GAP普及ニュース 81号
《巻頭言》
『スペインのアルメリアはスマートで持続可能な農業』
田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会理事長
はじめに
令和7年の新春のお慶びを申し上げます。筆者が欧州各国の農業関係者を尋ねて、農場認証スキーム(GAP認証)の調査・研究を始めてから22回目の正月となりました。この間、欧州ではGAP認証で求められているGood Agricultural Practice(良い農業の実践)の理念が変革され、目指すべき農業はSDGs(持続可能な開発目標)と同期しています。
「農場から食卓まで戦略」は「GAPステージ3」
EUでは、2020年に、「環境再生型農業」と「食料システムの公平性」を目指す「Farm to Fork Strategy(農場から食卓まで戦略)」を開始し、達成目標年の2030年に向かって、GAPはすでにステージ3に移っています。
「GAPステージ1」は、1980年代と90年代の「農業由来の環境汚染を削減し、人と環境に優しい農業を目指す」政策でした。当時、「GAPは農民のマナー」が普及のキーワードでした。「GAPステージ2」は、2000年代と10年代、生産段階で適切な管理が行われているかどうか小売・流通業界が農場管理を検査するGAP認証が風靡された時代です。そして「GAPステージ3」では、「GAPステージ1」の持続可能性の行動規範に科学的な厳密性が求められ、また社会的責任として農業経営全般に規定されたことです。同時に、小売・流通側が規定した様々なGAP認証プロトコルの監査に合格しなければ、農産物の販売ができなくなったことです。
新たな農協を結成し500haの有機農業を実現
GAPステージ3への変革で、世界で最も進行している地域の一つは、「プラスチックの海」で有名なスペイン・アルメリア県の施設野菜産地です。生産現場の事例を見ると、筆者が2004年に訪れた農業協同組合「コスタデニハルS.A.T.」の組合長フランシスコ・ベルモンテさんは、当時、組合員135名で温室面積350haのIPM(統合的病害虫管理)で良い成績を上げていました。ベルモンテさんは、さらに有機農業への変革を目指して組織討議を続けて来ましたが組合員の賛同を得られず、2008年には有志とともに新たな農業協同組合「ビオサボールS.A.T.」を結成し、集まった全ての温室で有機栽培に挑戦しました。その結果、現在では温室面積500haでトマトやズッキーニ、ピーマン、スイカなどの有機栽培を実現しています。
ベルモンテさんは、『環境への配慮、より安全で健康的な食品への取り組み、そして経済へのプラスの影響とビジネス文化との一貫性を目指し、「最も持続可能なモデルとしての有機農業」に取り組んでいます。』と言っています。
アルメリアの先進的農業協同組合ビオサボールは、設立当初から環境、健康、持続可能性に取り組む農協として、生産から販売まで経営全般のイノベーションに基づく差別化を模索してきました。そのために、農場での播種から小売店での最終消費者まで、すべての活動をカバーする優れた統合的な管理システムを確立しています。
GAP認証で市場の優位性を確保
ビオサボールでは、同時に、有機生産の特性に従って、最も権威のある品質と食品安全認証として、「BRC、IFS Food、GLOBALG.A.P.、GRASP、Bio Suisse、LEAF、ISO9001、ISO14001、Organic production、SMETA、その他)を取得しています。これらにより、国内および国際市場の競争で優位性を発揮しているのです。
有機で儲かる農協に生産者が集まる
これらの活動は、アルメリアとスペイン全般にプラスの影響を与える社会的、環境的、経済的影響を生み出しています。ビオサボール農協は、持続可能性を経営横断的な方法で理解して、先駆的に取り組む企業として、経営にも良いリターンをもたらしているのです。
2024年の訪問で確認したことですが、15年前にベルモンテさんの有機農業への転向に反対した多くの組合員が、今では古巣のコスタデニハル農協を脱会して、ビオサボール農協に加入しているとのことです。これは温室の有機栽培技術を確立したビオサボール農協の売上と利益を急激にアップさせた要因の一つになっています。それだけではなく、今やコスタデニハル農協においても営農基本方針が有機農業にシフトして売り上げ増加と組合員拡大に努めているとのことです。
そして、この有機農業志向は、コスタデニハル農協とビオサボール農協が所在するニハル市だけではなく、アルメリア地域全体のトレンドになっているのです。統計でも、アルメリア農業の特徴として温室の有機栽培面積が多いことが上げられています。
アルメリアにはGAPビジョン「実現したい理想の姿」がある
20年にわたるアルメリア農業調査では、欧州から学んだはずのGAP概念が日本ではいつまでたっても定着しないことを、毎回強く感じて来ました。その結果起こっていることは、日本では、「GAP認証が一向に進まない」こと、「持続可能への農業変革が起こらない」ことです。 その原因の一つは、日本に「GAPのビジョン」がないことだと考えています。GAP推進において「基準を示し、何々をしてはいけない、何々をしなければいけない」というように、基本的な価値観に基づいて行動規範を示す言わば「GAPの理念」のみだからです。
例えば、日本で「GAPとは、食品の安全、環境の保全、労働の安全を確保する基準で、具体的には、農薬や化学肥料の使用を抑え、安全で高品質な農産物を生産すること」とされ、実務的には「民間のGAP認証を取得して、そのマークを商品に表示して消費者に信頼性をアピールする」などが強調されるばかりです。ここでは、GAPという農業行動が目指す結果や、農業が未来に実現したい理想の姿などが示されていないのです。
度重なる訪問でアルメリア農業から学んだGAPとは、GAPでやることはもちろんですが、大切なことは「GAPでめざす目標や長期的な展望、つまり「GAPのビジョン」が、アルメリアの農家から、農協から、そして行政からも提供されている」ことなのです。
アルメリアの有機農業ビジョンは生態系健全性のための全体的な生産管理システム
本稿では、アルメリアではGAPが「有機農業への行動変容」をもたらしていることを述べてきましたが、「有機農業」についても、アルメリア(EU加盟のスペイン)と日本との概念の違いが見て取れます。
例えば、我が国では、有機農業推進法で、「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう。」と定義しています。ここでも、GAP概念と同じように、有機農業の理念として、基本的な価値観に基づく行動規範が示されています。
しかし、アルメリア農業にみる有機農業は、国際基準としてのコーデック委員会が規定した生産の原則に従っています。有機農業を、「生物の多様性、生物的循環及び土壌の生物活性等、農業生態系の健全性を促進し強化する全体的な生産管理システムである」と定義しています。日本の規定のように、農業の行為に影響を与える行動規範を示す理念としてではなく、EUの規定では、長期的な展望を持って未来に実現したい理想的な状態や目標、つまり「ビジョン」を示しています。
ビジョンは、組織や個人が将来どのような姿を目指すかを示すものであり、行動の理念は、そのビジョンを実現するための具体的な行動指針や価値観を提供します。ビジョンと理念は相互に補完し合いながら、生産者や農協などが目指す農業の未来を実現するための重要な要素です。
有機農業志向の「GAPステージ3」
アルメリアでは、有機農業が様々な理由で大きな発展を遂げています。まず、EUでは、従来の農法が環境に与えた悪影響から農業環境を回復しなければならないという認識が高まっていること。さらに、慣行栽培では食品の安全性に対する重大な懸念があり、加えて栄養特性と官能特性を備えた健康的な製品の生産・販売を求められていることが理由です。
このような課題の中で開始された「Farm to Fork Strategy(農場から食卓まで戦略)」に倣った日本の政策は、「みどりの食料システム戦略」(みどり戦略)で、①化学農薬の使用量50%減少、②化学肥料の使用30%減少、③有機農業の農地25%に拡大という達成目標KPI(Key Performance Indicator)を掲げています。
これらを実現するための「GAPステージ3」は、みどり戦略の「生産から消費までサプライチェーンの各段階において、新たな技術体系の確立とイノベーションの創造により、農業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する」という考え方と同じです。イノベーションのヒントは「スマート農業」技術ということで、ビッグデータやドローン、ロボット、AI技術などの活用が始まっています。
これらにより、個別の農業生産に加えて、流通や販売、マーケティング、ブランディング、廃棄物処理、CO2排出対策なども含めた農業全体を、最先端の科学技術やデータ活用を通じて変革しようとする「農業DX(デジタルトラフォーメーション)」でもあるのです。
