-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 74号

《巻頭言》
『GAPはみどりの食料システム戦略を実現するアプローチ』

二宮正士 日本生産者GAP協会 常務理事

(本稿は『GAPシンポジウム(2023年2月9日)主催者挨拶』の書き起こしを元に記述を整えたものです)

 日本生産者GAP協会の常務理事の二宮です。本日はオンラインを含め大勢の皆さんにお集まり頂きましてどうもありがとうございます。

 今回のシンポでは、農水省が2021年5月に公表した「みどりの食料システム戦略」を軸としたGAPに関する議論を展開していくことになります。ご承知のようにここ数年間に、今回の「みどりの食料システム戦略」を含めていくつも大きな農業政策に関わる議論が活発化しています。2019年には、いわゆる「スマート農業」のプロモーションをしようという戦略が始まりました。また、1、2年前に始まった経済安保の議論の中で、「食料安全保障」に関する議論も始まっています。「食料安全保障」は、言うまでも無く37%と先進諸国でも極端に低いカロリーベース食料自給率をもっとあげなければという話ですが、今回のウクライナ情勢の中で、議論はさらに本格化しています。現在、農業農村基本法の改正作業が進められていると聞きますけれど、食料安全保障を意識して量の確保といった議論も含まれる方向のようです。本日の「みどりの食料システム戦略」ですけれども、一事で言うと環境への配慮や持続性を考慮する一方、同時に効率的な農業生産を両立させようという戦略です。

 本戦略について、次にお話があると思いますが、EUの「Farm to Fork Strategy(ファーム・トゥ・フォーク戦略)」を参考にしているともいわれています。実際、EUが同戦略で2030年に達成するとしている化学農薬の使用50%減、化学肥料の使用30%減など、非常に高い目標を、わが国のみどり戦略でも掲げ、2050年までに達成を目指すとしています。中には、現在たった0.2%しかない有機農業の面積を全耕地面積の25%にするという目標まで含まれています。このような日本農業で持続性と生産性・効率性を両立しようという大きな目標に対して、正面切って反対する方はあまりおられないようです。しかし、例えば、有機農業に関する目標といった個別の目標については、「そんな事出来っこない」という非常に強い反論もいろいろなところで出ているようです。確かに、現状の我々の持っている技術や社会構造で実現するのは不可能で、今から相当な技術開発のイノベーションや社会構造の変革を起こさないと実現できません。農水省が、このような30年にわたる長期間の食料戦略を出したのはおそらく初めてです。この30年という時間を無駄にしないで有効に技術開発や技術の普及、生産者・流通関係者・消費者のマインドの活性化を通した社会の仕組みの変革などを通して実現しなくてはなりません。どちらにしても、やっとこういう戦略が出てきたことを、非常に嬉しく思っているところです。

 本日の主題であるGAPに関して、「みどりの食料システム戦略」の中であまりきちんと書かれていません。今日ここに参加していただいている皆さんはGAPについて良くご存じの方が多いと思いますが、本来は、持続性と生産性・効率性を一緒に上げましょうという意味で、みどりの食料システム戦略と全く同じ方向を向いています。「みどりの食料システム戦略」を実現する上でのアプローチの方法としては親和性が極めて高いものです。GAPという言葉が日本でも言及されるようになって、随分長い期間が経ちます。2020東京オリンピックを開催するに当たって組織委員会の食料調達に関連して、一時GAPが盛り上がった時期もありましたけど、なかなかその本質を十分には理解されないという状況が続いています。DXもそうですけれども、客観的に見て残念ながら日本はいろんな意味でずいぶんと出遅れてしまったわけです。今回のシンポのような機会にみんなで一緒に勉強しながら、これまでの遅れを挽回するという思いでどんどん進めていければと思っているところです。

 先ほど、日本ではGAPに対する理解が非常に薄いと申し上げましたけれども、今、話題のAI対話システム「ChatGPT」を使って、「GAPとはなんですか」と聞いてみました。結果をちょっと見ていただきたいと思います。

 この答えですが、労働安全や福祉については明記されていませんが、GAPの本質を短い文章で相当いい感じで要約しています。日本にあるWEBサイトではどうしても食品安全が前面で強調されがちな中、この答えはGAPの本質を正しく理解しているようで、本当に驚きました。関係者にはせめて、このくらいは理解して欲しいというのが正直な気持ちです。それにしても、AIに教えてもらうのは、いささかしゃくでもあります。 今回もいくつも素晴らしい講演があるわけですが、明日、これまであまり普段議論されることの無かった窒素循環についてお話をいただきます。これに関連してChatGPTに「化学肥料と農業の関係について教えて」と聞いてみました。

