-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 78号

《巻頭言》
『実践ガイド 生態学的土づくり』 日本語版出版に当たって

二宮正士 一般社団法人日本生産者GAP協会常務理事
東京大学農学生命科学研究科特任教授(名誉教授)

「みどりの食料システム戦略」に向けた必携の書

  今回生産者GAP協会が出版しました『実践ガイド 生態学的土づくり』は、英名『BUILDING SOILS FOR BETTER CROPS』といって、直訳すると「より良い作物のための土作り」という本です。アメリカ農務省(USDA)下でのプロジェクト活動SARE(Sustainable Agriculture Research and Education:持続的農業の研究と教育,https://www.sare.org/)が編纂し第4版(https://www.sare.org/resources/building-soils-for-better-crops/)まで版を重ね、アメリカで長い間愛読されている本です。昨年翻訳して、農文協さんの力をお借りして出版することができました。元々がそうですけど日本語版も400ページを超える大著で、簡単に読むのは大変かもしれませんけれども、あえて翻訳したのは、本協会として共鳴できる内容かつ非常に分かりやすかったからでもあります。

 ご承知のように「みどりの食料システム戦略」が、2021年5月に農水省からアナウンスされました。農業の持続性と生産性の両立を掲げながら、今後ほぼ30年にわたる長期的な農業政策です。かつてこれだけ長い農業政策が国から示されたことはないと思いますが、その中で重要なキーワードとして「土作り」という言葉が出てきます。土づくりという言葉は、農業に関係している我々にとっては、当たり前のように聞く言葉です。しかし、それを説明しろと言われて、体系的にきちんと説明できる人はどれだけいるでしょうか。私は農学系の研究者ですけども言葉は知っていても説明はできません。私から農家の皆さんに聞いてもいろいろな答えが返ってきて、勉強しようと思ってもなかなかその全貌がよくわからない、きちんと体系としてどうなっているかよくわからないのです。非専門家にとっては、ある意味言葉だけが先行しているというようなことかもしれません。そのような中、この本に出会い、これをちゃんと読めばそれなりにきちんと分かるなと、我々としても確信を持ち、翻訳出版して日本の多くの皆さんにも読んでいただこうと思った次第です。既に大学等でも英語版を使って講義をされているなど、いろいろな話を所々でお聞きしていますけれど、やはり日本語化しないとなかなか普及は難しいだろうということで、翻訳することにしたわけです。

  先に述べたように大著なのでいきなりすべてを読破するのはなかなか大変ですけれど、部分的に読んでいって、そうなのかと理解するのもよろしいと思います。土づくりというと、繰り返しになりますけれど、何となくぼやっとは分かるけれども、実際その背景としての科学がどうなっているのか、技術的背景がどうなっているのかということを、これを読めばよくわかる、理由がわかる、そういった本になっているので、この「みどりの食料システム戦略」、あるいはそれを支える一環であるGAP等にとっては、極めて重要な書物だと思っています。 ご承知のようにアメリカの普及組織は、大学とかなり強く関係しています。そのため、大学やUSDA研究所の専門の研究者等が一緒になって版を重ねてきた本です。理論的にも技術的にも背景的にも、非常によく書かれた本です。ただ、一点だけやや残念というか仕方がないのですが、水稲については記述がありません。それでもこの本は非常によく勉強になると思います。我々としては、日本の研究者など関係者の皆さんと協力して、この本の作り方に習いながら、水稲版の土づくり本を出版できればと考えています。

  本シンポジウムに向けて、SARE代表から寄せられたメッセージ(https://fagap.or.jp/seminarsymposium/symp2023/index.html#message)中で、「農家は私達の社会の基盤であり、土壌や水などの天然資源の最も重要な管理者である」と述べられています。また、「本書は土壌管理に関する知識を広め、実際の作業をしている農家との会話の指針となる最も役立つ出版物の一つであります」とも述べています。私達もその通りだと思っているところです。また、最近この本著者の1人が日本で行われた関連の学会でも、日本語翻訳出版のことを紹介していただいたというふうにも聞いています。

プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)

  先ほど「みどりの食料システム戦略」について述べましたが、EUの「ファーム・ツー・フォーク戦略」や、アメリカUSDAの「農業イノベーションアジェンダ」など、農業の持続性と生産性の両立を目指すための政策が、世界各国でこの数年間、さまざま出されています。EUが2030年目標であるのに対し,日本やアメリカは2050年目標という30年にわたるすごく長い実施期間の戦略ですが、大きな技術イノベーションがないと実現できないと思われます。

  それら戦略の背景のひとつにあるのが、ご存知の方も多いと思いますけれども、「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」(https://www.stockholmresilience.org/research/planetary-boundaries.html)という考え方です。15年ほど前にスウェーデンの研究所を中心に発表されました。それは、今我々が住んでいる地球システムの環境を不安定化する要因をいくつかのカテゴリーに分けて、それらがどのようなリスク状態にあるのかを定量的に判定するものです。それぞれのカテゴリーについて、安定しているのかより悪い状況に向かっているのかを定量的に示すもの考えてください。図は2023年に出た最新版です。赤の色が濃いほどリスクが高いと言うことになります。

  例えば、新規の化学物質というカテゴリーは、プラスチックだとか農薬だとか地球上に今までにはなくて人工的に作ったものが地球環境にもたらすリスクです。この他、気候変動、生物多様性や生態系、土地利用、淡水利用、海水の酸性化、あるいは農業的に重要な窒素とかリンの循環などのカテゴリーがあります。2009年当初は、7つのカテゴリー領域を定義し、そのうちは3つのカテゴリーのリスクを判定しました。その後、9つのカテゴリーに増えましたが、最新版では、そのうちの6カテゴリーがおおきなリクスにあるという判定になっています。それらのリスク要因の原因を見てみると、非常に残念なのですけれども、ほとんどで農業が大なり小なり関係してしまっているというのが現状です。

「生態学的土づくり」で「地球環境と食料」の持続性

  ご承知のように、20世紀農業というのは、食料の生産性を上げるという意味で大成功しました。しかし、多肥でも倒れにくく多収な品種育成の成功とともに、化学物質に大きく依存し、あるいは何も考えずに水を使いまくった、ちょっと極端な言い方をすれば、そのような農業で実現できたわけです。その結果として、残念ながら「プラネタリー・バウンダリー」で定義される多くのリクスに影響をおぼすことになってしましまいた。そのため、各国政府がこのままでは本当に持続的な農業生産ができなくなる、未来どころか我々の分まで脅かすかもしれないということで、慌てて動き出したという訳です。これまでも長い間、農業によるこのようなリスクは警告されてきましたが、ようやく世界の常識になったということです。

  さて、農業の持続性ということを考えたときに、今私がお話した地球環境や生態系の話だけではなく、もう一方で、我々の食料の持続性も考えなくてはなりません。生産性はもちろんですが、その安全性や品質と栄養価もちゃんと十分担保できるものを用意する必要があります。あるいは、地球環境変動への対策も必須です。農業がメタンガスや亜酸化窒素を排出するなど、全体の地球温暖化の25%にも責任がある中、気候変動が原因と思われる異常気象などによる被害を被っているという非常に皮肉な状況にあるわけです。また、日本はもちろん途上国も含めて世界中で農業生産者の労働力不足が危惧されています。安定的で継続的な生産のためには、当然農家の安定収益ということも考えなければなりません。その他、農業資材確保も重要です。最近話題になっていますが、日本は肥料や種子の自給率がほとんどゼロいうとんでもない状況にあるわけです。

  緑の地球を考えながら、我々の食料を持続的に安定的に担保するということは、ものすごく難しい問題に直面しているということになります。我々は知恵を絞ってどうにかこれを解決しながらやっているということです。その中で、今日話題になっている「土作り」ということを考えると、多くの点で問題解決に貢献できそうです。化学物質投入の軽減や生物多様性の向上はもちろんも、生産性にも関係するでしょう。場合によっては、地球温暖化ガスの発生も抑えられるわけで、気候変動緩和へも貢献できます。さらに、不耕起による労働力低減や、化学物質の投入量の低減でコストダウンもできるかもしれません。「土作り」という、多くのことに同時に貢献できるんだということを同時に理解しながら、今日、明日と2日間に渡って勉強して理解を深めるとともに、活発な議論ができたらいいなと思っているところです。

2024/4


《特集 実践ガイド 生態学的土づくり》
『実践ガイド 生態学的土づくり』 を必要とする背景
1 環境負荷低減型農業では農業を持続できない

2023年度GAPシンポジウム講演

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

GAPは生態学的土づくり

  GAPを普及推進する立場の協会が「土づくり」をメインにシンポジウムを開催することについて、"そこだけか"と違和感を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、むしろ"そここそが"という思いでシンポジウムのテーマにしました。このことは今回始まったことではなく、元々「農業の根源的なものは土壌であり土作りである」ということは農業者なら当然に思うことであります。その意味、あるいはその価値というものが、時代によって大きな変化を起こすということを踏まえて、GAP(適正農業)の概念をもう1回見つめ直す必要があると考えております。今回はそのきっかけについて、私から概念的に申し上げたいと思います。

 「Good Agricultural Practice」は、農業の工業化が進むにつれて進行した「農業由来の環境汚染を削減するための農法」として誕生した考え方です。この農法の効果は、「人の安全、環境保全、動物福祉、食品安全が持続的に維持される」ことです。つまりGAPとは、持続可能な農業・農法のことです。

