-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載34回)
~人材育成に取り組んだ1年間~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 株式会社Cirrusを設立して8年が経過し、当初の目的の1つである人材育成の環境が整ってきたのか、様々な機関からの研修の引受け依頼がくるようになってきた。 昨年の出来事を振り返ってみると、1月には地元の有田中央高校の生徒5名がインターシップとして弊社にやってきた。今年も1月28日、29日に研修生の受入れが決まっているが、今年で4回目となる。学校の目的は、学科に入学した生徒が2年生になったときに、専攻するコースを選択しなければならない。そのコースの農業系列を希望する生徒がインターシップとして農業を体験することで、2年生になるときに、農業系列を選択するかどうかの判断材料に役立つようにすることである。従って、この事業には慎重に対応している。

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 インターンシップのための事前打合せがあり、それぞれの生徒が弊社に挨拶に来るが、そのとき、生徒から卒業後の目標について必ずディスカッションさせて貰っている。明確に農業を目指す生徒は滅多にいないが、昨年は1人であるが、農業に就きたいという生徒がいて、とても頼もしさを感じた。インターシップはわずか2日間であるが、農作業を共にしながらGAPやさまざまな農業情報を提供させてもらっている。この影響か、農林大学校へ進学する生徒が出始めた。筆者と実習を指導する社員は、農林大学校を経験していることから、この点を注視してくれていたのかなと喜んでいる。

  2月には有田中央高校の2年生を対象に「生き方・在り方」と題する授業があり、学校を取り巻く法人や企業などの事業所の代表者がその講師として教壇に立つ場がある。毎年25人ほどの講師が招待されている。弊社も1つの事業所として認められたのか、2年間連続して講師として招待を受けてきた。今年も2月13日に開催が予定されていて、弊社の事業概要について説明して欲しいと依頼を受けている。

  この授業の目的は、生徒が社会に出たときに自己表現力が身に付くようにする訓練と聞いている。従って、この授業を受ける生徒は農業系列の者とは限らないが、弊社の農業経営の内容を示し、質疑応答形式で講師は生徒から意見を聞き出すのが狙いである。2年生になると、卒業後の進路を明確にする生徒が多くなるのは、実業高校の先生の指導が立派であると感じるひとときである。

  6月と10月の2回にわたって農林大学校からインターシップを受け入れ、過去に3回経験しているが、第一回目の学生は、現在弊社の社員として務め、栽培管理主任として従事してくれている。また、2回目の学生は、弊社に入社はしてくれたが、その後、自ら就農するために退社した。昨年受け入れた学生につては、残念ながら就農とはならなかったが、後期10月の実習の時に農業関連企業に就職が決まったとの報告を受けた。

  弊社社員の谷端栽培管理主任は、一昨年ではあるが、母校である農林大学校に先輩として農業生産法人で仕事をしている様子を後輩達に聞かせることができた。また、今年に入り、1月22日に母校の高校から農業体験の話をする講師の依頼が来ている。

  大学との関係では、筆者は農業生産法人の経営者として和歌山大学食農総合研究所のアドバイザリー・ボードメンバーの委嘱を受け、研究会に出席し、今年で4年目に入った。ここにきて、全国の大学で、農学部が設置されていない4県の内に和歌山県が含まれていることがわかり、筆者は機会を得て、和歌山大学に農学部の設置を強く訴え、周辺の農家らと共に声を上げ、学内の動きと情報を共有して活動をしている。昨年秋からは、農学部の設置に向けて政治家も積極的に研究を始めているので、農学部設置の可能性はゼロでは無いと期待している。

  農業関連の事業として、和歌山大学食農総合研究所がJAわかやまの寄付により、農業をテーマとした講義が年15回開催されており、その講義の一コマを筆者も担っている。昨年は1月22日に開催され農学部の無い大学の学生と社会人を合わせて275名が受講したが、そのリアクション・ペーパーを読むと、農業分野にも仕事を見出せるのでは?と、農業への関心を示してくる学生が多いのに驚かされた。今年も1月21日の講義を任されているので、気を引き締めたい。

  一方、大学生のからは、弊社の取組みやみかん産業について、卒業論文の課題として取り上げて貰えるようになってきた。昨年は、著者の母校である東京農工大学農学部生物生産学科の農業経営・生産組織学研究室の4年生Mさんから弊社の会社概要についてアンケートによる調査の依頼があった。伺ってみると、農林水産省のホームページに弊社の記載があったので、調査対象として選択したとのことであった。

  この連載にも取り上げたが、昨年11月には、東京大学農学部農業・資源経済学専修の食料・資源経済学研究室の4年生Tさんが5日間であるが弊社に滞在し、有田みかん産地における食品ロスを切り口とした調査活動を行った。収穫期の繁忙期であったが、調査に同行することで、著者も食品ロスではなく、多くの収益ロスの部分に気づくことが出来た。東大生の卒論対応は3回目であるが、今回は時間をかけて弊社のみかん園での調査や関係機関への聞取り等、学生のみかんに対する関心度の高さを強く感じさせ位貰った。

  GAP(持続的農業)に関しては、昨年弊社が(社)日本生産者GAP協会のGH農場評価を受けたが、この取組みをJA和歌山の機関誌「和歌山の果樹」に連載記事として投稿した。農業世界遺産に認定されている和歌山県の梅の産地「みなべ町」の生産者らは、世界遺産に恥じないようにとGAPに感心をもった若者らが、弊社のGH農場評価の記事を見て、「GAPの勉強会を開きたい」と講演を依頼してきた。そこで、生産者50人を対象に、弊社が実施したGH農場評価の結果について2時間余のGAP講習会を開いた。この結果については、別途報告する。

  最後に、これから農業に就くという研修生の農家実習を引き受けているので、そのシステムを簡単に紹介してみる。和歌山県農林大学校の就農支援センターに社会人課程があり、失業保険の受給を受けながらの研修(職業訓練)があり、9ヵ月間の農業研修を実施している。この研修の修了は、今年の2月である。そこから2名の研修生が、昨年10月から今年の1月にかけて25日間、弊社の社員と同様の勤務形態でインターシップに入っている。農業体験と言うより、農作業の厳しさや繁忙期の運営方法などを学ばせているものである。現在研修を受けている内の1人は、弊社に就職を希望し、採用が内定している。

  以上のとおり、学生や研修生等の若者が農業を目指すために、弊社の取組みをモデルにしての人材育成にようやく関われるようになってきている。今後もさらにこの事業を社会貢献の一環として発展させていきたいと考えている。

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