 この答えの一番ポイントとして出るか出ないかと興味をもっていた化学肥料の負の側面について、AIがきちんと答えてくれたんですね。このAI、ネット上のどこかにあるものをそのまま持ってきているのではなくて、世界中からかき集めた膨大な関連情報の中から、物事がどうであるかということをきちんと見つけて要約してくれたということなんです。ちょっと驚いたのが、化学肥料はいい事ばかりじゃないという負の側面に加え、最後に正しく使うことのメリットも強調するという、GAPの精神が伝わるようなことも教えてくれました。シンギュラリティ(Singularity)という言葉もありますけど、だんだんと人間が負けるんではないかと思ってしまう瞬間でした。同時に、やはり化学肥料について、少なくともGAP関係者は、この程度の要約を説明できるような状況にならないといけないと思った次第です。

 別のデータをお見せします。これは何度も色々な場所で使っているデータなので覚えている方もいるかもしれませんが、ドイツにおける面積当たりの窒素投入量と穀物単収の年次変化を示すグラフです。青が面積あたりの窒素肥料の投入量で、オレンジの線は単位面積あたりの収量です。1990年ぐらいに窒素投入量が急激に減っているのがお分かりになると思います。もしかすると後でご説明があるかもしれませんが、その頃、EUは農業起源の地下水の汚染に非常に悩まされていて、かなり強権的に農業における窒素使用を法律で抑えたんですが、その瞬間に急減したということです。見ていただきたいのはオレンジの線ですが、それでも単収は減らなかった。FAO(世界食糧機関)の統計から作成したかなり荒っぽいグラフですが、このデータはものすごく説得力があると思います。GAP推進にあたってもこういった説得力があるようなデータをきちんと示しながら、方向性の重要性というものをきちんと示していかなければならないと思います。

 今回のシンポジウム、非常にクオリティの高い発表者の皆さんに集まっていただいて中身の濃い情報提供があると思います。これを機会に益々GAPを浸透させて正しい理解や技術を普及できるよう、皆さんと一緒にやっていければと思う次第です。宜しくお願いいたします。

*シンギュラリティ(Singularity)
「技術進化が進んだ先に待っている、これまでの社会とは常識が一変する転換点」
https://www.r-agent.com/business/knowhow/article/9630/

2023/4


《特集 2022年度GAPシンポジウム概要 そのⅠ》
Ⅰ-1 政策のパラダイムシフト「みどりの食料システム戦略」
 -EUの Farm to Fork 戦略に学び GAPステージの周回遅れを取り戻す-

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

(講演内容で特に重要と思われる部分を説明しているスライドを掲載しました。)

2023/4


《特集 2022年度GAPシンポジウム概要 そのⅠ》
Ⅰ-2 持続可能な農業の次のステップに向けたGLOBALGAPver6対応
-環境/持続可能性での追加・強化-

田上隆多 株式会社AGIC

(講演内容で特に重要と思われる環境/持続可能性に関するスライドを掲載しました。)

2023/4


《特集 2022年度GAPシンポジウム概要 そのⅠ》
Ⅰ-3 エシカル消費に応える持続可能な農業

山口真奈美 一般社団法人日本サステナブル・ラベル協会 代表理事

(エシカル消費の講演で特に持続可能な農業(GAP)にかかわると思われるスライドを掲載しました。)

2023/4


《特集 2022年度GAPシンポジウム概要 そのⅠ》
シンポジウム総合討論 2月9日 講師と質疑応答

田上隆一・田上隆多・山口真奈美

(シンポジウム参加者からの各講師(山口真奈美・田上隆一・田上隆多)への質問と回答ならびに関連する課題の総合討論」の概要を整理して掲載しました。)

◎GLOBALGAPのGRASP(Risk Assessment on Social Practice )制度について、その内容と認証機関やサプライチェーンの動向なども教えてください

・GRASPは農場の社会的責任に関する追加審査です。(田上隆多)
 GLOBALGAPの認証制度は、農場の管理が環境や食品安全や労働安全などの様々な側面で、一定程度適切に行われているということを審査員が確認をして保証している制度になっています。追加的な確認としては、例えば契約がしっかりできているかとか、強制労働がないかとか、児童労働がないかとか、クレームの苦情処理がしっかりできていているか、それから例えば結社の自由、労働者側の団体を組む自由が与えられているのか、労働者で集まった人たちと経営者側でコミュニケーションが取れるか。そのようないわゆる通常の労使関係のところが、なされているかっていうところですね。数字的には例えば最低賃金といったところも見ています。
 これらのすべてについて、さらに詳細な確認をする時間をとるのは難しいのでGRASPで審査するということです。この確認をGRASP評価の要件を備えたGLOBALGAP認証審査員が合わせて行います。追加的にできるような枠組みになっていて、日本でもGRASPver2の評価を今のGLOBALGAP認証、バージョン5とか6とかの認証審査をやっている審査員ができるような手続きを進めていると聞いています。GLOBALGAP認証と同時に行うアドオンの認証規格です。

