-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 75号

《巻頭言》
『日本農業遺産とSDGs』

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事
農業生産法人(株)Citrus代表取締役

 和歌山県有田地域のみかん栽培の礎を築いた「有田みかんシステム」が令和3年に日本農業遺産に認定された。食品産業全般における生産と流通、供給システムを持続可能としてきたことが認定の背景にあるように思う。その申請内容をみてみると、本システムは「みかん生産者による優良品種の探索と農家による苗木生産の組み合わせで、自立性の高い産地形成、地形の組み合わせに応じた栽培技術の開発、及び日本初のみかん共同出荷「蜜柑方」(江戸時代に紀州藩が作った共同出荷組織)を起源とする多様な出荷組織の共存を核とした持続的農業システム」とされている。

 現在日本で最も生産量の多い果実であるみかんの栽培を日本ではじめて生計の手段にまで発展させ、400年以上にわたる有田地域の発展を可能にしたシステムである。有田地域では、室町時代より在来のみかんを栽培しており、安土桃山時代に現在の熊本県より小みかんを導入し、品種改良により「紀州みかん」を生み出し一世を風靡した。このように有田地域では高い観察力を持った農家が日々の農作業の中で数多くの優良品種(枝変わりの突然変異)を見出し、品種のバリエーションを高めてきた。

  また、多くのみかん産地はでは苗木を産地以外の専門業者から購入しているが、有田地域ではみかん農家の一部が産地農家のニーズに応える高品質な苗木を産地内で生産するシステムで、2年生土付き苗の供給を可能として生育を早める技術が定着している。それにより、産地内での優良品種の発見・育成・苗木生産が速やかに進められ、産地の自立性が確保されてきた。

  一方、有田地域の地質は三波川帯・秩父帯・四万十帯等に分けられ、その地質に適した品種が選択されている。また、地形は複雑で土壌の流亡を最小限に抑えるため石積みによる階段畑が築かれている。その技術は現在においても他産地のモデルとされている。石積みによる畑地の造成は有田地域の地形を活かし、みかん栽培区域と居住区域を分離させ、気象災害や生物多様性を考えた仕組みが形成されていると説明している。

  販売手法は、江戸時代につくられた日本初の共同出荷組織「蜜柑方」が、みかんの生産から販売までを確立していく手段として取り組まれ、それが現在も機能していると考えられる。申請内容の概要は以上であるが、歴史が示すとおり、有田みかん産地の農業形態が持続できてきたことは間違い無い。そのそれぞれの取組がSDGsの中にあるように考えられる。合わせて個々の取組が現在のGAPに位置付けられる部分もある。持続可能な農業とは歴史を振り返えると見えてくるような気がする。今、農林水産省によって進められている「みどりの食料システム戦略」にあっても農家が生計を立てられるシステムでなければならない、そうあってほしいと願っている。

  現在、和歌山のみかん産地は、「世界農業遺産」を目指し、持続力を高めるためにブラッシュアップしている。

2022年12月19日に農林水産省が世界農業遺産への認定申請を承認した地域に和歌山県が選ばれた。産地は「和歌山県有田・下津(ありだ・しもつ)地域の石積み階段園みかんシステム」として「国連食糧農業機関(FAO)」への申請書作成中

2023/5


《農林水産省GAP情報》
『GH評価規準が「農林水産省 国際水準GAPガイドライン」(青果物)に準拠』

日本生産者GAP協会 評価制度・普及委員会

 2023年4月12日付けで、GH農場評価の評価規準(「日本 GAP 規範」に基づく農場評価制度 評価規準・チェックシート農業分類:全農場共通、作物共通、水田畑作、園芸 Ver 2. 1_230410)が国際水準GAPガイドライン(対象品目 青果物)に準拠していることが確認されました。その他の品目についても、準拠確認手続きを進めています。

  農林水産省は、平成22年4月策定の「GAP共通基盤ガイドライン」(旧ガイドライン)を廃止し、2022年3月8日付けで新たに「国際水準GAPガイドライン」を策定し、国際水準GAPの普及に向け、都道府県など多様な主体が策定しているGAP基準文書が国際水準GAPガイドラインに準拠しているかを個別に確認しています。

  当協会が策定する「GH評価規準ver2」は、旧ガイドラインへの準拠が確認されていましたが、今回、現行の国際水準GAPガイドラインへの準拠確認を申請し、若干の修正を経て、「GH評価規準ver2.1」として準拠が確認されました。スプラウト専用項目、きのこ専用項目の追加を除き、項目構成や項目内容に大きな変更はありません。

  国が目指す「令和12年度までにほぼ全ての産地で国際水準GAPの実施」に向けて、GH評価制度の主たる目的である「評価結果に基づく農場や産地の自主的/段階的な取組み」を進めつつ、「最終的に国際水準GAPガイドラインの全項目が実施されていること」を確認する手段としてGH評価制度が広く利用されることが期待されます。

 GH評価制度の詳細は、ホームページからご確認ください。(https://www.fagap.or.jp/assessment/)

<国際水準GAPガイドライン準拠に伴うGH農業評価基準の主な変更点>

項目の追加、または項目内容の1節("○"で始まる一文)の追加 【赤字で表示】

変更点(ver2.0→ver2.1)農業分類項目番号項目内容ver2.1_230410
項目を追加1.2○食品管理、商品管理、労務管理、作物管理(土壌管理、作物養分管理、肥料管理、病害虫管理、農薬管理等)、飼養衛生管理等の責任者とその責任範囲を定めている。(営農形態により当てはまらないものは不要。個人や小規模農場の場合、1名が全ての責任者でも良い。)
項目を追加1.8○生産計画(作付・飼養計画、収量計画など)を策定し、生産計画に対する実績を評価し、次期の生産計画に反映している。
項目を追加1.16○食品安全に係る全てのサービス(資材、検査、メンテナンス等)の提供者の力量評価を行い、力量に不足がある場合は使用しないなど必要な対策を取っている。
・「セイヨウオオマルハナバチ以外の外来生物の適正使用管理」について追加した。3.2.2〇その他の外来生物の利用について、適切な飼養管理を実施している。
・「未熟堆肥が完熟たい肥やその他堆肥と接触しないように保管」について追加した。4.2.1○肥料等は、収穫物や農薬とは別に保管している(農薬と混合して使用する肥料は除く)。未熟堆肥が完熟たい肥やその他肥料等と接触しないように保管している。
新たに項目を追加
(基本的には、5.1~5.3でカバーされる範囲であるが、スプラウト類専用項目として追加された)
5.4.1スプラウト類の農産物取扱工程における衛生管理を実施している(管理体制の整備、作業者の健康・衛生管理を含む)。
5.4.2スプラウト類の培地、栽培容器の安全性の確認と適切な管理をしている。
5.4.3スプラウト類に使用する水について、水質検査、給水設備の保守管理、異物混入防止対策、微生物汚染防止対策を実施している。
5.4.4スプラウト類(種子、作物を含む)を扱う場所は他の区域との境界を明確にし、衛生管理を実施している。
5.4.5スプラウト類の生産設備について工程ごとの専用化を実施している。
5.4.6スプラウト類の種子の殺菌・衛生管理を実施している。
新たに項目を追加
(基本的には、5.1~5.3でカバーされる範囲であるが、きのこ類専用項目として追加された)
5.5.1きのこ類の原木、菌床資材等、種菌の安全性の確認と適切な管理をしている。
5.5.2きのこ類の培養施設の温度・湿度等の適切な環境条件の維持及び衛生管理の実施をしている。
5.5.3菌床資材及び工程別作業についての記録を作成・保存している。
5.5.4きのこ類の培地調製、種菌接種を衛生的に実施している。
5.5.5ボイラー及び圧力容器の設置・使用に必要な届出、取扱作業主任者を設置している。
5.5.6ボイラー及び圧力容器の定期自主点検の記録を作成・保存している。
・「事業継続性計画の策定」について追加した。6.10○災害等に農業生産を維持・継続するための体制や対策を含む計画が策定されている。
・項目を追加7.4 ○温室効果ガスの排出削減および/または大気からの除去のための具体的な取組みが行われている。

