《巻頭言》 国家戦略としての『環境と人にやさしい農業の実践』~GAPと「みどりの食料システム戦略」~
田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長
国民の食を自国で賄えない日本の持続性は?
新型コロナウィルスの世界的流行で、今は全ての人が命を守るための活動を強いられていますが、命を育む農業は、今日も明日も耕し続け、食料を供給していかなければなりません。しかし、生産現場では、気候変動の影響が現実的なものとなり、高齢化の進行と農業生産者の減少が、日本農業の持続性を脅かす事態となっています。そもそもカロリーベースの食料自給率が37%(2020年)と極端に低い我が国は、世界最大の農産物純輸入国です。また、国産家畜の飼料穀物もほとんど輸入に依存しています。さらに、国内の農業生産を支える農業資材や肥料などの化学原料もそのほとんどを輸入に依存している状態です。このように、国民の食を自国で賄えない国家に持続的な発展はあるのでしょうか?
持続可能性と生産力向上の両立への大転換
日本農業のこの危機的状況の打開策として農林水産省は、「みどりの食料システム戦略」を策定(2021年5月)しました。「将来にわたって食料の安定供給を図る」ために、「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する」という農業政策です。背景にあるのは2020年10月26日、第203回臨時国会で菅総理大臣が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言し、それが「日本の新たな成長戦略であり、あらゆるリソースを最大限投入し、経済と環境の好循環を生み出す。」と政策発表したことです。そのため、日本農業の取り組みは「農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現へ」となり、政策実現の手段として、「低リスク農薬への転換や総合的病害虫・雑草管理(IPM) の確立」(つまりGAPの推進)が方向づけられています。2050年までの主な取り組みの達成目標は、、
化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減する。
化学肥料の使用量(輸入・化石燃料を原料)を30%低減する。
耕地面積に占める有機農業の割合を25%(100万ha)に拡大する。
ということで、これらの目標を達成するために以下の施策が示されています。
2030年までに施策の支援対象を持続可能な食料・農林水産業を行う者に集中する。
2040年までに補助事業をカーボンニュートラルに対応させ、環境負荷軽減メニューを充実しクロス・コンプライアンス とする。
世界のGAPステージ3
2015年の国連サミットで提唱された持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)が世界の潮流となり農業分野での環境対策も強く求められるようになりましたが、今から40年前にも農業政策の世界的な大転換がありました。農業由来の環境汚染の認識と、その対策としての環境保全型農業 、つまりGAP概念の誕生(世界のGAPステージ1)です。ステージ2でGAPは、経済活動としての評価制度、つまり農産物仕入基準としてのGAP認証制度として活用されました。世界のGAPはさらに進んで、2021年現在はGAPステージ3の段階を迎え【資料1】、米国やEUでは一層高いレベルの環境保全型農業とその国際標準化を推進し、自国農産物の輸出振興施策を始めています。
【資料1】 世界のGAPステージ GAPを俯瞰すると見えてくる農業のあり方
GAPステージ
ステージ1 1981-2000 GAP概念の誕生
自然・資源への汚染をなくす人と環境に優しい農業
ステージ2 2001-2020 農場保証の監査
グローバル経済で必要な農場保証(GAP認証)
ステージ3 2021-2040 覇権的食料システム
環境に優しく公平で健康的な食料システムの国際戦略
ステージ1の農業
「政策としての環境保全型農業」:農業由来の環境汚染を解消する"持続可能な農業"の政策。
市場経済では守られない公共財(水・土・空気)のメンテナンスをする農業者への補助金政策。
"GAP規範"に基づく持続可能な農業(GAP)を義務化した。
ステージ2の農業
「流通ビジネスとしての農場認証監査」:"GAP規準"による
第三者農場認証は、グローバルなサプライチェーンが要求する
農場監査(仕入基準)である。
ステージ3の農業
「持続可能な農業の国際戦略」:生産性向上と自然生態系の保全を両立させる農業を世界標準化し、貿易交渉でも要求する。
欧州の関連政策
・余剰生産物の輸出補助金を価格支持から環境支払へ転換
・農業由来の環境汚染対策として、硝酸塩指令&植物保護指令で義務化
・農家が遵守すべき"GAP規範"
・直接支払、デカップリング
・包括的衛生規則(HACCP義務化)とそのトレーサビリティ義務化(輸入品も)
・EU民間農産物認証システム国際標準化
・EUグリ-ンディール
・ファームtoフォーク戦略
→化学肥料・農薬・抗生剤の大幅削減
・EU持続可能な食料システムの国際標準化(FTAで要求)
日本の関連政策
・環境保全型農業推進の表明
・特別栽培農産物表示ガイド
・有機農業推進法
・食料・農業・農村基本法
・日本型直接支払
・農業生産工程管理ガイド
・食品安全基本法
・五輪と日本発の農産物認証
・HACCP制度化
・みどりの食料システム戦略
