GAP普及ニュース 60号
《巻頭言》
『Good Practiceの尺度とは?』
小池英彦 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事
GAPに関連づけて「自動車運転のGood Practiceとは何か」について車を運転しながらしばしば考えてきた。以前の巻頭言でも書いたが、まっとうに(「意地悪に」とも言う?)法令遵守ということを考え、制限速度40kmのところを、その通りのスピードで車を走らせるとどうなるだろうか! 河川の堤防道路などの狭く一方向にしか進めない道路では、たちどころに数珠つなぎとなるだろう。40km制限のところを40kmで走るという理屈は通りそうもない。
本当かどうか定かではないが、言い伝えによると、「+10 kmで走るんだよ」とか、(車の流れを乱さないように)「前の車に合わせて走れば良い」とか、自動車教習所でもそのように教えているらしい。そう言われると、自分もそう教わったのかもしれない。しかし、+10km位では足りない場合の方が多いようだ。
後続車が迫ってくると、心理的にいやなものである。車間距離が詰まってくると、追いかけられている気分になるからである。後続車は自分の運転に合わせているだけだ・・と、気にしないことが肝心だと思いつつも、ついついスピードが出てしまう。後続の運転者の顔をミラーで覗くと、皆イライラしている表情に見え、「もっと早く走れ」と言わんばかりに見えてしまう。後続の運転者の気持ちをついつい忖度してもキリがない。
自動車運転のGood Practiceは、つまるところ交通事故を起こさないことであろう。したがって、できれば、前の車が忖度しなければならなくなる運転ではなく、前の車の運転に共感して、制限速度以上のスピードを出したくても、充分な車間距離を確保するような運転をしたいものである。追いかけたくなる気持ちも抑え込んで・・・。
ここで、JAFの行っている調査から「信号機のない横断歩道での歩行者横断時における車の一時停止状況に関する全国調査」を引用させてもらう。
詳しくはhttp://www.jaf.or.jp/eco-safety/safety/crosswalk/index.htmを参照されたい。
JAFの機関誌「JAFmate」の記事にもなっているのでご記憶の方も多いかと思う。我が長野県の成績が良いので気を良くしたところではあるが、「本当に長野県では、信号のない横断歩道で車は一時停止するの?」と問われると、3年ほど前までは「???」であった。自分が車を運転している場合、歩行者が横断歩道で待っていることに気がつき、余裕があれば止まるかな、といった感じである。歩行者が横断歩道で待っていることに気付かない場合も多いことだろう。逆に自分が歩行者として横断歩道にいる時、ボーっとしていて積極的に渡ろうという態度を見せない場合は、車に止まってもらった経験はわずかである。しかし、なかなか渡れないので手をあげて前向きな姿勢を見せても、見過ごされて横断歩道を通過していく車も少なからず経験している。止まってくれるのは「全国平均8%、そんなもんじゃないの?」というのが実感だった。
ところが、2年前、異動で勤務地が変わり、とあるI市内で車を運転し、信号機のない横断歩道の歩行者になる機会が多くなって驚いた。それは、私の観察では、信号機のない横断歩道を渡ろうとする歩行者がいる場合、9割以上の車が一時停止していたのである。また、私が、ボーっとしていて積極的な態度を見せない場合でも、横断歩道の前に立てば、たちどころに車が一時停止して渡らせてくれるといった調子である。
ちょうどそんなとき、「JAFmate」のこのレポートを読んだので、長野県が成績の良い結果にうなずいた次第である。ちょっとひいき目かもしれないが、歩行者が横断歩道で待っていても、横断歩道をサッとやり過ごす車がいると、たいていは県外の車のように思う。そういえば、職場の朝礼等で週1回、「安全運転5則」とか「安全運転の5原則」などとしてスローガンを職員全員で唱和することころがあると思うが、I市の職場では「横断歩道の歩行者の安全を確保します」というような、歩行者へ視線を向けた文言があった。今の職場も含め、横断歩道の歩行者への気配りがスローガンになっていたところは、他にはなかったような気がする。
さらにJAFのHPからの引用
JAFのホームページには、『「信号機のない横断歩道での日本の交通ルールは、道路交通法第38条第六節の二「横断歩行者等の保護のための通行方法」で、「横断しようとしている、あるいは横断中の歩行者や自転車がいるときは、必ず一時停止をする」と定められており、ドライバーは横断歩道の直前でクルマを一時停止させ、歩行者や自転車の通行を妨げないよう義務付けられており、違反者には違反点数(2点)や反則金(車両の大きさにより7,000~12,000円)が科せられる」とある。日本では、このルールに対するドライバーの認識がなぜか非常に甘いようであり、規則はあっても守られていないことが大きな原因といえる』とある。
JAFは、「横断歩行者の事故や死傷者の減少の一助となるよう「信号機のない横断歩道」における車の一時停止率の向上を図る」ことを目的に、このような調査をしているとのことである。自動車運転のGood Practiceを啓蒙しているのである。
最後に、「安全に運転する」は、GAP認証の「管理点と適合基準」の内の管理点に相当すると思われ、「安全運転をしていますか」との問いになる。では、適合基準にはどういう文言が入るのだろうか? 管理点をもう少し細かく、「制限速度40kmの標識のある道路を安全に運転していますか」とすると、自分であれば「基本的に時速40kmで走行し、前の車との車間距離を充分に確保し、後続車が追い上げてきても気にしない」とでもしておきましょうか。
道路交通法第26条(車間距離の保持)
第二十六条 : 車両等は、同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行するときは、その直前の車両等が急に停止したときにおいても、これに追突するのを避けることができるため必要な距離を、これから保たなければならない。
2019/10
日本のGAP 全てはここから始まった 《連載第2回》
農場保証(Farm Assurance)の原型