表現の修正、単語の追加などによる項目内容の明確化 【青字で表示】

、気象条件や時間帯を考慮し、ドリフト低減ノズルの使用、散布の方法、風やノズルの向きなどの対策を採っている。
・リスク評価の種類を明確化した。
・作2.1.1、作2.3.4も同様の修正。
1.4○圃場、果樹園地、温室、キノコ栽培地や畜舎、農産物取扱い施設などの生産場所などの他、資材倉庫や設備、および培地などの生産資材について、環境への影響、および農産物に対する物理的・化学的(アレルゲン含む)・微生物学的汚染、(該当する場合はアニマルウェルフェア)に関するリスク評価を行ったことが分かる記録がある。
・管理計画の目的を明確化した。1.6○食品安全、環境保全、労働者の権利と健康、農場経営の健全性を確保し、継続的改善に関わる要求事項、およびリスク評価(全1.4、全1.14、作2.1.1、作2.3.4、全5.1.1、全6.1)で特定したリスクを最小限に抑えるための管理計画やルール等を定め、作業者や来訪者へ周知し、順守している。また、実施状況を確認し、必要に応じて管理計画やルールを見直している。
・充分に腐熟期間を設ける目的や効果を明確化した。水畑2.2.1○水田に稲ワラや緑肥をすき込む場合、メタンガス等の温室効果ガスや硫化水素等の発生を削減するため、充分な腐熟期間を設けている。
・その他農薬が付着した部分を明確化した。3.2.7○農薬散布機は、使用の前に十分な点検を行うとともに、使用後はタンク、ホース、ノズルの内外、その他計量器等を含むその他農薬が付着した全ての部分を洗浄している。
・周辺地の説明を明確化した。3.2.12○周辺地(圃場、河川、住宅等)への農薬のドリフトがないように
・環境流出がない旨を明確化した。4.2.1○保管場所は、排水溝や排水路から離れた場所で環境へ流出しないように、また、火気、直射日光、高温、雨・露および霜、物理的衝撃等の影響を受けず、崩落・落下、発熱・発火・爆発防止等がないように保管している。
・汚染について明確化した。4.5.1○農場内から排出される可能性のある廃棄物、汚染源その他周辺への影響(騒音、振動、悪臭、煙・埃、有害物質の飛散・流出など)について特定し、農場から出る廃棄物や汚染源の管理計画を立て、適切な廃棄手段を文書化し、適切に管理している。
・器具等の表現を明確化した。
・作5.3.3、全6.7も同様の修正
5.2.2○繰り返し使う収穫用の機械、車両、器具、容器は、定期的に洗浄・消毒し、清潔に取り扱い、保管をしている。また、必要な頻度で記録を残している。
・雇用における法令事項を明確化した。6.1○雇用において、強制労働や差別がなく、雇用の際は労働条件を提示し、労働条件が遵守されており、全ての作業者の権利・健康・福祉が守られている。外国人労働者の雇用がある場合、在留資格の確認、労働者が理解できる言語で文書提示、雇用状況の届け出等を履行している。
・家族経営の場合の双方向のやりとりについて、明確化した。6.4○作業者管理者と労働者との間で、定期的に、作業者の労働条件、健康、安全、福祉に関する双方向のやりとりを行なっており、そのやり取りから実行に移したことがある。家族経営の場合、家族間の十分な話し合いに基づく経営が実施されている。
・防護装備が必要な作業の事例を明確化した。
・前提となっていた「取扱い説明書やラベルの指示、リスク評価結果や農場のルールを遵守し、」を追記して明確化した。
6.8○作業者は、機械や農薬の取り扱い等の作業を安全に行えるよう、取扱い説明書やラベルの指示、リスク評価結果や農場のルールを遵守し、作業に適した服装や防護装備(ヘルメット、安全靴、ゴム靴、防水服、ゴーグル、ゴム手袋、国家検定に合格したマスクなど)を適切に着用している。
・防護服の洗浄後の「乾燥」について追記して明確化した。
・前提となっていた防護服等の点検・保守について追記して明確化した。
6.9○防護服等は、使用目的や汚染度合いに応じて使用後に良く洗浄・乾燥している。
○防護服等は、使用前後の点検および日常の保守管理を行い、農産物や私服など他のものを汚染しない場所に保管している。
・ボイラー等の事例について明確化した。6.11○ボイラー及び圧力容器の設置・使用に必要な場合は届け出を行い、取扱作業主任者を設置し、自主点検を定期的に行い、記録を保管している。

2023/5


《特集 2022年度GAPシンポジウム概要 そのⅡ》
Ⅱ-1 日本農業のトランスフォーメーションを考える DX×SDGsとGAP

中島洋 一般社団法人沖縄トランスフォーメーション 代表理事
一般社団法人日本生産者GAP協会 理事

(講師が講演内容を簡潔にまとめたレジュメを掲載しました。)

SDGsの確認(各目標に不整合がある、15年時点の制約も)

  1. 貧困をなくす あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を
  2. 飢餓ゼロ 飢餓に終止符を、食料安定確保と栄養状態の改善を達成、持続可能な農業を推進
  3. 全ての人に健康と福祉 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進
  4. 質の高い教育をみんなに 全ての人々に公平で質の高い教育、生涯学習の機会を促進する
  5. ジェンダー平等の実現 ジェンダーの平等を達成、全ての女性と女児のエンパワーメントを
  6. 安全な水とトイレを世界中に 全ての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保
  7. クリーンなエネルギーをみんなに 全ての人に持続可能で近代的エネ ルギーへのアクセスを
  8. 働きがいも経済成長も 持続可能な経済成長、生産的完全雇用及び働きがいある仕事
  9. 産業と技術革新の基盤を 強靭なインフラの整備、持続可能な産業化推進と技術革新拡大
  10. 人や国の不平等をなくそう 国内および国家間の格差を是正する
  11. 住み続けられるまちづくり 都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かつ持続可能に
  12. つくる責任 つかう責任 持続可能な消費と生産のパターンを確保する
  13. 気候変動に具体的対策 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る
  14. 海の豊かさを守ろう 海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全、利用する
  15. 陸の豊かさも守ろう 陸上生態系の保護、森林の持続可能な管理、砂漠化・土地劣化の阻止
  16. 平和と公正を全ての人に 全ての人に司法へのアクセス、効果的で責任ある包摂的な制度の構築
  17. パートナーシップで目標を達成 持続可能な開発に向けてグローバル・パートナーシップの活性化

いま日本社会で何が起きているか Part.Ⅰ

企業:経営環境・競争条件の激変で存続危機と大変身(DX)の決断

◆デジタル技術の深化、拡大による大変化の強制(DXが生き残りのカギを握る)
<デジタルへの変革>から<デジタルでの変革>へ

 10年に100倍(30年で100万倍)の高速で能力向上。強力な道具が次々に登場、競争条件を変える。
 市場(顧客)アクセスの劇的変化(国境を越えた市場、電子取引、ビッグデータ解析、等々)
 業務体系のネットワーク化による飛躍的生産性向上、自動化導入による競争力変化。
 競争条件激変で産業交代=ex:流通:百貨店→スーパー→コンビニ→ネット通販:直販

◆地球環境悪化による厳しい制約条件(SDGsが生き残りのカギを握る強制力)

 法律による規制、投資家の評価(ESG投資)、消費者の選択(エシカル消費・安全安心)
 CO2排出の有無が産業の交代を強制する(ガソリン車⇒電気自動車、火力発電⇒再エネ)
 カーボンフットプリント*による商品評価軸の変更・脱プラスチック・有毒ガス排出規制など
 *原材料調達から配送、廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体の温室効果をCO2に換算 し評価

◆グローバル経済の見直し(国家安全保障、経済安全保障)による自国回帰(安全保障がカギ握る)

 重要資源を他国に依存するリスクの浮上⇒エネルギー、希少金属、食糧など安全保障の再検討
 自国資源回帰、緊密同盟国との協調経済による自国産業の選択的再構築

いま日本社会で何が起きているか Part.Ⅱ

農業:自然環境・社会環境の激変で存続と進化への大変身(GAP深化)

◆地球環境悪化による厳しい制約条件(SDGsがGAPを深化)

SDGs12. つくる責任 つかう責任 持続可能な消費と生産のパターンを確保する
・安全安心な農産物、脱CO2、脱過重労働、安全な作業環境⇒減農薬、減化学肥料、自動化、再エネ
・廃棄物循環(3R:Reduce、Recycle、Reuse)の仕組みの構築(循環型農業)

SDGs12. つかう責任 CFPによる商品評価軸の変更・脱プラ・有毒ガス排出規制など
  *CFP=原材料から配送、廃棄・リサイクルに至るライフサイクル全体の温室効果をCO2に換算し評価

SDGs7. クリーンエネルギー⇒再エネ、畑地の上にソーラー、小型水力、風力、電動農機、ごみ発電

SDGs9. 技術革新⇒自動化ロボット、ドローン、IoT、データ駆動農業、作業者の健康管理

SDGs6. 安全な水⇒衛生的な水の確保 地下水汚染防止、脱窒素資材
・消費者の選択(市場の誘導) エシカル消費・安全安心、減農薬、減化学肥料 脱CO2

SDGs11. 住み続けられるまちづくり⇒住み続けられる地域づくり
・地域再エネ、農産物生産、各種雑貨品、市場との一体化⇒「地産地消」化の挑戦

SDGs14.海の豊かさを守ろう SDGs15.陸の豊かさも守ろう

■SDGs以外 ◆食糧安全保障=農業の国内回帰  ◆メタン回収畜産、陸上養殖、細胞農業など

DX理解の方向性

・平成後期~令和、IT/ICTから「デジタル」へ、シーズとニーズ双方の"変身"圧力
  ⇒インターネット、スマホ、高速(大容量)通信で映像、クラウド、AI、ロボット、、
  ⇒規制の厳しくない海外から異次元のサービス、検索サービス、GAFA、SNS、、、

①デジタルがトランスフォーメーション起こす(シーズ観点)

  • デジタル利用で可能になった業務処理、情報処理、新しい状況が見える化
  • 消費者や取引先との関係が直接化
  • 競争環境変化、新サービス続々誕生、既存ビジネスを破壊、企業の交代
  • 業務改革で経営コスト激減、柔軟な経営できない企業の退場

しかし、どこへ向かう? ⇒経営の効率化、売上・利益の増大だけ? 新市場創造、

  • デジタルマネー(キャッシュレス、バンクレス)関連~~
  • デジタル医療(健康)関連~~ ・デジタル農業、デジタル水産業(陸上養殖、、)~~

②SDGsが手段や方向性が正しいかどうかの評価軸になる(ニーズ観点)

 SDGs観光(クリーンエネルギー、廃棄物処理、フードロス削減、循環型水利用、、、)
 デジタル利用で在来業務をSDGsに合わせたエネルギー最小化形態に変える(オンライン)
 SDGsによって現れた新事業、新分野(ブルーオーシャン)への挑戦(別ページ)

SDGsが提起した農業の方向

・カーボンフットプリント(CFP)
 産地集中型の再検討、肥料・資材・燃料(エネルギー)・集荷・配送・廃棄などのトータルライフサイクルでの温室効果の試算とCO2換算
  ⇒地産地消型の農業の再設計は可能か、地域社会再創造の中核としての農業

・カーボンニュートラルエネルギー
 大発電所による集中電力生産から超分散再エネ電力への転換は可能か
  ⇒地産地消費型のエネルギー地域自給は可能か
  ⇒地域回帰型経済、地域回帰型社会 農業が中核産業になれるか
  ⇒電動農機、自動運転農機による生産性向上は可能か

・畜産物
 仮想水=牛肉100gには2,060リットルの水、豚肉100gには590リットル、鶏肉100gには450リットルの消費
 げっぷや糞尿=メタンは二酸化炭素(CO2)の27倍の温室効果を持つ
 肉1kgの生産に必要な穀物の量は、牛肉が11kg、豚肉が7kg、鶏肉が4kg(鶏卵なら3kg)
   (農林水産省の「知ってる?日本の食料事情」)
  ⇒畜産業のシステム的構造改革
  ⇒細胞農業?