・総合的農場保障(IFA)は農業の社会的責任です。(田上隆一)
 私のGRASPとの出会いについて、歴史的な経過をお話します。継続的に観察しているスペインの野菜産地では、20年前は、GLOBALGAP(当時はEUREPGAP)認証取得が生産者の8割とか9割というのが話題でしたが、10年ぐらい経つとGRASPの話が出てきました。実は、ヨーロッパ市場で、GLOBALGAPなどの農場認証では労務管理の確認が不足しているとして、サプライチェーン側が農場の労務管理について別の認証要求することになり、農協など生産側では、アメリカ生まれのSA8000という国際的な人権・労働等の社会的責任に関する認証制度を取得するようになったのです。
 認証制度もビジネスですから、GLOBALGAPが当然その分野に進出するということになったのだと思います。間もなくGRASP(Risk Assessment on Social Practice)評価規準ができて、GLOBALGAPに付随させて農場の総合評価をするようになったそうです。
 日本も外国人労働者が非常に多い。この茨城でも外国人労働者なしでは農業が成り立たないことは明らかです。今、外国人労働者の問題は非常に深刻です。外国からは人権侵害にも繋がるのではと非難される場面もあります。そんなことから、農場管理においても農業の社会的責任としての労務管理が重要になることは明らかです。
 GLOBALGAPはファームアシュアランス(Integrated Farm Assurance):総合的農場保証と自称しています。「食品安全ならびに環境や作業安全も・・・」という日本のGAP概念も変えていかければならないと思います。

◎人権問題やエシカル消費についての評価に関してサプライチェーンにおける動向を教えてください。

・人権問題は政策で取り上げられサプライチェーンでも考慮され始めた。(山口真奈美)
 第一次のサプライヤーを守っていくというところで、例えば森林認証のFSCでも、人権に関して配慮が出来ているのかというところで、昨年から中核的労働要求事項に関する自己評価をしなければならないというふうになっていて、審査のときに審査員がそれを自己評価のシートだったり、労働者自身の就労ビザであったりとか、労働条件とか、教育がなされているかも含めて、それもきちんと書面でも残し、それを確認するというのが主流になっています。
 これまで様々な分野の認証において人権問題は欠け落ちているところです。新疆ウイグルのコットンの件で問題視されましたが、農産物のあり方についてもやはり人権問題は除外されていました。そのためEUなどでは、それらのリスクがあるものをまずはEUの中に入れないという法規制が進んできています。日本のものも農林水産業全般でやはり違法伐採であったり違法な遠洋漁業であったりとか、そういうものを入れないという政策が必要だという議論になっているかなと思います。

◎取引先に存在する問題を特定して一緒に取り組んでいくデューディリジェンスはどうなるのでしょうか。

・第三者認証で取引先の信頼を確認することもある。(山口真奈美)
 自社のチェーンの上流に遡れば遡るほど、どういうような状況なのかということを、実は把握しきれていないというところでは、デューディリジェンス(Due diligence)は、それを確認し見える化するという意味で、どんな分野であっても重要になると思います。しかし、結構どうやったらいいのという悩める部分が多いので、行政などもガイダンスを出したりして推奨しています。小売り側などサプライチェーンの末端に行けばいくほど、上流で何が起こっているか、その関係する事業者も複雑になったり多くなったり、さらに国を跨いだりすると、自社で全部チェックすることが大変になるので、現実的には、第三者の認証という制度を使う場面があると思います。

・農協は生産者のGAPに注意しなければならない。(田上隆一)
 デューディリジェンスとは、「企業などに要求される当然に実施すべき注意義務および努力のこと」ですが、私たちが農産物との関わり合いの中でこの問題が具体的な大問題になることがあるのは、農協の直売所等にもあります。店舗で農産物を受け入れて、管理し、販売する直売所業務で、衛生管理に充分に気を配って実施していても、その前段の生産者による不適切な農場管理で、例えば食中毒を発生させてしまった、とすれば直売所も責任なしとは言えなくなります。これはデューディリジェンスに反するということだろうと思います。そして、それは、直売所だけじゃなくて多くの青果物が集まってくる農協の選果場にも同じことが言えます。OECDが「責任ある農業サプライチェーンのためのOECD-FAOガイダンス」を数年前に出しています。

◎消費者が農産物などの生産状態を詳しく知るのは難しい、基本的には生産者や企業の倫理観、コンプライアンスを消費者が厳しく問うことが大事だと思いますが、お考えをお聞きしたいと思います。

・生産-消費の連携体制以外にも様々な工夫が必要です。(山口真奈美)
 スーパーに並んでいる農産物には、値段だけではなくブランド名やオーガニック・コーナーなどがありますが、それだけでは良くわかりません。いろいろな生産者と交流したいとか、生産者と繋がりたいとか農業体験したいとかが増え、CSA(Community Supported Agriculture)という地域支援型農業などの生産・消費の連携体制もありますが、誰もがそれらの活動に参加することは不可能だと思います。頑張っている生産者のものを買いたいけど、どうやって買ったらいいか繋がったらいいか分からないという方は多いので、そこをもっと何か工夫していけたらいいなと思います。

