-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 66号

新年のご挨拶

田上隆一 一般社団法人 生産者GAP協会 理事長

 令和3年の新春のお喜びを申し上げます。

 毎年正月を迎えてはそのことを慶び、地面から出始めた小さな花の芽に感謝し春の訪れを寿ぐことを習わしとしている私たち日本人ですが、今年の正月はお祝い気分に浸っている状態ではありません。スペイン風邪からちょうど 100 年目に世界的な大流行(パンデミック)となった新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、発生から1年を経過した今も終息の兆しが見えません。昨年の暮れに、ドイツのメルケル首相は、熱意を込めて「クリスマス前に多くの人と接触し、その結果、祖父母と過ごす最後のクリスマスになってしまうようなことは許されない」と、国民に外出制限や営業禁止要請の可能性を訴えていました。同じ時期に日本では、医師会などが国に対して「人の動きを止めて頂きたい」と申し入れていましたが、政府は止めるどころか、公金で国民の地域間異動を促進する「GoTo トラベル」という経済政策を推進(12 月 28 日から 2 週間は一時停止となる)しています。このようなクライシス(危機)に際してリスク(危険性)認識の国民的共有がなければ問題の解決はうまくいきません。政治や社会のリーダーには、適切な判断と効果的な実行を期待します。

 パンデミックのクライシス管理は、COVID-19 の感染リスクを回避して国民の命を守る緊急の課題ですが、命を育む食料を担保する農業も、同じように国民の命を守る日常的・戦略的な課題です。ところが、日本の食料自給率(カロリーベース37%)は世界最低レベルであり、その結果、農産物の輸入額は世界第一位です。食料自給率の向上政策は長い間低迷しており、横ばい状態で、更なる逓減傾向であり、それに連動して肝心の食料自給力も低下しています。耕作放棄地は増え、生産者は今世紀になって半減し、ますます高齢化しており、農業そのものが疲弊しています。日本の食料では 5000 万人を養うのがやっとであり、これでは国民の命を守ることができません。疲弊し衰退した農業では、耕地は荒れ、地力が落ち、地下水は硝酸で汚染され、河川・湖沼などの富栄養化が進み、野生動物が人里に進入するなど、都市近郊の住居環境も劣化する一方です。人間の手が入らない山林は、降雨とともに倒木がすぐに流れ出して洪水を起こしやすくなっています。

 このような日本農業の衰退傾向は食料安全保障の面からも大いに危惧されるのですが、コロナ禍の昨年に閣議決定された農業の重要政策の一つは、「農林水産物・食品輸出目標を 2030 年までに5兆円とする」ことです。そのために国際水準 GAP 認証(農産物輸出の際に要求される農場認証制度の意味)が必要であるとして、「EU 諸国等に対する有機農畜産物・加工品等の輸出拡大に向け、有機 JAS 認証及び GAP 認証(GLOBALG.A.P.、ASIAGAP)の取得や商談等の取組を支援」する認証取得の支援事業が計画されています。

 そもそも GAP は、持続可能な社会作りのために農業者が果たすべき社会的使命です。そのためEU では、民間の GAP 農場認証を活用して、食品衛生管理と環境保全対策とを実施していない農産物の EU 域内への輸入を規制しています。その要求に対応する日本の輸出対策としての国際水準GAP 認証取得は当然のことですが、それよりも、日本と日本の国民を守る GAP の取組み(及びGAP 評価制度)を推進しなければなりません。世界一の農産物輸入国である日本で、日本農業を守り、日本国民を守るためには、日本農業の食品衛生管理と環境保全対策を国際水準にしなければならないからです。そうしなければ、日本に入ってくる低レベルの農産物の輸入を規制することはできません。日本の商社・食品企業・食品小売業が国産農産物を選択できる条件は、日本の農業と農産物の GAP レベルが国際水準になることなのです。

 2021 年1月から岐阜県が開始する「ぎふ清流 GAP」という農業振興策は、「グリーンハーベスター農場評価制度」(GH 農場評価)で農業者の農場管理の実態を評価して GAP レベルを向上させ、生産性と環境の調和を図った農業生産(ぎふクリーン)を実現することであり、農産物マーケットから産地としての信頼を勝ち取るための農業政策です。その内容は、GAP 認証ビジネスではなく、客観的な評価で農業経営体や経営組織の説明責任を明らかにする公的機関による公平で公正な農場評価制度です。

 今年は、農場の生産性と環境との調和を図る農場経営により社会的な信頼を得ることが目的であり、この岐阜県の取組みを例に「GH 農場評価」を公的な新しい取り組みとしてご認識いただいて、日本農業を守るための GAP 推進活動を地方の生産現場から進めていきたいと考えています。

 皆様のご支援をよろしくお願いします。

2021/1


《巻頭言》
食品と農業とのはざまでの係わり

日佐和夫 一般社団法人 生産者GAP協会 理事
大阪公立大学 食品安全科学研究センター/微生物制御研究センター 客員教授
元国立大学法人 東京海洋大学大学院 食品流通安全管理専攻 教授

 筆者は農業(農作物)に関して専門外である。農業とのかかわりは、平成8(1996)年7月13日「堺市学童集団下痢」による腸管出血性大腸菌 O-157 食中毒事件であった。その後、輸入冷凍青果物などの「残留農薬やトレーサビリティの視点からの海外農場調査」であった。

 本来、水産製造学が専門(当時の農林省、現在、国立研究開発法人 水産研究・教育機構)で、水産大学校製造学科卒業であり、卒業論文は海洋微生物であった。

 社会人になって、7 回の転職を経て、現役をリタイアした後も、食品と農業に関係している。今回の巻頭言では「農業とのはざまでの係わり」について、記述してみたい。

1.生鮮品及びその加工品と病原菌

 卒業後、魚病細菌の研究に興味を持ち、同校増殖学科研究科中退を経て大阪府立大学獣医公衆衛生教室の研究生になり、琵琶湖産アユのビブリオ病を研究することになった。その成果を「1967~8年にビワ湖のアユに発生せるビブリオと昨年朝鮮に発生せるコレラビブリオの関係について」として、日本細菌学会学術総会(1970年3月京都)に発表する予定であったが、当時は「琵琶湖にコレラが居ることは、ウサギが象になったことと同じだ」とか、マスコミが騒ぎ、発表を中止することになり、「学会での査問委員会」に出席させられた。23歳の若輩にとっては「恐ろしい経験」であった。その後、水産冷凍食品や大阪湾などでコレラが検出されたが、NAGビブリオ(性状はコレラで、その血清に凝集しないビブリオ属)とされた。しかし、「アユのビブリオ病原菌」は、コレラ判定である彦島型及び稲葉型血清には凝集しなかったが、「小川型血清に凝集」した。菌株が保存されていれば、その後の遺伝子検査技術で、シロクロが明確になったであろう。この研究で私が初めて経験した「人・魚共通病原菌(伝染病)?」であった。

 1970年代前後は、工場排水(公害)による富栄養化により「赤潮の発生」が問題となった。その中で、「渦鞭毛藻類(プランクトン)」が大量に発生した。渦鞭毛藻類が発生すると魚類が狂ったように泳ぎ、短時間に死亡した例が多く報告されていた。「渦鞭毛藻類が産生する毒素」でないかと提案したが、当時は、プランクトンが産生する毒素による魚病と言う概念はなかったが、水質改善による赤潮の終息に伴い、このことが問題とされることはなくなった。

 1980年代頃に、ある研究者から「外国産砂糖原料(原糖)」の入手を依頼され、この原料と砂糖のボツリヌス菌の分布を調査したところ、ボツリヌス菌が検出され、マスコミで取り上げられた。推測であるが、「砂糖原料由来植物」からの汚染・混入と思われた。外資系飲料メーカーでの砂糖の納入基準が耐熱性細菌数 100個/g 以下と言うのも、これに由来しているのかもしれない。

 40年ほど前に「乾燥ベビーフード」が販売され、任意で検査をすると「セレウス菌」「ウエルシュ菌」が検出された。当時は、研究以外で当該菌の検査をする民間検査機関はなかったと記憶している。品質管理屋の意地悪な性格であったのだろう。これらは全て土壌由来の病原菌と推察される。現在、多くのベビーフードは液状のものが多いと推測している(商業的無菌)。この件から乾燥野菜や香辛料・調味料などは、その製品の特性から「放射線殺菌でないと微生物の除去と品質保持」はできないと思っている。日本は「放射線殺菌タブー国」である。今後のグローバル化での課題であると考えている。

 1980年前後に「カット野菜がブーム」になり、スーパーや飲食店で、サラダバーなどの「バイキング方式」がブームになった。これを契機に、カット野菜の細菌汚染が問題とされ、一部には一般生菌数 1,000 万/g を超えるものもあった。消費形態の変化による微生物リスクが論議され、業界基準として「一般生菌数と大腸菌群数の基準」が設定された。これは、カイワレ大根事件以前のことであった。しかし、農産物の生食による食中毒事例のリスクは極めて低いが、行政的には、分母の事例だけを取らえて規制する。今回、HACCP制度化で、カット野菜は惣菜の範疇に含まれ、漬物と同様に、「営業許可対象品目にされる予定」である。