日本農業の進路(DX、SDGs、安全保障)

◆デジタル技術の深化、拡大による変化(DXが生き残りのカギを握る)

 無線、スマホ、クラウド、IoT、ビッグデータ、AI、自動農機、ドローン、ロボット、、、

  • DXの0段階=経費の圧縮による利益増加 各領域でのPC利用
  • DXの第1段階(業務の電子化から深化、ネット化)<デジタルへの変革>
      電子受発注、共同推進者の情報共有、ネット通販
  • DXの第2段階(業務の仕組みのスクラップ・アンド・ビルド)<デジタルへ(⇒で)の変革>
      在宅(遠隔監視)農業、オンライン会議、データ駆動型経営(AI、センサー)
  • DXの第3段階(業態変革、新農業形態・創業)<デジタルでの変革>
      本業の技術・情報資産を活用、成長市場に経営資源を配賦
      成長市場の象徴=SDGs関連⇒SDGs×DX
      養殖型・IoT制御型畜産、水産業、ハウス農業、極端な方向では「細胞農業」
◆地球環境悪化による厳しい制約条件(SDGsが生き残りのカギを握る)
◆グローバル経済の見直し(国家安全保障、経済安全保障)による自国回帰(安全保障がカギ握る)

参考)SDGsの提唱で際立った価値観の根本的転換

◆化石燃料使用の考え方

  旧:有限な資源である化石燃料利用からの転換⇒原子力、再生エネルギー
  新:地球環境を破壊する化石燃料利用から安全な資源利用⇒再生エネルギー、CO2吸収技術
  再生エネルギー⇒日本はエネルギー資源豊富な国にトランスフォームできる
  産業構造転換⇒自動車:ガソリン車→電気自動車、電力:火力→再生エネルギー(地産地消型)

◆水産資源の減少対策

  旧:漁獲制限による資源保護
  新:養殖漁業⇒さらに陸上養殖(IoT制御によるデジタル管理漁業)

◆菜食主義

  旧:動物を犠牲にする肉食の排除、健康維持も菜食有利(反論:長寿者は肉食愛好家)
  新:畜産業は水や穀物の多消費で人間社会を圧迫する、ビーガン人口の拡大
    ⇒細胞農業?

参考) DXの3つの階段

<デジタルへの変革>から<デジタルでの変革>

  • 変身の強力な武器=デジタル(シーズからの後押し)
      無線、スマホ、クラウド、IoT、ビッグデータ、AI、自動農機、ドローン、ロボット、
  • DXの0段階=経費の圧縮による利益増加(コンピューターによるコストダウン=昔から)
      業務のコンピューター利用(電子化)~非効率業務の撲滅
      FAXの中止、電子レジ、文書の電子管理、電話中心からメール中心
  • DXの第1段階(業務の電子化から深化、ネット化)<デジタルへの変革>
      電子受発注、社内グループウエア、社内電子掲示板、ネット通販
  • DXの第2段階(業務の仕組みのスクラップ・アンド・ビルド)<デジタルへ(⇒で)の変革>
      在宅勤務常態化、オンライン会議、データ駆動型経営、AI・自動化業務改革
      クラウド利用(経理、人事、労務、営業)でアウトソース、WEBマーケティング
  • DXの第3段階(業態変革、新サービス進出・創業、産業・社会構造変革)<デジタルでの変革>
      本業の技術・情報資産を活用、成長市場に経営資源を配賦
      成長市場の象徴=SDGs関連⇒SDGs×DX

参考) デジタルツールで何が起こっているか

★「デジタル」はICT(情報通信技術)の飛躍的発展形で、ICTとはレベルが数段違う。
★デジタルの新しい強力な道具を使って、企業、産業、社会、個人、至る所で変革
  • インターネットの普及⇒有線、定額、企業でも家庭でもWiFi、スマホもWiFiで
  • 無線⇒場所の制約から解放=通信の主役に、広域WiFiサービス、LPWAN(IoT利用)
  • 大容量通信⇒リアルタイム映像の利用、オンライン世界の実現、在宅勤務、学習、会議、、、
  • スマホ⇒インターネット入り口としての高機能ポケット型コンピューター 各種新サービス
  • クラウド⇒企業も個人もソフトの水道の蛇口型で利用、Webアプリケーション、SaaS、、、
  • IoT⇒工場内、農場内、養殖場内など広域の環境制御、少数の人員での最適管理
  • ビッグデータ⇒スマホ、IoT、取引履歴などから膨大なデータ収集、解析により飛躍的改善
  • AI⇒画像認識による各種プロセス自動化、データのグラフィックな可視化、画像として解析など
  • ドローン⇒配送、空中からの情報収集、空中撮影、広域の管理
  • ロボット⇒搬送、配達、会話、介助、配膳、調理など、応用分野多数

◎質問

日本の農業生産者は大小問わず農業DXの対象者なのでしょうか?
 日本には比較的小規模の生産者も多いかと思いますが必ずしも全ての生産者で農業DXの対策対象ではないという認識でよろしいでしょうか?それとも、労働力不足なども含め、生産者の規模に関わらず、日本全体として必要となるときが来るのでしょうか

(中島洋)SDGsもDXも個々の問題です。地域創成と同時に幅広く進めることが良い
 SDGsが個々の問題でもあるのと同じで、DXも個々に対応するのが前提だと思います。ただ個々ではできない問題があるので、その場合には近隣の同志を募って共同で進める必要があると思います。地域創生を同時に進めるならば、幅広く同志を募らないといけないと思いますが、SDGsは若い人ほど理解が進み敏感に反応するので、同志作りには若い人にどう働きかけるかの知恵の使いどころかと思います。

2023/5


《特集 2022年度GAPシンポジウム概要 そのⅡ》
Ⅱ-2 米国農業のパラダイムシフト「健全な土壌のための生態学的管理」

山田正美 一般社団法人日本生産者GAP協会 専務理事

SAREが発行した土づくりの本
"Building Soils for Better Crops 4th ed."

"より良い作物のための土壌構築 第4版"

 米国農務省国立食品農業研究所の資金提供により、持続可能な農業研究・教育(SARE)プロ グラムによって2021年に発行された。
著者:フレッド・マグドフとハロルド・ヴァン・エスの共著
概要:『より良い作物のための土壌構築』は、生態学的な土壌管理に関する他に類を見ない実践的なガイドです。土とは何か、有機物の重要性などの詳細な背景とともに、土壌改良の実践について段階的な情報を提供します。また、全国各地の農家 の事例研究では、これらの技術によって土壌や農場全体が生まれ変わったという感動的な事 例が紹介されています。農家、教育者、学生にとって必読の書です。(アメリカ国会図書館記載データ)

近日 日本語版が発行されます。

 日本生産者GAP協会では本書の出版元であるメリーランド大学と翻訳契約を結んで日本語版を発行します。

 日本語版発行に先立って、本書の内容を紹介します。

(講演内容で特に重要と思われる部分を説明しているスライドを掲載しました。)

◎質問

化学肥料を使わない有機農業に取り組んでも綺麗に耕起した圃場では生産性が上がらず、経営として失敗してしまう例が多いことが土壌の物理的科学的な根拠からよくわかりました。
有機農家で成功している方が「耕作放棄地は耕起せずにむしろ雑草を生やしておいた方が良い」ということを言っている方がいたので講義を聞いて納得できました。有機農業について何かコメントがあればお願いします。

(山田正美)持続型農業への転換で多くの農場が収益増加になっている調査がある。
 アメリカでも有機農業が一般的ということではありませんが、カバークロップを利用して持続的農業に取り組んでいる園芸生産者の大規模な調査結果では、58%が純利益の増加を報告しています。純利益のわずかな減少が認められたのはわずか4%で、純利益の中程度の減少を報告した者はいませんでした。
 また、持続的農業の実施に当たっては、圃場全体を一斉に変えるのではなく、1割か2割の圃場で試しに様子を見て、効果があるということを確認し、面積を増やしていくというのも一つの方法として紹介されています。


◎質問

日本でも持続可能な農業の研究開発はそれなりにあるのになぜ普及しないのでしょうか?