  農業は、生物地球化学の循環や生態系などに最も大きく関わっている産業です。今や人類の絶対的な使命であると認識された「持続可能な社会作り」において、農業分野が果たすべき役割は大変大きなものとなっています。その農業の実践ポイントが「生態学的土づくり」であるとすれば、端的な言い方をすると「GAPは生態学的土づくり」だということになると思います。

環境破壊型農業を是正するGAPから環境再生型農業を推進するGAPへ

 そこで、はじめにGAPと略されたGood Agricultural Practiceの言葉を整理してみたいと思います。私たちの命の元は食であり、食料は農業で作られるから、農業は永遠に続くものでなければならない。つまり、農業はもともと持続可能な産業なので、あえてGAP(適正農業)という言葉(概念)は必要性がなかったはずです。ところが、農業はそもそも自然に対する人為的行為であり、工業化へと続くその延長線上で自然環境の悪化を招くこととなりました。そして、その原因となる行為を「不適切な農業・農法」として反省し、新たな農法が「Code of GAP(適正農業規範)」として提案されたのです。

  人間を取巻く環境の変化とそれらを解明する科学の進歩によってエビデンスが示され、農業・農法の価値判断が変化した結果GAPという言葉が生まれたのですから、GAPの概念は時代による価値観の転換とともに変化することとなります。時代によって食・農・環境についての「良い・悪い」の判断が変化していくということは、ある時代に"GAPである"と捉えた概念であっても、時代が変われば、それまでのGAPは不適切な行為になることもあるということです。

  現在、問われている時代の変化の根本的な問題は、「プラネタリー バウンダリー(地球の限界)」が見えてきたところから大きく変わって来ました。そのような科学的知見に基づいて、農業の最も肝心な土壌資源についても、改めて、科学的に見直しすることが必要になってきたということです。「プラネタリー バウンダリー」の時代になって、土壌資源を科学の目で見て農業を考えるということになれば、農作業や農法あるいは農業そのものについての考え方、やり方、手続きなどの変化も伴うこととなり、それは農業自体の概念変化、パラダイムシフトにも繋がっていきます。 その場合GAPについては、これまでの農業は自然環境を破滅させかねない農業だから、「環境破壊への行為を縮小・削減する農業」をすべきであると考えられてきましたが、これからは「自然の力によって土壌を改善しながら自然環境を回復していく農業」という考え方が求められ、これはリジェネラティブ(環境再生型)農業と言われて知られつつあります。こうした思いが今回出版した米国の農業教育書『実践ガイド 生態学的土づくり』の翻訳出版に繋がりました。

世界のGAPステージ3段階

 最初に世界の適正農業(GAP)について、歴史的な段階を追ってそのステージごとに特徴を確認していきたいと思います。「世界のGAPステージ3段階」の考え方は随分前(2020年度GAPシンポジウム2021/2)に公開し、様々なところで議論を詰めて来たものです。グリーンハーベスター(GH)農場評価制度およびそれをベースにした営農指導の基本体系としてのGAP論として、また、これからの日本農業、世界農業のGAPを形作っていくためにも、GAPステージ3段階は重要な枠組みになると考えています。

  この[表]では時代の流れをステージ0、1、2、3、の4段階に分けています。1960年代70年代の「ステージ0」は、農業の近代化による生産性向上の下で自然環境の汚染が始まったとされる時代で、GAP概念ゼロの時代です。1980年代90年代は農業由来の環境汚染が認識されて、その改善のための適正農業(GAP)の言葉が誕生し、環境保全型農業が推奨された「GAPステージ1」の時代です。2000年代はグローバル化で人も農産物も国境を越えて移動し各国が相互に依存する関係となり、農産物仕入れ先農家の認証制度や食品衛生管理制度などの国際標準化が進んだ「ステージ2」の時代です。この間に農業による地球温暖化への悪影響などが指摘され、2020年になると先進各国では持続可能な農業に向けた農業戦略の大転換が唱えられてGAPは「ステージ3」の段階になりました。このように「GAPステージ3段階」の枠組みで見ることによって、GAPの意味や理念、および存在意義やその使命を理解することが容易になります。

GAPステージ1 環境保全と補助金の政策

  農業による自然資源の枯渇や自然環境への汚染などをなくすこと、それは「人と環境に優しい農業を目指す」という言葉で表されて来ました。この言葉がGAPの目標でありGAPの行為そのものだったと言っていいと思います。

  欧州のGAP政策を見ると、自由貿易を目指す世界動向の中での各国との貿易交渉による影響があったことが分かります。1980年代以前は、農業振興の補助金は所得補償や輸出振興などの価格支持政策だったものが、「ガットウルグアイラウンド農業合意」以降は、環境保護への直接支払いに代わりました。この多角的貿易交渉で、国内農業保護政策を環境保全などの「緑の政策」にシフトすることが方向づけられたからです。

  GAP推進の最大の要因と思われる政策にはEUの「硝酸塩指令」や「植物保護指令」その他の法令があります。また、土壌、生息地維持や景観保護の環境条件GAP(GAEC)、EUが定める環境、動植物の健康、動物福祉の法定管理要求(SMRs)があります。これらの環境保全型農業の実施が補助金支払いの条件となった制度をクロスコンプライアンスといいます。EUは加盟国を通じて補助金の支払いに関する個別農家の査察を行い、不適切な行為があれば、程度に応じた補助金の返還やその他の罰則などの措置を取りました。

適正農業(GAP)の規範(CODE)

  EUの加盟各国は、これらの農業規制に対して農家がどのような対応をすれば農業の目的が達成できるかを記述したCoGAP(Code of GAP:適正農業規範)を発行しています。これは、農業由来の環境汚染の原因と結果について解説するとともに、「農家は自らの責任を認識して汚染を起こすリスクを最小限に抑えなければならない」と説く農業指導書です。

  欧州では、このGAPステージ1で、厳しい法規制と対策の指導、並びに農業補助金の環境支払いによって、環境保全GAPが「農家のマナー」と言われるまでになったのです。CoGAPの環境保全という概念は、自然環境、植物の健康、動物福祉、それに土壌有機物と生息環境、水環境などが劣化しないような土壌管理に努めるということで、慣行農業となった近代化農業の不適切な行為による環境負荷を削減することが目的です。

   環境負荷の削減を目的としたCoGAPを遵守することによって、健全な土壌の管理、安全な化学物質の管理、健全な動物の福祉などが身につき、消費者の信頼に応える健全な農業管理が実現します。それらの実践項目についてCoGAPでは、自然環境の責任ある使用と保護を意味する「スチュワードシップ」は、神に託された土地を責任をもって管理する農家の本分(責務)であるという前提で解説しています。

  CoGAPは補助金を得るためのガイドブックではありませんが、規範を遵守していればEUの査察で咎められる(補助金返還)ことはありません。欧州の消費者によるGAPへの信頼は、CoGAPの理念にあるのでしょう。補助金を支払う政府の側も、「市場では守られない公共財(水・土・空気)のメンテナンスをしている農家の所得を補うものである」と明言しています。

GAPステージ2 流通ビジネスとしての農場認証監査

  グローバル社会では国境の壁を越えて多くの人が行き来し、あらゆる物が流通することになりました。複雑で膨大になったサプライチェーンの中で、商品の信頼性確保は貿易上の重要課題です。欧州では早くから経済共同体として加盟各国の自由な農産物貿易が行われていましたから、スーパーマーケットなどの食品取扱会社は独自の農場確認監査を実施していました。2000年代になると多発する食品事故に備えてHACCP義務化など包括的衛生規則が定められ、加盟国以外(EUに輸出する産地)にも適用される動きになって来ました。また、食品のトレーサビリティ法の整備も加盟各国で進められました。

  ただし、グローバル化を振興する世界情勢で貿易障壁になる可能性が高い農場確認検査は、国や地域の行政府が一切関与しないという国際的了解の下で、小売業団体などを中心とする民間組織が実施することになりました。その中でEUREP(欧州小売業農産物作業グループ)が2001年に最初の認証農場を発表した総合農場保証制度「EUREPGAP」が、2007年に「GLOBALG.A.P.」と改名し、現在では事実上の世界標準と言われるようになっています。

  日本ではイギリスにリンゴを輸出していた農家(片山林檎)が2004年にEUREPGAP認証を取得し、それを支援した㈱AGICは「JGAP認証制度」を開発して2005年に運営機構「JGAI(Japan Good Agricultural Initiative)」で認証を開始しました。JGAP規準Ver.2.1(青果物)は、2007年にEUREPGAP規準Ver2との同等性を認証され、日本のGAP農場認証制度が本格的に始まったのです。その後のJGAPは、GLOBALG.A.P.規準Ver3との同等性認証がなくなり、行政や流通業界の支援を受けたASIAGAPを開発し、農産物生産部門の食品安全マネジメントシステムとしてGFSI(世界食品安全団体)の承認を受けています。

環境負荷低減では農業を持続できない

  GAPステージを整理してみると、政策としてのステージ1「環境保全型農業」の流れはずっと続いているし、それを背景にしたステージ2の流通ビジネス上の「農場認証監査」も続いています。ところが問題は、そういった「環境を守る活動」や「食品安全や人権保護の社会的責任」だけでは、「地球の限界」とまで言われる不可逆的な環境変化には対応できないということがわかってきたということです。未だ人口増加が進む地球上で、農業の持続可能性のためには新たな展開が必要だということです。