 最後の事例は、農産物加工品と病原菌の関係での経験談は、「真空包装辛子蓮根のボツリヌス中毒事件」1)がある。この事件が発生した当初、汚染源は、辛子蓮根の原料である蓮根、小麦粉、辛子味噌のいずれかが原因食品ではないかとマスコミなどで論議された。これらの原料は、農産物由来であることから、ボツリヌス菌で汚染されていてもおかしくはない。ある意味、小麦粉(外国産の場合)を除けば、日本はボツリヌス菌の汚染地域 2)であり、加工方法を間違えれば、食中毒が発生するリスクがある。この事例の原因は、原料由来ではなく、「辛子味噌の再生利用とその管理不良(辛子味噌の腐敗防止のために加熱殺菌後の冷却不足)」が原因と特定した。

 すなわち、農産物に限らず、水産物、畜産物には、水や環境から由来の「サルモネラ属菌、腸炎ビブリオや腸管出血性大腸菌など」、多種多様な病原菌をはじめ、腐敗・変敗の原因微生物が付着・存在する。従って、これらの原料を使用する場合は、加工技術での安全管理(特に加熱と冷却)が求められる。また、生食をする野菜の栽培・調製・出荷などにおいて、衛生管理が要求されているが、このことに関しては限界がある。しかし、カット野菜・カットフルーツなど「生鮮加工」での衛生管理の要求は厳しいものがあるが、利便性もあり、消費者による要求も高い。これらについては、農業事業者だけでなく、生鮮加工業者や消費者などの衛生教育も重要とされるべきであろう。

 食中毒事故に関して、他の産業とのリスクを比較した表を参考に記載した。

表.我が国の各種事故における年間事件数及び死亡者数(調査対象期間:H20~30 年)3)
(長岡技術科学大学 安全安心社会研究センター:川瀬健太郎、2010.)を一部追加
各種事故 10年間の事件数及び死亡者数 年間当たりの事件数及び死亡者数 死亡者数/事件数(年間・%) 年間死亡者数(人口10万人あたり)
事件数 死亡者数 事件数 死亡者数
食中毒(注) 211,409 57 21,140.9 5.7 0.03 0.004
労働災害 1,164,104 10,261 116,410.4 1,026.1 0.88 0.806
火災事故 437,369 14,876 43,736.9 1,487.6 3.40 1.168
交通事故 5,962,287 42,804 596,228.7 4,280.4 0.72 3.361
鉄道事故 7,780 3,012 778.0 301.2 38.71 0.236
航空機事故 166 88 16.6 8.8 53.01 0.007
地震災害事故 24,252 2,425.2 1.904
コロナ禍(注) 169,446 * 2,487 * 1.47 * 1.956 *

(注)事件者数は食中毒患者数または感染者数、*:2020.12.9.23:59 現在(NHK調べ)

 近年のコロナ禍による死亡リスクの「人口 10 万人当たり:1.956人」に比べ、食中毒による死亡リスクは極めて低く「人口 10万人当たり:0.004人」であり、その多くは、個人の山菜取りによる「毒キノコ」によるものである。従って、生鮮品販売も含めた食品産業のリスクはもっと低くなる。このようなことから、食品衛生管理に関わる行政経費や企業経費を設備改善や農場改善などに転用したほうが、リスクが低くなると推測する。

 しかし、今回のコロナ禍においては、異常な食品衛生管理が、一部コロナ感染防止(手洗い、マスク着用など)に役に立ったものと言えるであろう。

2.HACCP制度とGAP導入

 HACCP の制度化においては、事業者規模によって「HACCP に基づく衛生管理」「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に区分している。いつもの通り、この区分については、行政では明確にしていないが、食品事業者にとっても、この区分判断は難しいところであろう。

 一方、衛生管理としての GAP 導入においては、HACCP 制度同様、「GAP に基づく衛生管理」「GAP の考え方を取り入れた衛生管理」に区分できるかもしれない。農業の専門家でないので、この区分について述べるのは僭越であると感じているが、この2つの区分に「家族的経営農家でのGAP の考え方を取り入れた衛生管理」の指針が出来ればと思っている。つまり、「GAP の考え方を取り入れた衛生管理」の「簡易版レベルの衛生管理」を策定する必要があると考える。すなわち、「GAP に基づく」「GAP の考え方」の違い、さらに「考え方を取り入れた」という文言の多様な解釈などを整理すれば、「家族的経営農家のための GAP の考え方を取り入れた衛生管理」というガイドラインも可能と思われる。ポイントは、「考え方を取り入れた」という「現場的柔軟性及び多様性」であろう。具体的には、栽培形態あるいは栽培作物群別の最低限のチェックリスト(点検表)と記帳(特に農薬使用履歴)であると推測する。HACCP の視点で言うならば、英国基準庁の SaferBetter Food Business 飲食版 4)のトレードオフすることで活用できるかもしれない。

3.GAP及びHACCPシステムと形式知及び暗黙知

 GAP導入やHACCP制度を批判する気はないが、これらに関して「陰と陽」を感じている。わが国のこれらを見ていると、米国流経営手法で代表される「形式知(言語などによって説明できる知識)」に偏りすぎているような気がする 5)。そう感じるのは、日本における経営資源である現場の力となる「暗黙知(パーソナル・ナレッジ:固有の人材・技術・情報など)」)を組織や社会環境が受け入れずに、「正論」・「理論武装」として「形式知」を受け入れたと考えている。特に、食品安全の分野においては、「米国流」あるいは「グローバル経営手法」「GAP や HACCP」に変わっただけという気がしてならない。しかし、農業事業者は、幅広い経験的な生産に係る栽培技術やその哲学などを知識として有している傾向があると感じているが、食品事業者は、それに比べ、「自己の持つ技術」より「経済原則」で物事を考えているような気がしてならない。このことは、多様な取引の中での「バイイングパワー」が影響しているような気がする。

 一方、これらの安全に関して「形式知に基づく法規制によるシステム」が確立するのは良いことであると感じているが、この分野には、このシステムをブレークダウンしたところでの現場的発言をされる専門家が多く、また、行政もこの専門家を利用しているようにも感じている。このことの弊害は、現場における「専門家による形式知(正論)」がまかり通り、「現場の知識である暗黙知」が否定的に扱われることが多い。しかし、科学的根拠を求める専門家側は、科学的根拠として運用できるものと運用できないもの、さらには、科学的根拠を求めること自体が難しいことなどの区分が出来ない専門家が多い。少なくとも、これら専門家が科学的根拠を求める前に、その求める根拠や参考文献例、さらには科学的根拠となるための実験計画例も提示して欲しいものである。

 現在、コーデクスの改訂作業が進んでおり 6)、その中で、「HACCP プランの妥当性確認」「許容限界値の妥当性確認」などが検討されているようである。このことは、「正論」であると認識しているが、今回の「HACCP 制度」の「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」の対象食品等の事業者の多くは中小・零細企業である。従って、形式知の科学的アプローチ(科学的数値あるいはその根拠)は、行政的トップダウン(自治体への通達)に過ぎない。この手法は、企業の従業員(食品衛生監視員も含まれるかも?)が持つ大量の「暗黙知」の力量(職人的あるいは経験的技量といわれるもの)を期待していない(Anti ー Flexibility)。確かに「形式知」は「理論武装」にはなるが、「形式知」だけで「食品現場を運営(監視・指導)することには限界」がある。

 また、HACCP 制度化において、形式知における「3つの密(過剰)」が見られる(表)。

表.HACCP 制度化において、形式知における「3つの密(過剰)」
  1. オーバー・プラニング(過剰でかつ詳細な HACCPプラン作成の要求)
  2. オーバー・アナリシス(過剰でかつ執拗なハザード要因分析の要求)
  3. オーバー・コンプライアンス(必要以上の過剰な文書及び記録等の要求)

 HACCP is Simple、Simple is Best であることから、運用(監視・指導)を見直す必要があるだろう。これに関しては、新型コロナの「特措法に基づく分科会」への経済学者などの参画と同じように、今回の「技術検討会」にもリスク評価とその管理の総合的専門家の必要性があったかもしれない。これらも GAP 導入の中での共通した問題になると推察する。

 近年、新規または改訂される国際規格や諸外国の規格の中には、改訂前の具体的事項から多様な解釈や運用面に対応できるような規格解釈に変更され、本来の規格要求事項の意味が理解できないことがある。さらには、「カタカナ英語だけがスプーク」されることもある。特に暗黙知を重要視する審査員は、旧版から改訂版の意味を理解しようとしていることに遭遇することがある。これを見ると、若い審査員の「軽薄短小的な審査」に対する不安がある。これは年寄りの冷や水だろうか。

4.GAP認証とフードチェーン一連でのホワイト認証チェーン構築7)の課題

 HACCP 制度化が 2021年6月から施行される。行政の縦割りの中で対象は食品事業者となる。しかし、総合的な食品安全・品質・情報の視点で考えた場合、フードチェーンにおけるホワイト認証チェーン構築が論議されなければならない。

 一般的に問題を起こした組織などは「ブラック組織」と判断されるが、それ以外の組織を「ホワイト組織」と判断されることは難しい。また、一方では、コンプライアンスなどに抵触した大組織であっても、他の分野で評価され、「優良?組織」としての評価は高い。このように、総合的な評価における「ホワイト認証」には限界があるが、総合的な食品安全・品質・情報の視点での「ホワイト認証チェーンの構築」は可能であると考える。そのためには、小売業や消費者団体の総合的食品安全管理論の学習が必要であろう。