引用:日本GAP規範第2版
世界のGAPステージ3に対応する「みどりの食料システム戦略」は、新たな成長戦略として突然提言(2020年12月)され、5か月という短い期間で策定されました。イノベーションをキーワードに達成すべき目標は、米国やEUの農業・環境政策に足並みを合わせた内容になっています【資料2】。
【資料2】 主要国の農業・環境政策
EU Farm to Fork戦略(2020年5月) 米国 農業イノベーションアジェンダ(2020年2月) 2030年までに
・化学農薬の使用及びリスクを50%削減
・肥料の使用を少なくとも20%削減
・家畜・養殖の抗菌剤販売の50%削減
・有機農業を少なくとも農地の25%達成
2050年までに
技術開発を主軸に以下の目標達成を設定
・農業生産量の40%増加
・環境フットプリント50%削減
・水への栄養流出30%削減
参照:農林水産省「みどりの食料システム戦略」 関係資料
持続可能な農業(GAP)は国内農業の課題でありかつ国際問題である
日本におけるGAP概念は、サプライチェーンの信頼確保のための食品衛生管理に重点が置かれています。先進諸国ではありえないことですが、日本では政府主導(オリンピック・パラリンピックの調達基準やASIAGAP民間認証等の推進)で、「2030年度までにほぼすべての産地で国際水準 GAP が実施されるよう、現場での効率的な指導方法の確立や産地単位での導入を推進する。」としています。農林水産省は「農業生産工程管理の共通基盤に関するガイドライン」を改定し、「国際水準GAPガイドライン(試行版)」として公開しました。ここでは、国際的に求められるGAPの取組み事項として、これまでの「a環境保全、b食品安全(衛生管理)、c労働安全」の他に「d人権保護、e農場経営管理」が加えられ、それぞれの根拠や参考となる法令・通知等が提示されています。
一方、世界でビジネス展開するためには、持続性への配慮が欠かせなくなっているために、企業ではESG(Environment、Social、Governance)問題への取組みが必要だと言われています。農産物流通や農業分野も例外ではなくなります。 GAPに加えて「取組み項目c、d、e、」にも対応することは、グローバルなサプライチェーンが要求する仕入要件として、例えばGLOBALG.A.P.認証では、GRASP(農場認証+Risk Assessment on Social Practice)として総合的な農場認証が監査基準に組み込まれ、マーケットに定着しています。
周回遅れの日本がとるべき道はGAP概念の理解
そういう中で、オリパラ終了とコロナ禍の中で、多くの農業関係者が、「オリパラが終わったらGAPはどうなるの?」 と一様に戸惑いの声を挙げています。戸惑いの多くは、「生産者はGAP認証を取得するのですか?関係者は農場認証の支援をするのですか?それとも適正農業であればよいということですか?」 ということです。農林水産物・食品の輸出を2030年に5兆円に伸ばそうという新たな食料・農業・農村基本計画では、「輸出拡大を図る上では、国際的に通用するGAPの取得(正確には、農場認証の取得:筆者)を推進する必要がある」として、流通ビジネスとしての農場認証制度の利用を推奨していますから、それらの支援も必要な場面はあると思います。
しかし、世界はすでにGAPステージ3の段階に入っています。このステージを「覇権的食料システム」と名付けたように、米国やEUは、農業由来の環境汚染を大幅に減らし、その農業実践規範及び評価規準を世界標準化することで、GAPの持続可能性という大義を、農産物貿易の障壁にしようとしています。「環境に優しく公平で健康的な食料システムの国際戦略」は、強国による農業への支配力が増大することで、世界のさらなる格差を生むことになるかもしれません。
そういう状況を作り出さないための日本農業の「みどりの食料システム戦略」と考えたいです。それにしても達成目標である「①化学農薬の使用量50%減、②化学肥料の使用量30%減、③有機農業を耕地面積の25%に拡大」は、日本農業の現状からはかけ離れた数値です。世界の動向や米・欧との対抗上やむを得ない政策目標なのでしょうが、日本農業にはそれらを実現するだけの体力や気力ができていません。それは、日本農業が世界のGAPステージ1の経験を持っていないことが大きな原因です。
農業由来の環境汚染を強く認識した欧州各国は、40年前に「自然・資源への汚染をなくす人と環境に優しい農業」というGAP概念を産み出し、政策としての環境保全型農業を定着させました。貿易の自由化を促進したGATT(関税及び貿易に関する一般協定)ウルグアイラウンドの最終段階(1992年)で、国内農業の保護政策として、「食糧備蓄、環境保全、災害対策、開発研究、基盤整備、生産と直接結びつかない価格支持などの"緑の政策"」が認められたことから、EUの共通農業政策は、農産物価格支持政策から農業環境政策に移行しました。そして、条件不利地域や農業の環境保全機能への補助金支払いシステムに「デカップリング政策」を採用し、直接支払いと環境基準遵守の結合を図る「クロス・コンプライアンス」施策を導入したのです。
EUの持続可能な農業のための農業規則
日本農業の現状からは、かけ離れた達成目標となった「みどりの食料システム戦略」に関して、どのような農業規制が行われるのかは重要な問題です。世界のGAPステージ1でEUの窒素コントロール等の養分管理規則と、それに該当する日本の養分管理規則の対比表【資料3】を見ると、日欧の違いは一目瞭然です。これらの農業・環境政策とその遵守を経験してからの、ステージ2であり、ステージ3への移行であるという事実を認識して、日本の農業政策大転換に取組むことが必要ではないでしょうか。