(山田正美)持続可能な農業(GAP)政策で、具体的な農業技術を推進することが必要。
 日本にも環境保全の生産技術はあるけれども、そもそもの意味やその重要性が理解されてなかったということかもしれないです。本来、持続可能な農業を目指しているGAPの普及に関しても同じようなことが言えると思います。日本では、持続可能な農業というより食品安全が最重要テーマと考えられてきました。ヨーロッパではクロスコンプライアンス政策で、本来のGAPが充分実施されていなければ補助金が削減されるという政策です。
 紹介していますアメリカのSAREという団体は、米国政府の持続可能な農業研究教育プログラムです。新たな農業政策の戦略に従って、生産者が「私はこういうふうなカバークロップを使って、土壌侵食が少ない方法でやります」と手を挙げる。それを審査の上で助成金を出して広げるという形で進めているということです。アメリカには様々な気象条件の所があり、具体的な手法はその地域でないとわからない。そのためか国があらかじめ一律のメニューを示すという補助金や助成金のやり方ではありません。


◎質問

農薬を撒くことによって、土壌の中の微生物とかミミズなどが失われていくというのが問題ではないか。

(山田正美)土壌消毒剤のように農薬の種類によっては大きく影響するものがあるが、一般的には対象病害に対する選択性が昔より高くなっている。
 農薬を撒くことによって、土壌中の生物多様性に対する影響はあると思われます。ただし、それがどういう微生物あるいはミミズといった小動物に影響するのかということは、農薬によってずいぶん違うのではないかと思っています。しかし、一般的には、毒性の弱い普通物の農薬が増えてきていることや、農薬の選択性が高くなっていることから、土壌微生物の多様性に及ぼす影響は少なくなっているのではないかと思います。土壌消毒剤の様に全面的に土壌中の微生物や小動物に影響するものもあるので、そこは気を付ける必要があります。いずれにしても土壌の健全性を高め、できるだけ使わないで済むような方向にもっていければと思います。


◎質問

土壌の改善を行った場合の土壌の健全性の経年的改善がグラフ(講演資料まとめ(2)土壌健全性の変化)で示されていますが、これは収量を表しているのか。長年経過すると、グラフが上限に達するように見えるが、プラトーになった段階で土壌の改善を終わりにしてしまって良いのか。

(山田正美)このグラフ(土壌健全性の変化)は土壌の健全性の指標を概念的に示したものです。またグラフが上限に達した時点は、これまで実施してきた方法で上限に達したことを意味していますが、これまでの実践を止めればまた下がっていきます。実践が維持されることにより健全性が維持されることになります。
 土壌健全性増加の経年変化図は、ある特性作物の収量を示したものではなく、土壌の健全性の指標を概念的に示したものです。カバークロップのみの実践や耕起の削減の実施といった取り組みを続けた場合には土壌健全性は高まりますが、やや低いレベルで一定になることを示しています。これらにカバークロップや転作を取り入れればさらに相乗効果で土壌健全性が高まることを示しています。しかし、土壌健全性が高まって一定になっても、これらの取組みを止めれば、土壌健全性が下がってしまいますので、高い土壌健全性を維持するためには毎年同じような取組みが必要になります。

2023/5


《特集 2022年度GAPシンポジウム概要 そのⅡ》
Ⅱ-3 窒素循環の再生で持続可能な農業生産へ

小川吉雄 元茨城県農業総合センター園芸研究所所長

(講演資料の中で特に重要と思われる部分を説明したスライドを掲載しました。)

◎質問

日本農業の研究・教育の変革について、土壌研究家のご意見は?
 山田さんの講演にありましたように、土づくりの問題でも最新の研究教育プログラムではアメリカが進んでいる、一方、アメリカで発表されているような土壌研究の内容について日本で長年研究されておられる小川さんからご意見をいただけますか?

(小川吉雄)技術目標だけではなく、社会構造の変革を伴うことが必要
 農業は、やはり消費者の方に理解してもらって、そして消費者の方からは生産地に向かっていろいろな要望などを出してもらって、生産地が変わっていくということが必要なのかなと思っています。生産者に農業技術的な素晴らしさをアピールするだけではなく、みどりの食料システム戦略もそうですが、社会的には、消費者側から、持続可能性に努めて作られたものを私達は選びます、というような社会システムにしていかないと、なかなか生産現場の改善にならないのではないかと思います。
 みどりの食料システム戦略でも、これから日本の食料・農業の構造がどう変わっていくのかということが分かりやすく出て来ません。単に数字で目標が示されているという中において、各々の農業構造や経済のイメージで動いているだけであって、それが実際に力になるには、やはり何か基本になる構造的なものが見えてくればという気がするのです。

(小川吉雄)消費者に分かってもらうためにデータを活用しよう
 一つの話題として昨日あのエシカルな話がありましたけど、炭素のフットプリントも同じように数字化して色々な食事メニューが、地場産の何カロリーだとか、地場産地でどこの産地でカロリーがいくつだと、というふうに、いくつもの窒素を使って人の口に入るまでにどれだけの環境への負荷を与えていたか、というのを数値化して、できればその認知度を高めたい、そして多くの消費者に理解してもらうことができればよいと思っています。

2023/5


《特集 2022年度GAPシンポジウム概要 そのⅡ》
Ⅱ-4 「本物の野菜作り」から学ぶ総合的作物管理(ICM)の実践

髙橋広樹 株式会社みずほアグリサポート

(講演資料の中で特に重要と思われる部分を説明したスライドを掲載しました。)

◎質問

野菜の栄養価が低下している原因として、窒素肥料過多を挙げられておりましたが、どのようなメカニズムになっているのでしょうか?

(高橋広樹)野菜は、光合成で二酸化炭素と水から酸素とブドウ糖を作りますが、糖は窒素と結合してアミノ酸になるので、窒素が多すぎると糖が減ってしまいます。
 窒素過多では糖度が下がります。光合成でできた炭水化物最初のブドウ糖、その糖が窒素と結合してアミノ酸になるので、窒素が多過ぎると糖が減ってしまうわけです。その糖からビタミンCだとか様々な成分が酵素の働きによって合成されていくので、ビタミンCなどが下がるのだと思います。ちゃんと検証する必要がありますが、鉄やカルシウムなどもそうで、窒素過多になると根が徒長して細かい根っこがなくなり、ミネラル関係を吸収しにくくするのではないかと推測しています。窒素肥料過多だけではなくて、作りやすさや短期間・多収穫など様々な品種改良によっても栄養価の低下が考えられます。

◎質問

低温発芽による育苗について、低温にすることで、若干育苗期間は長くなるものでしょうか?また、ウリ科の接木苗は地上部が低温に弱い印象なのですが、地温と空温の管理について教えてください。

(高橋広樹)低温と同時に冠水を控えることも大切
 低温育苗期間は、温度制限と同時に水も制限しますので育苗期間は長くなります。ポットの下の方から垂れ流す様な冠水をしてしまうと根が徒長して老化苗になってしまいます。適切な温度制限と水制限で細かい根がいっぱい張り、根が土をつかむような苗ができます。さらにその地上部の温度管理については、もちろん適正な温度があります。

2023/5


《特集 2022年度GAPシンポジウム概要 そのⅡ》
Ⅱ-5 GLOBALG.A.P.認証を通した持続可能な農業に向けた教育体制の構築

鳴川勝 和歌山県農林大学校

(講演資料の中で特に重要と思われる部分を説明したスライドを掲載しました。)

◎質問

なぜ花卉のMPS認証を目指したのですか?
 農業大学校の花卉コースで、MPS認証(オランダで環境負荷低減プログラムとしてスタートした花卉の生産業者と流通業者を対象とした総合的な認証システム:編集)を目指した理由を教えてください。

(鳴川勝)農学部には果樹・野菜・花卉のコースがあり、そのすべてで認証取得を目指した
 学生全員が取り組める環境を作るために、グローバルGAP認証を、まず1年目は柿の果樹コースのみでしたが、2年目はトマトを加え野菜コースとの2コース、および花卉のコースでMPS認証に取り組みました。花卉専攻生に頑張って取得してもらえれば、学内の全コース(果樹・野菜・花卉)全員の学生が本当に自分で取り組めるという環境ができるということで、認証取得を推進しました。
1年目は酷い状態から今の形に変わりましたので非常に達成感がありましたが、農場管理の水準がグローバルGAP水準になってしまえば、それからは当たり前というか、あまり変化がない日常となり、そこからの指導の方が難しかったかなと思っています。㈱AGICのコンサルティングですが、1年目は教員も学生も詳細な指導を受けながら、2年目は教員が中心になって学生を指導しました。


◎質問

GAP認証のためとしてあえて学ばなくても、環境保全や食品衛生、作業安全などの講義は、農林大学校の本来の授業で行われているのではないですか?

(鳴川勝)正規の授業では学ぶけれども身につくまでの訓練が十分ではなかった
 授業では具体的な衛生管理の授業などは実施していません。安全な農薬使用や取扱い資格取得では農薬の基礎を学び、農作業安全については農機具の安全講習とかを受ける授業もありますが、農産物調製施設での衛生管理など、現場での対応という点では十分にできていませんでした。


◎質問

学生は、非農家出身者や後継者予定など、比率はどんな割合でしょうか?その違いでGAPに対する反応は異なるのか? また、公開審査に参加された方の感想を聞かせてください。

(鳴川勝)学生の多くは非農家出身、審査に立ち会った生産者は「面倒くさい」という感想も
 学生全体では60%以上が非農家の方です。ただ認証審査を受けた学生は75%ぐらいが非農家です。学生の保護者は審査に立ち会っていません。JAの職員や県の職員、農家で希望する方に公開しました。中には審査の厳しさを言う人もいました。そこまで聞かれるのか、細かいところまで聞くねとか、書類作成の面倒さをいう人もいました。ただ、実際にやっているこちらとすれば1年前は確かに大変でしたが、2年目からは書類があるし、それの継続だけですから、大変だという意識はありません。


◎質問

GAPの取り組みに反対されていた先生方がいらしたということですが、どのように説得したのですか?