欧州随一の園芸産地アルメリアはスマートで持続可能な農業
アルメリアの発展と成長は、零細な規模の農業生産者と農業企業体への支援策として「農業生産技術」と「農産物バリューチェーン技術」の進歩に多額の投資をしていることからもたらされています。地域産業の全てが農業関連に収斂されており、空港から街への自動車道から見える立看板は、トマトやスイカ、メロン、ピーマンなどの農産物か、種苗、農業資材、温室資材、梱包資材、運送会社、販売会社、コンサルティング会社など、農業関連のものばかりです。延々と広がるビニル・ハウス以外で、道路際にある会社や商店と言えば、やはり立看板にあった農業関連の企業ばかりです。アルメリア農業が「農業クラスター」と称されているゆえんです。
そのアルメリア農業が今、「スマート農業」の推進で、農業と食関連産業のデジタル化が進行し、消費者ニーズに的確に対応する価値の創造に取り組んでいます。AI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術が農業経営の効率化や持続可能性の向上を図るためのツールとして活用されています。スマート農業を推進するGAPビジョンの背景に、「アルメリア農業は地域産業の柱であるとともに、農家は自然環境という公共財の維持管理者でもある」という思想があると考えられています。
おわりに
アルメリア農業との交流を始めてからの23年間に、多くの日本人とともにスペインを合計十一回訪問しました。同行していただいた日本人の農業関係者からは、驚きと感動の声とともに、アルメリア農業が日本農業再興のヒントになること、ご自身もそれに向かう決意の声などをたくさん聴いてきました。
このたび、2025年2月20-21日のGAPシンポジウム『世界のGAP先進地スペイン・アルメリア農業に学ぶ』では、アルメリアを訪問された多くの方々にご参集いただいて、「アルメリア農業を直接見て、聞いて、どう感じたか、これからどうしようか」、ということを以下の視点でお話しいただくことになりました。
- <主なテーマ>
- 生産性向上と環境保全の両立を目指して進歩・発展するアルメリア農業
- ヨーロッパ農業をリードするアルメリアの施設園芸とフードチェーン
- 普及指導員と農業協同組合による営農指導と農業の社会的責任
- 環境を尊重し、農産物の品質と食の安全に徹底した農協と農家
- 施設園芸技術イノベーションとIPM・オーガニック
- 選果場を核としたERP(Enterprise Resource Planning)システム
アルメリアの先進的農業を直接体験した方々の生の声を聴くことができる、またとない機会になります。ぜひシンポジウムに参加していただき、スペインひいてはヨーロッパの先進的農業であるアルメリアの農業を知っていただきたいと思います。必ず今後の農業のヒントが得られると考えます。
2025/1
◆ 『2024年度GAPシンポジウム』開催
- 名称
- 2024年度 GAPシンポジウム GAP 持続可能な農業
- テーマ
- 『世界のGAP先進地スペイン・アルメリア農業に学ぶ』
-ヨーロッパ随一の園芸産地はスマートで持続可能- - 会期
- 2025年2月20日(木)~21日(金)
- 会場
- 【現地】つくば研究支援センター(茨城県つくば市)
【オンライン】Zoomウェビナー
※開催後に参加者限定で各講演のビデオをストリーミング配信予定
生産性向上と環境保全の両立を目指し、家族経営農家に対するGAP指導で、欧州随一の野菜産地となったアルメリア農業について、その内容をつぶさに調査し、専門家が様々な角度から報告し、日本農業の発展について議論を深めます。
報告と討論の予定 「みどりの食料システム戦略」 ベンチマーク
講演 ツアー参加者による報告と考察
GAP先進地スペイン・アルメリア農業を直接見て、聞いて、どう感じたか、感動をそのままお伝えします。生産者、県行政担当者、JA、農産物流通業者、大学や検査分析会社など、様々な分野の方々がそれぞれの視点から報告します。
<主なテーマ>
- 生産性向上と環境保全の両立を目指して進歩・発展するアルメリア農業
- ヨーロッパ農業をリードするアルメリアの施設園芸とフードチェーン
- 普及指導員と農業協同組合による営農指導と農業の社会的責任
- 環境を尊重し、農産物の品質と食の安全に徹底した農協と農家
- 施設園芸技術イノベーションとIPM・オーガニック
- 選果場を核としたERP(Enterprise Resource Planning)システム
- <キーワード>
- GAP サステナビリティ IPM オーガニック みどりの食料システム戦略 アルメリア農業 地方創生 GAP認証 スマート農業
開催概要
- 名称
- 2024年度 GAPシンポジウム GAP 持続可能な農業
- テーマ
- 『世界のGAP先進地スペイン・アルメリア農業に学ぶ』
-ヨーロッパ随一の園芸産地はスマートで持続可能- - 日時
- 2025年2月20日(木)受付 12:00 ~ 開始 13:00~17:00
21日(金)受付 9:15 ~ 開始 9:45~17:00 - 会場
- つくば研究支援センター(茨城県つくば市)+オンライン(Zoomウェビナー)
※開催後に参加者限定で各講演のビデオをストリーミング配信 - 参加費
- (個人)主催・共催の会員:\7,500、一般:\11,250、大学生: \1,500、高校生:無料
(団体)農学系大学・専修学校・農業高校の授業として聴講:\11,250
*配布(送付)資料: GAPシンポジウム講演要旨(PDF)
情報交換会参加費:¥5,000(隣接会場にて) - 対象者
- 農業試験研究者、農業普及関係者、大学・大学校、農業高校、農業生産者、農業法人、 農協、出荷組合、産直団体、農林行政機関、卸売市場、卸売会社、農産加工会社、 農産物流通・小売企業、外食企業、消費者、調査・検査・認証機関、研究機関、その他
- 主催
- 一般社団法人日本生産者GAP協会
- 共催
- 農業情報学会
一般社団法人GAP普及推進機構
特定非営利活動法人経済人コー円卓会議日本委員会
一般社団法人沖縄トランスフォーメーション(沖縄DX) - 特別協賛
- 株式会社つくば分析センター
特別企画:つくば分析センター 試験室・機器分析室見学会 事前申込先着20名 - 事務局
- 一般社団法人日本生産者GAP協会 教育・広報委員会、株式会社AGIC大会事務局
- HP・申込
- https://fagap.or.jp/seminarsymposium/symp2024/index.html
プログラム
2月20日(木)
12:00~13:00 | 受付 |
13:00~13:10 | 開会・オリエンテーション |
13:10~13:25 | 開会挨拶 二宮正士 東京大学農学生命科学研究科 (名誉教授) |
13:25~13:35 | 来賓挨拶 内田瑞子 スペイン大使館経済商務部 |
13:35~14:00 | 導入 20年間続けてきたスペイン アルメリアとの農業交流 田上隆多 株式会社AGIC |
14:00~15:00 | 講演 アルメリア農業 GAPにおける農協と自治体の介入 田上隆一 日本生産者GAP協会理事長 |
15:00~15:15 | 休憩 |
15:15~15:45 | 講演 スペイン地中海沿岸部の園芸と畜産におけるGAPの取り組み状況(仮) 中村正士 (株)アジア地域連携研究所 |
15:45~16:25 | 講演 アルメリア農協の総合戦略に学ぶ(仮) 斗澤康広 十和田おいらせ農業協同組合 代表理事専務 |
16:30~17:00 | 質疑応答 1日目クロージング |
17:00~ | 情報交流会 (隣接会場:事前申込) |
2月21日(金)
9:15~ 9:30 | 受付(入室) |
9:30~9:40 | 2日目オリエンテーション |
9:40~10:15 | 講演 GAPの本質と世界の潮流に触れたスペイン・アルメリア(仮) 鶴田諭一郎 (株)マルタ 代表取締役社長 |
10:15~10:50 | 講演 スペイン・アルメリア農業に学ぶ(仮) 徳留康幸 (株)つくば分析センター 営業部アグリサポートチーム |
10:50~11:25 | 講演 日本が「みどりの食料システム戦略」で目指すGAPステージ3をアルメリアで見た! 田上隆一 日本生産者GAP協会 理事長 |
11:25~12:00 | 講演 スマート農業におけるテクニコの役割とGAP認証の重要性 山内智貴 みずほ第一フィナンシャルテクノロジー(株)コーポレートアドバイザリー部 |
12:00~13:30 | 昼休み (特別企画:つくば分析センター 試験室・機器分析室見学会 事前申し込み先着20名) |
13:30~15:25 | 講演 高知県農業の変革-スペイン・アルメリア農業に学ぶ 岡林俊宏 高知県農業振興部 IoP推進監 ~地方自治体の立場から~ 尾原由章 (株)尾原農園 代表取締役 ~生産者の立場から~ 市川和加 高知県農業協同組合 安芸営農経済センター営農企画課 ~JAの立場から~ 小笠原香 高知県 安芸農業振興センター 農業改良普及課 課長 ~普及指導の立場から~ 南真佐雄 高知大学 IoP共創センター 特任研究員 ~大学の立場から~ 講師討論 高知農業の未来を語る |
