-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 61号

【年頭のご挨拶】
東京2020に向けたGAP推進の「成果」は?
「GAPは生産者と消費者を結ぶ信頼の懸け橋」

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

令和2年の新春のお喜びを申し上げます。

 "東京オリンピック・パラリンピックまでに国際水準のGAPを"と目標にしてきた2020年ですが、いよいよその年が明けました。それぞれの当事者が実行の「成果(アウトカム:outcome)」を考える必要があります。

 今から6年前の2014年に、私はGAP 普及ニュース40号の「巻頭言」で、【2020東京オリンピックで国産野菜を供給できない可能性】について警告しました。そして「報告:ロンドンオリンピックのサステナビリティへの取組み」で「ロンドンオリンピックで謳われた持続可能性とはすべての人にとって現在および未来の生活の質が向上するように天然資源や人的資源の利用について前向きに、そして永続的に変えていくことなのです。」と書きました。これを達成するための手段としてロンドン大会では、イギリス全国農民連合(NFU)の農場保証制度「レッドトラクター・アシュアード(RT)」を農産物調達基準のベンチマークとしました。また「BS8901(British Standard)」というイベント持続可能性マネジメントシステムを構築して、それを実行しました。これは、のちにISO 20121となって国際規格化されています。(東京大会は2019年11月に取得しました。)

 「オリンピックで国産野菜を供給できないかもしれない」という警告に対して、最大の関心を示したのが農林水産省であり、関係者はその後何度も当協会を訪ねて来ました。

 特に2015年以降は、私共が2010年より調査研究を続けてきた「RT」について情報を集めていました。その後、大会組織委員会では、実際の東京2020大会における食材調達基準をGLOBALG.A.P.等の認証取得や都道府県等公的機関による第三者の確認によることとしました。そのため農林水産省が農業者の認証取得およびGAP指導の人材育成等への補助金支払いなどで支援してきたことは周知のところです。 2014年のGAP普及ニュース40号では「日本での持続可能性を追求する真の適正農業(GAP)の普及はやる気になれば5年で実現できると考えています。東京大会を GAP普及のチャンスと見るのです」と申し上げましたが、東京2020大会の幕開けを直前に控えて、GAP推進の当事者として「成果」を意識しなければなりません。

 「成果」は単なる結果ではありません。GAP推進の「結果」ということであれば、農場保証の認証取得数や公的確認の農場数を数えることで比較的容易に把握できます。それらはGAP推進の結果として生み出されたもの、出力されたもの、アウトプット(output)とでもいうものです。アウトプットはそれなりに重要ですが、より重要なことは「成果(outcome)」です。

 単なる「結果(アウトプット)」ではないGAP推進の「成果(アウトカム)」は、英語ではoutcomeという単語で表される「努力でもたらされる本質的な成果」のことです。農場認証数などの外形的なものではなく、GAPという適切な農場管理の実行が、実際に社会どのような影響を与えたかを評価するものです。ロンドン大会(2012年)後の調査(2015年)によれば、消費者のレッドトラクター保証(RTマーク)の価値は、国産農産物である(56%)こと、イギリス農民の支援につながること(55%)、トレーサビリティがしっかりしている(43%)ことという認識が高まり、これまでの農場保証の動物福祉(29%)、食品安全(23%)、環境保全(16%)という認識を大きく上回りました。

 アウトプットとアウトカムは対立する場合があります。GAP推進で認証数を無理に増やせば国産農産物のコストアップにつながり、国内企業が農産物の更なる輸入に走るというGAPアウトカムの阻害要因を作り出しかねないことなどです。

 "東京オリパラまでに国際水準のGAPを"という目標が「認証の取得という結果だけ」では、すべての人にとって現在および未来の生活の質が向上するような天然資源と人的資源の利用について前向きで持続可能な農業活動になるという「成果」には繋がりません。 ポスト東京オリパラ2020大会においては、農場保証の認証がもたらす本質的な成果を作り出していけるようにしなければなりません。そのためのキーワードは、RTに学ぶ「GAPは生産者と消費者を結ぶ信頼の懸け橋」です。

 今年のGAPシンポジウムでは、そのポスト東京オリパラのテーマである『GAPは生産者と消費者を信頼で結ぶ懸け橋』を始動させます。多数ご参加いただき、これからのGAPの在り方を考えていきたいと思っています。

 本年も宜しくお願い致します。

2020/1


《巻頭言》
『地球温暖化と農業の行方』

石谷孝佑 一般社団法人日本生産者GAP協会 常務理事

 先日のCOP25で、地球温暖化を防ぐために二酸化炭素の排出を抑制することが話し合われたが、中国、インド、ロシア、アメリカなどの巨大CO2排出国の意見が一致せず、削減目標の具体的な数値が決められず、合意は見送りになった。

 二酸化炭素の削減について欧州と国連がリーダーシップを取ろうとしているが、これには大きな痛みを伴う。今回は、「脱石炭」に加えて「脱石油」という言葉まで叫ばれるようになり、「日本は石炭発電を推進している」として、不名誉とされる「化石賞」を授与された。しかし、日本は、多くの原発を停止しており、発電の多くを天然ガスに頼っているが、安価でクリーンで効率の良い石炭発電も比較的高く、ここで開発した石炭発電の技術で途上国の発展にも貢献している。

 COPで二酸化炭素の排出を抑制せよと言われても、途上国は経済成長を止めるわけにはいかず、二酸化炭素排出の大元である人口増加を抑えるわけにもいかず、経済成長と共に豊かになった途上国で肉食が増加しているが、この肉食を抑制するわけにもいかず、穀物消費は増え続けている。欧州や国連は、再生可能エネルギーだけで、途上国の発展をどう描けというのであろうか。日本の一部のマスコミは、このことに気が付き始めている。

地球の温暖化と寒冷化

 地球温暖化の速度は、気象庁の発表によると100年で約0.7℃であるが、この100年間は温暖化と寒冷化を繰り返しながら、直近では少しずつ温暖化している。私が農水省の研究所に入所した頃は寒冷化の真っただ中で、「氷河期が来る」「冷える地球」などというタイトルの書籍が多数出版され、研究でも、寒冷地の作物の導入や稲の耐冷性育種などが盛んに行われていた。この寒冷化が一転し、温暖化が始まったのは1980年代であり、広く知られるようになったのは1990年代である。

 昨今の温暖化にも地域差があり、高緯度ほど温暖化が顕著であり、日本では九州より北海道の温暖化が顕著になっている。かつて九州で栽培されていた稲や麦の品種が関東で栽培されるようになり、東北・北陸の品種が北海道で栽培されるようになり、北海道は日本の穀倉地帯になっている。かつて、コシヒカリは津軽海峡を渡れないと言われていたものが、今や北海道もコシヒカリ一族の繁栄する地になって、良食味化されている。

人類の成長の限界

 食糧生産では、1972年にローマクラブが出した「成長の限界」という書籍によって「地球規模の食糧危機が来る」ことを警告され、当時は、穀物価格の高騰と第一次オイルショックによって私達は大きなショックを受けたものである。その後、ローマクラブはコンピューター・シミュレーションをやり直し、1992年と2005年に「成長の限界」(ダイヤモンド社)を出版しているが、「1972年の予測が正しい」ことを追認している。その予測によると1992年に既に持続可能なレベルを超え、食糧生産が頭打ちになる「成長の限界」が来るのは、なんと本年の2020年である。

 しかし、図1(農林水産省)が示すように、予想通り世界の耕地面積は頭打ちで伸びておらず、その意味で予想は正しかったのかもしれないが、予想に反して1980年以降も単収は伸び続けており、その結果として世界の食糧生産も伸び続けている。この理由は、大気中の二酸化炭素の増加と、地球全体の温暖化によるものと考えざるを得ない現象であり、これによって人類は救われていると言えよう。

図1 世界の穀物の生産量、収穫面積、単収等の推移と見通し(1961年=100)

