-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載7回)
~農業高校の意義を見直す~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 最近の農業高校って何のためにあるのでしょうか。こんな疑問を持つようになっています。農業大学校に勤務していた時には、学生を確保する対象としてしか見ていませんでした。

  農業大学校を退職してから、地元の農業高校のために地域の人々と協力しあって教育をするという主旨で設立さている「有田中央高校地域協育会」の理事として高校教育に関わる機会が多くなり、農業高校の見直しにも関わりつつあります。私も学校名が変更されていますが同じ農業高校の卒業生であり、その頃は農家の子弟が大半を占めており、卒業後は家を継いで就農する生徒が多かったのを記憶しています。

  しかし、近年の農業高校生は、農家の子弟が1割を切っているのが実態であり、卒業後の進路も多様になっており、そのまま就農する生徒はほとんどおらず、農業大学校への進学が唯一農業関連の進路のようになっています。農業高校の教育において、「農業」は教科の一つになってしまっており、「本当の農業教育はできているのだろうか」と疑問になります。

  和歌山県職員時代、和歌山県は農業県であり、果樹王国でもあり、「果物の生産量で日本一が三つもある」と自慢していたのですが、今では恥ずかしい限りです。現在の農業生産の実績ではこのようになっていますが、「これまで、県の農業・果樹産業を支える人材が適切に育成されてきたのだろうか」、「今後の農業を支える人材育成が適正に行われているのだろうか」という疑問がわきます。このような視点で農業高校、農業大学校、行政を見つめ、そして地域の相互連携を強める取組みが、ほとんど行われて来なかったのではないかと反省させられます。

  行政指導における「農業体験教育」は、農業の人材育成につながってきたのだろうか、具体的な調査はしていないので否定もできませんが、単なるイベントとしてしか存在しないのではないかと思っています。しかし、農業高校の生徒が地域の小学生などを対象にして農業体験イベントなどを企画し実施しているのは、高校生にとって大いに意義のあるものと思っています。また、学校を一つの企業と見なして、農産物の生産から流通・販売までを模擬会社にしての教育する内容はとても立派だと思いました。また、地域のニーズに応えた加工品の開発などについても、「今の農業高校は頑張っている」という実態も知りました。

  先日、「地域協育会」の集まりがあり、生徒と先生、そして「地域協育会」会員の三者が集まりました。そこで、農業クラブをはじめとする生徒の意見やプロジェクトの発表がありました。私も4Hクラブや農業大学校における研究活動の成果発表に関わってきましたが、近年の農業クラブのプロジェクト発表をみて驚くことばかりでした。発表方法がビジュアル化されていることもあるのですが、地域との連携、地域のニーズを捉えた研究が多く、生徒と先生の取り組む姿勢が起業家的であることです。指導する先生方の努力とセンスが大きく反映するのでしょうが、それを経験した生徒は、卒業後大きく成長することと思います。彼らの研究や経験をそのまま進路に活かしていけないものかと考えています。

  現状では、農業への就職先はなく、「進路は別物」というような扱いとなっているような気がしますが、ここを何とか改善し、地域の連携や行政の働きによって、農業・果樹産業への人材確保につなげていけないものかと考えます。

  こんな中、去る7月25、26日の二日間、和歌山市において開催された平成25年度全国高等学校農場協会近東支部大会・東海地区高等学校農業教育研究会大会に招待され、「提案と人材育成」と題してスピーチをしてきました。講演のみでも良かったのですが、主催者から「活動全体の様子を是非知って欲しい」との要請もあり、二日間通して出席することとなり、多くの農業高校の先生方と交流ができました。

  この貴重な機会により、先に述べた課題の幾つかは、日頃の私の疑問と良く一致しているとの印象を受けました。先生方は、農業という業種に生徒の進路がないということを大変残念がっていました。農業高校の先生方は、「農業は教科の一つ」と考えるのではなく、「職業の一つ」と考え、日夜生徒指導に努力していることを知りました。

  私の講演が最後のプログラムでしたので、この研究会で議論されてきたことを踏まえ、「私は農業高校の出身であり、高校の先生が英語の書籍「シトラス・インダストリー」を取り出し、『ここに解答があるよ』と示されたことに強いインパクトを受け、その後の進路を決めた生徒の一人であることを強調し、このことが契機となって、現在の私をここに立たせてくれている」という主旨のことをお話しました。そして、「先生方の目線で農業高校卒業生の進路報告を聞いて下さい」、「先生方は生徒の可能性を高めるために日夜スキルアップをして下さい」と締めくくりました。200名余りの先生方が熱心に聴講してくれたことを感じました。講演終了後に多くの先生方から話しかけられ、共感を得ました。

  この研究大会に出席して、若者が農業という職業を自由に選べる環境を産地が早急に考えていく必要性を強く感じました。大切なことは、JAや行政、あるいは地域が、今ある農家を守ることを中心に考えるのではなく、農業という地域の資産を誰に託していくかという視点で真剣に考えていかなければならないことであり、その時期が既に来ていると私は考えています。

  連載前へ 連載一覧へ 連載次へ