-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 62号

《巻頭言》
『石の上にも3年』
~グリーンハーベスター農場評価で見るGAPのレベルアップ~

山田正美 一般社団法人日本生産者GAP協会 常務理事

 この原稿を書いている2020年の3月19日段階では、新型コロナウィルスの感染がヨーロッパやアメリカで急速に広がっており、収束の見通しが立っていません。このため国境閉鎖や外出禁止令を出す国も出ているほどです。日本は欧米諸国より一足早く感染が始まりましたが、学校の休校やイベントの自粛などが功を奏し、感染の広がりは緩慢になっているように見えます。こうした中、東京オリンピックを開催できるのかどうかが大きな話題となっています。

 ここで、この後の理解を深めるために、言葉の意味を示しておきます。

  GAPとは、持続的な農業を実現するための適正な農業管理の行為を示すものです。農林水産省の 「GAPをする」というのはGAPそのものを意味しています。

  BAPとは、上記GAPに至るために改善を要する「良くない行為」をいいます。 GH農場評価制度は、正式にはグリーンハーベスター農場評価制度といいます。環境保全と食品安全、労働安全などを目指した持続的な農場経営と産地育成のためのGAP 教育システムです。農場のGAP評価は、それぞれの評価項目を原則として5段階で示し、改善を要するBAPの点数を合計し、1000点の持ち点から差し引いた点数をGH農場評価の総合得点として示すもので、農場のGAPレベルの目安にすることができます。

  農場認証(FA)とは、量販店等が、自分達の販売する農産物に対して付加価値を付けるため、「食の安全・安心」や「環境配慮」などの取組みを行っている農場を、販売者が定める認証規準に従って行う農場認証のことです。非営利組織フードプラス(本部ドイツ)が行うGLOBALG.A.P.やイギリスの巨大スーパーのTescoが行う Nature's Choice、日本の非営利組織が行うJGAPなどが農場認証の事例としてよく知られています。農林水産省の「GAP認証をとる」というのは農場認証を取るということを意味していますが、そもそも「GAP認証」という言葉は日本でしか通用しない言葉です(GAP普及ニュース第61号p8~9「GAPの本質と世界の潮流に触れたスペイン・アルメリア視察」)。

  さて、3年前の2017年の春に遡りますが、「サステイナブル」(持続性)を前面に出した東京オリンピックで使用する食材が農場認証を受けた農場からの供給であることが条件となり、農林水産省は急遽「農場認証」を取得した農家数を2020年までの3年間に3倍にするという計画を立てて推進してきました。そのことによりGAPという言葉がマスコミの話題に上ることも多くなり、多くの国民にGAP(持続的農業実践)というものを知っていただく良い機会になったと思っていますが、実はここのGAPは「農場認証」という意味なのです。

  今年はそのオリンピック・イヤーなのですが、現状ではオリンピックそのものが1年延期されるという事態になっています。

  農林水産省は東京オリンピックの食材供給に関連した農場認証取得の推進とは別に、『2030年までに国際水準のGAPがほぼ全ての産地で行われていること』という目標も掲げています。これは必ずしも農場認証を取らなければならないということではなく、ほぼ全ての産地で国際水準のGAPに取り組んでいるという状態になることを指していると思われます。こちらの方は一部の先進的農家だけでなく、ほぼ全ての農家に関係してくるので、農家に対する影響は桁違いに大きいと言えます。

  これからはGAPに興味のある先進的農家だけではなく、大多数の普通の農家も国際水準GAPに取り組んでいる状態にならなければならないことを示しています。

  私はこれまで福井県や福井県農業会議の依頼を受けて、主に初めてGAPに取り組む農家を対象にGH農場評価を数十件行ってきました。その結果、GAPの視点から改善すべき事項の共通の傾向が見えてきています(GAP普及ニュース53号の巻頭言参照)。

  今回はGAPに複数年取り組んでいる農業法人の1年目、2年目、3年目、4年目と年を経るごとに、どのように改善が進んでいくのかをGH農場評価の総合得点と改善を要するBAPの点数でまとめてみました。

  初めてGH農場評価を受けると、1年目の評価点数は大体400点台となります。この例の平均では485点となっています。この点数は1000点満点から改善を要する項目(BAP)の点数を差し引いで計算していますので、大切なのは改善すべきBAPの点数515点ということになります。2年目になると評価点数が634点と約150点向上します。このことは改善すべきBAPの項目が150点分改善されたということを意味します。3年目になると評価点数が730点(BAP270点)、4年目には810点(BAP190点)となり、3年間改善を続ければ、かなり高いGAPレベルに達することになります。このレベルになりますと、農場認証の取得も現実的になってきます。

  個別の評価点数の変化(折れ線グラフ)を見ていくと、1年目に450点の農家が2年目にはいきなり800点になり、3年目は900点となっている農家もあります。この農家は経営主も従業員も積極的にGAPに取り組んだ農家でした。また、この図の中では1例のみですが、2年目から3年目にかけて評価点数が下がっている農家も見られます。仕事の忙しさでGAP対策にかまっていられなかったということも考えられます。

  いずれにしても、3年間改善の努力をしていただければ、かなりのGAPレベルに達することはこれまでのGH農場評価を実施してきた経験から申し上げることができます。こうした経験を踏まえ、GH農場評価制度を利用したGAP実践レベルの向上のイメージは以下の図のようになると考えてい ます。

  私の経験から、GAPに取り組むように勧めると、多くの人は「評価点数の結果が低いと格好が悪い」とか、「GAPは金がかかるし面倒だ」とか思っている人が多く、すんなり始めてくれる人が少ないのも現実です。私は「どうせやるなら早い内に恥をかいて、必要なところには投資をして改善した方が、後から恥をかかなくて済みますよ」ということを申し上げています。

  『石の上にも3年』という諺を頭に入れて、GH農場評価を受け、GAPの評価レベルの向上に取り組んで見られてはいかがでしょうか。

2020/3


日本のGAP 全てはここから始まった 《連載第3回》
EUREPGAP農場保証制度の戦略
-小売業界のコスト圧縮ビジネスモデル-

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

GAP認証(農場保証)のターニングポイント2005年1月1日

 2002年7月にイギリスの果実卸売会社エンパイヤ・ワールド・トレード(EWT)社から片山林檎に届いた一通のEメールは、2005年1月1日以降、欧州の多数のスーパーマーケットと小売業者によって作られたEUREPGAP農場認証(Farm Assurance)制度による農場管理基準書に従っていなければ、取引を中止するという警告でした。

 新たな基準書は、欧州の小売業界のコストの圧縮と業務の合理化を目指したものであり、1990年代からスーパー各社が個別に実施していた農場認証のための農場管理基準書から共通する項目を取り出して作成された「全ての農業者が従うべき最低限度の基準」でした。

 この制度のもう一つの大きな特徴は、これまで買手側が負担していた「農場審査」の費用を、審査を受ける農業者や農協などが負担することになったことです。それ以前の農場認証制度は、農産物の買い手であるスーパーマーケットや卸売会社が、自社が取り扱う農産物の健全性(生産段階の環境保全や食品安全の確保等)を確認し、消費者からの信頼を得るために行うものでしたから、その費用は当然に買手側が負担するものでしたが、2005年を境に売手側に審査費用を負担させる「新しい認証ビジネスモデル」として登場したのです。

 そのEUREPGAP農場認証制度は、2007年に「GLOBALG.A.P.農場認証制度」と名称を変更し、現在では世界で最も多く利用され、その他の国や地方の基準書のモデルにもなっています。欧州の農産物小売業界が2005年1月1日を期限に農場審査基準の統一に踏み切った理由として次の二つの原因が考えられます。

2005年にクロス・コンプライアンスが開始された

 理由の第一は、欧州共同体EC(1993年よりEU)の共通農業政策(CAP)です。1991年に公布された「硝酸塩指令(91/676/EEC)」と「植物保護指令(91/414/EEC)」は、1992年の「直接支払い」の導入による農産物価格支持政策から農業環境政策への移行と相まって、欧州の農業振興政策を「持続可能性を考慮した農業生産活動(Good Agricultural Practice:GAP)」へ大きく舵を切りました。これは、ガットウルグアイラウンド農産物交渉におけるEUの戦略であったと言われています。先進諸国では農業者への所得補償なしには自国の農業を守ることは難しくなっています。しかし、自由貿易を目指すグローバル社会では、関税や補助金による自国農業の保護は許されないことから、CAPでは国等が公に定めた「GAP規範」の遵守を奨励あるいは義務化することで農業者への補助金を支払う農業環境政策へと移行したのです。

 2000年には「水枠組み指令(2000/60/EC)」、2003年には農産物の生産量と切り離す「デカップリング」という補助金政策を導入し、2005年には農場主に対する単一支払制度が、環境、公衆衛生、動物保護、景観の維持等についての規定を遵守するという条件で補助金を受け取る「クロス・コンプライアンス」となりました。農業者の所得補償を「持続可能な農地で天然資源の世話を日常の業務とする農民の利益を財政的に支援する直接支払い」と定義し、景観等の「市場価格では守られない公共財」の維持・管理として農業者の『GAP規範』の遵守を義務付けたのです。その意味でGAPの目的は「持続可能な農業の実践」というEU農業者の主体的な取組みになったのです。英国環境・食料・農村振興省は、「農業者はGAPを環境保全型農業の実践であると理解しており、補助金を得るために守らなければならないとの認識を持っている」と述べています。

 このクロス・コンプライアンスが2005年に開始されたことが、EUへの輸入農産物に対しても環境への配慮を要求し、EU農業と同一の条件にするという「非関税障壁」としての役割を果たすべくEUREPGAP農場保証制度の登場となったという見方です。

2004年に食品取扱事業者のHACCP等義務化が決まったから

 理由の第二は、牛海綿状脳症(BSE:狂牛病)の危機等への反省を踏まえ、「一般食品法規則(EC規則178/2002)」により、2004年にEUの一般食品法が成立したことです。全ての食品取扱事業者に適用される「一般食品衛生規則(852/2004)」と「動物起源食品特別衛生規則(853/ 2004)」「公的統制規則(882/2004)」「動物起源食品特別公的統制規則(854/2004)」という4つの包括的な衛生法のパッケージが定められました。この法規制の下に、農場を除く全ての食品取扱事業者はHACCP(危害分析重要管理点)原則などの自己監視プログラムの適用が義務付けられ、2006年に義務化されました。そして、輸入食品についてもEUの基準と同等以上の食品安全基準を遵守することが要求されることになったのです。