EWT社のサプライヤー・コード・オブ・プラクティス(SCP)
田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長
生産者もサプライヤーとして消費者の信頼に応える
「片山林檎」がイギリスへの小玉りんごの輸出を開始したのは 1999 年 12 月で、今から20年も前のことです。片山さんによれば、最初のサンプル輸出には、“ふじ、陸奥、世界一、金星、王林”の大玉を選んで、高値での販売を目論んだそうですが、「こんな大きなりんごはシードル(リンゴ酒)向けだ」と言われ、2度目には金星と王林の中玉(250g前後)を送りました。それでも、「王林の味は気に入ったが、大きすぎる」と言われ、3度目に200g未満の超小玉サイズの王林を送ったところ、たいそう気に入られ、りんご輸出の手応えを掴んだとのことです。
販売先のエンパイヤーワールドトレード(EWT)社は、「片山林檎」自身がシッパー(shipper)として直接に取引することを条件としてきました。なぜなら、「生産者と消費者を可能な限り単純な線で結び、両者をハッピーにすることがEWTの物流事業の理念」だからです。それは、流通ルートが複雑になると、小売単価が上がって競争力が失われるという背景があるからです。「片山林檎」は生産者集団ですが、自身が輸出者になるということです。EWT社は青果物の輸入商社であり、パッキングセンターを持っている卸売企業なので、生産者-卸売業者-小売業者という単純な線で生産と販売を結ぶことができるのです。チェーンの中央にいるEWT社は、量販店(スーパーマーケット:小売業者)の要求事項を生産者に直接伝えることが可能です。
1999年5月にはEWT社の役員が来日して、取引きする商品の規格や梱包資材の詳細などを決めましたが、その際に両社は「EWT社のサプライヤー・コード・オブ・プラクティス(SCP)100」という「農場管理基準書」に調印しています。そこには農業生産現場で守るべき行動規範と、選果と出荷の際の行動規範が書かれていました。EWT社は、実際に生産現場に赴いて、その農場の運営や管理の実態が「SCP100基準」に適合していることを確認する、つまり、農場のGAP検査をすることで、小売業者に生産者農場がGAPであることを保証(Farm Assurance)するのです。
取引先信頼のための農場検査
EWT社の役員が9月に来日して、「片山林檎」の農場と選果場の管理状態が「農場管理基準書」(SCP100基準)の要求事項に適合しているどうかの検査が行われました。生産現場で確認する項目の内容やその検査の方法は、2005年以降に農業者に取得を義務付けたEUREPGAP認証と似たようなものです。ただし、第三者による認証ではなく、農産物を直接買い取る卸売会社による「産地の信頼性」のための確認検査ですから、それらに関する旅費等その他一切の費用はEWT社の負担で行われました。
あらかじめ渡されていた「SCP100基準」の要求事項には、農産物の品質管理、殺虫剤の内容と取扱い状態、収穫・輸送・選果・包装作業場における食品衛生管理などについて詳細な規定があり、それらが逐一具体的に検査されました。また、労働者福祉と環境保護に関する規定もあり、これらの検査項目はすべて順守していなければなりません。検査によって適合していない項目が見つかれば、直ちに是正することも「SCP100基準」の規則です。もしも是正規則に従わなければ、取引は停止するということになります。
片山さんは、初めて行われた農場検査の感想を次のように記述しています。
『選果場には必要なトイレ設備があり、衛生的に管理されていること。手洗設備があり、選果開始前に石鹸を使用した手洗いが必ず行われていること。選果者が帽子または布で頭髪を覆っていること。選果場内では全面的に飲食・喫煙が禁止であること。ネズミ等の小動物の侵入の痕跡が無いこと。鳥や昆虫の侵入に備えて選果場と外部の間に仕切があること。その他、様々な検査が行われた。その結果、解決すべき問題点として、選果場の窓枠にほこりがあること、蛍光灯にプラスチックの覆いをすることの2点が指摘された。
検査官は、園地で「腐乱病」に罹患した枝を発見し、一見して症状の類似している輸入禁止の対象病害虫「火傷病」では無いことを確認した。また、収穫作業を審査した際に15名の従業員が皆笑いながら作業をしており、審査官に向かって手まで振ったため「この人達は皆あなたの家族か?」と質問された。労働福祉に関しては好印象だったようである。また、審査官が、途中で急に「トイレに行きたい」と言うので、日本食がからだに合わなかったのだと思い、すぐ隣の農家のトイレに案内した。思えばこれも審査項目のひとつだったと思われる。』
サプライヤー・コード・オブ・プラクティス(SCP100基準)
「片山林檎」が調印して検査を受けた「Supplier Code of Practice SCP 100」を要約すると、概ね次のようなものです。
- 肥料及び農薬の散布に関する規則を遵守することは、生産者の責務です。
- 次の事項に関する法令を遵守することは、サプライヤーの責務です。
1)従業員と農場内の衛生管理、2)生果実の取扱、3)商品、4)荷造と貯蔵、5)ラベル表示と宣伝、6)従業員教育、7)苦情処理
- 第1節:サプライヤーは、関連するUK/ECの現行法の全てを遵守することが必要です。
- ・食品安全法、・食品環境保護法、・農薬取締規則、・農産物への残留農薬など
- 第2節:EWT社は、サプライヤーが施設と作業者の両方の衛生に関するガイドラインに従うことを要求する。また、責任者による最低限の記録が必要です。
- 第3節:選果場においては、商品の貯蔵から荷造・発送に至る全ての過程で、商品の品質を維持するための規範が守られていなければなりません。
- 第4節:ダンボール箱の詳細表示から、個々の生産者まで遡ることのできるトレーサビリティが確保されていることが必要です。
- 第5節:農産物の取扱い衛生管理規範が守られていることが必要です。
1) 農産物取扱施設の周辺、2) 農産物取扱施設の内部構造、3)選果場と備品、4)照明、5)換気、6)清掃、7)私的設備(飲食・喫煙、トイレ、手洗い場)、8)注意(掲示)、9)害虫駆除、10)危険物、11)水(衛生管理)、12)廃棄物処理、13)倉庫管理(汚染防止)、14)作業者と訪問者の衛生管理
