-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載52回)
~有田川バイオマス発電所と農業連携は可能か~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 この話は本誌74号の連載「株式会社Citrusの農場経営実践(46)」で紹介したその後の経過である。弊社の近くでバイオマス発電所が稼働し、そこで発生する副産物のチャー(バイオ炭)を温州みかん園の土壌に埋設して温州みかん樹の生育や果実品質向上の効果があるのかという簡易な実証試験をおこなった。有田川バイオマス発電所を運営するシン・エナジー株式会社(神戸市)から結果はどうだったかと問い合わせがあった。弊社の試験では温州みかん園の改植時に植え穴に2リッターから3リッターのチャーを投入してその後の生育を視るということだった。問い合わせに対しては弊社として「土壌の保水性向上に期待したが、殆ど効果が無かった」と伝えた。今年の夏は干ばつで苗木のかん水を数回おこなったが、試験区と対象区の苗木の生育に違いは見られなかった。干ばつ時の土壌の保水性に向上は無かったと考えられる。

 2年前に弊社がチャー投入したとのニュースで、柿農家やトマトの施設栽培農家からの問い合わせがあり、チャー引き取りのお世話をしたが、今年リピーターは無かった。聞いてみると「土壌への埋設による顕著な効果はなかった。ただ、パウダー状のチャーの取り扱いや施用には苦労した」との報告を受けていた。弊社もチャーの取り扱いに苦労したことはよくわかっていたので同様の課題であることをシン・エナジー株式会社に伝えた。

  その後、バイオマス発電所はチャーに水を混入してパウダー状を少し顆粒に近づけたといってきたが、それでも取り扱いは容易になっていなかった。そこでこの話は終わったかと思ったが、今年の9月に入りシン・エナジー株式会社からチャーの施用を少し容易にするための加工技術にめどが立ったと連絡がはいり、炭素クレジット(J-クレジット制度)を農家で活用できる仕組み作りへの協力依頼があった。

  バイオマス発電所からのバイオ炭とJクレジット制度の仕組みの説明によると、「日本の農家では古くから粉炭を農地に撒き、土壌改良材として農作物の生育や連作障害防止に利用してきた。」バイオ炭を農地に埋設した場合、「バイオ炭を構成する炭素Cの結合は強固なので土壌の微生物によって分解されにくい性質を持っていて、地中に長年(100年以上数千年)にわたって残る」ということで、「土壌改良材として農地に撒く(貯留する)バイオ炭を、J-クレジット制度では大気中CO2を削減する重要な方策として認めることになった」との説明だった。

 しかし、弊社の試験結果から、バイオ炭に興味を持つ農家グループ団をまとめることは困難だと一時は断ったが、「しろにし:有田川町移住定住推進拠点」が世話人となり有田川町内の農家の若者を15人ほど集めるから出席して欲しいと依頼があり、10月18日にバイオマス発電所の近くのレストランに集合した。そこには炭施用の研究家や県庁幹部のOBも出席していた。2年前にもこのような集まりがあり興味をもった農家がバイオ炭の提供を受け試験施用したが、その後結果についての話し合いがもたれなかった。そこで弊社が、今回の集りを機会に気楽とりくむバイオ炭活用グループを作らないかと提案してみた。その場では同意を得るまでの詰めはしなかったが、この会を企画した「しろにし」からは、面白い提案だから、弊社が代表になってもらえるのならグループ化を進めるとなったので同意をして会を終えた。

 後に、バオマス発電所とシン・エナジー株式会社で、有田川町におけるJクレジット制度の仕組みを構築していく運びになったと。「しろにし」から報告があった。この話が成功すれば弊社の地域貢献及び世界貢献になるのではと考えている。しかし、反面この看板(図1)に掲げている事業が、妥当な理論から始まっていたかが疑問である。

図1 農業でのチャーの利用計画(現状では進んでいない)
図2 チャー(バイオ炭)はパウダー状で扱いにくい。
図3 現状のバイオ炭の引き取り現場(これでは農家での扱いに苦労する)

  J-クレジット制度の詳細はHP<https://biochar.jp/j-credit/>で(農地に撒く土壌改良材の炭がCO2削減の炭素クレジットに認められます!)を参考にしてください。

2024/11

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