農業と二酸化炭素

 空気中の二酸化炭素を増やせば、単収が増すというのは古くから行われていた農業技術である。野菜や果実などの生産を伸ばすために、ハウス内の二酸化炭素濃度を高める方法は広く行われているが、昨今の地球は、全体がこのようなハウスの中のようになっていると考えることもできる。ちなみに、地球の二酸化炭素は、この100年で100ppm近く上昇し、30%以上も高くなり、400ppmを超えている。下に示す表1は、二酸化炭素濃度を100%近く高めた時の、作物の収量増加を示したものである。穀物や野菜・果実を問わず、作物は一様に収量が高まっているのが判る。

 このような例は、地球全体の緑の増加によっても裏付けられている。図2は、温暖化が始まった1982年から2010年までの28年間の「地球の被覆率」の変化を衛星データで示したものである。緑の濃いところは、植生が増えているところであり、赤いところは植生が減っているところを示している。これによると、サブサハラ、東アフリカ、インドのデカン高原、西オーストラリアなどが顕著に緑が増えており、その増加率は28年間で11%であったと報告されている(ドノヒューら2013)。一方、植生が減っているのは、シベリアの北部やアラスカの北部、オーストラリアの中央部などが見て取れる。シベリアのタイガは、温暖化によって永久凍土が溶け、森林が崩壊していると言われているが、一方で、そこから天然ガス田、油田が多く見つかっており、化石資源の賦存量は飛躍的に高まっている。

図2 二酸化炭素の増加による世界の緑化(衛星データ)

食物連鎖の頂点に立つ人類

 農業は、植物が太陽のエネルギーを使って空気中の二酸化炭素を固定するところから始まるが、植物の光合成は、動物が利用できる形の炭水化物や蛋白質を作りだし、同時に酸素を作り出す重要な働きであり、農業なくして動物の栄える緑の地球は存在しない。

 振り返ってみると、人間をはじめとするあらゆる動物は、植物の作った炭水化物や蛋白質を利用し、空気中の酸素を利用し、二酸化炭素を放出している。人が食べる肉類も、その動物が植物を食べ、酸素を利用してできるものであり、人が直接食べれば効率がよいものを、わざわざ植物を動物に食べさせ、その肉を食べている。

 海産物にしても、ほぼ全ての出発は植物プランクトンであり、それを動物プランクトンが食べ、それを小魚が食べるという食物連鎖があり、人間は、その頂点にいるマグロなどの海産物を食べている。また、海藻も光合成をし、貝類や動物などが食べ、それを人間が利用している。その大元は、二酸化炭素と太陽の光エネルギーであることを人類は忘れてはならない。

2020/1


【寄稿】
GAPの本質と世界の潮流に触れたスペイン・アルメリア視察

鶴田諭一郎 株式会社マルタ 代表取締役社長

 初めまして、株式会社マルタの鶴田と申します。私たちマルタは全国1,600名ほどの契約生産者が出資して作ったネットワーク型生産組織です。

 この度、一般社団法人日本生産者GAP協会主催による「世界のGAP先進地スペイン研修ツアー」に参加し、11月17日~25日の9日間、スペイン視察に参加させていただきましたので、その内容についてご報告するとともに、感じたことを少し書いてみたいと思います。

冬期間の欧州最大の夏野菜産地

 今回は、スペインの南端にあるアルメリア地区を中心に視察しました。同地区は、世界でも類を見ない無加温ハウスの集積地帯であり、衛星写真でみてもそれと分かるくらいのビニルハウス群であり、トマトやミニトマト、キュウリ、パプリカ、ナス、ズッキーニなどの夏野菜を中心に栽培し、その65%以上をEU域内中心に輸出しているとのことでした。

 アルメリア地区の中でも最大の産地であるエレヒド市(エル・エヒド市)は、元々ブドウぐらいしか育たない不毛な乾燥地であり、貧しい農村地帯であったとのことですが、ここに1960年代に野菜の施設栽培が入り、あっという間にエレヒド市だけでも1.2万haという野菜の巨大産地になりました。

 巨大産地化が進んだのは、地中海沿岸にありながら、気候は砂漠気候で、年間降水量が280ミリ前後と雨が少なく、晴天が多いという特徴と、背後にあるシエラネバダ山脈の伏流水が湧き出ていること、東欧や対岸の北アフリカも含めた安い労働力が容易に確保できること、そしてスペインを縦貫する道路整備により欧州各国へのアクセスが確保されたことがその要因です。

航空写真でも白い海のように見える広大なハウス群

 また、何よりも欧州の他産地に比べて気候が非常に温暖であり、積雪も風害も無いため、「無加温のパイプハウス」で栽培ができ、これが例えばオランダ型施設栽培と比べて大きく違うところです。栽培技術については、当初オランダの技術や設備も検討したそうですが、ローコストにできないということで、当時国内の温室栽培の先進産地であったカナリア諸島から技術を導入し、自前で発展させてきた歴史があるとのことです。

 ここが砂漠気候であるため、1年の内で雨が降るのは20日程度ということでしたが、なぜか今回そのうちの3日間に当たってしまいました。大した雨ではないのですが、街には排水設備がないためか、歩道がすぐに川になってしまうという乾燥地ならではの光景を目にすることができ、それはそれで貴重な体験でした。

 ちなみに、今世界的に急発展している農業の集積地は「乾燥で且つ水が手に入る」「温暖で災害や天候変動リスクが少ない」「安価で豊富な労働力がある」「市場へのアクセスが良い」などが条件になってきており、日本のように総じて雨が多く、天候異変の多い地域は、実は敬遠され気味ということが分かります。水は灌水で与えた方が効率的に栽培できるという考え方です。

 農業の不適地や発展途上国において、段階を踏むことなく一気に野菜の一大供給産地になることを「リープフロッグ現象」と呼ぶそうですが、野菜の栽培適地と分かると他地区や他国からどっと生産者が参入し、あっという間に集積地ができる光景が見られます。農耕民族という言葉がほぼ地域密着である日本とは大きな違いがあるなと感じた次第です。

協同組合の役割とはし

 アルメリア地区の農業経営の特徴は、小規模家族経営が集まった協同組合が発達しているということです。昨年視察したオランダでは、同じ施設栽培でも、1棟で5~10haという大規模ガラスハウスを見てきましたが、アルメリアでは施設の平均経営面積が1.5ha程度であり、もちろん日本の0.3haに比べれば大きいのですが、やはり親近感が湧きます。

 一戸あたりの経営面積は小さいのですが、彼らは100~500名単位で販売専門の協同組合(単協)を作り、これら単協がまた集合して販売専門の協同組合(連合会)を作っていました。今回、日本から一緒に視察で回ったメンバーは単協・経済連・全農・全中の方々とJA関係者が多かったので、組織の在り方・組織管理の方法などの視察という意味でも大変興味深い視察となりました。

 まずこの部分から報告したいと思います。

参加者は、生産者 GAP 協会の田上理事長以下、JA全中・全農のGAP 推進チーム、
大学の研究者や県の普及員などです。大いに勉強になりました。

 お隣のイタリアも同様でしたが、スペインでも「協同組合」という組織形態が税制上等の優遇があるということで、割とポピュラーな形態であり、EUの農業政策の中でも組合員の方が補助を受けやすくなっているとも聞きました。

 スペインの協同組合は、組織形態が幾つかあり、大きく分けて【S.C.A.】と呼ばれる出資者一人一票制の農協と、【S.A.T.】と呼ばれる出資額に応じて議決権がある協同組合に分かれます。田上理事長の説明によると、最近元気が良いのは【S.A.T.】の方だということでした。

 GLOBALG.A.P.認証に関しては、彼らは販売に特化した協同組合ですので、「販売のために」と「品質管理のために」というシンプルな2つの目的で認証の取得を活用していました。GLOBALG.A.P.に関して言えば、協同組合に加盟している生産者は、全員が認証を取得していて、形態は協同組合単位のグループ認証(オプション2)になります。