 この食品安全にかかわる「ホワイト認証の出発点」が、「GAP(適正農業規範)認証」であると考えている。フードチェーンにおける認証項目としての食糧フローは、GAP(適正農業規範)、GVP(適正獣医規範)、GMP(適正製造規範)、GPP(適正生産規範)の順になると考えられ、全体に関与するものとしてGHP(適正衛生規範)があり、フードチェーンの間に位置するものとしてGDP(適正流通規範)がある。さらに、食品安全・品質を含めたフードチェーン全体に関わる商取引としてGTP(適正取引規範)が存在すると考える。また、その中に、「SDGs(持続可能な開発目標)17 の開発と 169 のターゲット」が関与するのかの検討も必要になるかもしれない。

 一方、ISO 22000:2018 の3.用語及び定義、3.35 前提条件プログラム(PRP)の中に、上記の「適正規範」が挙げられている。しかし、これらについての要求事項での具体的な記述はなく、ISO/TS 22002-1(食品製造)、2-2(ケータリング)、2-3(畜産・水産業)、2-4(容器包装製造)に依存?しているようである。また、同時に、8.3 トレーサビリティシステムについても、ISO/TS22005:2007(飼料及びフードチェーンにおけるトレーサビリティシステムの設計及び実施のための一般原則及び基本要求事項)も同様である。このような総合的な視点で考えると、ISO 22000、FSSC 22000 などのような第三者監査員や取引先監査である第二者監査員、さらに内部監査員である第一者監査員などの力量(視点の狭さなど)が問われてくるであろう。現場の視点からすると、これらの認証監査は、「簡易的認証」と理解せざるを得ない。さらに、審査員要員認証教育においても、「食品微生物学」「食品化学」「動物生産:水産コース」「動物生産:家畜・家禽コース」「水産・畜産・農産・食品及びその加工品の衛生関連法令」さらには「個別品群(例:鶏卵・はちみつ等)」など、個別事項を含めた総合的知識が求められるであろう。

 今後、監査員、監査機関の選別による認証が、事業者への客観的評価(認証)となる。従って、「ビジネス認証」を否定する気はないが、「技術認証能力」のある監査員及び監査機関を評価できる生産事業者、さらに、その納入事業者の食品安全担当者(経営者も含む)の力量に期待したい。

参考資料

  1. 日佐和夫・林賢一・阪口玄二:真空包装辛子蓮根によるA型ボツリヌス中毒事例に基づく辛子レンコン製造過程の HACCP プラン作成の試み、HACCP システムによるボツリヌス中毒防止に関する考察(1)、日本包装学会、Vol.7,No.5,p231-245,1998
  2. 厚生労働省資料:ボツリヌス菌汚染実態にかかるデータ、別添1 土壌中及び食品中のボツリヌス菌の分布 2007.6、www.mhlw.go.jp → shingi → 2007/06
  3. 日佐和夫:HACCP 制度化での技術専門家と現場との乖離―正論肯定と暗黙知軽視―、日本食品化学新聞社「月刊フードケミカル 11月号」、p48-51、2020
  4. 平成 27-28 年度厚生労働科学研究(HACCP の導入推進を科学的に支援する手法に関する研究)の中で、「飲食店における Safer Food Better Business を基にした HACCP に基づく管理手法の開発:分担研究者:豊福肇」
  5. 野中裕次郎:失われた 20 年の失敗、科学的アプローチに偏りすぎた日本企業、WedgeVol.31, No.8, p14-17, August,2 (2019)
  6. ISO/TC 34/SC 17/WG 11、on Doc. ref.:N 032、2019-12-19、Subject:PROPOSED DRAFTREVISION OF THE GENERAL PRINCIPLES OF FOOD
  7. 日佐和夫:教育講演、グローバル化に対応した食品工場監査~フードチェーンにおけるホワイトリスト化への課題~、日本食品微生物学会誌、32(1),17-27,2015

2021/1


『日本のGAP、すべてはここから始まった』《連載第7回》
~農場保証制度を理解しなければGAP認証は普及しない~

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

日本が遅れないために食い下がって調査

 2002年に届いた欧州の農産物流通が変わることを知らせる「イギリスからの一通の手紙」(連載1)の後、㈱片山林檎の片山さんと私は、2003年にEUスーパーマーケット協会の農場保証制度(EUREPGAP認証)を調査するために渡欧しました。その後も芋づる方式で次から次へと関係者を教わって訪ねまわり、2004年の訪問でたどり着いたアルメリアでは、多くの家族経営農家とそれを束ねる農協および役所の農業担当者に出会いました。訪問先の農家や農協の選果場でのスペイン語に対しては、農協や役所の担当者にスペイン語から英語にする通訳をお願いしましたが、英語の理解にも同じように苦労したため、私は、翌2005年からの訪問ではスペイン語から日本語への通訳を伴って、さらに深くGAPと農場保証制度の調査を実施してきました。

 零細農家を束ねることで世界のマーケットからの要求に応えていこうとするアルメリアの農協が、農産物販売の最重要課題としてEUREPGAPという「農場保証制度」に取り組み始めたことを知ったからです。グローバル化が進行している日本農業が世界に後れを取ってはいけないと、食い下がる思いでスペイン訪問を繰り返しました。

20年で300倍の差が付いた

 GLOBALGAP(2007年まではEUREPGAP)を代表とする第三者認証機関による農場保証(日本では「GAP認証」と言われている)への取組みについて、私は「連載6」で「失われた日本の20年」と表現しました。それは、日本の㈱片山林檎への認証取得要請が2002年であり、欧州で最初のGAP認証がスペインのアルメリアの2001年であったということで、日本とスペインは、スタートはほぼ同時だったにもかかわらず、圧倒的な差(300倍?)がついているからです。

 アルメリア農業を代表するエレヒド市役所の2017年の統計によると、市内全農家の78%がスペインの生態学的農業認証UNE155001を取得しており、最低限の認証であるGLOBALGAP認証は91%の農家が取得しています。農協は、販売先の要求に応じてその他の複数の「農場保証制度」を利用して農家の農産物を欧州のニーズに合う条件にコントロールしています。

 また、日本で最初にEUREPGAP認証の検査を担当し来日したニュージーランドの審査会社のブラッドレー氏によれば、スペインで第一号認証が出て、その後一斉に世界的に普及しましたが、ニュージーランドの農業生産者は2002年末までは全く関心がなく、認証に取り組む人も皆無だったようです。ところが2003年になると、リンゴやキウイの生産者の圧倒的多数の農家が、審査の申込みをしたとのことでした。これは、「イギリスからの一通の手紙」が届いた㈱片山林檎と同じ動きです。そして、あっという間に全ての生産者が認証を取得したということです。

 現在の日本全体のGLOBALGAP認証を取得した農家(農業経営体)は740戸(GAP普及推進機構,2020年)で、ASISGAP認証は2404戸(日本GAP協会,2020年)です。農林業センサスに基づく農産物販売農家の概数は102.8万経営体ですから、双方の農場保証制度を合わせても、農家の認証取得率は0.0030583(0.3%)、即ち日本とスペインは3対1000になります。

 これでは、日本では農場保証制度が普及しているとは言えません。2001年から2020年まで、食品安全のために、農業信頼のために、生産者のために、特に食品安全に対しては行政の対策を含めて様々な取組みが行われてきましたが、今や世界の当たり前となった農場保証について、日本は統計誤差(3%)にもならない数値にしかなりません。まさに「失われた日本の20年」です。

 日本の農場保証を普及させるために、日本政府は、2030年の農産物・食品の輸出額目標を「5兆円」と掲げ、オリンピック後は輸出のために「国際水準GAP(認証)」に取り組むと宣言しています。2021年が本格的なスタートになるようです。

文献でGAP認証は理解できない

 さて、GLOBALGAP認証への取組みは、日本も含めて「世界同時スタート」だった訳ですが、2003年にEUREPGAP農場保証(GAP認証)取得に失敗した㈱片山林檎は、2003年の欧州調査を経験して、2004年9月に再チャレンジし、日本初の認証取得の農場となりました。

 この時点で日本には農場保証のための審査会社はなく、その制度の存在すら知られていませんでした。指導者もいないため、自ら欧州を調査して、集めた文献等を参考にして英文の審査基準書とチェックリストを読み解き、独自の解釈で農場のリスク評価・リスク分析を行って、農場の様々な問題点を改善し、審査に必要な管理基準書を作成し、作業実績を綴って文書管理システムを作りあげました。

 ㈱片山林檎は、工業機械系の会社勤務の経験があり、ISO(国際標準化機構)に精通した社内関係者の貢献もあって、お陰で認証検査にパスしました。認証に合格した㈱片山林檎の農場管理体制は、EUREPGAP検査の要求事項に充分に応えられる枠組みとなり、論理的な文書体系にもなっていました。

 ただし、審査中に片山さんは検査官から何度も「ステューピッド(stupid)」と言われたそうです。農場検査の内容について次のように話していました。「印象に残ったのが、検査に合格する目的だけで行った無駄な作業に対する検査官からの批判です。例えば、環境問題に関しての農場管理計画の中で野生生物と自然を保護する方針を掲げていましたが、その対策として園地の入口に野鳥を殺さない鳥害回避策の実例としてプラスチック製の偽物のカラスをぶら下げておいたのですが、このような見せかけの審査対策はすぐに見抜かれ、「”No effect , Stupid”と手厳しかった」と言っていました。