 HACCPなどの自己監視プログラムでは、自社内の衛生管理と同時に、仕入品の安全性を確認することも重要な要件ですから、仕入先である農産物のサプライヤーに対して、食品安全管理を含む農場管理基準書に従うことを求めたと考えられます。前出のEWT社のSCP(サプライヤーコードオブプラクティス)と比較して、EUREPGAP農場管理の基準書は、食品安全に関する要求事項が多くなっています。EUへの輸入農産物に、食品の安全確保を要求する項目が多い農場管理基準は、多くのスーパーに支持されました。

農場認証はGAPとHACCPの考え方に基づいている

 EUREPGAP農場認証制度では、「この農場管理基準書で要求する内容は、欧州の主要な小売業者が許容できる取引要件の最低限度を明らかにしたものである」と記されています。つまり、農場認証制度は、スーパーの仕入条件として行われている農場の信頼度検査であり、要求事項の内容も認証規格のレベルも系列によって様々な制度があり、法律上の問題がなければ行政は関わらないことになっています(*イギリス環境・食料・農村振興省)。

 スペインでも「認証は民間会社がやるもので行政は一切関わらない。認証のための公的補助金などはない」(*カタルーニャ州農畜水産食品省大臣)と言っています。また、EUREPGAP農場認証制度は農業者に要求される最低限の規則であり、実際にスーパーとの取引で要求される農場管理基準書は、環境保護や労働衛生など高度な要求(LEAF Marque、BioSUiSSE、GRASPなど)が多くなっています。

 最低限の規則として作られたEUREPGAP農場認証制度では「生産者、生産者団体、地方組織によって開発・改良され、環境に対する悪影響を最小化することを狙った農業システム(GAP)の進歩は大きく、EUREPGAP認証ではそれを推進する」と記述しています。そのために「統合病害虫管理(IPM)と統合作物管理(ICM)を認証の審査規準に組み込んだ」とも言っています。

 つまり、1990年代当初から行政府の指導によって農業者が取り組んできたGAP(適正農業規範を遵守することで環境汚染を起こさない農業)を要求するということです。

 また、農場を除く全ての食品取扱事業者のHACCP等の義務化から、スーパーが農業者による食品の安全を求めることも充分に理解できます。農場管理においては、厳密なHACCP管理が難しいことから、HACCPの考え方による食品衛生管理が農場認証の重要な要件となっています。

付記  GAPの概念を理解する最も効果的な欧州の硝酸塩指令は、自然環境を守るために過剰な窒素肥料の使用を罰則付きで禁止する法律ですが、日本の対応は「環境保全型農業のために化学肥料の投与を慣行栽培の半分にすれば特別栽培農産物と表示できる」という推奨制度がある程度です。また、欧州の植物保護指令は、農作物の病害虫防除や雑草対策などに関する法律であり、農業者の化学農薬使用に対する規制でもありますが、日本の農薬取締法の大改正が行われた2003年より12年も前に制定されています。

2020/4


HACCPの考え方に基づく農産物の衛生管理の制度化

田上隆多 株式会社AGIC 事業部長

 2018年6月の食品衛生法改正によって、全ての食品等事業者がHACCPシステムの義務化の対象になりました。施行は2020年6月1日からで、施行日から1年間は経過措置期間になります。 これによって、農産物を食品として取扱う事業者は全て、清潔で衛生的な食品の取扱いを行うことが法的にも求められることになりました。食品衛生法が規定する食品等事業者には、農産物を生産する農業者、農産物を取扱う生産者団体および集荷業者等も含まれています。

 JA等の生産者団体が、青果物の出荷前に、選果・選別等と一体的に実施する「皮剥き・洗浄・袋詰め・冷蔵処理・キュアリング・乾燥等の形状変化を伴わない農産物の出荷調製」については、届出が不要です。ただし、食品事業者として衛生的な食品の取扱いが必要であることから、生産者団体としての自主的な衛生管理が求められることになります。

 これらの動きの中でJAグループでは青果物の選果場・集出荷場などについて、一般衛生管理を中心とした現場の取組みを基本に自主的な衛生管理基準の導入を行うことになり、法律の施行後選果場・集出荷場などは、自主的な衛生管理基準に従って自己管理をすることになっています。

 届出が不要のHACCP制度化であり、自主的な衛生管理基準の導入を行うということですから、実施の内容としては、厚生労働省の「食品事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)」のⅡ「危害分析・重要管理点方式を用いずに衛生管理を行う場合の基準」(HACCPなしの一般衛生管理)に準拠するものと考えることができると思います。

 農業者にはこれまでもGAP(Good Agricultural Practice)が推奨され、特に農産物の取引においては、GAPの要素の一つである「農産物の安全性確保と食品衛生への取組」が推進されてきましたが、上記の法改正によりこれまで以上に「食品衛生管理」が重要になることは明らかです。

 一方、JA等の生産者団体に対しては、これまで生産者への農産物の安全性確保への指導方針(GAP普及)はあったものの、団体自身の食品等事業者としての食品衛生管理への取組に関する指導や規制などはありませんでした。食品衛生への取組みは生産者団体にとって当然のことですが、現実の多くのJA等では、生産者のGAPへの取組み以上に、自らの施設の衛生管理の"必要性の認識"に欠けていると思われます。

 この課題の解決に当たっては、単に"HACCPをする"ということではなく、組織のアイデンティティに関わる課題と考え、協同組合本来の事業のBPR(Business Process Reengineering)(*1用語解説参照)に取り組むことが必要です。

 JAは単なる農産物の集荷業者ではなく、販売する農産物を生産する農業者を自己の組織の中に抱え込んでいる共同体なのです。JAの選果場・集出荷場を、食品企業の「工場・倉庫」と位置づけ、農業者を農産物の「生産ライン」と位置付けてみると分かり易いと思います。そのような事業形態(ビジネスモデル)こそ、本来の協同組合の姿であるという考え方もあります。

 それ以上に、高度にグローバル化し、輸入農産物が圧倒的に多い日本の農産物ビジネスの中で輸入農産物との競争に打ち勝って、"生産者と消費者との信頼の懸け橋を築く"ためには、「安全・安心」はもちろんのこと、農業者とJA等生産者団体という農産物の生産段階の「トータルコストを圧縮」するなどの経営努力が必要です。

2020/4


アルメリア農協の総合戦略に学ぶ

斗澤 康広 十和田おいらせ農業協同組合常務理事
土壌診断分析研究会会長

【プロフィール】

 1978年旧十和田市農業協同組合に入組。2008年まで営農指導員として農家の現地指導、JA独自の農業技術センター(農業試験施設)、1994~1996年に上十三地域農業振興会情報課にて農業情報システム構築のため出向。1998年高性能土壌分析診断分析装置の導入に携わり、圃場毎の土壌診断分析による施肥設計で栽培管理技術を展開。2008年広域合併により現在の十和田おいらせ農業協同組合となってから2017年まで指導課長、やさい販売課長、指導やさい部長を歴任。この間「十和田おいらせミネラル野菜のブランド化とにんにくの加工品開発と商品化に携わる。定年1年を前に退職し、2018年より営農経済担当常務理事に就任、現在に至る。

 2019年11月17日~25日の日本生産者GAP協会主催「世界のGAP先進地視察研修ツアー」(9日間)に参加した。その地はスペインの東南地方にあるアルメリア地区を中心としたビニルハウス群が密集するEU域内に夏野菜輸出をメーンにしているアルメリア市とエレヒド市、グラナダ市を視察した。

 このツアーに参加した目的は、「なぜスペインのアルメリア地方はGLOBALG.A.P.認証が世界一普及し、EU域内の野菜輸出が拡大したのか?」研修を通じて理解したことは、農業の生産計画と生産現場、選果場、物流、マーケットとそれぞれの分野それぞれがIT、ICT、IoTを活用したシステムで連携して構築され、具体的な関係性と信用・信頼の中で運営されていた。

農業エンジニア;テクニコ(営農指導員)の育成と輩出
【アルメリア大学】

 会議に入る前に、大学側への挨拶を兼ねて、今回の研修目的と日本のこれまでの取組みについて、田上団長(日本生産者GAP協会理事長)が説明された。その内容は、『日本で2003年からEUREPGAP(GLOBALG.A.P.の前身)の取得に取り組んだ。日本でも認証自体は比較的容易に取れたが、農産物販売のために、地域全体、組織全体で取得するにはどうしたら良いか頭を悩ませていた。2008年にここアルメリア大学を訪問し、アンダルシア地域の農業者の教育について勉強した。農業政策人の育成、販売戦略についての説明を受け、農民の教育、農業資材管理の免許制度とテクニコの育成を学んだ。2007年にEUREPGAPがGLOBALG.A.P.に名前を改め、その後日本国内もそれなりにGLOBALG.A.P.認証を達成してきた。

 しかし、日本から欧州に輸出する実ビジネスがなく、実際にはあまり認証取得農家は増えていない。その中で10年が経過し、2020年東京でオリンピック、パラピンックが開催されることになり、日本農業が大きく変わらなければならないことを認識した。そんな中で、日本政府は認証取得を強力に推進しているが、そう簡単にいくものではないと進言している。私達は、政策と教育、それに農業ビジネス上の要請が重要であるとの認識から、日本を代表するメンバーが今回のツアーに参加している。今回は「政策の基本的考え方」「テクニコの教育」「農家への指導」などの「農業ビジネスの方向性」についてご教授願いたいと考えている。

アルメリア県農業の概況と教育カリキュラム

 アルメリア県の農業に関する研究に力を入れ、農家とコラボレーションした農業に関する研究を実施しており、その研究成果は農業のプロフェッショナルであるテクニコのノウハウとして情報共有している。そして数10年来テクニコを教育し、多数を排出している。

 アルメリア県の生産現場は、平均耕作面積2haで20,000人の生産者がいるが、企業的生産者は少ない。このキャンパスから10kmくらい離れたところに12haの生産・研究農場があり、キャンパス内にもハウスと研究所がある。新しい技術や最先端技術を活用しているが、これらの技術を簡単に利活用できるシステムとして提供している。生産モデルとしてマーケットに必要な認証に柔軟に対応できるシステムとなっている。講師陣には、元々農業エンジニアでテクニコ(営農指導員)としてフィールドで活躍していたメンバーもいる。アルメリア県の人口は180,000人でそのうち農業人口は75%(135,000人)である。