*規範の詳細事例7)私的設備(飲食・喫煙、トイレ、手洗い場)ふさわしい食堂が用意されるべきで、どんな飲食物も生産エリアに持ち込んではいけません。喫煙は指定された場所でのみ許可され、その場所には生産場所や倉庫、トイレは含まれません。タバコの吸い殻を捨てる灰皿は、喫煙所の出口に備えなければなりません。
男女別に分けたトイレは、利用しやすく、きれいで清潔な状態に保持される必要があります。手を洗う場所は、清潔でよく手入れをする必要があります。手には無香石鹸を用い、暖かい湯で洗う必要があります。手は、もし必要ならば熱いドライヤーで温めるか使い捨てのペーパータオルを使って乾かすことができることが必要です。手洗いは、トイレを使った直後や食品施設に入る前に、すぐ行う必要があります。
応急手当ての設備に関する情報は、サイト上で入手可能です。
- 第6節:環境管理と環境保護
サプライヤーは、環境の管理では、関係する全ての国と地域の法律・規則を遵守する必要があります(EWT社は、環境への充分な配慮のもとで、最高級のフルーツが栽培される環境にやさしい果樹園の経営を進めている)。
正しい環境管理は、環境保護施設のメンテナンス、野生生物の生息地の改善、土壌や水の管理などと関係して行われる必要があります。
- ・環境の維持、野生生物の生息地の改善、土壌と水の管理などとを関係づけて積極的に管理することは、浪費をなくし汚染の危険性を減少させ、資源の有効利用を進めることになります。
- ・殺虫剤の選択とその使用は、環境負荷を最小限に留める必要があります。
- ・果樹を植える配置は、光の当たり具合や各々の木の周りの空気の流れが良いかどうかで決める必要があります。
- ・土壌管理では、土壌の構造、深さ、肥沃度を維持、改良する必要があります。
- ・化学肥料の使用は、年一回、葉と土壌の分析結果によって根拠付ける必要があります。
- ・水路への化学肥料の排出は回避しなければなりません。
- ・防風林と生垣は、野生動物を保護するために様々に配置される必要があります。
- ・新しい防風林を植える際にはその土地固有の木の種類を選ぶことが好ましいです。
- ・果樹の自生地では、鳥のための巣箱や止まり木のようなものを作ることを推奨します。
- ・エネルギーの経済的な使用や保護は、奨励されています。
- ・包装作業所の建物や貯蔵庫は断熱構造にし、機械や備品はエネルギー効率を改善すべきです。
- ・紙、カード、プラスチック、ガラスの製品は、可能な限りリサイクルすることが必要です。
- ・木材製品は、再利用されたりリサイクルされたりすることが必要です。
- ・木材は、熱帯の硬材ではなく、代替がきく地域の材料を使うことが必要です。
- ・殺虫剤の容器の処理は、認可された販売代理店で行わなければなりません。
- 第7節:労働環境と労働条件
EWT社が販売する全ての生鮮品は、公正で倫理的な労働環境で生産する必要があります。
全ての労働者の雇用方法は、国の法律で認められた要求に従っていなければなりません。
- ・雇用条件は以下のようにあるべきです。
地域の労働法を守り、政府の最低賃金協定を守り、賃金と労働時間は、地域経済の中で公正であり、道理にかなったものであるべきです。地域における労働者の権利、組合の陳述、社会保護、年金、健康対策の保証、労働者の差別がないことなどを守る必要があります。
- ・サプライヤーは、トラクターやフォークリフトの整備、物理的・化学的危害要因を確認の上、安全と衛生管理に努める必要があります。
- ・サプライヤーは、以下の衛生に努める必要があります。
仕事における健康を守るため、衛生施設を提供すること。健康を守るため、個人の衛生を保証すること。飲料水を入手しやすくすること。生鮮食品に触れる際に、必要に応じて衛生管理のための訓練を提供すること。
- ・EWT社は、各々のサプライヤーが労働者福祉の保証にサインし、労働者福祉の仕事としてサプライヤーに返すことを求めます。
- ・雇用条件は以下のようにあるべきです。
- 第8節:植物保護と化学農薬
EWT社のサプライヤーは、消費者意識の高まりと、殺虫剤使用への懸念を認識しなければなりません。EWT社は、税金や消費者の安全性に注意することに多大な尽力をつくしている産業が支えている「生鮮品コンソーシアム・コード(the Fresh Produce Consortium Code of Practice for Pesticide Control)」を採用しています。サプライヤーは、このコードとの一致を図り、農薬の使用に当たっては、約束事として殺虫剤の保証内容を読み、これにサインすることが求められています。
- ・殺虫剤が効果的に影響を及ぼしていない地域では、殺虫剤の使用量を削減するために努力する必要があります。殺虫剤は、虫や菌による一時的なダメージを避けるための疑う余地のない必要性のもとでのみ使用される必要があります。
- ・全てのサプライヤーは、指導・監督され統合された防除方法(IPM)への努力を惜しんではなりません。
- ・可能な場所ならどこでも、生物学的防除方法が導入されるべきであり、この場合には抵抗性や耐性のような多様な方法が使われます。
- ・農産物の収穫後の化学薬品の使用を削減できる貯蔵施設では、物理的手段(例えば最低貯蔵温度、大気制御など)を採用する必要があります。
- ・どんな農薬も使用する時にはラベルの指示に従わなければなりません。また、対象となる作物に用いるためには、政府機関の示す適切なやり方を明示する必要があります。
- ・サプライヤーは、英国で禁止されているどんな物質も使用してはいけません。
- ・サプライヤーによって供給された農産物は、英国の農薬残留基準値を超えていないと証明できなければなりません。残留基準が設定されていなければ、その時の最大残留量は国際商品規格(コーデックス・アリメンタリウス)の値を超えてはなりません。
- ・EWT社のサプライヤーは、EWT社に供給する農作物に適用された全ての農薬の記録を保存する必要があります。
- ・これらの記録は5年間保存し、見本は年単位でEWT社に転送される必要があります。
- ・残留農薬検査は、農産物のサンプルで日常的に分析されるものです。
SCPは、第三者農場保証(Farm Assurance)の原型
