株式会社Citrusの農場経営実践(連載54回)
~来春新規就農を目指す地域おこし協力隊員のために~
佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役
有田川町における農業での2期目の地域おこし協力隊員を迎えて2年が経過した。隊員が来春新規就農する計画で準備を進めている。1期目より早いタイミングで経営する農地確保に取り組んだ。地域おこし協力隊員は任期中に農地を賃貸契約することはできない。
I隊員には新規に経営を始めようとする農地1.3ヘクタールを弊社が賃貸契約を結び確保した。その農地の未栽植部分20アールにみかん苗木を新植した。I隊員は昨年2月より農地の地権者からみかん栽培技術の直接指導を受けることができたことから次年度の独立に自信がついたと考えている。このような仕組みを作ることは地域おこし協力隊員が卒隊後、地域に残れる重要な要素であると考えている。
隊員へのみかん栽培技術指導は弊社に課せられた課題ではあるが、隊員は学生ではなく一連の社会生活経験者であることから、経営目標を早期に示していくことで自主的な行動ができるようになり、弊社への要望も活発化し、対応に追われ出費もかさむことが多々発生しているが、スムースな就農を支援するためには必要と考えている。
もう一人のO隊員の場合はサンショウ栽培に興味を示したことから、サンショウ栽培技術と出荷調整技術についてはサンショウ栽培専門農家にお任せした。しかし、O隊員は新規就農のメインはみかん栽培であることから、サンショウ栽培はグロワーシッパー提携している「株式会社みかんの会」が管理する水田を、将来O隊員が就農後にサンショ栽培管理ができるようにサンショの苗木を新植した。作業はO隊員が専門農家から得た知識で実施した。販売の仕組みは「株式会社みかんの会」と連携できるような仕組みとしている。I隊員やO隊員が有田川町に定着しグロワーシッパーである弊社組織と一緒に発展していくための投資と考え彼らを支援している。O隊員にはみかん栽培を勉強していくために弊社の園地30アールを1年間お任せしたが、来春栽培を始めるみかん園はO隊員の居住している住民からの紹介を受け90アール確保出来たので、弊社が任せたみかん園は弊社社員管理に戻した。隊員等は就農のための農地確保はできたが、ここにきて新規参入の定番課題である農業機械保管と出荷調整用の倉庫が見つからない。ここは行政と連携しながら探しているが難しい課題である。
就農準備のため各種情報収集と社員研修を併せて勉強の場を持っている。私の知り合いで同年代で新規就農した若者との弊社の社員そして地域おこし協力隊員ら合同の勉強会を地元の農業生産法人「株式会社早和果樹園」(農林水産大臣賞受賞)の秋竹新吾会長を講師にこれからの農業について勉強した。質疑応答や参加者の就農状況の報告で4時間にわたりディスカッションが続いた(図1)。
地域おこし協力員の進捗は順調で喜んでいるが一方弊社のみかん園の管理運営はこれまで地域おこし協力隊員と一緒に作業しながら進めてきたが隊員らは将来自分か管理する園中心の活動となったことから、現行のみかん園地管理作業が社員への負担増と育休中の社員もいることから社員と協議の結果一部のみかん園を1年間休止させる苦肉の策をとることにした。とりあえず今年1年間はこれでやり繰りできると計算した。

2025/6