 生産物は、トマト、パプリカ、スイカ、メロン、ズッキーニ、ナス、インゲン豆などで30億?(3,600億円)の販売額がある。農業以外の資材、ハウス、散水装置の売上が現在20億?(2,400億円)あるが、将来は農産物の生産額よりも上回る見込みである。

 アルメリア大学では、農業エンジニアとして4年間就学するとテクニコの資格を習得できる。現在アルメリア県には1,300人のテクニコがおり、アルメリア大学の出身者が98%である。アルメリア大学を卒業すると、テクニコとして農協職員や公務員となるが、公務員になるためには国家試験をパスしなければならない。その就職率は100%である。その他2年間でマスター、3年間でドクターの資格を取得できることから、アルメリア県や南米、モロッコ(北アフリカ)、中国などから入学し、テクニコとして活躍している。志望の動機としては、家族が生産者で、その次男や三男が親の仕事を継ぐということでテクニコになっている人が多い。

そのカリキュラムの専門は4項目あり
1)農業のインフラ農地の道やハウスをどういう風に作るか、構造を研究する。
2)オリーブ、麦、小麦、ひまわり、家畜のスペシャリティー
3)園芸野菜栽培で、この大学では70%がこれに特化している。
4)加工品で、工場などでガスパッチョやトマトソース等を製造するカリキュラムもある。

 これらのカリキュラムの他に、徐々にではあるが、ビッグデータの活用、IT、デジタル化、農業政策も取り入れている。アルメリア大学は国立大学であるが、所有している12haの農場は大学50%農協50%が出資する財団が運営している。研究プログラムは農協が支援している。アルメリア県の農業の歴史は、1960年頃の最初からテクニコが関わっている。当時、スペインの農林水産省のテクニコがビニルハウスを利用して野菜栽培を始めた。その後、スペインがEUに加盟して生産量が増加し、アルメリア県ではEUに80%を輸出し、主として冬の時期に輸出している。

Q:アルメリア地区にどれくらいの農協があるのか?

A:農協(アグロコープ)、セリ市場を入れると200社以上あり、現状は多すぎると思っている。
大きいスーパーはリーデル、テスコ、カルフール等の5社であるが、その200社が売り込みをしている。そのため農協では、生産者は最低でもGLOBALG.A.P.認証をとらなければならない。セリ市場には、「認証をとらなくても高く買い取って貰えれば良い」という農家もある。世界中にGLOBALG.A.P.認証をとっている生産者は約200,000人いるが、アルメリアとムルシアで約20%の認証をとっている。アルメリア県では生産者の60%がGLOBALG.A.P.認証を取得している。農場認証(FA)にはGLOBALG.A.P.以外の認証もあり、INTEGRADA、UNE、NATURENE、LEFE、テスコのNATURES CHOICE等もあり、GLOBALG.A.P.は中でも最低限度(リミット)の農場認証で、他に農協やセリ市場などではBRCとIFS認証を取得している。

Q:なぜGLOBALG.A.P.認証が主流なのか?

A:スーパーチェーンから「認証がなければ買いませんよ」という圧力があり、認証を取得したことが大きい。その中でGLOBALG.A.P.が最低(リミット)の認証である。カリキュラムの中に2年間で取得するマスターというカリキュラムがあるが、農場認証の課程もある。

 バックグラウンドとしてスペインにはENACという認定機関があるが、現地で認証を行っているアグロコロールという認証機関と現地で13年間一緒に実施してきたし、認定機関のENACを検査する仕事もしてきた。テクニコは、通常、大卒の初任給1,000ユーロ(120,000円)であるが2,500ユーロ(300,000円)の給料であり、人気がある。モロッコや海外で生産技術指導して活躍している人はさらに高い給料を得ている。

連合会はロットの確保と安定供給による信頼関係によるマーケティング活動
【UNICA(連合会)】

 2009年に起業し、5農協で生産したものを販売するための戦略を樹立するために誕生した組織である。アルメリア、グラナダ地区の5農協が、さらにオーガニックでトマトを栽培するカスールという巨大企業のほか、ナトールスールという会社も合弁してオーガニックと普通栽培のトマトを栽培し、販売をしている。

 その中のUNICAフレッシュは販売業務を担当しており、さらに1910年に設立したスペイン全体のグループ「グルポAN」という大麦・小麦等を販売しているグループにも入り、2016年からグルポANのフレッシュな野菜も含め、ドイツを中心にEUに85%、EU以外には5%の割合で販売を展開している。

UNICAのオフィスがあるビル

 設立当初は5農協であったが、現在は16農協となり、最後に加盟した農協はコルドバのオレンジ、ニンニク、みかん、アルメリアで栽培されているピーマン、ズッキーニ、パプリカを販売している。

 UNICAフレッシュ、カスールが加盟したナトールスールなど各農協で重複する品目や、コーパマンのようにニンニク生産に特化した農協など、アルメリア県やスペイン全体で生産が実施されているものを販売している。

 この建物の2階のフロアがUNICAフレッシュの事務所で、各農協単位で営業するのではなくオレンジ、ニンニク、ズッキーニ等、ユーザーが欲しいものをUNICAフレッシュにまとめて発注する仕組みである。

 生産量も5農協で105,000tであったが、16農協で395,000t、2020年9月締めで520,000t 173%増を見込んでいる。品目別の順位は、 1位:パプリカ 2位:トマト  3位:きゅうり 4位:スイカ  5位:メロンであり、スイカ・メロンは春2ヵ月に集中するが、生産量は多い。3年後は1,000,000tを計画している。

 UNICAグループは組合員5,000人、面積9,000ha、選果場5,000人、事務所100名、農場で12,000人が働いている。アリーマーケットという業界雑誌があり、UNICAはこの地域トップの生産量を誇り、パッケージについては自社ブランドもあるが、ユーザーのOEMのパッケージも扱っている。

 UNICAは16農協で運営しているが、パートナーとして加盟していない農協のマイキュービーズ(小さいスナックキュウリ)はUNICAを通して販売している。また、ベルピーターというオーガニックで栽培したトマトはUNICAグループ、カーシー(単協)、ビオサボール(組合法人)の3社でブランド化して販売している。

 新しいプロジェクトを立ち上げ、火を通さずに生で食べられるようなズッキーニの開発やピストソースという様々な新鮮な野菜をパッケージにして、そのレシピをパッケージに印刷して家で火を通して調理して食べる商品なども開発している。近年EUの人達は共働きが多く、調理する時間がない家庭が増加しており、簡単な調理でできる商品化に取り組んでいる。

 コーパマン社は、ニンニクに特化した会社でラマンチャ地区にあり、面積は2,400haで栽培し紫ニンニクや黒ニンニクも開発し販売している。また、スナック系の野菜をパッケージにして通信販売、パプリカもプラスチック容器を外してオーブンにかけて調理する商品化も行っている。

 連合会のメリットは、生産量が増え、販売戦略を仕組みやすくなることである。1農家では生産量が200tしかないが、1農協になると生産量が20,000tになり、5つのコープが集まると生産量は105,000tと量が更に拡大する。

UNICAフレッシュのフロア

 そのほかUNICAでは、組織の福利厚生として農場経営者や選果場作業員の家族などを対象にワークショップやカヤック、登山などのレジャーなど、年に数回集まってイベントをしている。また、子供達用に新鮮なフルーツや野菜を提供して食べて貰うイベントや大きな食品店で世界一多いコールドスープ(ガスパッチョ)を9,800リットル作り、ギネスに登録したイベントなども開催した。また、UNICAは農家を一番大切にしているので、UNICAグループの農家をクローズアップしたPR動画を作成し、公開している。

 UNICAの農家の平均栽培面積(品目によって異なる。レタス等が多い)は2~3haが主流であり、UNICAで得た収益は農家に再分配している。UNICAは16農協で組織しているが、管内には22の選果場をもっており、自社基準で選別してパッケージやOEM対応も含めた選果システムを確立している。

Q:2009年に5農協で組織しているがその理由は?

A:当時、5農協はアルメリア地区で同じものを作っていた。それであればグループで販売戦略を組んだ方が価格競争にも勝てるしEUに向けた販売力も向上する。 選果場に特化した方がコスト削減にもつながる等良い成果を出していることから加盟農協が毎年増えている。出資金等は総会で決定している。加盟したい農協の条件は生産したものを100%出荷することにしている。そうでないと販売計画ができない。

Q:QC(品質管理者)はテクニコをどのようにコントロールしているのか?

A:UNICAにはQCは3名、各農協には4~5名ずついて、彼らを管理している。

Q:農協から集荷してどのように販売しているか?

A:農業システムが専門のコンピュータ会社であるヒスパテック社が開発した「ERPアグロ」システムをUNICA用にカスタマイズしたUNICAフェスにより生産者が携帯し、その他から入力したデータを、選果場を通じてUNICAフレッシュの営業部隊が活用し、スーパーの販売予測システムに販売量、単価等を当てはめてゆく。そこで残ればまた新しい販売先を見つけて販売してゆく。100%買い手が責任を持つシステムになっている。

Q:UNICAにテクニコは何人いるのか?

