-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載37回)
~社員の1人が自立就農予定決まる~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 弊社の定款の1つに人材育成がある。これまで3名の社員の自立就農を成功させてきたが、ここにきて来春の就農を決めた社員が誕生したことは格別に嬉しい。


(図)有田川町役場のプレスリリース

 一方で、今後の会社運営への不安が高まった。これまで自立就農した社員は県農業大学校を卒業した農業や林業などの第一次産業を営む家庭の子弟であり、将来自営することを想定した採用であった。しかし、来春に就農予定の社員は非農家出身であり、将来は弊社の担い手として活躍してくれる社員と期待していた。勤続5年目を迎えた今春に自立就農したい意向を示したので、弊社の運営を担って欲しいと慰留に努めたが、令和2年9月1日付けで令和3年2月28日退職とすると届けが出された。会社の運営を考慮しての早めの届けは有難かったが、本音を言うとちょっとショックを受けた。本人は着々と自立就農を模索していたようで、新規採用当時はここ有田地方でみかん農家になることが夢だと語っていたが、本当にこんなに早く自立就農まで進むとは全く予測していなかった。 現在の生産現場は、就農予定をしているその社員と、今年3月に新規採用した和歌山県農林大学校就農支援センター社会人課程を修了した女子社員1名と、コロナ禍で研修開始が5月末にずれ込んだが、有田川町事業として有田川町に着任した地域おこし協力隊の青年男性33才(3年間)の3名で運営している。この10月末からは、和歌山県農林大学校就農支援センター社会人課程の男性34才の研修生が1ヶ月間の予定で弊社にてインターンシップに入る。研修の事前打合せにおいてインターンシップ研修生は来春の就農を予定していると聞いている。

 今のところ現場の運営はなんとかクリアー出来そうであるが、収穫の繁忙期のアルバイト確保は進んでいない。今年度は、県外からのアルバイト募集は控えている。昨年までは、古民家やアパートでの集団生活をベースにしてアルバイト勤務に就いて貰っていたが、コロナ禍での感染リスクを避けるために、地元での雇用を中心に計画している。幸い1名の地元要員の雇用が決まっている。「コロナ禍で失業したので・・」と東京から問合せがあったが、例年のようなCitrus寮としてのアパートの確保を取りやめたため、残念ながらお断りする結果となった。

 人材育成については有田川町の地域おこし協力隊員1名と、就農支援センター研修生のインターンシップ1名、それに、今年3月に新規採用した女子社員の令和2年度第2期の「農の雇用事業」が8月から2ヵ年間採択され、この事業による研修4回目に入ることが出来た。それぞれの研修はこれまで順調に進めることが出来ている。


(図)現在の社員(左2名)及び研修生(右2名)

 一方、次年度からの会社運営については、先ずは、令和3年度の新規採用者の募集を始めた。これまでも農林大学校卒業生の採用をポリシーとしているので、採用案内を出したが、提出時期が遅くなり、学校から、現在は「応募者ゼロ」との返事を受けたばかりである。今後は農林大学校に関係するような地元の若者で農業志向をもつ青年を模索していこうと口コミで募集を始めたところである。 また、経営者である著者が今年5月末に病気入院したこと期に、農業生産法人の在り方についても取締役会で検討を始めた。近い将来は、著者も取締役を務めると同時に、株式会社Citrusの法人構成員で、農産物販売事業を展開している「株式会社みかんの会」と連携して、アメリカ型のグロワー・シッパーを目指すとした課題を進めることとなった。

 このコロナ禍において、経営面では「高収益作物次期作支援交付金」の申請や「経営継続補助金」の申請を既に行っている。「経営継続補助金」の採択は未定であるが、「高収益作物次期作支援交付金」は申請書に偽りがない限り交付されると聞いている。また、農済の収入保険契約も8月末に基準金額が示されたので、ちょうどサインを済ませたところである。あとはコロナ禍での販売はどうなるか、異常気象下での自然災害の発生など、気がかりなことばかり続くが、人材育成を進めるために前に進むしか無いと考えている。

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