15:25~15:50 | 休憩 |
15:50~16:50 | 総合討論 質疑応答・総合討議 |
16:50~17:00 | クロージング・閉会 |
※講演内容、時間は進行上の都合により変更になる場合もございます。あらかじめご了承願います。(敬称略)
2025/1
GAPで地方創生を成し遂げた
スペイン アルメリア エル・エヒド市
報告:田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長
情報:マヌエル・ゴメス・ガレラ エル・エヒド市農業・環境担当議員
- 〈アルメリア農業とエル・エヒド市の調査ポイント〉
- 1. アルメリア産農産物のマーケティング計画/戦略
- 2. 協同組合による農民の教育/研修
- 3. 農場認証への取り組み経過とその成果
- 4. 上記1.2.をサポートする自治体の支援対策
1 現在のエル・エヒド
エル・エヒド市の農業関連データ
- 市域面積:22.580ヘクタール
- 農地:18.518ヘクタール - 温室の物理的面積:12.756ヘクタール
- 温室:56% - 温室の栽培面積:17.880ヘクタール
- サイクル: 1.4 - 農場数:4,742
- 平均サイズ:2.7ヘクタール
- 土地代金:22ユーロ/m2
温室コスト:16ユーロ/m2
- 構造: 9.6ユーロ/m2
- 灌漑:1.81ユーロ/m2
- 砂撒き:4.62ユーロ/m2 - オーナー(共同オーナーを含む):5,290人
- 温室労働者:12,190人
- 生産量:130万トン/トン
- 生産額:7億3,300万ユーロ
- 市場運営会社 : 115
- 取扱業者 :64社
- 販売トン数: 162.5万トン
- 販売金額 : 16億8,000万ユーロ
- 輸出率 : 80%
- 取り扱い : 10,562
- 国勢調査人口(2017年) : 88,752人
- 農業への直接雇用 : 28,268名。
・総雇用に占める農業雇用 : 48%
・総農業従事者数/ヘクタール : 2.2人
・生産従事者数/ヘクタール: 1.7人
・取扱人員/1000トン :6.5
・平均年齢 : 35.13歳
2 アルメリア農業「エル・エヒド」の発展
2-1 温室の発展
エル・エヒド市の温室栽培は、1969年の国王令によって地域内に25ヘクタールの温室ができたことから始まる。5年後の1975 年には667ヘクタールになり、10年後の1979 年には100倍近い2,333ヘクタールに達した。1985年には5,155ヘクタールと急増している。
その後この地域では、帯水層の乱開発に関する警戒感が高まり、流域庁による宣言(勅令2618/1986)もあって、温室の増加率は減少してきた。しかしエル・エヒドの温室増加は止まっていない。1986年の法令で新しい地域の灌漑設備化は流域局の許可を得ることが必要になったが、温室を建設することは禁止されなかった。
2004年には一時的に減少したが、それは他産業の建設ブームの影響を受けたせいであり、2008年の世界金融危機にも成長が止まらず、今日(2019年)では実面積12,756ヘクタールを占めている。(ハウス内の作付けが複数回あるため、出荷する農産物の作付面積とは符合しない)
2-2 アルメリア方式の温室
エル・エヒドの温室面積が25ヘクタールだった頃の園芸は、日当たりがよく暖かい海岸線を利用し、作物は葦の垣根によって偏西風から守られ、肥料で肥えた土壌を保護するために近くの浜辺の砂が使われた。こうして砂を撒く技術が生まれた。
北からの寒冷前線からこの地域を守る山脈、シエラ・デ・ガドールの麓に近い村の内陸部では、葡萄栽培が発展し、葡萄の房を支える支柱に支えられたワイヤー・グリルが使われるようになった。
ブドウの棚に使われるこの支柱タイプの構造と、初期の沿岸地域で発達した砂をかける技術が組み合わさって、ブドウ棚をビニールで覆い、ブドウに替えて野菜を植えただけの「ブドウ園」が生まれた。
葡萄棚のような温室に植えられた野菜は、ビニールシートによる保温性と保護によって、さらに早い時期の作物が育つようになった。
収穫された青果物は、取扱い倉庫(選果場)に送られ、そこで選別され、見栄えの良いものとそうでないものに分けられ、LA CORRIDAに運ばれた。
2-3 マーケティング基準の登場
かつては、生産者の独自基準によって、市場で喜ばれる青果物と、変形や何らかの否定的な側面を持つ青果物とを分けることが仕分けだったが、温室の面積が増える一方で、1960年代から生産とマーケティングの基準も進化し始めた。
マーケティング規準は、分類、類型化、標準化、認証、トレーサビリティへと進化した。
等級付け:ある種類のものと別の種類のものを分けること
等級付けとは、クラス、タイプ、カテゴリー等に従って、製品を均質なロットに分類する作業を意味する。分類は、強制ではないものの、ほとんどの市場運営者に受け入れられている基準に基づいていた。その際に公的な基準に従えば得点が得られる。しかし、各市場運営者による独自の基準で行われる場合は、利点のほとんどは失われる。
標準化:基準に従って類型化すること
標準化とは 一般に、貿易を管理すべき公式の基準を確立することと理解されている。標準化の最も重要な側面は、製品を分類する基準となるさまざまなタイプ、カテゴリー、クラスなどを定義することである。
認証:標準化を検証する独立したプロセス
認証とは、利害関係者から独立した存在として認知された機関が実施するプロセスであり、これによって、ある企業、製品、プロセス、サービス、または個人が、規格または技術仕様に定義された要求事項に適合していることが証明される。
2-4 市場の原点
CORRIDA(コリーダ:闘牛場)は、収穫された野菜が持ち込まれ、卸売業者が価格を競り下げ、その価格を維持するまで、最高価格から最低価格まで、野菜のロットの価格がオークションされる市場形式のセリで構成されていた。その相場は黒板に映し出される。この施設で提示された商品の全てのロットが競り落とされた。
コリーダは、後にアロンディガス(ALHONDIGAS)と呼ばれるものの起源である。アロンディガスでは、商品アイテムが競りにかけられるのではなく、アイテムの権利が競りにかけられるようになったのだ。これにより、商品全体を購入する必要はなくなり、仲介業者が必要な数量を手に入れる権利を得た。
2-5 農業協同組合の台頭
マーケットを目指して
ビニール温室の出現と並行して農業協同組合が台頭した。 エル・エヒドで設立された最初の青果物協同組合はCamposol(カンポソル)で、それから半世紀以上経過している。穀物やエンドウ豆から果物や野菜製品に至るまで、農業協同組合はアルメリア農業の発展のあらゆる段階を経て発展してきた。
1970年代には、これらの生産者組織を通じて全国市場に供給を開始し、これまでのブドウの流通ルートを利用してヨーロッパに輸出している。1970年代のスペインは欧州共同市場(EC)に属していなかった。
生産者への技術支援
温室栽培によって新たな市場で野菜が季節外れに高価格で販売できた。そのため、温室農業への投資が盛んになり、資金の調達、技術的手段、そして生産とマーケティングの強化などが可能になった。当時の国家行政は農業普及局を通じて、農業協同組合による独自の技術サービスとして、生産現場やマーケティングについてのアドバイス事業を始めた。
2-6 アルメリア青果物生産者団体協会 COEXPHAL
アルメリアの輸出業者は、ヨーロッパに輸出するためにバレンシアやムルシアなどの他のスペイン地域への輸出割当を購入する必要がある。その権利市場を規制するため、アルメリアの園芸農家、農業協同組合および輸出業者でCOEXPHAL(コエックスファル)「アルメリア青果物生産者団体協会」と呼ばれる協会を組織した。
これはスペインで最も古い農業団体の一つとなり、この間、COEXPHALは農業部門の地位向上に全力を注いできた。
COEXPHAL 2024年11月訪問の資料より
- 140社 (FH102社+観賞用38社)
- 260万トン(80%輸出) (アルメリア355万トン)
- 合計売上高26億ユーロ (アルメリア36億ユーロ)
- 農家11,000戸 (アルメリア15,000戸)
- 33,200ヘクタール (24,900ヘクタールは越冬可能)
- 150国籍、60,000人の雇用
- 国内外4,000以上の顧客
アルメリアはスペインの主要な農産物輸出県であり、今やヨーロッパのベンチマークとなっている。1977年のアルメリアの生産量は約82万トンで、そのうち9万トンが輸出された。現在、アルメリアの生産量は350万トンで、そのうち260万トンが輸出されている。2016/2017年のキャンペーンでは、83社の生産・販売会社がCOEXPHALに加盟した。輸出では州の70%、果物と野菜の生産では65%を占めている。
COEXPHAL事業目標
- 1. 事業集中の促進:大規模流通に対する生産者の立場を強化するための助言を行い、障害を取り除く