 ちなみに欧州では、GLOBALG.A.P.は「最低限」の認証であり、これが無いと商談のテーブルにもついてもらえないとのことでした。各組合とも、GLOBALG.A.P.にプラスしてGRASP(労働者の人権など社会的・道義的責任に対するリスクアセスメント・通常GLOBALG.A.P.とセットで受ける)、IFS(ドイツ小売り協会が定めた食品安全のためのサプライチェーンの規格)、BRC(選果場の認証)等に加え、テスコやリドルなどの販売先ごとの認証、あるいはオーガニックやIPMなど本当に多くの規格において認証を取得していました。

 単協・連合会それぞれの協同組合には「QC(品質管理担当者)」がおり、彼らが認証関係の対応を行います。もちろんQCは文字通り出荷物の品質を管理することこそがメイン業務であり、その一連の管理体制の中にGAP認証があるという感じです。品質管理についての質疑で参加者からの質問がGAP認証に集中するのに対して、「GAP認証がそんなに特別なものなのか?」という彼らの態度が印象的でした。

どの組合に行っても「私たちが取得している認証」のリストがプレゼンテーションされる。上記はラパルマ農協の例:
①食品安全、②社会的責任、③持続可能性の3分野それぞれで複数の認証を取得している。

 QCは一つの組織に2名程度しかいないので、彼らとは別に、これも組合に所属する「テクニコ」という技術指導員がおり、これと連動して農産物の品質管理を行います。テクニコは、組織内で生産者に密着して活動しており、その範囲はおおよそ20~30名の生産者を一人でカバーする形です。その仕事は、技術の指導・普及から新品種の試験栽培の他、広く栽培指導や生産計画の作成などの経営のコンサルも行う「よろず相談員」といった感じでした。

 テクニコと生産者の関係はかなり密で、相互に信頼関係があり、作物に病気が発生した場合、何の農薬を散布するかを決めるのもテクニコの仕事ですし、もちろんこれらを記録するなどのGAP的管理も彼らの仕事になります。更には例えば、週ごとのトマトの出荷予定数量を組織の営業担当へ報告するのもテクニコの仕事ということでした。

 スペイン・アルメリア地区の農業におけるこのテクニコという存在は、かなりユニークであり、日本の改良普及員や営農指導員とも異なり、ありそうでない存在だなと感じました。彼らは、アルメリア大学などでの専門的な勉強を経て協同組合や市場に就職するようになっており、地元では人気の職種である。彼らの給料も、大卒初任給が月に12万円程のところ、テクニコは月に30万円程と非常に高く、最近は農家の子弟がなることも多いとのことでした。なお、どの組織でも基本的にテクニコが不足しており、中には組織間の引抜きも発生しているということでした。

 ちなみに、組合員になる要件としては、何年間かの准組合員扱いを経て、出荷物の品質やGAP等の品質管理レベルが認められれば、晴れて正組合員になれる仕組みだそうです。加入条件としては、出資+全量出荷+生産・出荷資材は組合を通じて購入するなどの条件がありました。

 さらに、先にも触れましたが、協同組合(単協)が集まって作った販売のための連合会もあります。これも協同組合の形式です。また、それら単協や連合会が加盟し、教育・トレーニングやロビー活動などの政治活動を行う組織もあり、この辺は日本のJAと非常に良く似ています。

 単協が集まって販売組織を作るのは、欧州の小売りが巨大であるためであり、産地は産地で結集して供給力を大きくし、小売りに対抗する交渉力を持とうという戦略でした。よって連合会の場合、販売部隊(マーケティング部署)は連合会にしかなく、単協の職員はQCとテクニコおよび選果場スタッフがいるという具合に業務分担しているのが普通のようです。

 また、連合会の役割として複数の単協の販売を統合することにより、情報システムや物流・選果施設の統廃合も進め、単協単位で幾つもの品目を選果するのではなく、専門化を進めるなど効率のアップ・コスト削減も図っていました。

 但し、日本のJAと比べてユニークであったのは、単協が所属する連合会に満足できないと判断すれば、連合会を乗り換えることが起こるということです。実際に連合会を乗り換えた単協にも訪問しましたが、彼らがはっきりと「新しい組織の方が販売に有利だったから」と説明していたのが印象的でした。

 ここで、単協の実態を理解して貰うために、一例として「コプロニハル」というオーガニックのチェリートマトを中心に生産している協同組合のことを紹介してみます。この農協は32年の歴史を持ち、【S.C.A.】形式、つまり一人一票制の農協です。組合員数は200名で正組合員が160名、トライアル中の准組合員が40名という構成です。総面積は500ha、つまり一戸当たり2.5ha平均の面積で、組合がある「ニハル地区」は、隣のエレヒド市に比べて気温も低く、また土壌や用水の塩分濃度が高いため、いわゆる塩トマトのように美味しいトマトができるということで、全面積の80~85%はトマトを栽培しているということでした。

 コプロニハルは、その中でも特に食味の良いチェリートマトの生産が主体であり、ミニトマトの反あたりの収量は平均14.5tの計算でした。栽培はほぼ年間で、夏は高地のグラナダでも生産し、品種はチェリーや黄・黒・オレンジなど様々な品種を栽培していました。

選果場に持ち込まれたミニトマト
ミニ・大玉ともヘタ無し品種多い。

 組合としての年間出荷量は6万トンで、うち90%をスペインの国外に出荷しており、主な販売先は英国やドイツとのことでした。

 組合の売上は、年間約6,000万ユーロ(約72億円)と、ちょうど1kgが1ユーロ(120円)の計算です。売上の50%がミニトマト(うち60~70%がチェリートマト)で、25%が他のトマト、25%がスイカ・メロンという構成でした。栽培は約33%がオーガニックで、残りも全て天敵を取り入れて農薬散布を減らしているIPM栽培ということでした。

 セカンドグループ(連合会)は、アネコープというバレンシア州に本部を置く巨大な販売組織に属しており、40%はアネコープを通し、60%は直接販売で出荷しており、現在アネコープ経由の販売を増やしているとのことでした。

組合員へのサービスとしては、以下のようなものを挙げていました。

  1. 品質管理・食品安全の指導や認証取得に関するサポート(GAP含む)
  2. テクニコを通しての生産技術等の指導(IPMの技術や新品種等の情報提供含む)
  3. ハウス資材や肥料・農薬・出荷資材等の購買(グループ内に専門の会社有り)
  4. 人を雇う法律的なサポート
  5. 補助金情報の共有

 なお、3.の資材の購買事業に関しては、ここで利益を上げるというよりも、まとめて購入することによりコストを下げる目的と、使う資材を統一することで生産者が何を使っているのかを把握したいという2つの目的があるということでした。実際に包装容器の資材単価を聞きましたが、下に写真で示した包装容器が非常に安くて驚きました。

このバケツ型パックの資材代がわずか8円!