 ステューピッド(stupid)を辞書で引いてみると、「愚かな、ばかな、にぶい、ばかげた・・・」などの日本語訳が出てきます。この言葉は「愚かな行動・発言・判断などと、相手に警告する場合などに用いられる」という説明もありました。検査において実際に指摘された内容を見聞きすると、「それはやりすぎでしょう!現実を考えてみたらどうなの?」というような場面であり、生産現場の本来の状態を考慮せず、ただチェックリストに合わせるような対応についての検査官の評価・判定だったということです。

 これらは18年も前の話ですから、その後、実際の農場検査を積み重ねることによって、今では大きく改善されてきていると思うのですが、検査で「ただチェックリストに合わせるだけ」という傾向は、検査をして貰う側にも、検査をする側にも、残念ながら現在でも見受けられます。

2021/1


世界のGAPステージで日本は2周遅れ

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

はじめに

  パンデミックとなった新型コロナウィルス感染症は、発生して一年が経った今や第三の波となって世界中で猛威を振るっています。その中で世界の政治や社会情勢が変化し、経済的にも大きな影響を及ぼしています。1980年代ごろからの新自由主義の政策で経済や社会を形作ってきた"グローバリズム"が急停止したような状態となり、2020年を境に21世紀の価値観がこれまでの延長線ではないものに変わろうとしているかのようです。それはグローバルなサプライチェーンや経済成長ばかりではなく、食糧やエネルギーとともに農業そのものの価値も考え直す必要に迫られているように思います。持続可能な社会づくりのためのGAP(Good Agricultural Practice)の普及の視点でこの大きな変化を考えてみます。

1.世界のGAPステージ 1周目 -人と環境に優しい農業(GAP規範)

農業由来の環境汚染対策としてGAP概念が誕生

 1980年代といえば農業由来の環境汚染が確認された時代でもありました。特に、国境を越えて市場を単一化したEU(欧州連合)では、農業生産で排出された硝酸塩による地下水汚染および河川・湖沼などの水質汚濁を削減・防止する「硝酸指令」を1991年に公布しました。加盟各国が「硝酸脆弱地域」を指定して厳しい規制を行い、その他の全ての農地にはCoGAP(Code of Good Agricultural Practice)「適正農業規範」を遵守する農業を行うことを要請しました。同年に「植物保護指令」も公布し、植物保護製品(農薬)の使用による人間(及び家畜)の健康と自然環境の保護を高いレベルで確保することを農業者に義務付けたのです。

GAP義務化と補助金

 人間及び家畜の健康と自然環境の保護に努める農業が「持続可能な農業=適正農業管理=GAP」です。そして、GAPの実践を目指す農業者が「汚染を避ける効果的な措置をとるための法的・科学的・技術的指導書がCoGAP=適正農業規範」です。1980年代に英国政府の関係機関によって出版され、1990年代にはEU共通農業政策CAP(Common Agricultural Policy)によって加盟各国で出版されるようになりました。農業者がCoGAPを守り、CAPによりEUの補助金を受け取る制度が「クロス・コンプライアンス」です。

 EUでは、「市場価格で守られない公共財としての「環境」の世話を日常業務の一部とする農業者への直接支払い」でEU域内の環境と「農業と農業者」を守っています。加盟各国の政府は農場管理を評価(査察)して、農業者に不正や不当な行為があると補助金の減額やそれ以上の罰則などが設けられており、農業者にとってCoGAPの遵守、つまりGAPは「事実上の義務」であると言われています。

CoGAPを利用した農産物の仕入基準

 英国が1998年に改定出版したCoGAPの「水規範」「土壌規範」「空気規範」の三部は、農業関係者の取組みだけではなく、農産物の流通業者や小売企業者なども大いに関心を持ちました。スーパーマーケットは、消費者の農産物に対する信頼を、政府が規定したCoGAPを基準にして考えようとしたのです。それを元に「出荷者行動規範:SCP(Supplier Code of Practice)」を作成し、卸売業者を通じて農産物の仕入対象農場の監査を行うようになりました。SCPの構成は、CoGAPの内容に食品衛生規則や取引条件などを加えたもので、農産物の出荷者に遵守させるものです。日本のりんごを1999年から欧州に輸出していた青森県の有限会社片山林檎は、1998年にこのSCPの監査を受けています。

2.世界のGAPステージ 2周目 -農場保証(民間のGAP認証)

グローバル企業が出荷者保証の業界コストを生産者に付替え

 自由競争に委ねる新自由主義政策で、2000年頃になるとますますグローバル化が進展し、先進諸国の企業が世界中のどこにでも出向いて食材を集めるようになりました。そうなると、農産物の生産現場に赴いて行うSCP監査のコストがスーパーマーケットや卸売業者の重荷になってきたのです。そこで、欧州小売企業農産物協議会(EUREP)は、「第三者による農場保証(GAP認証)ビジネス」を作って、元々は小売業者が消費者から信頼を得るための農場検査の費用を生産者側の負担にするという「業界コストの付替え」を行ったのです。

 特にEUでは、2004年の食品衛生関連法の改正で食品事業者はHACCPが義務化され、それが輸入食品に対しても求められることになったため、全ての仕入れ商品の安全確認の意味でも、スーパーマーケットは2005年1月1日からEUREPGAP(現在のGLOBALGAP)による農場保証を求めることにしたのです。また、EUREPとは別に、世界的な食品の流通・製造企業ネットワーク(TCGF)の系列にGFSI(グローバル食品安全イニシアチブ)が2000年に創設され、世界各国にある食品安全認証規格の統一を呼びかけました。世界中で食品ビジネスを展開するグローバル企業(TCGFメンバー)にとって、統一された食品安全基準なら管理コストの効率が良いからです。

日本は、世界のGAPステージ2周目からスタート  1周目のCoGAPがない

 日本の農業政策にGAPの名前が登場したのは2004年、農林水産省消費安全局農産安全管理課の「食品安全GAP(ジーエーピー)」という食品安全対策でした。その後、2008年に担当部署が生産局生産技術課に変わり、「農業生産工程管理」という生産段階の各工程で食品安全を確保する管理手法を推奨する政策になりました。

 民間では、片山林檎の認証取得を通してEUREPGAP認証制度を学んだ株式会社AGICの筆者は、2004年に著作・編集した「JGAP農場認証基準」に基づいて、外資系企業のドールやゼスプリ、マクドナルドなどの国内取引農場でGAP(適正な農場管理)の実践指導を行ったことが最初でした。

 つまり、日本でGAPがスタートしたのは「人間と家畜の健康と環境の保護に努める持続可能な農業=適正農業管理=GAP」ではなく、「スーパーマーケットが仕入れる農産物の安全確認のために要求する農場の適正管理(認証)」からでした。そのためか、日本の政府は「農業者が汚染を避ける効果的な措置をとるための法的・科学的・技術的指導書としての適正農業規範(CoGAP)」は編集せず、生産工程管理手法を推進して公開したツールは、EUREPGAP(及びそのコピーのJGAP)などの民間の農場認証制度に学んだ農場の評価基準書つまり農場検査のためのチェックリストだったのです。当初のJGAPの役割は、それまで外国人が来て、外国語を通訳して行っていた審査を日本語で比較的安価に行えるというためのものでした。

五輪と輸出で農場認証の国際規格を意識した

 日本生産者GAP協会はGAP普及ニュース40号で「2020東京オリンピックで国産野菜を供給できない可能性」と警鐘をならし、2014年度GAPシンポジウムでは、「今からでも間に合う東京オリンピック・パラリンピックの国産食材の調達戦略と国際認証対策」を提言しました。

 東京2020大会組織委員会は「持続可能性に配慮した農産物の調達基準」として、「GLOBALG.A.P.またはASIAGAPの認証、農林水産省"農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン"に準拠し都道府県等公的機関による第三者の確認」を受けているもの、その他有機農産物、海外産はフェアトレード等を要件としました。

 また、2020年に農産物食品の輸出目標1兆円を掲げた閣議決定「日本再興戦略改訂2014年6月」では、「輸出拡大を図る上では、国際的に通用するGAPの取得(国際水準GAP)を推進する必要がある」としてGLOBAL G.A.P.認証取得の促進などを決定しています。

日本が目指す国際水準GAPは農産物の輸出用

 新型コロナウィルスの感染拡大により東京2020大会の開催は延期され、2020年12月末時点では2021夏に開催する予定で準備が進められていますが、農林水産省によれば、東京2020大会(2021年開催でも2020とする)の食材出荷量確保の見通しをつけて「GAPをする」に努め、大会以降は、農林水産物・食品の輸出額の2030年目標5兆円(食料・農業・農村基本計画(2020年3月31日閣議決定)に向けて「GAP認証をとる」ことを推進するということです。

 農林水産省の国際水準GAPの説明によれば、「GAPをする」とは、「農業生産動を行う上で必要な関係法令等の内容に即して定められる点検項目に沿って、農業生産活動の各工程の正確な実施、記録、点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動」のことであり、そのメリットは、「生産管理の向上、効率性の向上、農業者自身や従業員の経営意識の向上につながる。また、農業人材の育成、我が国農業の競争力強化にも有効である」ということです。

 そして、その結果として東京2020大会後は、「GAPが正しく実施されていることを第三者機関の審査により客観的に証明すること」が求められるから、そのために「GAP認証を取る」ことを推奨するということです。認証のメリットは、「農家にとって取引上選択されやすくなる。取引先にとって安心して取引できる。自ら確認する必要がなくなる。顧客に説明しやすい」とのことです。