・気づきを演出することも必要です。(田上隆多)
 農場認証を取り扱い始めて初めて問題に気付いたという話が多くあります。意識が高く積極的に活動している人たちが認証を取りますというところですが、考えてもいなかったという人達がどうやったら初めて気付くのかを考えると、認証取得という点から広がるところと、情報で面的に囲い込んでやるという両方からやらなきゃいけないんでしょうね。

・規範の形ではなく、要求の本質を理解することが大切です。(山口真奈美)
 認証に関する注意を一つ。認証はある意味ツールに過ぎないのですが、目的化してしまっていて、チェックリストをクリアすれば良いって話になっていることがあります。認証基準が目指していること、なぜこれを配慮して生産しなきゃいけないかっていうところを正しく理解することが大切です。認証を取るとか取らないという議論以前に、こういうことが世界で求められていて、それは、持続可能な生産のあり方や農業本来のあり方が議論されて出てきたのだということをまず学ぶということが大事かなと思います。

◎政策のパラダイムシフトに関して、「生産者が"みどりの食料システム戦略"の必要性に気付くために」というポイントについてまさにその通りと思いました。GLOBALGAP認証などを取得されている 実際の農場の代表者などは、ある程度理解できているのでしょうか?

・食品安全のためのGAP、経営改善のGAPなどバラバラではだめです。(田上隆一)
 いろんな人があって、これは2種類にわかれると思います。いろいろな経過から農場のリスク管理をやってみたが、やった以上はちょっと認証とってみたいねということで認証を取得した。そうしたら「気づき」があってマネジメントということに目覚め行動が変容し成長したというような人。それから、取引先からの要請や輸出目的による認証取得の取り組みなどで、輸出はやめたので認証は継続していないなどという人などに分かれると思います。
 GAPに触れるということはいいことだと思います。ところが、本質を抜きにしてしまうと全くダメ。日本はそういう意味ではピント外れの農場認証やGAP論を論議していました。
 GAPや農場認証を輸出などの目的に限定してしまえば、農業がどういう理念を持っているか、あるいは農業がこういう要求をされてるから、その農業を完遂するためにGood Practiceは如何にあるべきかということでGAPは存在しているという、いわばGAPの哲学みたいなものを捨ててしまうということになるんじゃないかなと思います。

・EUの共通農業政策で、GAPは一貫し総合化されて実効を上げてきました。(田上隆一)
 ヨーロッパが2000年代になって、民間認証を入れた、これは広い意味では政府との合意のものなんです。流通業界では、2002年、03年、04年、2005年には農場認証をしっかりと条件にするということをやってきました。ヨーロッパのスーパーはずいぶん強引だなと思ったんですが、ずっと後になって分かったことは、EUの農政や貿易政策が法制化される。そうすると、標準化された民間の農場認証を02年に農業者に通知し、04年には実施を促して05年からは輸入するものにも適用すると推進したわけです。それが非常にうまく連動して、ヨーロッパに入ってくるものは間違いのないものにする、間違いないというのは安全でサステナブルなものにするということです。そういうことだから、今度の「Farm to Fork戦略」の説明の中で、そもそも現時点でEUの農産物はサステナブルで素晴らしいんだ。だけどもそれでも今地球が直面している環境問題など到底太刀打ちできてない。だから新戦略をやる、そのやり方を最も先にやって他の国を引っ張っていって、20年前にやったことと同じように、ヨーロッパが先にやってしまって、他もやらないと皆さんとお付き合いしませんよ、だから貿易交渉に反映しますとまで書いてあるのです。行政側がそういう戦略だからということになれば、具体的に国は認証はやりませんから民間がやる、民間の認証がうまく運営されているということは社会・経済のレベルが高いということです。

◎サステナブルな生産とエシカル消費を実現するトレーサビリティについて教えてください。(田上隆多)

 山口様のスライドでもあった通り、認証でもデューディリジェンスでもそうですが、サプライチェーンを通じて働きかけをしていく中で、トレーサビリティが絶対的な要件です。少し前は、食品安全やリコールのため要件として議論されてきましたが、トレーサビリティは、繋がり、情報を遡及することができているということです。持続可能性についてもトレーサビリティが重要です。持続可能な農業と食およびエシカル消費を実現するトレーサビリティについて教えてください。

・トレーサビリティが確立されてこそサステナビリティが確認できるのです。(山口真奈美)
 レーサビリティの観点でいうと、認証は逆にチェーンが繋がっていって実際に辿れるということですが、消費者が全ての原産地まで知りたいわけじゃないと思うのです。サステナブルな生産がされているかチェック済みかどうかという観点では、自社の全ての取引先とか事業者を開示しなきゃいけないというわけではないと思うのです。開示している企業さんは素晴らしいと思います、ただそれを開示しなくても、チェーンで繋がっているっていうところで確実に認証された農産物が手に入るのであれば、全部自分でチェックしなくても良いという利点があると思うのです。消費者からも、例えばサステナブルやエシカルラベルを統一して欲しいなどの声もあるのです。いろんなラベルを覚えるのも大変だし、それらが全部違う団体がやっていてバラバラだったりすると、余計に、どれを選んでいいか分からない状況に陥るので、そういう意味ではトレーサビリティでその中で必ずサステナビリティの観点でチェック済みだっていう体制をどうやって作っていくのかというのが大事かなと思っています。

