-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 79号

《巻頭言》
『環境負荷低減型農業から環境再生型農業へ』-農業の理念とGAPを考える-

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

第二次農業革命を目撃

 農業が近代化される以前、私は中堅規模の農家の跡取りとして生まれ、子供の頃は馬の鼻先で手綱を取って父親のカルチかけを手伝いながら、将来は自分も父親のような「立派な農家になること」を夢見ていたものでした。1951年1月生まれなので、10歳代となった1960年代には化学肥料の登場や品種改良などで農法が変化し、農業の概念や農村の様子もがらりと変わって第二次農業革命ともいわれる時代でした。61年には農業基本法が施行され、農業構造の改善と農家の所得向上を目指す生産性向上とが大きな目標でした。まさに農業のパラダイムシフトが起こった時代に物心がついた頃で、それらの変化の様子を見て育ってきたということです。

 50年代までは当たり前に有機農業で、化学農薬や化学肥料などは使っていませんでした。作物の栄養源には厩肥や堆肥を中心に河川敷の草土や人糞、購入した魚粕など様々な有機質資材を使って農作物を栽培していました。「農業とは耕すこと」であり馬耕が農家・農業の規模を決定するものでしたが、60年代には一般農家でも田畑耕耘の機械化が進み、それは子供の目にも最もインパクトのある変化でした。その他、収穫調製作業なども機械化され、さらに外部からの投入物である化学肥料や農薬など、またプラスチック施設、種苗の施設など、農業の工業化への大転換がありました。

農協ではできない農業改革

 そうなると私が農業に就こうとするころには我が家の耕作規模では小さ過ぎて経営が成り立たず、立派な農家になる夢は叶わぬものとなったのです。しかし別の道に進むと考えても、一定規模の水田と農業設備の維持を考えると、70年代の跡取り息子の選択は「兼業農家」ということになりました。地元の農業協同組合に17年ほど勤務し、共済課長、電算課長、企画管理室長、管理課長などといろいろな業務に携わってきました。

 それぞれの部署で新たな事業や改革に取り組むことが面白くて長くいたのですが、80年代の終盤になると、「農業がこのままではいけない」という思いが一層強くなり、「農協ではできない農業改革をしたい」と大学や農業研究機関の研究者らと、1989年に「農業情報学会」(設立当初は農業情報利用研究会)を設立して農協内に事務局を設置しました。

 閉塞状態の地域農業の突破口を開きたいと考えたのです。農協事業としてパソコン通信ホスト局「夢来ネット」を開設して都市と農村の交流促進を図りました。果樹園の微気象観測システムや農産物販売の産直システムも開発し、それらの実践成果を記述した『村のネットワークが農業を変える(日経出版)』という著書も出しました。その後、コンピューターと通信システムを活用した地域農業振興に専念しようと思い、株式会社AGIC(アグローインフォメーションコンサルティング)社を創設して「農業情報コンサルタント」という職業を自ら開始し、同時に学術活動の一環としてフォーラムや関連図書の出版などを行ってきました。農業情報学会は、現在、創設35年を迎えて研究者会員も増え、農業とコンピューターの学会として活躍しています。

欧州の農業規範と日本の生産現場

 AGICでは、データベースやネットワークを駆使した農産物流通や食品安全に関するシステム開発で、海外の学会やビジネスシーンにも関わることがありました。そんな中、欧州に日本の農産物を輸出するための販売促進のコンサルティング過程で、英国のバイヤーから「あなたの流通ネット(ヴァーチャル)は素晴らしいが、生産現場のコントロール(リアル)はどうなっているか」と問われることがありました。英国最大のフルーツ卸売会社EWT(エンパイヤー・ワールド・トレード)社からの問に、私は、「日本の生産者は優秀だし行動規範はレベルが高い」と応えたのですが、実際にEU各国の農産物生産流通の現場を視察した結果、欧州のそれと比較すると日本の現場は足元にも及ばない状態だということを知らされました。

 欧州の農業者は明文化された行動規範(コード)に従うことで農業所得補償を受取り、また、行動規範を遵守する農業者が農産物取引上の信頼を受けていたのです。日本にはそのような「適正農業規範(GAP規範)」はなく、従って規範教育がありませんでした。英国の適正農業規範によれば、「GAPとは、天然資源を保護し経済的に農業が継続できるようにしながら、汚染を引き起こすリスクを最小源に抑える実践である」という理念に基づいた農業実践のことです。 欧州では、産業革命にともなう苛烈な環境破壊の反省から強い責任意識を持つようになり、さらに第二次農業革命後の土壌や水質の汚染が人間や生態系の健全性を阻害することへの関心が高まり、環境保全型農業がEU共通農業政策の柱になるとともに、加盟各国でGAP規範が整備されたのです。

 しかし、そのような認識がない日本においては、欧州に習ったGAPであるにも関わらず、農業政策やマスメディアによって、「GAPとは農産物販売のための食品安全管理手法(GAP認証)である」と紹介されてきました。そのためか、工業化された農業が地球環境に多くの悪影響を与えているという認識が希薄であり、同時に、それらの課題解決のための行為がGAPであるという理解が進まない理由の一つであると思います。

 それだけではなく、GAPの目的の一つである食品安全管理の面においても、日本は欧州と格段の差がついています。組合員を統括すべき農協としての管理・統制(GAPコントロール)もありません。さらに、サプライヤーとしての農協選果場は「HACCP」どころか、「一般的衛生管理」の概念すらなかったのが現実でした。

持続可能な食料システムという国際戦略

 欧州のチェーンストアは、自社ブランドの商品価値を高めるために90年代から農産物第一次サプライヤー(出荷者)に生産段階の農場監査を義務付けて来ました。後に「GAP認証がなければ取引をしない(2005年より)」というEUの業界標準となり、今でいうところのグローバルサウスからは「GAP認証が不公正な取引に繋がる」と訴えられた例もあります。しかし、今では農場保証制度の監査基準(GAP認証)は、生産国の環境保護や農業労働者の人権保護に資するという評価がグローバルな支持を得ることとなりました。 また、GAP認証制度のスキーム運営側も、時代の価値観を反映する地球環境や持続可能性に重点を置いた形での基準改定(2020年,GLOBALG.A.P.など)を行うことで更なる普及を続けています。

 さらに、OECDとFAOは、農業の業界は、労働慣行、生産性、環境、サプライチェーンの透明性等の面で課題が多いと捉え、農業部門に関与する企業行動のための「責任ある農業サプライチェーンのためのガイダンス(2016年)」を策定しました。人権及び労働者の権利や食品安全の基準を含めた環境保護と天然資源の持続可能な利用、及びアニマルウェルフェアなどの「企業の社会的責任」の方針を経営に取り込むことで、サプライチェーン全体で価値を創造していくということが推奨されるようになりました。

 農協ではできない農業改革をしたいという思いから、退職して取り組んできた農業情報化ですが、たとえ通信技術を駆使して高度な手法が得られたとしても、その情報で結ぶべき生産段階から流通・加工・消費段階までのサプライチェーンで価値を創造するという各当事者の認識がなければ日本の農業は食産業として生き残れないかもしれません。

GAPの理念が行動を変える

 20年前も現在も、日本のGAPが欧州の足元にも及ばないことの大きな原因は、日本ではGAPの実施事項や手法及び手続きばかりが重要視され、GAPの理念が共有されていないからだと思います。

 農林水産省によれば、「GAPは良い農業の取組みという意味で、農業生産の各工程の実施、記録、点検、評価を行うことによる持続的な改善活動であり、食品の安全性向上、環境保全、労働安全の確保などに資するとともに、農業経営の改善や効率化につながる取組で、農業生産工程管理と呼ばれている」とのことです。

 実施することや手順などはその通りですが、「なぜ」それらの行動が必要なのかということの本質である「GAPの理念」についての説明が不足しています。GAPの理念は、期待する農業の存在意義や使命を表す普遍的な価値観のことです。日本の農業者が農業生産工程管理の手法を選び、GAPのプロジェクトや個々のタスクを成し遂げることはとても上手にできます。しかし、理念が明確にされていなければ、認証を取得した後にどうするかの判断が難しくなります。

 組織でも個人でも、仕事の理念が共有され、その価値観と行動が一致していれば、個人の満足感や仕事の意義が感じ易くなります。したがって、良い農業の取組みとしての手法や手順を示すだけではなく、それらの行動を支える理念を理解し、それに基づいて行動することがGAP達成のためには不可欠です。「何をするか、どのようにするかだけでなく、なぜそれをするのかを理解することが重要だ」ということです。「なぜ」が明らかであれば、「どのよう」すればよいか、そして「なに」をすべきかなど、GAP本来の目的達成の道筋を描くことができます。

世界のGAPは環境負荷低減型から環境再生型の農業へ

 人類が地球で安全に暮らしていける限界水準を課題ごとに調べると、既に多くの分野で不可逆的な域を超えている(プラネタリー・バウンダリー)と言われています。とりわけ窒素とリンの化学的循環は人類にとって危機的状態になっているのです。その意味でも工業化を背景にした近代農業は、地球環境にダイナミックに関係する産業として持続可能な社会の発展にとって極めて重要な産業として位置づけられます。

 世界のGAPは、進展する農業の工業化が地球環境に与える悪影響を減らすために、第二次農業革命以降の農業慣行の「Bad」を「Good」にする「GAP概念」として誕生し、「自然環境の汚染を最小源に抑える実践」によって持続可能性に貢献することを目指してきました。しかし、農業における環境負荷を削減するといういわゆる善と悪の二元論的「環境負荷低減型農業」では、その目的が達成できないことが明らかになってきました。

 そのような状況で、肥料、農薬、石油などの外部からの投入資材を可能な限り減らすとともに、自然生態系の機能を活用して土壌を修復し、自然環境を回復することを目指す「リジェネラティブ農業」(環境再生型農業)が注目されています。この農業形態は、単に環境負荷を減らすだけではなく、生態学的なアプローチによって積極的に環境を再生することで持続可能な社会に貢献しようという活動です。

環境再生型農業の実現を目指して

 日本生産者GAP協会では、米国のメリーランド大学と翻訳契約を結んで、全米で広く読まれている生態学的土壌管理の本 『Building Soils for Better Crops』 (和名:実践ガイド 生態学的土づくり)を翻訳出版(2023年11月)しました。『実践ガイド 生態学的土づくり』は、米国農務省が、未来に向けた持続可能な農業の構築をめざして、農家と農業改良普及員及び研究者に向けた持続可能な農業の手引書です。