  組合としての販売手数料(選果や物流経費を除く)は正組合員が6%、トライアルの准組合員が9%で運営されていました。なお、准組合員であっても出荷は全量が義務であり、組合のボードメンバーは10名で、4年に一度改選されるということでした。

  また、他の協同組合も同じでしたが、QCやテクニコといった人的整備への投資に加え、選果場への投資も積極的に行っているのが印象的でした。コプロニハルでも、既存の2.2haの選果場に加えて、今年まさにオーガニック専用の1.2haの選果場(能力は既存の選果場と同じ)を新設しているところでした。

真新しい選果場。衛生管理はもとよりトレーサビリティと従業員の働き易さに特に投資している印象でした。

 同組合で取得している認証は、GLOBALG.A.P.以外に、IPMは100%、GRASP、ネイチャーズ・チョイス(英国のスーパー「テスコ」が要求する認証)、フィールド・トゥ・フォーク(英国のスーパー「セインズベリー」が要求する認証)、選果場はIFSとBRC、オーガニックはCAAEというスペインの認証、他にもSEDEX(サプライチェーン管理システム)、ISO9000とまさに百花繚乱の趣でした。ちなみに、この組合におけるテクニコは200名の生産者に対して8名でした。

 GLOBALG.A.P.を含めた各種認証のコストは組織で負担していますが、販売管理経費なので最終的には組合員が負担することになります。他の組合もほぼ似たようなものですが、色々な認証も生産者ではなくQCとテクニコが対応にあたり、トレーサビリティを含めた情報管理システムの普及も相まって、認証費用だけで言うと一戸あたり年間数千円~1万円程度とのことでした。

 これが世界で最もGLOBALG.A.P.の認証件数の多いスペインにおける実態であり、よってGLOBALG.A.P.は付加価値にはなりえず、営農を行うに当たっての当たり前になっていることが分かります。つまり、スペインの協同組合は販売専門ということもあり、組合員の野菜を集めて付加価値をつけて販売し、組合員の利益を最大化しようと「シンプルに」動いている実態を見ることができました。当たり前と言えば当たり前ですが、改めて「組織は誰のものか」という問いを突き付けられた気がします。また、同一地区に多くの協同組合が存在することで、儲からない組織、儲けさせてくれない組織にはついていかないという「選択の自由」が生産者にも単協にもありました。実際に組織が割れて、離合・集散を繰り返し、それが結果的に販売力・経営力のある組織に集約されている様も見ることができました。

 「組織は選ばれるものだ」ということが、当然のことですが、改めて目の当たりにすると非常に新鮮であり、刺激になり、今回の視察で得た最大の収穫と言えます。

組合員総会が開かれる会議室はどこの組合も立派!

生産者としての幸せについて考えた

 次にスペインの生産者・生産現場についての事例を報告します。

 まずは、UNICAという連合会から紹介された生産者のホセさんです。ホセさんは中玉トマトが専門の農家で、2棟で4.7haという地域では比較的大規模な農家です。生産したトマトは選果され、全量がオランダに出荷されているとのことでした。

生産者のホセさん(左)と
テクニコのイシドロ(右)さん

 中玉トマトは、8月中旬に定植し、10月20日から5月一杯の7ヵ月ちょっとの収穫期間です。収量は反あたり10tの計算で、農家の手取りは1kgあたり1ユーロ(120円)程度です。従業員は17名で、内3~4名の常雇いを除いて残りはパートです。国籍はモロッコ・リトアニアなどの東欧系にスペイン人で、農場の共通言語はもちろんスペイン語です。

土耕+養液栽培 品種はコステルという中玉
底面が開いており、根は地面についている

 培地はココナッツの繊維を用い、苗は組合指定の育苗業者から購入します。1ha当たり3万本で、3本仕立て×1万鉢を入れます。ハウスを覆うビニルシートは2重になっており、外側は3~4年に一回取り換えますが、内側は毎年取り換えます。ここアンダルシア州南部のアルメリア県では、太陽光線が強いため、2月にはもう遮光のために石灰塗布を始めます。収穫が終わった後のトマトの残さは、組合のプラントまで持っていき、コンポストとして再利用します。交配は蜂を使います。水は雨水を回収して地下ダムに貯めておくのと、共有井戸からの地下水を使います。「水は重油よりも高いよ」とホセさんは言います。ちなみに、ここアルメリアでは、シエラネバダ山脈の伏流水が湧き出ているので農地の集積が進んだと書きましたが、それでもこれだけ集積が進んでいるので水は本当に貴重なようです。ハウス(農場)に降った雨水を余すことなく使うようにという条例があり、各自地下ダムや地上の貯水池に繋がる側溝が設置されていました。また、海水を真水にして使用するプロジェクトも行われているそうです。

 協同組合は資金を貸したりしません。借りる場合は、一般の金融機関からであり、多くは地元のカハマール銀行というこれも協同組合系の銀行からとのことです。ハウスを建てるコストは、1haに対して1千万円強と実に安価です。ランニングコストは1ha当たり年間240万円ほどです。

新築中の平張ハウス 台風などないのでパイプも細い。

 所属する単協のナトゥールスルでは、220名の生産者で8名のテクニコがおり、大体一人で80ha程を管理しています。栽培前に、マーケットからの情報や土壌分析の結果を元に次の作付けにどの品目・品種を植えるかをテクニコが計画し、テクニコから生産者に作付けの提案があります。話し合いで計画が決まれば、例えば肥料についても土壌残留や在庫数等を見てテクニコが発注します。苗木業者へ数量を発注するのもテクニコが行うということです。

 テクニコは10日に一度程度の割合で生産者を見回ります。それ以外でも、病気や害虫などについても、いつもと変わったことがあれば、ホセさんはテクニコに電話で連絡し、テクニコが使用農薬を指示し、散布作業はライセンス(資格)を持ったホセさんが行います。

 実際に経営者としての判断の多くをテクニコが行っていることには少し驚きます。生産者がテクニコを気に入らなければ、チェンジすることもできます。テクニコは、生産者の収量や収入が上がったからといって、ボーナスなどのインセンティブはありませんが、翌年の契約を継続することができます。生産者のホセさんに「今の面積を拡大する気はありますか?」と聞きましたが「全く考えていない」「今で十分だ」という応えでした。

 もう一つの事例は、これもUNICAグループに属する協同組合「カバスク」の生産者のホアンさんです。ホアンさんの栽培している品目は、長系のジャンボピーマン(パレルモ)とパプリカです。面積は3haで従業員は3名です。今年は7月24日に定植し10月下旬から5月頭まで収穫できます。その後は夏休みになります。栽培はIPM栽培で、天敵はスワルスキー(カブリダニ)を使っています。

ピーマン(パレルモ)と天敵生物
砂地に直接定植+灌水チューブ

 元々ここの土壌は石が多かったので、石を叩き砕くところから始まったそうです。その上に約20cmの土を客土し、更にその上に牛糞とコンポストを混ぜた堆肥を2cmほど敷き、最後に8cmの厚さで砂をかけて定植したそうです。肥料は全て養液で化成肥料を与えます。土壌は5~6年同じものを使用し、時期が来たらまた堆肥を敷くところから始めます。収穫が終了したら、夏の間にビニルシートを敷いて太陽熱消毒を行います。例えば、パプリカからナスなどへの輪作は、良いアイデアですが、テクニコの意向すなわち市場の意向に従うようにしているようです。

 農薬の散布等の記録は紙で保持しています。テクニコからの指示が紙で来て、これに実際の散布日時と、スポット散布なので散布場所を記録し、テクニコに返しています。生産者の保持している記録をテクニコが確認することはありますが、聞いている感じではテクニコの指示は絶対のようで、指示はそのまま実行することであり、テクニコも「指示した記録を大事にする」ということでした。

 パレルモ(ジャンボピーマン)は90%を「赤」で収穫します。味も赤い方が甘く需要もあります。協同組合の買取り価格に最低価格保証のようなものはなく、全てマーケットの動向によります。

左が生産者のホアンさん、 右がテクニコのローサさん

 従業員は7月から翌年の5月までの有期雇用であり、働いていない期間は失業保険を貰い、基本毎年同じ人が来ます。3名のうち2名はスペイン人で、1名がモロッコ人です。時給は7ユーロ(840円)でモロッコ人も同じです。

 農場の経費では人件費が最も大きい。最近は比較的景気が良いので、やはりスペインの若者は、農業現場で働きたがらないということで、人手不足は日本と同様でした。就業時間は8時~15時半で、途中昼に30分の休憩があり、1週間に月~土曜日の6日間の出勤です。

ピーマン(パレルモ)のハウス

 「GLOBALG.A.P.認証を取得して長くなるが、初年度が最も大変でした」と語る。最初から完璧を目指すのではなく、充分な教育とトレーニングを受けながら、2~3年で今の状態に持っていったということです。

