-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載49回)
~どうする今後の経営~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 経営者が体調不良になり、離農する農家が高齢化とともに増加してきた。これまで、このような農家の農地を任され規模拡大を重ねてきたのが我が社である。ところ経営者である私がみかん収穫作業中の2021年12月に突然腰痛が起こり歩きにくくなった。診察結果は脊柱管狭窄症と言われ加齢によるものとされ、痛み止めの薬の処方でそれ以上の治療を受けることはできなかった。その後、信頼できる医療機関を訪ね歩き四カ所目の病院で、昨年の2023年12月12日に手術を受けた。結果腰痛は消え、歩き方は正常に戻りつつある。腰痛が起こってからの2年間、農作業はできず現場にも出られない日が続いた。朝礼と終礼で社員や研修生との打ち合わせがやっとだった。そのとき、これからの会社経営をどうするか考え直してみた。

 まず、社員は経営者が殆ど動けない状況をどう思っているかを把握することにした。会社での勤務に不満や問題点がないかを探った。社員からは現在の勤務継続との意向が得られたので、申し訳なく思いながら運営を続けた。4年前にも私は急病で2週間入院したことがあり、その後あまり農作業に無理が利かなくなったので、社員に会社運営にかかわる農作業計画やアルバイト募集の仕組みを伝え業務を任せつつあった。それに、決算書も社員にオープンした。その結果、社員自身が経営改善計画を作成し、園地の若返りとして老木園の改植計画を示し、私に計画実施の了解を求めてきた。改善には多少の投資は必要だったが、社員に任せてみた。社員は各種公的機関の補助事業導入にも自ら動きはじめた。 また、研修生である地域おこし協力隊と一緒になり行動することで研修もスムーズになった。

 これらの動きをみて、令和元年にグロワー(株式会社Citrus)/シッパー(株式会社みかんの会)構想をGAP普及ニュース第59号で紹介したことに大きく近づいてきたことを実感した。グロワー/シッパーとはアメリカ型の農業経営で生産者と販売業者一体となった形態である(GAP普及ニュース第59号2019.7 農場経営実践(32)を参照。ここでいう販売組織である株式会社みかんの会は有田地方の温州みかんを実需者への直接販売を目的としていて、両会社の設立発起人は弊社株式会社Citrusも株式会社みかんの会も同じ人物である。

 5年前にグロワー/シッパー構想はできたものの社員相互のコンセンサスを得ないと社員自らの発想が出てこない。長年公務員時代を過ごしてきたことから、人材育成の在り方については少し知識が付いていた。まず、両社員のミーティングを定期的に持ち相互の取組状況を月に一回報告する機会を持つようにした。

 ミーティングを続けて1年が経過した昨年の8月に株式会社Citrus社員の出勤システムを変更した。その準備に半年費やし、物理的に株式会社みかんの会の社屋内に株式会社Citrusの事務所と倉庫を確保し出勤地を移転した。それにより株式会社みかんの会にて社員相互の安全確認を一括しておこなえることとなった。デメリットとしては社員の通勤時間が7分程度伸びたことと私が毎日社員の顔が見えないことだが、社員からは苦情は出ていない。社員と私との意思疎通はITを活用できているので日常業務には支障はない。私自身は腰痛治療に専念できる体制をとり、リハビリや通院を気兼ねなくおこなうことが可能となった。

 個人経営の農業形態であれば事業主が体調不良で農作業が困難となった場合、後継者がいない農家は離農か、規模縮小でしかない。現状は有田みかん産地がそれである。しかし、グロワー/シッパー計画では何とかなる。我が社は今後もグロワー/シッパーの仕組みで経営を継続できる。

2023年10月収穫祭 グロワー/シッパーの収穫作業(画像には後列みかんの会宮井社長(黒シャツ)と両社の武内経理マネージャ-(後列右)しか写っていませんが、みかんの会社員多数参加しました。

2024/1

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