  本書は、世界の環境再生型農業をリードし、多くの実績を挙げている米国の農業実践ガイドですが、水田の土壌管理については実践も研究成果も掲載されていませんので、当協会が編集して、『実践ガイド 生態学的土づくり(水田編)』(仮称)を出版することになりました。日本では、農業耕作面積の半分以上が水田ですから、環境再生型農業の実践のためには「水田編」はなくてはならないガイドブックです。

 それに、わが国の食料自給率はカロリーベースで38%、飼料自給率は28%(いずれも2022年)と、世界でも稀にみる「食料自給できない国」になっています。その中で、コメの自給率は約95%と言われていますから、日本農業の持続性のために「生態学的水田土壌管理論」が必要なのです。

 目を世界に転じれば、地球人口は21世紀の今でも留まることなく増加し続け、飢餓人口も増加の一方です。世界の人口増加と食料増産の流れが自然環境の破壊につながるということからの持続可能な社会作りへの変容なのですから、生産性の高い農法と環境再生型農業を両立させなければなりません。持続可能な農業への移行は、選択肢ではなく絶対に必要なことです。

 環境再生型農業は、土壌を修復・改善して健康にし、生物多様性を向上させ、生態系が炭素を吸収する能力を高めることに重点を置いています。その上で農業生産におけるコスト圧縮を図ることができれば、例えば、日本からの農産物輸出を可能にするでしょうし、それらの技術移転によるグローバルサウスでのコメ生産などで、日本農業が世界に貢献する適正農業規範になる可能性もあります。

2024/7


《特集 実践ガイド 生態学的土づくり》
『世界のGAPは環境負荷低減型農業から環境再生型農業へ』
連載(1) GAPの理念と期待される農業の在り方について考える

北海道地域農業研究所 研究報告講演(1)
令和五年度農業総合研修会(2024年2月28日)JA北農ビル

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

1 GAPとは何か

 今日はGAP(Good Agricultural Practice)の基本のところから話をしていきたいと思います。テーマは「環境保全型農業から環境再生型農業へ」です。まずGAPの知識について、私なりの話をします。ここに齟齬があるようです。質問する側と答える側の概念が違っていると何を言っても通じないということ。未だにそうだと思っております。20年前もそうでした。

 例えば、イギリスの農家では、「GAP」と言えば洋服のブランドを指すことになり、「日本でのGAPは認証です」というと、「それはファームアシュアランス、農場信頼のための監査だ」ということを言われました。まず、GAPの知識について、資料1、2、3、4で皆さんと概念を共有したいと思います。同時にもう一つ大きなものが、世の中が変わったということですね。大きく変わって、GAPを実践するということがどういうことなのか?これについて資料5、6、7で確認して、そして、これからの対応をどうするのか、GAP戦略ということで話をさせていただきたいと思います。

GAPの意味(言葉の定義)

 GAPとは何かということですが、結論的には「持続可能な農業のためにすべき良いこと」です。グッド・アグリカルチュラル・プラクティスが真ん中の枠に書いてあり、よい農業の実践と日本では言われていますが、よい農業の実践とは言ってもその内容がわかる人は誰もいないはずです。実はヨーロッパに行くとグッドプラクティス・フォー・サステナブル・アグリカルチャーと表現されます。ところが、我が国ではGAP=フォー・フードセーフティー(食品安全のため)と言ってはばからない。ここに決定的な違いがあります。

 定義として、GAPは環境保全、食料安全、労働者の健全な管理、究極の人間の幸福に努める農業・農場管理ということです。責任を持ってやること、農家はもちろん組織であればガバナンスを効かせて、農家や会社の社会的責任を全うするというところまで、それができた時に環境に優しい農業の実践と言えるのではないかと思います。

GAPの意味(GAPの由来)

 GAPの意味、本質を考えてみたいと思います。様々な資材を投入して生産性を上げていくという近代農業は大成功でした。農業の革命、素晴らしいグリーンレボリューションになっていて、国を挙げてやってきたところもあるわけですが、生産性が圧倒的に増えたということです。ところが、そのことで化学肥料とか化学農薬の投入が過剰になって、土壌や水質が汚染されてきました。これは、1980年代からもう如実にわかってきて、日本でも80年代には環境保全型農業という言葉が生まれたぐらいです。また、農業では温室効果ガス(GHG)を大量に排出しています。二酸化炭素(CO2)と一酸化二窒素(N2O)は肥料を作る過程で相当に排出されているのですが、 肥料の使用においても、CO2とN2Oが、それに牛や羊などの家畜からメタン(CH4)、水田からもメタンが発生し環境中に排出されています。その結果、生産性は上がったけれども予期しなかったマイナス経済効果が多い。そういう農法はバッド・プラクティス(不適切な行為)じゃないかということになりました。バッド・アグリカルチュラル・プラクティス(BAP)という概念が生まれたのです。そこでのバッド(悪い)はどういうことなのか突き詰めていくと、地球環境に負荷をかけている、言い換えると、地球環境の汚染ということです。それはよろしくない、だから負荷をかける農業という局面を明確に認識して、その負荷を減らしましょう。負荷低減型農業にしましょうということになり、その具体的な行為が「適正農業(GAP)」です。つまり、「BAPを認識することで初めてGAPという概念が生まれた」ので、それ以前にGAPは存在しなかったのです。

 ちなみに、イギリスの農家の人たちと話した時に、GAPで通じないと言いましたけれども、彼らはグッド・アグリカルチュアル・プラクティスと言いますから、GAPとは言わないだけの話しです。しかも日本で言われているのはGAP認証のことで、彼らにとっては別次元のことなのです。

 BAP概念ができた時にその反対語としての適正農業の実践(プラクティス)とは何か?と言えば、それは環境への負荷を減らす環境保全型農業であるということなのです。特にヨーロッパは農業由来の水質汚染、土壌汚染が意識され、これを徹底して改善していこうということで、窒素に関わる脆弱地域を決めて、そこは徹底して窒素投入の抑制をしました。オーストリアでは国土全部を硝酸脆弱地域に指定したようですし、イギリスでも8割ぐらいの指定だそうです。アメリカでは化学肥料や農薬および石油エネルギーの大量投入に制限をかける「低投入型農業」を推奨して農法の行動変容、「BAPをGAPにする」政策を展開しました。

GAPの意味(これからのGAP)

 今日の話の結論になるのですが、そのGAP政策を1980年代、90年代とやってきた。2000年代もそれなりに努力し、イギリスであるいはEUでは法律等で規制したけれども、果たしてその効果はどうなのかという政策議論や科学的評価がなされています。その視点での科学的な研究の結果、「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」が公表され、「地球で安全に暮らしていける限界」の水準について課題ごとに調べ、既に多くの分野で不可逆点を超えているということになった。それで、世の中を挙げて、これらの課題解決の啓蒙活動をやろうということになり、その一つが、国連で2015年にSDGs(持続可能な開発目標)というキャンペーンになったと考えられます。

 このことにより、今までGAPと思ってやってきた農法が、本当の意味(最近の科学)ではBAPではないかということになりました。では、その段階でGAPを定義づけるとしたらどうなるのか?今まで環境保全と言ってきたのに、実質は保全できなかった。なるほど、環境保全ではなくて、環境負荷低減しかやっていなかった。それも徹底しておらず、環境保全の目的達成には至らなかった、ということで農業そのものの転換(パラダイムシフト)として、「農業活動自体で環境を再生していく」と考えないと、正しいGAP概念が生まれない。これが「リジェネラティブ農業」と言われる「環境再生型農業」の考え方になるわけで、「自然の力を最大限に活用して、土壌や作物の生命力を引き出す、本来の農業」というような言われ方をしたわけです。

 そして、このような流れの中から「みどりの食料システム戦略」ができたと言えます。当然ながら今後も世界人口は増えていくから生産性向上は必要です、しかし、これまでの「生産性向上と同時に環境破壊が起こる」ではなく、「生産性を上げる農業で環境が良くなる」というリジェネラティブだから、生物多様性の助長、気候変動にも対応できるという夢のような農業、環境再生型農業というものを描いたわけです。

 こういうことが現実的にどうなのかということですが、GAPの意味についてさらに掘り下げてみなければなりません。地球の物理学や生態学で解説されても、今日・明日の私たちの農家の課題とはなかなか一致しない。しかし、それでも、科学的、理論的には、毎日の行為、毎日の農作業がそこにつながっているということです。となれば自分の問題としての適正農業(GAP)を考えたとき、環境再生型農業をその基本に置くことが必要になるのではないかと考えることは可能です。

GAPの意味(適正農業規範)

 ヨーロッパで一致したGAPの考え方についてですが、特にこの右側にある本は、コード・オブ・グッドアグリカルチュラル・プラクティス(GAP規範)です。日本語に訳すと適正農業規範ということになるわけですね。汚染のリスクを最小限にして効果的な措置を取っていくための法的説明、あるいは農学的、あるいはそれらの技術を具体的に説明した規範です。

 規範によるGAP概念は三つ、GAPというのは、汚染を引き起こすリスクを最小限に抑える行為であるということこれが大前提です。二番目に、そのこと(農業由来の環境汚染)に関して農場関係者が自らの責任を認識し、汚染の原因とその結果について理解していなければならない。この点で日本は大きく外れていますね。日本の農水省の説明でGAPは、実施結果を記録し、点検及び評価を行うことによって継続的に行う改善活動であり、これを「農業生産工程管理手法」であるといっている。しかしGAPは手法ではなく思想、ここから始まらなければならない。つまりここでGAP規範がいっているのは、汚染の因果関係、地球環境汚染の因果関係をあなたの農業行為と関連させて理解しなければならないということです。この規範の冒頭に書いてある内容を理解しない限りヨーロッパで言われている自主的なGAPなどできるわけがありません。本当に「これはいかん」という思いがなければ、次の第一歩を踏み出せないと思うのです。何よりも「気づき」が大切です。

 またここでは農業関係者と言っていますから、本日お集りの皆さんもGAP(実際は認証)で有利販売をなどということだけではなく、農業の行動や行為、動作によって何が起こり、結果としてどうなるか、という汚染の原因と結果というものを理解しなければならないと定義しています。さらに生産者および労働者は、そのための適切なやり方を身につけておかなければならない。頭で考えてやるようなことばかりではなくて、農業の日常の中で習慣になってなければいけないということで、これらのすべてがGAPの概念というふうに私は思っております。

2 なぜGAPが必要か

発生するとあまりにも影響が大きい食品事故

 GAPの必要性について、先ほどのプラネタリー・バウンダリー論で、学者の集まりの中でいろいろ計測してみたら、「地球が壊れていて農業も大きな原因なので大変なのだ」という話だけでは農家を説得できません。ところが、食品事故や、残留農薬に関わる事故は多発しています。