 これらの取組みは、EUのスーパーマーケット業界や世界の巨大食品企業のグループが作り上げた農産物の買手側による「第三者による農場認証ビジネス」としての農場評価に、産地の生産者側が対応する経済活動です。これらは、世界が第一周目で目指した「環境を守る」という持続可能な農業の達成や、オリンピック組織委員会が目標としている「持続可能性に配慮した農産物の調達」というGAP本来のものではありません。

農産物輸出のためのGAP認証は開発途上国型

 GAP認証等による農場保証が、販売先企業の農産物輸入の条件であれば、農産物を販売しようとする農業者は相手が指定する農場保証の認証を取得しなければなりません。GLOBALG.A.P.認証のように食品安全対策だけではなく、農業由来の環境対策にも配慮している認証制度は、輸出国の環境対策にもなっているという大義があります。しかし、日本の生産現場では、農産物品質の国際標準や、認証を含む生産コストと、販売価格の経済効果が見合うのかどうか等が問われているのが現状です。

 現在、欧米諸国に農産物を輸出している多くの国の輸出者は、先進国への輸出で採算が合うから認証取得の負担も乗り越えることができるのでしょう。また、認証が販売上の有利な条件であれば、その他の各種認証(持続可能性や社会的責任、食品衛生等)も受け入れて販売先に応じた多様な認証制度が普及しています。イタリアやスペインの青果物の産地では、「GLOBALG.A.P.はリミット(取引要件の限界)」だから、ほとんどの生産者団体は、GGAPの他に複数の認証を取得しています。EU加盟国にはありませんが、先進国への農産物輸出が貿易収入の大きな部分を占めている多くの国は開発途上国ですが、そこでは国が主導してGAP認証などの取得を推進しています。農場認証の国内需要が少なく、行政が輸出のためのGAP認証を推進している日本は、正に開発途上国型のGAP推進といえます。これは、一周目の認識、日本国民のための「人と環境に優しい農業」を経験していないからなのでしょう。

米国のGAPステージ

 米国では「食品安全近代化法FSMA(2016年1月26日発効)」によって食品危害に対する予防管理を強化し、FDA(食品医薬品局)の下に一元管理して輸入食品の安全対策を徹底しています。FSMAでは国の内外を問わず、農業生産者が行うべきこととして、衛生管理の徹底、農業用水の管理、従業員教育などが法制化され、農場管理全体の記録保管文書を検証する規制を行っています。また、EUにクロス・コンプライアンスがあるように、農業による環境負荷を削減するプログラム「EQIP:Environmental Quality Incentives Program)」があり、養分管理、IPM、灌漑管理、野生生物管理の4つのプランで、環境にやさしい農法に財政支援しています。

 このように米国においてもEUにおいても、国内・域内の食品衛生管理制度や環境保護規制等は、輸入食品に対しても事実上同じように規制しています。

3.世界のGAPステージ 3周目 -さらに持続可能な農業政策へ-

欧米の農業政策は2020から次のステージ「安全で持続可能な農業」へ

 日本では、2020年から2030年までの10年をかけて「買手側による第三者農場保証(世界のGAPステージ2)」に本格参入する計画ですが、EUと米国は、すでに世界のGAPステージ2は完了し、世界のGAPステージ3を2020年から開始する計画です。これで日本のGAPは2周遅れとなるのです!

 2018年に公表されたEU共通農業政策(CAP)の次期案では、持続可能な農業分野のためにEU予算の40%を充てて、農業者への直接支払い(クロス・コンプライアンスとグリーニング-2014年から)の条件を強化するとしています。2020年12月現在、欧州委員会のホームページには、「欧州委員会が、農産物および食品の安全性と品質を確保し、生産者と地域社会を支援し、持続可能な実践を促進する方法」が記述されています。

持続可能な農業への3つの道筋(欧州委員会)

 「農業活動は、農業者が天然資源を利用して農産物を作り出し、生計を立てるための良好な環境条件によって支えられています。また、農業の収入は、農業家族や農村地域を支え、生産された食料は社会全体を支えています」。したがってCAP(EU共通農業政策)では「持続可能な農業システムの実現に向けた道筋に関する社会的、経済的、環境的アプローチを組み合わせ、この組合せとイノベーションにより、CAPはヨーロッパのための包括的で競争力のある欧州グリーンディール(欧州委員会は2050年までにEU域内の温室効果ガスの排出をゼロにする)と農業を一致させようとしています。

英国 環境食品・農務省 アンモニア排出を削減するための適正農業規範(COGAP)2009年版COGAPに追加して、2018年度に追加して刊行

農業者、農産食品事業者、農村コミュニテーの役割(欧州委員会)

①"農場から食卓まで"戦略で「持続可能な食料システム」の構築
②農村生態系の動植物を保護・強化で「新しい生物多様性戦略」
③水、空気、土壌などの天然資源保護で「ゼロ汚染行動計画」等

「農場から食卓まで」戦略2030年数値目標

 ・ 農薬の使用及びリスクの50%減少
 ・ 肥料の使用を少なくとも20%減少
 ・ 家畜及び養殖に使用される抗菌剤販売の50%減少
 ・ 有機農業に利用される農地を25%に到達 等

EUの持続可能な農産物の貿易戦略(貿易障壁としてのGAP認証)

 世界のGAPステージ2周目(農場保証)の段階で、EUが食品取扱事業者に対するHACCP義務化を全ての輸入食品に適用したため、EUのスーパーマーケットが農産物取引制度として開発したGLOBALG.A.P.認証が、事実上の非関税障壁として「GAPコントロールされていない外国農産物の輸入」を規制することになったと考えらます。

 世界のGAPステージ3週目に入った2020年現在、EUには「環境(持続可能性)の新しい規範を、自由貿易協定(FTA)を通じて実現していきたいというインセンティブ」があります。今後 FTA を締結する際には、「パリ協定を尊重する」ことを必須の要素として提案していくとしています(欧州委員会2019)。こういった環境に係る規定を設けることで FTA の機会を利用して環境の規範を相手国や地域に"輸出"することを狙っていると考えられます。

 欧州委員会の FTA には、持続可能な発展の章が設けられており、新たに FTA が遵守されるための管理官を設置して、これにより環境規範を守らないような方法で生産された農産物のEUへの輸入を防ぐとしているのです。(農林水産政策研究所 [主要国農業政策・貿易政策]プロ研資料 第1号2020.3)

米国の農業イノベーション計画(米国農務省)

 米国は2020年2月に5つの農業研究戦略「農業イノベーションアジェンダ」を公表しています。

2020年から2025年までのUSDA科学のロードマップ

① 持続可能な農業強化ゲノム技術、精密農業、伝染病の早期発見、植物由来品の価値の拡大、One Health(人の衛生、家畜の衛生、環境の衛生の連携)、資源利用の最適化、技術インパクト分析等
② 農業気候適応 オープンデータ、データに基づく意思決定支援ツール 等
③ 食物と栄養・食品衛生の有効性とコスト分析、汚染軽減技術と予測等
④ 付加価値とイノベーション
⑤ 農業科学政策のリーダーシップ

技術開発を主軸に以下の目標を設定

 ・2030年までに食品ロスと食品廃棄物を50%削減
 ・2050年までに農業生産量の40%増加
 ・環境フットプリント50%削減の同時達成
 ・2050年までに土壌の健全性と農業における炭素貯留を強化
 ・農業部門のカーボンフットプリントの純減
 ・2050年までに水への栄養流出を30%削減

OECDの対日勧告

 2010年5月に実施されたOECD(経済協力開発機構)の対日環境保全成果レビューと勧告のうち、農業関連事項では、「日本農業の補助金の約95%が生産関連(OECD平均55%)、85%が価格支持対策である。」と指摘しています。

 世界のGAPステージ1周目の経験から、OECDの勧告では、「生産関連のへの補助金投入は、肥料や農薬その他の投入物の使用を助長し、その結果は、水質や土壌などの環境に有害となる。実際に、日本の肥料と農薬の使用量はOECDの平均値よりも明らかに多い。従って、環境インパクトを最少化し、生物多様性を保護するためには、農業支援方策を、生産支援から農業者直接支援に切り替えるべきである」という内容です。

 しかし、日本のGAP普及は、世界のGAPステージ1を経験せずに、世界のGAPステージ2(農場保証)を目指しているため、持続可能性への取組みが弱く、15年以上経過した今でも、顕著なGAPの成果は見られていません。

OECDの提言「日本農業のイノベーション-生産性と持続可能性の向上を目指して-」

 今回の2019年のOECD政策レビューでは、EUと米国の持続可能な農業への取組みなどが、世界のGAPステージ1及び世界のGAPステージ2を大きく超えたチャレンジになるため、日本においても単なる研究開発の政策を超え、農業政策や市場環境全体にも関わる大幅なイノベーションが必要であると提言しています。

 しかし、そもそも世界のGAPステージ1を経てこなかった日本のGAP、即ち「持続可能な農業への取組み」について、今回のレビューでは次のように提言しています。

・日本では、農業の環境負荷低減に向けた進捗はこれまでのところ限定的であった。
・日本は、全ての生産者が環境パフォーマンスの改善に関与する統合された農業環境政策の枠組みを作るべきである。
・農業政策の各プログラムは、農家が持続性の高い生産方式を採用するよう、一貫したインセンティブを与えるべきである。
・また、必要に応じ、違反者に対するペナルティーの措置を講じるべきである。