A:各選果場に2~3人×22選果場である。本社に1人いてコーデーネートをしている。また、フィールド担当のテクニコは、日程を決めて農家を訪問して直接農家に入り営農指導してゆく。

テクニコとQCが連携し、トレサビリティーを効率よく管理
【農業協同組合の実態】

ハウス入り口の注意事項

 選果場を3施設見学し、その充実した運営に驚いた。

 その1例としてコプロニハル農協を紹介する。この農協は、オーガニックのチェリートマトを中心に生産している協同組合で、32年の歴史がある。組合員数は200名で、正組合員が160名、トライアル中の准組合員が40名いる。総面積は500ha(平均2.5ha/戸)。組合のあるニハル地区は隣のエルヒド市に比べて気温が低く、土壌や用水の塩分濃度が高いため、甘みの強い美味しいトマトができるので80~85%の農家はトマトを栽培している。特に食味の良いチェリートマトの生産が主体で、ミニトマトの収量は平均145t/ha(14.5t/10a)で栽培は周年で行われ、チェリーや黄・オレンジ等のカラフルな品種を栽培している。

 農協としての年間出荷量は60,000tで、90%をイギリスやドイツに販売している。販売金額は6,000万ユーロ(72億円)、1ユーロ(120円)/kgである。50%がミニトマト(チェリートマト60~70%)、25%がスイカ、メロンであり、オーガニック(有機栽培)が33%で、その他はIPM栽培(天敵を入れ、農薬を減らしている)を実施している。

入り口から防虫シート
トマトハウスの内部
土の説明をするテクニコ

 連合会はアネコープ(バレンシアに本部を置く)に属しており、40%がアネコープ、60%が直接販売で、将来アネコープを通じての販売を増やしていく計画である。

 農協の組合員には次のようなサービスを行う。

1)品質管理、食品安全の指導や認証取得に関するサポート(GLOBALG.A.P.を含む)である。
2) テクニコを通じて生産技術指導や新品種情報の提供や防除対策(IPM栽培等)など。
3)被覆資材や肥料・農薬等の生産資材および出荷資材等の購買 ※資材の購買は、利益が目的ではなく大量購入によるコスト削減と統一アイテムで生産者が何を使用するか把握することが目的となっている。
4)補助金情報の共有や法律的なサポートなど

 組合員から徴収する手数料は、正組合員6%、トライアルの准組合員が9%であり、日本と大きく異なる点は、正組合員も准組合員も全量(100%)農協出荷が義務付けられていることである。販売計画とマーケティングを正確かつ円滑にしていると感じた。 また農協は、8名のテクニコで200名の生産者に対応しており、まさにテクニコや品質管理者(QC)等の人材育成への投資と選果場への投資が積極的に行われ、コプロニハルでは現在稼働している2.2haの選果場のほか、オーガニック専用の1.2haの選果場を新設し、その機能は現在稼働している選果場の稼働力に匹敵する施設を新設している。

 取得している認証は、GLOBALG.A.P.は最低認証100%+GRASP、(GLOBALG.A.P.アドオンのソーシャルプラクティス)、ネイチャーズ・チョイス(英国テスコが要求する認証)、フィールド・トゥ・フォーク(英国セインズベリーが要求する認証)である。 選果場はIFSとBRC、オーガニックはCAAEというスペインの認証、SEDEX(サプライチェーン管理システム)、ISO9000等多くの認証を取得している。

 GLOBALG.A.P.等の各種認証費用は組織(農協)で負担している。いろいろな認証についてもテクニコと品質管理担当者(QC)が対応し、情報管理ツール(ERPアグロ)・システムの普及もあり、グループ認証(オプション2)で年間1戸当たり1,000~10,000円程度で、当JAの生産組織の年間部会費程度という認証費用の安さに驚いた。このような背景からスペインにおける諸認証やGLOBALG.A.P.普及率の高さに納得させられた。

このことからスペインの農業協同組合は、
1) 組合員の生産物を集荷し共同撰果選別によって付加価値を付け販売することにより最大の利益を組合員に還元する農協本来の事業を展開していた。
2) 地域に多くの協同組合が存在していることから、利益を還元できない組織には加盟せず、自由に選択できる協同組合の厳しさもある。それだけに、組織は真摯に組合員利益向上のための努力をしていかなければならいことを教えられた。

テクニコと農家は絶大な信頼関係でGLOBALG.A.P.認証を効率よく実践
【生産者の取組み】

1)《UNICA組合員 オーナー;ホセ氏
トマト:品種 コステル(チェリートマトと普通トマトの中間種)を栽培》

 栽培面積:2.2ha+2.5ha=4.7ha アルメリア地区の普通家族経営平均面積1.5haなので比較的規模の大きい農場である。100%オランダに輸出している。

 定植:8月中旬、収穫10月20日頃~翌年5月まで。収穫したものはカスール選果場に持っていき、洗浄し、パッケージして輸出する。 UNICAは15の選果場があるが、コステルという品種は他の選果場で選果する。多品種を扱うのではなく同じ品種に特化することでコスト削減につながる。

 テクニコのイシドロ氏はUNICAのコエクスパル(COEXHPAL)協会に属しているアグロコール(審査会社)のジャケットを着ていた。そのジャケットについて尋ねると、アグロコールからのギフトであった。イシドロ氏の説明では、

UNICAに属する生産者:
ホセ氏とテクニコのイシドロ氏
ホセ氏:2.2haのハウス
  1. ハウスの目的の第1は「湿度を保つこと」、そのほか保温、風対策などがあるが、「湿度を保つこと」を最重要視している。
  2. 培地はココナッツファイバーを使用している。通常はココナッツファイバーで栽培するがホセ氏はベッドの底をカットして土に根を張らせる栽培をしている(俗にホセ氏オリジナルのミックス栽培と自慢していた。)
  3. テクニコはカスール農協に8人が所属し、1人で80haを対応している。作業する(キャンペーン)前に、この農場にどの品種が適しているか、農場の環境や土の検査をして、その後オーナーに提案する。
  4. 品種をどれに、どんな種を使うかを決定したら種苗会社に苗(接ぎ木苗)を注文する。80haの農場は全て接ぎ木栽培である。育苗に約2ヵ月を要したが、後に種苗会社から苗を購入する。
  5. テクニコは通常10日に1回巡回する。異常があればその限りではない。どういう肥料をどれくらい施用するか、農薬はどれを使うかテクニコが決定する。一般にテクニコとの信頼関係は強い。自分に合わないテクニコであればチェンジもできる。
      土の検査は塩分を基準とする。そのほかpH、EC、N、P、Kなどである。この地域は塩分が多くトマト栽培に適している。地域には共有井戸があるが、雨水を回収し再利用する。この地域の水は重油よりも高価である。
  6. 農薬の種類、散布量はテクニコが指示する。病害虫や日々の生育観察はオーナーや作業者が異常などあったら情報を共有する。対応等についてテクニコに電話をして指示を仰ぐ。農薬の扱いについては「ライセンス」が必要でオーナーはもちろん作業者の中でもライセンスを取得している者がいるのでその人達が対応する。ホセ氏の場合、農薬散布は近代的なシステムではなく、オールドタイプの動噴で散布している。
  7. 栽植密度は10,000株/haの3本仕立て30,000本で、収量は100,000kg(10t/10a)。オーナーへの支払い1ユーロ(120円)/kg 100,000kg×1ユーロ(120円)×4.7ha=470,000ユーロ(56,400,000円)である。テクニコへのインセンティブはないが、次年度の契約がインセンティブとなる。
  8. テクニコが水分、土、気候から複数の品種を提案し、オーナーが最終決定する。
  9. 農場には17名(1haに4名が目安)のテクニコがおり、3~4名は臨時時雇者(Fixではなくテンポラリー)で、作業者はモロッコ、リトアニア、ルーマニア等の東欧のほか、スペイン人である。言語はスペイン語、臨時時雇者は作業が終了すれば一時帰国し、次の作業が始まれば戻る。
  10. 作業員が確保されれば規模拡大できるのでは?
    4.7haでも多い。現在の面積で充分で拡大しないという。
  11. 肥料チェックの頻度は?
    PCで管理している。pHやECをチェックする箇所が2ヵ所あり、そこから溶液を抽出してチェックする。
  12. 授粉用の蜂が飛んでいるが、花房に刺した跡のマーキングがある。
  13. ハウスの被覆材は2層あり、外部は3~4年で更新、内側は毎年更新する。室温を保つため外層ハウスに石灰を散布してコートする。2月に1回目、3月以降2回から3回コートし、トマトの生長に応じて石灰を除去する。
  1. 作物残渣の処理は?
    地域に残渣処理場で処理料を支払い処理して、その後コンポストに処理された物を農家が購入する。
  2. 組織運営 カスールからナトースールに変わり、現在220名の組合員がいる。1組合員1票の権利がある(出資額ではない)。組合が投資する必要がある時は出資する。出資額に応じて議決権がある組織もある(S.A.T.)。
  3. 借入は農協からお金は借りない。農業系銀行があり、そちらから融資を受ける。ハウス1haで約90,000ユーロ(10,800,000円 108万円/10a)土地は入らない。附帯設備は1haで20,000ユーロ(2,400,000円)
  4. 補助金については、40歳以下で初めて農業をやる若者(新規就農者)に対し、当初2年間は無利息やその後少額金利等の優遇はある。しかし、40歳を超えると優遇措置はない。
  5. アルメリア地区は風が強くないし、台風等の自然災害はない。
  6. GLOBALG.A.P.の認証費用はナトースールかUNICAが負担している。現実は別の名目で農家から徴収されていると思う。その他のオーガニック認証等は農家自身が負担している。

2)《ホアン氏 60歳
長系のジャンボピーマン(パレルモ)とパプリカを栽培》

 面積は3haで従業員が3名。定植は7月24日。収穫は10月下旬から5月上旬まで行う。IPM栽培で天敵はスワルスキー(カブリダニ)を主体にしている。最初はこの圃場は石が多く、砕くことからスタートした。その上に客土を20㎝してその上に堆肥等コンポスト2㎝程敷き、8㎝の厚さに砂を施して定植する。

 肥培管理は化成肥料を養液にして施用する。収穫が終了したら夏場はビニルフィルムで覆い、太陽熱消毒を行う。土壌は5~6年連作し、更新は堆肥を敷くところから行なう。テクニコからはパプリカ⇒ナスの輪作体系のアドバイスもある。基本的にはテクニコの意向や市場動向に従う。農薬散布などの作業記録は紙ベースで記録し保管する。

ジャンボピーマン:パレルモ
IPM栽培:天敵カブリダニ

 テクニコから農薬散布の指示が紙で渡され、生産者は実施後、実際の散布日時、散布場所、倍率・量等、スポット散布した記録を返信している。テクニコの指示は絶対で、指示されたことを実行し、回答する。それをテクニコが確認し、栽培履歴として管理される。テクニコも「指示した記録を大事にする」ということで、今後の貴重な指導データとしている。

 パレルモ(イタリアンパプリカ)は「赤」が甘く、需要もあることから90%を赤で収穫する。農協が買取る場合、最低保証価格制度はなく、全て市場の動向に左右される。従業員は7月から5月の雇用契約で、働いていない時期は失業保険を貰う。3人のうち2人はスペイン人、1名はモロッコ人で時給7?(840円)で差別はない。就業時間は8時~15時30分で昼休みは30分である。月~土曜日までの6日出勤で、農場管理の経費では人件費が一番高い。