(鳴川勝)やって見せて、やらせてみて、達成感を味わってもらうこと
 推進側としてGAP取り組みはどんどん進めてしまい、それを見せて、手伝ってもらって、その分の責任をその人に与えて、その人がそれをするようになって、それが結果として学生に指導して認証を取ればですね、反対していた人自身が理解して教えたことで認証取れたとなれば当然その人もよかったな、ということです。

2023/5


《特集 2022年度GAPシンポジウム概要 そのⅡ》
Ⅱ-6 シンポジウム総合討論 2月10日 講師と質疑応答

中島洋、山田正美、小川吉雄、髙橋広樹、鳴川勝

シンポジウム参加者からの質問や意見を中心に、シンポジウムの講師と参加者との総合討論の概要を事務局がとりまとめ編集しました。


持続可能な社会のための地域回帰の主体者について

◎質問

地域回帰は行政先導が重要だと思うが、その際に中核となるには農家にはどんなメリットが必要か
 地産地消型の農業を再設計し、地域社会再創造の中核として農業があるためには、あらゆる分野の業界が同じ方向を向いて連携した取り組みがなければ進まないと思いますが、そのためには自治体などの行政施策で先導していくことが重要ではないかと思います。また、農家にも理解と気づきを与え、行動させるためには、やはり何かしらのメリットが農家にもあると良いと思いますが、地域回帰のために農業が中核になるには、農家にとってどんなメリットが必要と考えていますか。

(中島洋)地域回帰は、それに気づいた主体的な組織が先導すべき。ESGも後押しする
 重要なのは気がついた個人や組織、行政以外の民間企業、地域のボランティア集団など様々な活動主体があるのですが、気がついた活動主体が先導していくべきだという考えがあり、そのうち行政が先導することも意味があると思っています。
 先進的な企業においては利益の拡大とは別の価値基準、評価基準、皆さんご存知のESG基準を設けて投資する企業の選別をしてきております。この選別に合わせるために「SDGs実践の振りをする」という「SDGsウォシュ」も出てくるということで、そのようなインチキなSDGsを排除しようという運動も起きています。投資家も目先の利益ではなくSDGsを判断基準にしてくるので、先進的な企業は積極的にきちんとしたSDGsに取り組んでおります。
 その中には地域創生という課題も含んでいますので、いろいろなところが地域創生の活動主体になる可能性があると思っています。そういった中で、やる気のあるところが積極的に進めていくのが理想的だと思います。結果的に行政も含めた大きな推進母体になるのは望ましいわけですが、行政先導という形にとらわれていると遅れてしまいます。

(中島洋)利益誘導ではない農家のメリットを考えたい
 農業・農家へのメリットについて、利益拡大などの金銭問題に取らわれ過ぎないことが肝心だと思います。もしメリットを考えるとすれば、消費者との連携などです。地産地消を含めた地域創生に熱心な農家だということで消費者が関心を寄せる、となればメリットがあると言えると思うのですけれども、そういうようなメリットを期待しているということだろうと思います。

(中島洋)サステナブル融資を行う地方の金融機関が地方創成を促進する
 地方の金融機関がサステナブルに対する融資を、SDGsを主なターゲットにしながら中小企業に融資するという活動が増えてくれば、地方創生の速度が上がるのではないでしょうか。SDGsはこれから40年50年というのんびりとした話ではなく、これから5年10年が重要です。とにかく地球的な危機感に根ざした活動ですので、ゆっくり構えるのではなく、できるところからやっていくというのが重要だと思います。そういう中で、地方の金融機関が生き残りをかけて、サステナブル融資あるいはサステナブル投資というものに最近活発になりつつあるので、こういうところもうまく活用しながら地域地方の創生をしていければと思います。

SDGsの課題解決としてのDXを本物にするために

◎質問

SDGsやDXなどの言葉が先行していますが、50年前から意識されてきた環境問題が一向に解決されていないことが問題だ
 最近、農業分野でもSDGsやスマート農業、エシカル消費などの言葉が頻繁に聞かれるようになりました。しかしこれらの言葉は意味するところがよく理解されず、うわすべりしてしまっているようにも感じます。例えばスマートなとか、あとはスマート育種やスマート土壌診断など、意味なく使われているように感じます。DXについても同じような状況だと思います。SDGsについてはご説明で内容はよく理解できましたが、多くは昔から我々が抱えていた課題ではないでしょうか?例えば安全な水や食料安全問題、食料安保の問題については、50年前から問題とされてきましたが、一向に解決されていません。

(中島洋)50年前にGAP概念が生まれ、同根の課題としてMDGsが、そしてSDGsに引き継がれた
 SDGsは課題を今日的に整理したもので、その多くは昔から抱えていた問題だというのは、私の講演の中でもお伝えしました。ただ、誤解のないように指摘をしておきますと、GAPとSDGsの課題は元々同一の根っこを持つものでして、もう40年50年前、サステナブルという言葉が出初めて来た時代からGAPへと繋がっていき、そして2000年から2015年までのMDGs(Millennium Development Goals)、そして2015年からSDGsに引き継がれてきたのです。

(中島洋)GAPとSDGsは同一の課題だが、地球的な緊急事態となり17目標が作られた
 しかもその間同じ課題を取り扱っているのですが、その深刻度が増してきていて、地道にやっていくような事態ではなくなり緊急事態になってきたというわけです。17の課題があり、この中身は雑多なものが入り込んで自己矛盾しているようなところもあります。しかしその中でも一番大きな問題として、人類社会が滅びるかもしれない、というような危機感をもたらしているのは、カーボンニュートラルの問題で、地球環境の破壊という問題で、これは、そんなに待っていられない。

(中島洋)「地球が破壊されるときに今の大人たちは死んでいるかもしれない」ということが問題解決できない原因だ
北極の氷が溶けるというような、元に戻らない限界値を超えてしまうよう破壊がどのぐらいの段階で進むか。地球の平均温度が2.5度上がったら、元に戻らないという専門家たちもいますが、そういう状況になるのを避けるには、のんびりとしているわけにはいかない。水の安全も同じ状況で、安全な水の確保や食料安保なども、結果として50年間放置したためにどんどん深刻な状態になってきて、今や待ったなしの状況に追い詰められています。
 スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんに代表されるような、「今の大人たちはいい、地球が破壊されるときにはあなたがたも死んでいるかもしれない」、「しかし私達は生きていて、その自分たちの人生を今奪われているのだ」というのが、この人たちの強い主張でして、この人たちはSDGsを支えていている思想の潮流です。このように差し迫った状態になってきたこと、今まで50年間、問題だと言われながら解決できなかったということです。

(中島洋)地球の限界だけではなく貧困や人権侵害などの深刻な問題には新たな解決法が必要
 解決できなかったことは人類として恥ずべき状態だと思うのですけれども、それでも、その危機意識を、今、共有化できれば、カーボンニュートラルもさることながら、他にもたくさんある問題の解決に向かえます。貧困の拡大に伴う社会安定や人道上の酷い状況などです。企業によっては、消費者は安けりゃいいとばかりに、人権を侵害してでも低賃金労働で収奪を行うようなところもあります。消費者が安い商品を買ってそれが幸福だというのは誤りである、ということに皆が目覚めてきているというところが、これまでとは違った状況です。しかし、これらのことは今までと同じような方法では解決できないだろうと思います。

(中島洋)デジタルの道具で今までと違う状況を作り出す新しい何かができないだろうか
 何か工夫がないかというところで、デジタル技術がものすごい勢いで発展をしているので、もしかするとデジタルによる解決の道があるのではないかというのが「DX」です。もしかすると道が開かれるかもしれない。これも農業の、今まで解決できなかった課題に対して、土俵際まで追い込まれている人類が、だから今までとは違う態度でそこに臨まなければいけないのです。
 その際に、今までとは違う解決の道具はあるでしょうか?もしかするとデジタル技術、ビッグデータの解析も含めて、AIの利用とか、ドローンによる監視、様々なセンサーによるIoT、それらをどうやって改善するか、改良するか、劇的に改良する道があるのかということは、今現在は必ずしも解決の道が見えるわけではないですが、それらを急いで、とにかく解決の道を探さなければならないということでしょう。新しいデジタルの道具を手に入れているということで、今までと違う状況を作れないか、というのが私の回答です。

標準化に遅れた日本の農業分野でこそDX成果を

◎質問

世界の誰もが納得する標準を日本発でできないだろうか?
 EUに「Farm to Fork戦略」があり、それに追随する「みどりの食料システム戦略」も悪くないと思います。ただ、日本はいつも世界標準を押し付けられている感が強いです。トロン、ベーター、それこそスキージャンプのルールまでひっくり返されている歴史を繰り返しています。世界の誰もが納得する大義のある標準を日本発で出す方策はないのでしょうか?

(中島洋)「辺境革命論」では、遅れた日本こそ農業を変える国際標準を作り出せる可能性はある
 農業分野で世界にアピールできるような標準化ができるといいな、と私も妄想的に期待はしております。本当にできるのかどうか今現在私もよくわかりませんけれど、ただ飛躍的な変革というのは、実は遅れたところから出てくるのです。有名な「辺境革命論」です。革命というのは、文化が進展している中心地からではなく、その周辺から起こるということ、つまり遅れた地域からこそ大革命が起きるという歴史的な確認事項なのです。
 日本は、農業分野での標準化ということについてみると、今までは、遥かに遅れた地域でありますので、そういう遅れた地域であるからこそ、大変革が起きる。もしかすると追い込まれた日本が、新しい農業変革のための国際標準ルールを編み出して世界を変えるエンジンになるという可能性はあるのかもしれません。チャンスはあると思いますが、今現在は見えていないというのが実態であります。

(中島洋)農業には縁のなかった分野からのデジタル参入が思いがけない成果を生むかもしれない
 学者、研究者、ベンチャー企業などが「スマート農業」の実験に取り組んでいます。農業分野ではなく周辺の方々が取り組んできているというこの10年間は、これまでの歴史の中で見ると、日本においては極めて異例の事態です。こんなに農業が注目されて技術の適用分野で注目された時代というのはこれまでになかったのではないでしょうか。
 40年以上前から「農業の情報化」を進めてきたあの田上さんとか二宮先生とかの皆さん方が、切歯扼腕(せっしやくわん)していた時代から見ると、いろいろな技術周辺の様々な方々が、農業にこれだけ注目してきてくれているというのは、日本のこれまでの農業分野ではあり得なかった話だったと思いますので、もしかするとそういうところから世界を変革するような、新しい技術が出てきて、それが標準として世界に浸透していくということがあったらいいなとそういうことを期待したいと思います。

みどりの食料システム戦略と持続可能な農業の推進に向けて一言

(小川吉雄) 持続可能な農業(GAP)を経済的意味でも消費者に理解してもらえる仕組み
 技術はかなり進んでおり、それをどう組み立てていくかということも重要です。また、持続可能な農業と言われても、経済的な意味合いでどのように関係してくるかということを欠かすことはできないと思います。持続可能性は農業の要件でもありますから、そのためには消費者の存在が決定的に重要です。そういう方々からの理解を得られ、価値を認められるような流れを作っていくことが大切だと思います。