・農産物サプライチェーンの信頼が社会体制になることが必要です。(田上隆一)
 大切なのは、サプライチェーンの中でトレーサビリティがしっかり確認されているということだと思います。信頼できる制度の中で担保されているかどうかということなんですね。例えば、イギリスのNFU(全国農民連合)ではレッドトラクターという農場認証制度を運営しています。持続可能性や食の安全性について農場を評価して認証し、野菜や穀物、畜産物など、組合員の生産の7割から8割、多いと9割ぐらいが認証されています。その農産物はサプライチェーンの中で、どこで採れたもの、誰がつくったもの、いつどのように流通してきたかが確認できるのです。BRC(British Retail Consortium)システムの認証を取れているサプライヤーとだけ取引しているからです。BRCの連鎖がサプライチェーンでうまくいっているから小売店はもちろんレストランまでマークの使用が可能になるのです。
 日本ではレストランで農場認証マークを表示したとしても、途中の経路を証明する認証制度はほとんどありません。単にインターネットでQRコードから農家の名前を見ることはあっても、サプライチェーンをチェックするという社会システムはできていません。農産物サプライチェーンの信頼が社会体制として構築されることは持続可能な社会づくりの重要な要件だと思います。

◎DXに期待が集まりますが、これからどうすべきでしょうか。(田上隆多)

 1個1個を個別にテクニカルに繋げていくっていうところだけに意味があるのではなくて、その信頼の土壌というか、そういうのをどうするかというのが、お二人に共通しているようなお話だったかなと思います。私もそう思う一面もありながら、もう一つは明日の中島さんが専門かもしれませんが、「DX」など、もしかすると何か効率的に、そういう信頼性であるとか、もしくは紐付けができているということだけは、できるかもしれないので、現場の現実的な管理体制とともに新たな技術革新も気になるところです。

・消費においては一つの概念ではなく総合力が大切です。(山口真奈美)
 エシカルなものが欲しいとか、消費者が求めているなら売るんだけどとか、これをやったら高く売れるのかとかといった話が多いのですが、例えば、その小売店やレストランなど消費者と接点をもてる場所が、総合的にサステナブルな調達を実践する、そういうものだけを販売するとか、レストランなら食材だけじゃなくてテーブルとか建物とかエネルギーとかも環境に配慮するという、トータル的なサステナブルが必要なのですよね。
 農産物のGAPとか有機とか言っても、他に食べるものなら水産物はどうかとか、建物はどうかとか、テーブルはどうとかテーブルクロスはどうとか、繊維はどうかって言ったら、やれることはたくさんあるはずですけれども、何かそういったところを消費者はちょっと気付くと、これはどうなっているんだろう、あれはどうなっているんだろうと変化していくので、そういうところで買いたいとか、そういうお店で食べたいっていう機運は今あるので、ぜひそこをうまく結んでいけたらいいなと思います。

・EUの新戦略はまさに総合的な政策です。(田上隆一)
 そういうことができる社会が、成熟した社会だと思います。そこに持っていくために、EUは何をしたかっていうと、公的な調達は全部それ(サステナブル)にする、ということをやってきています。公的な食の調達はもう全部義務的に、例えば認証を取ったもの、エシカルなものとか決めて、それは非常に厳しくやる。学校給食とか役所のレストランは全部それをやりなさいというところからスタートしていくと言っている。そして今度のFarm to Fork戦略の中でもそれをもっと強力にやるという。
 さらに、今までの法律を、例えば肥料の問題、農薬の問題、添加物の問題、こういう法規制をより厳しものにする、2023年までに。そして、その法律を完全実施して、その法律遵守に移行できた人を奨励するとか、いろいろな書き方をしているのです。補助金を支給するということ、新たな活動に移行した生産者を奨励することによって生産側はサステナブルになってくるし、移行しないものは公的機関では使っちゃいけないというような政策を実施することで戦略を達成しようとしているのです。

・政策は項目ごとではなく国全体として舵を切ってもらいたい。(山口真奈美)
 オリンピックとかもそうですし、やはりエシカル消費の文脈でも行政がエシカル消費を消費者向けにすごく推進するんですね。でもその自治体とか行政の調達は必ずしも推進策とクロスしてないっていう矛盾があるので、例えば行政などグリーン購入法があってグリーン購入を実践すればいいっていうところから、エシカル購入あるいはサステナブルな調達をしていくっていうのを、企業とかそういったイベント、オリンピックとか万博とかだけじゃなくて、国全体がそこに舵を切ればすごく大きく動くと思いますし、そういう生産者をより応援するっていうのを大事になるかなと思います。