 収量は240~300t(8~10t/10a)。販売額は240,000ユーロ(29,000千円 960千円/10a)、経営者、従業員の経費を差引して60,000ユーロ(720千円)/3ha。この所得に充分満足しておりこれ以上規模を拡大するつもりもないとのことである。

 ホアン氏は大学には行っていないが、単協、連合会、自治体が主催する様々な教育プログラムやトレーニングの場があり、そこで農業を学んだ。GLOBALG.A.P.認証を取得して長いが、初年度はとても苦労したという。当時は現在のようなERPアグロのようなシステムがなかったからその苦労は理解できる。

 最初から完璧を目指すのではなく充分な教育、トレーニングを受けながら2年から3年かけて今のようになった。テクニコのローサ氏とは20年来の付き合いで、彼女は月2回程度訪れ1時間程度の指導を受けている。「テクニコは医者みたいなもので、困った時に診てもらえればいい」と考えており、8時~17時までの間に何かあればすぐ電話で相談をする。

 農業をやってきて「協同組合の中で自分が成長できたことである。自分一人ではここまで拡大も成長もできなかった。カバスク農協の存在も、カバスク農協が中心となって連合会UNICAができてさらに良くなった」という言葉に人生の重みを感じた。

オーナー:ホアン氏とテクニコ:ローザさん
2.2haのハウス
ホアン氏の農薬取扱者のライセンス証

【有限会社アグロポリエンテ:セリ市場】

 スペインには農協に加入しない農家もいる。これらの農家はセリ市場を中心に出荷を行い、1戸当たり4~5haと比較的経営規が大きく栽培技術も高いと思われる農家が利用している。

 この市場にもテクニコがおり、市場に出荷する登録農家をまとめてGLOBALG.A.P.のグループ認証を取得している。

 やはり GLOBALG.A.P.はスペインの流通にとってはとても重要な認証であると認識した。出荷されている商品は品質も良く、洗練されている。併設している選果場も充実しており、UNICAなどの農協連合会と同様にERPアグロも活用されている。

生産現場からマーティングまでトレサビリティーを管理できる総合システム
【Hispatec:ヒスパテック】(システム・ソフト会社)

 これまで農業生産から、流通、食品分野のすべてをカバーするツールはなかった。ヒスパテック社では、農業とテクノロジーの相互関係の流れをサポートする情報管理ツールを開発している。世界各国400社以上のクライアントが当社のサービスを利用している。

このヒスパテックが入っているビルにはテクノロジー関連4社が入居している。
(1)IBM:アメリカのテクノロジー会社
(2)スペインのインダラ:ITのコンサル会社
(3)カハマール:農業系銀行
(4)医療ケア、事務系の会社

 約120名の社員がいる。スペインの首都マドリッドに支店があり、サラゴサ、アリガンテ、ガテヨン、マラガ、カステロン、オルシア、グラナダ、コルトバに大きくはないが営業所があり、テクニカルサポートと営業がいる。そのほかチリ、ペルー、メキシコにも営業所がある。

 農業に特化したシステムは世界でも珍しく、ITエンジニア、テレコミクス、数学エンジニア、経済学等を専攻され、農業ICTに必要なプロフィールの人材を集結して会社が成立している。

 会社の業務は種子(苗木工場)⇒ 生産現場 ⇒ 選果場 ⇒ マーケティング ⇒ 運搬 ⇒ スーパー(販売)の仕組みを統合したシステムで全て管理している。主に、野菜、フルーツ、ワイン、オリーブオイル(ワイン、オリーブオイルのタンク)についてもシステムを利用している。 各オフィスは、開発部はソリューション等を開発、ラボ(研究所)、会議室、視察で空席が多かった営業部は各ユーザーに出向いてITコンサルしているとのこと。そのほか電話サポートしている部署もある。

 システムサービスは100名以上の技術者と農業を背景に持つスペシャリストにより開発され、農場での播種から食卓までのフードチェーンの全工程を管理することができる。

 農業事業者にとって収穫事業は作物生産と栽培活動を計画することから始まり、ERPシステムとしては、ビッグデータを解析する技術を備えており、市場全体の流れを予測することができる。そのため、ソフトウェアを通じて最適な作物の生産と栽培活動の計画を提案することもできる。農業技術者テクニコは生産者に対して、栽培管理や病害虫管理についてのコンサルテーションを行う。

 スマートフォンのアプリを通して生産状況、施肥設計、作物管理、潅水そして世界各国の厳しい規格や認証を管理することができる。GLOBALG.A.P.など生産者は、電子データで営農情報を受け取り、作業の実施内容を入力していく。生産業務のコスト管理も可能であり、それは公式野帳(報告書)にもなる。ERPのソリューションでは養液栽培システムのような機械管理などと統合することもできる。また、作物と天候の状況に関するセンサーシステムを活用して、収穫管理することや、そのデータを活用し、水の消費、栄養分、害虫対策などに対する判断、最適な資材提供が可能となり、在庫を最小限に抑えることができる。

 農協や農業事業者の営農部門は、収穫予測を元に販売計画を立て、より早く顧客から受注することもできる。さらに、選果場に野菜が入荷される時点で生産者の量、品質、支払い条件なども明示することができる。また入荷した野菜の選果、商品、販売の準備を整えることもできる。

 各工程の動きがデータとして記録されているので、商品の場所、出荷先の情報や時間などがすべてリアルタイムで把握でき、各工程で品質管理が実施され、記録として残されていく。商品はそれぞれの条件によって選別され倉庫に保管され、保管場所、湿度、賞味期限などを管理する。

 そのほか、注1RFIDなどの技術を利用して、商品がそれに適した条件のもとで取扱いが実施されているかの管理も行い、様々な工程を正確に管理することで組織内の経済活動を把握できる。さらに長いサプライチェーンの中の各工程のコスト管理をすることもできる。

 最先端の分析ツールとビッグデータを活用し、経営者は企業内のマーケティング、顧客、販売、採算性、サービスの質などを管理でき、これまでにない正確な国別/商品別/日付別のマーケットシャアを知ることが可能となる。

注1RFID:電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステム
 バーコードでの運用ではレーザーなどでタグを1枚、1枚スキャンするのに対し、RFIDの運用では、電波でタグを複数一気にスキャンすることができる。

アルメリア農業の発展はCOEXHPALという協会の設立がターニングポイント

 この協会は、野菜・果実、オリーブ、ワイン等の生産者の協会である。CO(生産)EXP (輸出) H(物)AL(アルメリア)という頭文字をとって命名している。COEXHPALは、農協、市場、法人、セリ市場が100社以上加盟している。この中には銀行、アロンデイガス(セリ市場のグループ)アンダルシア地域の協同組合(UNICAも加盟)のほか、スペインレベルの協同組合も加盟している。アルメリアの場合は、この協会が協同組合や銀行などグローバルにセクターを束ねている組織である。Hortyfruta(ホロティフル-タ)というEU機関が農業に投資やサポートする技術提携をする機関があり、この組織の傘下に入っている。

(1)ホルティエスパニアはハウス栽培を支援する組織
(2)エオコフェルはヨーロッパレベルの協会で、本部はブリュッセルにあり、野菜・フルーツを販売している。ロビー活動を展開しEUにプレッシャーを与えるためにもEU機関の協会を傘下に入れているのである。
(3)ARELMもヨーロッパ機関のエオコフェルと一緒にサポートしてロビー活動を行っている。

 この協会の役割は、農業生産者をアルメリア地区、スペイン、EUレベルで農業を守る活動をしている。アグリコロールやユーコロールという会社、特にアグロコロールは世界で2番目の認証機関で、そのほか、営業コンサルや保険会社なども加盟している。社員は206名、そのうちアグロコールは80名がオフィスとスペイン全体で活動しており、ビオコロールはエルヒド市、農業エンジニアのコンサル会社も地域で活動している。

(1) 地域、スペイン、ヨーロッパそれぞれのレベルの生産者を守る。
(2) サービス業務として、168社56プログラムにEU機関が補助金で50%を支払い、残りの50%はその法人が負担する。補助金の額はその会社販売額の4%以下となる。

 生産者は13,500人、面積は35,470ha(内ビニルハウス栽培28,000ha)、生産量2,200,000t、作業員106,000人で、トマト25%、パプリカ、キュウリ、レタス、ズッキーニ、ナス、メロンなどをヨーロッパに95%(うちドイツ33%)輸出し、4年前はドイツの次に多かったのはロシアだったが、その後に関係が悪化し、現在は輸出していない。イギリスは、ドイツの次で13%を輸出していたが、EU離脱の影響でどのようになるかわからない。