  そうすると、「農業生産性を向上させると同時に自然生態系を健全にする農業」を目指す以外に方法はありません。これには、今までの農業の考え方をひっくり返すような大改革が必要です。農業による環境への負荷を削減するという単なる改善策ではなく、農業・農法の概念を変えるパラダイム転換です。「農業の生産性を向上させる農業・農法によって、人間が安全に生存できる地球環境に変える農業」という夢の農業です。環境再生型農業という言葉に相応し農業概念にならなければならないと思います。

GAPステージ3 国際戦略としての持続可能な農業

  環境再生型農業を目指す政策の背景にはSDGs(持続可能な開発目標)があり、SDGsを前提にしたEUのグリーンディール政策が生まれました。さらにグリーンディールの中核となる政策として「ファーム・ツー・フォーク(農場から食卓まで)戦略」が発表されました。この政策には、良く知られた具体的な戦術目標があります。化学肥料を2割減らすこと、化学農薬は半分に減らすこと、有機農業を全体の25%にすること、などを2030年までに達成するということです。

  米国では「農業イノベーションアジェンダ」という政策で、同じような達成目標を掲げています。そして日本でも、「みどりの食料システム戦略」として、世界の新食糧戦略に歩調を合わせようということになったわけです。

  人間が安全に生存できるためには、地球環境と食料供給の安全の下に、農産物の生産流通における食品安全も確保されなければなりません。食品安全管理は当然良い農業の前提条件ですが、農作業におけるHACCPシステムの実施は不可能です。農場認証監査(GAP認証)では、HACCPの考え方に基づいたリスクアセスメントが要求されていますが、実態としてはHACCPの前提条件とされている「一般衛生規則」です。また、元々食品の安全性管理に重点を置いているGAP認証でしたが、SDGsの流れやESG投資の現実化などにより、流通ビジネスとしての農場認証監査においても「環境再生型農業」を志向する方向性がみられるようになっています。

  こうして2021年に世界のGAPは「ステージ3」に移りました。これは、「環境に優しく公平で健康的な食料システム国際戦略」が始まったということによります。生産性の向上と自然生態系の保全を両立させる農業を目指すという環境再生型農業を実現することは国際的な大義と言われる状態になりました。ここでいう「環境に優しく公平」という意味は、例えばEU加盟国の農民がマナーとして、実際には厳しい環境規制の中で実践しているGAPですが、輸出国でも同じことを実行していなければ、EUへの農産物の輸出は認めませんという意味です。

  現状の日本では、輸出する時にはGLOBALG.A.P.認証が必要です、と言うばかりで、日本に入って来る輸入農産物に対してのGAP要件を出すことはできていません。これでは日本農業を守れないわけです。世界的には、欧州の農業を守る!アメリカの農業を守る!そのために環境保護や人権に関する標準化という国際戦略が展開されている中で、どのように日本の農業と農家を守るのか、GAPステージ3においては、国際的公平性が極めて重要な課題になると思います。

2024/4


《特集 実践ガイド 生態学的土づくり》
『実践ガイド 生態学的土づくり』 を必要とする背景
2 GAPは環境負荷低減型農業から環境再生型農業へ

2023年度GAPシンポジウム講演

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 代表理事

日本国内のGAP

  日本における農産物流通ビジネスの業界では、2000年頃から大手スーパーマーケットが欧州の農場認証制度に学んで、試験的に自社版GAPと称する農場の監査基準書を作成してきました。生協グループも、これまでの産直野菜の栽培基準を修正した農場評価規則を提案してきました。これらの相談を受けながら2003年にEUREPGAP認証の支援に取組んだ㈱AGICは、2004年にJGAP認証制度を開発し、2005年に認証を開始しました。

 国の政策としてのGAPは2005年で、農林水産省の消費安全局農産安全管理課から「食品安全のためのGAP策定・普及マニュアル」という消費者起点に立った、農家に対する農産物栽培要求事項とでもいうべき方策が出されました。

  5年後の2010年には、生産局技術普及課から「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン」が発表され、「食品・環境・労働関係法令等の内容に則して定められる点検項目に沿って、農業生産工程の正確な実施、記録、点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動」と定義されました。

  その後2014年には「GAPの見直し」が閣議で決定されて農林水産省の「GAP戦略協議会」で「国際的に通用する規格の策定と我が国主導の国際規格づくり」が検討され、翌2015年にGAP政策担当部門は生産局農産部農業環境対策課に移管されました。ただし、ここで注意しておかなければならないことは、閣議で議論されたGAPは、GLOBALG.A.P.などの流通業界が行っている農場認証制度のことだったという事実です。従って、その後2021年に「国際水準GAPガイドライン」が策定され、SDGsを意識し、人権保護や経営管理を加えた持続可能性を確保するための農業生産工程管理も、認証制度を意識したものです。

やらされ感のGAP

 当初農林水産省が政策として取組んだのは食品安全に限定したGAPでした。目指したのは、地域ごとに認証制度をつくる、トマト、キウリ、ナス、コメなどの作物ごとにGAPという商品認証(チェックリスト)制度を作るという政策です。

  その後「農業生産工程管理」という名称になり、その内容は、「点検項目に沿って農業生産工程の正確な実施、記録点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動である」という公的なGAPの定義付けがなされました。GAPの効果に基づく定義としては「食品の安全性向上、環境保全、労働安全の確保などに資するとともに農業経営の改善や効率化につながる」とされています。

  しかし、これでは農場管理システム論のようで、農業管理に関心が薄い農家にとっては、外部からの圧力要求のような感じ(やらされ感)になるのではないでしょうか。農業者は自分でコントロールすることが多い仕事を日常的にしていますから、特にそう感じると思います。欧州の農家のように、「近代農業が抱える環境問題を自らのテーマとして取り組むGAP」という認識があれば、主体的なGAPが期待できるのではないかと思います。

  日本では、当初よりマスコミ報道の手伝いもあって「農業生産工程管理」が定着していますが、世界のどこでも「Agricultural production process management」のような意味づけをしている例は見たことがありません。「それってどうなの?」という議論がありますが、現在でもその名称は変わりません。2021年にオリンピック(2020東京大会)が終わると「国際水準GAPガイドライン」が発表され、この段階ではGAPの目標に農業環境対策が大きく占めるようになりました。政策担当は当然ながら「みどりの食料システム戦略」と一緒にGAPも取り扱っているということですから、SDGsを意識した「環境再生型農業」へのシフトに期待したいです。

実効性のない農業環境政策

  持続可能な社会に向けて世界が動き出した1992年の国連環境開発会議(地球サミット)の翌年、日本は環境立国を宣言し、農業分野では「化学農薬や化学肥料の節減」、「家畜糞尿の適切な管理」、「農地周辺の生態系の保全」、「林業・水産業における適切な資源管理」などを掲げています。また、農業の基本法として約40年ぶりに大改訂された「食料・農業・農村基本法(1999年)」は、「食料の安定供給、農業の多面的機能、持続的農業、農村振興」を基本理念とする大きな転換でした。さらに、2005年3月の閣議決定では、農業者が環境保全に向けて取り組むべき最低限の規範として「環境と調和のとれた農業生産活動規範」を策定しています。この政策では、補助金による支援を「クロスコンプライアンス」としましたが、同年に実施されたEUのクロスコンプライアンスとは内容も実態も異なり、日本では「作物生産点検の手引き」で農業者が自己点検するというものでした。

  作物生産で環境との調和を図るための取り組みの指導書でも、EUとは大きな相違点があります。例えば、土壌管理において堆肥は推奨していますが、EUが義務付けている輪作やカバークロップなどには触れていません。また、施肥の指導にはEUのような法定要件がないこと、そのため都道府県やJA等が示している施肥量を守ることを推奨していますが、これらの施肥規準は地域ごとに作成される任意の規準であり生態学的根拠は示されていません。さらに農家によっては基準の施肥量に"保険"をかける意味で多めの施肥をします。GH農場評価でよく見かけるのは、土壌診断結果で化成肥料を投与した圃場に、家畜フン堆肥を投与していたが、総量は考慮していなかったというような次事例です。化学農薬の使用に関して指導書では、予防措置について記述したうえで、必要な農薬を効果的に使用することが重要視されていますが、IPM(総合的病害虫・雑草管理)を具体的には指導していません。

プラネタリーバウンダリー

  スライド7は、地球上で人間が安全に生存できる範囲を科学的に定義してその限界点を表した概念図で、「地球(惑星)の限界」といわれています。地球温暖化などの人類の難題を考えるヒントとしてSDGsなど様々なところで活用されています。2009年に発表されて、私は2015年版で確認したのですが、「窒素とリンの生物地球化学的循環」が、もう元には戻れない高リスクな状態になっていることに、とんでもなく驚きました。

  窒素とリンは、農業生産になくてはならない大切な物という認識ですが、総務省や環境省による水質の硝酸塩汚染への警鐘などもあり、GAPの指導では特に重要視している資材でもあるのです。生物地球化学的循環の総量で農業による原因がどの程度を占めているのか、正確な数値は把握していないのですが、河川や湖沼などの調査では欧米でも日本でも他産業より多いことが明らかにされています。

  持続可能な農業のためにGAPを推進しているのですが、窒素とリンが不安定な領域を超えて高リスクになってしまったこと、農業と関係が深い生物多様性や生態系機能の低下なども高リスクに達している、ということでこれらについてのSDGs(持続可能な開発目標)は見つからないのか?なんとかして安全な領域まで戻せないのか?などと考えさせられてしまいます。

