-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載14回)
~6次産業化へ動き始める~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 平成25年度補正予算の「中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」(以下「ものづくり事業」という)の第2期募集に「農業の6次産業化」で応募したところ採択となりました。その流れは、平成26年度和歌山県6次産業化ネットワーク活動交付金事業が不採択となったことから、「6次産業化の総合化計画」が認定された以上、「ハード事業の採択がなかったので辞めました」とはいかず、補助事業が採択されなかった場合でも6次産業化に取り組みますと半ば強制的に誓約書のようなものを提出させられていましたので、そのルールを守る意味で、平成27年度の事業にも応募することとしていました。総合化計画も、事業年度を1年繰り下げる変更も行いつつ、平成27年度事業の採択を目指して、総合化計画策定時指導を受けた6次産業化プランナーの高橋太一郎氏に、今年こそはと綿密な指導を受け、費用対効果までを算出して計画書を作成していきました。

 一方、経済産業省の事業である「ものづくり事業」の公募があり、こちらにも挑戦してみようと考えました。この事業を知ることが出来たのは、農林水産省事業も経済産業省事業も、和歌山県の場合は、中小企業団体中央会がその窓口になっているからです。和歌山県6次産業化ネットワーク活動交付金は和歌山県が窓口ですが、交付金になるまでは中小企業団体中央会が窓口になり、ここに和歌山県6次産業化サポートセンターが置かれ、その指導員(サポーター)として各種の専門プランナーが置かれています。

  サポーターは、民間のコンサルタントや、最先端で活躍する企業の社員、また和歌山県農業に精通した県職員OBや関連機関のOBであり、彼らが指導に当たってくれます。このサポート制度は、農林水産省のラインですが、その事務局である中小企業団体中央会は「ものづくり事業」も扱っており、むしろこちらの方がメインに取り組まれているようです。

  前号でも述べましたが、そもそも「ものづくり事業」は事業規模が桁外れに大きく、応募総数や採択数が「農業の6次産業化」の採択数と大きな差があります。「その事業にも挑戦できますよ」との情報を中央会で得たので、事業関係者に問い合わせたところ、「7月に事業説明会があるから申し込んでおきなさい」と連絡を受けました。

  一流ホテルでの事業説明会に出席してびっくり、和歌山県内の製造業を初めとする企業200社くらいが参加していました。顔見知りの人は一人もいませんでした。友人の企業コンサルタントに「株式会社Citrusは企業と言えるのかな・・」と冷やかされて一度は引いてしまったのですが、その友人は過去に事業申請に関わった経験があったようで、「挑戦してみては」と激励され、開き直って応募を決めました。

  「ものづくり事業」計画の具体的な事業内容は、6次産業化ネットワーク活動交付金事業の内容をそのまま活用しましたが、応募様式がこちらの方がかなり漠然としていて、ものづくりへの夢を大きく掲げることから入らなければなりません。応募様式は、ワードファイルに枠組みこそありますが、ほぼ白紙です。「どこで区切るのか」、「どのようにまとめるか」は応募者のアイデアが試されそうな様式でした。農林水産省の事業計画は、決められた細かい表に数値を埋めていくタイプであり、このような様式とは全く違っていました。また、「ものづくり事業」の応募には、会計事務所もしくは銀行などの認定機関からの「支援確認書」の添付が必要です。これがけっこう面倒で、弊社の場合には紀陽銀行で認定してもらうこととし、相談に行きました。事業申請書には資金調達計画として自己資金や借入金などの枠があり、借入金として銀行から補助金が下りるまでの運転資金を借り入れる計画としました。

  今日の事業採択はすべて点数により決定されるようで、できる限り評価点数を上げるように応募内容をまとめ上げる必要があり、著者は以下のようにこの事業の本質を推測しました。狙いはアベノミクスであり、補助事業により中小企業の設備投資を促進し、賃金のベースアップや雇用の拡大を図ることにあると見ました。一方、設備投資の資金を銀行からの融資で回す狙いがあるものと考え、認定機関である地方銀行の紀陽銀行に認定書作成を依頼しました。

  銀行から企業への融資は一般的に耳にしますが、その当事者になるのは初めての経験でした。会社の決算書や、夢を語った応募内容を精査されました。結果はOkayとなり、認定書をいただきました。応募期間は説明から1ヵ月余りしかありませんでしたが、認定書さえいただければ、応募は審査のためのファイルを6部作成すると同時に、そのデータをCDロムにして国ではなく地元の中小企業団体中央会に提出するだけでした。

  応募総数は、全国で14502件、採択4818件で3割が採択されました。採択企業と事業内容は http://www.chuokai.or.jp/josei/25mh/h25mono2_saitaku.pdf に公開されています。

  採択の通知後、補助金交付申請、交付決定、遂行状況報告書といった事務手続きが5年間続くようです。これらの事務手続きの指導は和歌山県中小企業中央会地場産業支援センターがホームページやメールで細かくサポートしてくれています。

  採択された以上、進めなければなりません。前年度決算では新事業に投資する自己資金の余裕がありませんでした。仕方なく社長給与を半年分凍結し、会社預けとして対応することにしました。26年産のみかんの売れ行きも芳しくありません。3分の2補助とは言え、資金面では前途多難が予測されます。

参考 応募記載内容の抜粋
■現状の問題点と課題解決の方向
 有田地域の農業の経営形態を見直し、個人経営の農業から企業的農業への転換を目指し、株式会社を設立したが、温州みかんの青果販売のみのでは年間均一化した労力配分及び販売時期が限られることから、経営規模の拡大には限界がある。農業生産法人として青果物オンリーの販売から脱却して、農業を取り巻く流通業者を抱き込んで、農産物を原材料とする加工品の開発と商品化を目指した6次産業化に取り組むことで、農林漁業者の経営規模拡大への突破口が広がると考える。 また、農業の経営形態を今までの個人的経営の農業ではなく、農業生産法人化して経営の安定化をはかれば、農村でも雇用が可能になると考えている。現状では、農業は農繁期に臨時雇用はするものの、あくまで自分の経営する農業のことしか考えない雇用であり、企業的センスをもった正規雇用の形態ではない。これでは、新規参入が可能な有田みかん産地としての発展は望めない。

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