-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載17回)
~Citrusの6次産業化に向けて~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 弊社の6次産業化がついにスタートしました。本誌の第41号で紹介させていただいた、平成27年1月からの「ものづくり事業」を施行するための取組みを紹介したいと思います。「ドライベジタブル&ドライフルーツの生産」をテーマにした事業の設備投資に対する公募が平成26年9月29日採択され、続けて補助金の交付申請を行ったところ、11月12日付で補助金交付の決定通知が届きました。この通知を受けたあとでないと着工できないルールとなっていて、施行期限は平成27年9月末とされています。この期間に導入する機械の仕様書を作成し、見積書を2社以上とり着工しなければなりません。農林水産省の総合化計画を作成した時に、県内の乾燥食品の製造現場の実態や、乾燥機器類については、県工業技術センターで情報を得ていましたが、弊社が計画している食品に対する専門の乾燥機がなかなか見つかりませんでした。万能の食品乾燥機は探せませんでしたが、乾燥機をコントロールすることでその農産物に適した乾燥を行えるということが判り、乾燥機械メーカー3社に問い合わせました。その中に横風式の通風乾燥機を見つけ、その乾燥機を導入している企業から情報を得て、その導入を決定しました。決定した食品乾燥機は「フルタ熱機」の椎茸用乾燥機を弊社が計画している農産物にプログラミングしてもらう条件で発注しました。


フーマ2015会場 ビッグサイト

  5月20日、設置工事は終わったところです。弊社が計画している農産物の乾燥製品の試作をフルタ熱機が自社で何回か試験したものを国際食品工業展(フーマ2015:東京ビッグサイト)の会場に展示するので、そこで今後の乾燥品生産計画を打ち合わせることになり、6月11日に東京ビッグサイトで開催された展示会場を訪ねました。フルタ熱機の技術者のY氏は、実際のサンプルを元に試験運転の打合せをしました。

  そこに願ってもない助っ人の登場です。本誌GAPニュースの編集長である石谷孝佑理事が急遽フィリピンから帰国し、弊社の乾燥事業の指導に展示会場に駆けつけてくれました。石谷氏は、茨城県つくば市在住で、(社)日本食品包装協会、(社)日本生産者GAP協会、(合)みずほの村市場などの役員をされ、日頃は本誌の編集に取り組んでおられることは重々承知をしていましたが、このときまで食品乾燥研究の専門家であることを知りませんでした。石谷氏は「食品乾燥は地球を救う」をテーマに講演活動をされており、乾燥関係のたくさんの資料をいただきました。展示会場でフルタ熱機の技術者Y氏とも熱心に協議をして下さり、Y氏は感動していました。このとき、会場にフルタ企業集団の最高顧問で創業者の古田幹男氏も同席となり、有意義なフーマ2015への参加となりました。

  展示会場には、食品乾燥機のメーカーとして、静岡製機株式会社、大紀産業株式会社も出展しており、乾燥食品のサンプルが多数展示されていました。フルタ熱機は、宮崎県の椎茸乾燥を担っている会社ですが、こちらの乾燥機メーカーは、一般の食品乾燥では先駆者のようです。

  そのほかに農産物などを乾燥するための下準備に必要な機材であるスライサーや製品の包装機なども調査して回りました。目的とする機材には5万円くらいから250万円くらいまでの幅があり、こちらについてはまだ決めかねています。なにしろ食品加工の展示会は初めてで、食品加工は農業とはほど遠い存在でしたが、6次産業化となると、この分野の知識が重要であることを改めて知りました。

  さて、今後ですが、サンプルを作成した後の取引先に対しての提案などをしていかねばなりません。これまでは口頭での打診はしてきたものの、やはり製品のサンプルを示さないと何も始まりません。青果物のように「市場への出荷」とはいかないので大変です。県の6次産業サポートセンターが主宰するセミナーで、コンサルタントから「飲食店を含む食品産業の70%が3年以内に倒産しているので、あなた方もその覚悟で始めて下さい」と冒頭で話があり、その言葉にショックを受けました。これを肝に銘じ、加工食品の世界に入って行かなければなりませんが、現在はまだ不安で一杯です。