農業のパラダイムシフト「みどりの食料システム戦略」

  日本では、米欧の戦略発表があってからわずか1年後に「みどりの食料システム戦略」が策定されました。日本の農業関係者が熟考した知恵の結晶とは思えない、EU戦略に酷似した内容です。EU加盟国では農民の激しいデモが行われましたが、日本では農業者や農業者団体との十分な話し合いはあったのでしょうか?社会的に大問題になったという記憶はありません。食料・農業・農村基本法の見直しも進められているようですが、結果的に政策に従うにしても、それならどうすれば持続可能な農業が実現できるのか、自分のこととして本気で考えなければならないと思います。

  「みどりの食料システム戦略」は世界のGAPステージに合わせて動き出したのですから、関係者は取り組まざるを得ない。しかしそれが横道に逸れないかどうか、私たちは様々な角度から意見を言っていかなければいけないと思います。その方向は、「自然の力を最大限に活用して、土壌や作物の生命力を引き出す農業」に向かっていくことです。

  虫が出たから農薬をやる、栄養が足りないから肥料をやる、水が足りないから潅水するという対処療法の農法ではなく、根本的な解決策に向かう新たな農業です。20世紀後半からの60年間に、飛躍的に農業生産を挙げてきた工業的農業から脱却することです。土壌そのものの活力、作物のもつ本来的な生命力が十分に発揮できるような循環というものが、自然の力を最大限に活用する、環境再生型農業だと思います。

「世界土壌資源報告」 SDGsと同根の世界土壌憲章

  GAPステージ3段階の農業の新たな概念を考える重要な情報があります。持続可能な開発目標「SDGs」と同じ2015年に国連で策定された「世界土壌憲章」で、「適切な土壌管理は食料安全保障、気候変動への適用と緩和、生態系サービス、貧困撲滅及び持続的な発展に寄与するものである」という宣言です。

  土壌資源の科学的評価を行った「世界土壌資源報告」では、世界中の土壌を細かに調べて、その実態分析と今後どうあるべきかの提言をしています。それは、「これからの適正農業(GAP)は、土壌の修復改善をしながら自然環境の回復につなげることを目指す環境再生型農業である」という結論です。

  土壌管理というのは農業そのものですから、農業が健全であるためには、適切な土壌管理である必要がある。そういう適正農業つまりGAPは、土壌を修復改善しながら、自然環境の回復に繋げることを目指す環境再生型農業であるということになります。世界のGAPステージ3は、まさにこのような農業になるのだと思います。

投入資材による食料増産は破綻する

  世界土壌資源報告では、世界中の実態調査の結果、「20世紀の地球規模の土壌変化を起こした要因は、異常なまでの人口増加と経済成長、これらに付随した農業革命である」と分析しています。1961年から2000年の間に、世界人口は2倍になりました。食料生産は2.5倍になっています。この間に耕地面積は8%しか増加していないのですから、生産増加の理由は劇的に増加した農業投入資材ということになります。窒素の投入は7倍、リンは3倍、灌漑水の利用は2倍になっています。このことから、報告書は「農業資材の投入量を増加させて食料生産を上げるという従来の戦略には問題がある」と結論付けています。

   問題は、さらに世界人口が増加することは明らかですから、投入資材によって食料の生産性を上げるという農業モデルは破綻するということです。近代農業の体系となっている工業的農業から、自然の力を最大限に活用して土壌や作物の生命力を引き出す本来的農業への「農業のパラダイムシフト」が必要であることを示唆しています。

GAPは環境負荷低減型農業から環境再生型農業へ

  農業の工業化を中心とする農業近代化は、同時に化学肥料・化学農薬の不適切な使用・管理で、土壌や水質を汚染しました。工業的農業では、投入農業資材の他に化石燃料への依存度も多くなり、二酸化炭素、亜酸化窒素、メタンなどの温室効果ガスの排出源にもなっています。このような土壌汚染、水質汚染、温室効果ガスによる大気汚染をもたらす農業・農法は不適切な農業(Bad Agricultural Practice)つまりBAPという概念になった訳です。したがって、BAPではない農業・農法を実現しなければなりません。BAPの反対の農業概念は適正農業(GAP:Good Agricultural Practice)ということになります。つまり、GAPを規定するのはBAPなのです。そのため今は、環境を悪化させているBAPを無くして環境を保全する農業への転換が行われなければならないとうことです。

  欧米各国では農業投入物の法的制限などで規制を厳しくするとともに、GAPへの行動変容を示唆する適正農業規範(CoGAP)策定と行動支援の補助金支払いなどが、1980年以降の農業環境政策でした。

  ところが、GAP概念が誕生して40年で、これまでGAPだった「環境負荷低減農業」が、これからはBAPになるという事態に至りました。プラネタリウムバウンダリーによって、これまでの農業分野の環境対策を転換しなければならないことになったのです。この環境負荷低減型農業の対語を環境再生型農業として「リジェネラティブ農業」の概念を明らかにすれば、「自然の力を最大限に活用して土壌や作物の生命力を引き出す本来的な農業」をGAPとすることができます。

おわりに

  私ども日本生産者GAP協会のスタッフは、リジェネラティブ農業の専門家ではありません。これからのGAPの研究・実践の対象として、今回のGAPシンポジウムで専門家の話を聞いて、勉強しながら足元の実態、あるべきGAPの具体化について考えていくわけであります。

  この分野で世界的に有名な日本の先駆者、福岡正信の『わら一本の革命』をだいぶ前に読んだのですが改めて読み返しました。自然の循環と調和を尊重する「自然農法」について頭で理解はできている気がするのですが、「何もしない農法」を実行することの難しさを改めて感じたところです。ところが、同じカテゴリーの(と思われる)、ゲイブ・ブラウンの「土を育てる」を読んだ時には共感することがとても多く感じられました。特に驚いたのは、「土をかき乱さない、多様性を高める、それから土壌中の生きた根を保つ、動物を組み込む」ということをわかりやすく説明していることです。

  温室効果ガス削減の視点から、大気中の炭素や窒素を地中に取り込む「カーボンファーミング」についての議論もされていて、この分野の話題が様々なに広がっています。『わら一本の革命』の強調するところが精神論であったり哲学であったりしていたものが、『実践ガイド 生態学的土づくり』に書かれた米国の多くの事例を読むことによって、いわば論理的にというか、私の理解力でもわかるような説明に置き換えられたような気がしています。農業生態学的説明と私は思っております。アメリカで実践されている多くの事例が掲載されている『BULDING SOILS FOR BETTER CROPS』という本を、どうしても翻訳して、日本語で皆さんと共有したいという思いで『実践ガイド 生態学的土づくり』の出版に至ったということです。

  アグロエコロジーは、農業生産を通じて土を良くし、生態系を保っていく、それで生産性も上がる、病気に強いものを作る。つまり環境保全と収量増加とを同時に達成する一つの農法と考える。その点で有機農業は、化学物質を投与しないという一点に尽きるわけで、多くの人は耕起をする農業です。そのため土壌中の動物や微生物の活動を阻害して物質循環を攪乱することになりますので、生態学的土づくりにはならないことが多いと思います。不耕起の農業で重要なカバークロップですが、いかにすごいか圧倒されたことを皆さんにお伝えして、GAPの概念を、まさに生態学的な土作りをする農業がGAPであること、そしてGAPである生態学的農業を普及させることで、SDGsの成果に繋がるということを期待して終わります。ご清聴ありがとうございました。

2024/4


《特集 『実践ガイド 生態学的土づくり』》
『実践ガイド 生態学的土づくり』 事例紹介に学ぶ
~翻訳者による講義~
生態学的土壌管理のポイント

2023年度GAPシンポジウム講演

山田正美 一般社団法人日本生産者GAP協会 専務理事

本書の紹介 生態学的土壌管理のポイント

  今般、アメリカ農務省の助成を受けた団体「SARE」というところが発行した『BUILDING SOILS FOR BETTER CROPS』という本の翻訳を担当いたしました。この本は、実践的で生態学的に基づく土づくりということで、その基礎から実践、応用まで、非常にわかりやすく書かれています。農業をする人全員に読んでもらいたい本だと私は思っております。

 さて昨日は生態学的土づくりの全般的な話がありましたけれども、今日は現場の話が中心になろうかと思います。先ほど田上理事長から紹介されましたように、私からは、この本の中に書いてあるアメリカで実践している農家の話をさせていただきます。最初に、生態学的土づくりとはこういうものですという全体的な話を少しさせていただいて、その後、個別の事例に入っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

本書の内容

  この本(『実践ガイド生態学的土づくり』)は皆さんお持ちですからお分かりだと思いますけれども、第1部は有機物、健全な土壌への鍵ということで、有機物の大切さということが書かれております。第2部は、土壌の物理的性質と養分の循環ということで、土壌の構造をどう維持していくかということ、それと養分の循環ということが書かれております。第3部は、生態学的土壌管理ということで、ここに具体的な現場での対応とかやり方が書かれておりまして、この中に七つの事例が紹介されています。最後の第4部はまとめということです。

本書で強調されていること

  まず生態学的土壌管理の究極の目的は何かということですが、五つありまして一つは良好な土壌構造の創出、二つ目は活発で多様な土壌生物の存在、三つ目は高い作物収量の実現です。四つ目は十分であるが過剰でない養分の確保です。五つ目は圃場外への汚染を引き起こさない健全な生育環境ということです。