 この提言は、日本生産者GAP協会が2010年の創設以来一貫して主張してきた「日本のGAP論」と共通するところが多い内容です。EUの共通農業政策のように、農業補助金は「農家の日頃の活動による公共財としての「環境の持続性」を提供するというサービスの対価として支払われるもの」と考えるべきです。

終わりに

 本稿のテーマ「世界のGAPステージで日本は2周遅れ」を、持続可能な社会づくりのGAP普及の視点で考えると、世界のGAPステージ1では「持続可能な農業への対応」、世界のGAPステージ2では「グローバルなサプライチェーンの農場監査」、世界のGAPステージ3では、「世界各国・地域の食料戦略と持続可能社会に貢献する農業」ということになり、それらの進捗の中で、日本は世界のGAPステージ1の政策が遅れ、世界のGAPステージ2の農産物サプライチェーンになっておらず、現在は、世界のGAPステージでは2周遅れの状態になっています。

 折しも2020年において、社会の価値観の転換が迫られている日本のGAPは、ステージ1とステージ2とを同時に達成する必要があるのです。そのためには、欧米に追いつき追い越せではなく、これまでの「農産物輸出を目指して成長産業となるという工業的製造業」の枠組みを止めて、「農業は、生命をはぐくむ基盤産業であり、持続可能な社会づくりの柱に据える」という考え方に立って、「日本のCoGAP」を示し、そのために必要な法規制や業界のルールを作っていくことが必要です。

 GAPを単なる手法としてではなく、思想として息づかせれば、世界のGAPステージでの2周遅れが、そこから世界のトップランナーになる可能性もあるのではないでしょうか。そのためには、日本の農業生産者が環境パフォーマンスの改善に関与できる統合された農業環境政策の枠組みを作る必要があります。

 日本の美しい景観は、健全な農業が各地で営まれていて達成されるものであることを、もう一度心に留めたいと思います。

参考資料

  1. 田上隆一:「GAP導入」GAP普及センター,幸書房,2009
  2. 田上隆一:「日本と欧州のGAP比較とGAPの意味」 GAP普及ニュース32号から連載22回完、2013
  3. 農林水産省:「みどりの食料システム戦略」みどりの食料システム戦略本部,2020
  4. OECD:「OECD政策レビュー・日本農業のイノベーション」大成出版社,2019

2021/1


2020年度 GAPシンポジウム
『GAP普及で生産力向上と持続性を両立させる』

 全世界で新型コロナウィルス感染症の流行に見舞われた昨年のGAPシンポジウムは、残念ながら中止せざるを得ませんでした。今年2月のGAPシンポジウムは、感染予防および新たなスタンダードへの対応を踏まえ、オンラインのみで開催することとなりました。日本に相応しい適正農業管理を規定する『日本GAP規範』を策定し、正しいGAPの理解と実践を普及することを目的として2010年2月に当協会を設立してから10年の節目に、改めて持続可能な農業、環境対応型農業の発展について向き合い、次の10年に向けての提言の機会としたいと思います。

【開催概要】
日 時:2021年2月8日(月) 受付9:00~開始9:30~17:00
会 場:オンライン(zoomミーティングルーム)
参加費:主催・共催の会員・後援団体の職員:\5,000、一般:\7,500、学生: \1,000
主 催:一般社団法人日本生産者GAP協会
共 催:農業情報学会、一般社団法人GAP普及推進機構、特定非営利活動法人経済人コー円卓会議日本委員会
事務局:一般社団法人日本生産者GAP協会 教育・広報委員会、株式会社AGIC大会事務局
H  P:https://www.fagap.or.jp/seminarsymposium/sym202102/
9:00~9:30 受付(入室)
9:30~ 9:45 開会・オリエンテーション
9:45~10:45 講演「生産者と消費者の信頼を繋ぐ架け橋(仮)」田上隆一
10:45~11:00 休憩
11:00~12:00 基調講演「GAP義務化による日本の食糧・環境問題の改善への提言」石谷孝佑
12:00~13:00 昼休憩
13:00~14:00 講演「持続可能性とイノベーション(仮)」二宮正士
14:00~14:15 休憩
14:15~15:00 「GAPオンラインントレーニングについて(仮)」田上隆多
15:00~15:45 「農場・農産物取扱施設における衛生管理(仮)」田上隆一
15:45~16:00 休憩・質問受付(フォーム)
16:00~17:00 質疑応答
17:00 閉会

2021/1


2020年度セミナー・シンポジウムの予定

 2020年度の各種セミナー・トレーニング・シンポジウムも残りわずかになりました。グリーンハーベスター(GH)農場評価制度では、GAPの理解と普及のための教育システムとして、農業者、農業指導員等によるGAPの自主管理を推奨しています。

2021年 2021年1月29日(金)
『GH評価員試験』
場 所:AGIC会議室(茨城県つくば市松代3-4-3)
定 員:午前3名/午後4名、受験料:31,000円(税込)
2021年 2月8日(月)
『GAPシンポジウム』 ウェブ開催
会 場:オンライン(zoomミーティングルーム)
参加料:主催・共催団体会員 5,000円
:一般 7,500円、学生 1,000円

全てウェブ参加になっています。是非ウェブ環境にして頂き、遠距離でも参加頂けるメリットを活用下さい。

2021/1


GH農場評価に関する質問と回答

田上隆多 株式会社AGIC 事業部長

【質問】

 弊社AGICの講師が普及指導員のためのGAP農場評価トレーニングを行っている際中、受講者から作物残渣の処理について質問を貰いました。

 弊社では、『日本GAP規範』に基づいて指導・助言をしており、残渣の処理についても「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、『廃掃法』という)」や関連する省令・条例等に準じて判断し、圃場に漉き込むのであれば問題はないが、残渣を単に埋却することは違法とされる可能性が高いので、市町村に連絡するよう説明しています。今回受講された普及指導員の方からは「鳥獣害対策として野生生物などが農場内に侵入することを防ぐために残渣は地中に埋めるように指導している。我々は違法行為を指導していたことになるのか」との質問を受けました。この時の研修でモデル農場として模擬評価を受けていただいた農場の方からも「ASIAGAPの認証審査を受けた際、審査員から残渣は埋めて下さいとの助言があり、埋めることにした」という話題もあったそうです。

 現在、法令等の改正を踏まえ『日本GAP規範』の改定を進めていることもあり、本件についても再度所轄官庁等に確認することにしました。


【回答】

 まずは、『廃掃法』の所管である環境省へ問い合わせました。

<環境省 廃棄物適正処理推進課>からの回答

 廃掃法の第6条で細かい取決めは各市町村で行うように決められているので、管轄の市町村に問い合わせて下さい。事業者である農家が排出する植物残渣を「一般廃棄物」と定義するか、または「肥料」として捉えるかは市町村の判断に委ねられている。「一般廃棄物」に当たる場合には、処分センターへの持込みが原則となる。

 上記の回答を受けて、弊社所在地である茨城県つくば市に問い合わせました。

<つくば市役所 環境衛生課>からの回答

 事業者である農家が排出する植物残渣について、自分の圃場に堆積したり、畑に散布して漉き込んだりすること等により圃場還元するのであれば、一般廃棄物ではなく肥料として捉えられる(合法である)。一方、穴を掘って埋めて土をかける(埋設)のような行為の場合、『廃掃法』に抵触する(違法である)。(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令第14条にある焼却禁止の例外となる廃棄物の焼却には)周辺の野生動物からの被害は考慮されない。

 念のため、農林水産省 鳥獣対策・農村環境課へ、農場における植物残渣の取扱いに関して、鳥獣対策の側面から植物残渣の埋設を容認できる『廃掃法』の解釈の余地はあるか問い合わせました。

<農林水産省 鳥獣対策・農村環境課>からの回答

 (鳥獣害被害の現場の)気持ちは分かるが、そのような解釈の余地はない。

 また、GAP推進という観点から、農林水産省 環境対策課にも問い合わせました。

<農林水産省 農業環境対策課>からの回答

 GAP全般の統括は農林水産省で行っているが、ガイドライン等も含めて管轄各省間で調整しており、個別の法律解釈の判断については管轄をする省に任せている。(環境省とつくば市に確認した結果については)その通りでよろしいかと思う。現場指導としても「まずは市町村等に問い合わせてみて下さい」としか言うことはできない。

 各官庁等から回答いただいた通り、作物の残渣処理に関する法令等の変更はなく、農場へはこれまで通り、「一般論としては、堆肥化利用や漉込み等による圃場還元は合法、土をかぶせて埋める行為は違法となることが多いと思われるが、個別具体的には、都道府県や市町村に確認すること」と指導・助言するのが妥当であることが確認できました。

 都道府県の普及指導は栽培技術等が中心となると思いますが、こういった法令を考慮した上で指導内容を策定したり、自治体と検討をしたりしなければならないということも認識する必要があります。また、これは市町村等の規定や解釈にもよりますので、茨城県つくば市では鳥獣害は考慮しないとのことでしたが、予め都道府県と市町村で解釈や運用について協議を持つように働きかける法もあるのではないかと思います。

2021/1


農薬残留調査から見つかった農薬の不適正使用

小池英彦 日本生産者GAP協会理事

 農林水産省が公表した「国内農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査の結果について(平成30年)」では、不適正使用のあった農家数は「1」となっている。農産物476検体のうち、食品衛生法に基づく残留基準値超過が見つかった2例のうちの一つである。「こまつな」で殺虫剤成分のダイアジノン(基準値0.1mg/kg)が0.5mg/kg検出されたという事例で、当該「こまつな」の栽培農家を調査したところ、「使用量を正確に計量しないで使用した」とのことで、「使用基準より多く使用していたこと」が原因である可能性があると考えられている。「こまつな」に対するダイアジノンの適用は、粒剤5の6kg/10aを、播種時に全面土壌混和するか出芽時に土壌表面散布する等になっているが、いったいどのくらいの量を使ったのだろうか?