◎最後に伝えたいこと

・誰も取り残されない社会の実現のためにこそGAPが必要です。(田上隆一)
 新たな課題や目標に向かう際には、先進事例やその歴史に学ぶことも必要です。世界のGAPステージは、1、2、3の段階に分けて考えることができますが、第3ステージと位置付けた姿が、まさに2021年になって米欧を中心に世界の農業政策が、それらを本格的に目指し始めたのです。日本は第1ステージをGAPとして経験していない(環境保全とGAPは別だった)ために、政策担当者も農業現場の関係者も大いに戸惑っています。みどりの食料システム戦略を見れば見るほど、他人事としか思えないような事態なのではないでしょうか!
 私は長年に亘って唱え続けているのですが、日本では世界のGAPステージ1を経験してきませんでした。持続的な地球環境のために農業分野で行う対応策を「GAP」と称してきたEU加盟国では、農産物の輸出国に対してもGAPを要求して農場認証を農産物の取引要件(世界のGAPステージ2)とし、域内の農業と環境を守ってきました。しかし、GAPステージ2では、サプライチェーンにおける生産段階の社会的責任(食品衛生、労働安全、環境保全など)への取組みの証明として最低限の活動だったため、GAP本来の地球環境の持続性に対しては貢献が小さすぎることが明らかになりました。そのため、世界全体で動き出した脱炭素社会の中での農業分野への期待度も大きなものになりFarm to Fork戦略がスタートしたというわけです。
 GAPで周回遅れの日本の農業は、GAPの理念を理解するとともに、足元の環境を正しく理解して、農業分野で行う地球環境の持続性への取り組みを計画し、効果的に実践しなければなりません。課題は大きく多種・多様です。このように大きなテーマを構成する各種の課題を個別に対策していると、最終目的の最適価値が得られません。
 GAPの目標達成を考えたときに便宜上分けた「するGAP、とるGAP」ですが、農業者にとって、実際に「するGAP」と「とるGAP」があるわけではありません。我が家の農場管理が総合的にうまくいくことが期待される農業になる。そのためにどのような評価や管理が必要か、総合的な判断で最適値を求めなければなりません。また、農業政策として取り組む担当者も、農産物の輸出のために国際水準GAPを取るといいますが、世界一の農産物輸入国としては、日本に入ってくる農産物に対して、GAPはどうなのかということをしっかりと認識し、具体的に対策していかなければなりません。日本の農業がGAPであるという防波堤がなければ、ノット・サステナビリティでノット・セーフティーな農産物が輸入され、さらにノット・ヒューマンライツな取引が行われることになってしまうかもしれません。
 この問題についてどう考えるのか、私たちはSDGsの目標である「誰も取り残されない」社会にするために、目覚めて、そして知識・情報を得て、適切に追加された農業規範(Code of Good Agricultural Practices)のもとに、自らの行動変容を起こしていかなければならないと思います。食べていかれない農業であってはいけないのです。

・認証は単なるツールですが共通の物差しです。(山口真奈美)
 私たちはなにを食べ、どう生きるのか、その食や農業の在り方っていうのは、誰もが自分ごとであるので、そういった生産者を応援する仕組みであったりとか、社会だったりっていうのをネットワーク形成できたらいいなと思っております。実際に私達も結局、明日どうなるのかわからないという中では、遠い未来の話よりも、今日どういうふうに生活していくのか、何を食べるかといった時に、こういった頑張っていらっしゃる生産者を応援する。私どもの団体でも引き続きやっていきたいです。GAP、認証に対して最後に一つだけお伝えしたいのは、認証は単なるツールでもあるわけですね。ただ共通の物差しがあるからこそ、国をまたいでの商取引の間にも、何を基準にサステナブルなのかっていうのを証明できる仕組みだと思うので、自分の生産を頑張っている生産者もたくさんいらっしゃると思うんですけれども、コミュニケーションツールとして有用だというところで、ぜひ活用していただきたいと思っております。

2023/4


米国における持続可能な土づくりの本(その4)
カバークロップの効用

山田正美 一般社団法人日本生産者GAP協会 専務理事

 米国農務省(USDA)の国立食品農業研究所(NIFA)が出資した持続的農業研究教育(SARE)プログラムが発行した『BUILDING SOILS for BETTER CROPS『より良い作物のための土づくり)』から、いくつかの話題をピックアップして紹介します。

 持続的農業をする上で健全な土壌を作ることが基本になりますが、本書では、主に以下の3つの方法が紹介されています。

  1. 有機物を施用すること
  2. 耕起を削減すること
  3. カバークロップを植栽すること

 このうち、今号ではカバークロップ植栽の効果について紹介します。

 カバークロップとは、被覆作物あるいは緑肥作物ともいわれ、一般に、栽培されるものの収穫されない植物を指します。このカバークロップは、さまざまな種類の植物が、以下のようないくつかの主要な利用目的を達成するために栽培されています。