  こういった目的に向かって実施するためにどういうアプローチがあるかというと、一つは有機物の施用です。これによって生物多様性の維持の向上や土壌構造の改善が図られます。二つ目は耕起土壌攪乱の減少です。これによって有機物分解の抑制と土壌構造の維持というものが図られます。三つ目としてカバークロップです。これはいろいろな種類がありますが、それぞれのカバークロップの性質によって土壌侵食の防止と有機物の補給というものに役立てていきます。四つ目は適時の圃場作業と土壌圧縮の防止です。土壌が圧縮されると非常に土壌中の水分の利用が出来にくくなるのです。それをしっかりと防止することによって、適切な土壌水分の維持、さらに作物の干ばつの防止にも繋がるということです。五つ目は、家畜排せつ物の地域内循環ということで、これは特に米国では畜産と耕作が一緒になった所が非常に多いので、そういうところでは適切な栄養分範囲の維持に家畜の排泄物を利用するということです。それによって養分の循環ができると健全な作物の生育に繋がるということです。

  一つ目の有機物の施用効果ということですが、図のような残渣を利用することによって、まず生物活性と生物多様性の向上が図られます。土の中でこういったことが図られると、これが有機物の分解に繋がって、有害物質の無害化に繋がって、そして健全な植物の健康な生育に繋がるということです。一方では養分の放出にも繋がる、そしてまた団粒の増加にも繋がって、土壌構造の改善、土壌の作成と貯水性の改善、腐植や他の生育促進物質の生産にもなります。そういったことで健全な植物が生育するということになるわけです。また土壌伝染病とか、寄生性線虫の減少にも繋がってくるということになるわけです。

  2番目の耕起や土壌攪乱の減少ということですが、通常私どもは、耕起はやって当たり前という感覚でおりました。耕起というのは例えば除草の効果です。あるいは土をふかふかにして種を蒔いたときに芽が出やすいようにする、あるいは移植しやすいようにするという効果があるのです。しかし、実際にそれを長く続けるとどうしても土壌構造が失われるということになるわけですね。

  「写真」にもありますように、これはアメリカの中央平原の土ですけれども、右側はずっと草地だった土壌です。左側は耕起を何十年と続けてきた圃場の土ということになります。このように耕起を何十年と続けていますと、まず団粒がなくなります。そしてこの色を見てみてもらってもわかりますように、黄色っぽいということは、有機物が少なくなるということになります。そこで、その耕起の減少ということを言っているわけです。耕起を減少させることによって有機物の土壌残留とか、土壌構造を維持促進することができるということになるわけです。それから、土壌表面をむき出ししないことで、風食とか水食を減少させることができるということにつながります。

  アメリカには耕起の削減を可能とした非常に良い技術の例があります。数百ヘクタールの圃場を大型機械で作業しているわけですが、その作業にかなうように不耕起・減耕起ができるようにということで、除草剤の発達とか、作物列内だけの土壌軟化、その他の新しい耕起ツール、新しい播種機と移植機、新しいカバークロップの管理方法という、新技術がどんどん取り入れられてアメリカ全体に普及してきたということになるわけです。

  次に、カバークロップの植栽の効果ということですが、カバークロップにはいくつも種類があり、数十種類の中から適切に選ぶことによって、このような効果が得られるということになります。水や風による浸食の低減、雑草の抑制、有機物の添加、土壌残留化の促進、土壌圧縮の低減、水浸透量、保水量の増加、栄養損失の低減、窒素固定、菌根菌数の増加、益虫の増加、線虫の抑制と、さまざまな効果が、カバークロップを取り入れることで現れるということになるのです。

  次は、適時の圃場作業と圧縮防止ということです。土が圧縮されると、どうしても水の利用が少なくなるのです。例えば、圧縮された土壌では土の中に水があっても根の伸長ができないということで、作物の生育に障害が生じるということになります。しかしよく構造化された土壌では、最適な水分域は非常に幅が広いために、かなりの範囲で最適な生育を達成することができるということになります。土壌干ばつのストレスを受けるのは本当に極限まで水が少なくなってからしか受けないという形になります。

   作物が利用可能な水を多くするためには、よく構造化された土壌が必要です。よく構造化された土壌とは気相、液相、固相のバランスが良く、団粒が発達した土壌のことです。

  圧縮された土壌では利用可能な水の範囲が少なく、根の伸長も悪く、生育不良になりやすいので、土壌圧縮が生じないような管理をすることが大事になります。少し乾燥するとカチカチの土壌になってしまうので、根が下に入らないということになります。そういったことは避けなければなりません。

  次に、家畜排せつ物の地域内循環ということになります。通常自然界では、土壌中の養分は植物によって吸収され、その植物が枯れれば、その植物に含まれる養分はまた同じ量が土に戻っていくという循環を繰り返しているわけです。しかし、農業をやっていると土壌から吸い上げた作物が、例えば米や麦などとして養分が持ち出されるという訳です。

  野菜なんかの場合ですと、もう8割近くが持ち出されるということになります。そこで不足養分の補充ということをやっていくわけですが、これを化学肥料か畜糞尿でやるかということになるわけです。化学肥料だと養分は入りますが有機物が入らなくなるわけです。近くに家畜排せつ物があれば、それを利用することが非常に大事です。そういう特にアメリカでは、自分の農場の近くで家畜を飼っている人が非常に多いということもありまして都合が良い場合が多いようです。

2024/4


《特集 『実践ガイド 生態学的土づくり』》
『実践ガイド 生態学的土づくり』 事例紹介に学ぶ
~翻訳者による講義~
生態学的土づくり 事例1 ボブ・ムース

2023年度GAPシンポジウム講演

山田正美 一般社団法人日本生産者GAP協会 専務理事

紹介されている実践事例農場

生態学的土づくり 事例1

 ニュージャージー州のボブ・ムースさん。落ち葉を利用したマルチとカバークロップによる土作りを行っていて、開花帯を残して益虫の発生を促すことで、害虫を退治するIPMの実施というのが特徴です。合計48ヘクタールで、各種野菜、果物、花少量と穀物栽培を行っています。特徴としては、地元の二つの自治体から無償提供された落ち葉を圃場に分厚く敷き詰め、土壌改良していること。30年前から始めたらしいです。近隣の農家からは「頭がおかしくなったのではないか」と思われたとおっしゃっております。

  この方の輪作体系は、1年目は高付加価値作物を栽培して、2年目はこの落ち葉のマルチです。最初は大体5センチぐらいの厚さに撒いていたそうです。ものすごい厚さということになります。2、3年目がシリアルライ、スデックスを中心としたカバークロップを栽培して、4年目晩夏から秋にシリアルライとベッチのカバークロップを栽培し、また1年目に戻るという形になっています。

  その効果ですけれども、ボブ・ムースさんの土壌は砂質土壌なのです。落ち葉を大量に入れることによって、砂質土壌の改善に繋がり、CECとか有機物、養分レベルなどで良い数値が得られたとのことです。多くの資材投入がなくても、質の良い作物を栽培するのに十分な窒素も得られるということになります。

  二つ目の実施項目はIPMです。白バエとかハダニ、アザミウマなど目に見えにくい害虫防除のためにトラップ作物を圃場の周りに定期的に植えて、発生状況を観察して対策を決定しています。圃場の境界にカバークロップの開花帯を残すことで、常時そこに益虫が住めるようにということで、益虫の発生はそこで促しているということになります。またビニールハウスでは捕食性ダニを放すことで、アブラムシとかハダニの防除をしているということです。

  そうした土づくりとIPMを実施することで、有機栽培にスムーズに移行してきたそうです。またここでも近隣の農家から、「有機栽培は気をつけないと、病害虫の多い人が嫌がるものを作ることになるよ」と忠告されたけれども、ボブさんの農場ではで、このようなIPMの実施もあって害虫や病気の発生は些細なことに過ぎなかったと聞いております。

  生態学的土づくりとの関係ということになりますが、有機物添加による土壌のCEC増加があります。砂質土壌では養分を保持するCECの値が非常に小さい。これは土壌表面にあるマイナスイオンが、粘土なら多いのですが砂では非常に少なくて養分を保持できないのですが、有機物をどんどん入れることによって、このCECの値が大きくなって、例えばカルシウム、カリウム、あるいはアンモニウムとかいった養分を保持する能力が高まるということになるわけです。

  二つ目はマメ科のカバークロップです。ヘアリーベッチにより窒素が供給されています。

  そして三つ目はIPM技術導入による病害虫の削減、トラップ作物の導入による害虫の観察です。それから常時開花帯の設置による益虫の発生維持、ハウス内での捕食性ダニの放飼、こういったことを実践していることで可能になっているということであります。

  「生態学的土づくり 事例2」 からは、次号(GAP普及ニュース79号)以降、順次紹介していきます。

2024/4


《農林水産省GAP情報》
グリーンな栽培体系への転換

2023年度GAPシンポジウム講演 農政報告

金野勇悟 農林水産省農産局技術普及課 係長

 みどりの食料システム戦略関係の交付金で、「グリーンな栽培体系の転換サポート」というものを担当していますので、そのあたりについてお話したいと思います。まずは、みどりの食料システム戦略について簡単にお話して、その後グリーンな栽培体系、あとは交付金の中身についてお話しようと思います。