以上、SCPの概要を見てきましたが、SCPの枠組みと実施規範の内容は、GLOBALGAPなどの現在のファーム・アシュアランス(Farm assurance:農場認証)に引き継がれています。つまり、SCPの規格や基準は、日本でGAP認証制度と言われている適正農業規範の農場検査制度に取り込まれているのです。化学物質を使う農業の環境リスクを認識し、同時に食品衛生管理に留意し、事業家をしての社会的責任を果たすということは、全く農家保証の要件そのものです。
持続可能な農業という新しい農業規範が誕生し、同時に農産物安全のための高度な管理が必要となり、それを証明する仕組みとしてSCPという農場認証契約システムが作られました。SCP契約という「農産物の出荷者が守るべき規範について確認し、遵守することを契約し、農場検査でグッド・プラクティスを証明する」という制度は、EU(ECの時代から)域内の自由で広範囲に行われる農産物流通システムの中で必然的に生まれてきたものだろうと考えています。すなわち、風土や文化の異なる国々の農業や農産物についての“信頼”を、地域的に偏った暗黙知(「日本の農産物は安全だ」など)としてではなく、「農業規範と農場検査による証拠立て」によって、“最低限の信頼”(普通の農産物)として消費者に提供するサプライチェーン内の仕組みとして誕生しました。
GAP農場認証は生産者と消費者を結ぶ信頼の懸け橋
このシステムは、常に消費者ニーズに敏感な「スーパーマーケット」が、「卸売業者」を通じて「生産者」と「消費者」とを単純な線で結ぶことで実現しました。EWT社が、「片山林檎」に「生産者と卸業者の間にその他業者を入れるな」という意味で、あなたがシッパーになって下さいと言っていました。そして、EWT社は買手として、販売者としての「片山林檎」と契約して、SCPの検査を自ら実施して“信頼”を築いてきました。
また、スーパーマーケットのテスコは、「テスコと契約する農業生産者は、環境保護、環境便益、健康の保護に努め、自然・資材、化学物質を用いた農業資材を、適切に使用する責任を果していることを保証します」と消費者にアピールしています。それは、テスコの要求事項を満たすSCPを、テスコが直接取引するEWT社がテスコの代理者として生産者を直接確認していることから言える“生産者に対する信頼”なのだと思います。
「農業規範」と「農場検査」で構築するサプライヤー間の信頼ですが、「生産者」と「消費者」が単純な線で結ばれていることによって信頼の絆が確かなものになるのです。これは、複雑な流通経路で「認証ラベル」が独り歩きしている農産物を考えてみれば判ることです。「認証」という制度だけが信頼に繋がるのではなく、「認証」がどのような形で伝達されるのかに関心を持つ必要があります。「GAP認証は、生産者と消費者を結ぶ信頼の懸け橋である」というSCPの原点に返って、「生産者」と「消費者」の懸け橋の在り方について考えてみることで、日本の実情に合った「GAP」を作り出すことができるはずです。
2019/10
2019年度セミナー等の予定
2019年度の各種セミナー・シンポジウム等について、下記のスケジュールで実施する予定です。
グリーンハーベスター農場評価制度(「GH評価制度」)では、GAPの理解と普及のための教育システムとして、農業者、農業指導員等によるGAPの自主管理を推奨しています。
来年度から義務化されますHACCPについても、農業実践の立場から学ぶことができます。
開催期日 | シンポジウム・セミナー等 |
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11月21日(木)-22日(金) | 『農場実地トレーニング』 |
12月19日(木)-20日(金) | 『農業者のためのHACCPセミナー』 |
12月13日(金) | 『農業者のためのQMSセミナー』 |
2020年 1月23日(木)~24日(金) | 『GH評価員試験』 |
2020年 2月27日(木)~28日(金) | 『GAPシンポジウム』 |
2019/10
2019年度GAPシンポジウムのお知らせ
テーマ『GAPは生産者と消費者を信頼で結ぶ懸け橋』
1日目のテーマ:「農産物販売の考え方と取り組み」
2日目のテーマ:「グリーンハーベスター農場評価で動き出した産地信頼への取り組み」
- 【開催趣旨】
2020東京オリンピック・パラリンピック大会の開催で、日本の農業界に突き付けられたGAP認証の取得は、農業生産者の実践が「持続可能な農業」であることを証明することで社会的責任を果たすというグローバルな要求事項に基づくものです。それはサプライチェーン全体の信頼性を通じて消費者に伝えるものでもあります。
今回のGAPシンポジウムでは、オリ・パラ後の更なるグローバル化によって変化する消費者意識に応えるために、流通業界はどのような対応をしているのか、また、どのように対応していけばよいのかを探ります。
さらに、「生産段階で行うべきことは何なのか」ということについて、協同組合活動などを通じてGAPとマーケティングの先端を行くスペイン・アルメリア農業の研究報告を受けて、足下のGAPと営農指導について討論していきます。是非ご期待下さい。
- 【開催概要】
- 日 時:2020年2月27日(木)10:30~2月28日(金)16:30
- 会 場:東京大学 弥生講堂 一条ホール(東京都文京区弥生1-1-1)
- 主 催:一般社団法人日本生産者GAP協会
- 共 催:農業情報学会、(一社)GAP普及推進機構、(NPO)経済人コー円卓会議日本委員会(予定)
- 共 催:全国農業協同組合連合会(予定)
- 参加費:主催・共催・後援団体の会員 \10,000、一般 \15,000、学生 \2,000、情報交換会 \3,000
- 展 示:企業等による情報展示(出展料:主催・共催団体の会員 ¥60,000、一般 ¥80,000)
- 【プログラム】
- 2019年2月27日(木) 「農産物販売の考え方と取り組み」
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10:30~10:35 開会 10:35~10:58 主催者挨拶:(一社)日本生産者GAP協会 常務理事 11:00~12:00 基調講演:(一社)日本生産者GAP協会 理事長 田上隆一氏