【資料3】 養分管理規則に関する日本とEUの比較
GAPの課題 EUの対応 日本の対応
硝酸脆弱地域の指定 硝酸汚染ないし富栄養化したか、その危険のある地下水と表流水の集水域を硝酸脆弱地帯に指定(全土指定でも良い)。地帯内では行動計画が義務。 水系の硝酸性窒素濃度は環境基準や水道法で10mg/L以下。ただし、硝酸汚染地域の指定はない。しかし、公共水道源の地下水源が汚染されている場合は事実上の指定。
適正農業規範 (GAP規範) 硝酸脆弱地帯外の農業者が自主的に守るべきもの。農業生産と環境保全の両面から法律や技術書に具体的に詳しく記述。補助金支給にはGAP規範の遵守が最低条件 「農業生産活動規範」。ただし、7項目のみで、記述に具体性がない。複数項目一括してチェックしたか否かだけを記録。補助金需給には規範順守が条件だが、現実的意味はない。
家畜飼養密度/家畜糞尿還元量の上限 家畜糞尿で170KgN/haを上限。これを超える家畜糞尿は自作地に還元禁止、必要なら家畜頭羽数の削減。 制限なし。
家畜糞尿・肥料の施用時期・場所の制限 表面流去や地下浸透による水系汚染の危険の高い時期や場所へ使用を禁止。 野積み、素掘り投棄でなく、悪臭を出さなければ、どこの農地へもいつでも施用可能。
施肥基準の位置づけと養分施用の上限量 施肥基準に従い、作物への可給態窒素教協量が作物の窒素要求量を超えないこと。農業補助金を受けるには施肥基準やGAP規範を守ることが必要なので、事実上法的拘束力を持つ。 施肥基準は普及員が農業者を指導する際のガイドライン(法的拘束力無し)。施用上限量なし。多くの施肥基準は堆肥を土壌物理性改良資材とみなし、施肥からの養分供給量を無視。
土壌や資材からの可給態養分供給量の計算方式 GAP規範や施肥基準の中で、土壌、家畜糞尿・堆肥・肥料からの可給態養分の計算方法を農業者に解説。 農林水産省が家畜糞尿・堆肥からの可給態養分量を計算して化学肥料の減肥方法の明確化を指示。未実施の地方自治体が少なくない。特殊肥料の品質表示に可給態窒素供給量が記述されず。通常の土壌診断では地力窒素供給量は分析されず。
西尾道徳「甘い日本の農地への養分投入規制」環境保全型農業レポート145/2010年1月31日
【資料3】は「硝酸指令(1991年)」に関する規則ですが、この他にEUの農業者は、「植物保護指令(1991年)」、「水枠組み指令(2000年)」等の諸規則も遵守して自分の農場のGAP(持続可能な農業)を実現し、結果として補助金を獲得しています。
これらのクロス・コンプライアンス政策の国民的な理解は、EUの持続可能な農業政策は、「市場経済では守られない公共財(水・土・空気)のメンテナンスをする農業者への補助金政策(グリーニング政策)」である という説明によるものです。
EU硝酸塩指令とGAP規範
【資料4】EUの持続可能な農業と硝酸塩指令
参照:EU委員会ホームページより
硝酸脆弱地域 の指定は、EU加盟国の農地の約61%(EU硝酸塩指令第6回実施報告書,2015年)を占めています。脆弱地域に指定された地域は法令による義務化ですから、加盟各国は、自国農業に相応しい「GAP規範」 を策定し、また、水質モニタリングを実施して【資料4】、4年ごとにEU委員会に報告することになっています。中には実施状況が不十分で、硝酸塩指令違反としてEU委員会からヨーロッパ司法裁判所に訴えられた国もあるということです。
GAPステージ1以降、EUの農業に課された環境保全と公衆衛生に関する規則(法規制)は、農業者にとって、それ以前とは比べものにならないほどの厳しさだったと思います。しかし、EU加盟各国が発行している『適正農業規範(Code of Good Agricultural Practice) (GAP規範)』やその『農場管理実践ガイド(Practical Guide)』によってサポートしてきました。
GAP規範には、「なぜ農業が原因で環境汚染が起こるのか?その汚染の原因と結果について解説し、その問題を解決するための行動規範(Good Practices)」が書かれています【資料4】。GAP規範はすべての農業者の必携の書です。従ってEUの農業者は、環境保全型農業という農業政策によってGAPがマナーとなり、その結果、流通ビジネスとしての総合的な農場認証監査は難なくクリアできた ものと思われます。
GAPステージ3では原点に戻って農業のゴールを目指す
こうしてGAPステージ1と2を経験したEUの農業者ですから、ゼロエミッションをベースとする「EUグリーンディール」の一環で実施される「ファームtoフォーク戦略」の農薬、肥料、抗菌剤、有機農業問題(GAPステージ3)も解決していくと思われます。
世界のGAPステージ1を経験していない日本が学ぶべきは、持続可能な農業のために必要な、日本に相応しい農業規則の策定と、その規則を遵守して持続可能な農業を実現するための農業技術の開発と実行の指導です。そのためには、「みどりの食料システム戦略」を実効性のあるものにして、農業の道しるべ(GAPの拠り所)としての『適正農業規範(Code of Good Agricultural Practice)』(GAP規範)を策定することです。そして、その規範に基づいて、期待される農業のゴールを目指すことが必要です。
「日本GAP規範第2版」は、世界のGAPステージ3に対応する