 下の写真は、アンダルシア州政府発行の農薬取扱いのライセンスです。ホアンさんは上級資格を持っています。「この地域の農家は皆さんライセンスを持っているのですか?」という質問には、「車を運転するのに、免許証を持っていないドライバーはいないだろう!」とさらりと男前な回答がありました。

農薬購入・散布のライセンスを示すホアンさん

 テクニコのローサさんとは20年来の付き合いであるが、彼女が来る頻度は一ヵ月に2回程度で、それも一回に1時間程だそうです。ホアンさん曰く「テクニコは医者みたいなもので、困った時に診て貰えればいいんだよ」とのことでした。8時から17時の間で何かあればすぐ電話で相談するという。ホアンさんは今60歳。12歳の時に約50km離れたグラナダから一家で入植した。大学は行っていないが、単協・連合会・自治体で充分且つ様々な教育プログラムやトレーニングの場があり、そこで学んできた。

 後継者については、子供は2人で、現在息子は30歳でエンジニアをしている。「娘は20歳で、法律の勉強をしており、たまに手伝いに来るが、ここは継がないんじゃないか」という。この地区は、収入が安定しているので、80%以上の農家に後継者がいるという。

 もし、今ハウスを含めてこの3haの土地を売ったら100万ユーロ(1億2千万円)程では売れるだろうという。実際にハウス付き農地の価格は㎡あたり4.5~5万円が相場という。このエリアではもうハウスを増やせないので、売り手よりも買い手の方が多い。後で施設(ハウス)の建設費を聞いたら、ha当たり1千万円前後なので、やはり農地そのものが高いということであろう。

 パレルモとパプリカを作っていて、収量はシーズンで反あたり8~10t平均で、売上は3haで24万ユーロなので、反当たり96万円になる。これで経営者や従業員の労賃を引いて残る利益はha当たりあたり2万ユーロ、つまり反あたり24万円である。これはこの地区の平均のモデルであり、大学や銀行の試算とも合致する。

 反あたり24万円の利益、つまり3haで720万円になるが、「これで満足ですか?」という質問には、「充分に満足している」とのことであった。まだ60歳であるが、「年齢のこともあり、これ以上拡大するつもりはない」といい、「もし息子がやると言えば拡大するかもしれないが・・・」と言葉を濁した。「農業をやってきて良かったことは?」という質問には、協同組合の中で自身が成長できたことを挙げていた。自分一人ではここまで拡大も成長もできなかったが、カバスクという協同組合の存在もそうだし、カバスクが中心となって連合会UNICAができてから、更に良くなったとのことである。

 今回私は、昨年度当社の海外視察で訪問したオランダとの比較で、スペインの農業経営を眺めることができました。

 オランダは、世界でも有数の農業先進国というイメージがあり、巨大なガラスハウスであったり、最先端のIT技術、世界第2位の農産物輸出国であったりと、昨年の視察でもその「強さ」に触れました。実際にアルメリアでも、特に種苗についてはオランダの各社が最大手であり、現地に研究所もありました。一方で、オランダの個々の農業経営の内実はそれほど豊かではなく、そもそも施設や技術に対する投資コストがかさむ上に、近年EU域内外からの安い農産物の流入による単価安に悩まされている実態も見てきました。

 オランダの、特にトマトなど夏野菜にとっては、現在のEU域内最大の競合相手がスペインだと思いますが、今回そのスペイン・アルメリアの農業をみると、「何とコストがかかっていないことか!」ということに驚かされました。無加温であるというだけでなく、「2月から遮光が必要」ということは、冬でも補光が要らず、最大の経費である人件費も時給換算するとオランダの半分程度です。また、スペインでは、コストをかけない分、土耕で栽培できるために、「オーガニック」という付加価値が付けられ、これは結構なアドバンテージになります。実際に、アルメリア大学で聞いた情報によると、IPMが普及していることもあり、アルメリア県では、生産される農産物の40%がオーガニックということでした。栽培面積も小さく、ハウスの構造や炭酸ガスの施用もないということで、収量や反収自体は当然オランダに比べて低いのですが、結果的に満足できる利益が残っているのであれば、生産者としてはやはり幸せだと言えるのでしょう。

 しかし、実際、スペインで会った生産者は経営者としての多くの判断をテクニコ、つまり組織に委ねており、「果たしてこれが経営者と言えるのか?」それは地主ではあるけれども「実態はワーカーではないのか?」という疑問を常に考えていました。

 GLOBALG.A.P.認証についても、例えば全世界の認証件数20万件のうち、実に20%がここアルメリアに集中しているそうです。世界で最も認証取得生産者が多い地区の実態として、結局、多くの家族経営体をまとめるための品質管理や組織管理のための「ツール」になっていることが判ります。これは良い悪いは別にして「そういうものだ」と理解する必要があると思いました。

 もし、この仕組みを、例えば日本の農協や生産組合(マルタも同様ですが)に導入するとしても、日本の農業経営者が組織の意向にここまで唯々諾々と従うのか、あるいはその前に組織として皆をまとめることができるようなシンプルで明快な方針を示せるのか、組織としてのリーダーシップや経営能力・統治能力を試されるわけであり、超えなければならないハードルが多くあるように感じられました。しかし、だからと言って現状のように中途半端であるわけにはいかないのですが。

 なお、当然スペインにも組合を良しとしない生産者もいます。彼らは、これも地元にある競り市場を中心に出荷を行い、案内役の方が言うには、彼らは一戸当たり4~5haと比較的経営面積も大きく、栽培の技術レベルも組合に加入している生産者に比べて概ね高い(でないと生き残れない)ということでした。ちなみに、アルメリアの競り市場にもテクニコがおり、市場に出荷する生産者をまとめてGLOBALG.A.P.のグループ認証を取得しています。それくらい、GLOBALG.A.P.認証は取引に必須だということです。

競りの様子は電光掲示板に映し出される
 オークション・マーケット(競り市場)の風景。左のように毎日決まった時間に競りを開催(当然相対も多い)。競りは全て機械化されており、競り下げ方式であった。

 また、今回は訪問できませんでしたが、例えばビオサボールという、協同組合を抜けて300ha(!)の自社農場を持ち、オーガニックのトマトやフルーツを中心として生産・出荷する巨大な農場(グローワー・パッカー)も現れるなど、やはり協同組合だけではない世界もあるということを付け加えておきます。

【*】スペイン産オーガニック中玉トマト(500gで143円)。ここカルフールでは慣行栽培で同産地同品種のバラがkgあたり179円で販売。慣行が安すぎるため、パックであることを考えても1.6倍の価格で販売されている。当然あまり売れている感じではない。なお価格・価格差についてはスーパーによってかなり差がある。

グローバリゼーションの残酷さ

 アルメリア地区でも、日本同様、農家戸数は減り、経営面積が増えていますが、そのボトルネック(制約要因)は人の問題とのことです。現在、ワーカーの80%が外国人で、また農業に英国など外国資本の参入も始まるなど、国際色が豊かになりつつある現状も確認できました。自然条件を背景にしたコストの安さと農業関連産業の集積度を考えれば、EU域内における冬期間最大の夏野菜産地という地位は当分揺るがないのではないかと思われます。

 しかし、アルメリア大学で「スペインの競合相手はどこか」と聞いたところ、それはオランダではなく、実はモロッコやトルコが今後の強力な競合相手になるのではないかとのことでした。例えば人件費で比較すると、スペインは時給7ユーロに対して、モロッコは0.8ユーロ(!)とこれぐらいの違いがあります。気候条件が似ていて人件費がこれだけ安いところに、今どんどんアルメリアからの技術移転・設備の輸出が始まっているということでした。

 またモロッコは、現時点では関税や物流などEU圏の恩恵が受けられませんが、例えば英国がEUを離脱したのち、英国とモロッコとでFTA等の二国間協定を締結しようという話がすでに進められているとのことです。ですから、EU諸国も購買力のある英国の離脱に強気に出られない一面もあるようでした。