「GAPと日本の農産物流通の課題」(仮題)12:00~13:00 昼食休憩/展示交流 13:00~13:50 講演:学術関係者「国内外の農産物流通の現状と課題」(仮題) 13:52~14:22 講演:農産物流通業者「流通業者の取組みとニーズ1」(仮題) 14:24~14:54 講演:農産物流通業者「流通業者の取組みとニーズ2」(仮題) 14:54~15:15 休憩/質問用紙回収、展示交流 15:15~17:00 総合討論:各講演者「農産物販売マーケットの考え方と生産段階の取組み」 17:15~19:00 情報交換会: - 2019年2月28日(金)「グリーンハーベスター農場評価で動き出した産地信頼への取組み」
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9:00~9:20 受付/展示交流 9:20~10:18 講演:(一社)日本生産者GAP協会 理事長 田上隆一氏 「GAPは生産者と消費者を信頼で結ぶ懸け橋」(仮題) 10:20~10:58 講演:株式会社AGIC 事業部長 田上隆多氏 「産地が取り組むQMSとグリーンハーベスター」(仮題) 11:00~11:30 報告:スペインツアー参加者1「ツアー報告1 生産・選果場・販売」(仮題) 11:30~12:30 昼休憩/展示交流 12:30~13:10 報告:スペインツアー参加者2「ツアー報告2 農協の総合戦略」(仮題) 13:12~13:52 講演:JA全農GAP推進課 「JAグループのGAP推進の現状と課題」(仮題) 13:54~14:34 講演:都道府県 「都道府県のGAP推進の現状と課題」(仮題) 14:34~15:00 休憩/質問用紙回収、展示交流 15:00~16:30 全体討論:各講演者「産地信頼への取組み」 「産地信頼への取組み」 - *講演内容が変更になる場合もあります。
2019/10
2018年度GAPシンポジウム資料の解訳
スペインの子供が学んでいる『GAP十戒』
山田正美 一般社団法人日本生産者GAP協会 常務理事
2019年2月に東京大学弥生講堂で開催された(社)日本生産者GAP協会主催のGAPシンポジウムでは、欧州の夏野菜の主要生産地であるスペインのエレヒド市(El Ejido)から農業・家畜・環境部部長のエスコバル氏を招いて講演して頂きましたが、その際に頂いたパンフレットに『病害虫制御のためのGAP十戒』(Decalogue Good Agricultural Practice For the Control of Pests and Diseases)というものがありました。
これは、エルヒド市の学校の学生用副教材として10年ほど前から配布・利用されているとのことです。GAPシンポジウムにおける最後のパネルディスカッションでも演者が話されていましたが、スペインのアルメリア県は、地域の特性として『農業』が一番重要な産業であり、子供達のご両親は殆どが農業生産者ですから、「農業を維持するためには何が大切か」ということを学校の横断型教科の中に取り入れて子供達に教えているとのことでした。
この「GAP十戒」では、農業を維持するために「環境を守ることがいかに大切なのか」というメッセージを伝えるためと言われ、こうしたメッセージが子供達に浸透していくことが農業にとって非常に重要と考えています。施設栽培による輸出用野菜の一大産地であるエレヒド市として、農業教育にも力を入れていることが伺えます。
学生を対象にした副教材とはいえ、主に環境保全に極力配慮した病害虫防除に関するGAPの本質的なところが記載されており、読者にも参考になると思われますので翻訳してご紹介することにしました。
『病害虫制御のためのGAP十戒』は、以下の十項目であり、それぞれの項目について順次説明していきます。
- (農場管理の)一般的な必要事項
- (農場経営の)計画
- 物理的・化学的バリアによる制御
- 栽培管理による制御
- 生物的な制御
- 化学的な制御
- 植物保護製品の取扱い
- 介入閾値(防除の要否判断レベル)
- モニタリング
- 廃棄物の管理
第1戒 (農場管理の)一般的な必要事項
農場主は少なくとも行政、供給会社、販売会社、技術支援サービス、消費者などの関係者の要望に応えるために、温室の設置から野菜の販売に至るまで、以下に示すような自分の農場に関する情報を持つ必要があります。
- 地理的に識別された圃場のリスト(圃場位置と面積)
- 各圃場の生産開始時の条件(未耕作地、放棄地または清浄温室、土壌消毒地など)
- 温室、倉庫、その他施設の設置場所
- 農場で行われた全作業が記録されている農場管理日誌:例えば、作物、品種、播種、植付け、栽培管理、植物防護処理、収穫、機械維持管理計画、作物の抜根処理など
- 廃棄物の管理計画
- 作物の種類と月別配分に基づいた圃場ごとの生産量見積り
- 生産物規格に従った販売用農産物の識別
- 生産された野菜の品質に関する自主認証機関
農場主は全ての経営管理と作物管理について、資格のある技術者から指導を受けています。
〔コメント〕
ここでは、農場を管理していくために、どのような情報を持っていなければならないかということを示しています。まずは1の圃場のリストや3の施設の設置場所などを用意し、圃場を間違えたりしないようにしなければいけません。2については、圃場の前歴が分かっていないと、当年の耕作に対する留意点が分からなくなります。
4は農場管理の記録を残すということ、5はどのような廃棄物が農場から出て、どのように処理するかという計画のことです。 6,7,8は生産物の量や、出荷規格の識別、品質認証機関の情報を持っているということです。
最後に農場経営や作物の管理に関して資格のある技術者から指導を受けていることが記されています。
第2戒(農場経営の)計画
ビニール・ガラスの下での野菜生産に必要な温室やその他の施設の場所を慎重に選ぶことで次のことが可能になります。
- 隣人と対立しないようになる
- 環境問題を起こさないようになる
- 農場での作業を円滑に進められるようになる
植物保護処理(病害虫を防ぐ対策)に関して、生物学的、化学的、耕種的および機械的な制御、監視、介入の閾値設定(防除の要否判断レベル)において、近隣者と調整された行動が促進される集約農業地域は農産物を生産する地域であるという事実を重視して区画されていなければなりません。