2021年9月15日に発行された「日本GAP規範第2版」は、世界のGAPステージ3を想定して刊行されました。この『日本GAP規範第2版』の内容を理解し、それぞれの農場の問題点を発見することによって、多くの場合、何らかの改善を期待することができます。適正農業管理(GAP)のコントロール(統制・調整)が良好であるということは、農業経営者としての社会的責任の表現として販売先や消費者からの信頼につながり、地域農業の発展に、やがては日本の持続可能な発展に貢献することにつながります。
このGAP規範は、読者である農業生産者やGAP指導者、農政に携わる人達に、適正農業管理(GAP)の理念や技術を伝えるとともに、生産現場において不適切な行為を見つけたときに、それをどのように改善したら良いのかというヒントや具体的な情報を提供することを主眼において書かれています。 また、農業生産者が取り組むGAPを消費者にも理解して貰うための資料としても利用できます。このようなことから、この『日本GAP規範』の内容は、これから期待される日本農業の全体像を意識した「日本農業の指針」として活用できるようになっています。
2021/10
日本GAP規範第2版(9月15日発行)~消費者との信頼の懸け橋となる農業とは~
日本生産者GAP協会 規範委員会
日本GAP規範の大改訂
一般社団法人日本生産者GAP協会の「日本GAP規範第1版」は、「自然・資源への汚染をなくす人と環境に優しい農業」を達成するための必携の書として2011年に策定され、日本におけるGAP啓蒙の書として、また、グローバル経済で必要な農場保証としてのGLOBALG.A.P.認証取得等のより所として活用されています。世界のGAPステージ3を迎えるにあたって、『日本GAP規範第2版』は、あらゆる面で環境に配慮した行動が求められる新たな時代の要請「環境に優しく公平で健康的な食料システムの国際戦略」に、日本の全ての農業者が対応できる実践の指導書として改訂されました。
日本生産者GAP協会/日本GAP規範
Japanese Code of Good Agricultural Practice Ver.2
監修:一般社団法人日本生産者GAP協会
編集・発行:株式会社AGIC
発売:株式会社幸書房
価格:3,520円(税込)(本体3,200円+税10%)
※協会会員は本体価格より1割引
※10冊以上のご購入で本体価格より2割引(会員・非会員問わず)
https://www.fagap.or.jp/gap/index.html
カロリーベースの食料自給率が37%(2020年)と極端に低い我が国は、世界最大の農産物純輸入国です。また、国産家畜の飼料穀物もほとんど輸入に依存しています。さらに、国内の農業生産を支える農業資材や肥料などの化学原料もそのほとんどを輸入に依存している状態です。
この危機的状況の打開策として農林水産省は、「みどりの食料システム戦略」を策定しました。「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する」という企画です。日本農業の取り組みは、「農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現」であり、前提として低リスク農薬への転換や総合的病害虫管理(IPM)の確立などが計画されています。
「みどりの食料システム戦略」が目指すものは、米国やEUなどの農業・環境政策に倣っています。それらは、欧州共通農業政策の農業・環境対策事業(GAP)そのものです。EU加盟各国では、GAP政策の実現に当たって「適正農業規範(GAP規範)」を策定し、農業者の必携の書としています。その代表的な書物「イングランドGAP規範(2009年発行)」に学んで策定(2011年発行)されたのが「日本GAP規範第1版」です。この度、世界の新たなGAP戦略の展開に合わせ『日本GAP規範第2版』を出版しました。
新たな時代の農業指導書として、個別農家の経営改善に、農業組織の戦力強化に、地域農業の発展と日本農業の消費者信頼のために、すべての農業関係者にご活用いただくことをお勧め致します。
2021/10
GAP Q&A~効果的なGAP指導者のポイントは? ~
株式会社AGIC 事業部
Q:
県普及指導員の多くはGAPの研修を受けており、中には民間のGAP指導員もいます。リスク管理や農場の整理整頓などについて頭の中では理解できて、自己チェックシートの作成指導は大方できるのですが、実際に農家に行って施設や圃場を前にした場合に、どういうポイントでGAP手法を実践すればいいのか、私も含めて戸惑っているところです。 効果的なGAP指導のポイントについて教えてください。
A:
①チェックシートはGAP指導の情報収集
そもそも「チェックシート」と「GAPの実践」は、「適切な農業の実践(GAP)」に関してそれぞれ別の角度から捉えた概念ですから、チェックシートの作成(農場監査)だけでは、良い農業指導とは言えないかもしれません。
チェックシートの作成とは、ある目的をもって、当該農場の運営や管理実態の良し悪しを、決められた基準に従って評価・判定することです。
目的には、行政が行う「当該農場に対する補助金支払いの妥当性確認」 や、認証団体が行う「農産物を取引する農場としての信頼性確認」 、取引企業が行う「契約栽培農場に対する各種規則の遵守確認」 などがあります。チェックシートによる農場監査は、それぞれの目的達成のための情報収集なのです。
従って、チェックシートの内容は、それぞれの目的に応じて項目と水準は異なっています。〇〇県が取り組んでいるチェックシートは、何を目的としているのでしょうか?