「みどりの食料システム戦略の背景」

 背景としては、温暖化による気候変動、自然災害の増加がまずあります。日本の平均気温は、100年で1.3℃ぐらい上昇していることで、農産物の品質や収量に影響しているということがあります。それから、皆さんもご認識の通り、激しい雨が降るたびに、畑が冠水したり、ハウスが被災したりの被害が出ているということです。それから、肥料原材料のあまりにも多い輸入依存ということです。自給できるのは窒素5%、リン酸、カリについては0%です。国際価格の影響をもろに受けるという事態なのです。また、農業分野においても温室効果ガスが排出されていまして、こちらについても削減が求められるといった状況になっています。

 そういうことでみどりの食料システム戦略が打ち出されました。食料農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するために、中長期的な観点から戦略的に取り組む政策方針ということにしております。中長期的に見て、生産だけではなく、加工流通、消費、調達、この全てに置いて、持続可能的な農業の生産体制を構築しましょうといった方針になっています。

「みどりの食料システム戦略の目指す姿」

  2050年を目標にKPI(Key Performance Indicator)として目標を設定しているのですが、その前段として2030年に中間目標を設定しています。ここでは農業生産に関する主な目標を取り上げています。

「グリーンな栽培体系」

  そのみどり戦略の達成のための一つとして「グリーンな栽培体系」を、農林水産省として推進しています。これは、「環境に優しい栽培技術」、例えば、化学農薬や化学肥料の使用量を減らしたり、有機農業の面積を拡大したり、温室効果ガスの排出を削減したり、環境負荷の小さい栽培技術を取り入れようということです。それから「省力化に資する技術」、農業現場では労働力不足が問題になっていますので、環境に優しい栽培技術と合わせて、労働時間を減らすような省力化の技術を取り入れましょうということです。これらの技術を取り入れることで、持続可能で環境負荷低減の取り組みを進めましょうということです。

   「環境に優しい栽培技術」としては、まずは化学農薬の使用量の低減です。化学農薬のみに依存しないIPM(Integrated Pest Management)が重要です。それから化学肥料の使用量低減です。堆肥やその他の有機質資材を使った土作りが重要です。土壌診断に基づく過剰施肥の抑制、有機農業の取り組み面積を拡大すること。さらには水田からのメタンの排出削減として中干し期間の延長とか秋耕とかの推奨です。バイオ炭の農地施用などもあります。

「グリーンな栽培体系への転換サポート」

  補助事業の話です。「みどり戦略」の推進を進めるための交付金があります。これはグリーンな栽培体系の転換を進めるために、環境に優しい栽培技術等を検証して、栽培マニュアル、産地戦略を作るという事業です。

  事業の流れとしては、はじめに検討会を開催し、環境負荷低減の取り組み方針や、どういった技術を検証しようかについて検討して、実際に技術検証を行います。そして、その技術を地域に普及させるための「栽培マニュアル」を作成します。合わせて技術普及に向けて関係機関とどう連携するか、またどのレベルまで普及させるか、目標を決めてロードマップを策定します。この「栽培マニュアル」と「産地戦略」をホームページで公開して、産地戦略に基づくグリーンな栽培体系の普及を図るという事業になっています。

  グリーンな栽培体系の転換サポートの活用状況ですけれども、令和4年度、5年度で、全国286地区でこの事業が活用されています。

 令和4年度では91地区で策定を終え、グリーンな栽培体系の普及に向けた取り組みを開始しています。こちらは農林水産省のホームページで、そのURLをまとめていますので、栽培マニュアルと産地戦略を見ることができます。こういったかたちで普及を図っている状況になっています。 https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/green/index.html

「グリーンな栽培体系への転換サポートの活用事例」

 今回のGAPシンポジウムのテーマが、土作りということですので、化学肥料の低減に関わるものをいくつか抜粋して簡単にご紹介します。

・秋田ふるさと農業協同組合
秋田県の横手市の枝豆の取り組みです。こちらでは主に生分解性マルチを使用しており、緑肥のヘアリーベッチ寒太郎をすき込んで、地力の増進を図るとともに、化学肥料の使用量の低減を進める、ということで、現在化学肥料の使用量を10アール当たり4.9キロから1.9キロまで減らせないかと検証中ということです。
・山梨県農業技術課
 山梨県では「4パーミル・イニシアチブ」と称する、土壌中に炭素貯める取り組みと不耕起草生栽培による二酸化炭素の削減を推進しております。不耕起草生栽培の他、果樹園から出た剪定枝を炭にして農地に分けて、バイオ炭の農地施用を進めているのです。炭化機で枝を燃やして炭にして農地に蒔くと、場合によっては土壌改良効果もあるというところで、それらを検証するという取り組みです。
・JAにしみの水田農業グリーンな栽培体系研究会
 続いて岐阜県の取り組みです。こちらでは、水稲、小麦、大豆の2年3作体系で水田経営を行っています。土壌診断に基づく施肥によって過剰の施肥を抑えることや、家畜の堆肥によってリン酸やカリを補給することによって化学肥料の使用量を減らす取り組みについて検証をしています。
・株式会社つじ農園
 こちらは三重県での取り組みです。こちらは有機農業の拡大についても取り組んでいるということでして、堆肥とか屑大豆による土作りを進めています。併せて有機JAS規格に対応した圃場管理の効率化ということで、ドローンやラジコン除草機などの管理システムを使った圃場管理でスマート農業導入の検証中ということです。
・静岡県富士農林事務所計画経営課
 続いて静岡県のお茶の取り組みです。ここでは地域内の畜産堆肥が余っているので、それを有効に活用しようと耕畜連携という取り組みが行われています。お茶に適した堆肥の選定とその施肥効果、茶農家への施肥利用のインセンティブの創出、経済的にはどのような効果があるのか、その他さまざまな課題や効果についてわかりやすく説明できるようにする取り組みが行われていす。

 この交付金については、現在、要望調査が行われています。こういった取り組みにご関心を持たれた場合には、ホームページで詳細をご確認いただいた上で、活用ご検討いただければなと思っております。以上です。

2024/4


《投稿・寄稿》
被災後営農再開に向けたガイド(暫定版)について

田上隆多 株式会社AGIC代表取締役

 2024年は、元日から大地震に見舞われ、その後も国内外で大地震が発生しています。犠牲となられた方々に哀悼の意を表するとともに、被災された方々に心からお見舞い申し上げます。

 先の能登半島地震で被災された地域の行政指導担当者から、「被災した農家から、被災後の営農再建に向けてどこから手を付ければ分からないといった声もあり、確認事項、留意点、チェックシートなど、農家が簡便に使える資料などを提示したい」との相談をいただき、「被災後営農再開に向けたガイド(暫定版)」を作成しました。BCP(※文末に記載)の観点で総合的に網羅しているものではなく、暫定版として提供させていただいたものですが、自然災害の多い我が国においてどの地域でも誰でも被災する可能性がありますので、少しでもご活用いただけるようホームページで配布することにしました。

 <ダウンロード https://fagap.or.jp/publication/book.html

 被災後の営農再開においては、暫定的にでも生産を再開し、短いサイクルでの収益確保などが当面の課題になると思いますが、その際に"リスク"や"持続可能性"の観点が大きく抜けてしまうと、結果的に食品安全、生産環境、労働環境などに悪影響を及ぼしかねません。本ガイドでは、GAPの指導や普及において注意喚起をしている"リスク"や"持続可能性"の視点を中心に、被災後に営農再開に向けた初期段階で考慮すべきことを4つにまとめ、1章から4章として整理しています。また、各章で留意すべき事項をまとめたチェックリストを巻末に掲載しています。

(1)農地の確保や再整備 →  1章 圃場の選択と適正評価
(2)栽培・作付けの再設計 →  2章 健康な土づくりと作付け計画
(3)施設や設備の再整備 →  3章 適切な施設・設備の設計
(4)人員体制の再整備 →  4章 人員体制・労務管理の整備

 各章の視点と概要を次に示します。留意点の詳細は、ガイドを参照してください。

1章 圃場の選択と適正評価

 被災後に新しく圃場を入手したり、既存の圃場で生産を再開したりする際は、土壌の状態や周辺の状況を良く観察し、(1)作物(食品)を汚染する原因になるものがないか、(2)生産する作物に適しているか、(3)生産活動によって環境を汚染しやすい状態ではないか、などを確認しましょう。

2章 健康な土づくりと作付け計画

 持続可能な作物生産のためには、健康な土づくりに取り組むことが重要です。そのために、土壌本来の機能(土壌生態系)を活かした、健全な土壌管理と作付け体系を計画しましょう。

 被災後の営農再開に際しては、短いサイクルでの収益確保などの視点が当面の課題になりますが、今こそ、気象や病害虫に影響されにくい健全で回復力のある土づくりと作付け体系の構築に取り組みましょう。土壌の化学的、物理的、生物的な性質の観点から健康で作物に適した状態を維持しましょう。

3章 適切な施設・設備の設計

 営農に関する施設・設備は、大きく分けて、(1)栽培のための施設・設備類と、(2)収穫後の農産物(食品)を取り扱う施設・設備等に分類されます。(2)収穫後の農産物(食品)を取り扱う施設については、特に食品の安全性確保の視点で再整備してください。

 被災の状況により、既存の施設・設備等を使用する場合と、新たに施設・設備を整備する場合があります。既存の施設・設備等を使用する場合は、よく清掃し、可能であればより良い設計に変更しましょう。新たに施設・設備等を整備する場合は、法令や安全を考慮して設計しましょう。

