-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載48回)
~地域おこし協力隊(農業編)、有田川町の場合~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

はじめに

 今年5月、地域おこし協力隊員が有田川町の新規就農者となった。当時32才だった福岡県出身のA氏は、2020年5月に「地域おこし協力隊員」として有田川町に3年間期限付きの臨時職員として採用され、卒隊までの3年間、弊社「株式会社Citrus」で、就農するためのノウハウを学んだ。

 弊社で現在、第2期目の地域おこし協力隊員2名が研修中である。有田川町は農業従事者の減少を多種多様な対策で止めようと試みており、その一貫として地域おこし協力隊制度を実施している。そこで地域おこし協力隊員の研修方法について弊社と有田川町の連携プレイについて紹介する。

図 有田川町地域おこし協力隊着任式の一貫(研修現場、株式会社Citrus)
2期目地域おこし協力隊員左から3人目4人目、右の2人はCitrus社員、ネクタイ姿の2人は役場職員 2023年4月

背景

 2015年に有田川町農業委員会から、農林水産省の新規採用2年目の職員の「農家体験研修」の依頼があり、弊社で実施した。この出会いで役場との連携が深まり、当時、役場産業経済課長のM氏から、長期的に研修を行い、有田川町に農業者として定着するような方法はないかと相談を受けた。この際に、地域おこし協力隊制度導入を計画したが予算措置がうまくいかず、この時は断念した。しかし、2019年度に役場の人事異動で産業経済部長に昇格したM氏が、2015年度の企画を再燃させ、弊社に3年間の農業研修計画を求めてきた。弊社は農の雇用事業で活用している研修計画をビルトアップし、3年計画として役場に提供した。役場はその研修計画書をインターネット等通じて地域おこし協力隊員の公募をした。その結果3名(奈良県、愛知県、福岡県)から問い合わせがあった。

 2020年2月に役場は応募者の選考会を我が社の事務所にて開催、弊社代表の筆者が選考員として面接に立ち会った。役場と協議して選考したのは、農作業をある程度理解した福岡県出身のA氏であった。2022年度2期目の募集には5名の応募があり、役場にて面接を実施、筆者も前回同様、面接に立ち会った。選考の結果2名が選ばれた。選考に当たって筆者は、農業について事前にどれだけ勉強しているかをチェックした。筆者は農業大学校勤務時代に社会人課程の面接経験があり、その経験からの判断で選考した。

研修の実施内容

 弊社での研修は月曜日から木曜日までの4日間、社員の農作業補助を行わせ、実際のみかん栽培を体験してもらうこととした。1期目のA氏の場合は農作業の経験があり、作業は順調に進められたが、自立するためには栽培技術の問題点解明や課題解決を自ら実施しようとする行動が起こせる環境が必要であると判断した。そこで、研修を開始して12ヶ月目に、近隣の農家から弊社に栽培依頼があった園地を研修園地として弊社が借り受け、その管理をA氏に任せた。そうすることで、A氏は休日にもかかわらず栽培管理をおこなうようになった。研修を開始して20ヶ月目には、卒隊後に借り受けが可能な50アール規模の園地が見つかり、A氏の我が社での研修を継続しながらメインの研修現場をその園地での農作業に切り換えた。その園地での栽培指導には元JAありだの営農指導員だったY氏に指導の担当をお願いした。そうすることでA氏の卒隊後スムースに栽培管理ができると考えたからだ。実行した結果、日頃A氏の農作業の様子をみていたその園地の地権者が、さらに、A氏に残りのみかん園を託す結果となった。

地域おこし協力隊員応募の促進と卒隊後指導

 ネット募集のみでは応募が少なく、役場がとった手段は各種農業人フェアーへの出店、農業体験インターンシップの開催等で有田川町の農業を知ってもらう努力でした。それらに弊社が積極的に応援した。はじめて開催した2021年度のインターンシップでは地域おこし協力隊員へ繋ぐことはできなかったが、2022年度の農業人フェアーとインターンシップへの参加者の2名(大阪出身O氏26才と同じく大阪出身I氏29才)が現在の地域おこし協力隊員となった。

 1期目の卒隊後のA氏の就農指導は役場が中心となり、国や県の各種補助制度の活用を促し、スムーズに就農体制を整えている。また、現在の地域おこし協力隊員2名に対しては、隣町の「きみの町」が大学と連携して開校した「きみの地域づくり学校」に役場の予算で参加させている。その関連として弊社は「きみの地域づくり学校」から依頼を受け、受講生のインターンシップ現場を提供している。現在「きみの地域づくり学校」受講生で和歌山大学?年生のT氏が我が社でインターンシップに入ることが決まっている。インターンシップの動機は学生の出身地の農業の「地域おこし協力隊」に応募するための準備と聞いている。

問題点と課題

 有田川町の地域おこし協力隊へ応募の条件は有田川町に移住し就農することとなっている。言葉では簡単であるが、人生の一大決意をして隊員となった若者を3年間で立派に就農させることの責任は重大である。町行政との連携プレイなので弊社の役割は「みかんの栽培管理技術を隊員に習得させること」であるが、実際にはメンタル面や生活面でも支えていかなければこの事業は進められない。

  失敗例として聞くところによると、他の町の地域おこし協力隊員がメンタル面で挫折して中断したとのこと。理由は地域おこし協力隊員のメインの受け皿となる農家がいなかったこと、そのため協力隊員が協力要望のある農家を便利屋のように転々とさまよい目標を見失ったとい聞いた。 有田川町の場合はそうならないように弊社株式会社Citrusが研修のメイン農家となったのである。協力隊員は自分が勉強したい栽培品目について役場と協議して、その品目の技術習得が可能な時期に対応農家に派遣できる仕組みとしている。有田川町の地域おこし協力隊への対応は、他の町の地域おこし協力隊員から「有田川町の地域おこし協力隊員は恵まれている」との声を聞くが、決して対応が恵まれているとは思っていない。他の町の話を聞くと、3年間の期限付きの公務員であることから公務員の義務を前面に出し、地域おこし協力隊員からの要望に耳を傾けていないように思う。

参考
地域おこし協力隊(ちいきおこしきょうりょくたい)とは、過疎や高齢化の進行が著しい地方において、地域外の人材を積極的に受け入れ、地域協力活動を行ってもらい、その定住・定着を図ることで、地域での生活や地域社会貢献に意欲のある都市住民のニーズに応えながら、地域力の維持・強化を図っていくことを目的とした制度である。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

2023/9

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