(1) 土壌構造の改善
 土壌に有機物を提供し、土壌生物の多様性を維持し、その活動により土壌構造を改善します。具体的には、土壌生物が関与することによる団粒形成の促進が主で、それにより土壌孔隙の維持による保水力の向上、通気性の改善などがあります。
(2) 土壌浸食(風食・水食)の防止
 メイン作物を栽培していないオフシーズンに、土壌表面がむき出しにならないよう、土壌を保護し、土壌浸食(風食や水食)を防止します。カバークロップがあることで雨粒が直接むき出しの土壌表面に当たることを防ぎ、水食を防ぎます。また、土壌表面が乾燥した場合も、カバークロップがあることで土壌表面の風の強さを弱め、土埃として舞い上がることを防ぎます。
(3) 養分の環境流出防止
 メイン作物の終了後に、カバークロップを植えることで、土壌に残っている過剰の硝酸塩をカバークロップが吸収し、地下水へ溶出することを防ぎます。典型的なものにシリアルライやオートムギなどのイネ科植物があります。カバークロップに吸収された養分は、次のメイン作物の栽培前にカバークロップを枯らすことで、メイン作物が利用することができるようになります。カバークロップが植えられず、裸地のままで翌春まで放置された圃場では、収穫後に残存していた余分な硝酸塩などが地下水へ溶出し、地下水の環境汚染を招く可能性が高くなります。
(4) 空中窒素の固定
 カバークロップの中でもマメ科の植物を栽培することで、根粒菌によって空中窒素を固定し、土壌窒素の量を増やし、次期作物に供給することができるようになります。ヘアリーベッチやレッドクローバーなどが良く知られています。有機農場や窒素を自分で育てたい人に効果的です。
(5) 土壌圧縮の解消
 根が深くまで伸びるカバークロップを栽培することで、地下の土壌圧縮を解消できる。典型的な根の強い作物にはシリアルライ、ラディッシュ、ヘアリーベッチ、アルファルファなどがあります。特に劣化した土壌を改善するのに有効です。
(6) 雑草の防除
 一般的に競争力のある、生長の早いカバークロップの種(ソバ、ソルガム・スーダングラス、穀物類など)は、雑草の制御が困難な場合に特に有効です。また、典型的なアブラナ科植物(例:マスタード、ダイコン)はグルコシノレートやイソチオシアネートによるバイオ燻蒸としても知られています。特に、病気にかかりやすい作物を栽培し、化学的防除が限られている場合に有効となります。
(7) センチュウの防除
 センチュウが作物で問題になった場合、被害を抑えるためにカバークロップを慎重に選びます。例えば、ネコブセンチュウ(M. hapla)は多くの野菜やマメ科植物などの害虫ですが、トウモロコシや小粒の穀物などは非宿主となります。このため、非宿主である穀物をカバークロップとして栽培すると、線虫の数を減らすことができます。蔓延がひどい場合は、感受性の高い作物(野菜やマメ科植物)に戻す前に、2シーズン穀物を栽培することを検討してください。

カバークロップの導入は畑地の土地利用型農業における持続的農業の基本になります。カバークロップには多種多様なものがあり、何を導入してよいのか迷うことも多々あります。導入を検討するにあたっての注意事項等、本書の中に詳しく紹介されています。 日本での導入に当たっては、農研機構ホームページの『有機農業に関する研究・技術開発の情報サイト』にもカバークロップの検索ができるようになっていますので、利用してみるのも良いかと思います。

2023/4


「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定されました

田上隆多 株式会社AGIC

 「生物多様性国家戦略2023-2030」が2023年3月31日に閣議決定されました。

 本戦略は、2022年12月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を踏まえた新たな我が国の生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本的な計画であり、2030年のネイチャーポジティブ(自然再興)(*1)の実現を目指し、地球の持続可能性の土台であり人間の安全保障の根幹である生物多様性・自然資本を守り活用するための戦略です。

 詳細は、環境省ホームページ(*2)から入手できますので、参照してください。

 本戦略では、5つの基本戦略ごとに、状態目標(あるべき姿)と行動目標(なすべき行動)が設定されています。特に、基本戦略1~3は農業に強く関わると思われます。例えば、基本戦略1の行動目標1-3では、「汚染の削減(生物多様性への影響を減らすことを目的として排出管理を行い、環境容量を考慮した適正な水準とする)や、侵略的外来種による負の影響の防止・削減(侵略的外来種の定着率を50%削減等)に資する施策を実施する」とあります。また、基本戦略3の行動目標3-4では、「みどりの食料システム戦略に掲げる化学農薬使用量(リスク換算)の低減や化学肥料使用量の低減、有機農業の推進などを含め、持続可能な環境保全型の農林水産業を拡充させる」とあります。

 GAP(適正な農業実践)は、環境的・社会的・経済的に持続可能な農業実践をすること(*3)であり、本戦略の位置付け・目的「生物多様性・自然資本を守り活用する」を共有するものです。

*1 2022年末時点で用語に関する厳密な定義は定まっていないが、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」という基本認識は一致している。対応する日本語は「自然再興」を用いる。
*2 環境省HP 2023年03月31日 「生物多様性国家戦略2023-2030」の閣議決定について
  (https://www.env.go.jp/press/press_01379.html)
*3  FAO COAG 2003 GAP Paper(https://www.fao.org/3/Y8704e/Y8704e.htm)