 具体的な数字で言うと、アルメリアの現在の農業生産額はおよそ30億ユーロ、これに対して農業関連産業の売上はすでに20億ユーロに達しており、すぐに農業生産額を追い抜く勢いです。これは、モロッコをはじめとした北アフリカ諸国へどんどんと輸出が拡大しているということでした。また、アルメリア大学自体にも、モロッコなどからの外国人留学生が増えており、更には卒業したテクニコも、地元スペインで働く何倍もの高給で北アフリカや南米・中国に技術指導に行くということでした。

 当然ながら、アルメリアの農業生産法人がモロッコに行って農業を始めている例もあると聞きました。「それでいいのですか?」という問いには、「自分たちが出ていかないと、他の欧州の農業法人がモロッコに入ってくるから」と少し弱気に答えていたのが印象的でした。

  これは、昨年訪問したオランダでも聞いた話ですが、自国の農業が強くなると、農業関連産業も栄えるということで、それ自体は良いことかもしれませんが、グローバル化の中で、そうした産業は当然国外への輸出が拡大し、結果的に自国の農業者が悲鳴を上げるという構図になります。

 オランダで言えば、今まさに脅威はスペインであり、そのスペインも今は勝ち組と言えますが、モロッコなどというその後の脅威を今自らの手で育てているというグローバリゼーションの残酷さ、理不尽さ、更にはそのサイクルの短さには驚かされます。また、そこに持続可能性や食糧安全保障という視点があればいいのでしょうが、どうも「コスト」という安易な物差しが幅を利かせているように思えてなりません。

お客様は神様です、をスペインで聞く

 今回スペインで、なぜ皆がGAPに取り組み、コストをかけて認証を取得するのかという質問をしたところ、ある組織の担当者から「お客様は神様だから」という言葉が返ってきたのは印象的でした。「エスタブリッシュメント」とは、強い権力を持った勢力が作り上げた社会秩序・体制という意味ですが、欧州で言えば英国やドイツなどを中心に、グローバルな調達を可能にするために作り上げた秩序・ルールがGLOBALG.A.P.の前身であるEUREPGAPであると聞きました。当時の背景として、小売業者それぞれにGAP規準をもっていた中で、欧州の小売業界として統一した基準を作るために、「各社が許容できる最低限度の」GAP規準を作ったとのことです。しかし、田上理事長の話では、「買う側」である英国内にはGLOBALG.A.P.の認証取得者はわずか50名程しかいないということでした。

 英国内の生産者は、テスコをはじめとした自国の小売業と取引するために、テスコのネイチャーズ・チョイスなど売り先独自の農場認証を取得するか、レッドトラクター認証などの小売りから独立した農場認証を取得しています。これらはGLOBALG.A.P.に独自の要求事項を付加したものであり、こうすることによりGLOBALG.A.P.認証のみで入ってくる輸入品と区別し、自国の生産者の保護と国民の食品安全や持続的調達を担保し、自らの経営リスクを低減していると言えます。実際に2012年ロンドンのオリンピック・パラリンピックにおける食材の調達基準は、GLOBALG.A.P.ではなく、より要求事項の多いレッドトラクター認証がメインでした。

 翻って日本を考えた時、実はGLOBALG.A.P.さえもスタンダードな調達基準にできていないことは、むしろ日本の農業者にとって非常に危ういことではないかと感じます。やはり、まずは小売り・実需者の責任に期待するわけですが、グローバルに調達する「必要も」「購買力も」ある日本で、いわば無秩序な状態であることほど危険なことはなく、早く国際的に通用するGAPを小売り・実需者の仕入れのスタンダードにし、プラスアルファの独自の要求事項を課していくことが、国内の安全で持続的な食の豊かさに繋がるのではないかと思っています。

  当然、国内の生産者も対応が必要になるわけですが、「GAPは面倒くさい」「認証コスト高い」などという従来の議論はそろそろやめて、「生産者責任あるいは供給者責任として当たり前のGAP」「取引条件としての認証」と割り切って、前へ進むべきだと思った次第です。

  その手法・ヒントについては、今回のスペイン視察で既に事例が提示されており、小規模家族経営においても、「やり方によっては不可能ではない」と学ぶことができました。そういう意味でも非常に有意義な視察になったことに、田上理事長はじめ事務局の皆様に深く感謝申し上げます。

2020/1


2019年度GAPシンポジウムのお知らせ
テーマ『GAPは生産者と消費者を信頼で結ぶ懸け橋』
1日目のテーマ:「農産物販売の考え方と取り組み」
2日目のテーマ:「グリーンハーベスター農場評価で動き出した産地信頼への取り組み」

【開催趣旨】

 2020東京オリンピック・パラリンピック大会の開催で、日本の農業界に突き付けられたGAP認証の取得は、農業生産者の実践が「持続可能な農業」であることを証明することで社会的責任を果たすというグローバルな要求事項に基づくものです。それはサプライチェーン全体の信頼性を通じて消費者に伝えるものでもあります。

 今回のGAPシンポジウムでは、オリンピック・パラリンピック後の更なるグローバル化によって変化する消費者意識に応えるために、流通業界はどのような対応をしているのか、また、どのように対応していけばよいのかを探ります。

 さらに、「生産段階で行うべきことは何なのか」ということについて、協同組合活動などを通じてGAPとマーケティングの先端を行くスペイン・アルメリア農業の研究報告を受けて、足下のGAPと営農指導について討論をしていきます。是非ご期待下さい。

【開催概要】
日 時:2020年2月27日(木)10:30~2月28日(金)16:30
会 場:東京大学 弥生講堂 一条ホール(東京都文京区弥生1-1-1)
主 催:一般社団法人日本生産者GAP協会
共 催:農業情報学会、(一社)GAP普及推進機構、(NPO)経済人コー円卓会議日本委員会(予定)
共 催:全国農業協同組合連合会(予定)
参加費:主催・共催・後援団体の会員 \10,000、一般 \15,000、学生 \2,000、情報交換会 \3,000
展 示:企業等による情報展示(出展料:主催・共催団体の会員 ¥60,000、一般 ¥80,000)
【プログラム】
2019年2月27日(木) 「農産物販売の考え方と取り組み」
10:35~10:40 開会
10:40~11:00 主催者挨拶:(一社)日本生産者GAP協会 常務理事 山田正美氏
11:02~12:00 基調講演:(一社)日本生産者GAP協会 理事長 田上隆一氏
「GAPと日本の農産物流通」(仮題)
12:00~13:00 昼食休憩/展示交流
13:00~13:50 講演:東京農業大学国際食料情報学部国際バイオビジネス学科 佐藤和憲氏
「国内外の農産物流通の現状と課題」(仮題)
13:52~14:42 講演:株式会社フルックスホールディングス 代表取締役社長 黒田久一氏
「流通業者の取組みとニーズ1」(仮題)
14:44~15:34 講演:丸西産業株式会社 監査役 岡島芳幸氏
「流通業者の取組みとニーズ2」(仮題)
15:34~16:00 休憩/質問用紙回収、展示交流
16:00~17:30 総合討論:27日講演者
「農産物販売マーケットの考え方と生産段階の取組み」
17:45~19:30 情報交換会:
2019年2月28日(金)「グリーンハーベスター農場評価で動き出した産地信頼への取組み」
9:00~9:30 受付/展示交流
9:20~10:10 講演:(一社)日本生産者GAP協会 理事長 田上隆一氏 「GAPは生産者と消費者を信頼で結ぶ懸け橋」(仮題)
10:12~10:50 講演:株式会社AGIC 事業部長 田上隆多氏 「産地が取り組むQMSとグリーンハーベスター」(仮題)
10:52~11:32 報告:宮崎県経済農業協同組合連合会 園芸部園芸直販課 奥村万里子氏 「スペインツアー報告1 生産・選果場・販売」(仮題)
11:32~12:30 昼休憩/展示交流
12:30~13:10 報告:十和田おいらせ農業協同組合 常務理事 斗澤康広氏 「スペインツアー報告2 農協の総合戦略」(仮題)
13:12~13:52 講演:全国農業協同組合連合会 耕種対策部GAP推進課長 門永章宏氏 「JAグループのGAP推進の現状と課題」(仮題)
13:54~14:34 講演:静岡県経済産業部地域農業課 農産環境班 主任 石川隆輔氏 「静岡県のGAP推進の現状と課題」(仮題)
14:34~15:00 休憩/質問用紙回収、展示交流
15:00~16:30 全体討論:28日講演者 「産地信頼への取組み」
*講演内容が変更になる場合もあります。

