-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載51回)
~人材育成を振り返って今後を見据える~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 今年も税理士法人「K・N合同会計事務所」より令和6年5月30日電子申告済のサインが入った決算報告書(第12期)が届いた。当期純損失145,953円と損益計算書最後の行に記載があった。お世話になっている会計事務所のS税理士に当初この会社は実験事業なので今後大赤字が予測できる場合に会社を閉めるタイミングを的確に指示して欲しいといつも話し合っていたと現在継続担当してもらっている同事務所のK税理士にこのこと伝えた。S税理士は一昨年突然死されもう相談できなくなり淋しい思いをしている。私の意向は引き継がれていたかは不明であるが、K税理士は各種必要経費の前年対比表を示し、第13期に進めてくださいとの説明を受けた。赤字の話は別として、これまで12年間の会社運営を振り返ってみると第13期目も継続してもいいかなと考えている。それは、会社設立時定款の第1章第2条(目的)に人材育成事業を掲げているからであり、このことを振り返ってみる。

  これまで新規参入により自立経営者として国県の自立経営に関する補助金適用者3名(令和5年6月・令和5年12月・令和6年1月)と親元就農者を2名(平成30年1月・令和元年4月)生み出した。残念ながら1名(平成31年12月退社)を就農させることはできなかった。人材育成事業として正規社員としての採用と研修生として受入れにより実施してきた。正規採用の社員には「農の雇用事業」を、研修生には地域おこし協力隊事業や就農準備型の国県補助事業を適用してきた。人材育成事業と会社運営継続を両立にさせるのは農業単独の収支のみでは困難であるが、農業生産法人を設立し各種補助事業活用と行政との連携で地域農業を活性化させていくことが可能であることがわかった。しかし、本当に新規参入による自立経営が持続できていくかを長期的に見なければ人材育成事業の目的が達成できたかどうかにはまだ自信が持てない。

  私は会社設立した動機は農業大学校を卒業した学生の就職先に農業がないことを課題にもち、その解決策の一つとして取り組んだと繰り返して述べてきた。これまで農業大学校の卒業学生と社会人課程修了者を合わせて6名正規社員として採用、研修生として地域おこし協力隊員3名、有田川町農業後継者受入協議会から研修者1名を就農指導し、現在も継続している。令和6年7月現在、2名は正規社員として勤務、研修生としては地域おこし協力隊員(令和5年4月~令和8年3月)2名を継続して受入、会社を運営している。

  研修生として受け入れ、自立に至るまでにはそれぞれの目標に併せた準備期間と行政の支援があったからスムーズに進められたが、会社の正規社員として退社し新規に農業をはじめるには親元就農の2名は別として、新規に自立農業者となった元社員は大変苦労したと聞いた。令和6年度から自立経営者となったが、弊社を退社したのは令和3年3月末日、その退社社員の知人が経営する農地を紹介してもらえるとの話で退社10ヶ月前に自立したい意向を尊重し応援することとした。しかし、退社直前になって経営を任されることが確約出来ていなかったことがわかった。会社としては新規採用者を決定していたが、会社にとどまることを進めた。しかし、本人は退社を優先した。その社員は病気以外休むことはなかったので退職日直前まで有給休暇をとらせ就農準備をさせた。退社社員に経営を任せるといっていた農家は我が社の仲介ではなく別の方だったので会社として介入はできなかった。その社員は退社後その農家でアルバイト的に通い、2年後にようやく自立意欲が認められ令和6年1月に全面的に経営を任されることとなった。形式は高齢により離農する農家の農地と販売の仕組みを100%後継することとなった。このことから新規に自立就農を進める場合は準備に会社や行政が深く関わっていく必要を強く感じている。令和8年4月に自立就農を予定している研修生に対しては慎重に就農準備を応援していきたい。また、正社員には会社持続のための就業対応をしっかり考え、会社及び人材育成事業拡大のため第3期目の継続運営を決意したところである。

2024/7

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