 厚生労働省の食品安全委員会、農薬・動物用医薬品部会の資料(文献)にダイアジノンの作物残留試験一覧表(国内)が記載されており、そのごく一部を抜き出したのが下の表である。

 これによると、「こまつな」に対して、適用量を土壌表面散布した場合の、この試験下での最大残留濃度は0.01mg/kg、全面土壌混和した場合のそれは0.027mg/kgであった。品目が違うが、「みずな」の試験では、適用の2倍量を土壌表面に散布する事例があり、適用量施用の場合と単純に比較すると2?5.4倍の残留量となっており、「こまつな」に2倍量の土壌表面散布をした場合、適用量施用の6倍位の残留量になると見積もっても0.162mg/kg程度と想定されるので、残留量0.5mg/kgともなると3倍量(18kg/10a)の散布量が必要となる。したがって、少なくとも、播種時の全面土壌混和や、出芽時の土壌表面散布で、使用量のうっかりミスは、農薬取締法違反には該当すると思われるが、農薬残留基準値を超過した原因と断定できるかどうかは、何となく疑問が残る。

 ここでいう農薬の不適正使用とは、「誤った作物への使用」、「誤った使用量または希釈倍数で使用」、「誤った時期に使用」、「誤った回数で使用」などで、いずれも農薬残留基準を超過する原因になりそうな行為である。また、これら行為には「3年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金」の罰則がある。ちなみに、上記の「こまつな」の事例では、当該農家は行政庁から「農薬の適正使用の徹底を図る」よう指導を受けたとのことであり、罰則がかけられたかどうかは不明である。

 そもそも、農薬の不適正使用が農薬残留基準値の超過に繋がる事例はかなり限定的と思われ、数字として上がってこない農薬の不適正使用は、うっかりミスが殆どと思われるが、少なからず存在しているようだ。しかも、生鮮農作物の農薬残留基準値の超過による回収事例では、その殆どが「食べても健康に影響はない」とのコメント付きであり、農薬残留基準値超過の事例から遡って明らかとなった農薬の不適正使用に対する罰則適用は、重大な故意や健康に重篤な被害を及ぼすような残留量となるような事件でなければ馴染まないと思う。実際に罰則が適用された事例はこれまでのところ聞いたことがない。 農薬の不適正使用をしないことはGAPであり、「農薬のラベル表示以外の行為をしない」ことがGAP認証では農薬の適正使用に対する適合基準になっている。しかし、こと農薬使用についてはプロセスチェックだけでは不充分なようで、出荷前の抜取り検査的な農薬残留検査の実施が求められることがある。

参考文献

  1.  https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000543334.pdf

2021/1


農家から見る農林水産省の対応
~コロナ下で農家はだまされ続けている?~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者 GAP 協会理事
株式会社 Citrus 代表取締役

 昨年(令和2年)の夏、地元の有田川町役場が「高収益作物次期作支援交付金」申請の説明会が、場所を変え、時間を変えて数回行われ、多くのみかん栽培農家が参加した。当初の案内では、「2020年2月から4月にかけて販売した農産物のある農家が対象」というので、我が社Citrusも対象となり、説明会に出席した。そこでの説明では、「栽培している果樹園(みかん、八朔、不知火、せとか)の10アール当たり、有田川町の場合は55000円が交付される」とのことであり、少し疑問に感じたので、次のような質問をした。「コロナ下で販売した作物は八朔、不知火、せとかの3品目であるが、事業の対象は栽培するみかんを含む全ての果樹園ですか?」と。すると回答は「ハイ、そうです。理由は、コロナ下においても栽培している果樹園を、これからもしっかり管理して下さい。そのために機械化体系の導入、品種の導入、肥料・農薬の購入、かん水装置の導入、土壌改良・排水対策の実施など、農地保全を持続的に行っていくための経費です」と説明された。これを聞いて、農林水産省は「農地を保全している農家に対して直接支払いをしてくれるのだ」と感激し、早速申し込みを決意した。

朝日新聞デジタル

 申請の対象農地は「自作地・借地」とあり、「借地の場合は利用権設定明細書添付」とあった。私の場合は、私個人が所有する農地の一部が、経営する会社と利用権設定の出来てないところがあったので、その手続きを済ませてから申込みをした。聞くところによると、多くの農家にいわゆる闇小作農地があったようなので、この機会に私同様に、利用権設定申請をしたようであった。役場もそれを見越して、本事業の申請受付を2ヵ月間継続して10月15日締切りとしていた。

 ところが締切り直前の10月12日に、本事業の見直しが農林水産省から発表され、次期作への支援ではなく、ただの「コロナ損害補償」となった(詳細は省く)。農家にとっては大きな期待外れになってしまった。その翌週に農水省から「直接皆さんとお会いして説明をする」との案内がきた。その説明会が有田川町で行われたのが10月28日と29日であった。私は初日に参加したが、内容は新聞発表と変わりがなく、2月から4月まで販売した農産物の品目で、前年の同時期に比べて減額した作物のみが対象となり、10アール当たり果樹園で55000円の交付の話は消え、減額した金額のみになった。また、「減額率は20%以上」と見直し時点で言われていたが、説明会では「20%以上の減額があった農家から順次交付する」とし、20%未満の農家も対象になると変更されていた。この説明に近畿農政局の遠藤順也次長が来た。いままで局次長が農家に謝罪に来ることは経験がなかった。この時配られた資料に「この説明により再申請するか辞退するか」の意思決定のアンケートが挿入されていたのには驚いた。説明会場では、農家の質問や不満に対し、「全て農林水産省に責任があり、見直しにご理解下さい」と誤るばかりであり、何の代替え案も示さず帰ってしまった。

 しかし、再度驚いたのは、10月30日に農水省は「農家からの要望があり、10月30日までに次期作に投資した金額を対象に再申請を受け付ける」と発表したのである。交付決定を待たずに事前着工(投資)した農家を対象に、「その金額の受け付ける」というのである。これには驚いた。その発表を知ったのは、有田川町では10月31日の日本農業新聞か朝日新聞の記事を見た農家のみであり、これについての役場からの通知はなかった。31日は土曜日であり、役場はお休みのため、週明けに役場問い合わせたところ、役場にもその情報は入っていないとのことであり、情報は混乱していた。ここから先は未確認情報であるが、この話を聞きつけた一部の農家は、遡って30日までに機器や肥料・農薬の購入手続きをしたとのことである。私は、減額の金額を計算したところ、16000円の減額であり、当初申請した時は160万円の交付を受けられるはずだったのだが、「辞退をする」とアンケートに答え、既に提出済みであった。ところが、さらにさらに対応が変わったのである。

 初2月から4月の販売金額が対象とされていたが、ここにきて6月までの販売金額も対象とされた農家も現れた。また、肥料・農薬も前年に対して増額となった部分の新たな肥料・農薬の購入金額も対象となった。そのことを知った農家の間で話題となり、10月30日までに購入した新たな投資額を再計算して申請した農家も出来きたというのである。この見直しの見直しにより、農家と農水省のもめ事に加え、農家間でのもめ事が加わった感がする。一言で言うと、声を大にしてルール違反をした「早いもの勝ち」と受け取れる施策となってしまったように感じられる。これが「責任がある」と答えた農水省の責任の取り方なのであろうか、甚だ疑問に思う。責任をとるのなら、今後、当初の計画通り直接払いを行う予算として3000億円程度の予算化をすべきであると思う。

 これに加え、もっと将来のビジョンについて「本当なのか?」と思うことがある。農林水産物を2030年までに5兆円の輸出を目指し、「1億人(の日本)を対象とせず、100億人(の世界)を対象とした農林水産省」とした資料を目にした。「え!?」である。日本の現況を見据えているのかと疑問に思ってしまう。「昨年は9121億円が輸出された」と発表されているが、輸出の大半は日本酒、ウイスキーなどの加工食品であり、青果物の輸出は僅か297億円である。これが2030年には1700億円となると推測しているが、しかし、これまでも青果物の輸出は伸び悩んでいる。柑橘類の青果の輸出は殆ど実績にないことから、2030年目標にみかんを生産する農家としては期待が出来ない。トヨタ自動車のような販売網を自社で世界各国に設けていれば別だが、個々の農家にはそのような力量をもっている人は少ない、JAも輸出は考えていないように思う。

 産物輸出では、農水省にどのような構想があっての話なのか、真意を問いたい。また、農林水産物の輸出を見据えたGAP認証を推進し、GAPが輸出目的の認証事業に置き換えられてしまうような不信感が高まった。今年、我が社の「農の雇用事業」の取組みに際し、「GH農場評価」を行ってGAPに取り組んでいると全国農業会議所に「GH評価表」を提出して説明をしたところ、帰ってきた回答は、GAPに取り組んでいるというのはJGAPかGGAPの認証であるということで、「貴社はGAPに取り組んでいるとは認められない」といってきた。全国農業会議所(農水省)は、GAPとは「GAP認証をとることでしか認められない」としていることに対しても、大いに不信感を募らせている。