4章 人員体制・労務管理の整備

 被災後の営農再開における人員体制は、家族経営で雇用がない場合、元々雇用があり同じメンバーで再開する場合、新たに雇用をする場合など、農場によって大きく異なります。雇用の有無に関わらず、作業者が安全に健康的に働ける労働環境を整備しましょう。また、新たに雇用をする場合は、雇用に関する各種法令を遵守し、被雇用者が安心して働ける環境を整備しましょう。

 なお、1章から4章の視点と流れは、新規就農や農業参入として新たに営農を開始する場合も全く同じ視点が必要です。新規就農や農業参入の方やその指導に携わる方もぜひ参考にしてくだい。

※BCP(事業継続計画)について

 自然災害などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめ、中核事業の継続あるいは早期復旧を可能とするためには、平常時からリスク管理を行い、また緊急時における事業継続のための方法や手段などを予め取り決めておくことが重要です。このことを事業継続計画(BCP)と言います。農林水産省のホームページで「自然災害等のリスクに備えるためのチェックリストと農業版BCP」についての手引きや様式等が紹介されています。

 <農林水産省HP https://www.maff.go.jp/j/keiei/maff_bcp.html

 今回、当協会が発行した「被災後営農再開に向けたガイド(暫定版)」は、BCP策定の際に留意すべきことを補うものとしてもご活用いただけます。合わせてご参照ください。

2024/4


《投稿・寄稿》
新年度・法令改正情報
労働安全衛生法の改正、労働基準法および関連規則の改正に伴い、2024年4月から義務化される事項、および食品表示基準(アレルギー関係)の一部改正について

一般社団法人日本生産者GAP協会 教育・広報委員会

 労働安全衛生法、労働基準法および関連規則改正に伴い、2024年4月から義務化される事項があります。個人経営か法人かに関わらず、必ずご確認ください。また、食品表示基準が改正され、特定原材料に準ずるものとして「マカダミアナッツ」が追加、「まつたけ」が削除されました。

【1】雇入れ時教育 農業の義務拡大(省略規程の廃止)

 労働者を雇い入れ、または労働者の作業内容を変更した際に、雇用主は次の①から⑧の項目について教育を行わなければならない(労働安全衛生規則第35条)とされています。

① 機械等、原材料等の危険性または有害性およびこれらの取り扱い方法に関すること
② 安全装置、有害物抑制装置または保護具の性能およびこれらの方法に関すること
③ 作業手順に関すること
④ 作業開始時の点検に関すること
⑤ 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因および予防に関すること
⑥ 整理、整頓および清掃の保持に関すること
⑦ 事故時等における応急措置および退避に関すること
⑧ 前各号に掲げるもののほか、当該業務に関する安全または衛生のために必要な事項

 農業においては①から④の項目について、2024年3月31日までは省略することができるとされていましたが、2024年4月1日からは、農業を含む全ての業種で省略規程が廃止され、全ての項目についての教育が義務化されました。

 農林水産省のホームページで、事業者向けおよび労働者向けのテキストなどが配布されていますので、参照してください。 https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_kikaika/anzen/roudouanzenkyouiku.html

【2】新たな化学物質規制が導入されます

 厚生労働省は、化学物質による労働災害を防止するため、労働安全衛生規則等の一部を改正しました。2023年4月1日から施行された部分のと、2024年4月1日から施行の部分があります。2024年4月1日から施行のものとして、「化学物質管理者の選任の義務化」や「保護具着用管理責任者の選任の義務化」などがあります。

<主な変更点>
(ア)ラベル・SDS(安全データシート)の伝達やリスクアセスメントの実施義務対象物質が大幅に増加する。
(イ)リスクアセスメント結果を踏まえ、労働者がばく露される濃度を基準値以下とすることが義務付けられる。
(ウ)化学物質を製造・取り扱う労働者に、適切な保護具を使用することが求められる。
(エ)自律的な管理に向けた実施体制の確立が求められる(化学物質管理者の選任、リスクアセスメント結果等の記録作成・保管等)

 ※リスクアセスメントの実施義務対象物質について、以下に示すような「主として、一般消費者の生活の用に供するための製品」に該当するものは、適用からはずれます。

・医薬品医療機器等法に定められている医薬品、医薬部外品及び化粧品
・農薬取締法に定められている農薬
・労働者による取扱いの過程において固体以外の状態にならず、かつ、粉状又は粒状にならない製品
・表示対象物又は通知対象物が密閉された状態で取り扱われる製品
・一般消費者のもとに提供される段階の食品
・家庭用品品質表示法に基づく表示がなされている製品 など

 農薬や家庭用洗剤等は、この法令に基づくリスクアセスメントの実施義務対象物質からは除外されますが、全ての化学物質について自主的にリスクアセスメントと必要な対策を行うことは基本原則であり、推奨されています。また、農場で使用する化学資材(肥料等含む)や業務用の洗浄剤や薬品などは該当する可能性があります。

 したがって、まずは、農場で取扱う全ての化学物質について、ラベルやSDSで危険性・有害性の分類や化学品の名称を確認し、リスクアセスメントの実施義務対象物質かどうかを確認してください。該当するものを取り扱っている農場は、「化学物質管理者」や「保護具着用管理責任者」を選任し、必要な教育、リスクアセスメント、対策等を行います。下記リンクにある厚生労働省のホームページから詳細を確認してください。

#化学物質による労働災害防止のための新たな規制について(関係法令等、テキスト、学習動画など)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
#労働安全衛生法の新たな化学物質規制(改正の概要)
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001083280.pdf
#新たな化学物質規制が導入されます(パンフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/001093845.pdf
#ケミガイド(特設サイト)
https://chemiguide.mhlw.go.jp/

【3】 労働条件明示のルールが改正されます

 「労働基準法施行規則」と「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」の改正に伴い、労働条件の明示事項等が変更されることとなりました(2024年(令和6年)4月1日施行)。

<主な変更点>
全ての労働者に対する明示事項
(ア)就業場所・業務の変更の範囲の明示
有期契約労働者に対する明示事項
(イ)更新上限の明示
(ウ)無期転用申込機会の明示
(エ)無期転用後の労働条件の明示

 雇用がある全ての農家や法人が該当します。労働条件通知書や雇用契約書への記載事項や雇用更新時の留意事項に変更があります。下記リンクにある厚生労働省のホームページから詳細を確認してください。

#令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます(関係法令等、パンフレット、様式等)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html
#2024年からの労働条件明示のルール変更備えは大丈夫ですか?(パンフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001156048.pdf

【4】 アレルギー表示 「マカダミアナッツ」の特定原材料に準ずるもへの追加、「まつたけ」が削除

 食品表示基準が改正され、特定原材料に準ずるものとして新たに「マカダミアナッツ」が追加され、「まつたけ」が削除されました。

<特定原材料等>
根拠規定 特定原材料等の名称 理由 表示義務
食品表示基準 (特定原材料) 8品目 えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ) 特に発症数、重篤度から勘案して表示する必要性が高いもの。 義務
消費者庁次長通知 (特定原材料に準ずるもの) 20品目 アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、マカダミアナッツ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン 症例数や重篤な症状を呈する者の数が継続して相当数見られるが、特定原材料に比べると少ないもの。 特定原材料とするか否かについては、今後、引き続き調査を行うことが必要。 推奨(任意)

 農産物の販売においてアレルギー表示は原則求められませんが、生産工程における食品安全リスク評価の際、アレルゲンの混入可能性を検討する必要がありますので、リスク評価表等のツールを使用している方は見直し・更新を行ってください。

*消費者庁>食物アレルギー表示に関する情報
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy

2024/4


ブックレビュー 『ミミズの農業改革』 金子信博著

山田正美 一般社団法人日本生産者GAP協会 専務理事

 この本のタイトル『ミミズの農業改革』はミミズの専門書のように思われるかもしれませんが、生態学的土づくり管理の結果として、ミミズが生息できる土壌環境を作ることが要であることを説いた本です。

 著者は、今年2月に開催されたGAPシンポジウムで講演していただいた福島大学食農学類の金子信博教授です。金子教授は、土壌中の無脊椎動物(ササラダニ、トビムシ、フトミミズ類)の研究をしている土壌生態学の専門家です。研究を通して、農作業で土を耕すことや雑草を除去することは、土壌の健全性を損ない、ミミズが住みにくい土壌環境になるとしています。

 「有機栽培」は化学合成農薬や化学肥料の使用を認めていませんが、耕起は許容していますし、「不耕起栽培」は耕起を認めていませんが、除草剤の使用は許容しています。いずれもミミズをはじめとする土壌生物にとっては、住みづらい農法ということになります。

  そこで著者は茨城大学の小松﨑教授とともに、不耕起かつ除草剤等を使用せずにカバークロップ等で土を覆っておく「不耕起・草生栽培」を提唱しています。この「不耕起・草生栽培」は、ミミズをはじめとする土壌生物の多様性を保全し、土壌の機能を高めるためには理想的な方法であり、各地に試験地を作って土壌の機能だけでなく、農法の改善も行っているとのことです。

  私(筆者)のように耕起や除草剤使用を長年指導してきた農業指導者にとってはなかなか受け入れられるものではなかったのですが、この本を読むと、土壌を健全に保つためにミミズをはじめとした土壌生物の存在がいかに大切であるかに気づかされます。それでも慣行栽培の耕起のメリットは不耕起栽培のメリットを上回るという人も多いと思います。そこで考え出されたのは、播種や移植をする狭い範囲の土壌だけを耕起するという方法です。これでしたら耕起する面積は極小面積に限定され、そのほかの面積を不耕起にしてそのメリットを享受することができます。

