株式会社Citrusの農場経営実践(連載33回)
~人材不足の影響がこの夏に~<
佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役
弊社の定款の1つに人材育成がある。これまで3名の社員の自立就農を成功させてきたが、ここにきて来春の就農を決めた社員が誕生したことは格別に嬉しい。
昨年の12月末に1人の社員が就農目的で退社した。続いて、今年の1月にもカンボジア農業技能実習生が退社した。いずれも予期していなかったことである。昨年3月に新規採用した農林大学校の卒業生は「数年間は弊社で働く」と表明していたので、「農の雇用事業」を適用して順調に進んでいた。しかし、みかんの収穫時期に入った11月ころから会社を休むようになり、理由を尋ねると「親類の農地を借りて農業をはじめる準備をしている」と打ち明けられた。会社としては非常に残念なことではあるが、農業人材の育成を弊社の基本方針に挙げていることから、独立することを拒むわけにはいかず、退職願いを受理した。
続いてのカンボジア農業技能実習生の退社は、制度上の問題で継続雇用が出来なくなった。その理由とは、以前に述べた通り、実習は「野菜部門」が条件であり、昨年、弊社がホウレンソウの生産から撤退したため、「果樹部門のみでの実習は認められない」と受入機関から指摘された。
この春には正社員の新規採用を計画したものの、農林大学校の卒業生を確保することが出来なかった。やむなく正社員一名で3ヘクタール余りのみかん園を管理することとなった。剪定作業、薬剤散布、施肥はなんとか社員の週休二日制においてもクリアー出来てきたが、夏場に入り、時間を要する摘果作業や除草作業の遅れで苦労した。今年の夏場は多雨であったため、雑草が勢いを増して繁茂し、御進物ニーズを中心に生産している中生温州みかん園の50アールが雑草(カズラ)に覆われ、みかんの樹が見えない状況となった。その理由は、極早生、早生と園地毎に順番に摘果作業を実施し、定期的に病害虫防除をおこなっていたが、重要な摘果作業を優先して、そのみかん園のみ除草作業を1回見送ってしまったためである。雑草に覆われた果樹は、薬剤散布が出来ない状態になってしまった。やむなくグロワー/シッパーとしてスタートした株式会社みかんの会に作業の応援を求め、社員ら9名の若者が3日間で50アールの樹園地の除草を完了させてくれた。著者ひとりの個人経営であったなら、既に諦めていたかもしれない状況であった。
周辺の園地では、除草が追いつかずに放置してきた樹園地が今年は特に目立ってきているような気がする。おそらく弊社のように助っ人を求める環境が無いのかもしれない。この作業で摘果作業が1週間程度遅れたため、通年なら早生みかんの摘果作業が終了し、9月中旬には中生・晩生温州の摘果作業が始まり、途中で極早生みかんの仕上げ摘果を実施することになるの戦力になったグロワー/シッパー株式会社みかんの会の社員と弊社の社員の合同作業チームであるが、今年は少し省略して、収穫の準備に入ることにした。
現在は、みかんの収穫のためのアルバイトを募集しているが、残念ながら今のところ応募が無い。収穫に入る10月末迄にアルバイトを確保出来るかどうかが大きな課題である。
農作業を行う人材が周辺に本当にいないことから、みかん農業がこのまま続けられるかどうか疑問である。外国人労働者に頼るか、或いはスペインのアルメリア地方のような移民による農業の体制を確立することでもない限り、安心して農業を維持したり、拡大したりすることができない状況にあると痛切に感じている。
このような状況の中で、著者らは農業法人のモデルとして、また、グリーンハーベスター(GH)農場評価のモデルとして、あちこちからの要請に応えて出かけてお話をしているが、人材不足による深刻な現実の問題が、GAPに関する講演の内容と矛盾を感じている今日この頃である。