株式会社Citrusの農場経営実践(連載27回)
~労働力確保が深刻さを増す~
佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役
昨年、新規採用した社員の「農の雇用事業」が2016年10月に採択され、今年の4月に第2期目の助成金申請を終えたばかりである。今回は2ヵ年間の事業となっているので一安心しているが、2018年度の新規採用のめどが立っていない。もう世間では社員募集のイベントが開催されているが、「募集は簡単ではない」と企業の担当者が話しているニュースを聞いた。和歌山県内の工業系の高等専門学校に1000社ほどの募集があり、卒業予定者は全部で100人ほどというから、本当に人材不足のようである。イベントに参加した生徒のコメントは「何を基準に就職先を選んだら良いか迷っている」とニュースで流れていた。
著者が農業大学校に勤務していた時代は、工業系、商業系の高校からも多数農業大学校に入学していたが、今は高卒での就職率が高まってきたことからかもしれないが、今年度の農林大学校への入学は「29名」と地元のテレビ番組で話していた。その内訳を聞いて、学生の進路が様変わりしてきたと感じている。そのニュース番組は、和歌山県がスポンサーになっており、「今年、農業大学校が農林大学校に改名された」と紹介していた。従来の農業を目指すための園芸学科は継続されているが、新たにアグリビジネス学科と林業経営コースが新設され、卒業後の目指す進路が少し違ってきているようである。従来の農業を目指す園芸学科へは、わずか16名とのことであり、学校に聞いてみたところ、園芸学科内でも就農希望者は少ないような雰囲気の返事が返ってきた。弊社としては、規模拡大に併せてこの学校の卒業生を新規採用していくことをポリシーとしているが、これまで得た情報にから判断して、社員確保が難しくなってくることが予測される。
それに加え、さらに苦労しているのが収穫時の臨時雇用の確保である。ここ2年間はアルバイトの募集に対し、応募数が激減した。会社を設立して3年間は、アルバイトの募集に対して応募者が多数であり、15名程度を確保して、周辺農家の収穫支援隊として地域に期待される会社となっていたが、2年前は弊社の労働力確保がやっとであった。昨年は、和歌山県が主宰する「グリーンサポート(農業アルバイト募集サイト)」では応募はゼロであった。そこで、民間の有料サイト2社を活用して募集したところ、応募者はあったものの、農作業がはじめてのアルバイターがほとんどで、3日間も続かなかった。収穫の全シーズンを通じて定着してくれたアルバイトは1名であり、後は期間限定の条件で作業してくれたアルバイトで、僅か3名であった。ここにきて、今日のニュース内容や昨年の状況から、収穫時の労力確保に大変不安を感じている。
弊社の新年度の役員、社員、関係者合同の総会で、人材確保を議題に取り上げ対応を検討した。今後は、外国人研修生を受け入れることも視野に入れて情報を収集している。しかし、外国人研修制度は、柑橘農業には適用させにくい課題もある。最長の研修期間は3年間であり、技術を習得した頃には帰国となる。また、試算では年間1人当たり210万円の経費を準備する必要がある。さらに、年間を通じて研修を必要とする作業があることや、果樹農業で受け入れた場合には、野菜や他の作物の作業はダメとか、柑橘栽培のみでは現行制度をクリアーするにはハードルが高いと考えられるが、このような形での労働力の確保も考えていかなければいけない時代に入ったような気がする。いずれにしても、農村人口の高齢化によって人口減少が続く中、農業の労力確保は皆無に近い状況が続くことを身近に感じてきた。近年、みかんの取引などでお付き合いのある農業関連の業界でも同様であるというから、生産現場と関連業界と連携した労働力の確保を模作しているが、法的な課題もあり、なかなか名案は出てきていない。
この原稿を書き上げた直後に、マッキンゼー社からタイムリーなインタビューを受けたので、併せて報告する。この背景には、現在マッキンゼー社の社員として働いているI氏が東京大学農学部の出身で、4年前の秋に弊社に卒業論文の情報収集にやってきたことがある。当時、アルバイトのメンバーと収穫作業を一緒にやって貰った経緯があり、そのことから会社でコンサルを依頼される同僚に、柑橘農業における現場の短期労働の実態を話したようであった。その同僚のS氏から電話インタビューがあり、聞かれた内容は「短期アルバイトの年齢層や行動パターンと、その人経費などであった。伝えた内容は、上記の内容に加え、近年の状況として、農作業の未経験者の応募数の増加とその問題点、宿泊施設のプライバシー確保が要求される課題や、人手欲しさによって時間給が1500円程度にまでつり上げられてきたことなど、雇用側も経費負担が大きくなったことをあげた。「他の農村での人材不足の状況はどうか」とS氏に尋ねてみると、都市近郊の野菜などの施設園芸農家では、時間単位での女性アルバイトを活用している例を紹介してくれた。しかし、山間地でのみかんの収穫作業には合理的ではないとの結論になったが、これからは時間単位のアルバイトの可能性も考えなければならないかもしれないと後になって思った次第である。