- 農村道路の優先順位整備によるアクセス条件の改善
- 灌漑と電力のための水供給インフラの改善
- 温室、倉庫、灌漑池の適切な設置場所
- 特定の法律の中で規制されている保護すべき項目との適合性(公共の水路、輸送ルート、保護区域などへの影響)
- 圃場内で必要な移動、積込み、荷降しその他の農業活動に割り振られたスペース
〔コメント〕
エレヒド市のような大規模な施設園芸産地で施設栽培を実施するには、計画が重要であることを教えています。敷地の中で温室やその他の施設の場所を適切に配置することは、隣人との摩擦の減少や環境問題の減少、農作業の円滑化、IPM(総合的病害虫管理)の促進が図られるとしています。
また、施設を使って農業生産している地域であることを念頭に、農道の優先度や、潅漑や電力のインフラ整備、施設・設備の配置が重要であることを示しています。もちろん関連法律の規制に適合させることも必要になります。
このように施設園芸地帯で農業を営むには様々なことに配慮した計画が必要なことを説明しています。
第3戒 物理的・化学的バリアによる制御
これらの対策の目的は、物理的・化学的方法を用いて温室に入る害虫や病気を制御することです。
これは以下の技術を用いることで達成されます。
- 温室の換気箇所にメッシュを張る。
- 太陽熱消毒。 この技術を使用することで廃棄物の問題がなくなるだけでなく、人や植物に対する毒性のリスクを生じない。
- 昆虫トラップ。 飛翔昆虫は、粘着性トラップ、食虫植物、フェロモントラップ等を使って捕獲する。
- 害虫の被害に遭った植物部位を除去し、袋に入れて処分する。
- 温室の出入口に二重のドアを設置し、両方のドアが同時に開くことがないようにする。
- 履物を消毒するために、温室入口の地面に消毒剤を配置する。
- 人や機械(車両を含む)、道具を介して有害生物が移動することを防止する。
〔コメント〕
この項目からは、病害虫防除の具体的項目になります。
ここでは、温室の中に害虫や病原菌が入らないようにするための方法と、既に温室の中にいる害虫を、殺虫剤を使わずに駆除する方法が記されています。
害虫が温室内に入らないようにするには、換気箇所へのメッシュ張りによる害虫侵入防止、太陽熱土壌消毒による土壌病害虫の駆除があることを示しています。
また、殺虫剤によらない粘着板やフェロモンによる害虫トラップの設置、被害部位の除去、出入り口の二重ドア化、履物の消毒など、徹底して温室の外から病害虫が入らないようにする対策を講じ、万一入ってしまったものに対しては、トラップなどで除去する対策を取ることを教えています。
第4戒 栽培管理による制御
この対策の目的は、害虫や病気に対する植物の抵抗力を高めることです。これは、以下の条件に従うことによって達成されます。
- 植物生長の最適化。 気候、施肥、灌漑などの生長要因に十分な注意が払われると、作物はより病害虫に強くなる。
- 健康的な種子や苗木を使用する。
- 果実は、消費者が好む品質とタイプでなければならないことを常に念頭に置きながら、抵抗性品種または耐性品種を使用する。
- 温室内は、病気の発生を助長する高温・高湿の場合、必要に応じて換気し、施設内の環境を制御する。
- 高い植栽密度を避ける。
- 作物は適切な剪定や添え木をする。
- 作物の傷口は感染症の原因になることがあるので、過度の損傷を避ける。
〔コメント〕
この項目では、病害虫防除を極力少なくするための耕種的予防法、すなわち健全な作物体を作ることが重要であることが示されています。健全な作物体を作る具体的な方法として、健全な種子や苗木を使うことや抵抗性品種の導入、温室内の適切な温湿度や換気といった環境のコントロール、適切な栽植密度など一般的な注意事項が書かれています。
第5戒 生物的制御
これらの対策の目的は、作物寄生虫の天敵を使って害虫や病気を防除することです。
これは、以下の条件に従うことによって達成されます。
- 適切な時期に有用生物を導入する。有用生物が早く導入されればされるほど、必要とされるものは少なくなり、結果は良くなります。予防策としていくつかの有益生物を導入することもできます。
- 最適な施用時期と共に、記載されている保管温度を守る。
- 有益生物の生態に精通していること。
- 作物に自然に現われる土着天敵の定着を手助けする。
- 可能であれば、誘因植物や寄生生物を持つ植物を使う。それらは害虫を引き付けるかもしれないが、うまくコントロールされていれば捕食性天敵と寄生性天敵を豊富に含む可能性がある。
- 栽培慣行や剪定、葉の除去によって、有益な生物の個体数が大幅に減少することがないようにする。
- 天敵昆虫が植物保護製品の施用によるダメージを受けないようにする。
〔コメント〕
この項目は生物的な防除について書かれています。エレヒド市の温室栽培では天敵による害虫防除が普及しており、どのハウスにも普通に天敵が放たれています。また、エレヒド市内には天敵を供給する工場もあり、天敵による防除が一般的になっています。
天敵昆虫は生き物であるため、温室内の温度や湿度によって防除効果や定着性が大きく異なります。また、寄主となる害虫や餌の密度が高くなってから放飼しても、「後追い」となり、防除効果が充分に発揮されません。
いずれにしても、生き物を扱うため、防除効果を発現させるには、害虫と天敵に関する充分な知識と繊細な取扱いが必要となり、高い技術レベルを必要とします。
第6戒 化学的な制御
植物保護製品は(被害が生じた際の)善後策として使用されます。
ただし、以下のガイドラインを遵守する必要があります。
- 選択的な植物保護製品を使用する。
- 選択的な施用方法を使用する。いくつかの植物保護製品は、例えそれらが有益な生物にとって安全ではないとしても、その個体数を損なうことなく施用することができます。これは以下のような配慮によって達成されます。
- 植物保護製品を滴下・噴霧するシステムで施用する。
- 特別にコーティング処理した種子を使う。
- 若い植物への施用を制限する。
- 残効性の短い植物保護製品を使用する。
- 残効性の長い植物保護製品を苗で使用しないようにする。それらの製品は有益な生物の出現を阻止または阻害することになります。
- 植物保護製品と有益な生物との適合性を調べる。