 アメリカではサルモネラ菌に汚染された生食用トマトを食べて40の州で943人が感染し、130人が入院したと発表され、日本の外務省が渡航者に注意を促す事件がありました。メロンを食べて33人が死亡したという報告もあります。FDA(米国食品医薬品局)やCDC(米国疾病予防管理センター)の調査報告によれば、選果場が不衛生だったとのことで、一つの農場から持ち込まれたリステリア菌が原因だったという結論を出しています。

 静岡県の残留農薬基準値オーバーの事件は、農家が農薬噴霧器のタンクをよく洗わなかった、徹底清掃していなかったことが原因であると言われています。これらはいずれの場合も、農場の管理(規範に基づくコントロール)がいかに大事かということ、食品マネジメントができてないということで、これも農業のバットプラクティスだということです。

米欧の食品安全政策は輸入規制

 そのために、EUも米国も日本も、法律で規制をするということになってきまして、EUは2004年に、食品衛生関連四法を制定しました。そして、2006年に開始をしています。これはHACCPに基づく食品衛生管理を義務付けしたということです。さらにEU加盟国に入ってくるすべての食品も同じように対応させることを決めたわけです。これがEUの事業者だけの規制だとEUが不利になるからと反対運動が起こるでしょう。競争が価格だけだと、輸出国の事業者が有利になるからです。

 米国では「食品安全近代化法」が制定されました。2001年の9.11同時多発テロ事件を機に、意図的な異物混入から食品を守るには、事故を未然に防ぐ予防対策に重点を置いた法律で「バイオテロ対策法」と車の両輪の関係だと言われています。2011年に制定、2016年に開始したこの法律による農産物安全基準は、国内だけではなく、米国に輸出しようとする外国の施設もFDAが徹底して検査します。日本からアメリカに輸出しようとすれば、畑や選果場を見に来ます。これらは、日本にしてみれば、事実上、ヨーロッパも輸入品の規制、アメリカも輸入品の規制ということです。

日本の食品安全政策は輸出で規制

 EUから遅れること約15年、日本が食品のHACCP義務化ということで、2018年に制定して2021年に施行されました。スタートの段階で「HACCP義務化」じゃなくて、「HACCP制度化」と呼ぶようになりました。義務化ではなくなったのです。農家は「採取業」だから、この法律の対象外だということなのです。その段階ですでにEUや米国から遅れをとっているのですが、とりあえず食品衛生法の改正が行われて、国内の全ての事業者への食品衛生管理を推進しています。その中で、輸出するものは諸外国でHACCP等の認証を要求しているので取得をするように勧めています。国内では取得はしなくてもHACCPの手順又はHACCPの考え方に基づいた食品安全マネジメントをやらねばならなくなりました。しかし、生産者はやらなくていいですよという緩いものであるため世界では通用しない。そこで、日本の農産物が世界に出て行く時、輸出物はHACCP等の認証をとることになるという説明です。GAP認証もそうですが、食品安全認証においても、この段階で途上国の思想になったのではないかと感じております。このようなことではあっても、食品安全規制の強化はGAPに関しては待ったなしということになりました。

農業労働とGAP

 GAPの要素に人権問題が加えられていますが、今や農業就業人口の減少で、それを補っているのが資料右上の外国人労働者です。私の住んでいる地域ではキャベツやレタス、白菜の大産地で、その一帯の農場で働いているのはほぼ100%外国人です。ベトナムや中国の人たちが多く、その人たちがいなくなったら茨城産の農産物は存在しなくなりますね。その下の図を見ると、技能実習生を受け入れている企業の違反事例ですが、年間で7285件もの事件が起こっている。賃金を払わないとか、パスポートを取り上げちゃうとか、ひどい住居に住まわせているとか、労働時間を守らないとかね、本当にひどい。左下の図はよく言われた、日本で独特で、GAPの要件と言われているが、労働安全対策の問題です。他産業と比較してみると、これは高齢者の労働安全問題として十分な対策が必要なことを物語っています。他産業と比べて就業中の死亡率が11倍と圧倒的に多いということだけれども、65歳未満でいえば建築業と同じという統計ですから、高齢者による大型機械使用のリスクと考えるべきです。

食品安全対策と農業環境規範

 GAPに関係する日本の歴史を振り返って見たいと思うのですが、農産物の買い手側が生産者に要求する「仕入れ基準」としての諸条件を「GAP基準」と称したことがあります。2002年に大手量販店が自社版GAP基準を作成しました。生協は2005年に日生協として独自GAP基準を発表しました。私の会社AGICでは2004年に「JGAP」という日本の認証制度を作りまして、2005年に運用開始、2007年には「EUREPGAP(現在のGLOBALG.A.P.)」との同等性をとって、さあ、日本も世界に伍して行こうということになりました。それが日本GAP協会の誕生です。

 今、私は日本生産者GAP協会で活動しています。時間がないので、その経緯はお話をしませんが、民間でそのような流れがある中で、農林水産省は、同じ2005年に食品安全のためのGAPというのを策定しました。食品安全に限定したGAPフォー・フードセーフティーなんです。消費安全局がやっている政策ですからそれはそうなんですね。農業生産の立場に立つのではなく、食べる側の立場に立って「変なものを食わせてはいかんぞ」というようなことでしょうかね。しかもその内容は、地域ごとに認証を作れとか、作物ごとのトマトGAP、キウリGAP、ナスGAPとかの商品認証を作らせるようなことが真面目に行われました。しかしその後、農業政策としてそれはないだろうということで、2007年、第一次安倍内閣の時代に(生産側の視点による)GAPは「農業生産工程管理手法」という名称になり、その内容は、「点検項目に沿って農業生産工程の正確な実施、記録点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動である」という公的な定義付けがなされたのです。しかし、この名称からは、農業の思想や理念とか生産者の想いなどは関係なく、これがやるべきことだから、農業生産者は決められたことができているか、できてないかをチェックして、農作業のPDCAを回せ、という制約の意味にしか感じられません。

 以来、日本ではマスコミ報道の手伝いもあって「農業生産工程管理」が定着していますが、世界のどこでも「Agricultural production process management」のような意味づけをしている例は見たことがありません。それってどうなの?という議論がありますが、現在でもその名称は変わりません。2021年にオリンピック(2020東京大会)が終わると「国際水準GAPガイドライン」が発表され、この段階ではGAPの目標に農業環境対策が大きく占めるようになりました。すでに2015年に役所のGAP担当部署は技術課や普及課ではなくて、農業環境対策課というところになっていましたから、「みどり戦略」と一緒にGAPも取り扱っているということで、SDGsを意識した「人権保護を加えて、食品安全、労働安全、環境保全及び経営管理の5分野の工程管理を決められた項目に沿って点検し継続的な改善に努める」というのが日本政府の農業生産工程管理=GAPです。

 それでは、環境問題についてどうなのかと調べてみますと、2015年に「環境と調和の取れた農業生産活動規範」が作られまして、補助金の要件になりました。7項目の自己チェック項目があって、有機物による土づくりをしているか?肥料成分は過剰になっていないか?廃棄物は法令に従っているか?等の自己チェックで補助金受取の対象になったという非常に甘いものでした。

 だけれども、この制度の根拠となるものは資料右下図の農業由来の環境汚染です。大気汚染、土壌汚染、水質汚染、生活環境の汚染、あるいは生態系の攪乱、こういうことが農業の外部不経済になっています。だから農業で環境負荷低減の対策が必要だと言っている。EUなどでは、ここの部分(BAP)に対する対策こそがGAPであると定義しています。しかし、日本の農業環境政策ではGAPの推奨とは言ってきませんでした。

窒素 リンやGHGに対する欧米の対策と日本の実態

 その時期のヨーロッパの適正農業規範を見ると、その冒頭で「圃場は拡散汚染源(面汚染源)である」と断言しています。環境問題では点汚染源や面汚染源などが問題になります。舎飼いの畜産で糞尿は点汚染源、窒素などを全面散布する圃場は拡散汚染源です。その結果イングランドでは70%の排水が硝酸汚染され、河川に含まれる硝酸汚染の60%は農業が原因。イギリスでアンモニア放出の85%が農業由来であるとしています。

 同じようにアメリカ農務省の報告書では、硝酸塩の54%、亜酸化窒素の73%、アンモニアの84%は農業に起因しているとしています。そういった水や土壌や大気汚染の多くが農業由来であるために、日常の農法を低投入型農業(環境負荷低減型)に移行しようというGAP政策です。アメリカではEQIP(エンバイロンメント・クオリティー・インセンティブ・プログラム)という政策で、EUではクロスコンプライアンス制度による査察を行い、適切な管理を行う個々の農業者に環境支払いを行ってきました。

 ヨーロッパでは、公共財である地下水が国境越えて共有されていますから、窒素による水質汚染は極めて重要なことになる。そのためにEUとして「硝酸塩指令(EU閣僚理事会指令91/676/EEC)」は適正農業(GAP)の重要課題になっているのです。加盟各国は、硝酸塩脆弱地帯を指定し、家畜糞尿や化学肥料の使用について、また、具体的な時期や量や農法に関してまで厳しい規制と査察を行っています。

 それって欧米の話だろうと片づけられるものではなくて、日本の「農業が原因の硝酸塩汚染」の調査結果を見ても、例えば、左の上の図で環境省が発表していますが、地下水の飲めない水、畑は圧倒的に多い。それから樹園地が二番目に多い、水田は少ない。この傾向は科学的に正しいですね。湛水されているところでは、アンモニアが土壌粒子に吸着しているから、流出することはあっても、溶脱は起こらず、地下浸透はしない。ところが畑地あるいは樹園地では、散布した窒素肥料が土壌中で硝酸態窒素になって溶脱して地下水を汚染する。右上のグラフは畜産農家が増えると河川の全窒素が増加することを示しています。円グラフは茨城の湖霞ヶ浦ですけれども、全窒素の62%は農業由来であることを示しています。総務省が「農業からの負荷を削減する取組が必要である」といって警鐘を鳴らしていますが、GAPを推進する部署で、これらがGAPの根本的な課題(BAP)だという説明はあまりありません。

2024/7


《特集 実践ガイド 生態学的土づくり》
米国におけるカバークロップ利用の農家意向に関する調査結果

山田正美 日本生産者GAP協会 専務理事

 今回の記事は、カバークロップ利用に対する米国農家の考え方についてです。こうした調査は、2012年から行われており、前回2019-2020年の調査結果の概要は『実践ガイド 生態学的土づくり』の140頁に要約が記載されています。今回の調査である2022-2023年の報告書がSAREのホームページにpdfで掲載されていましたので、カバークロップ利用に関する米国農家の現状や考え方のポイントとなる点について紹介します。日本ではカバークロップの利用がそれほど普及していませんが、5年から10年先にはこのような状況になり、何かの役に立つのではないかとの期待を持っています。