- 2. アルメリアのイメージ向上:特にドイツやイギリスなどの市場におけるプロモーション・プロジェクトを通じて
- 3. 危機管理:危機予防と危機管理対策を実施する
- 4. 共通栽培基準:環境保護のため、持続可能な栽培方法と廃棄物管理技術を採用する
- 5. 総合的・有機的生産:有機的生産と現場での生物的防除を推進する
- 6. 研究・技術移転:生産性向上とコスト削減のため、研究開発・技術移転に投資する
- 7. 市場志向:市場と消費者の嗜好に対する明確な志向を推進する
- 8. 雇用創出:青果部門での雇用創出を通じて富を創出し、分配する
COXPHAL組織図
3 標準化
3-1 農産物の標準化
国連欧州経済委員会
1950年代に国連欧州経済委員会 (ECE/UN) の農業問題委員会内に「生鮮農産物の標準化と品質向上のための作業部会」が設置され、異なる原産地(生産地)と仕向地(消費地)の間の青果物交換を容易にすることを目的として、最初のマーケティング標準が登場した。
スペインは、1972年7月21日政令で域内市場における農産物の標準化を規定し、国際協定を次のように翻訳した。
- 五分類 製品には以下のカテゴリーまたはクラスを設定することができる
- 特別クラス:最高品質のもので、実質的に欠陥がなく、品種に見合った形状、外観、色調、風味を有し、体裁が整っているもの
- クラス1:品質がよく、品種の典型的な特徴を備えているが、わずかな欠点があってもよく、きれいに陳列されているもの
- クラス2:このクラスの製品は、本来の品質を損なわない程度の欠陥があってもよく、適切に陳列されていなければならない
- クラス3:消費に適さないような欠陥がなく、少なくとも上記で規定された最低品質要件を満たしていなければならない
- 上記の4クラスへの区分:上記の4つのクラスへの区分は、すべての農産物に対して強制されるものではなく、適切な場合にはその数を減らすことができる。
EU加盟
スペインでは、1975年に独裁者フランシスコ・フランコが病没して1978年に憲法制定、1981年2月28日にアンダルシア自治州が設立された。スペインは1986年1月1日に欧州連合(EU)に加盟し、この瞬間から標準化に関するすべての法律は欧州連合(EU)に依存することになった。
UNECE/UN-OECD:ジュネーブ議定書に署名した国連加盟国に推奨
欧州連合:EU内では必須。一般的にUN/ECE規格を採用
コーデックス:WTO内での準拠を推奨
3-2 EUのマーケティング・スタンダード
従って、青果物の物理的特性(色、大きさなど)を考慮し、異なる商品カテゴリーに分類する際に、EU全体で共通の基準を設けるための法的手段としての欧州委員会規則である「マーケティング・スタンダード」に従った分類が必要。
- 1. 製品の定義
- 2. 品質の規定
品質規定:すべての商品カテゴリーが満たすべき最低要件(寄生虫のいない製品、堅固な製品、異臭や異なった風味のない製品、健全な製品など)
商品分類:エクストラ、I、II。各カテゴリーに分類する基準は、許容される欠陥、色、形状、取り扱い上の損傷 - 3. 商業カテゴリーに応じたサイズの規定
サイズは直径または重量で決定する - 4. 品質およびサイズの許容範囲
表示されたクラスの品質およびサイズの要件を満たさない農産物は、本項に定める制限の範囲内で、ロットごとに許容される場合がある。 - 5. 表示に関する規定 均一性、表示、包装
- 6. マーキング規定(包装)
・識別
・製品の性質
・製品の原産地
・商用機能
- 消費者に新鮮な状態で提供されることを目的とした製品で、規格によって規制されているもの。
- 果物販売基準:エル・エヒドで生産される特定の果物を規制する規定共同体規則、省令
- 野菜販売基準:エル・エヒドで生産される野菜に関する共同体規則、省令
4 農場・選果場の認証
4-1 食品品質安全プロトコルの起源
1972年のEEC規則第1035号では、品質基準の対象となる青果物が実際にその基準に適合していることを確認するため、サンプリングによる適合管理を行う必要があると規定された。したがって、スペイン国家の「海外農産物輸出の検査、監視および規制のための公的機関(ソワレSOIVRE)」は、CMO(共通市場機構)との関係で、青果物の標準化のための適合性管理の実施に責任を負うことになった。
しかし、それから20年後の1992年、「生鮮青果物の品質管理に関する1992年7月29日付規則(EEC)第251/92号」が発表され、その第5条では、加盟国の適合性管理機関が、認可を受けた民間団体にこれらの管理を委任できる可能性が規定された。同規則は、一定の条件のもと、これらの検査に対応できる人材を有する事業者、すなわち協同組合(S.C.A.)および農業変革組合(S.A.T.)に対する免除を規定している。
域内での管理業務免除と品質および食品安全システムの導入
このため、生鮮青果物の品質管理に関する規則、その6条を適用するにあたり、管轄機関である外国貿易総局は、貿易検査・認証・技術支援総局を通じて、他のEEC加盟国に送られる生鮮青果物の発送地における管理業務を免除した。
包装業者の特殊なケースでは、1993年に始まった共同体諸国への輸出に関する公的品質管理が廃止されたため、「公的免除制度」に規定された品質管理の自己監視システムが生まれた。主に大規模な流通チェーンの顧客が必要とする品質および食品安全システムの導入である。
4-2 GLOBALG.A.P.誕生と進化
ファーマー、サプライヤー、バイヤーが三位一体
GLOBAL G.A.P.を理解するためには、その誕生と進化を理解する必要がある。
GLOBALG.A.P.は、ドイツのケルンに本社を置くFoodPLUS GmbHによって運営されている民間のブランドで、農業生産の安全性、社会的責任、環境保護を確保するための評価・認証の基準である。
今では多くのファーマー、サプライヤー、バイヤーがGLOBALG.A.P.規準に準拠するために、それぞれの認証基準を調和させている。農家や農協その他のサプライチェーンもこの進化の一部なのである。このブランドの存在意義は、ファーマー、サプライヤー、バイヤーの三位一体にある。生産者から始まり、市場関係者であるサプライヤーに続き、スーパーマーケットなど小売業の購買担当に至るプロセスの最終的な進化である。
三位一体で消費者に安心を届ける
GLOBALG.A.P.認証は、販売される青果物が対象で、その生産と環境に至る手順の集大成である。したがって、認証では、青果物そのものの特性だけでなく、労働者の安全や福利、環境への影響、健康リスクなど、青果物が生産される背景や状況・状態も評価する必要がある。
消費者は、スーパーマーケットで買ったものが、環境にやさしく、健康に害を及ぼさず、労働条件の面で労働者の搾取に加担していないことを知って、安心して消費したいのである。ファーマー、サプライヤー、バイヤーの三位一体の時間的な進化は、GLOBAL G.A.P.自体の進化と切り離すことはできない。
エル・エヒドの自治体でどのような出来事が起きているかを見れば、GLOBAL G.A.P.が2017年に54の企業、約4,400の生産者、エル・エヒドの10,000ヘクタール以上の保護作物を認証するに至った経緯が理解できる。
「エル・エヒド内の総面積とグローバルギャップカバー面積(ha)
農場認証の支援
エル・エヒドにおけるGLOBAL G.A.P.認証の実施プロセスは、温室農業の発展に合わせてきた。COEXPHALやECOHALと提携している青果物取扱センター(協同組合S.C.A.並びに農業変革組合S.A.T.及びアロンディガスの選果場)の技術者(テクニコ)の助けを借りて、講習会やワークショップの補助金や援助を受けて、生産現場の標準化プロセスを達成させる。テクニコはそれぞれの農場を担当する農業技術者である。所属する協同組合ごとに認証を取得している。
5 トレーサビリティ
トレーサビリティの意味
その名称は、track(追跡)、trace(足跡)、ability(可能性)と密接に関連する言葉である。EUの規則によれば、トレーサビリティとは、「食品、飼料、家畜、または食品に組み込まれることが意図された、もしくは予想される物質を、生産、加工、流通のすべての段階を通じて発見し、追跡する能力」のことである。
狂牛病、ダイオキシン、キュウリの偽大腸菌事件など、食品の安全性に関して近年発生したリスク状況は、生鮮青果物の生産、包装、輸送、流通に、特定の国際トレーサビリティ要件を課している。
生産過程に対する関心
残留農薬の有無など、健康被害を引き起こす可能性のある品質パラメーターなどに関心が高いが、他方で、水質汚染、廃棄物の発生、ウォーターフットプリント、CO2フットプリントなど、環境にダメージを与える農業慣行という点で、生産過程の特徴に関心を持つ消費者も増えている。