まずは、その点を明らかにすることから始めれば、普及指導員は自信と責任をもって農場監査を行い、その結果を当該農場のGAP指導に生かすことができます。
②効果的なGAP指導
質問の「GAP手法」 がどのようなものか分かりませんが、GAP指導者もGAP実践者も、まずは、「GAP思想」 について再確認することが必要だと思います。
GAP(Good Agricultural Practice)は、現代農業がもたらす悪い影響(外部不経済*)として起こる「環境汚染や健康被害等」の発生を極力減らすために、「農産物の安全性確保や持続的農業の実現のために必要な農場管理を実施(Practice)」するという考え方です。
従って、GAP実践(農場管理をGAPにすること)のためには、もしかしたら起こるかもしれない外部不経済を予測し、そうならないために事前に対策(予防原則*)を打つこと が必要になります。「手法」という言い方をするのであれば、GAPはリスク評価と評価に基づく事前対策の管理という手法なのです。あえて言えば、GAP指導は農場におけるリスク評価とリスク管理について指導すること です。
ところで、GAP指導の全体像としては、GAP思想の本命である環境汚染や公衆衛生等の外部不経済だけではなく、農業経営上の経済に影響を及ぼす(かもしれない)様々なリスクにも目を向け、評価・分析の上、事前の対策を取ることが必要です。
③GAP指導のポイント
GAPは、リスク評価からスタートします。リスク評価なしにはGAPはあり得ません。
なぜなら、GAPに取り組もうとするそれぞれの農場は、農場経営の規模や運営形態、それぞれの農場の機械設備や施設および労働体系、栽培する農産物や販売先など、農業の様々な環境が異なっています。経営者や管理者及びすべての作業者も、まったく違う人たちなのですから、そこで起こるかもしれない外部不経済は、何が起こるのか、どのように起こるのか、いつ起こるのか、どこで起こるのか、なぜ起こるのか、どの程度の問題(被害や汚染)になるのか、個々の問題は農場によって全く異なるからです。
個々の農場管理の課題解決のためには、「予防原則」に沿った「リスク評価」が必要です。〇〇県が目指す農業の在り方(農業行動規範)に関して、当該農場内にそれらを阻害する要因があるかもしれませんから、それぞれの農場の生産活動の実態を調査して、予防的対策を取るということです。
農場管理のそれぞれの場面を想定すれば、これまでに農業普及指導として実施してきた事柄がほとんどです。それぞれについて農場ごとに、「どこが問題?」、「なぜ問題?」、「どの程度問題?」を明らかにすれば、当該農場では、それぞれの課題について対策が明らかになります。取り組むべき課題ごとに、「いつ、どこで、だれが、なにを、どうすれば良い!」か、作業手順(管理規則)を決定し、全ての作業者に周知(教育・訓練)して実行に移します。
このようなGAP指導の結果として導き出されたそれぞれの管理規則の集合が農場のGAPです。
Good Agricultural Practice for 地域や農場の状態に応じた適切な土壌管理
Good Agricultural Practice for 成分を流出させない肥培管理と施肥設計
Good Agricultural Practice for 法令を遵守した農薬、燃油その他の資材管理
Good Agricultural Practice for 緩衝地帯がない圃場での適切な農薬散布手順
Good Agricultural Practice for 個別農家の外国人労働者管理
Good Agricultural Practice for 収穫・調整・出荷時の食品衛生管理
Good Agricultural Practice for JA選果場における衛生管理
Good Agricultural Practice for ~
その他、農場管理における様々な課題があります。例えば〇〇県では、それぞれの普及指導員が、それぞれの担当分野に関してのGood Practice を考え、標準化や事例などとしてドキュメント化し、指導していると思います。
これらについて、GAPの要求事項として、各JAが、各生産部会が、各農家が自らの生産活動においてバラバラなPracticesを総合化し、分り易い実施規則として実現しているかどうか、つまり農場で行われている実践(Practice)が適正農業(Good Agricultural)になっているかどうか、が問われているのです。
④生産者の主体性
農業者が何をどのようにすれば良いかについて充分な「指導」をしないで、つまり、あるべき姿を示さないで、シートでチェックすべき(しかも自分自身で)というのでは、それこそ農家が戸惑います。指導者が戸惑ったまま実務に入れば農家はそれ以上に戸惑い、そのようなGAPは農家から否定されることになるでしょう。
*外部不経済: 市場を通じて行われる経済活動の外側で発生する不利益が,個人,企業に悪い効果を与えること
*予防原則: 重大な或いは不可逆的な損害の恐れがあるときには、充分に科学的にその証拠や因果関係が提示されていない段階でも、リスクを評価して予防的に対策を採らなければならない。(1992年にブラジルで開催された国連環境開発会議で宣言された「リオ宣言」第15条)
2021/10
公的機関(岐阜県)が取組む「GH農場評価制度」~生産者と消費者との信頼の懸け橋のために~
