-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載32回)
~グロワー/シッパーを目指して~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 株式会社Citrusの設立7期目の決算が終わった。今期もまた大きな誤算があった。

  2年前に地域の有限会社の野菜農家が倒産に追い込まれた。社名や取引先は匿名とさせていただきますが、立派な施設が放置されるのを見かねて、その会社をなんとか復帰させようと弊社と流通会社の「サンライズみかんの会」が仲介して、野菜生産を継続させるために農作業やパッキング作業に社員を送り込み、また、野菜の販路をみかんの取引先でもあった業者に取り次ぎ、おおよそ半年の間、その生産販売に挑戦したが、今年の1月に見切りをつけた。

  支援をすると、当初その生産者に約束はしたものの、問題は弊社の要求に応える商品生産の努力を怠ったことに原因があり、弊社の担当役員が「継続は困難」と判断したのである。これにより、半年間で、弊社のみで230万円あまりの損失が出た。決算ではこの損失はみかんの売上げでカバーできたが、見通しがあまかったと反省している。

  しかし、この取組みによって得られたものもあった。一昨年より弊社と姉妹会社になったある流通業者の「株式会社サンライズみかんの会」との連携を強固なものに発展させるきっかけとなった。昨年7月「株式会社サンライズみかんの会」の役員の執行体制が改革された。弊社の代表取締役である著者が取締役となり、生産部門と流通部門の連携を強め、アメリカ型のグロワー/シッパーを目指すことになった。


株式会社みかんの会関係者一同(令和元年5月1日)

  そして、令和元年5月1日に新社名で「株式会社みかんの会」の竣工式を執り行うことになったのである。この会社は、先にも述べた流通会社であり、平成15年に津田兼司氏が「株式会社サンライズみかんの会」として設立した農産物流通業の会社であった。有田みかんの産地直送販売を目的としているが、農協組織や任意の出荷組織ではなく、新たな農産物流通を目指して設立されたものであり、その原型は、1990年代にアメリカにおける青果産業の構造変化を学び、日本より早くから大規模なスーパーマーケット・チェーンやレストラン・チェーンが展開されていたアメリカの青果を供給する流通チャンネルである大都市の卸売市場の役割より、産地におけるシッパーの役割は大きかったという報告を知り、それを目指していた。それを裏付ける論文が2011年から2013年に岩手大学の佐藤和憲氏(現在:東京農業大学)によって発表されている。

  当社は、近年アメリカで伸びてきているグロワー/シッパーを目指し、「株式会社サンライズみかんの会」が著者の経営する農業生産法人へ出資し、共に連携を強めてきた。ここにきて、野菜部門の失敗からグロワーとシッパーの連携を強固なものにする必要性が問われ、この在り方を検討してきた結果、役員人事、社屋の新設、社名の変更となったのである。野菜部門の失敗は引き金ではあったが、最大の要因は設立から15年が経過した段階で、これまで、このグロワー/シッパーの成果が出はじめたことから、これまで「株式会社サンライズみかんの会」は貸倉庫で事業を展開してきたが、更なる展開を図るため、若手の宮井健太代表取締役(31才)が社員に30才代の若手4名を起用し、設立者の指導の下、自社で新社屋を確保し、社名も「株式会社みかんの会」に改名し、この度めでたく竣工式を迎えたということである。それと同時に、過疎化が進む和歌山県の農業を少しでも活性化したいということから、地方の創生として有田郡有田川町糸川400番地の山間部に会社を設け、地域の農家と共に発展させたいと意欲を示している。

  弊社は昨年12月に正社員1人が就農のため退社した。また、カンボジア技能実習生が野菜部門での研修受け入れだったことから弊社の野菜部門撤退が外国人技能実習制度に反することとなりやむなく退社となった。この人材不足を回避するため、弊社は株式会社みかんの会と連携して農繁期には両会社の社員で対応していこうと試みている。6月に入り、農作業の継続困難となった園地を弊社とみかんの会共同で管理を引き受けることが決まった。これからは単独で農業を営み悩むのではなく、組織で地域農業を維持していくグロワー/シッパー形態を実現していきたいと考えている。そしてそこに若者が集まる事業を展開していきたいものである。

   次なる課題は、シッパーがグロワーに対してGAPのルールをどのように浸透させていけるのか問われている。


株式会社みかんの会の自社社屋

 一方、次年度からの会社運営については、先ずは、令和3年度の新規採用者の募集を始めた。これまでも農林大学校卒業生の採用をポリシーとしているので、採用案内を出したが、提出時期が遅くなり、学校から、現在は「応募者ゼロ」との返事を受けたばかりである。今後は農林大学校に関係するような地元の若者で農業志向をもつ青年を模索していこうと口コミで募集を始めたところである。 また、経営者である著者が今年5月末に病気入院したこと期に、農業生産法人の在り方についても取締役会で検討を始めた。近い将来は、著者も取締役を務めると同時に、株式会社Citrusの法人構成員で、農産物販売事業を展開している「株式会社みかんの会」と連携して、アメリカ型のグワーシッパーを目指すとした課題を進めることとなった。

 このコロナ禍において、経営面では「高収益作物次期作支援交付金」の申請や「経営継続補助金」の申請を既に行っている。「経営継続補助金」の採択は未定であるが、「高収益作物次期作支援交付金」は申請書に偽りがない限り交付されると聞いている。また、農済の収入保険契約も8月末に基準金額が示されたので、ちょうどサインを済ませたところである。あとはコロナ禍での販売はどうなるか、異常気象下での自然災害の発生など、気がかりなことばかり続くが、人材育成を進めるために前に進むしか無いと考えている。

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