2020/1


2019-2020年度セミナー・シンポジウムの予定

 2019年度の各種セミナー・シンポジウム等について、下記のスケジュールで実施する予定です。

 グリーンハーベスター農場評価制度(「GH評価制度」)では、GAPの理解と普及のための教育システムとして、農業者、農業指導員等によるGAPの自主管理を推奨しています。

2020年
1月24日(金)

『GH評価員試験』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:7名、受験料:31,000円(税込)

2020年
2月27日(木)-28日(金)

『GAPシンポジウム』
場所:東京大学農学部弥生講堂一条ホール(東京都文京区弥生1-1-1)
参加料:主催・共催団体会員 10,000円、一般 15,000円、学生 2,000円

2020年度
4月27日(月)-28日(火)
7月30日(木)-31日(金)
10月26日(月)-27日(火)

『GAP実践セミナー』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:24名、参加料:30,000円(税込)(当協会会員24,000円)

5月28日(木)-29日(金)
8月27日(木)-28日(金)
11月18日(木)-19日(金)

『農場実地トレーニング』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:10名、参加料:30,000円(税込)(当協会会員24,000円)

6月29日(月)-30日(火)
9月16日(水) -17日(木)
12月17日(木)-18日(金)

『農業者のためのHACCPセミナー』 ※ウェブ受講可
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)GIC会議室(茨城県つくば市松代3-4-3)
定 員:24名、参加料:35,000円(税込)(当協会会員28,000円)

12月14日(月)

『農業者のためのQMSセミナー』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:24名、参加料:21,000円(税込)(当協会会員16,800円)

2021年
1月29日(金)

『GH評価員試験』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:7名、受験料:31,000円(税込)

2020/1


GAP関連用語の解説
アレルゲン表示の変更(アーモンドの追加)と農場でのリスク評価

田上隆多 株式会社AGIC 事業部長

 今般、アーモンドによるアレルギー発症者の増加を踏まえ、消費者庁次長通知が改正され(2019年9月19日付け)、特定原材料に準ずるものとして、新たにアーモンドが追加されました。

  アレルゲンを含む食品に関する表示については、食品表示法(平成25年法律第70号)第4条第1項の規定に基づく食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)により、特定原材料が定められ、それを含む加工食品に表示が義務付けられるとともに、「食品表示基準について」(平成27年3月30日消食発表第139号消費者長次長通知)により特定原材料に準ずるものが定められ、それを含む加工食品に表示が推奨されているものです。

特定原材料等の名称 理由 表示の義務
特定原材料 えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生特に発症数、重篤度から勘案して表示する必要性の高いもの 表示の義務
特定原材料に準ずるものあわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン、アーモンド症例数や重篤な症状を呈する者の数が継続して相当数みられるが、特定原材料に比べると少ないもの 表示を推奨 (任意表示)

  農産物は食品表示基準が適用されず、JAS法に基づき名称と原産地の表示が義務付けられています。一方で、法令上の義務とは別に、サプライチェーンを通じた食品安全性確保の観点から、農産物の生産段階における食品安全上のリスク評価を行い、必要に応じてリスクの低減を図ることが重要です。農産物生産段階におけるリスク評価においても、アレルゲンの混入について言及する必要があります。

  GLOBALGAP認証(IFA)の要求事項においても、アレルゲンについて言及している以下のような項目があります。

  (AF1.2.1)全てのサイト(圃場、農産物取扱い施設)について、食品安全、環境の観点から生産に適しているか判断するためのリスク評価を行う。リスク評価では、物理的・化学的(アレルゲンを含む)・微生物的危害要因、サイトの使用履歴などを考慮にいれる。

  (FV5.1.1)生産物と生産プロセスに合わせて、物理的、化学的(アレルゲンを含む)、微生物的汚染要因、人体からの分泌物、ヒトの伝染病についてのリスク評価を文書化している。

  (FV5.9.2)リスク評価の中で、潜在的な交差汚染リスクがあるとされている場合、生産国および出荷先国のアレルゲンを含む食品に関する法規に従って表示をしなければならない。

  また、消費者庁の資料「アレルギー物質を含む食品の表示について」(第56回消費者委員会食品表示部会説明資料)によると、くるみによる症例数が増えていることから、今後くるみを特定原材料として追加し表示を義務化することを検討することとなっています。今後も、これらの情報を注視する必要があります。

2020/1


株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載34回)
~人材育成に取り組んだ1年間~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 株式会社Cirrusを設立して8年が経過し、当初の目的の1つである人材育成の環境が整ってきたのか、様々な機関からの研修の引受け依頼がくるようになってきた。

 昨年の出来事を振り返ってみると、1月には地元の有田中央高校の生徒5名がインターシップとして弊社にやってきた。今年も1月28日、29日に研修生の受入れが決まっているが、今年で4回目となる。学校の目的は、学科に入学した生徒が2年生になったときに、専攻するコースを選択しなければならない。そのコースの農業系列を希望する生徒がインターシップとして農業を体験することで、2年生になるときに、農業系列を選択するかどうかの判断材料に役立つようにすることである。従って、この事業には慎重に対応している。

写真

 インターンシップのための事前打合せがあり、それぞれの生徒が弊社に挨拶に来るが、そのとき、生徒から卒業後の目標について必ずディスカッションさせて貰っている。明確に農業を目指す生徒は滅多にいないが、昨年は1人であるが、農業に就きたいという生徒がいて、とても頼もしさを感じた。インターシップはわずか2日間であるが、農作業を共にしながらGAPやさまざまな農業情報を提供させてもらっている。この影響か、農林大学校へ進学する生徒が出始めた。筆者と実習を指導する社員は、農林大学校を経験していることから、この点を注視してくれていたのかなと喜んでいる。

 2月には有田中央高校の2年生を対象に「生き方・在り方」と題する授業があり、学校を取り巻く法人や企業などの事業所の代表者がその講師として教壇に立つ場がある。毎年25人ほどの講師が招待されている。弊社も1つの事業所として認められたのか、2年間連続して講師として招待を受けてきた。今年も2月13日に開催が予定されていて、弊社の事業概要について説明して欲しいと依頼を受けている。

 この授業の目的は、生徒が社会に出たときに自己表現力が身に付くようにする訓練と聞いている。従って、この授業を受ける生徒は農業系列の者とは限らないが、弊社の農業経営の内容を示し、質疑応答形式で講師は生徒から意見を聞き出すのが狙いである。2年生になると、卒業後の進路を明確にする生徒が多くなるのは、実業高校の先生の指導が立派であると感じるひとときである。

 6月と10月の2回にわたって農林大学校からインターシップを受け入れ、過去に3回経験しているが、第一回目の学生は、現在弊社の社員として務め、栽培管理主任として従事してくれている。また、2回目の学生は、弊社に入社はしてくれたが、その後、自ら就農するために退社した。昨年受け入れた学生につては、残念ながら就農とはならなかったが、後期10月の実習の時に農業関連企業に就職が決まったとの報告を受けた。

 弊社社員の谷端栽培管理主任は、一昨年ではあるが、母校である農林大学校に先輩として農業生産法人で仕事をしている様子を後輩達に聞かせることができた。また、今年に入り、1月22日に母校の高校から農業体験の話をする講師の依頼が来ている。

