私は、農業大学校の勤務時代に農業クラブの県大会や近畿大会の審査員をした経験があり、その当時は、和歌山県の農業高校の発表レベルは、まだまだ低い位置にあったことを記憶しています。あれから5年が経過した今日、大きな変化があったことを実感しました。

  9月に開催されたアグリスマイル部会の冒頭で、生徒達により、近畿大会で発表した内容をバージョンアップし、和歌山県で開催される第19回全国棚田サミットで発表するプレゼンテーションを事前に披露してくれました。学校を企業に見立て、高品質な農産物の生産技術とそれらの加工品を開発するという農業ビジネスモデルの提案でした。その提案は、まさに私がこれから取り組もうとしている考えに内容が良く似ていたからです。

  その一つは、高品質な農産物の生産技術習得にこの学校の100年以上にわたる伝統あるイベント農産物品評会が近年衰退してきたことを課題に挙げ、過去バージョン(商品の競い合い)を復活させ、入賞者の栽培を技術レポートする活動です。もう一つは地域の加工業者の指導を受け農産物の格外品の加工仕向けです。この二つを合体させた取組みをアグリスマイル部会のテーマとして農業クラブ活動を行っていることです。行政の推進課題である6次産業化とも一致しています。これらの研究テーマを外部からサポートしていくのが部会の役目です。

  部会長に就任した以上、農業生産法人を運営する私としても早々に両課題に取り組み、実績を上げていかなければならない状況に追い込まれている感じですが、多少焦りはあるものの、生徒指導を行いながら、これが会社の運営を考える上での大変良い刺激になっています。幸い私の大学院の後輩に、山梨園芸高校(現在は山梨県立笛吹高校)を全国高校総合文化祭で最優秀賞に導いた亀井教諭います。早速彼から発表した内容の取り寄せ対応しています。これらの部会活動を通じて教職員とも親しくなり、農業生産法人の現状などを知ってもらうチャンスでもあると考えています。加えて、学生の進路に弊社での研修もありとの認識を高めてもらっています。

  一方、農業生産法人の取組みについて、JA中央会が主催する青年大会の記念講演として招かれ、(株)Citrusの設立動機や運営の楽しさや、もう一つの課題であるGAPにも触れ、スピーチをしてきました。ここでも、最後に懇親会で多くの青年と交流することができ、農業生産法人の運営やGAPに興味を示していることが判りました。

  この講演をきっかけに、現在、和歌山放送のラジオ番組に(株)Citrus代表として出演しています。第1回は農業生産法人を設立した動機について、第2回はGAPについて、第3回は農業へのICTの投入となっています。

  和歌山県内での農業後継者の養成に関わる農業生産法人としての認知度は少しずつ高まってきたのではないかと考えています。

  連載前へ 連載一覧へ 連載次へ