スペインの園芸は警報や注意喚起をほとんど発生させていない。2014年から2016年の間に、RASFF(Rapid Alert System for Food and Feed:食品と飼料の迅速警報システム)に登録された1745件のインシデントのうち、スペインの果物、野菜、加工品に関するものは30件であった。生鮮青果物に限って分析すると、この期間の事故は2014年11月7日のプチトマトのエテホン(成長ホルモン)による注意喚起のみである。
現在、ヨーロッパで検出されている生鮮青果物への注意喚起は、主にトルコ由来のものである。例えば、2016年だけでトルコ産ピーマンにおける農薬の不適切な使用が57件発生している。
エル・エヒド農業のパラダイムシフト
2007年にいわゆる「トウガラシ危機」が発生し、農場に深刻な損失をもたらしたものの、生物学的防除の使用への道が開かれ、アルメリア、特にエル・エヒドの生産様式における真のパラダイムシフトを象徴する事態から、我々は長い道のりを歩んでいる。
- 「トウガラシ危機」
- 2007年、アルメリアから輸入したトウガラシから、ドイツ政府が農薬イソフェヌス・メチルを検出した。その結果、アンダルシア州政府は24,000キロのピーマンを回収し、責任農家を制裁した。 その後の措置
- 1. より厳格な管理:食品安全規制の遵守を確実にするため、農産物の生産と輸出に対してより厳格な管理が実施された。
- 2. 違法農薬を使用した農家は罰金を科せられ、規制を遵守するまで農業を続けることが禁止された。
- 3. 啓蒙キャンペーン:農家を対象に、農薬の適正使用と無認可製品の使用による影響について啓蒙するキャンペーンを実施した。
- 4. トレーサビリティの改善:農産物の原産地を追跡し、安全基準を満たしていることを確認するためのトレーサビリティシステムが改善された。
これらの措置により、アルメリアの農産物に対する信頼が回復し、今後同様の事件が発生することを防ぐことができた。 「El Paísエル・パイス紙]」
6 マーケティングと販売促進
エル・エヒドは、アルメリア農業地域の全体を統括する地理的な中心地であり、世界の自治体で最も多くの温室が集中している。農産物事業者としては最も長い伝統を持っているため、生産量よりも多く販売している。
産地市場
最も古い組織はアロンディガス(Alhíndigas)またはコリーダス(corridas)と呼ばれる、買い手と売り手が参加する原産地契約センターであり、一般的に取引される商品の現物で、競売によって価格が決定される。運営は有限会社であり、場合によっては起業家である。
生産者にとっての主な魅力は、取引額回収のスピード (1~2週間)と、不払いのリスクをアロンディガスが引き受ける取引の安全性である。
1980年代半ばから、最初はオークション価格への介入として、その後恒久的な介入として、これらの企業は競売価格の標準化作業を引き受けてきた。また、販売する生産物の一部の仕向地での販売も、多かれ少なかれ行ってきた。
生産者組織 (協同組合)
生産者グループは、協同組合(S.C.A.)や農業改革組合(S.A.T.)などの団体を中心に構成されているが、農民グループと関係しない一般企業(商社)も存在する。これらの団体は、組合員や構成メンバーにマーケティング・サービス、資材の供給、技術支援を提供し、農業生産現場の厳密なモニタリングも可能とする緊密な協力関係を築いている。
エル・エヒドには9つの協同組合S.C.A.と24の農業変革組合S.A.T.及び31のアロンディガスがある。残りの 51 の民間企業は市場運営者であり、農業生産は行っていない。
これらすべての数字は、エル・エヒドの園芸モデルがいかに集約的であるかを示している。エル・エヒドの地域資源、人的資源、技術資本、金融資本は、生産システムが第一次産業よりも産業部門に似ていることを示している。
エル・エヒド農家の認証取得割合
ほとんどの農家がGLOBALG.A.P.(91%)と、生鮮青果物の一連の規格「UNE155001」(78%)を取得しており、生産者は適正農業規範や認証制度の基準を遵守している。全農場の21%がINTEGRADA(持続可能な慣行と先進技術を組み合わせた総合的作物保護生産システム)。15%がNature's Choice(テスコ規準)、7%がNATURANE(環境と人の健康に配慮した方法で栽培・加工)を取得している。生産者が従うその他の基準には、CAA (オーガニック) BRC、GRASP、QS、ISO 9000 (9%) がある。
一般に、生産者は顧客の種類に応じて異なる認証基準を遵守しており、平均して少なくとも2つの品質プロトコルに準拠している。認証プロトコルの対象となる生産者の割合が100%を超える(224%)のはこのためである。
「標準化」、「農場認証」、「トレーサビリティ」への生産者の適応は、その範囲と時間の経過において絶え間なく進化してきた。農家は、ほとんどの場合複数の技術者にアドバイスを受けながら、時代と状況に適応してきた。 COEXPHALは、ほとんどすべの仕向地販売会社と提携しており、生産者がこれらの品質基準を使用することを奨励し、講座を開設して生産者を教育し、持続可能な農業を指導してきた。
また、アルホンディガスがメンバーとなっているアルメリアの園芸マーケティング会社ECOHALは、OPFH(青果物生産者組織:青果物の生産と販売を改善するために集まった農民のグループ)を通じて、品質基準の講座を開いて生産者を教育してきた。
これらを反映すると、アルメリア(エル・エヒド)の青果物はエクストラカテゴリ以上の割合が高くなり、製品の価格が高くなる。
7 政策によるGAP支援
エル・エヒド市議会は、温室園芸などの主要な社会経済活動によって得られる重要性を認識し、これらの品質システムの開発に協力するために3つのレベルでGAP支援に取り組んだ。
- 規制 規範
- 事業 (DISPOSITIVO;デバイス)
- プロモーション
7-1 GAP規制 規範
「自治体環境衛生条例」
エル・エヒド市議会は、アルメリア州の承認により、1992年にGAPに関する最初の「自治体環境衛生条例」を生産者に提供した。
「「農地における残留農薬規制条例」
エル・エヒド市議会は、適正農業規範(CoGAP)とその手続きに関する権限の一部を考慮し、新しい環境要件に適応した新しい条例「農地における残留農薬規制条例(2001年2月27日付)」を制定した。
「温室とその環境に関する市条例」と「緑のインフラ対応規則」
エル・エヒド市議会は、2017年8月4日、GAPに関連する第3の条例として「温室とその環境に関する市条例」が施行され、自治体レベルで初めて、有機農業の補助動物相の避難所となる在来植物の栽培に農地の1%を提供するという農家の義務からなる「緑のインフラ対応規則」が登場した。
7-2 GAPに関する事業
クアム EL CUAM(Centro Universitario Analítico Municipal)
1993年に、エル・エヒド市議会とアルメリア大学との協定により市立分析大学センターの研究室CUAMが設立された。このセンターは、アルメリア大学の技術知識、応用研究、最先端技術を統合し、農業食品分野の恒久的な発展に寄与している。
この試験所は、1998年にENAC (国家認定機関)の認定を受けた。認定によって設立当初はEN45001規格およびISOガイド25に基づいて、2001年以降は現行のUNE-EN ISO/IEC 17025規格に基づいて常に試験の技術的妥当性を実証してきた。
特にCUAMは、生鮮青果物の残留農薬検査において、スペインで最初にENACの認定を取得した研究所で、現在、研究所の認定範囲には、水と食品における様々な物理化学的検査、微生物学的検査、残留農薬検査に及んでいる。
ENAC-ILAC-MRAマークが添付された認定試験報告書は、IFS、GLOBALG.A.P.、QS、欧州の大手流通グループによって設立された農業食品分野の制度によって世界的に認められている。
2015年以降、CUAMラボラトリーは、この地域の農場でますます定着しつつあるドイツの認証の要件に準拠していることの証明として、試験報告書にQSシールも添付している。さらに、CUAMは、ドイツ企業が青果物の共通管理を行うFruitmonitoringプラットフォームが要求する最低基準も満たしている。
その他の研究所は、COEXPHALのLABCOLOR などの生産者グループに属しているか、SICA AGRIQ などの消費者グループに属しているが、Reactiva や LAB などの一部は民間投資で始まった。現在、この種の分析に専念する全ての機関は、新しい投資グループの利益を維持している。
生産者が直接か農協などの販売機関を通じて2回の分析を行うケースが57%と大半を占め、次いで1回の分析しか行わない農家が34%となっている。
1回か2回の分析で、MRLに関して標準化管理された農家の91%が分析を受けている。現在、CUAMでは約20,000の分析を実施しているが、その92%はGLOBALG.A.P.に関連するもので、76%はMRL、8%は農業用水、4%は養液、さらに4%は土壌、樹液、葉面などに関するものである。
フルティラドス デル ポニエンテ S.L.(FRUTILADOS DEL PONIENTE S.L.)