COEXPHAL設立の背景

1977年に設立した。長い間独裁政権の傘下にあったスペインの内戦でフランコ政権が崩壊し、1975年に民主化されてのち設立する。その理由は、スペインはEUに加盟していたが、アルメリアは当初、農業生産が盛んではなかった。隣のムルシアがスペイン政府を通じて輸出していたことからCOEXPHALを設立して、アルメリアも輸出できるようにスペイン政府にプレッシャーをかけた。農業生産のノウハウがなく、結構農薬をかけていた。そして、スカンジナビアやフィンランドに輸出したが、農産物に残留農薬が検出された。
1988年:残留農薬回避のため研究所LABCOLORを設立した。スペイン政府の研究所はあったが、独自で研究所を立ち上げたのが、COEXPHALがスペインで初めてだった。
 ここで、品質管理(QC)を行いOKが出たらEUに輸出する仕組みをとった。
1993年:EUに正式加盟し、以前より自由に輸出できるようになった。
1996年:EUのスーパーチェーン店が拡大する。生産地も生産組合を設立、拡大していき、スーパーマーケットに対応できるようになった。例えば、UNICAは5農協から現在16農協に拡大した。モルキベルという会社は、小さい農協を買収していくモデルであり、デカソールというフリーの生産者を集めていく会社も出現してきた。
1998年:認証会社アグロコロールを設立。このオフィスにもあるが、認証組織としてスペイン初なのでグラナダ、バレンシア等多地域に事務所を構えている。そのほか南米地域のペルー、エクアドル、ブラジル、コロンビアにも進出し、アグロコロール・アフリカではモロッコ、アルジェリア、セネガルなどで活動している。
2002年:トレサビリティーが重要となり、欧州から生産地までトレサビリティーができるようにスペイン政府からCOEXPHALでサポートするよう要請された。そのため、スペイン政府は補助金を出して支援、COEXPHALに加盟している傘下にソフトウェアを導入していった。
 さらに、EUのスーパーからは法律以上の認証をリクエストされる。そのためHISPATEC社のERPアグロがここに登場してきた。HISPATEC社はカハマール銀行(農協系銀行)が出資している。トレサビリティーが保証されることでモロッコ産等の農産物とは違い、アルメリア産の農産物に付加価値がついている。現在はグローバルGAPがないとEUや海外に輸出できない。
2003年にオーガニック管理をする部署ができ、病害虫等をコントロールする。
2005年:Bioコロールは、オーガニック用の天敵(虫)を販売する部署。
2006年:IGPという原産地証明、カッシー、カスールに作った。
2011年:アプロアは、EUから投資を受ける機関である。EUで販売する農産物が暴落した時に、食品バンクとして余った物を食べ物がない人に無料で配布することに対し、スペイン政府が補助金を出す。
2014年:アルメリア大学のプログラムがあり、農業問題の研究やノウハウを様々な問題・課題を、テクニコを通して大きい課題・改善の研究と成果を繋ぎ、共有することによって大学の研究を改善したことによって生産者に届くようにする。
2015年:ホルテパスニアは、スペインレベルでビニルハウス栽培のプロモーション、ロビー活動をしている。
2019年~2021年にかけて欧州とCOEXPHALプロモーションプログラムを整備する計画に対し、EU機関が80%:COEXPHAL 20%で新会社を作ったり、新しい工場を作ったりする。その課題の一つに、一般人からみるとビニルハウスの悪いイメージがある。そのイメージ改善、払拭するためクリーンエネルギーで栽培する。ハウスでもオーガニック栽培など環境に悪影響を及ぼさないことをアプローチしていく活動を展開していく。

 COEXPHALの活動は、トレーニング(教育)、保険、広報活動、ツアーはCOEXPHALに加盟している人達の見本市や海外での販売活動、人事コンサル、生産技術サポート、アルメリア大学とのコラボ市場の分析をして生産者と会社と共有する。

結び

 スペイン王国アルメリア県の視察研修を通して、1975年に民主化され、農業生産のノウハウがない状況から、EUをターゲットとした農産物の輸出で農業生産を拡大していく手段として、地域をあげ、必死かつ積極的に農業の課題に取り組み、研究して現在のアルメリア農業を確立できたことは素晴らしいと感じた。世界農業のこれまでの変遷の中で見ると本当に短い年月でここまで発展できたことは、COEXPHALの設立とEUへの輸出戦略に対する「七転び八起き」を繰り返し、切磋琢磨して取り組んだ成果であると納得させられた。

 その道程は、生産者、農協、それを結びつけるテクニコの育成、それらを束ねる連合会とアルメリア大学の取組み方針に良く現われており、タイミングよくIT、IoT、ICTなどを組み入れてHISPATEC社が開発したERPアグロシステムが、効率よく農産物のトレサビリティーを管理でき、この仕組みで農産物輸出を支援できたことが大きいと思う。

 日本の農業は、生産・供給が国内需要を主としていることから、国際基準を意識した対応はマーケットを含め認識は希薄な状態である。しかし、日本は高齢化、人口減少が明確になっており年々国民の胃袋が小さくなっている。

 また、農畜産物の自由貿易協定が次々に発効され、小さい国民の胃袋に輸入農畜産物が入り込み、国の自給率は現状の37%から更に縮小されていく恐れがある。農業の就業人口も高齢化し、担い手不足と労働力不足は明らかに進んでいる。農業所得を向上させるためには生産量を高め、適正価格で安定的に販売していかなければ職業としての農業は衰退していくことになる。

 2020年はオリ・パラ景気で需要も盛り上がるとみられるが、その後が心配である。政府も「攻めの農林水産業」で日本の農畜産物の輸出を奨励しているが、国際基準に対応した生産現場、選果場施設を含め、トレサビリティーが容易にできない環境にある。

 日本の農畜産物は「食味が良い、品質が良い」と自負しているが、いざ輸出となると国際基準が障壁となって、グローバルな取組みが実現しない。

 日本の農業も農林水産省、連合会、農協、生産者がERPアグロシステムを活用できるような体制と施設整備、営農指導員、生産者を育成して対応できる準備を早急に進めるべきと痛感した。

 今回、この研修を企画された(一社)日本生産者GAP協会と動向されました皆様に感謝申しあげ、報告とします。

2020/4


シンポジウムの開催中止とこれからのGAP推進

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会

シンポジウム会場の「密集、密閉、密接」でウィルス感染のリスク

 一般社団法人日本生産者GAP協会は、前身の組織である「GAP普及センター」の時代から毎年実施している「GAPシンポジウム」の2019年度開催を直前に中止することになりました。理由は、2019年11月に中国の湖北省武漢市から始まった新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が、日本でも2020年1月16日に最初の患者が報告され、1月末には武漢からの帰国者に感染者が出て入院したり、2月初めにクルーズ船の感染が明らかになったりしましたが、その後国内感染者が増加し、日本政府が2月17日に検査体制を強化すると発表しました。厚労省が、それまでのPCR検査の抑制、いわゆる武漢湖北省縛りを見直すということは、市中感染の段階になったのではないかということで、2月18日に中止を決定しました。

 その後、世界各国に感染が広がり、3月になると欧米各国でも爆発的な感染拡大となり、WHO(世界保健機関)は、3月11日に新型コロナウィルスの世界的な感染拡大について「パンデミック」を宣言しました。2020オリンピック東京大会の開催が危ぶまれる事態になりました。

GAPシンポジウムでやろうとしたこと

 「2019年度GAPシンポジウム」のテーマは「GAPは生産者と消費者を信頼で結ぶ懸け橋」です。

 今回のシンポジウムの内容は、2020東京オリンピック・パラリンピック大会後の日本の経済・社会の更なるグローバル化によって変化する消費者意識に応えるために、

 ① 農産物の流通業界は「現在、どのような対応をしているのか、その先はどのように対応していけばよいのか」を探ることであり、そして

 ② 変化する流通業界に対応して「農産物の生産段階で行うべきことは何なのか」について議論を深めることです。

 幸いなことに、私達は、①と②の課題解決のためのビジネスモデルを確認してきました。それは、協同組合活動などを通じてGAP(適正農業規範)の実践と「農場認証」の取得を武器に、EUにおいて農産物マーケティングの先端を走っているスペイン・アルメリア農業の実態とそこに至る経過についてです。

 2019年11月の「世界のGAP先進地・スペイン研修ツアー」には、農産物の流通企業やJAの役員、全農の担当者、農業技術普及関係者などが参加して、日本農業のモデルとなる農産物ビジネスの実態を研究してきました。その成果を今回のシンポジウムで発表し、議論を深める計画でした。

 新型コロナウィルスの感染問題がいつ終息するのか世界中の関心事ですが、私達は感染を防ぐ然るべき活動の規制や日常の手洗など、個人でできる最大の努力をしながらシンポジウムでやろうとした「生産者と消費者を信頼で結ぶ懸け橋としてのGAP」の課題解決に向けて体制を整備していかなければなりません。

食と農の課題とは

 未知のウィルスのパンデミックを経験することによって、私達は何を学ぶのでしょうか?

 少なくとも私達が守るべきものは「命と健康」です。そのためには国境の閉鎖もやむを得ないということになります。グローバル社会の代表であるEU域内の人や物の自由な異動(シェンゲン協定)も事実上維持できなくなりました。しかし、物の移動ができない期間が長引けば食料を輸入に頼る国は命と健康を守ることが難しくなるかもしれません。中国から物が来ないために、日本で生活・食生活に混乱が生じている様子が多数報道されています。「命は医療で、健康は食料で」と例えてみると、今の日本にとって農業の振興は大変重要で喫緊の課題であるといえます。

 そして、農業振興の際に必要な長期的課題がGAP(Good Agricultural Practice)なのです。GAPはそもそも「環境と衛生の健全性を保つこと」が目標であり、その結果として人類の命と健康を守るという使命を持っています。その中で、産業としての農業、とりわけグローバルな経済取引においては、農産物を販売する農場がその使命を果たしているかどうか「品質事項と衛生事項の規準」に照らす農場検査によって信頼性を評価する制度が「農場認証(FA)」です。

 これらのことから確認できるのは、日本国民の命と健康を支える基盤としての「食と農の課題」は、第一に国産農産物の生産振興です。そのために必要なのは、GAP(適正農業規範)の遵守と消費者の信頼であり、輸出振興のために取得する農場認証ではありません。

 生産者と消費者を結ぶ懸け橋は、「農場認証というラベルの貼付」では構築できません。スペイン・アルメリアの農業ビジネスモデルで学んだ産地のインテグレーション(例えば、組合員生産者と営農指導部および選果場事務局との有機的統合化)が必要です。現在のグローバル化した農産物流通においては、国内流通といえども、加工・中食・量販店等の小売側の要求スペックに応えられる組織体制が必要です。そのためには、小売側の要求に応えられる農産物の量を持っている個々の生産者を組織する事業体(JAや産地卸売業者)が直販体制を構築し、マーケットが希望する農産物の商品化を行うことが必要です。そして、商品化の要求に応えるためには、品質管理と衛生管理が前提条件になっているということです。

生産者と消費者を結ぶ懸け橋を構築する

 JA宮崎経済連の奥村真理子氏のスペインGAPツアー報告「スペイン・アルメリア農業に学ぶ①②③」によれば、組織が農産物を販売する際に産地の信頼の証明として「農場認証」が必要になることから、生産者個人が取り組むのではなく、協同組合の負担と責任において組織が取得するものであるということです。そのために組織は「組合員生産者の品質管理と衛生管理」を指導教育し、個々の生産者の農場管理が適正であることを日常的に統制するのです。これによって、販売する農産物の全ての農場の統制が行き届き、農場管理が信頼できる水準になっていることを証明するのがQMS(Quality Management System)の監査です。農産物の買い手は、そのために農場認証を要求するのです。