 大学との関係では、筆者は農業生産法人の経営者として和歌山大学食農総合研究所のアドバイザリー・ボードメンバーの委嘱を受け、研究会に出席し、今年で4年目に入った。ここにきて、全国の大学で、農学部が設置されていない4県の内に和歌山県が含まれていることがわかり、筆者は機会を得て、和歌山大学に農学部の設置を強く訴え、周辺の農家らと共に声を上げ、学内の動きと情報を共有して活動をしている。昨年秋からは、農学部の設置に向けて政治家も積極的に研究を始めているので、農学部設置の可能性はゼロでは無いと期待している。

 農業関連の事業として、和歌山大学食農総合研究所がJAわかやまの寄付により、農業をテーマとした講義が年15回開催されており、その講義の一コマを筆者も担っている。昨年は1月22日に開催され農学部の無い大学の学生と社会人を合わせて275名が受講したが、そのリアクション・ペーパーを読むと、農業分野にも仕事を見出せるのでは?と、農業への関心を示してくる学生が多いのに驚かされた。今年も1月21日の講義を任されているので、気を引き締めたい。

 一方、大学生のからは、弊社の取組みやみかん産業について、卒業論文の課題として取り上げて貰えるようになってきた。昨年は、著者の母校である東京農工大学農学部生物生産学科の農業経営・生産組織学研究室の4年生Mさんから弊社の会社概要についてアンケートによる調査の依頼があった。伺ってみると、農林水産省のホームページに弊社の記載があったので、調査対象として選択したとのことであった。

 この連載にも取り上げたが、昨年11月には、東京大学農学部農業・資源経済学専修の食料・資源経済学研究室の4年生Tさんが5日間であるが弊社に滞在し、有田みかん産地における食品ロスを切り口とした調査活動を行った。収穫期の繁忙期であったが、調査に同行することで、著者も食品ロスではなく、多くの収益ロスの部分に気づくことが出来た。東大生の卒論対応は3回目であるが、今回は時間をかけて弊社のみかん園での調査や関係機関への聞取り等、学生のみかんに対する関心度の高さを強く感じさせ位貰った。

 GAP(持続的農業)に関しては、昨年弊社が(社)日本生産者GAP協会のGH農場評価を受けたが、この取組みをJA和歌山の機関誌「和歌山の果樹」に連載記事として投稿した。農業世界遺産に認定されている和歌山県の梅の産地「みなべ町」の生産者らは、世界遺産に恥じないようにとGAPに感心をもった若者らが、弊社のGH農場評価の記事を見て、「GAPの勉強会を開きたい」と講演を依頼してきた。そこで、生産者50人を対象に、弊社が実施したGH農場評価の結果について2時間余のGAP講習会を開いた。この結果については、別途報告する。

 最後に、これから農業に就くという研修生の農家実習を引き受けているので、そのシステムを簡単に紹介してみる。和歌山県農林大学校の就農支援センターに社会人課程があり、失業保険の受給を受けながらの研修(職業訓練)があり、9ヵ月間の農業研修を実施している。この研修の修了は、今年の2月である。そこから2名の研修生が、昨年10月から今年の1月にかけて25日間、弊社の社員と同様の勤務形態でインターシップに入っている。農業体験と言うより、農作業の厳しさや繁忙期の運営方法などを学ばせているものである。現在研修を受けている内の1人は、弊社に就職を希望し、採用が内定している。

 以上のとおり、学生や研修生等の若者が農業を目指すために、弊社の取組みをモデルにしての人材育成にようやく関われるようになってきている。今後もさらにこの事業を社会貢献の一環として発展させていきたいと考えている。

2020/1


編集後記

食讃人

 今回は、図らずも、グローバルな農業の動向を考える企画?になったようである。環境が相手の農林水産業は、地球規模の気候変動に着いて変化していかなければならない。食糧生産は、我々人類の生存がかかっている重要な産業だからである。

 地球の温暖化に対しては、農業では耐暑性の育種をするとともに、品種の移動も考えていかねばならない。水産業は、獲れる魚種や海藻類が変わってくるのだから、もっと厄介である。北海道で突然ブリ・イナダが獲れ始めると、経験のない魚種への対応は大変なようである。それでも最近では、イナダの刺身が東京でも安く食べられるようになった。イカの不漁や、若芽・昆布の不作も温暖化の影響と言われる。気温のデータは、近年の都市化のヒートアイランド現象の影響を受けていると言われるが、海水温は正直である。東京湾でサンゴが育ち、クマノミもコバルトスズメも住んでいるという。

 スペイン視察旅行について㈱マルタの鶴田諭一郎社長から玉稿をいただいた。オランダも視察されておられ、その比較と考察も大変鋭く、多くのことを考えさせられた。スペイン南部のアルメリアで始まった施設農業の集積が、世界に大きな影響を及ぼしている。日本で考えると、中国南部やアセアンの高冷地でも、同じようなことが考えられ、起ころうとしている。水が豊富で暖かく、労働者の賃金が安く、農業施設も中国が安く供給してくれる。タイやラオスの高原地帯、フィリピンのミンダナオ島などは、気候も安定している。タイは既にこのような農業生産を行っており、主に欧州と米国に輸出している。生産システムと野菜の品種は欧州のものである。そして「グローバリゼーションの残酷さ」では、欧州ばかりではなく、将来の日本農業の姿を予感させていただいている。これに対して、日本という国は、何をしているのであろうか。何をしようとしているのであろうか。

 佐々木理事の連載記事も34回を重ね、どんどん実績が積み重なり、活躍の場も広がっていることを、毎回楽しみに読ませて頂いている。この連載は、多くの農業者や農業関係者に勇気を与え、ヒントを与え、問題点を指摘する「現代を読み解く指針」にもなっている。是非、続けてお読みいただきたい記事である。

 欧州では、日本でいう農場認証GAP(GLOBALG.A.P.など)は、欧州のスーパーが発想し、欧州の農産物を外国の農産物から守るために作られた非関税障壁であるとの認識である。日本には本来の持続的農業を目指した公的なGAPは残念ながら存在せず、(社)日本生産者GAP協会という民間の「GH農場評価制度」があるだけである。しかし、この制度はあくまでも日本国内の持続的農業の発展を目指したものであり、農産物の輸出入に関係させたものではない。

 一方で、性善説社会の日本では、農場認証がなくてもスーパーは販売してくれる。しかし、海外のバイヤーは、農場認証がないと買ってくれない。高品質・クリーンというイメージのジャパン・ブランドは、世界では通用しないのである。そこで農水省は、海外のバイヤーが買ってくれるように、国費を投じて日本の農家に農場認証を取ってもらうよう予算措置をしているという。欧州の真逆の政策を、国費を投じて推進していると言えよう。それでも、国内的にはそんな農場認証は不要であり、余計な費用が掛かるGAPなんて面倒という雰囲気である。

 さらに困ったことは、HACCPの義務化である。工場で農産物を加工するとき、原料農産物のハザード分析が必要になるが、日本の農産物はGAP農場ではほとんど生産されておらず、勢い、ハザード分析ができる海外の農場に行ってしまう恐れが出てきた。ちなみに、アセアン諸国は既にASEANGAPというGLOBALG.A.P.をベースにしたGAPが義務化されている。日本も、海外と足並みを揃え、できるだけ早くGAPを義務化し、日本国内の農産物を守らないと、日本農業の衰退を加速してしまうことになるであろう。耕作放棄と農家の高齢化で充分衰退している日本農業を、これ以上追い込まないで欲しいと思う今日この頃である。

 今年は激動を予感させる年になりそうである。米ソの「冷戦時代」から、宇宙空間・サイバー空間まで巻き込んだ米・中ロの「新冷戦時代」になり、核軍拡が始まり、対立の構造が東アジア・中東・欧州・印パ・アフリカにまで及び、地球終末時計が30秒進み、あと2分になった。一方で、この事態を改善する和平への働き掛けも続いている。人類の英知に期待したい。

2020/1