農業生産段階での農産物の廃棄量は、市場に出回る農産物の約3%に相当すると推定されている。これらは、標準化のためのカテゴリーIIIに達しない青果物だ。これまでは、これらの果物は家畜用として出荷されていたが、保存能力がないまま家畜に供給されていたため、市場に出回らない果物が大量に流入する時期に腐敗が急速に進み、採算がとれなかった。
2013年、エル・エヒド市議会は、S.C.A.とS.A.T.の協同組合を含む24の販売会社とともに、FRUTILADOS del Poniente S.L.社を設立した。その目的は、廃棄する青果物をサイレージ・システムを通じて家畜の飼料に転換することであり、家畜にとって長期にわたる合理的な消費を可能にする保存方法である。
7-3 プロモーション
1. CUAM研究所には、国内または国際レベルの技術者、農民、学生、政治指導者が毎年訪問している。これらの訪問では、品質に関してCUAM研究所が持つ範囲について説明されている。
2.CUAMは、「We cultivate quality with safety」というスローガンの下、Expo Agro、Info Agroなど、さまざまなバージョンで数多くの見本市や展示会に参加してきた。
3. 農業分野では、あらゆるレベルで優れたGAP農法を推進してきた。例えば、8年前に農民に普及させて浸透した「G.A.P.十誡」のようなものである。
8 日本のGAPに示唆
認証は行政が介入しない民間の品質規格
エル・エヒドおよびアルメリア農業全般における、GLOBALG.A.P.などの認証制度と普及推進は、政府や自治体などの行政によるものではない。したがって、認証プロトコルに関する農家や協同組合側の教育や研修などは規定されていない。
農場や選果場の認証は民間が行う事である。スーパーマーケットや食品会社などの販売会社が、さまざまな品質管理システムのプロトコルを適用する規則は、任意であり取引契約に基づくものだから、法的に問題がなければ自由である。
農家や農協が取組んでいる民間規格としては、GLOBALGAP、Qualität und Sicherheit GmbH (QS)、管理生産、ISO 9001、GRASP、British Retail Consortium (BRC)、International Food Standard (IFS)、CAAE、Naturland、EU有機生産などがある。
GAPに関する行政介入は法令による規制や公共事業
行政が行うべきは、民間認証ではなく、自然環境の保全や労働安全、食品衛生、農業振興などの役割に沿った他のレベルでの行政介入である。それは、農業生産や農産物販売に関する法令による規制・規範の策定、および持続可能な社会づくりに必要な公共事業を行うことなどである。
行政が、実際に環境保護や農産物販売などで規定する法令による規則は強制的なものである。公的な規格としては、環境管理監査スキーム(EMAS:Eco-Management Audit Scheme)、危害分析重要管理点(HACCP)、統合生産(IP)、残留農薬の最大残留基準値(MRL)、食品衛生、汚染物質、トレーサビリティ、マーケティングなどがある。
GAPの教育支援
1993年に「免税事業体を管理する規則」が制定され、「免税事業体の公的品質自己監視システム」により、農業協同組合などは選果場で実施された品質管理システムに責任を持つことになった。その結果、民間の認証に対しても、生産段階から選果場を出るまでの認証プロトコルをコントロールすることになる。
そのため、農家がCOEXPHALやECOHALなどと提携している青果物取扱センター(選果場)の技術者(テクニコ)を通じて、農場管理の標準化プロセスを実現するGAP講習会やワークショップなどに行政が補助金による援助を行ってきた。
GAPの規則(条例)や規範の制定
自治体レベルでは、エル・エヒド市議会が1991年以降、3つの遵守義務条例( 「自治体環境衛生条例」、「農地における残留農薬規制条例」、「温室とその環境に関する市条例」 )を制定してGAPを支援し、2017年には、グリーンインフラ(緑のインフラ対応規則)が現実のものとなっている。同時に、見本市、会議、講習会などで、農家の適正農業管理(GAP)を広めてきた。
「食・農・環境」の分析・持続可能な農業の支援
一方で、エル・エヒド市は、1991年の農務省設立に協力し、アルメリア大学とともに1993年に「食と農の研究所」(CUAM)を設立した。同時に、民間の品質プロトコルが開発され、1997年には欧州小売業組合(EUREP) が設立された。EUREPG.A.P.は、消費者の要求やMRLなどの公的要求事項をすでに含んでおり、2007年にはGLOBAL G.A.P.と名称を変更するまでに拡大し、CUAMが発行する各種データの証明書が必須になっている。
2013年、エル・エヒド市議会は、S.C.A.協同組合、S.A.T.協同組合を含む24の販売会社とともに、フルティラドス デル ポニエンテ S.L.社の設立を推進した。その目的は、廃棄する青果物をサイレージ・システムで家畜の飼料に転換することであり、家畜にとって長期にわたる合理的な消費を可能にする持続可能な農業の支援である。
自然環境という公共財をメンテナンスする農業
今回、日本生産者GAP協会が、アルメリア農業とエル・エヒド市農業の調査ポイントとしてきた「1.アルメリア産農産物のマーケティング計画/戦略、2.協同組合による農民の教育/研修、3.農場認証への取り組み経過とその成果」については、「4.自治体の介入」として求められているものとは必ずしも一致しない。
アルメリア農業を担っている中心的存在のエル・エヒド市民としての農家と、彼らが構成する農業協同組合や農業改革組合、販売契約するアロンディガス市場、そしてそれぞれの組織体の連合協会などは、民間事業体である。彼らがマーケットにおける様々な認証要求の現実に直面したとき、農家を放っておくわけにはいかなかったために、技術者(テクニコ)の協力によるGAP教育の支援を行った。
民間事業である農家と農家組織が担っている農業は、地域産業の柱であるとともに、自然環境という公共財の維持管理者でもある極めて重要な存在なのである。
2025/1
『世界のGAPは環境負荷低減型農業から環境再生型農業へ』
連載(3) 農産物の生産者および出荷者に対するGAP教育
北海道地域農業研究所 研究報告講演(3)
令和五年度農業総合研修会(2024年2月28日)JA北農ビル
田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長
5 GH農場評価と生産者教育
続いて、GAP概念を理解し、納得して取り組めるGAP教育システム「グリーンハーベスター(GH)農場評価制度」について学びます。「GH農場評価」は、適正農業(GAP)の農家を育てるための農場評価制度であり、販売基準としての監査制度ではありません。
なぜ「グリーンハーベスター」にしたかというと、イギリスの「レッドトラクター」を見て、農家のGAP教育方法に納得したことがきっかけです。農村の地区ごとにNFU(全国農民組合)の組合長がいるのですが、一組合員である地区組合長は、地区担当のNFU職員とともに、地区内の組合員たちに新たな農場管理の方法を教えるのです。事務局担当者は一人です。組合長と担当者が農家を巡回し、それぞれの農家(農場)の現状分析をしながら、その地域の農業全体をルールに合うようにしていくのです。主体的なGAP教育とはこれだなと思いました。
スーパーマーケットの監査で、様々な改善要求に応えて「〇か×か」、民間認証に「受かったか受からなかったのか」ばかりでは、農業のプロなのに、バイヤーからさんざんに言われて冗談じゃないと思ったという声を聞きました。その点、レッドトラクターは、組合が本来の業務として行っている営農指導であり、農場管理が向上して農家がGAPになります。この考え方、仕組み、技術を日本に導入したいと思ったのです。それでレッドトラクターの名称を使えるか相談したところ、それは無理と言われて、レッドじゃなくてグリーンに、トラクターじゃなくてハーベスターにしようということで、グリーンハーベスターにしました。そしてGAP普及の考え方を、日本的営農指導・教育方針等を基礎にして作ったのが、この「グリーンハーベスター農場評価(GH農場評価)」ということです。
BAPに気づき、それを改善して、GAPを体系化する
GH農場評価は、農家の慣行(日頃当たり前に行っている事)に関して、「どこが問題、なぜ問題、どの程度問題かを気づかせ、そして改善の方向を示す」ことです。農家を育てるために農場管理のレベルを上げていくための手法なのです。そのためには、初めに不適切な行為「バッドプラクティス(BAP)」を見つけることが重要です。ここでどのようにBAPを見つけるかというと、桶の中に入って一生懸命に農作業をしている生産者を桶から出して外側から実態を見てもらう。穴は空いてないが農業成果としての水が染み出している、この染み出し状態が、徐々に大きな問題につながるということに気がついたら、「これはいかん」と自分で改善するはずです。これは、あれこれ言われてやるのではなく、当事者の気づきが、イギリスの農民の主体的なGAPに繋がっているのだろうと思ったのです。