 消費者に直接販売する小売業は、組織が生産者を統制している事実を確認することで消費者に責任を果たします。

 組織は、個々の生産者が栽培した農産物を単に集めて販売するのではなく、販売先からの要求スペックに合わせるために生産者が出荷した農産物を自社ブランド商品として標準化することが目標ですから、選果場内の品質管理と衛生管理とを徹底するとともに、自社商品の素材である農産物の生産段階に関しても生産者の品質管理と衛生管理をコントロールしなければなりません。組織にとって農産物を出荷する全ての生産者に対するQMSを保証することが重要な使命です。

 組織は、個々の生産者が栽培した農産物を単に集めて販売するのではなく、販売先からの要求スペックに合わせるために生産者が出荷した農産物を自社ブランド商品として標準化することが目標ですから、選果場内の品質管理と衛生管理とを徹底するとともに、自社商品の素材である農産物の生産段階に関しても生産者の品質管理と衛生管理をコントロールしなければなりません。組織にとって農産物を出荷する全ての生産者に対するQMSを保証することが重要な使命です。

これからのGAP教育「グリーンハーベスター(GH)農場評価」

 農業生産段階の品質管理と衛生管理の適正な実行について指導を実現し、一定レベルに維持していく農場の管理と統制(ガバナンス)をする仕組みが「グリーンハーベスター(GH)農場評価制度」です。GH農場評価のポイントは、GAPの本質から帰結した「BAPの発見」です。

その要点を説明しますと、
①単に他者の良いやりかた(Good Practice)を真似るだけではなく、その農場のやり方のどこが問題(Bad Practice)なのかを発見してその農場の課題を明らかにします。
②そしてそれは何故問題なのかを農業規範に照らして調べます。必ず理由があるはずですから、その理由を明らかにします。
③次に大切なことは、問題(Bad Practice)の程度です。農場での行為はそれだけ取り出して「〇か×」にすることが難しいので、可能な限り正確な評価を行うために5段階(危険度4から危険度0まで)で表現します。それは、②の理由からレベルを判定できます。

 この手順を実施することによって、「必要性を感じない。面倒である」(*奥村真理子氏)という日本の農業者のGAP(適正農業の実践)をクリアーすることが可能になります。

東京2020大会後を目指してGH農場評価の体制整備

 東京オリ・パラの食料供給のために持続可能性に配慮した農産物の調達基準として承認された「都道府県等の公的機関による第三者の確認」を「GH農場評価の評価員」が実施する都道府県がたくさんあります。

 新型コロナウィルスによる感染症のパンデミックのために、東京2020オリ・パラ大会そのものの開催が危ぶまれていますが、これまでに実施してきた「GAPの推進」は無駄ではありません。それどころか、農産物を取り扱う選果場などのHACCPの制度化が、2020年6月にスタートすることなどと併せて、農場の品質管理と衛生管理は食と農の本質的な課題として今後ますます重要になります。

 多くの生産者組織JAの代表である全国農業協同組合連合会(全農)ではポストオリパラを視野に、一昨年から全国各地で「GH農場評価員」の養成研修会を開催して、農業者にGAP指導をする人材育成を進めています。農家が「農場認証をとる」のではなく、産地の信頼性向上のために農業者の品質管理と衛生管理のレベルを上げることであり、そのために「農業者のGAP管理をコントロールする」という「信頼の懸け橋を構築する」という農産物の販売戦略なのです。

 今回のGAPシンポジウムで都道府県やJAグループなどの関係者に、このような取組みを発表していただき、多くの関係者の方々と議論をする予定でしたが、大変心残りです。今後の何らかの機会を捉えて、多くの経験者の知識と経験を披露し、東京2020後の農業・農産物流通等の活性化に役立てていきたいと思います。

2020/4


2020年度セミナー等の予定

 2020年度の各種セミナー・トレーニング・シンポジウムについて下記のスケジュールで実施する予定です。

 グリーンハーベスター(GH)農場評価制度では、GAPの理解と普及のための教育システムとして、農業者、農業指導員等によるGAPの自主管理を推奨しています。

2020年度

4月27日(月)-28日(火)
7月30日(木)-31日(金)
10月26日(月)-27日(火)

『GAP実践セミナー』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:24名、参加料:30,000円(税込)(当協会会員24,000円)

5月28日(木)-29日(金)
8月27日(木)-28日(金)
11月18日(木)-19日(金)

『農場実地トレーニング』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:10名、参加料:30,000円(税込)(当協会会員24,000円)

6月29日(月)-30日(火)
9月16日(水) -17日(木)
12月17日(木)-18日(金)

『農業者のためのHACCPセミナー』 ※ウェブ受講可
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)GIC会議室(茨城県つくば市松代3-4-3)
定 員:24名、参加料:35,000円(税込)(当協会会員28,000円)

12月14日(月)

『農業者のためのQMSセミナー』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:24名、参加料:21,000円(税込)(当協会会員16,800円)

2021年
1月29日(金)

『GH評価員試験』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:7名、受験料:31,000円(税込)

2021年
2月9日(火)-10日(水)

『GAPシンポジウム』
場所:東京大学農学部弥生講堂(東京都文京区弥生1-1-1)
参加料:主催・共催団体会員 10,000円、一般 15,000円、学生 2,000円

2020/4


GAP関連用語の解説
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)

 企業などにおいて、既存業務の構造を抜本的に見直し、業務の流れ(ビジネスプロセス)を最適化する視点から組織全体を再構築することを言う。1990年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のマイケル・ハマー(Michael M. Hammer)教授が提唱した概念であり、その背景には高度に分業化され、部分最適に陥った非効率な組織への反省から出ている。

 ここでは、協同組合本来の事業を、農産物の単なる集荷業者ではなく、販売する農産物を生産する農業者を自己の組織の中に抱え込んでいる共同体なので、選果場・集出荷場を、食品企業の「工場・倉庫」と位置づけ、農業者を農産物の「生産ライン」と位置付けてみると、スペインの事例も参考にすると、新しいJAの姿が見えてくるのではないかということである。

 組合組織の業務のプロセスを、顧客への価値を生み出すための活動の積重ねとして再設計し、職務や組織、業務手順、規則等を刷新し、組織内部の都合によって生まれた顧客へ提供する価値とは無関係な業務や、歴史的経緯などにより重複している組織や業務などを抜本的に取り除き、合理的かつ効率的な組織にすることである。

2020/4


株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載35回)
~新型コロナウィルスが間近に迫る危機~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 2月13日、有田みかん産地に衝撃が走る。夜8時頃、弊社から7キロほど離れた済生会有田病院の医師が新型コロナウィルスに感染したとのニュースが飛び込んできた。

  著者はこの病院に入院している友人のお見舞を14日に予定していたところであった。本来なら11日にお見舞いを済ませていたところであるが、同行する仲間の都合で予定を3日間遅らせたのである。本当にニアミスをするところであった。

  15日に、弊社citrusの姉妹会社「株式会社みかんの会」が運営する直売所は大丈夫かと友人から連絡が入り、何のことか意味がわからず確認したところ、その直売所の横が中国人がよく利用するホテルだったことを知らされた。あわてて、直売所を運営する株式会社みかんの会の社長に確認をとったところ、ニュースの翌日直売所を閉めたとの報告を受けた。この直売所とホテルと済生会有田病院は100メートル四方の範囲内にある。済生会有田病院での院内感染のクラスターは発表されたが、ウィルスがどこから来たのかは不明のままで、熊野古道を訪れる中国人旅行客が良く出入りするお店の1つとして弊社の関連する直売所が対象となり、顧客対応をしていたアルバイト社員が調査され、2週間の経過観察の対象となった。幸い、ホテル従業員や直売所を含む近隣の飲食店からは感染者は出なかった。

  和歌山県は早い時期に新型コロナ情報の詳細を知事自らが県民に伝えたことでパニックにはならなかったが、弊社近くの70代の農家の死亡が伝えられた時には驚いた。このことにより、中晩柑類の販売に影響が出た。ニュースでは、果物店やネット販売をしている農家への注文にキャンセルが多くなったという風評被害が伝えられた。和歌山県もそれについて弊社も調査を受けたが、弊社の農産物の販売をお任せしている姉妹会社の株式会社みかんの会からは2件ほどキャンセルはあったが、キャンセルは続いていないとの回答であった。しかし、果物の単価は現在も低迷している。このままの状態が続くと、損害金額の決定は4月末となるが、農業共済の農業経営収入保険の適用を受けることになると思われる。これらの危機を感じながら倒産リスクを回避するために令和2年度も農業経営収入保険を3月5日に継続更新をした。

  収入面での問題はクリアー出来るが、弊社の新型コロナ危機はまだ終わっていない。3月15日に大阪のライブハウスに行って感染した10代の女性が通勤に利用していたJRの駅の近くに弊社の社員が住んでいて、弊社に通勤している。

  和歌山県知事はSNSを通じて「和歌山県内の感染は終息したわけではないが、最初にクラスターとなった済生会有田病院は3月4日に正常に復帰した。感染者の氏名や住所は非公開であるが、勤務先や通勤経路について、勤務先の会社やJRの了解を得て公開していく考えであり、感染者へのヒヤリングを基に濃厚接触者のPCR検査を速やかに実施しており、早期に感染者を発見することが出来きている」と発表している。知事は、このような報道とは別に、SNSを通じてこれらに関する公的・私的なエピソードを含めて関心を持つ県民に対して情報を公開してくれているので、新型コロナの感染に対する危機感と安心感を正しく持つことが出来ている。

研修生2名と指導する社員
インターシップ中の農林大学校就農支援センターの研修生2名と指導する社員(左)

  こんな中ではあるが、弊社は3月2日に社員を新規採用した。昨年末から今年1月にかけてインターシップに来ていた農林大学校就農支援センターの社会人課程の28才の女性である。2月末に9ヵ月の研修を修了し、弊社に迎えた。これまで弊社は、農業大学校の新卒生を対象に新規採用してきたが、4年制大学卒業の社会人の採用は初めてであり、この4月から同一労働同一賃金制度が導入されることから、初任給の決定に苦慮した。昨年は、求人を行ったものの新規採用には至らなかったので、今年は経営者として新入社員に感謝をしている。というのは、有田みかん産地の将来はどうなっていくのだろと思わせる現象を著者が身近に感じていたからである。 最近、有田市がみかん農家全戸を対象に後継者についてアンケートを実施した。その結果について、6割の農家は「今もそしてこれからも後継者が望めない」という回答であったとテレビ番組で紹介されていた。そこで、「リクルートと市がタイアップして後継者の受入れ事業を企画した」というニュースがあった。有田市の農家の平均年齢は64才とされていて、10年経過すると有田のみかん生産量は4割減になるだろうと市は予測値をしめしていた。