 原文は、"NATIONAL COVER CROP SURVEY REPORT 2022-2023" というタイトルのpdfで提供されています。

カバークロップを利用している農家の最も重要な結論

 今回の全米調査で新たに分かったことは、カバークロップ推進政策の奨励金制度が、カバークロップの作付け推進を後押しする一方、奨励金を受け取っている農家の10軒に9軒は奨励金終了後もカバークロップの作付けを続ける意向示したことであり、政府の想定を上回る数値であったとのことです。奨励金プログラムが終了した時点でカバークロップの作付けを中止するもしくはおそらく中止すると回答した農家はわずか3.3%でした。一度カバークロップを取り入れると、補助金がなくてもその効果に納得し、高い継続率になると結論付けているようです。

 SAREのロブ・マイヤーズ博士(2022-2023年全国カバークロップ調査報告書の主任研究者)は、「農家がカバークロップを続けているのは奨励金が支払われているからだと誤解している人もいますが、今年の全国カバークロップ調査では、まったく異なる見方が示されました。この調査で明らかになったことは、カバークロップ奨励金は農家がカバークロップ栽培に移行することを奨励し、手助けする重要な要因ではありますが、いったん土壌健全性の改善やその他のカバークロップの利点がわかると、ほとんどの農家は奨励金終了後もずっとカバークロップ栽培を続けるということである」と指摘しています。

カバークロップを利用していない農家の懸念事項

 こからは、現在カバークロップを利用していない農家についての考察となります。カバークロップを利用していない農家に、カバークロップに関する "否定的な記述" のリストに回答してもらい、それぞれの問題について自分の農場でどの程度懸念しているかを示してもらったところ、興味深い傾向が浮かび上がってきています。

 上図は、カバークロップを利用していない農家にとって、「大きな懸念」と答えた割合が高い順にグラフに示してあります。最も高かった項目は、経済的な問題で、「明確な経済的見返りがない」「次の換金作物の収量減少」に対する懸念でした。次いで、「生産リスクの増大」、その次が「必要な時間または労力」であり、以上の3つの項目を大きな懸念と考えている農家が50%を超えていました。過去の調査では、非利用者の間では一般的に「時間/労力」が懸念事項のトップでしたが、今回は経済的問題が上位に来たことは興味深い結果となったと述べています。

 次の懸念事項は、具体的な管理問題を中心としたもので、カバークロップが土中の水分を使いすぎるのではないかという点です。この項目は、半乾燥地帯を多く抱える米国内の農地に特徴的な懸念といえるので、日本ではあまり問題になることはないのではないでしょうか。

 最後の懸念は、カバークロップが翌シーズンに特定の問題を引き起こすのではないかということでした。非利用者の39%が、カバークロップが翌年の春に雑草になることを強く懸念しており、害虫の増加については35%、病害の増加については31%が大きな懸念としています。

 自由回答で最も多かったのは、コストに関するもので、特に種子のコストや、カバークロップの播種や管理に必要な機器のコストでした。

 こうした、現段階でカバークロップを利用していない農家の懸念事項は、今後の研究や提供する情報内容の指針となることが考えられます。非利用者の懸念を理解し、農場でその懸念に対処するための教育やツールを提供することで、カバークロップを試したいと表明している農家の大多数が、カバークロップで成功できると納得させることができるだろうとしています。

カバークロップを利用していない農家の信念と動機

 カバークロップ非利用者の信念と動機を調べるもうひとつの方法は、一連の考え方を提示し、それらに対してどう思うかを知ることでした。

  最も同意が得られた意見は「資材投入量の削減は、カバークロップへの関心を高める可能性がある」という考え方で、次いで2位、3位がほぼ同じで、「自分の農場でのカバークロップの利点について学びたい」「利点の理解が深まればカバークロップの利用が促進される」であった。これらの項目では、情報に対する飢餓感が確認され、カバークロップが自分の農場にどのような利益をもたらすかについて、もっと知りたいという思いが強く、明らかに、多くの非利用者が熱心に情報を求めていることがわかります。

  カバークロップが自分の農場にどのような利益をもたらすかをもっとよく理解していれば、カバークロップを利用してみようとする農家はさらに多くなると思われます。

カバークロップを利用していない農家の今後の意向

 カバークロップを利用していない農家に今後の意向を訊いたところ、大多数は、カバークロップの利用を検討する意向を示していました。「今後カバークロップの使用を検討しますか」という質問に対して155人の回答者のうち、55人(35%)が「必ずする」と答え、23人(15%)が「多分する」、46人(30%)が「するかもしれない」と答え、合計80%が肯定的な回答でした。「多分しない」と答えたのは23人(15%)、「絶対にない」は8人(5%)に過ぎませんでした。これらの回答は、今後のカバークロップ導入の伸びしろが大きいことを示していることになります。

まとめ

 前回から4年目に行われた全米のカバークロップ調査は、コロナ禍、干ばつ、経済不安によってもたらされた数年の不確実性を経て、楽観的なストーリーを物語っているのかも知りません。カバークロップの利用者はこの栽培方法に価値を感じており、様々な作物と様々な方法で運用していています。このような農家はとても情報収集に熱心で、自分の農場での実践に自信を持っています。

 一方、カバークロップを利用していない農家は、決してカバークロップに反対しているわけではなく、カバークロップが自分たちの耕作条件の中で機能するという確信を得るための情報を求めている姿が浮き彫りになってきています。

  日本のカバークロップの普及はそれほど多くありませんが、総じてカバークロップの利用に前向きであり、5年先、10年先の姿を見ているようで、とても興味深いレポートに触れさせてもらえました。

2024/7

『生態学的土壌管理としてのカバークロップの利用』
カバークロップとは何か? カバークロップの効果題

2023年度GAPシンポジウム
『実践ガイド 生態学的土づくり』から学ぶもの

小松﨑将一 茨城大学農学部附属国際フィールド農学センター長教授

『BUILDING SOILS FOR BETTER CROPS』との出会い

 『実践ガイド 生態学的土作り』ですが、この原本である『BUILDING SOILS FOR BETTER CROPS』という本に私が出会ったのは1999年にノースカロライナなどで勉強させていただいているときです。このSARE(Sustainable Agricultural Research & Education)というUSDA(米国農務省)が関連している組織が、持続的な農業を、アメリカで実現しようという取り組みの中で、そのための基本的なテキストとして配布されているものを私も読んだというところです。

 私は農学部にいるのですが、日本では土壌学の教科書というのは、土壌の成り立ちとか、あるいは土壌の養分を測って、不足していたらこれを入れて改善しなさいというような話が非常に多く載っているのですけども、SAREのこの本では、農業が管理するやり方によって、土がどんなふうに変化するのか、そして、その変化が長期的な形で農業の生産性にどう影響を及ぼすかというような事例を非常に細かく書いてあるのです。しかも、先ほど金子先生の講演にあった土を耕すか耕さないか、あるいはカバークロップを入れるか入れないかというような農業管理のやり方というのは、今までの日本の土壌管理の教科書だとあまり触れられていなかったのです。そういった中で、土の中の生き物を通じてダイナミックに土壌の生産性や健全性を変えていくということを、豊富な図表と実例をもとにしているこの本を見て大変感銘を受けました。日本に帰ってきてから、大学院等でもその原文を使って授業を続けてきたものです。この度、日本語版が出たというところで、こういったことに興味を持つ学部の学生とか、多くの方に読んでいただければと思います。この本を読ませていただいて、私が一番感銘を受けたのは、カバークロップの利用というところです。本の中では137ページからの10章のところです。今日はそのお話をさせていただきたいと思います。

 講演内容ですけれども、「GAPと環境・土壌」ということで田上理事長からお話がありましたが、私なりに振り返ってみたいと思います。カバークロップですが2000年の頃は言葉が全然普及していなくて、「それは緑肥でしょ!」というふうに言われたのですが、「いやいや、それはカバークロップと言った方がいいんですよ」というような話を何度かさせていただいてきまして、最近では農業高校の教科書にも出てくるような形になってきているのです。

篤農家のカバークロップ

 この写真は、茨城県牛久市の水田でカバークロップとしてイタリアライグラスを栽培している圃場です。帰農志塾の高松求さんという篤農家の方がやっておられるのですが、この方はカバークロックという言葉は別にして、冬の間、「土壌をむき出しにしていたのでは土には良くない」というふうにずっと思っておられて、「作物を収穫したら種をまく」ということをやられていたのです。高松さんは有機農業ではないのですが、そういったことをずっとやっていると、少ない肥料でたくさん収穫できる、ということがわかってきたのです。

  これは、この本の中にも出てくるのですが、土壌中の有機物が高まっていくことによって、少ない施肥量で作物の生産性を確保するというところから、生産性の持続という点では非常に重要なポイントを踏まえたのではないかと思います。そういったところも含めて、カバークロップの利用についてお話をさせていただきたいと思います。

本来のGAPで生態学的土壌管理を

 GAPについては田上理事長からお話いただいた通りですけれども、私も茨城大学の農場でGAP認証を取得しています。そういう中で感じているのは、「現実的なGAP認証においては、土はなんというか汚染物というような印象が強いんじゃないか」というふうに思います。しかし、先ほど金子先生のお話にありましたように、私たちが食べるものの95%は土壌由来だというようなところから、もっともっと土を大切にする、保全する、という農業を進めていかなければいけないと思うのです。GAP認証の中ではで残念ながら、そういった記述が項目としてあるのですが、管理項目として具体的には取り上げられていないというふうに思います。

 ただ田上理事長が書かれた「GAP規範」や「GAP実践」の本を私達も読ませていただいておりますが、やはり、本当は農業の持続性確保という理念が、GAPの根源にあるというようなことですから、ぜひ、こういった生態学的な土作りの概念をGAPの中に取り入れることによって、その農業形態の、長期的な持続性ということを考慮するという、そういった日本の農業に転換できる取り組みが必要じゃないかと思います。

不耕起で土壌炭素量が増加する果樹園

 世界中で今土壌が劣化しているというような話、これは日本も同じような状況でありまして、例えば地力の元となっている土壌中の炭素成分ですけども、農耕地の炭素貯留が注目されていますという話の一方で、農林水産省の報告ですと、ここ20年ぐらい水田と畑ともに減少傾向です。ずっと減少しているのです。ですから日本も土壌劣化が進んでいるという状況になっています。一方で農林水産省のデータで面白いのは、果樹園は、土壌炭素量は増加しているのです。なぜかといえば、果樹園は不耕起だからです。そういった実績もあるわけです。