当事者が問題点を認識して改善するということです。必要な改善をしたうえで、スライド右の桶のように桶にタガをはめます。それが農場管理システムです。少なくとも総合的な農場管理計画を作成し、各業務の手順や必要なルールを作ることが必要です。そして、その行動理念や作業理論は適正農業規範に準拠することが必要です。
農場経営のPDCAと予防原則
農場の「評価、改善、計画、実践」を絵に書くと、一般に言われている経営管理サイクル「PDCA」と同じだと思うかもしれませんが、農業現場の基本にあるものの考え方と管理運営の具体性については違いがあります。言われた通りにやるというのと、本来こうありたいと当事者が思うのでは、全くアプローチが違うと思います。
特に、GAPにおける適正の原則では「予防原則」に注力することが重要です。適正であるためには法令や科学に基づくことは当然重要ですが、最も力を注がなければならないことは予防です。やばい(あぶない)と思ったら、そこに前もって手を打っておくということです。「重大な或いは不可逆的な損害の恐れがあるときには、充分に科学的にその証拠や因果関係が提示されていない段階でも、リスクを評価して予防的に対策を取らなければならない」という予防原則です。
GLOBALG.A.P.の規準でも「リスク分析はしたか、その問題に関する解決方法を出して、選択したか、選択の結果はうまくいっているか」ということを聞いています。つまり予防原則の要求ですね。現実としては1万分の一、10万分の一しか起こらないものに対して、毎日毎日神経を尖らせているわけにはいかない。そこで、そうしたことが起こらないための前提条件プログラムを走らせるということが重要になるということです。
グリーンハーベスター農場評価
グリーンハーベスター農場評価制度は、〇か×をつける単純な評価ではなく、項目ごとのリスクレベルに応じた5段階評価を行います。営農指導でマルの評価をした項目で重大な問題が起こってしまった時に、評価員としての営農指導員や普及員は責任が取れません。未来に関することは単純ではありません。少なくともこのような恐れがあるということで、評価ゼロから評価4までの5段階で表現をしていくということで、農場主の気づきと確実な予防策を促します。
また、GH農場評価は、5段階で評価した項目ごとのスコアを1経営体1000点満点から減点していく方式です。おばあちゃんが一人でやっている10アールの農場も持ち点は1000点。200ヘクタールで大型機械も十倍使っている農場も持ち点は1000点。その中に作業員が20人いたら、作業者リスクは20倍になるでしょう。この減点方式は、農場管理の実態評価に大変よく合っていると思います。この仕組みの構築に当たってはアメリカの企業評価の方式を参考にしています。
「総合評価集計表」の管理項目分類はこんなふうになっています。1)農場管理システムの妥当性、2)水・土地・養分管理、3)作物保護と農薬の使用、4)施設・資材と廃棄物の管理、5)農産物の安全性と食品衛生、6)労働者の権利・健康・福祉の管理、そして7)環境と生物多様性の保護です。農業由来の環境問題は、2)、3)の管理項目で評価しています。
この事例では、集計表の中で問題有の「評価4」が3個ありました。早急な対策が必要な喫緊の重要課題です。「評価3」は7個、重大な課題ですから早めの対策が必要です。「評価2」は22個あります。これは潜在的リスクを抱え、このままで問題は起こらないかもしれないけれども、統計的に見ると時々問題化しているというレベルということです。
予防原則に準じて対策を考えましょう。こうして総合点を出して、この場合にはマイナス400点ですから、差し引き600点の「GAP評価度」ということです。いきなり評価して600点取れたら立派な農家です。600点で必要以上にがっかりすることはありません。評価4は三つしかない、評価3は七つしかない。つまりこの10カ所のところが改善できたら、この農場は総合765点となり、民間のGAP認証でも良い評価を受けることになるでしょう。
GH農場評価による地域農業の改善効果
福井県で「いちほまれ」という新しい米の品種を栽培し、その全ての農家500人ぐらいが、GH農場評価を受けることになりました。14人の生産者・グループの最初の平均点は485点、2回目は634点、3回目は730点、そして4回目には810点になりました。最初の評価には私どもが指導に行って、あとは徐々に地元の普及員指導員によって評価されるようになっています。さらに、ここで評価を受けた生産者が他の産地で指導するという事例もあります。
そして、GH農場評価を全中、全農が取り入れて「よりよい営農活動」実践運動を展開していく計画もあります。関連する一つの事例として、例えば岡山県のJAでは、正規の営農指導としてGH農場評価を行っています。これは、GAP概念が正しく伝わっていない状態でGAP導入を強いられると抵抗が大きいので、営農指導強化の実践としてGH農場評価を活用したのです。本来、営農指導は適正農業(GAP)が基本なのです。だから本来GAPを目指すGH農場評価をやるということですね。全農通信では、GH農場評価員を育成する研修会開催の様子などでも広報しています。また、岐阜県ではこのGH農場評価を使って、県の農家指導を行い、「ぎふ清流GAP」の普及で実績を上げています。
6 サプライヤー(販売者)として取組む品質管理
GAP認証はJAが取得する
今日まで20年来、実際にJAなどのGAPを指導してきて、推進上大いに問題なのは、「GAPは農家がやるもの」、したがって「GAP認証も農家の課題だ」、と思っている組合長や営農関係者がほとんどだということです。それは大きな間違いです。GAPもGAP認証も組合員組織である農協が責任をもって実施することが重要です。日本と同じように、イタリアやスペインなど小規模の家族農家で構成している農協では、GAPは営農ですから指導は農協の課題であり、全ての組合員のGAPを指導しています。GAP認証に至っては、農協自体が農産物の第一次サプライヤーつまり売り手なのですから、認証を要求しているスーパーなどの買い手は農協が組織として信頼できるかどうかを確認したい訳です。また、農協が組合員の農場管理に対してガバナンスを効かせているかどうかを確認したいのです。だから世界のGAP認証制度というものはサプライヤーである農協に対する事業評価や業務評価という性質なのです。
日本には、団体認証にすれば安くすむからグループを作ろう、などとピント外れの意見があります。それはGAP認証を取得することを目標にしているからです。日本の農業と農家そして消費者のためにも、現実的な意味のある(戦略的な)GAPとGAP認証についての理解を推進しなければなりません。
販売者としてのGAPコントロール
日本で本来のGAP認証が定着するとすれば、当然、買い手側は、例えば「JA〇〇」とブランディングされて選果場から出荷される農産物の信頼が欲しい訳ですから、サプライヤーとしてのその農協を評価監査することになるのです。その監査では、各生産農場のガバナンスが行き届いているか、つまり、先ほどのGH農場評価のように、各個別農家の問題点の発見やその改善を管理しているかどうかが問われるのです。
イタリアでもスペインでも、GAP認証検査の費用を農協が各農家から徴収するという話は聞いたことがありません。ヨーロッパ各地のGAP調査の際に、「農場認証の検査費用はいくらか?」などと聞けば、「それは農協が支払っているさ、ただし、農協利用料として後からまとめてしっかり取られるよ」などという答えが来るのがほとんどです。
営農指導も選果場利用も、全ての組合員が享受する農協利用の経費負担ということです。したがって、例えば青果部会に1000人、水稲部会に2000人の生産者がいる農協だったら、GAP認証の一人当たりのコストは微々たるものになるでしょうね。要は農家をまとめている農協を監査するのであって、組合員の農場検査は、営農指導内容の検証ですから、ほんの少しのサンプリングで済んでいます。
生産・販売組織の統括管理QMS
JAなど農産物販売組織として、これは農協に限らず、農業会社はすべて、ビジョンを持って、プランを立てて、マネジメント実施を管理しています。マネジメントの対象は施設と職員と農家ということになります。そうすると、営農指導というよりは農家とのコミュニケーションですが、現場で栽培から出荷までサポートをするということで、それは農業ビジネス(事業)のリソース(経営資源)管理ということです。
そこで、青果物だったら農産物は選果場の商品として出荷される、また農産物直売所では店舗の信頼で販売される、そこでの販売の契約者は農家ではなくて農協なのですから、その農協の信頼があるかどうかが問われます。ヨーロッパでも、アメリカでも認証会社はそれら一連の流れをみたいと思っているはずです。