3月2日入社式、入社した社員
3月2日入社式、入社した社員(左)

  著者が在住する有田川町においては同様の問題を抱えており、農家の平均年齢は有田市より更に高く、68才くらいであろうと推測され、危機感から町独自に新規就農者を迎える事業を企画した。その事業とは、町が3年間の農業研修を実施し、その後、町内で就農することを条件に募集をおこなった。2月末に募集を締め切ったところ、正規応募は2名であり、応募に至るまでの現地確認者が1名あった。弊社は町より依頼を受け、3年間の就農前研修の受入を承諾し、著者が3名の方の相談相手を務めた。審査の結果、その内の1名を将来新規就農するであろうと判断し推薦した。このまま応募者本人の意思決定あれば、5月から弊社で1名の研修を受けることになる。若者の農業参入の少ない中、著者はこれまでの弊社の取組みが第3者にも認められつつあるのかなと喜んでいる。

2020/4


新型コロナウィルス禍に見る日本と海外の違い

食讃人

 この編集を行っている現在、東京の感染者数が急増し始めた。発信地である中国やイタリア、スペイン、フランス、アメリカなどの欧米諸国の実態を見ると、医療崩壊を起こし多数の死者を出している。それに比べて、日本は感染の増加が緩く、それだけ準備期間があったので、体制整備も進み、新しい検査法や薬やワクチンの開発にも力を入れ始めている。

 しかし、経験がないということは恐ろしいもので、幸いサーズもマーズも来なかった日本は、ウィルス検査という初動で遅れをとった。サーズもマーズも経験した台湾・韓国は対応が早かった。それに併せて大統領制と日本の議員内閣制の違いも、緊急事態の法律の内容にも違いが出ている。その点、大統領制に近い、直接選挙で選ばれる都道府県の知事さん方は、北海道の鈴木知事のように対応が早く、それなりの成果を出している。和歌山県の知事さんも、賢明な判断で初動が早く、適切な対応により新型コロナによる院内感染等の封じ込めに成功した。間近で見てこられた佐々木理事の連載記事(35)に生々しく語られている。

 何故日本だけ新型コロナの感染速度が遅いのか、韓国や欧米から疑問が出されるほどであり、「ウィルス検査がちゃんとできていないのではないか」というやっかみのような声も聞こえてくる。日本は中国のような「症状の出ない人は統計から外す」扱いはしていない。感染者は感染者であり、無症状の人でも感染させる恐れがあるからである。確かに、4日間は自宅待機ということによって検査数は少なくできる。それでも日本は確実に感染者の数が少ないと言える。なぜかと言えば、患者が病院に押し寄せるという武漢やイタリアなどのような状況にはなっていない。

 そこで、その理由をいろいろ考えてみた。先ずは花粉のお陰で、このシーズンは多くの人がマスクをしていることが挙げられる。日本では地方にもよるが、3~4人に一人は花粉症という国民病である。「マスクは予防効果がない」とマスコミでは言うが、私が使っているマスクは花粉を通さないが、同時に銀イオンを含む層があり、ウィルスも通さないとされる4層構造である。マスクも安くはないので、使用後、表面にアルコールを噴霧して3~4日置いておき、再度使用している。こうすれば、マスク不足も少なくなるであろう。

 次いで、日本人は電車やエレベーターの中でも、他人に迷惑にならないようにあまり話をしない。中国に長期滞在してから日本に帰ると、日本の電車内、エレベーター内の静けさには異様に感じる。中国でも韓国でも欧州や南米でも、電車やエレベーターの中は賑やかである。

 さらに、言葉の発音に差がある。中国語には有気音・無気音の区別があり、息をプッと出さないと別の意味になってしまう。韓国語の「激音」はもっと激しい。食事中に話が進むと、口の中身が飛び出すほどである。

 更に更に、日本は湿度が高いために非接触の文化が定着している。日本の伝統家屋も冬のためではなく、夏を如何に快適に過ごすかというための工夫がなされ、風通しが重視されて来た。ゆかたなどの着物もそうである。挨拶もお辞儀であり、非接触である。翻って、欧米の感染が激しいのは、握手、ハグ、キスなどの接触の文化が大きな原因ではないかと思われる。私が初めて中国に行ったとき、中国は全て握手である。中国から帰ったときに同僚の女性に思わず握手をしてしまったが、考えてみれば初めての握手であった。親しい友達と何十年の付き合いでも、握手もしたことがない。ましてやハグなどはしたことがない。話をする時にも、50cm以上近づくことはめったにない。これが日本独特の非接触の文化である。南米で生活したときには、毎朝のように研究所の玄関で親しい女性とのハグで始まる。友人の誕生日には毎回朝までダンスパーティーである。高校時代のフォークダンス依頼、女性とダンスをしたことがなかった私は、初めはかなり抵抗があったが、慣れれば運動にもなるし、心地よいものである。

 またまた、日本人は大の風呂好きであり、良く手を洗う。水道は、そのまま飲める清潔な水を家庭に届けている。その水で風呂にも入り、シャワーを浴び、飲める水でトイレも流している。おまけにウォシュレットで毎回お尻も洗っている。とにかく清潔である。

 このところ、幼い子供を抱えた家庭ではコロナ疲れが出始めている。自宅勤務をしている旦那を抱える家庭もコロナ疲れが出ているようである。3月の三連休は桜の満開に少しゆるみが出てその1週間後10日後には、東京の感染者数が伸びている。急速な感染拡大にならなければよいがと心配している。懸案のオリンピックも延期が決まり、選手や関係者は大変であろうが、一般庶民はほっとしている面もある。なんとかコロナ禍が、日本ではパンデミックを起こさず収まってくれることを切に祈っている。

2020/4


編集後記

食讃人

 今回の巻頭言は、山田常務理事に日本生産者GAP協会の『GAP規範』(適正農業規範)に基づくグリーンハーベスター農場評価制度(GH農場評価)の実践を通して経験された個々の農場のレベルアップの成果を示して頂いた。これは福井県の事例であるが、それぞれ実践されている県でも同様の成果が示されている。何よりも実践されている農家の方々が、自分達の農場の「何が問題で、どの程度問題で、どうすれば良いか」がクリアーに示され、取り組み始めた1~2年後に急速に良くなり、その多くが健全な農場になっていることが判る。多くの農家・農場に是非ともGH農場評価に取り組んで頂きたい。

 日本の農家はスペインと同じで零細が多く、農家が高いお金を払う農場認証はそのままでは残念ながらそれほど普及しないと思われる。むしろ、スペインのように農協が束ねるか、それも自主管理が基本のGH農場評価を農協がまとめる方式が良いかと思われる。今年の6月から義務化されるHACCPも基本は自主管理である。企業等が自分で勉強し対応する方式です。考えてみれば欧州の農場認証は、消費者の安全性重視を踏まえてスーパーが求めているものであり、日本の消費者は「国産農産物は安全だ」と思っており、日本のスーパーはそれ程農場認証を求めていない。だから、農業の方から消費者へアプローチをすることが重要であり、その場合にはGH農場評価が優れていると思われる。現状で、あまり強く農場認証を求めると、加工原料を国内で調達できず、海外へ出てしまう懸念がある。残念ながらもう既にその傾向が出ている。何とか国内農産物を振興させるためには、GH農場評価のメリットを考えて頂ければと思う。

 田上理事長の連載の3回目は、欧州のスーパーマーケットの農場認証がGAPという名前で導入されようとしていた時期のことである。時あたかも日本国内が食品安全で大きく揺れていた時期であった。欧州で始まったGAPは、国や州が『GAP規範』とその実践ガイドが出され、環境保全型農業を国家レベルで推進するもので、環境に良い農業(環境保全型農業)を行えば国が補助金を出すというものである。これが欧州農業を守るために非関税障壁としてGAPが取り組まれたということであり、この事実は欧州の特にフランスの食糧自給率の変化を見れば明らかである。

 この問題は、当時、日本のフードシステム学会でも何回か取り上げられ、農業経済・経営の人達の間では良く知られたことであった。残念ながら、日本では環境保全型農業のGAPが正面から取り上げられることなく、当時、環境配慮のGAPを行っていた欧州の農家を対象に「食品安全のための農場認証」がGAPという名前を冠したEUREPGAP、後のGLOBALG.A.P.で行われることになったため、日本はそれを「食品安全のGAP」と勘違いし、今に至っている。そのため、欧州の本来「環境保全のための非関税障壁のためのGAP」が、日本では「食品安全のための輸出促進のためのGAP」になってしまったという悲喜劇になっている。本来スーパーのための農場認証をEUREPGAPという名前だけで飛びついた日本のボタンのかけ違えがここにある。そのため、今ではアセアン諸国から農産物安全のためにGLOBALG.A.P.認証を要求されるようなことになっている。是非日本も、元のボタンに戻し、環境保全型の本来のGAPに戻して貰いたいものである。そうすれば、日本の自給率向上に役立つ「本来のGAP」に戻れるかもしれない。

 平時なら、2月にシンポジウムを開催して、その結果をダイジェストするのがGAP普及ニュースの年度末号であるが、今年は残念ながら新型コロナ肺炎の大流行によって催し物が次々と中止された。GAPシンポジウムについても、早めの中止が伝えられ、参加を楽しみにして頂いていた方々には誠に申し訳ない。資料も参加者分が既に印刷されている。来年のGAPシンポジウムの日程は既に2月の9~10日に決まっている。同じようなテーマで行うにしても内容は変わってくるが、是非期待して欲しいと思う(2020年度セミナー等の予定を参照)。

 今回のGAPシンポジウムの一つの柱は「スペイン・アルメリア農業に学ぶ」である。そのために今回の特集として、十和田おいらせ農協の斗澤常務に「アルメリア農協の総合戦略に学ぶ」と題してスペイン・アルメリア・ツアーの帰国報告をご紹介願った。関係者の方々に非常に役立つ詳細なデータを提供して頂いた。アルメリア農業におけるテクニコの重要性、日本と違う農協の組織と農場認証の活用など、今後に役立つ情報が多い。前号第61号の㈱マルタの鶴田社長の報告「GAPの本質と世界の潮流に触れたスペイン・アルメリア視察」も併せてお読み頂き、是非ご活用をお願い致します。

2020/4