 しかしこれ(左の写真)は阿見町の白菜の圃場ですが、冬の間何も栽培しないと、このように土壌風食が起きてくるというところです。ちょっと古いデータですが、茨城県の農業試験場が必要な調査をしたのですが、大体ひと冬で10アール当たり1.3tの土が失われるというデータが出てきています。

風食で飛散する土壌による都市の被害と農業の損失

 これ(上の右側の写真)はTVニュースの画像です。「煙霧」と書いてありますけれども、時々北関東の埼玉とか栃木、茨城などで起こっている土埃です。都内をこういうふうに、土壌で覆い尽くすというのは日本でもある現象なのです。このように飛散した土と畑に元々ある土の両方を採取して養分を調べてみました。これは埼玉県深谷市で実施したのです。農業が盛んな深谷市も土壌風食に悩んでいる地域なのです。その飛散した土壌と畑の土壌を比べてみると、飛散した土の方が、窒素やリン酸やカリの成分及び石灰や苦土が多いのです。

 風食では良い土壌が失われやすいのです。これには二つの要因があり、耕すということで冬の間は植生をなくすということと、もう一つは植生が耕すということです。その間は、作付けをしないということが二つ重なっているのではないかと思います。この土壌調査では深谷市から依頼があり、土壌飛散による農家の損失を計算してみました。少し無理がありますが、育苗培土に換算したところ、毎年2万円から4万円失われているという計算結果になったのです。

風食で土壌中の有機物が減少する

 これを防ぐのに行われているのがカバークロップです。この写真は茨城県ひたちなか市のサツマイモの圃場ですが、「サツマイモを収穫した後に何も栽培していないと土埃が非常に多い」と、ひたちなか市では大きな問題になっています。そこで、市では、このカバークロップの種子を無料で農家に配布するという事業を行っているのです。サツマイモ農家の皆さんに麦の栽培をしていただいて畑の表面を被覆します。カバークロップがないと風速8m以上で土が舞い上がり始めるのですが、カバークロップではそういった状況の中でも土をしっかり守ることができます。

 また、土壌中の呼吸の話を少しさせていただきたいと思うのですが、畑は土の気温が上がってくると呼吸量が多くなって、基本的に土壌中の有機物が少なくなってしまうということです。冬の間は気温が低く、作物の呼吸量は少なくなりますので、光合成して自分たちが大きくなってくると、そっちの方が大きいのです。先ほど金子先生に私達と共同研究のご紹介をいただいて、農地で草生にしていると、炭素が吸収側に行きますという話だったのですけれども、冬の間に育つ作物の力もすごく大きいのです。

 土壌呼吸が小さいときに、作物がぐんぐん冬の太陽エネルギーを利用して大きくなっていきます。その植物体を土に返していく、このことで長期的に土壌中の有機物が保たれているといった効果があって、土を守るという効果と、また有機物を保存・保全してくれる効果があります。

カバークロップで窒素の溶脱を防ぐ

 そして私が最初に最も注目したのは、土壌中の溶脱を防ぐというところです。作物に施肥すると、GAPに取組む方はよくご存知だと思うのですが、硝酸態窒素の溶脱が起こります。起き易いのは春先と秋です。どちらも降水量が多くて気温が低いときです。そういう状況でも圃場に植生があれば、春先の窒素の溶脱もしっかり抑えてくれるのです。これらの作物を、今、この本の中では「カバークロップ」という名前で呼んだらいいのではないかということが提案されていました。これはもう20年ぐらい前で、著者のマグドフが1992年でしたか、第1版ではこの辺のところから提案されてきたということです。

カバークロップの多様な効果

 「カバークロップは緑肥と何が違うのか」ということですが、私は「緑肥」という言葉でも悪くはないと思うのですが、「緑肥」の意味は、その作物が農業で活用された場合に肥料を削減するという目的なのです。日本ではレンゲを栽培することで肥料を削減できたという費用削減の効果だけで考えてきましたが、結局それだけですと化学肥料などの方が経済的に安くなってくるので、レンゲをやるよりも、やっぱり化学肥料を入れた方が経済的には良いということで、今は利用が少なくなっています。アメリカではこういった考え方が非常にドライで、肥料削減が狙いなら緑肥ではなく肥料購入するという形になってしまいます。

 それをカバークロップという名前にするということは、実際にはクリーニングクロップのような、圃場に残っている栄養塩をカバークロップが吸収することで地下水を保全するとか、農地が大きいアメリカですから、カバークロップで一定の水質管理をしていこうといった場合には、その一帯にカバークロップを作付けることによって、実は浄化する水道代が安くなってくるとかです。さらに線虫を抑制するとかの効果も考えられています。このように土壌の風食防止や侵食防止などもあり、肥料効果もあり、土壌の土の表面をカバーするということで、農業生産の持続性を高めるというところで、多様な効果があるということで「カバークロップ」と定義されているのです。この辺りもこの本の中に書いてあるかと思います。

  カバークロップについて、農業の耕種概要などには、堆肥や緑肥などの利用としての表現で書かれていることが多いと思うのですが、私自身は、堆肥では得られないような効果が、このカバークロップの中にはあるというふうに思います。

カバークロップへの更なる期待

 私にとって衝撃的だったのは、先ほどの土埃が舞っているような畑でも、実は堆肥をちゃんと入れて土壌管理をしているということなのです。つまり土壌に堆肥を入れたからといって、土埃が起きないということはない訳です。また、堆肥だと残留養分の溶脱を防止することはできませんね。

 私の友人で霞ヶ浦の水質研究をしている方がいるのですが、その方が「有機農業は環境汚染になるのでは?」と言うのです。なぜそんなことを言うのかと思ったら、計測してみると、特殊な有機農業かもしれませんが、よく家畜糞だとかそういう物をたくさん入れているところは、どちらかというと、そこの地下水の硝酸の濃度が高くなっているということなのです。その意味では、そうした圃場でもカバークロップを導入することで、その圃場内で循環できるという効果もあるのではないかと思います。

 緑肥的な効果をカバークロップに期待した場合には、当然、生物的窒素固定による窒素供給だとか、ご存知のようにアレロパシーという作用による雑草防除効果だとか、有害線虫の抑制、これらも非常に大きな効果で、サツマイモ農家ではよく、サツマイモ根瘤線虫とかで悩まされることがありますので、クロタラリア等のカバークロップを導入して抑制しようということが行われています。

 さらに、土壌生物の活性化、多様化ということも期待することができます。こういった意味で、日本ではあまりカバークロップについては注目されていなかったのですが、私はこの本に出会って、これらの効果が非常に大きいのではないかと思っています。

畑作物生産の持続性について "Old Rotation"

 なぜアメリカでカバークロップが重視されたのかを改めて考えました。これは「オールドローテーション」というもので、今では120年続く連作の栽培試験があるのです。世界では、ローザムステッドというイギリスの試験圃場と、アメリカのイリノイ州にあるモローというトウモロコシの試験、それにアラバマ州のオールドローテーションというコットン試験地の3つがあります。イギリスやイリノイ州の場合は日本より高緯度に位置しますので、あまり参考にならないのですが、アラバマ州は結構日本に似て四つの季節があるのです。そこでは畑作物の生産の持続性について、コットンと他の作物との輪作の有効性、それに、カバークロップ作付けの有効性について、1896年から試験が開設されたところです。

 オーバーンユニバーシティというランドグラント大学が基幹大学となって、隣接する農務省の研究所が連携して、当時から持続的農業についての試験が実施されていたのです。そういった研究の理由を考えてみたのですが、現地に行きますとプランテーション農業が基本です。その土地の農家が豊かに暮らせるか、使用人を何人雇い続けることができるか、というような話になってくると、やっぱりコットンの収量が高く維持できないと駄目なのでしょうね。

 化学肥料がない昔の時代でしたから、長期にわたって収量を高く維持するために、どうしたら良いかということに強い関心があったようなのです。それで、1800年の終わりから、このオーバーンユニバーシティのドガー先生(第1代の教授)が、この試験を始めるわけなのです。今17代目のミッチェル先生が継続していて、私も若干の交流があるのですが、歴代の多くの先生方が継続して実施しているというところです。

 日本では今コットンに馴染みがないかもしれませんが、大体5月に植えて10月ぐらいに収穫します。コットンを連作するという体系と、そこに窒素を入れないという体系と、窒素を入れるという体系です。あとは緑肥と窒素を入れるという体系で区画されています。

 2番目は、コットンとトウモロコシの輪作です。1年目がコットンで2年目がトウモロコシ、そして裏作に緑肥、クリムゾンクローバーを冬に栽培するものです。あるいは緑肥を入れないで窒素を施用する、あるいはコットンとトウモロコシと大豆を輪作する、という体系で比較試験を行って、100年以上これを実施しているわけです。

 圃場には13のプロットがあって実施しています。これを上から見るとこの図のような形で、やはり圃場に行ってみると、私がお伺いしたのは1999年ですので、102年か103年経ったときなのですが、「土の管理によって作物の生産性がこんなに違うのか」と正直に驚きました。また「農業の研究ってすごいな」と思ったのです。こんなふうに研究ができたらいいなと思ってここまで来ました。

 こういうふうに、この写真はクリムゾンクローバーですが、100年でこういうふうな立てつけでも、ずっと青々と育っている圃場もあれば、このようにクリムゾンクローバーを入れない圃場は、ちょっとスカスカの状態にコットンがなっているという形です。

 これに対して、クリムゾンクローバーを入れている圃場は、もう100年経ってもこれぐらい収穫量を確保できてくると、いうところになります。

 こんな感じですね。ここもクリムゾンクローバーを入れているところです。

 次は大豆です。米国の大豆は非常に背が高いのですが、大豆をすき込む形でやっている圃場なんです。

収量の推移と土壌有機物含有量の変化

 ミッチェル先生がこの100年間のデータをまとめたものを利用させていただいているのですが、意外だったのは、100年間やっていたら、ある土壌では生産がほとんどなくなって、ある土壌だとずっと持続するということを、私はイメージしていたのですが、このポットの場合はそうでもなかったのです。この連作で無肥料というのは、収量がずっと低いままですけども、このよう形である程度は取れるという形になっています。

 これを見ていただきますと、収量が全体的に上がっているのです。これは何かというと、100年前の品種をずっと試験栽培していたのでは周辺の農家さんにとってはあまり参考にならないということから、10年に1回、品種を見直すのです。ですから、この収量増加は品種改良の成果とも見えると思うのです。その上で良く見ていただくと、この連作・無肥料の形だと、改良された品種そのものによる効果は実はほとんどなくて、肥料を入れれば収穫量が上がるという品種が開発されている、ということになるかなと思います。