- 害虫や病気が抵抗力を持つことを防ぐために、異なる化学グループと作用メカニズムの有効成分を交互に使用する
- あなたの温室での施用が原因で生じる可能性のある隣接圃場の損害を防ぐため、隣人との適切なコミュニケーションを維持する。
〔コメント〕
6つ目の項目は、植物保護製品(一般に化学合成農薬)による病害虫の制御についての注意事項が書かれています。
植物保護製品を使用する際には、その効能、残効性、有益生物に対する適合性などを良く調べることが重要であることを示しています。また、同一製品の連続散布により病害虫に薬剤抵抗性が出現することを防ぐため、有効成分の違う薬剤を交互に使うなどの手立てについても書かれています。
また、薬剤散布にあたっては、隣人とのトラブルをなくすために、隣人と良好なコミュニケーションを保つことも重要であるとしています。
第7戒 植物保護製品の取扱い
植物健康製品としても知られているものも含め、植物保護製品の取扱いについては、以下のガイドラインに従う必要があります。
- 植物保護製品の取扱い許可を持つこと
- ラベルを読むこと
- 調合・散布中には適切な保護具を着用すること
- 最新の散布技術を使用すること
- 偶発的な汚染が発生した場合は、緊急対策を採用すること
- 事故の際には医療援助を求めること
- 植物保護処理に使用される機械は定期的な点検と評価を受けなければなりません。
- 防護具を清潔にしておくこと
〔コメント〕
ここでは、実際に植物保護製品を散布する場合の注意事項について書かれています。
最初の項目に『1.植物保護製品の取扱い許可を持つこと』とありますが、スペインでは公的機関が主催する農薬取扱いなどの講習を受け、認定試験で合格した人に対して許可証を発行するという制度があることから、この許可証を持っている人だけが植物保護製品を取り扱うことが出来るということになります。逆に言えば、許可証がなければ農薬を買うことも取り扱うことも出来ないということになります。日本で言えば、農薬管理指導士の資格を持っていなければならないといったことになるのでしょうか。
実際に農薬を使用する際には、防護具を付け、ラベルをよく読んで、間違いなく調合し、使用するということが大切になります。
この際、万一の事故に備えておくことや防除機械の点検、防護具を清潔に保つことも重要であるとしています。
第8戒 介入閾値(防除の要否判断)
この目的は、生産者が害虫や病気のライフサイクルに効果を現す適切な時期を決定することです。直接的な防除方法は、害虫や病気のレベルや環境条件が介入の閾値(防除の要否判定レベル)を超えた場合にのみ採用されます。
リスクは次のように推定されます。
- 従来の防除スケジュールを使用しないこと。
- 害虫のレベルと有益な動物相の評価
- 作物の生育状況
- 気候条件
- 作物や温室の特性に応じて、あらゆる害虫や病気に指定された介入レベルに従うこと。
正しい介入時期を決定するために、生産者は以下のことを習熟する必要があります。
- 病害虫の識別
- 介入閾値の評価
- モニタリングとサンプリング技術
- 植物保護製品の有効性
- 気候条件の影響
- 季節要因
〔コメント〕
ここでは防除の要否判断について記述されています。防除暦に記された防除スケジュール通りの防除ではなく、害虫のレベル、作物の生育状況、気象条件などを考慮した上で、防除すべきかどうかを適切に判断し、必要な場合のみ防除するという手順を踏んでいるかどうかが重要であるとしています。
また、防除の要否判断をする生産者に必要な病害虫の観察眼やサンプリング方法、農薬についての知識が必要であるということも述べています。
第9戒 モニタリング
害虫や病気の防除を成功させるには、適切なモニタリング・プログラムが不可欠です。 資格のあるモニターは、以下の資質が必要です。
- 定期的に作物を観察していること。
- 様々な環境条件下で有益な生物や害虫や病気等がどのように発生し、行動するかを知っていること。
- 様々な条件での植物保護製品の効果を知っていること。
- 害虫や病気を減らす作物管理、物理的防除方法、農薬散布技術と機材について知っていること。
- 各圃場で採用されている制御技術の有効性をコントロールすること。
- 研究センターおよび有益な生物の生産者との定期的な接触や、植物保護製品と設備に関する定期的な情報入手を維持していること。
- 作物保護の分野における新たな進展と法規制について最新の情報を入手していること。
〔コメント〕
適確な病害虫防除には、定期的な作物の観察や病害虫の発生に関する知識、植物保護製品の効果、病害虫被害を減らすための耕種的・物理的方法、農薬散布の技術と機器の知識、関連する最新情報の入手などの資質を備えた資格あるモニター(監視員)が必要であることが記されています。
日本ではさしずめ、病害虫防除所の指導員ということになるのでしょうか。
第10戒 農業廃棄物の管理 -環境を重視-
温室内で野菜を生産する過程では、副産物や農業廃棄物を生じます。それぞれの場合における適切な廃棄物の管理は、害虫や病気を制御するのに役立ちます。
私達は下に示すガイドラインに従う必要があります。
- 廃棄物管理は、環境を重視し、生産者にとってできるだけ安価でなければなりません。
- 清浄な栽培地から作物生産を始めて下さい。
- 廃棄物処理業務の全てに対して、分別・回収は最も利益をもたらす収集システムとして重要です。
- 農場には、少量の廃棄物を処理するための容器を準備する必要があります。
- 生産者は、ミニローダーやトラックを使って作物を掘り起こすことで、大量の廃棄物をより便利で経済的に処理することが簡単にできます。
- 古い作物の葉や、販売されなかった果実・野菜、果樹の剪定枝、雑草など、不用な植物残渣は速やかに処分する必要があります。
- 植物保護製品の空容器は、販売業者もしくは公認の廃棄物処理業者に渡さなければなりません。
- 病害虫の物理的・耕種的制御またはその他の農産物の生産過程で使用された資材は、既に確立されている廃棄物管理システムを利用して処分する必要があります。
〔コメント〕
このGAP十戒の最後の戒めは、主に病害虫制御に関して発生する農業廃棄物の管理です。
