株式会社Citrusの農場経営実践(連載31回)
~GH評価その後の取組み~
佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役
2018年2月1日、弊社が受けた「グリーンハーベスター(GH)農場評価」(以下GH評価)の結果を基に、各々の指摘事項の改善をおこなってきたので、その報告と、現時点で未達成の部分をGH評価の項目順にまとめてみた。
まず「農場管理システムの妥当性」では、園地台帳は整えていたが、それぞれの園地のリスク記載が無かったことから、園地ごとの立地条件の記載をはじめた。近隣の園地の状況や農薬ドリフトの可能性、園地そのものの作業の危険性など、弊社の場合は傾斜地が多いので、石垣の崩壊の恐れなどをチェックした。
園地での「事故発生時の手順書がない」との指摘であったので、現場責任者は速やかに事故内容を把握し、現場の判断で、必要ならば救急車を要請することを決めた。その場合、弊社の一部の園地に救急車が入れない箇所があるため、救急車の待機場所も社員一同で協議して決めた。 カンボジア人研修生へのOJT指導の教育指導記録がなかったので、日本語を教えたり、通訳を呼んだりした記録を農業日誌に記載することにした。しかし、クメール語による就業規則は未完成のままである。
「フードディフェンスに関するリスク評価の記録がない」とのことだったので、ゴミの不法投棄の看板設置をしたことを記録したが、園地ごとのフードディフェンスを考慮した壁などの構造物による物理的対策は出来ていない。
「作物養分管理」では、弊社の肥料は肥料店に依頼して配合肥料を注文しているが、「配合成分の単体毎の成分量が明記されていない」との指摘があったので、今年度より肥料店に成分表を示してもらうこととした。
「農薬の使用」の喫緊の問題として、農薬散布機は、《使用の前に充分な点検を行うとともに、使用後はタンク、ホース、ノズルの内外、その他農薬が付着した全ての部分を洗浄している》との項目に対して、果樹栽培において全園散布終了後にホースやタンクは洗浄していたが、圃場に設置してある大型のタンクの洗浄を毎回おこなっていなかった点が指摘された。これまで、洗浄後の廃液処理が困難だったことを理由にしていたが、その後、タンクの底にドレインを設置し、タンクの横に大きな穴を掘ってそこに流し込ませる措置をした。しかし、この方法も妥当かどうかは疑問が残っている。
「土壌管理」では、これまで3年前に分析した記憶があるが、データを紛失したので、今後は弊社近くの果樹試験場が一般農家の土壌分析をしてくれるイベントが年一回あるので、それに便乗することで経費をかけずに毎年実施することとした。
「農産物の安全性と食品衛生管理」では、手洗い方法の手順書がないと言うことで、保育所などに掲示してあるインフルエンザ予防の手洗いを真似て作成した。また、衛生教育は、収穫アルバイトを雇用した時点で、トイレ使用後の手洗い、圃場にトイレが設置されていない場合の対応などを説明するようにしている。また、手洗い用の水道水20リッタータンクを圃場に常設した。トイレは「圃場から5分以内にあること」を確認し、社員やアルバイトのメンバーに案内図を示している。本来なら圃場ごとにトイレを設置したいが、10ヵ所も必要となり、経費負担が大きいので設置していない。
「労働安全と福祉の管理」では、傾斜地みかん園に資材等の運搬用に設置してあるモノレールに乗車することによる危険性が指摘され、この解決が課題であり、「乗車してはいけない」との表示はあるものの、つい乗ってしまう傾向にあったが、指摘後は「100%守っている」とはいえないが、ほぼ90%以上無人運転に努めるようになった。そのためには、モノレール周辺および機械類の整備点検を充分おこなうこととしている。その他にも多くの指摘事項はあったが、GH評価を受けたことで、改善の方向が明確化されたことを実感している。
さらに改善意欲が高まった背景には、グローバルGAP認証の取得への挑戦があった。現時点ではグローバルGAP取得には至っていないが、2018年度の和歌山県GAP認証取得支援事業を昨年6月に申請し受理されたことで、問題点の改善が必要不可欠となり、グローバルGAP取得の準備を株式会社AGICの指導により取り組んできた。このベースにはGH評価の実績があることから、グローバルGAPに必要な評価内容を整理していくことが出来た。
しかし、実務では、農薬散布用の水質検査や農薬残留毒性の分析結果が何処まで求められているのか、また、それらの検査機関は何処にあるのかなどが示された情報が無く、とりあえず「飲料水検査をおこなえば大腸菌の有無がわかる」とあったので、近隣の一般の薬局に依頼した。残量毒性については、和歌山市内にある雑賀技術研究所に農薬残留毒性検査を依頼した経験があることから、農薬検査を相談したところ、独自のGAP分析メニューがあるというので対応してもらった。いずれの分析も問題は無かったが、これらの検査の依頼先によって経費がまちまちであるので、今後充分な検討が必要と感じている。
これらの対応に取り組んだ社員の1人が、今年1月に開催された4Hクラブ有田地方青年会議で弊社の「グローバルGAP取得の挑戦」と題してプロジェクト発表をおこなった。この時点ではグローバルGAPは取得されている予定だったが、問題が発生した。その問題とは、準備万端とはいえないが、依頼した審査機関であるSGSジャパンから「現在審査業務が多忙であり、本年度内に正式に検査契約ができる可能性は低い」との案内があり、弊社の補助事業申請を辞退することになった。和歌山県としては「審査機関の都合ならしかたないだろう」と辞退届を受理して貰った形となった。結果的にグローバルGAP取得に至らなかったが、GAPはしっかり実施できたと思っている。なお、昨年2月の時点でのGH評価の結果では1000点満点で500点であったが、現在は850点の評価が得られるのではないかと考えている。ちなみに、700点を超えれば、グローバルGAPの認証が見えてくるとのことである。
一方、グローバルGAP認証の取得は、審査の状況がこのような状態なので、「果たしてGAPが推進されるのであろうか」と不安を覚える結果となった。日本のGAP推進の方向性を再検討しないといけないのではないかと思われ、GAPは単純に補助事業では進められない課題であると改めて感じている。
参考資料 和歌山県GAP認証取得支援事業補助金交付要綱(抜粋)
補助対象事業 | 補助対象経費 |
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認証の取得に必要な審査の受審の取組 | 審査費用(登録費用、認証発行手数料等を含む)、審査員旅費 |
認証の取得に必要な環境整備のために行う次に掲げる取組 | 残留農薬、水質、土壌等の分析費用 |
ICTを活用して認証の取得に必要な作業工程管理を入力し又は技術者等からのガイダンスを受信するシステムの導入の取組 | ICTシステム利用料 |
設備改修資材の導入の取組 | 設備改修資材導入費(農薬保管庫、トイレ等の施設整備に要する費用を除く) |
認証の取得に必要な研修指導の受講の取組 | 研修指導費用、講師旅費等(補助対象者が研修指導を受講するために要する旅費を除く) |
交付限度額
- 〇補助対象者が団体以外の者である場合
- ア GLOBALG.A.P. 295千円
- イ ASIAGAP 150千円
- ウ JGAP 130千円
- 〇補助対象者が団体である場合
- ア GLOBALG.A.P. 295千円×(団体の構成員数の平方根+2)
- イ ASIAGAP 150千円×(団体の構成員数の平方根+2)
- ウ JGAP 130千円×(団体の構成員数の平方根+2)