100年見て分かった土壌有機物の重要性

 化学肥料を入れていくのは、無肥料に比べれば収穫量が高いという形になっています。ただ、私自身もこの表を見て驚いたのは、この中で収量が一番高いのは輪作なのです。緑肥や化学肥料を入れたのですが、このように輪作や緑肥を入れている栽培区の方が収穫量はさらに高いのです。グラフを見ると3割ぐらい、化学肥料単独よりも、輪作や緑肥などの体系の方が高い値を示しているというところです。

 このことについて育種の方とちょっと話すとき、育種の人たちは「品種を変えることによって作物の生産性を格段に向上させることができる」と話をされるのですが、これを見ると必ずしもそれだけではなく、やはり土壌の質です。土壌の管理方法によって3割ぐらい収穫量が変わってしまうということが、この100年の中で言えるのではないかと思います。そのドライビングフォースというか、それを駆動している原因は一体何かと考えてみますと、この土壌中の有機物含有量の変化ということが指摘されてくるわけです。

 有機化合物の構成はなかなかですね、CNコーダーというもので測定をしていくのですが、昔は土壌の有機物含有量が測定できなかったようですが、1988年からのデータが示されています。

 無肥料ですとやはり土壌有機物の残留は非常に低いという形です。日本のデータではもっともっと高い値を示すのですが、このアメリカのデータだと最も低くなってくるというところです。これに対して化学肥料を入れるという体系だとちょっと上がります。2倍ぐらいに上がって行くのです。化学肥料を入れるとなぜ有機物が上がるのかということですけれども、やはりコットンの茎とか葉っぱの量が多くなりますので、土壌中に残る有機物も若干多くなってくるということです。 しかし、マメ科の緑肥を入れるとか、輪作をするというような形ですね。こういったことでより土壌中の有機物含有量が上がってくるということで、このことが実はちょっと出されていないのですが、有機物含有量が上がってくると作物の収穫量が上がってくるというデータが出てきています。

 この『実践ガイド 生態学的土づくり』の中でマグドフ先生たちが言われている、この本の根幹となっていることは、こういったアメリカの中の長期の試験データの中で、土壌中作物の生産性を持続させていくためにはどういう要素が本当に大事なのかということです。この本の中では「土壌有機物」のことを非常に多く書いているのです。そのことが、こういったことをベースにして、100年間の実績をもとに語られているというふうに私は理解しています。

 この土壌有機物というものは、単に有機物単体だけではなく、ミミズなどの生物や他の生き物と一緒に増やしていくということも可能になってくるわけです。そういった意味で、「生きている土壌」というところに繋がってくるのかなと思います。

 そういったカバークロップが土を良くするというところを、100年に渡るデータから若干紹介をさせていただきました。

日本のカバークロップ実績

 この話は、日本の中では、先ほど高松求さんはずっと畑が空いているときに必ず畑に何かを植えるのです、という話に繋がります。

 元々冬には麦を作っていたのです。20年ぐらい前から転作奨励金も何も出ないから麦を作るのは結局お金にならなかったでしょうね。だけど高松さんはずっと続けているのです。なぜかと言えば、麦は穀物もとれるけれど、それ以上に藁が取れる。その藁を土に返す。これが重要なのです。さらに、今度ジャガイモを収穫したら、夏の間に畑が空いてしまうのですが、その間も何か作った方がいいと、積極的にソルゴーを入れる。今はソルゴーを入れるのが一般的になりつつありますけれども、高松さんはもう20年以上前、2000年から取り組んでいたのです。私はぜひそれ調べさせてくださいとお願いして調査研究しました。少し結果がわかりやすいかなと思ってご紹介させていただきたいと思います。

 有機肥料でジャガイモを栽培しました。収穫後の圃場の半分はソルゴーも植えて、あと半分は何も植えなかったのです。ソルゴーを3ヶ月間育てていただいたのですが、ソルゴーが大きく育って窒素の吸収量は1ha当たり134キロ。一方で何も植えなかったところは雑草が生えないように高松さんが土を耕しましたので、吸収量は1キロだけでした。

 土の中を見ると、左側のこの赤い線はソルゴーを蒔いたとき、それからジャガイモを収穫した後です。黒い線はソルゴーを収穫したときやすき込んだときなのですが、横軸が無機態窒素量で縦軸が土壌の深さで90センチまで取っています。明らかにジャガイモを収穫した後は0から90センチまで40ppmぐらいの土壌中の無機態窒素がありました。それがソルゴーを栽培するとぐっと減って15ppmです。ずっと減ります。

カバークロップによるクリーニング

 この部分がぐっと上に持ち上げられてくるわけです。一方右側の何も植えなかったところは、赤がジャガイモを収穫した後なのですが、同じく40ppmあります。ただ、ソルゴーを収穫した3ヶ月後、このように地表面では左側と変わりませんが、逆に地表から50センチぐらいのところで濃度が上がっているのです。

 これは、この間大体3ヶ月の間に30センチから60センチぐらい窒素が下に移動してきたということになります。この後の作付けを考えてみると、右側の体系ですと一回上に持ち上げていますので、これを土に戻したときにはこの134キロの窒素をもう一回、次の作物あるいはその次かもしれませんが利用するチャンスがあります。しかし、右側の体系ですと、今現在50センチのところにありますから、次に作物を植えて根を伸ばしたときにはこれがさらに下に下がって失われてしまいます。このようなことから、環境の面から考えてみても、左側の体系だと堆積したものがもう一回利用できるような循環をすることができてくる。右側の体系ですと下に流れていって、水質を悪化させてしまう。こういった違いが農家の取り組みの中で出てくるということです。日本においてもこのカバークロップの取り組みは非常に重要ではないかと改めて思います。

カバークロップを取り入れた作付け体系

 さて、カバークロップをどんなふうに取り入れるかというところですけれども、いろいろな種類のものがあります。この本の中にも書かれているのですが、夏作のカバークロップとか冬作のカバークロップがあります。ですから、対象とする野菜体系、作付け体系とか、主要作物を春先に作るのであれば、冬作に入れるとか、あるいは秋作であれば夏に入れる体系です。こういった形のカバークロップですが、100種類ぐらいありますので、それらを上手く選んでいくと、通年にわたって圃場を植生で覆うことができることになります。

 さらに、土壌中の生物層の改善効果ということも非常に大きくて、基本的に金子先生のお話にありましたように、土の中の生き物の大切さということがあって、実は土壌線虫はほとんどが有機物分解に役立つものが多いのです。

 農業で連作をしていきますと、植物に寄生する線虫が増えてしまうということが問題で、現状で行われているのは、土壌、殺線虫剤だとか土壌燻蒸だとかということで、土壌の生き物をほとんど全滅させてしまいます(全滅はできないです)。かなり削減・減少させていくというところです。

 カバークロップを導入することで、このような特定の生物を減少させていくという効果もあるのです。さらに、土壌保全ということで、先ほど少し風食の話をしましたが、小雨が降ってきたら土壌に浸透していきますが、裸地状態で圃場面に何もないと、この水が土壌表面を流れていってしまうのです。その点カバークロップがあればその根を通じて、水が下に流れることから、土壌が流亡することも減少させることができるのです。

 カバークロップ効果については、この本の中にも良く書かれています。

 基本的に日本で使うのはイネ科とマメ科のものが多いと思います。イネ科のものは圃場に供給できる有機物の量が多いという特徴があります。ですから土壌中の炭素量を上げたいと思ったら、イネ科のカバークロップ導入がおすすめです。ただ、C/N比が高いために地力のなかなか分解しにくい有機物が増えていくというような効果があります。また、耕地の中で余剰窒素のようなものが残留している場合は、それを吸収して後作物に渡せるという効果があります。また大きな点として、遅まきに対応できるということがあります。ネガティブな面としてはC/N比が高いために、イネ科のカバークロップを入れると増収にならないというようなことがあります。金子先生のところでライ麦を入れたらあんなに稲が育っていたので、やっぱり土の生き物が多いか少ないか、そういったところも関わってくるかなというふうに思います。

 このマメ科についても若干おさらいさせていただきます。当然窒素固定を行いますから、後作物への窒素供給量が多くなるということと、C/N比が低いために吸収した窒素を、後作で素早く利用できるというところです。また、アレロパシー作用があるものが多いので、それらが雑草を抑制するということがいえます。さらに、この本の中にも書いてあるのですけれども、リシーディングということ。リシーディングとは、1回花が咲いて種をつけると、その種が落ちて次の年もう1回出てくるのです。圃場表面を全部被覆するまではいかないことが多いのですが、アメリカの農場は一圃場の面積が数百ヘクタールもあって、そこを全部カバークロップの種を買って蒔くと結構大変なので、こういったリシーディングなども利用されているのです。

 C/N比が低いために分解が早いというところは良いのですが、実は土壌炭素貯留という点では、少し効果がイネ科に比べれば少ないというところがあります。また、遅まきすると生育が遅れるので、11月に蒔いたのではちょっとこの間、関東だと遅いかなということもありますので、その種まきの時期は重要です。こういった特徴がありますが、うまく組み合わせて、圃場の表面を被覆していくことが重要です。ちょっと耳慣れない言葉で、サブタレニアンクローバーというものが、オーストラリアでよく使われています。

 私は、最初のころにこの研究をしたのですが、これはリシーディングするもので、5月ぐらいにこういう形になるのですが、夏になるとこんなふうにマルチを作って、この表面に種を落としていくのです。ちょうど落花生のように花が咲くと花柄が伸びて土の中に種を入れるのです。

 1平米あたり大体1万粒の種を作るのです。それが硬実(種子)と言って夏の間の温度が高いと発芽しないのです。それが秋になって気温が下がってくると休眠が解けて出てくるのです。5.5%出てくれば毎年出てくるということですけれど、これでいろいろと施肥量を変えてトウモロコシを作って、昔の吸収した窒素量を測ってみると、当然、化学肥料の投入量が上がってくると、トウモロコシが吸収する窒素量は増えてくるのです。

 下の写真が前作に何もなし、上の写真がサブタレニアンクローバーの後作なのですが、既にサブタレニアンクローバーで被覆した方が多く窒素吸収しているのです。こういったことを見ると、やはり肥料を増やして作物を取るというだけじゃなく、こういった作付け体系のアプローチも大切じゃないかなと思います。

 ハウスの中ではこういったクリーニングアップいう形で、除塩の効果も期待されています。後でちょっと説明したいと思います。

 さらに、防風作物としての利用もあります。水田裏作について私達が注目しているのはこのイタリアンライグラスです。またこういった形でのヘアリーベンチ等ですと、このように雑草を抑制するという効果もあるのです。

 カバークロップですけども、景観形成に役立つものがあります。今お勧めしているのは、今日はデータを示していませんが「ひまわり」です。ひまわりを春5月に植えて、8月に鋤きこんで、その後、蕎麦を作ると、その結果、蕎麦の収穫量が上がるのです。