日本生産者GAP協会 評価制度委員会
岐阜県は、農業振興政策の一つとして2020年11月に『ぎふ清流GAP評価制度』を開始しました。その内容は、
農業者の農場管理の実態を分析・評価し、
当該農場の管理上の課題や改善点を個別指導により提示し、
農場のGAPコントロール(農場管理)を向上させ、
農場の生産性と環境保全対策を向上させ、それらの成果を普及・促進し、
その結果として、
農産物マーケットから、農家JAなどが産地全体として信頼を勝ち取る、という総合的で実践的な農業政策です。
『ぎふ清流GAP評価制度』は、GAP認証ビジネスではなく、公的機関による農場評価と農業指導の専門家が、客観的な評価により農業経営体や生産部会などの経営組織の管理水準を明らかにするという、公平で公正な農場評価制度です。公的機関の農業技術指導者によって行われるGH農場評価とGAP指導は、農家の生産性を向上させるとともに、農業環境と周辺の自然環境の持続性の向上や農産物・食品の衛生管理、経営管理の妥当性など、農業者の経営を総合的に支援する農業指導事業です。
このように農業の生産性と環境保全を総合的に向上させるという目的を達成することが「日本GAP規範に基づくGH農場評価制度」の目的です。国などが推進する国際水準GAPといわれる農場認証の課題を、「農家に加えられた新たな負荷」と位置付けるのではなく、GAPをこれまでの営農指導の総合化として位置付けることにより、GAP認証のコスト問題の解決にもつながっていくことにもなるでしょう。
そのために「GH農場評価制度」は非営利で運営することを目標としています。普及指導員のGAP指導に支えられる『ぎふ清流GAP評価制度』は、その客観的な農場評価が岐阜県によって実施されるということで理想的な形になっています。
一般的なGAP認証は、「認証を取得していない農家からの農産物は仕入れない」という国際社会の排除の論理で成り立っていますが、英国の全国農民連合(NFU)が開発し運営している農場認証制度「レッドトラクター」では、大部分の農産物とその加工品(英国の農畜産物の約80%)がこの認証を受けており、英国の国民から圧倒的な支持を得ています。農産物の買手側ではなく、生産側が行っている農場評価制度が消費者から信頼されている代表的な事例です。
同じく生産側で評価を行う『ぎふ清流GAP評価制度』は、仕組みの開発と農場評価を「県独自」ではなく、全国の多くの都道府県で共通の仕組みとして使用されている「グリーンハーベスター(GH)農場評価制度」を利用して農場評価を行うことによって、公平性・透明性を担保しています。
生産者と消費者との信頼を結ぶ懸け橋として、消費者や取引先の企業の信頼を獲得することで、岐阜県の農業振興に大きく貢献していくことを目指しています。
2021/10
セミナー受講者の修了レポート(感想や考察)の紹介
株式会社AGIC 事業部
「青果物集出荷施設(選果場等)衛生管理セミナー」
受講者 JAグループ営農支援部職員
私は、食品の安全安心対応の担当者として、質問対応や資料作成のなかで衛生管理に関する知識が足りていないと感じていた。その中で今回のセミナーを受講することで、衛生管理の基本的な考え方から、実際の青果物選果場での取り扱いの仕方など、日本国内やスペインなど海外の例を比較しながら確認することで、理解を深めることができた。特に自分の認識を改めることができた点は以下である。
まず、衛生管理の本質は、安全安心を害するリスクを発見し、管理し、管理がうまくいかない場合は改善をするという点である。つまり、衛生管理は加熱殺菌や異物検出など、発生したリスクをなくすものというよりは、むしろ、衛生管理計画やルールの見直し等を行うことでリスクコントロール(内部統制)を充実させ、リスクの発生自体を抑えるアプローチに本質があるということである。実際に講義のなかで、スペインの選果場の優良事例では、施設内部を清潔作業区域と汚染作業区域に分けていたり、品目ごとに保管場所の定置化が行われていたりして、ハザードの発生自体を抑える仕組みが構築されていた。日本の選果場ではほとんどできていない仕組みであるとのことだったが、このような仕組みが構築され、その選果場にあった衛生管理ができれば、他の産地との衛生管理による差別化ができると感じた。
また、講義のなかで、BPA(最も良いやり方は何か)を常に考えながら、その選果場に合った衛生管理計画や、それを具体的にした手順書を作成することは、衛生管理を通じた、その産地のアイデンティティの構築につながると学んだ。しかし、BPAはそれぞれの人の価値観によってずれが生じてしまい、さらに衛生管理上良くないことでも、現場で当たり前に行われていることは気づきにくい。そこで、気づかせるための教育を積極的に行うことはもちろん、職場での話し合いを通じて意見をくみ取り、作業現場の人も巻き込みながら衛生管理を実践していくことで、より組織が一体となって取り組めると考えた。
選果場での食品衛生管理は、生産者と消費者を結ぶ信頼の架け橋である。今後、日本の農産物の世界への輸出が増えていく中で、形や味だけではなく、衛生管理で信頼されずに売れなくなるということがないように、食品衛生管理の重要性について、今回学んだことを具体的に実践するとともに関係組織に伝えていくつもりである。
青果物集出荷施設(選果場等)衛生管理セミナープログラム