 そもそも農水省が現在進めているGAP認証は、小売業が農産物を仕入れるか仕入れないかを決める民間機関の行っているJGAP やGGAPのような農場認証であり、環境に優しい持続的農業を目指した本物のGAP「適正農業管理」ではない。農水省の関係組織も、残念ながらこのことをほとんど理解していない。もっと「本来のGAP」のことを理解して欲しいものである。

2021/1


株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載39回)
~廃園救済に限界を感じ始めた~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 今期2020年産の温州みかんの収穫が始まった10月から12月の間に、急遽「今後の園地管理を頼む」と依頼が入った。テレビや新聞に弊社の取組みが取り上げられたことによる問合せである。「新規就農予定者に管理して貰えないか」という話である。

 早速、社員を引率して園地の調査を行ったが、社員は首を縦に振らなかった。理由は、品種、樹齢などの他、日当たりなどの立地条件が良くない園であったからである。園主が昨年お亡くなりになり、娘さんが管理をしていたが、その娘さんも病気で夏から園地の管理ができず、収穫作業も無理という。管理者に申し訳ないが、夏からの基本管理ができていないことから、商品率が悪く、普通ならお断りするところであるが、近所でもあり、今シーズンのみの収穫作業を実施した。正直赤字である。

 また、友人でもある専業農家から、12月に命に関わる手術を受けるので、みかんの収穫作業が出来なくなったとの相談が入った。社員を引率して判断を仰いだ。社員は、「ここなら立地条件は良い」と判断したのか、「収穫作業を行っても良い」と首を縦に振った。しかし、経営者の私としては「労力は大丈夫か」と躊躇した。いきなり60アールのみかん園の収穫作業が追加されることになる。「今期のみの収穫を請け負う」と返事をしたものの、それでは園主が加入している出荷組織から「ルール違反である」との指摘を受け、「農地を借り受けたことにしてくれ」との要望がきた。理由を聞くと、商品の全量出荷違反となり、それ以降の晩柑類の取扱いも出来なくなると言う。これを聞いて、「なんと無責任な出荷組織なのだ」と感じ、「これが現在のJA組織の実態なのか」と驚いた。組合員の緊急事態をもフォローできないJAの現状である。それだけ現場の労働力不足の深刻さを物語っている。一昔前なら助け合って苦境を切り抜けたのだろうが、今はどこも余裕がない。それで弊社へ依頼となったのである。

 弊社は、収穫作業のローテンションを変更し、そのみかん園の収穫作業に入った。当日、園主から「12月中に夫婦で入院が必要」と言われ、みかん栽培を担当していた奥さんから「今後も管理をお願いしたい」との申し出があり、その場でOKをした。現状においても、2021年3月に新規就農する社員を抱え、また、次年度の新規採用が決まらない中で、経営規模簿の縮小を迫られていた矢先の出来事である。現在、弊社で勤務している社員や研修生は、来年、また2年後に新規就農を予定しているメンバーが4名いて、立地条件の良い園はできるだけ確保しておく必要があり、無理して引き受けることに決めた。


 一方、新規就農の予定者に、現在弊社が管理している園で「管理を引き継いでも良い園があるか」と尋ねたところ、管理の希望がない園が幾つか見えてきた。会社を設立した当初は、園地の確保を優先したため、紹介のあった園をすべて確保した。しかし、ここにきて、いろいろな問題点が浮き彫りになり、引き受けに困っている園がある。今シーズンが、利用権を継続するかどうかの判断時期であるように感じている。それに、定年後に新規就農した私も、そろそろ遊休農地の救済に限界を感じ始めている。また、病気や年齢から、体力に自信がなくなってきたのである。

 そんな中でも、毎年、管理の依頼が入る。多くの園地が、必ずしも立地条件が良くないことから、断り続けてきたが、ここにきて、その多くが廃園になっても無理はないことに気づき始めた。その理由は、30年前の1990年に比べ、2015年の農業センサスでは、和歌山県の農家戸数は38000戸で、おおよそ半分になり、2020年のセンサスでは3万戸程度になると予想される。農家がいなくなるのである。さらに、これからの10年は、減少スピードがさらに加速するであろう。農水省のいうスマート農業で、これら全ての労力不足をカバー出来るとは考えにくい。スマート農業の技術進歩は続くと思うが、高価な機器を導入して採算がとれるかは、現在の農産物価格の決定の仕組みでは無理があり、夢があっても新規就農者の増加を望めない。今、Iターンにより新規参入した農家の大半は、立地条件の悪い農地を紹介されており、農業所得が100万円以下だという普及指導員の情報もある。


 弊社の管理するみかん園にも、モノレール運搬機械、スプリンクラー施設があり、進入路が狭く軽4輪しか入れず、加えて急傾斜地で、獣害が多発するなど、立地の良くない園を8年間も無理しながら管理してきたが、引き継いでくれる就農予定者がいないことから、2021年に利用権を放棄する予定である。お亡くなりなった園主の相続人や、周辺地域の農家に非難されることを覚悟での決断である。これまで弊社では、親元で就農した社員ばかりであったが、ここにきて新規参入する社員や研修生であることから、今後は借り受けてもコストのかからない優良な園地でないと、新規就農者への土地の紹介はできないと考えている。一般道の整備なら住民負担はないが、農道の改修工事には管理農地周辺の農家が負担するという責任がつきまとう。これではとても新規参入者には進められないだろう。耕作放棄を食い止めるためには、これらに関わる経費を新規参入者に負わせない政策が必要と考える。

 このような農業経営の実態を、本誌を発行している「日本生産者GAP協会」の小池英彦理事(長野県職員)が尋ねてくれた。みかんの収穫作業体験してもらいながら、これらの実情を語り合った。小池理事は長野県でりんご栽培農家の指導に当たっており、果樹栽培についての問題点を共有できた。


 最後に、話題の提供としてお知らせしたいことがある。2020年10月に、和歌山県農林大学校がGLOBALGAPを取得した。GGAPの所得に至るまでには、おおよそ10年間継続されてきたGAP教育の成果と私は言いたい。というのは、私が農林大学校に勤務していたときに、田上理事長の指導のもとGAPを履修教科に取り入れた。この教科指導の継続が難しい時期もあったと伺っていたが、今回担当した鳴川先生と前田校長がスクラム組んで、AGICの指導のもと、見事に認証を受けることができた。担当した鳴川勝先生は「農林大学校にきて実際にGAPに取り組むのは初めてであり、まさかのコロナ感染の症拡大で、スケジュール的にもかなりタイトな中で、事務を進めながら自分自身のスキルも高め、コンサル会社(AGIC)とともに学生に対してGAPの必要性や取り組む姿勢を教え、実際に行動に移す仕組みを考えたり、学生には認証審査という目標を設定したり、自分達が主になって取り組むものであることを認識させ、士気を高めていくことには苦労した」と語っていた。また、学生の感想は「今まで当たり前だったことが、GAPへの取組みでリスクに気づけるようになった。現場が綺麗になり、使い勝手も良くなった。卒業後には活かしていきたい」と延べ、さらに「農林大学校としては、学生教育の1つとしてGAPを取り入れ、実践することで世界に通用する農業を学生が身につけて、卒業後はそれぞれが地域のリーダーとして活躍して欲しい。このようなことから実際の取組みを開始しました」と職員の方からマスコミを通じで発表があった。立派なコメントと感激したので報告する。

2021/1


GAP・GH関連用語の解説《CAP(EU共通農業政策)》

 日本生産者GAP協会 出版委員会

 共通農業政策(CAP)は、欧州経済共同体(ECC)で、農業分野の関税同盟と共同市場を作るために、加盟国の農業政策を統一化することを目的として、1962年に導入された。

 特に農業分野においては、①農業生産が天候や地理的条件に左右されやすいこと、②農産物市場の不安定なことなどを踏まえ、EU域内への充分な食糧の供給と農業者に対する公正な所得水準の確保を実現することを目指した。

  CAPは、EU (欧州連合) における農業補助に関する制度や計画を扱う政策であり、英語表記の Common Agricultural Policy の頭文字をとって CAP と表記される。共通農業政策にあてられるEUの予算は、2018年度で490億ユーロとなっており、この額は全体の約37%を占めている。

  CAPでは、生産高や耕地に対する補助金の直接支払いと、価格維持メカニズムが組み合わされており、農作物の最低価格の保証、域外からの特定農業物・製品に対する関税支払いや輸入制限も行っている。補助金制度の内容については現在も改革が進められており、農家に支払われる補助金については、生産高に基づく支給から、農地の管理に基準を置く方式へと段階的に移行している。2013年には、農業の公共財としての役割を強化する観点などから見直しが行われている。

  制度の細かい部分は加盟国ごとに違いがあり、直接支払いにあたっては以下の要件を満たすことが求められる。

・対象農地において「環境に対する適正な状態」が維持されていること。
・環境に積極的に寄与するような農地運営を実施していること。
・経営の多角化や生産者組合を設立するなどの農村部の発展に貢献していること。

  CAPの目的は、農家に対しては適切な生活水準を提供し、消費者に対しては適正な価格で良質な農産物・食品を提供することと、農業という文化的遺産を保護することである。

2021/1