 茨城県では蕎麦の生産が盛んですが、連作になってしまうと蕎麦の収量が落ちてしまいます。しかし、輪作でひまわりを入れると収穫量が上がってくるということです。

生きたリビングマルチ

 さらに、この本の中にカバークロップの「緑植え」という山田先生の訳がありますが、リビングマルチのことです。これも日本の中では面白くて、あの高松さんの農場では、このように野菜を植えた後に、そこに麦の種をまくのです。

 畝間に麦の種を蒔いて、箒で掃いてやると、こんな形で麦が生えていくのです。時々麦が伸び過ぎてしまうと、このよう恰好で倒す。これも一つのローラークリンパーの元になるものかと思いますが、高松さんが考え出して利用しています。

 この効果ですが、このマルチをしていると土壌中の養分が下に流れにくいのではないかと思いがちですが違います。雨が降るとこのマルチに当たり、畝間の浸透量がプラスされるのでかなり水分の地下浸透が激しくなり、養分は早く下に行くのです。ここにリビングマルチを作ってあげると、この本では「緑植え」ですけれど、これをやってあげるとそれを吸い上げてくれるのです。それに、様々な天敵をここに呼び寄せてくれるという効果もあります。これは高松さんのところですけども、このようにいろいろな作物を植えているのですが、必ずリビングマルチを使って周年にわたって緑で覆う、そういうカバーをしているという経営態もあるということです。

 この経営の中で注目しているのは、あのカバークロップと緑肥です。こういったものは購入すると結構高くつきます。ビニールマルチも高いのですが、高松さんは鶏を飼っているのです。くず小麦を蒔く(10a当たり30kg、1kg当たり20円)ことで非常に安い値段で蒔いてリビングマルチするという工夫をしています。

 経営改善ということを考えてみると、私達の卒業生の安部さんは新規就農で大根を作ったのですが、大根は茨城県ですと大体10回ぐらい農薬を散布するというケースがあるのですが、安部さんはソルゴーを作った大根栽培の体系で、慣行栽培ですが、土壌消毒をしなくても、合計3回程度の農薬散布で十分な野菜ができたということで、土が健康だと作物も作りやすい、という話をしています。

 高松さんの話に戻しますと、「耕うん」の問題は明日お話させていただきたいと思うのですが、農家は、どちらかと言えば麦わらなどを畑に入れたがらない状況になってきています。その原因にロータリー耕うんがあります。ロータリー耕うんだと刃(爪)に麦わらが巻き付いてしまうのです。耕す場合には必ずすき込むことが重要だと話していました。

 ひまわりを入れると、蕎麦の収量が上がるというデータですが、近年は土壌中のリン酸が多くなってきていますが、ひまわりを作付けするとリン酸が多く吸収され、作物の生育にもポジティブな影響になってきているというところです。

 小松菜の連作圃場でも試験をしています。ハウス栽培で小松菜は1年間に6回から7回ほど作ることができます。しかし、この体系で連作しますと、土壌中のECが上昇してしまい、pHは下がってしまうことになります。だんだんハウスの方が作りにくいということになってくるのです。そこで、この写真では手前側がライ麦で、奥が燕麦です。こういったものを入れて、入れなかったところとの比較調査をしています。

 また、こういった形でソルガムを入れて栽培をしてみるというようなことをやっていました。

 その結果ですが、赤い線が適正域です。左がEC、右がpHです。棒グラフの青がカバークロップを入れたところ、棒グラフ赤が入れなかったところです。ECは、青いところの方が赤いところに比べて下がっているというところから、カバークロップを導入することで適正値に向かっているということになります。pHは逆に、青いところが上がっているということで、化学肥料を使っていますので酸性が強くなっていくのです。そういった点を改善していくということになります。こういったことでカバークロップの効果って大きいかなというふうに思います。

 繰り返しになりますが、先ほども話しましたように、土壌が飛ばされてしまうというところが非常に大きいということで、これを続けていたら、生産性も低下するし化学肥料の利用も増大することになると思います。

 これも農家さんがやっている例です。ジャガイモ収穫の後にカバークロップとしてヒエを使い、ブロッコリーを植える体系で調べてみました。結果は、化学肥料を、例えば慣行量50%減肥、あるいは有機肥料に置き換えた、有機肥料50%減肥でやったのですが、土の中の窒素の量ですけども、こちらヒエを植えた裸地ですけれども、裸地のところは肥料を減量したからといって土の中の窒素の溶脱が減るということはないのです。

 ただし、カバークロップ植えるとこの青のように窒素が減っていきます。それで地上部への窒素吸収量は10アール当たり大体14キロ前後ありますので、その分が吸い上げられるということになります。このデータは、カバークロップによる吸収量が多いと地中に流れていく量がきっちり少なくなってくるというデータです。

 次のグラフはブロッコリーの硝酸の値です。これはイネ科緑肥というか、カバークロップの「力」なんですが、これを入れたところの圃場の方が硝酸の値は減っていくのです。

 それから、糖度は若干上がってきて、そういったところから、このイネ科のカバークロップを利用してブロッコリーを栽培すると、苦味が少なくて甘いブロッコリーができるというふうに思います。

カバークロップでは儲からない

 さて私どもは、こういったやり方を農家にいろいろとお話させていただいているのですが、学生からも言われるように、「カバークロップを行っても、すぐには農家の売り上げアップに繋がらないので、農家の人はやりたくないって聞きましたよ」ということです。確かにそうですね。

 茨城ですとカット野菜の生産が盛んで、同一圃場で年に2回キャベツを作るというところもあります。1回カバークロップを入れちゃうと、ダブルで作っていたものが1作になってしまい収量が半減してしまうということを心配されます。

 しかし、長期で良く見ていくと、連作を続けることで、最初よりも後の方が農薬の散布回数が増えるということがあります。結局、土壌病害が出やすくなってくるということで、ある若手(40代)農家さんは、キャベツ栽培を30ヘクタールぐらいやっておられるのですが、その大きい圃場でずっと連作して連作障害になってしまっては、せっかく植えつけても収穫できないとなれば経営的に大打撃ですよね。

 「そうなってしまうんだったら、やっぱりカバークロップを導入したいよね」ということで、キャベツを作ってカバークロップを行う体系を試験的に入れています。畑は2倍になるが、農薬や肥料も減らす取り組みです。こういう栽培体系の方が、品質が良くなるのではないか、とういうことで推進しているのです。

まとめ

 今日はカバークロップの話を中心にさせていただきました。農業を担っている農家にとってみれば、追われるほどに日々の生産活動を一生懸命やられていると思います。そのため長期的に土壌がどうなるのかとか、環境問題への具体的な対応を経営管理に取り入れるということは難しい状況にあるかもしれません。しかしながら、冒頭のお話にありましたように、また田上理事長のお話がありましたように、農業が、環境保全的な役割、これが大きく期待されていることから考えると、農業も変わらなければいけないという状況の中で、農家さんが具体的に今どんな形をとったら環境保全的になるかということを考えていくと、カバークロップは現実的に取り組みやすい内容であると思います。

 カバークロップはいろいろな作物と組み合わせることができるかと思います。イネ科とかマメ科とか。今回ご紹介しませんでしたけれども、アブラナ科のものとかもございます。そういったものを組み合わせて効果を高めていくということも重要かと思います。

 今日は十分にはお話できませんでしたけれども、今話題の土壌中の炭素貯留効果についても農業に期待されているところです。それから、窒素溶脱防止というような点から、特に私達は茨城県が抱える霞ヶ浦の水質保全という点でも、これらは重要な技術かなと思います。カバークロップを活用することで土壌の健全性を高めていくというGAPに繋がる持続可能な農業に、多くの農家さんにぜひぜひ取り組んでいただきたいと考えています。

 以上です。ご清聴いただきましてありがとうございました。

2024/7


セミナー受講者の修了レポート(感想や考察)の紹介

株式会社AGIC 事業部

現場経験少なくGAP担当になり不安がだったが、この研修で幅広く学べた

「GAP指導者養成講座」 都道府県普及員

 これまでの職務上、生産者と関わる機会が少なく、現場の様子があまり分かっていない自分がGAPの担当者となり非常に不安でしたが、この研修を通してGAPへの理解、生産者の立場での考え方、様々な危害を見つけ防止する目線を学べたと感じています。リスク発見演習では、自分とは違う視点のリスクの考え方についても学ぶことができ、視野が広がりました。動画による評価演習では、生産者との受答えを学べたのが良かったです。研修を通してGAPの様々な知識を学べましたが、今後自分がGAP、および県認証等の指導をしていくときには、様々な事例を学び、理論をしっかり固めていかなければいけないと感じました。


GH農場評価は、生産者の意欲向上や、より良いGAPの実践に繋がる優れた評価方法

「GAP指導者養成講座」 都道府県普及員

 今回学んだGH評価は、項目ごとの点数付けにより、重要性や緊急性の高い問題点の把握が可能となっている。また、悪い部分だけでなく良い点に関しても評価コメントが記載されるため、生産者の意欲向上や、より良いGAPの実践に繋がる優れた評価方法だと感じた。本研修では、他の研修では得ることのできない、評価の現場で真に必要となる実践的な評価・質問方法、考え方を学ぶことができたと思う。


GH農場評価はGAP認証を受けない農場の改善に役立ち、GAP認証へのステップとしても有効

「GAP指導者養成講座」 JA営農指導員

 当JAでは現在、GLOBALG.A.P.の団体認証に取り組んでいるが、今回、GH農場評価員研修を受講し、改めてGAPをする上で必要なことを確認できた。基準はそれぞれであるが、基本的な考え方は一緒だと思うので、これからの指導に役立つものと思う。また、BADを見つけ出し、改善に向かう取り組み方とすれば、認証を受けない場合でも農場の改善につながる一歩だと感じたので、GH農場評価が普及すれば、次の認証をとるステップでも有効だと感じている。営農指導の一環としてGH農場評価を活用することで、今後の指導員の知識確保と組合員とのコミュニケーションツールとしても活かせるのではないかと感じている。


イベント契機のGAPムーブメントは続かいない、GH農場評価で本来やるべき農業を学んだ

「GAP指導者養成講座」 JAグループ職員

 日本では2000年過ぎにGAPの取組みが導入されたが、その取組みと認知度は低く、昨今、東京オリパラを契機に取組拡大は図られたものの、オリパラ終了とともに減少に転じている。昨今の大阪万博開催に伴う食料調達でもGAPが再燃しているが、いずれにしても大きなイベントを目的に取り組んだGAPは終了とともにその取組みは減少に転じる傾向が心配される。今回のGH農場評価員講習を通し、農業者が本来やるべき農業とは何か、JAグループとしてGAPにどう向き合うべきかを改めて勉強させて頂きました。