セミナーの内容
受付(入室)/オリエンテーション
講義 1.HACCP制度化と青果物集出荷施設等の衛生管理
2.「生産段階で安全管理された農産物の取り扱い」
3.「青果物集出荷施設の衛生管理とは何か」
講義 4.「一般衛生管理」
5.「作業工程で青果物に悪影響を及ぼす原因と衛生管理」
昼食休憩
講義 6.「衛生管理計画」
7.「リスクの発見と対応策」
演習 8.「施設の現状評価(リスク発見の演習)」
講義 9.「管理ツールの作成」
演習 ・商品管理説明書、衛生管理計画書、手順書、季肋簿等
セミナーのまとめ
・受講レポート
・研修総括スピーチ
2021/10
GAP・GH関連用語の解説 《GH農場評価制度》
日本生産者GAP協会 出版委員会
通称「グリーンハーベスター農場評価制度(略称:GH農場評価制度)」は、GAP的にコントロール(統制・調整)された健全な農業であることを農業者自らが確認するための制度です。
農業者や生産組織などの農業経営体が『日本GAP規範』の内容をどの程度達成しているかを、「GH農場評価規準」に基づいて専門のGH評価員が客観的に評価し、農場管理や生産技術などの改善指針を提供します。GH農場評価を受けた農業経営体は、「農場評価報告書」に示された評価結果に基づいて、環境と人および農産物と家畜などに関するリスク低減の改善計画を実践することになります。
GH農場評価は、農業者の農場管理や作業手続きの良し悪しを指摘することが目的ではありません。実践している農場管理の「どこが問題なのか?なぜ問題なのか?どの程度問題なのか?」を明らかにし、今後は「どうすれば良いか?」という「農場管理の解決策」にフォーカスしています。
それは未来に向けての前向きなアドバイスであり、また農業者の主体性を尊重する「評価コメント」を残すことで、農業者のやる気や自主性を促すことを目的としています。GH評価員の、農業者を助けようとする気持ちや、農業者の農場管理が良くなって欲しいという願いが、農業者に伝わる「農場診断」のツールなのです。
また、GH農場評価は、農業経営体を持続的な農業へと導くための農業者や生産組織のGAP教育システムでもありますので、GLOBALG.A.P.などの国際規格のGAP認証を取得するための体制作りや教育訓練システムとしても効果的にご利用いただける実用的な制度です。
GH農場評価で診断をした結果は、適切にコントロールされた経営体であることを消費者や取引先の企業に説明するための手段としてご活用いただけます。
『日本GAP規範』の姉妹編として出版されています「GH農場評価ガイドブック」を利用して、足元の農場の問題点を正確に把握するとともに、持続可能で高度な農業経営管理を目指して下さい。
GAP実践のためには正確なGH農場評価が必要であり、そのため、GH評価員(GAP指導者)には高い農場評価力が求められます。『日本GAP規範』の正しい理解は当然のことですが、同時に農業現場におけるリスクを見抜く観察力と洞察力が必要になります。
また、具体的な情報収集は主に農場関係者からの聞き取りによって得られるため、評価員は寛容性、倫理性、外向性などの力量も求められます。
一般社団法人日本生産者GAP協会では、農場評価の能力を高めるための評価員の教育プログラムを実施しております。GH評価員は、全国の多くの都道府県の農業普及指導員や農業協同組合の営農指導員などから実力で試験に合格された方々であり、責任あるGH農場評価ができる能力を持っています。
2021/10
株式会社Citrusの農場経営実践(連載40回)
~ギリギリ社員1名確保、研修生も続いて~
佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事 元和歌山県農業大学校長(農学博士) 株式会社Citrus 代表取締役
今年2月21日付けで社員1名を新規採用した。昨年6月にCitrus勤務5年目の社員から来年2月末で退社し自立就農したいと届出があり、人材育成が会社定款にあり、自立と申し出がある以上強く遺留を求めるのもポリシーに反すると理解しつつも会社運営者としては株式会社Citrusをどうすればいいのだろうかと不安な状況が続いていた。農林大学校の卒業生や研修生の受け入れを掲げ昨年末まで募集を続けて来たが誰も応募がなかったが、今年の2月5日に昨年に弊社に農家研修に入っていた和歌山県農林大学校就農支援センター社会人課程の研修生(地元出身)の大前育摩氏が、就農支援センターで社員募集していると聞いたので相談したいことがあると訪ねてきた。研修期間中の大前氏は研修修了後に就農と聞いていたので、強く入社を求めなかったが、本音は大前氏の人柄や仕事ぶりを見て密かに入社を望んでいた。そこで、その思いを就農支援センターに伝えていたところ相談に訪れたのである。大前氏の相談事とは「近い襲来将来に自立就農したいが農地確保や経営のめどが立つまで弊社で働かせて欲しい。短期雇用でも採用してもらえるのか」と言うことであった。私からは少なくとも3年間は勤務して欲しいと提案したところ大丈夫ですと答えたので、即刻内定通知した。昨年は25日間一緒に仕事してもらっていたので迷うことはなかった。それに、農林大学校の研修終了者であり会社設立時のポリシーもクリヤーした。
図、谷端氏(手前左)、大前氏(手前右)合庭氏(後ろ左)東山主任(後ろ右)佐々木(中央)