(高橋広樹) 消費者の理解と同時に農業への国家的支援が少なすぎる
 私も消費者の理解を深めるような啓蒙活動を今後とも強化していくつもりです。私は民間の立場でやっていますが、このシンポジウムの議論にも多くありましたように、農業には公的な部分での支援なり予算が必要です。現在はあまりにも少なすぎると思っています。それと、農業技術の具体的な普及支援が必要です。米欧では資金援助はもちろんのこと、技術のアドバイス事業も盛んに行っています。そういった現実を見ると、農業はやはり国家レベルで現場を支援していくことが国の役割と思います。

(山田正美) 持続型農業の目標に向かって土づくりの本を実践教育に生かしたい
 私からアメリカの持続型農業に向けた土作りの本を紹介させてもらったわけですけれども、日本でも「みどりの食料システム戦略」がスタートし、その中で化学肥料の削減とか化学農薬の削減、有機農業の面積拡大など、具体的な目標が設定されたわけですから、早急に実践に移らなければなりません。日本語に翻訳した「持続型農業に向けた土作りの本」を使いながら、実際に、持続型農業を日本で普及していきたいと思っております。ただ、日本特有の水田農業の面が少し欠けていますので、ここは補いながら、日本のあるべき持続型農業というものが実現できればいいと思っております。

(鳴川勝) GAPを正しく伝える教育と普及のための人材育成を行っていく
 農林大学校の立場から言わせていただきます。学校ではありますが、農作物を作る生産者の一面もあるわけです。GAPを進めていく中で、これまでの農場管理の慣習などが、結果として間違いであったところも多く学んできました。そういうGAPを通じて、学生に自信を持たせ、GAPの指導ができる、例えばJAの指導員として自信を持ってGAPを推進するような人材を、できるだけ多くを輩出していきたいと考えています。
 また、農林大学校自体が地域の農業経営体のGAPのモデルとして、GAPは巷間言われるほど難しいことではないということ、GAPは当然やるべきことであるし、農業大学校としても普通にやっていることだという実態を、近隣の農家や関係者にも知らせ、感じてもらうことで進めていきたいと思います。

(中島洋) 気候変動などによって意識の変化が起こる消費者動向に合わせられる柔軟なGAP推進体制が必要
 私の方からは現場とはちょっと離れたところの話をさせていただきます。今までの議論にありましたように消費者や行政と認識を一つにしながら進めていくということには私も同感です。ただその際に気をつけなければいけないのは、今起きている地球規模の行き詰まりは毎年毎年その危機が拡大しており、特に気候の大異変、これがみんなの目の前でどんどん起きていることです。干ばつもありますし大水害もあって、農業にとっては大打撃を受けることも多いです。その、目の前で起きていることから消費者の意識も大きく変化すると思いますし、その消費者の意識の変化がどこへ行くかという方向はもう決まっています。SDGsと同じ方向を向いて消費者の変化が起きていくのです。その際に、シンポジウムのテーマのGAPも大幅に修正できるような柔軟性を持って、もちろん今までのものを否定するわけではないですけど、改良していける、そういう柔軟性をきちんと心の準備をしながらGAPの変革を考える。そして消費者の意識の大変革、また行政の強制力の大変革がこれから起こるだろうと思いますので、それに対応しながら、ぜひGAPの運動をさらに良い方向へ続けていってもらいたいなと思っております。

(田上隆一) 持続可能な農業(GAP)に取組む本来の意味を考え自己変革する
 EUの共通農業政策に「EUタクソノミー」という言葉がありました。分類化するという意味だそうですが、「気候変動の緩和」や「生物多様性と生態系の保護と回復」などの目標を分類化して、企業などの「グリーンウォッシュ」を排除する目的だそうです。EUのFarm to Fork 戦略では、その目的をEUが世界をリードすること、そのためにヨーロッパの農業を完全に持続可能なものにする法律の整備を2023年までに行う。また、それらの法律に従うための法律を制定すると書いてあったように思います。さらに、生産から流通、消費まで、つまり農場から食卓までの戦略で、今まで地球上になかった新食料システムを作るということですから、それは農政だけではなく国を挙げた総合対策で管理されなければいけない、そのための機構を作ると書いてあります。
 そのFarm to Fork 戦略に学んだみどりの食料システム戦略ですが、目標や機構を作ってもガバナンスされていなければ、先ほどからの皆さんの心配どおり、「イノベーションへの期待」だけでは実現しません。当事者である農業関係者は、自らの課題を自覚して情報を集め、自己変革していくことが必要で、そういう中でこそ新たな価値や社会変革のイノベーションになるのだと思います。

(福島伸享) GAPを生かすためには関係する複数の政策の体系が必要
 衆議院議員の福島伸亨です。大学では農学を学び、役所に入って、政治家で、主に農林水産行政を担ったという繋がりで思いをもってこのシンポジウムに参加しました。日本人というのは非常に真面目で、ある意味真面目過ぎでもありまして、行政がGAPを導入するというと、GAPの認証取得が目標になってしまうようなところがあります。グリーントランスフォーメーションとかみどりの食料システム戦略とかでも目的と手段を取り違えてしまっては意味がないことだと思っています。
 先ほど小川さんからお話がありましたけれども、農業では具体的に人が動いて、物が動いて、お金が動くわけでありまして、新しい食料生産の仕組みの中で、どこから、何が、どう動いて、そこにどういうお金が動いて、どういう付加価値が生まれて、それらを誰が担うのかという全体の体系を作るのが政策だと思います。GAPというのはそのうちの柱になる持続可能な農業を支える手段の一つだろうと思っております。
 地に足のついた政策を展開しなければならないし、一つの政策だけではなく複数の政策の上流から下流までのそれぞれの政策の体系を作っていかなければ、実際の物も人もお金も動かないと思います。そうした観点からこれからも国会で議論してまいりたいと思います。今回のシンポジウムに引き続き、皆様方にいろいろな声を伺ってまいりたいと思っております。

2023/5


米国における持続可能な土づくりの本(その5)
土壌生物

山田正美 一般社団法人日本生産者GAP協会 専務理事

 米国農務省(USDA)の国立食品農業研究所(NIFA)が出資した持続的農業研究教育(SARE)プログラムが発行した『BUILDING SOILS for BETTER CROPS『より良い作物のための土づくり)』から、いくつかの話題をピックアップして紹介します。

生きている土壌

 土壌には、細菌、ウイルス、真菌、原生動物、藻類など、さまざまな微生物が含まれています。さらに、植物の根や、昆虫、ミミズ、そしてモグラなどの哺乳動物さえも含まれます。作土15cmに含まれる土壌有機物量が3%である場合、10a当り360kg相当の土壌生物が存在していると言われています。こうした土壌生物の大部分は私達人間と同じく、酸素を消費し、炭酸ガスを放出する呼吸をしています。圃場全体が一つの大きな生命体として呼吸しているとみることができます。

土壌生物の多様性 (引用:Building Soils for Better Crops 第4版 P.50)

土壌生物の役割

  土壌中の微生物、ミミズ、昆虫は、植物の残渣や家畜糞尿をエネルギーや栄養として摂取し、その過程で有機物を土壌に混ぜ込むことになります。また植物残渣に含まれる養分を植物が再度利用できるように養分のリサイクルもしています。また、ミミズの皮膚にある粘着物質や真菌類が作り出す物質、植物の根に付着する粘着物質や、細根とそれに付随する菌根の広がりは、粒子同士を結合させる働きがあり、土壌団粒を安定させることができます。さらにミミズや一部の真菌類も、水が浸透する溝を作るなどして土壌構造を安定化させ、土壌の水分状態や通気性を改善するのに役立っています。特殊なものとしては、空気中の窒素ガスから植物が窒素肥料として利用できる窒素固定を行う特殊な細菌もいます。

土壌生物間の相互作用

  土壌に生息する生物の間には、常に相互作用があります。例えば、ミミズの消化器官内に生息する細菌が有機物の分解を助けるように、ある生物は他の生物を助けます。このような互恵的な関係(共生関係)の例は数多くありますが、健全な土壌ではほとんどの場合、生物の間で激しい競争が起こっています。同じ餌をめぐって生物同士が互いに直接競合することもありますし、他の生物を餌にすることもあります。線虫は真菌類や細菌、他の線虫を食べることがあり、真菌類には線虫を捕獲して殺してしまうものもあります。また、線虫に寄生し、その内容物を完全に消化する真菌類や細菌も存在します。多くの種類の土壌生物は、通常、地上で見られる一方向のみの食物連鎖(food chain)と比較して、食物網(food web)と呼ばれる複雑な多経路の食物システムに関与しています。

植物に害を与える土壌生物(病害虫)

   土壌生物の中には、病気を引き起こしたり、寄生したりすることで、植物に害を与えるものがあります。つまり、細菌、真菌類、線虫、昆虫には、人間から見て「良い」ものだけでなく「悪い」ものも存在するのです。一般的に病害虫と呼ぶこれらの「悪い」生物は、本来は何も悪いものではありません。彼らは生き残り、繁殖するために、自然に振舞っているだけなのです。しかし、農作物を育てる上では、このような生物による被害を最小限に抑えることが必要です。重要なのは、健全な土壌を作り、大多数である有益な生物の生長を促進し、有害となりうる少数の生物の個体数を減少させる条件を作り出すことであるはずです。

窒素を固定する微生物(窒素固定菌)

  植物が大量に必要とする3大養分の一つに窒素があります。窒素ガスは空気成分の約8割を占めていますが、養分として植物が直接利用することはできません。しかし、ある種の自由生活性細菌は、大気中の窒素ガスを取り込んで、植物がアミノ酸やタンパク質を作るのに利用できる形に変換することができます。アゾスピラムとアゾトバクターは、窒素固定を行う2つのグループです。この種の細菌は土壌にわずかな量の窒素を供給するだけですが、栄養循環が効率的に行われる自然システムにおいては、この窒素添加が非常に重要となります。