そもそもグループになれば認証費用が安い、というようなことを言っているとすれば、それはマーケットの実態や取引と農家認証の意味が分かってないことだということです。さらに、GAP認証を取っても売上にはつながらないということを言っているとすれば、二重に勘違いしているということになるでしょう。
ヨーロッパでは、2005年から、日本でも数年後にはGAP認証を取っていなければ取引しないという小売店が増えてきているのですから、認証がなければ農産物販売の機会さえなくなるという不利な状況になりかねません。その状況を喜んでいる場合ではないのですが、認証数が少ない現在の日本では、認証農場が増えれば売上増加になる可能性があります。そこのところの産地づくりとしての意味合いがわかっていない。そういうことだと農協だからどうせ無理だなと思われ、諦めて要求もしない日本の業者ということで、どんどん世界の流れから遅れていくということです。
生産販売組織が取組む食品の一般衛生管理
第一次サプライヤー自体の食品衛生管理が求められています。コーデックスというFAOとWHOの合同による食品規格委員会がありますが、そこでHACCPのPRP(プレ・リキジット・プログラム)を定義しています。HACCPの前提条件プログラムです。農家で、あるいは選果場で、農産物は厳密なHACCPシステムは実行できないということですが、HACCPをやる前に実行すべき「一般的衛生管理」というのがあり、食品取扱事業者は、例外なく、これをやらないといけないのです。
米欧の農家や農協、米欧に農産物を輸出する農家や農協では、例外なく一般的衛生管理が実行管理されていますが、日本の農協の関連施設では十分な対応をしている選果場を見つけるのが難しいほどです。日本でも食品衛生法の一部改正(2018年)によるHACCP制度化で、2021年6月からすべての食品等事業者がHACCPに沿った衛生管理を行うことが義務化されました。しかし、残念ながらこの法律で農業(及び水産業)は、「採取業」と定義され、許可や届出の対象外にされました。そのためJAグループでは「青果物集出荷施設等の衛生管理の手引書(田上執筆)」を作成してHACCP制度化に対応することになっています。それにも関わらす選果場などの衛生管理体制作りはひどく遅れています。
選果場の一般衛生管理の図に、ブルーゾーンとレッドゾーンがありますが、それらの区分けがありますか?また、それぞれのゾーンにおける衛生管理規則やプロセス管理の手順書などはありますか?直売所でもレッドゾーンとブルーゾーンがきちんと分かれていますか?職員は衛生管理規則を認識し熟知していますか?そして認識通りの対応をしていますか?プロセスごとの起こりうる問題、それらの因果関係、何があるから危害発生するのか、そのためはどうすれば良いのかということが決められていますか?マーケットからも、食品政策からも、このように問われているのですが、これらを認識していない、したがって守ってない農協が全国に圧倒的に多いようです。それでは、GAPやGAP認証以前の話です。
7 GH農場評価で生産部会のGAP認証を取得
皆さんもご存知、ニュージーランド・ゴールドキウイの国際戦略についてです。南半球でゴールドキウイを栽培するゼスプリは、世界戦略で北半球に進出し、アメリカの西海岸、日本の瀬戸内海、中国やフランスなどでも栽培し世界中に供給しているそうです。それで、GLOBALG.A.P.認証が一般化すると世界中どこの産地でも認証を取得しているのに、日本だけが取得できないし、取り組む意思もないと悩んでいました。ゼスプリは全農経由で、農協、農家と栽培契約を結んでいるのですが、どこも対応してもらえない、とゼスプリの日本法人が私のところを訪ねて来たのです。「なんとかなりませんか」という依頼に、私が、「なんとかします」と、当該JAの営農指導に乗り出して、指導開始から十ヶ月ぐらいでGAP認証を取得しました。
ここの部会員は150人で、会ってみたら生産者の2/3以上は60歳以上で、71歳以上が全体の45%。60代が24%と、全国の産地と同じ極端な高齢化でした。栽培面積は1農家当たり平均20aと小規模。その他の果物も栽培している人が多く、農家の最小の面積は2aのおばあさんでした。地域の生産部会ですから、この人に農業をやめてもらうということは考えられず、他の皆さんと同じように取り組んでもらいました。実際、この方は小規模がゆえに、とても簡単に改善ができました。
JAとしてのGAP認証の取組はこうです。生産部会を6名の技術員が地域割で全品目を担当していましたので、認証の取り組み指導もそのままの営農指導体制としました。6名で組合員150人をこれまで通り担当して、2人に一人をQC(農場管理クオリティコントロール)役、つまり農場評価などの生産者統制(ガバナンス)担当にしました。つまり6人のうち3人は評価員として活動してもらえるよう、私どもが指導者教育をしました。
まず十か月で認証取得するアクションプランの樹立からです。最初にやったことは、生産者と営農指導員合同の勉強会で、次に最も重点としたのはJAの衛生管理です。選果場を徹底的にやりました。農家に対してうるさいことを言うならば、自分のところでやらなきゃだめだということです。そのあと、QC指導員に向けての農場評価の仕方をトレーニングし、その間に農家ごとの勉強会をやります。そして、QC指導員による評価を実際にやってもらう。ヒアリングの仕方に問題があれば改善を指導する。
ここまでやって、大体の評価ができたら、問題がありそうな評価の検証を、それらをみんなの勉強会として実施していく。勉強会の結果、支部としての方向が決まったら、部会全体としての計画を作って説明会をして、それを参考に、集まった人達の個別の計画をその場で仕上げていく、ということをやりました。各農家は決められたルールで農場管理を進め、記録などもできました。それで十ヶ月後に認証は取れたのです。
次号に続く
2025/1
株式会社Citrusの農場経営実践(連載53回)
~みかん収穫作業労力確保に限界を感じる~
佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役
2024年産温州ミカンは高値を推移している。このことは嬉しい状況であるが、みかん収穫の労力確保には苦慮した。収穫期を迎える10月、これまでにはこの時期に2人から3人程度のアルバイトの応募があり、みかん収穫時期までアルバイトの入れ替わりがあったが収穫現場には社員と研修生(地域おこし協力隊員)を含め常時5名から6名が収穫作業を進めていた。しかし、会社を設立して12回目の今期はハローワークやインディードで募集しても問い合わせがあるもののアルバイトを確保出来なかった。
そこで、外国人労力者確保に再びチャレンジした。5年前にカンボジアからの技能実習生を1年半ほど雇用した経緯があり本誌でも紹介した。しかし、仕事に問題は無かったが、会社のポリシーである人材育成とのずれが生じ中断した。それ後は農業を目指す青年等の人材育成強化に専念してきた。有田川町の地域おこし協力隊員の卒隊後の新規就農支援、また次世代の農業を担う人材を育成する研修生を受け入れたりして、我が社の園地は彼らで賑わっていた。
これまでの経験から彼らの新規就農を支援するためには優良な農地確保が不可欠であり、単純にほ場での管理作業経験のみでは新規就農は困難であるとの判断から、事前に優良農地の確保を急いだ。幸い優良農地の確保ができたが、地域おこし協力隊員が卒隊するまで我が社での管理となり、更に労力不足に拍車をかけた。
これらの背景からグロワー・シッパーとして連携している姉妹会社の「株式会社みかんの会」で4名の外国人を雇用した。日常2名がみかん収穫作業、2名は選果・荷造り作業にあたった。雨天で集荷作業ができない日は選果荷造り作業に4名投入し、選果作業のない日はみかん収穫作業に専念させ、温州みかんの収穫作業は年を越すことになったがなんとか切り盛りできた。
また、この状況の中で各種団体からのインターンシップの依頼を受け入れた。社員が産休でインターンシップ対応出来る状況では無かったが、多少の労力確保にもつながることから私自身が対応した。今期も昨年同様に有田川町主催のインターンシップ1名が、「きみの地域づくり学校」主催のインターンシップの2名を受け入れた。きみの地域づくり学校とは和歌山大学ときみの町が連携した社会教育のことで、我が社でのインターンシップには和歌山大学観光学部の学生2名が参加し4日間実施した。忙しい中であったがインターンシップを受け入れることでみかん園が賑やかになり社員共々みんな楽しそうに収穫していた。
しかし、次年度からの収穫労力確保を考えると、単純にみかん栽培のみの農業形態では労働力確保が課題となり持続可能かどうか疑問に思う。現実に高齢化し後継者がいない農家では今年度で農業を辞めるという声を聞く、農作物の価格低迷による離農より、労働力不足による離農が有田みかん産地にも見え始めたように感じる。
2025/1