2024/7

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載51回)
~人材育成を振り返って今後を見据える~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 今年も税理士法人「K・N合同会計事務所」より令和6年5月30日電子申告済のサインが入った決算報告書(第12期)が届いた。当期純損失145,953円と損益計算書最後の行に記載があった。お世話になっている会計事務所のS税理士に当初この会社は実験事業なので今後大赤字が予測できる場合に会社を閉めるタイミングを的確に指示して欲しいといつも話し合っていたと現在継続担当してもらっている同事務所のK税理士にこのこと伝えた。S税理士は一昨年突然死されもう相談できなくなり淋しい思いをしている。私の意向は引き継がれていたかは不明であるが、K税理士は各種必要経費の前年対比表を示し、第13期に進めてくださいとの説明を受けた。赤字の話は別として、これまで12年間の会社運営を振り返ってみると第13期目も継続してもいいかなと考えている。それは、会社設立時定款の第1章第2条(目的)に人材育成事業を掲げているからであり、このことを振り返ってみる。

 これまで新規参入により自立経営者として国県の自立経営に関する補助金適用者3名(令和5年6月・令和5年12月・令和6年1月)と親元就農者を2名(平成30年1月・令和元年4月)生み出した。残念ながら1名(平成31年12月退社)を就農させることはできなかった。人材育成事業として正規社員としての採用と研修生として受入れにより実施してきた。正規採用の社員には「農の雇用事業」を、研修生には地域おこし協力隊事業や就農準備型の国県補助事業を適用してきた。人材育成事業と会社運営継続を両立にさせるのは農業単独の収支のみでは困難であるが、農業生産法人を設立し各種補助事業活用と行政との連携で地域農業を活性化させていくことが可能であることがわかった。しかし、本当に新規参入による自立経営が持続できていくかを長期的に見なければ人材育成事業の目的が達成できたかどうかにはまだ自信が持てない。

 私は会社設立した動機は農業大学校を卒業した学生の就職先に農業がないことを課題にもち、その解決策の一つとして取り組んだと繰り返して述べてきた。これまで農業大学校の卒業学生と社会人課程修了者を合わせて6名正規社員として採用、研修生として地域おこし協力隊員3名、有田川町農業後継者受入協議会から研修者1名を就農指導し、現在も継続している。令和6年7月現在、2名は正規社員として勤務、研修生としては地域おこし協力隊員(令和5年4月~令和8年3月)2名を継続して受入、会社を運営している。

 研修生として受け入れ、自立に至るまでにはそれぞれの目標に併せた準備期間と行政の支援があったからスムーズに進められたが、会社の正規社員として退社し新規に農業をはじめるには親元就農の2名は別として、新規に自立農業者となった元社員は大変苦労したと聞いた。令和6年度から自立経営者となったが、弊社を退社したのは令和3年3月末日、その退社社員の知人が経営する農地を紹介してもらえるとの話で退社10ヶ月前に自立したい意向を尊重し応援することとした。しかし、退社直前になって経営を任されることが確約出来ていなかったことがわかった。会社としては新規採用者を決定していたが、会社にとどまることを進めた。しかし、本人は退社を優先した。その社員は病気以外休むことはなかったので退職日直前まで有給休暇をとらせ就農準備をさせた。退社社員に経営を任せるといっていた農家は我が社の仲介ではなく別の方だったので会社として介入はできなかった。その社員は退社後その農家でアルバイト的に通い、2年後にようやく自立意欲が認められ令和6年1月に全面的に経営を任されることとなった。形式は高齢により離農する農家の農地と販売の仕組みを100%後継することとなった。このことから新規に自立就農を進める場合は準備に会社や行政が深く関わっていく必要を強く感じている。令和8年4月に自立就農を予定している研修生に対しては慎重に就農準備を応援していきたい。また、正社員には会社持続のための就業対応をしっかり考え、会社及び人材育成事業拡大のため第3期目の継続運営を決意したところである。

2024/7


【参加者募集】
世界のGAP先進地スペイン「アルメリア農業」交流ツアー Vol.4
生産性向上と環境保全の両立を目指した農家指導

日本農業の再生 GAP戦略を考える 地域農業再興のヒントがいっぱい!

 スペイン南東部のアルメリアは、ヨーロッパ最大の夏野菜生産基地で、GAP認証割合100%の先進地です。日本生産者GAP協会が2004年から親交を深めてきたアルメリアの農業関係者を訪ね、稀にみる地域農業の発展を遂げた「農業クラスター」の実態、特に農協による生産者指導と農産物販売のポイント及び農業関連産業の発展について学びます。

 地域農業を支える行政機関や大学の支援、地域経済の柱である農家と農協や農業法人などの生産・出荷・販売の現場を視察し、それぞれのキーパーソンと意見交換します。また、生態学的制御の生産技術と、ERPシステムによるマーケティングチャネルの改善、それらを可能にした小規模農家の協同化に学び、日本農業の再興を考えるGAP研修ツアーです。

・スペインは、国際規格のGAP認証農家の数が世界で一番多く、農協がリードする園芸産地です
・アルメリアは、持続可能な農業のGAPで差別化し、農協の農産物輸出額は大幅に増えています
・エルエヒド市は、行政支援の農業クラスターで、地域人口が大幅に増えている農業振興地域です
このツアーで、GAPは難しいと思っている日本人の誤解が解消されます
このツアーで、GAPコントロールが市場支配力を持つと認識します
このツアーで、GAPが地域農業振興の切札であると確信します
期日2024年11月9日(土) から 17日(日) 6泊9日
パンフレットGAPスペインツアー2024ご案内 PDF形式 word形式
対象者JA・行政のGAP担当者、農業者、農業関連事業者など
(定員16名、最低催行人数12名、申込は先着順)
費用会員 770,000円、 非会員 800,000円
※費用の最終確定は参加人数確定後となります。8月中に連絡致します。
申込方法所定の申込書の様式にご記入いただきEメール又はFAXで送信
 GAPスペインツアー2024申込書 PDF形式 excel形式
Eメール: mj@fagap.or.jp  FAX: 029-856-0024
申込期限2024年9月13日(金)
申込条件
・ 食事/朝昼夕 各6回(機内食を除く)
・ 利用航空会社/フィンランド航空
・ 一人部屋追加費用/概算8万円(6泊)
・ ビジネスクラス追加費用/個別問い合わせ
・ 羽田空港から事務局員が同行し、現地では専門のスペイン語通訳が同行します。
・ 現地での詳細なツアー日程は8月中に連絡いたします。
【参加費用に含まれるもの】
・ 日程に表示される航空運賃(エコノミークラス)
・ 日程に表示される借上げバス等の交通費
・ 事務局同行費用、現地コーディネーター兼通訳料
・ 日程に表示される食費(アルコール類含まず)
・ 宿泊費:ホテル(2名1室)
【参加費用に含まれないもの】
・ 渡航手続諸経費:パスポート代理申請手数料
・ アルコール類、左記以外の食事費用
・ 個人的費用(交通費・電話代など)
・ 自由行動中の一切の費用
・ 羽田空港までの往復交通費用
・ 手荷物超過料金
・ 海外旅行傷害保険料
取消規定
取消日(契約解除日)取消料
9/25(水)~11/2(土)まで58,000円
11/3(日)~11/6(水)まで166,000円
11/7(木)~参加費用の100%
企画一般社団法人日本生産者GAP協会  担当: 田上隆多(事務局長)
TEL:029-861-4900    Eメール: mj@fagap.or.jp
お問合せは、日本生産者GAP協会事務所まで、お気軽にどうぞ。
研修ツアー日程(概要)
月 日訪問日程宿泊
11月9日(土)羽田空港発(21:55)
11月10日(日)ヘルシンキ空港着(4:00)、ヘルシンキ空港発(6:30)、マラガ空港(10:15)着 アルメリア/エルヒドへ移動
11月11日(月)

11月15日(金)
視察・交流内容(※)
農家、農協、 連合会、農業企業、市場、市役所、大学、分析機関、ICT 企業、認証機関、等
(15日)マラガへ移動
アルメリア
エルヒド
マラガ
11月16日(土)マラガ空港(11:00)発、ヘルシンキ空港(16:40)着、ヘルシンキ空港(17:55)発
11月17日(日)羽田空港(14:25)着

 ※視察先・日程は過去のツアー(2017年、2019年)と同様の内容で現地調整中です。
詳細については、「スペイン・アルメリア農業」特集の「スペインGAPツアーvol1 2017年1月」、「スペインGAPツアーvol2 2017年11月」、「スペインGAPツアーvol3 2019年11月」をご覧ください。

  1. GAP認証農家数が世界一のアルメリア農業の現場を視察
    アルメリアのビニルハウス群
    アルメリアのビニルハウス群
    • 農業ビジネスの要である農協や農業法人を訪ね、「生産技術とGAPの総合教育」および「圃場と選果場の統合的一貫管理」を視察します。
    • 「農産物バリューチェーン」について、生産段階の資源(農家・農地・作物・施設・認証取得)情報と、販売段階の資源(商品品質・選果・運送・販売先)情報を統合管理する「農業ERP」システムを視察します。
  1. 攻めの農業をリードする政策の実態と、応える農家・農協を視察
    • 農産物輸出でビジネスを拡大する農協と、それらを支える行政エルエヒド市役所の農業・環境部と情報交換を行います。
    • 先進的な生産技術(IPM、オーガニック)で持続可能な農業に取り組み、高い利益を上げる生産組織を訪問して、農業経営のポイントを学びます。
    • 農産物輸出事業、地方市場や産地卸売業、スーパーなどを視察します。
  1. 83の農協を束ねアルメリア農産物の70%を販売する連合会視察
    躍進するカンポソル農協の選果場と役員
    躍進するカンポソル農協の選果場と役員
    • COEXPHALは、アルメリア青果物の生産者と消費者を結びつける協会です。ビジネス成功のために生産技術の革新と生態学的病害虫防除IPMを実践。労働者福祉を優先し、GAP農場認証でも環境に優しい農業生産方法をリードしています。
    • 協会翼下の農協は、大量販売(低価格)から消費者志向に移行、スーパーマーケットチェーンへの直接販売を可能にし、その付加価値はアルメリアの産地に残して農協の組合員に再分配されます。
  1. 大学と行政の共同による持続可能な農業の研究開発と人材育成を視察
    • 生産者の価値を付加するための重要な行動は、生産過程で農薬の使用を減らす生物学的防除と総合作物生産の実行です。検査機関の運営、営農指導員の人材育成で持続可能な農業を支援しています。

2024/7