 もうひとつの窒素固定細菌は、植物と相互に有益な関係を築いているものです。その一つが、マメ科植物の根に生じる根粒の中に生息する窒素固定細菌で、農業にとっては非常に重要な共生関係です。マメ科植物の種類にもよりますが、アルファルファの圃場では、根粒菌が毎年10a当り数十kg、エンドウ豆の場合は3~6kgの窒素が固定されるということです。

植物の根の働きを補う微生物(菌根菌)

  多くの作物の根は表土容量の1%以下(草は数%)しか占めていませんが、多くの植物は真菌類と有益な関係を築き、根と土壌の接触を増加させています。 真菌類は根に感染し、菌糸と呼ばれる根のような構造を出します。この菌根菌の菌糸は、水や養分を取り込み、それを植物の栄養とすることができます。菌糸の直径は植物の根の60分の1程度と非常に細く、根が届かないような土の中の小さな隙間にある水や養分を利用することができます。これは、リンが少ない土壌で育つ植物のリンの栄養補給に特に重要となっています。菌糸は植物の水や養分の吸収を助け、真菌類はその代わりに、植物が葉で生産し根に送り込む糖分というエネルギーを受け取っています。このように真菌類と根が共生している状態を菌根関係といいます。また、菌根菌は、アゾスピリラムやアゾトバクターなどの窒素固定細菌を刺激し、植物が利用できる窒素と植物の生長を促す化学物質を生産します。また、粘着性のあるタンパク質を生成することで、土壌の団粒を安定させる働きもあります。

土壌生物の大切さ

  土壌には多くの種類の生物が生息しており、そのほとんどが植物の健康な生育と病害虫からの保護に役立っています。土壌生物の餌となるのは、作物残渣や圃場の外から持ち込まれた有機物です。これらの有機物は、土壌の化学的・物理的性質に好影響を与えるだけでなく、生物の個体数を調整する平衡システムを維持する地下生命体の動力源となります。土壌生物は、それぞれの生物が特定の役割を果たし、他の生物と複雑な相互作用をしながら、バランスを保って互いに関連しています。私たちは、土壌生物の多様性を促進するような管理方法を用いることが大切だと考えています。

2023/5


『GAPで国土を守り、認証で国民を守る』
2005年1月1日から見えるEUの総合戦略

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 代表理事

2005年1月1日から欧州に農産物を輸出できなくなる

 日本からイギリスにりんごを輸出していた青森県弘前市の生産者「片山林檎」は、1998年の取引開始に当たって卸売会社「EWT」の農場認証検査を受けていましたが、EWTから2005年1月1日からは、欧州小売業青果物部会(Euro-Retailer Produce Working Group)の第三者認証制度「EUREPGAP農場認証(現在のGLOBALG.A.P.)」を取得しなければ取引を継続することができなくなるという一方的な通告を受けました。

  2002年7月2日付のEメールで通告書を受け取った片山林檎は、早々と2003年に認証取得のための検査を受けましたが不合格でした。そこで、すぐさま筆者と共にイギリスの取引先、並びにイタリア、ドイツの関係先を訪ねて、EUREPGAP農場認証と欧州の農産物取引に関する諸事情を調査し、スーパーマーケットが要求しているGAP認証がどういうものかをそれぞれの当事者から直接に学んできました。

GAP認証制度が農産物輸出の国際標準

 翌2004年に再度検査を受けて農場審査に合格しGAP認証を取得しました。これが日本で最初のGAP認証(GLOBALGAPでは総合的農場保証(IFA)という)で、当然、国際水準の農場審査基準です。EUREPGAPは、農場が農産物の安全性と環境保全、労働安全、動物福祉の確保を図って生産していることを、農場から出荷されるまでの各段階で実行されていることを保証するものです。流通段階においては、食品安全にかかるBRC(英国小売業協会)認証やIFS(国際食品規準)認証を受け、他の農産物と区別して流通・販売することを各段階の企業に課しています。

 なお筆者らは、国際標準のGAP認証に関して、日本語で書かれた規範・規準で、日本人による農場検査で認証を取得し、多くの生産者が積極的に農産物を輸出できるように、また日本中の農業者の健全な経営管理が実現するためにと、日本の農業実態に合わせた「JGAP農場認証規準」を策定しました。2005年に4月に普及組織JGAI協会(Japan Good Agricultural Initiative)を設立して、JGAP認証の全国的な普及指導を始め、翌2006年4月27日には、EUREPGAP(ドイツ)とJGAP(日本)とのパートナーシップ契約(PARTNERSHIP AGREEMENT BETWEEN EUREPGAP AND JGAI)を結んでベンチマーク作業に入り、2007年にEURWPGAPから改名したGLOBALGAP規準とのAMC(Approved Modified Checklist)方式による同等性を獲得しました。

2005年1月1日はEU農業の環境対策と補助金政策強化の開始日

 欧州の農産物サプライチェーンが、GAP認証を事実上の強制とし、世界の農産物取引に大きな影響を与えることになった2005年1月1日は、EU共通農業政策(CAP)2003年改革で強化されたクロスコンプライアンス政策が具体的に実施された当日でした。CAPのクロスコンプライアンスとは、農業環境施策を含むEU共通の直接支払いを受けようとする農業者などに、その条件として関連法令の遵守を求めるものです。この改革で、経営者倫理や環境保全に関する要件を条件として農業者に補助金が支払われるというCAPの原則が確立されたのです。

  EU農業政策要件としてのクロスコンプライアンスと、EU農産物取引要件としてのEUREPGAP認証が、まったく同じ2005年1月1日に正式スタートしたのは、偶然ではないと筆者は考えています。

GAPによる環境保全では補助金を、農場認証では農産物販売の確保を

  欧州の代表的なGAP規範に英国の「Protecting our Water, Soil and Air」があり、農場主や農業者は記述された規範を農場管理のマナーとして遵守しています。英国政府の関係者の話によれば、「農業者はGAPを環境保全農業であると理解しており、補助金を得るために守らなければならないと考えています。」また、「農場認証(Farm Assurance)はスーパーマーケットの取引要件だからGAPではない。」と言っています。さらに、農場認証はスーパーマーケットの系列によってレベルが異なる様々な制度がありますが、「消費者に対する民間の取り組みなので政府が介入すべきとは思っていません。」というのが、欧州の国々のGAPおよびGAP認証に対する考え方です。 GAPの義務化とHACCPの義務化が同時にスタート

  肥料による地下水の硝酸汚染や栽培・肥育期間中の温室効果ガスの発生など、他産業に比較しても多大な影響を及ぼしている農業由来の環境汚染に対して、今、歯止めしなければ持続可能な社会は失われると判断したEUでは、共通農業政策の重要な課題として、早くから環境保全型農業を推進してきました。関連法令の遵守を求める「法定管理要件」のほか、土壌浸食に係る基準や土壌有機物に係る基準など農地を適切な状態にするための最低条件として各国が定める国内基準「適正農業規範」を遵守することを求めています。

  時を同じくしてEUでは、2004年にはHACCP原則に基づく衛生管理の義務化が決まりました。 『食品事業者は製造、加工、配送等の全ての過程において、自社製品が食品法によって定められた要件を満たしていることを保証し、証明しなければならない。』という包括的衛生規則「食品衛生パッケージ Food Hygiene Package」の成立です。更に、原料から最終食品までの供給から配送全ての過程に対するトレーサビリティを求めています。

GAP認証がEUの農業者と農業を守る

  食品衛生規則(No852/2004)では農業者を除く食品事業者にHACCPが適用されました。そのためHACCPを義務化されたEUの(農業者を除く)食品事業者にとって、仕入れた農産物の安全確認のための農場検査が必須となりました。その点、早くからGAPに取り組んできたEUの農業者への第三者認証は比較的容易に進展したようです。

  しかし、EUには青果物も畜産物も世界中から大量に輸入されており、特にアジアや中南米からの農産物との価格競争では圧倒的に不利になるとEUの農業者の大きな不満になっていたそうです。ベルギー・オランダ・イタリア・スペインなどの農業者から初期のEUREPGAP認証制度に対する不満の声をたくさん聞きました。

  「GAPとGAP認証」について、EUの政治・行政と、経済・流通会の協調や何らかの話し合いがあったのかどうかについては、筆者はまったく情報をつかんでいませんが、自由貿易を促進する世界貿易機関(WTO)の貿易協定の各種規制などから、「政府は勝手な貿易規制はできないが、民間が取引要件とすることには何ら問題がない」、というEU農業者の話から、2005年1月1日の同時スタートは偶然ではないと考えています。

  世界でいち早く、行政が農業者のGAPを推進し、民間企業が輸入農産物にGAP認証を義務付けたことによって、結果として、EUの農業者、農業、国土および国民が守られています。また、GAP認証のビジネスは、輸出国の環境保全に寄与していると主張することができています。

 さて、日本のGAPは、持続可能な農業によって環境保全に貢献しているでしょうか?

  日本のGAP認証は、輸入農産物を確認することで消費者と農業者を守っているでしょうか?