2021年度も社員2名、研修生1名(地域おこし協力隊事業)の3名での農作業が進められることとなった。昨年3月入社の女子社員を弊社の企画・管理主任に任命し各種事業計画作成を任せたところ、とても社員経験1年とは思わないくらいのスピードで作業計画や事業計画を樹立し、主任としての責任を果たしてくれるようになった。さらに女性としての鋭い企画力を発揮し、私が訴えているグロワー/シッパー構想を押し進める形ができてきた。リーダーを女性とすることでシッパーを担当する株式会社みかんの会の男性社員をも巻き込んで農作業を手伝ってもらえるような企画を提案し協力体制が整ってきた。そうして株式会社みかんの会の事業にも参加する運びとなり、毎月1回両社の会議を持つことも決まった。両社の若者らで意見調整がスムースに進み私のがまとめ役をするまでもなく計画が進められるようになってきた。
図 グラワーシッパー定例ミーティング
一方研修生の合庭氏(地域おこし協力隊)の2年後の自立についての方向性が役場担当課と調整ができ研修生自立のための農地(みかん園)を弊社Citrus名義で利用権を設定しながら確保していくこととなり先日一件優良な園地が確保出来た。研修生の合庭氏は、自分の名義で農地を借り受けできないシステム(今借り上げると自立となり研修中断とみなされる)のようであり、これには役場農業委員会が協力してくれることとなり、農地確保に心強い味方ができた。今回の離農希望農家の一件を役場ぐるみで解決できたことは役場職員からもいい勉強になったとコメントがあった。話の始まりは、弊社に研修に入っている合庭氏のことを知った離農希望農家が研修生の合庭氏に直接農地管理依頼があった。当初いい話と思ったが研修システム上の課題があり、離農希望農家、近隣農家、弊社を交えた会合を役場が企画し進めたことで、離農もスムースに進み、近隣の農家も借受可能な農地を確保してその会合により離農農家の農地の放任が回避できた。
事業を進めていけば課題にぶつかるが情報公開で助けが入る現状に少しは安心感を持てる運びとなった。
一方自立就農を目在して退社した谷端氏は有田市の篤農家に1年間弟子入りするかたちで就農し、その後その農業経営を継承するようになると言う報告を受けた。今年に入り離農・就農が交差する現状に直面し、いまのところ結果オーライのような気がしている。
しかし、新規就農にあたり農地の確保に大きな課題がある。離農しようと考える農業者の相続人に当たる息子や娘の考えが表に出てこないので、相続した農地を継続して貸してくれるのかどうかの確認は難しい。今回の借り受けた農地も高く購入してくれる方が現れたら直ぐにでも売りたい意向も示していた。新規就農者は農地を買う余裕がない。
図 有田川町農業後継者受入協議会設立メンバー(8月25日)
5月に入りみかんの花も満開をむかえたとき、フェイスブックを通じて知り合った方から、引きこもり青年を農業研修生として2年から3年指導して欲しいとの依頼があり、依頼者はその青年に依頼者の農所有する農地の管理を任せたいと言うのだ。研修条件など全くの白紙状態でその青年家族と面談した。依頼者はその青年の雇用を望んでいたが、会社としては9期目の決算は赤字であり雇用しての研修は全く考えていないことを青年家族との面談をおこなう前に依頼者に伝えた。それを承知で青年家族と話し合った結論は、無報酬で1年間社員と共に仕事を続けると言うこととなり、6月から研修に入った。通勤には高速道路で1時間を要する距離である。引きこもり2年間でみかん栽培管理作業が続くかと半信半疑のスタートとなった。我が社での人間関係がよかったのか休まず続いた。そこで社員みんなで話し合い研修期間を週に4日としてルール作りをした。サマータイム(午前6時、お昼休みを長く午後6時終業)のときは週3日間の実習とした。青年は家を午前5時に出ることとなっても休むことなく出勤してきた。勉強意欲は本物と社員らで確認し合った。その一部始終を県関係者に伝えたところ、令和3年度から国の就農準備型資金が適用されれば県はさらに30万円上乗せするとう事業があることを伝えてきた。その事業採択条件とは農業後継者受入協議会を設立すれば、その組織で研修を受けたいという青年に適用できるシステムである。受入協議会設立の話は昨年の8月頃有田川町で取り組みたいとメンバーメンバー登録の依頼があり1番バッターで登録した経緯はあった。今年7月に入って研修生が具現化したので町に組織化を急がせた。町としても即対象者が現れてこなかったので組織化の進捗はなかったが、現況を知った町職員が動いた。結果、今年の12月から準備型支援を受けるための事務手続きに入ることとなった。これにより青年(31才男)は180万円(国150万円、県30万円)の支援を受けながら有田川町受入協議会内で農業研修を受けることが可能となる。ウンシュウミカン栽培研修は弊社Citrusで野菜は別途野菜農家でと計画書を作成している。但し研修期間終了後1年以内に就農が条件である。従って弊社には2年後必ず2名の研修生を就農させる役目が発生した。
コロナ禍での経営の危機はこれからも続くがコロナ関連の事業令和2年度経営継続補助事業も1月末ギリギリに事業が完了し実績報告をネットで出来た。今のところ人員確保、ハード整備など順調に運営できている。
図、農産加工品配送用軽トラックとドライフルーツ製造用スライサー(経営継続補助事業)
2021/10