図 生物多様性国家戦略2023-2030の概要

2023/4


株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載46回)
~新規就農支援プロジェクトとカーボンニュートラル~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 新年度に入り、弊社は新たに2名の青年の新規就農支援をすることとなった。その仕組みは、2015年に有田川役場と弊社で新規就農プロジェクトを計画した。しかし、この年は町予算が獲得できず事業を断念した。2019年になって、当初この計画に携わった町職員が管理職に昇格して再び町産業経済部率いることとなり就農支援プロジェクトを復活した。2020年度は「地域おこし協力隊」として1名を役場臨時職員として採用し、弊社に送り込んできた。募集要項は弊社の人材育成プログラムを応用して町役場が作成したものであり、その要領でいいからと任されたのである。しかし、弊社のプログラムは社員教育を目的としていて、自立就農までは考えていなかったことから、1期目の地域おこし協力隊員の指導は試行錯誤の毎日だった。その隊員も4月末で卒隊となり5月に自立就農のめどが立っている。


 2022年度に入り、町役場が2期目の地域おこし協力隊員の募集をはじめた。有田川町は募集にあたり先ずは農業体験を目的として農業インターンシップを開催し、その受入を弊社が担った。このことは本誌前号で紹介させていただいた。このインターンシップ体験により応募に迷っていた3名が応募してきた。この他にも2名の応募があった。今年1月に町役場が面接による選考会を開催するので応援して欲しいと依頼を受け筆者は面接に立ち会った。後日、町役場から2名を選考したとの報告を受け、3月末に町役場より1期目同様、弊社への就農支援依頼があり、引き受けることとなった。 2023年度の地域おこし協力隊員の2名は我が社でのインターンシップ経験者で本人と社員らは面識があったので受入に問題はなかった。隊員2名は大阪府出身で前職を退社しての決意だから受入側としても責任を感じている。受入にあたっては弊社の就農計画ですすめることとなっているが、今回引き受けた以上、弊社は2つのテーマを掲げ「3年間にいかに新規参入で自立就農するかのプログラム化」、もう一つは「地域が新規参入者にどう対応するか」等をあきらかにするとし、有田川町農業後継者受入協議会(本誌で紹介済み)の団体とも連携していきたいと考えている。 一方、地域おこし協力隊員の在り方や地域の対応について、隣町の紀美野町が和歌山大学と連携して「きみの地域づくり学校」を開催するとの案内をいただいた。内容を見てみると「農山村で生きる価値を若者に伝える」こと、そして「活力ある地域の創出の育成」を目的としているので、弊社のテーマと合致することからこの学校に2名の隊員を参加させ勉強させるよう町役場に提案し、受講予算が確定しいる。 4月に入り2名の隊員を迎え弊社において町役場職員、弊社社員同席でオリエンテーションを開催した(集合写真)。著者が注目したのは一番若い町職員の「このプロジェクトは私の最大の仕事です」の言葉だった。やる気のある職員がいることでこのプログラムを成功に導いてくれると確信した。著者も公務員経験があり、なにをはじめるにしろ職員の意気込みが大事であることはよく理解している。このプログラムの進捗については本誌ニュースで紹介を継続していきたい。 次の話題として「農林水産分野のJ-クレジット制度」に関連しての弊社のカーボンニュートラルへの協力について紹介する。昨年末によくわからないまま県関係者から有田川町にバイオマス発電所ができたから副産物(チャー)を農業利用できないかと、バイオマス発電所に案内されたことが始まりである。



 有田川バイオマス発電所」は森林の未利用資材の有効利用として伐採した樹木を燃料に発電するシステムである。計画では発電所から出る副産物のチャー(残炭)を農業利用で土壌埋設する仕組みとなっている。しかし、発電所の運転がはじまったもののチャーの処理ができていない。そこで、このシステムを建設したシン・エナジー株式会社(神戸市)の依頼で弊社のみかん園で施用試験する運びとなった。弊社ではみかん園に炭を施用する習慣や技術は無く、また、果樹試験場には試験データも無く不安があったが興味半分でOkayした。施用効果についてはブドウや野菜では効果があがったとの事例があると聞き、弊社での施用は発電所からでる加工なしのパウダー状のチャーをみかん苗の植え穴に事前に3kgから5kg施用して土壌の保水性を期待した。



 温州みかんは基本的には排水性が高い土壌が美味しいみかん生産の条件だが、樹勢が弱く雨年においしく仕上がる「ゆら早生」という品種で試験した。品質の成果は出るのは先にと考えるが、幼木の生育が高まればよしとしている。しかし、実際に作業してみるとパウダー状のチャーは取り扱いが面倒で商品にはならないと考える。シン・エナジー株式会社は農業利用を促進するため、チャーの粒状加工を進めていると聞いているが、果たして農業利用に?がるかどうかは未知数である。読者のみなさんにお願いする。バイオマス発電所と農業の連携での成功事例があれば教えて欲しい。

2023/4