2023/5


セミナー受講者の修了レポート(感想や考察)の紹介

株式会社AGIC 事業部

「なぜGAPを普及するのか」を忘れずに活動していきたい

「GAP実践セミナー」 都道府県普及員

 本研修で、GAP実践の本来の目的は認証を得ることではなく、BAPを改善することで農場がレベルアップしていくことであると感じた。それは我が県のGAP制度も含め、どのような種類のGAP制度でも同様である。県の目標として「我が県GAP認証取得者○○人」のような指標はあるが、取得を本来の目的とせずに、なぜGAPを普及するのかを忘れずに活動していきたい。4月に他部署から現担当に異動し、GAPについて何も理解していない中、早速農家から問い合わせがあり、どう対応したらよいかわからずにいた。本研修は、今後どのような意識で我が県GAP制度を推進していけばよいかの、大切な道標となった。


「BAPを明示して改善を提案する」というGAP推進の道筋をイメージできるようになった

「GAP実践セミナー」 都道府県GAP担当者

 研修受講前は、GAPというと「評価」と直結していたが、GAP自体は「持続可能な農業のための適正な実践」であると認識を正すことができた。また受講前は、GAPと言われてもピンとこず、農業者に対してどのように取組を推進するのか理解できなかったが、研修受講後は、BAPを明確にし、農業者に明示し、改善策を提案する、という行為の積み重ねで、改善された農場に近づいていくという道筋をイメージできるようになった。


GAP認証を取得したがGAPの全体像を掴めていなかった

「GAP実践セミナー」 GAP認証農場 新任担当者

 弊社は前年度にGAP認証を取得した。私は前任者から業務を引き継ぎ、生産量の記録と集計、種子の購入記録等を行っていたものの、GAPの全体像が掴めていなかった。会社では消費者へのアピールやイメージ戦略の一環としてGAP認証を利用しており、その考えに影響されていたため、研修の1日目でGAPとは「持続可能な農業のための適正な実践」であるとはっきり提示してもらい、非常に助かった。食品の生産者として当たり前に出来ているべきものであり、私も1人の生産者として、GAPに取り組んでいきたいと考えている。

  実践にあたっては、弊社は植物工場で露地栽培に比べ考慮する部分は少ないものの、前任者の退職後にあったクレーム対応の件や、機械の整備に新しい内容が加わった事等まだまとめ切れていないものがあるため、取り組む必要があると再認識した。2日目のGH模擬評価演習を通して、自社の現状を見つめなおす事が出来たと思う。


GH評価トレーニングで、普及員に必要な内容を学ぶことができた

「GAP指導者養成研修」 都道府県普及員

 講義では、GAPについての必要性や政策など幅広く、学ぶことができ、GAP実施にあたってのポイントや農場評価の心得などを修得することができた。特に、農場評価の心得については普及活動において活用できる内容もあり、今後も振り返りたい内容であった。

 

演習では、実際に評価を行うことで、聞き取りの流れや評価の付け方などを身につけることができた。全体をとおして、GAPについての他にも、評価実習や聞き取り方など、普及員に必要な内容も学ぶことができた。現場でも、本研修で学んだことを生かせるよう取り組んでいきたい。


GH農場評価は生産者への指導ツールとして大変有効である

「GAP指導者養成研修」 都道府県普及員

 数年前に「JGAP指導員研修」を受講したことがあり、そのときは認証を取得するために必要なことという視点で受講していた。そのため、GAPは必要なことであると認識はしていたが、具体的にどのような指導を行えばよいのかわからなかった。今回の研修で行ったGH農場評価は生産者への指導ツールとして大変有効であると認識出来た。評価のポイントを詳しく説明していただき、実際に生産者の現場を見る際の基準がわかった。


「リスク発見から始まるGAP」をリスクマップから着実に開始したい

「GH評価員技能研修(リスク評価)」 都道府県普及員

 研修テーマである「リスク評価」について、農場に存在するあらゆるリスクを拾い上げ、その問題を正しく評価するということは、GAPの重要な第一歩と考える。しかし、自分の担当現場(農場)では、その第一歩がまだ踏み出せていない。今回の研修の中で「リスク評価のポイント」としてインプット・アウトプットの話があった。インプットではプロセス(生産管理行程)の原料等とは関係ないもの(例えば害虫以外の虫とか)、アウトプットではプロセスで想定していない産物(例えば農機の騒音とか)も含め要因を拾い上げなくてはならない。しかし、一度に全ての「リスク要因となる」インプット・アウトプットを把握することは大変である。まずは農場の基本情報整理「リスクマップの作成」から始め、そこに少しずつリスク情報を追加していくような取り組みを行っていきたい。


「JAは食品を取り扱う関係者の一員である」との意識づけが必要

「青果物集出荷施設(選果場等)の衛生管理セミナー」 JA営農指導員

 食品衛生法の改正により、「原則としてすべての食品事業者がHACCPに沿った衛生管理をしなければならない」とされたところ、「農業における食品の採取業」がその対象から外れたことは、農業における衛生管理に対する取組みを停滞させていると考えている。当JAの集荷場施設についても、十分な取組みが行えているとは言えないのが現状であるが、JA施設の衛生管理の不備に関する報道があったように、何か問題が発生した場合は、徹底的に叩かれることとなる。

  費用的なこともあり、いきなりすべてを完全にすることは難しいが、まずは、集荷場施設の職員に対して、「食品を取り扱う関係者の一員である」との意識づけを行い、衛生管理をしなければならないという意識を醸成し、一歩からでもやるべきことをやる必要があると感じている。


JA経営者層も衛生管理に対する認識を改める必要がある

「農業者のためHACCPセミナー」 JA営農指導員

 法改正によりHACCPが制度化されたが、まだまだ衛生管理に対する認識が足りていない業者も多いと感じる。JAの集荷場や農業倉庫は制度の対象とはなっていないが、自主的な衛生管理を実践していく必要がある。しかし、JAによっては予算・人員不足等を理由に衛生管理が疎かになってしまっているところもある。仮に回収や賠償を伴う問題が発生した場合、多額の賠償金や信用の失墜などJAにとって致命的な打撃となる可能性があり、担当者だけでなく、経営層も認識を改める必要がある。


アレルギー表示「くるみ」の特定原材料への追加について

日本生産者GAP協会 教育・広報委員会

 食品表示基準が改正され、特定原材料として新たに「くるみ」が追加されました。経過措置期間はあるものの、食品関連事業者等においては、以下のことが求められています。

  • 原材料・製造方法の再確認、原材料段階における管理に関する仕入れ先への再確認
  • 必要に応じて「食品表示基準について」の「別添 アレルゲンを含む食品の検査方法」による確認等を行う
  • これまでアレルゲンとしてくるみを表示していなかった食品関連事業者等においては、速やかに表示を行う

 また、特定原材料に準ずるカシューナッツについても、現在、木の実類の中でくるみに次いで症例数の増加等が認められることから、可能な限り表示することが求められています。

 農産物の販売においてアレルギー表示は原則求められませんが、生産工程における食品安全リスク評価の際、アレルゲンの混入可能性を検討する必要がありますので、リスク評価表等のツールを使用している方は見直し・更新を行ってください。

<特定原材料等>
根拠規定特定原材料等の名称理由表示義務
食品表示基準
(特定原材料)
8品目
えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)特に発症数、重篤度から勘案して表示する必要性が高いもの。義務
消費者庁次長通知
(特定原材料に準ずるもの)
20品目
アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン症例数や重篤な症状を呈する者の数が継続して相当数見られるが、特定原材料に比べると少ないもの。
特定原材料とするか否かについては、今後、引き続き調査を行うことが必要。
推奨 (任意)
*消費者庁>食物アレルギー表示に関する情報
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/
*「くるみの特定原材料への追加及びその他の木の実類の取扱いについて(令和5年3月9日事務連絡)」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_230309_03.pdf

2023/5


株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載47回)
~やっと本来の人材育成活動が解禁となった~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

  Citrusの定款にうたっている人材育成活動がやっと再開できた。今年1月には地元の有田中央高校生のインターンシップを開催した。総合学科に所属する農業系列を目指す1年生で、2年生になると本格的に農業を選択するという生徒である。新型コロナウイルスで中断していたが3年ぶりの実施となった。4名が参加し、トータルで3日間のインターンシップである。今年は初日が大雪になり園地での実習はできなかったが、事務所での意見交換が面白かった。個々に農業系列を選択する理由を述べてもらった。3名が農家の子弟で農業を後継するためとはっきり発言し、頼もしく感じた。また、1名は非農家であるが農業を支援する仕事に就くためと述べた。

 社員も意見交換に参加させ、著者としては日頃聞けない社員の本音をうかがうことができた。その本音とは、「これまで農業に就くことを思案していろいろな仕事を経験してきたが、現在に至って農業に就いている。そして現在は安定して仕事が持続できている」など、聞いていて著者としても嬉しく感じた。生徒は勿論興味深く聞いていたので将来の参考になればと思った。

 翌日は晴天となり八朔樹の伐採をチェーソーを使って実習体験させた。作業には危険がつきもので初めての人にはさせないものだが、社員が1人1人に農作業の安全確保の大切さを教えながら実行させた。

図1 有田中央高校生と意見交換
図2 有田中央高校生のインターンシップ実習

 後日、担当教員から、女子生徒がインターンシップでの体験を発表し、生徒一同の感心を集めたと報告を受けた。また、著者が学校を訪れたとき、その発表した生徒に呼び止められ、代表して発表したことの報告とお礼を告げられた。農林大学校の教員を経験している著者としては嬉しいシーンである。

 また、過去に実施したインターンシップでも効果があった。農林大学校の新2年生が弊社株式会社Citrus に入社したいとの情報が農林大学校より入り、面接した。入社希望の学生は、高校生時代の我が社でのインターンシップが決めてとなり就職希望となったとのこと、その学生には採用の内定を通知したが、条件として1年半の海外農業研修でスキルアップするよう進めた。2~3日のインターンシップ経験が人生を左右することの大きさを実感しているからだ。

   更に、地域の若者を集めての勉強会も再開した。今回は農林大学校の卒業生が経営する肥料店の主催で、「匠の技の認定」を受けた農業大学校卒業生を講師に弊社のみかん園で剪定講習会を実施、参集者は28名で新規就農者からベテランの元営農指導員まで参加があり、賑わった。このような勉強会がやっと開催できる環境となった。

図3 剪定講習会(Citrus園)

 また、4月に開始した地域おこし協力隊員の2名は、ゴールデンウイーク明けの第一声で、「ストレスなしに出勤できた」と社員に話したと聞いてこれにも一安心。近年、思うに人材育成はメンタル管理から始まることを実感している。これから社員及び研修生のスキルアップのための勉強会をもっと開催していきたと考えている。

2023/5