  そうは言うものの、ミミズをふくめた土壌生物の力を借りての土壌環境改善の効果が現れるには、即効性のある化学肥料や除草剤を使い耕起を実施する農法とは違い、数年単位の時間が必要となります。そのため、変更したい圃場の一部で、土壌の健康状態がどのように変化するのかを確認してから、対応する面積を拡大していくことをお勧めします。

  いずれにしても、この中に書かれていることは、昨年11月に日本生産者GAP協会から発行した『実践ガイド 生態学的土づくり』の内容と通じるところがあり、併せて読まれることで、なお一層理解が深まることは間違いないと思います。

2024/4


セミナー受講者の修了レポート(感想や考察)の紹介

株式会社AGIC 事業部

GAPの必要性を考えてもらうにはGH評価制度が良い

「GAP指導者養成講座」 都道府県普及員

 GH評価制度は、JGAPなどの第三者認証と比べて、GAPの基本的な考え方(適正な農業の実践)を生産者に考えてもらうのに良い手法であると感じた。出荷先などから認証取得の要望がない限り、GAPの必要性について考える生産者は少ないと感じている。しかし、食品としての農産物を取り扱う上で、最低限やるべきことができていない事例もあることから、農協の部会などでGH評価に取り組んでみたほうがよいと感じた。スコア化されることは賛否両論あると思うが、うまく取り組めていない部分の発見に活用する手法としてうまく活用していきたい。


認証に必要な情報はもちろん、GAPの目的や考え方が非常に参考になった

「GAP指導者養成講座」 生産者

 今回は研修先の農家としての参加ではありましたが、GAPについてはかねてから認証を取得したい意向がありました。国内外の販売先と商談する際、GAP認証取得の有無を問われるケースがかなりあり、販売先によってはGAP認証取得が前提となっているところもありました。

  今回参加の機会をいただき、認証に必要な情報はもちろん、求められる形式や内容、その目的や考え方が非常に参考になりました。またリスクを把握するという観点でも、農家として身近な分、文書化していなかったり、当たり前のこととして捉えてしまい改めて確認していなかったり、といった事にも気づくことができました。今回の研修を経て、具体的にGAP認証取得に向けて改善すべき点を理解することもできましたし、取得に向けた第一歩を踏み出すことができ感謝です。この度は貴重な機会をいただきありがとうございました。


GAPにおける「適正3原則」、特に「予防原則」が重要

「GAP指導者養成講座」 都道府県普及員

 GAP概論の講義では、GAPの必要性からリスク評価についてまで学ぶことが出来た。自分のGAPへの意識が作物の生育上のリスクに偏っていることを認識しました。今後は環境負荷や労働安全などの要素についても等しく重要なポイントとして評価を行いたいと思います。講義内で初めて聞く語彙は多くあったが、その中でも、GAPにおける「適正」の3原則は重要に感じた。特に、予防原則はリスク評価を行う上で常に意識する必要性を感じた。

 ビデオでの評価演習では、実例をもとに監査の状況を見ることが出来た。生産者に対する問いかけが一辺倒になっておらず、能動的に答えることが出来るような道筋の作り方が大変勉強になりました。



株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載50回)
~どうする今後の労働力と運転資金確保~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 令和6年に入り弊社は栽培面積を1.3ヘクタール拡大して総栽培面積がおおむね5ヘクタールとなった。それから社員の1人が近々産休に、続いて育休に入る予定だ。現在、N社員・O社員の2名と地域おこし協力隊員(隊員I氏・隊員O氏)2名が収穫作業時間は別として一般栽培管理を行っている。研修生は週に3日から4日程度、我が社で研修している。これまでの栽培面積においても十分な労力とはいえない状況であった。雇用主としてはある程度は予期していたが、年明け早々、地域おこし協力隊員の新規就農のための農地拡大の事案と出産・育児休暇の計画が同時に浮上したのである。そのため、みかん園5ヘクタールの面積を管理していくための労働力と運転資金確保をどうすればよいか対応に追われている。

  農地を拡大した背景は、今年の年明けに、近隣の農家(Y氏)がみかん園管理について相談にきたことから始まった。そのY氏は私が農業改良普及員をしていた頃からお付き合いのあるみかん専業農家である。相談内容はその農家のみかん園の90%を株式会社Citrusに管理して欲しいとの要望であった。理由はY氏が体調不良でこれまでのような農作業継続は困難であると告げられたのだ。我が社の研修生2名が2年後地域おこし協力隊を卒隊した後に、隊員が自立就農するための農地確保を考えていた矢先だった。しかし、今すぐ確保が必要ということではないことをY氏に伝え、その日はとりあえず対象園の現地確認をするのみで終わった。有田みかん産地といえば階段畑の傾斜地が殆どを占めているが、Y氏の園は違っていた。40年前に山林をブルドーザーで切り開いた緩傾斜地で水はけと省力化を考えた、階段畑ではなくほぼフラットな園地であった。登記上総面積は13,337㎡で一筆にまとまっていて、防除やかん水用のスプリンクラー設備に加え園内道が整っていた。みかん栽培には理想的な園地であった。私の本音は今すぐにでも我が社で引受けたいところだったが、Y氏はJAの理事であり集落共選の組合員であることから、まず関連団体に声をかけ地域で支えてもらうことを打診した。

  その後、地域の農家に支えてもらう話も出たようだが、Y氏は若者である地域おこし協力隊員が自立することに協力していきたと申し出てきた。2年後といわず今すぐにでも地域おこし協力隊員が自立したいというのなら管理をお願いし、体力に自信はないがY氏が栽培指導はしていけるとのことであった。

  地域おこし協力隊の運営は有田川町役場であることから、早速、私と園主Y氏が役場に出向き話し合いをもった。役場の意向は地域おこし協力隊活動計画上の3カ年の任期を全うさせたい。卒隊後には、国・県の新規就農に関する補助金適用を計画中でもあり、今すぐ農地を確保して地域おこし協力隊活動を辞退させて就農させるには早すぎるとの結論となった。

  この結論を持ち帰り社内会議を開いた。社員らにはこれまでの経緯を説明し対象園地を確認させた。社員らは対象のみかん園は合理化されているので気に入り、管理方法については社員と隊員で検討するから是非借りてほしいとの結論となった。私は我が社が2年間借り受け、地域おこし協力隊員が自立する2年後に管理を引き渡す予定で進めてもらうこととして役場に伝えた。役場もそれに同意し、同時に園主にもその旨を伝えた。有田川町の地域おこし協力隊の実施目的では「卒隊後有田川町において就農すること」としており、協力隊活動は「地域の農家と連携しながら隊員自ら農業を学んでもらう」仕組みを募集要領に載せている。

  我が社と園主の農地の利用権設定が2月末に農業委員会において成立し、管理については我が社の地域おこし協力隊の育成方法(本紙第76号で紹介のとおり)を適用した。I隊員に自立後管理するみかん園として事前に2年間責任を持って模擬経営者として管理をしてもらうこととした。隊員は2名いるのでもう1人のO隊員には我が社が管理している別の園地3,000㎡のみかん園を模擬管理してもらうこととした。その3,000㎡は卒隊後3年間自立経営の手助けとしてO隊員にお任せしてみようと考えている。これまでの農作業は社員が隊員に教える形式だったが、今年からは隊員が自ら作業計画を立てて活動する方式とした。隊員2名は1年未満の農作業経験しかなく作業のスピード感に不安があったが、やらせてみると現在のところ問題はなさそうである。O隊員へのお任せ園地には必要に応じて社員が出向いていくが、ほぼ隊員が地域の農家やY氏の指導により管理できている。このような仕組みとした背景は、N社員が今年の夏に出産を控えており、現在薬剤散布や施肥等の労働を控えているからで、すでにO社員に負担をかけてしまっている。我が社のルール上「地域おこし協力隊」の労力を組み込んでいなかったが、地域おこし協力隊の勤務は週4日間で、3日間フリータイムがある。その3日間で可能な日に我が社でアルバイトをしてもらうこととした。これでもまだまだ労力は足りないので、借り受けた園主Y氏の奥さんに、彼女が元々管理していた摘果作業と収穫時アルバイトをお願いした。栽培面積の拡大による生産資材費は事業計画には計上していなかったので、資金繰りに苦慮している。借り受けたみかん園の販売がうまく運ぶことを願って、グロワー/シッパー連携している「株式会社みかんの会」から販売代金の前借りをするか、銀行から融資を受けるか、もしくは役員報酬未払い処理も視野に入れ、運転資金の確保を考えている。

  臨時の労働力確保については、これまで社員が産休や育休を取ること、そして仕事復帰する場合等の就業事情がなかったのでその対応が急務である。休暇制度は特定保険労務士に指導受けながら社会保険で運用できるが、休暇中の労働力確保は会社が実施しなければならない。任期付きで社員を雇用するべきか、臨時のアルバイトを募集するのか、いずれにせよ突然の出来事に直面している。  

添付写真は、これらの課題を社員・地域おこし協力隊員そして4月の人事異動後の県担当者・役場担当者を交えて意見交換した後の撮影。中央の4人が社員と地域おこし協力隊員(2024/4/18)

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