  このような中、先日、近畿農政局の経営・事業支援部事業戦略課から総合化事業計画の実施状況報告書の提出を求められました。法人の認定者の場合、直近の決算報告書(事業報告書、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、販売費及び一般管理費の明細、製造原価報告書等)を添付せよとのことです。この6次産業総合化計画については、本誌の第37号で紹介しましたが、実施事業報告の必要性を見落としていたようです。このことについて提出を拒否する旨の抗議をしましたが、6次産業化ネットワーク事業(補助事業)は不採択となり、農林水産省の補助事業は受けていなくても、「総合化認定は別事業で報告義務があります」との指導がはいりました。単なる情報収集のための資料提出には抵抗したくなりましたが、現在、提出に向けての準備を進めています。

  しかし、総合化計画とは誰のためにあるのか、いささか疑問に思います。「認定したから近畿農政局の主宰する認定式に出席せよ」であるとか、「認定された事業所は資料を提供して新聞で公開する」など、補助金が伴う事業なら仕方がないと思いますが、事業所が今後に向けて計画している内容を「認定したから公開してよい」とは思いません。本事業の認定された件数は発表されていますが、補助事業にどれだけ採択されたのか現場ではわかりません。これもお役所の都合で作成された要項のような気がしています。とはいいながら、弊社のこれまでの取組みの見直しの意味で、この報告書はまとめてみたいと考えています。


乾物サンプル(フーマ2015にて)

  話はもとに戻りますが、導入した食品乾燥機でいろんな商品づくりにチャレンジしようと考えています。今ある既存のものから、新たな乾燥製品を生み出したいと考えています。読者の皆さんからのアイデアのご提案をお願いします。下記のメールアドレスで、お待ちしています。

  なお退職した正社員は、1年前から退社の意向を示し、自立を計画しており、内心応援はしていたものの、現実になると、従業員のスキルアップには失敗したことになる。

  昨年は、アルバイト応募者が、例年の3分の1の5名と少なく、同様に有田みかん産地は一応に労働力不足が大きな課題となっていたようである。その証拠に、普及員時代にお付合いのあった大規模農家2名から申し合せたように、みかん収穫の労力や、一般管理作業の労力不足が深刻化してきた現状を伝えられた。このままではみかん産地が成り立たなくなるとみていて、なんとかならないものかと相談を受けている。 また、同様な課題が、県内のみかん産地にかかわらず発生していることを知ったのは、2月はじめに「6次産業化サポートセンター」主催の6次産業化懇談会の事例発表に出席したときのことである。桃の農業生産法人の(株)八旗農園の代表から、ももの栽培管理や集荷作業をアルバイトに頼っていては「作業のスキルがいつまでたっても向上しない」という発表があった。この会社は、サラリーマンの退職者で構成されていて、メンバーは会社運営のノウハウを知っている。農業は、農繁期をアルバイトに委ねる経営であるから、「いつまでたっても生産技術のスキルアップ出来ていない」と指摘していた。著者も、この課題の解決が今後の果樹園経営の改善につながることを強く感じており、この懇談会で意気投合した。

  先日、農林水産省の平成28年度のTPP関連事業のキャラバンに出席したところ、その中に「農業労働力最適活用支援総合対策事業」があることを知り、生産局園芸作物課の課長補佐に、みかん農家の実態を説明して質問したところ、産地において労働力確保の仕組みの構築に対して支援をするとの回答であった。それでは「誰が事業主体になるのかが難しい」と再質問をしたところ、「具体なことは産地で考えなさい」とあっさり振られてしまった。この労働力問題については、誰が解決していくかは、みかん産地では検討すらされていないのが現状であり、行政やJAは取り組まないであろうから、民意で労働派遣会社や作業請負会社のようなものを設立していく必要があるのではないかと考えている。。

  今回の従業員の退社を機に、農作業のスキルアップをはかっていくためには、安定した仕事と収入を保証した労働環境整備が重要であることを感じた。同時に、有田のみかん産地全体の課題であると感じた次第である。

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