株式会社Citrusの農場経営実践(連載22回)
~新規採用で活気取り戻す~
佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役
2016年3月7日付けで社員を1名新規採用した。2015年産温州みかんの収穫量は、前年比の107%、総売上は114%と昨年を上回った。これに6次産業化で取り組んだ果物類(ドライフルーツ)の販売を併せると、売上げは伸びた。昨年末の社員の退社以来、落ち込んでいた気持ちが少し回復し、また、残ってくれた社員が新規採用者に対する指導に力を入れている姿を見て安心させられた(図1)。
著者のポリシーで、採用する社員はすべて農業大学校卒業生と決めてスタートさせた会社でもあり、今回もその方向性を守ることが出来た。新規採用した社員は非農家出身であるが、将来は農業で生計を立てる意欲を示している。したがって、社員の将来を見据えた雇用体系と会社運営を併せて考えていかなければならないので、その責任の重大さを感じている。
先年度末に新規採用に至った背景を述べると、前号で正社員が退社したことをお伝えしましたが、退社を事前に通知してくれたおかげで、半年かけて社員を募ることが出来た。著者の前職場である農業大学校に求人広告を提示したが、すぐに応募があったわけではない。大学校より情報をいただき、著者が加盟している国際農業交流協会のパーティーに参加していた海外研修希望の学生に声をかけたが、反応は鈍かった。その後、声をかけた学生は海外研修と就職を天秤にかけ進路を模作していた時期だったようで、既に他社の採用試験を受験した直後だったとのことである。後に、学校からの情報によると、その学生は他社の農業生産法人の採用試験に合格したので進路を就職に決めたことのこと。弊社としては獲得できず残念だが、農業生産法人への就職となれば祝福してやりたい。しばらくの間、農業を目指す学生は見つからず半ばあきらめていたが、「花卉栽培に取り組みたい学生がいる」との連絡が学校からあった。しかし、弊社の求人広告を示したが、興味を示さなかったようだった。ところが、全く予期せぬ情報が入った。その学生の叔父にあたる人から甥の進路について相談を受けたのである。著者が現役時代、他の部署ではあったがその人とは仕事仲間であった。甥は花農家を目指し、花農家に就職したいといっているが、現実的に可能かとの相談であったが、著者は、みかん栽培を目指すのなら弊社への入社を進めた。しかし、学校からの情報では、その学生は花卉専攻で勉強してきたから「みかんのことは全くわからない」と躊躇しているとのこと。学校にはインターシップ制度(著者が現役のころ企画した事業)があり、それでしばらく弊社で体験することを勧めた。
先輩社員Y君(左)からみかんの剪定 指導を受けている新入社員T君(右)
9月に入り、弊社の津田取締役が農業大学校の非常勤講師を務めていることから、これまでの経緯を説明し、様子を伺って貰い、学校から弊社の面接だけでも受けることを進めて貰った。その後、インターシップが実現し、タイミングよく、弊社に農林水産省からの農村体験研修生(実践19で紹介)が来ていて、弊社の社員との情報交換に加え、研修生からも情報を得たことで弊社への入社を決意したとのことであった。みかん収穫等の農繁期に入った12月、様子を見たいと、土日に収穫作業を手伝ってくれた。その様子を見て著者は専攻科目が違っていても大丈夫と確信した。年が明け、学生の叔父から「本人が目標を見つけたようなのでよろしく頼む」との電話が入った。
その学生からは「農業大学校の卒業式の1週間後の3月7日から出勤したい」との連絡を受け、慌てて特定保険労務士に入社手続きを依頼し、現在に至っている。社員のY君は有田川町4Hクラブの会長を務めており、早速新入社員をクラブに勧誘した。新入社員のT君は有田川町在住ではないが、勤務先が有田川町の農業生産法人であることから、有田川町の正規の4Hクラブ会員となった。このような形態の会員はこの地では初めてと思う。弊社の定款に「人材育成」を掲げていることから、4Hクラブの活動も勤務の範囲としている。会社として新年度に入り正規採用が完了したので農の雇用事業の申請に取りかかろうと県農業会議に問い合わせたところ、今年から正規採用の4か月後でないと申請できない要項に変更され、制度の厳しさを感じたが、今回こそは、この制度を活用して農業を目指す担い手育成を成功させたいと考えている。