-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載5回)

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 「農の雇用事業」ってご存じですか。農業法人などが農業を始めようとする若者を雇用して実施する研修に対して、全国農業会議所が助成をする事業です。弊社は定款に人材育成を掲げていて、農業を始めた若者を支援する事業を目標にしています。

  弊社は、昨年11月に農業大学校を卒業した非農家の学生を社員に迎え、正規に雇用しました。その社員は、入社時の履歴書に「10年以内に独立して農業を始めたい」との記載があり、早速2012年度「農の雇用事業」の第4次募集に応募したところ、今年の1月末に採択との通知がありました。採択された結果、今年の2月から1年間、助成金による研修の期間に入りました。

  この助成金による助成システムは、4ヵ月毎に毎日の詳細な研修内容を記載した報告書を全国農業会議所に提出し、計画通り研修が行われているかどうかの審査を受けなければなりません。弊社の提出は、6月上旬が提出期限とされています。この審査に合格すれば、報告1件に対して、最高月額97,000円で4ヵ月分の助成金がまとめて法人に支給される仕組みになっています。この申請により最長2ヵ年間が研修対象となります。説明によると、いい加減な研修を行うと、その時点で助成金が打ち切られたりするようです。また、報告書に不備があったり、現地調査により不備が指摘されたりすると、助成金の支給が数ヵ月遅らされたりするとのことです。確かに雇用主にとっては条件の良い事業だと思うので、厳しい規制があるのは当たり前と理解しています。

  しかし、新年度になって新たに本事業の申請を計画したのですが、失敗してしまいました。私の考えが甘かったというのは、今年4月に農家の師弟の農業大学校卒業生を1名新規採用したのですが、昨年と同様に考え、「農の雇用事業」の申請に取りかかったところ、新規採用した社員は、2012年度の青年就農給付金の準備型の支給を既に受け取っていたため、研修生の要件をクリアーできないことが判り、ちょっと人件費の見積りを誤ってしまいました。

  別の補助を模索したところ、ハローワークにトライアル雇用制度があることを知り、その制度を申請し、うまく適用される運びとなり、現在事務手続きを進めています。トライアル雇用とは、テスト採用期間として3ヵ月間を設け、雇用主が求める仕事ぶりに到達できれば本採用するとし、テスト採用期間中にハローワークが月額40,000円で3ヵ月間助成する制度です。農業研修に関する支援金の2重取りはできないのは当たり前ですが、「農の雇用事業」を適用した研修を実施しようとする場合は、青年就農給付金の受給などについて調査しておく必要があるので注意して下さい。注意が必要なもう一点は、私のような農業経験が5年以内の事業主は、「農の雇用事業」の研修指導者の資格がないということです。弊社では、30年来の専業農家である専務取締役が研修指導者としての登録ができたので、申請要件がクリアーできました。


弊社で収穫をする2名の正社員とアルバイトの若者

  「補助事業に頼った経営では長続きしませんよ」と退職前に県幹部から忠告を受けたのですが、農業生産法人の少ない和歌山県では、設立5年以内の農業生産法人に対して機械や施設導入に補助制度があり、現状の経営状況から考え、弊社では適用可能な補助事業に全てに挑戦せざるを得ません。本来なら、経営に余裕ができてから柑橘類の出荷調整のための貯蔵施設設置を計画するのですが、2012年産の柑橘類の取引があまりにも需要と供給の時期が一致せず、計画販売に失敗しました。そこで、早急に出荷調整施設の導入を決定し、事業の申請をしたところ、これはラッキーにも事業の適用を受けることができ、3月28日に大型の冷蔵貯蔵庫が完成しました。弊社としては大規模な投資になったので、もう後には引けない状況です。

  TPP交渉への参加が決まった現在、農家としての人材育成の課題を積極的に解決していくためには、農業生産法人などへの国・県の新しい補助制度がもっとたくさんあってもいいと考えています。そして、理想としては、非農家の師弟の入学が多くなった農業大学校の卒業後の進路として、農業生産法人への就職があると思います。

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