廃棄物管理は、経営の利益に直接つながるものではないのでおろそかになりやすいが、農薬の空容器や病害虫を増長させる原因となる植物残渣、病害虫防除に使用した資材等はそれぞれ適切な方法で処分する必要があります。そのためにも分別回収が重要であることを示しています。
以上、スペインのアルメリア県エレヒド市で作成され、学校の副教材として利用されている『病害虫制御のためのGAP十戒』について、皆さんはどのような感想を持たれたでしょうか。GAPの重要な考え方の一つに「環境を保全する」ことがあります。最近は、市販の農薬全体に占める毒物・劇物の割合が減ってきているとは言うものの、環境に対する影響は無視できないものがあると考えます。
日本でもIPM(総合的病害虫・雑草管理)という考え方が定着しつつあり、化学農薬以外の方法による防除や、発生予察の活用などで化学農薬の使用は必要最小限にし、生物多様性を保全していこうという方向が「農林水産省生物多様性戦略(平成24年2月2日制定)」で示されています。
GAPは生物多様性の保全という面からも大変意義のある取組みとなります。
2019/10
GAPに関する質問と回答
田上隆多 株式会社AGIC GAP普及部長
日本生産者GAP協会のGH評価員試験に合格して産地で指導をされている普及指導員や営農指導員の方からGAPに関するご質問を頂きました。質問と回答について読者の皆様と共有したいと思います。
質問:農産物の洗浄に使用する水の水質について
(質問内容)井戸水を使って農産物を洗浄する場合に、井戸水から大腸菌が検出された場合、実際にはどのような改善策をとるものなのでしょうか。水道水に変える以外の方法を探しています。ネットで調べると、除菌器(滅菌器)が出てきますが、これまで先生方が農場指導を行う中では、具体的に農家はどんな対策を行っているのでしょうか。また、そのような事例を知っている場合、どのくらいの金額の設備投資になったのでしょうか。
(回答)GLOBALG.A.P.基準においても、「当該国や地域の基準で飲用できること」とあります。「飲用できること」と「水道事業者が提供する水質基準=水道水基準50項目」は必ずしも同じとは言えません。簡易井戸水検査では10~12項目です。この内の大腸菌が陽性ということですね。除菌器(滅菌器)はかなり高かったと思います。他の事例では、水道水と同じように塩素消毒(次亜塩素酸ナトリウム)で殺菌しています。塩素消毒後に、水道水と同程度の塩素濃度に抑えることも重要です。水の使用量によりますが、次亜塩素酸ナトリウムであれば、それほどのコストはかからないと思います。
2019/10
GAP関連用語の解説
コード・オブ・プラクティス(Code of Practice)
コード・オブ・プラクティス(Code of Practice)
田上理事長の冒頭の連載に「サプライヤー・コード・オブ・プラクティス」という言葉が出てきましたが、この〇〇・コード・オブ・プラクティスというのは、どういうものでしょうか。
そもそもはGAPと同じようなスチュワードシップに基づくものであり、農業の場合には自然に対して執事(スチュワード)として誠心・誠意を尽くすという規範(Code:コード)です。
日本では、医薬品業界や医療機関の多くがコード・オブ・プラクティスを定めています。医薬品業界は、1960年代から80年代にかけて、過度な景品販売や過剰な接待などが行われ、熾烈なシェアー争いにより医療本来の薬剤の品質・有効性・安全性などがおろそかになり、その結果、重篤な薬害が発生したりもしたようです。そこで、1976年に「倫理コード」、1984年に「製薬企業倫理綱領」を定めましたが、あまり守られなかったことから、1991年に「独占禁止法」が改正されるに伴い、1993年に「医療用医薬品プロモーション・コード」が作られました。
医薬品関連企業が「より高い倫理観を持ち、法令が求める社会的要請はもとより、法令順守を超えた自らの社会的な責任を認識した企業活動に取り組む」という認識に立ち、プロモーション・コード、マーケティ ング・コードを超えた倫理観を持って行動する内容をコード・オブ・プラクティスとして定めています。医薬品メーカーは、自社の名前を冠した〇〇・コード・オブ・プラクティスを2013年頃から現在に至るまで相次いで制定しており、患者や医療機関などに対して誠意を尽くすことが企業・団体の基本理念、社会的責務であり、それに従うようにルールを決めています。
先進国の英国では1990年代からこのようなコード・オブ・プラクティスが定められており、サブライアーとして、消費者と生産者、関連事業者などに対して誠意を尽くすことを定めています。日本においても、消費者・生産者に対するこのようなコード(規範)をGDP(適正流通管理)として構築する必要があります。
2019/10
会社訪問で中学生が日本生産者GAP協会を訪問、3つの質問
一般社団法人日本生産者GAP協会
茨城県つくば市の中学校に「自分が就きたい職業の会社訪問」という課題があり、一般社団法人日本生産者GAP協会に中学一年生が訪ねてきました。
そこで投げかけられた3つの質問は以下のようなものであり、それぞれにお答えしました。
質問1.仕事の内容は何ですか?
回答 適正農業規範と持続的農業管理について、普及活動をしています。
人類の歴史と同じくらいの大昔から続いている食料を生産するために欠かせない"農業"ですが、20世紀の半ば頃から化学肥料や化学農薬などを使うことで安定して農産物が収穫できるようになりました。食べ物が豊富になって世界の人口はどんどん増加して、例えば1950年には25億人ぐらいだった世界人口が、今では75億人を超えるほどになっています。
ところが、肥料や農薬などの化学合成物質が必要以上に使われるようになり、また、誤った使い方をすることで、土や水や大気を汚染し、地球の自然環境に悪い影響を与えるようになってしまいました。地球環境が壊れてしまっては土と水と太陽の光を使って営まれる"農業"そのものが続かないことになってしまいます。また、人間の命を育む"農業"なのに、肥料や農薬で農産物を食べる人に害を与えることになるのでは、本来の農業とは言えなくなります。
この問題を解決するためには、人間と地球に優しい農業技術を開発し、農業の現場でその技術が生かされなければなりません。難しいこともありますが、まずは農業をする人達がこれまで行ってきた農業のやり方を見直して、"人と環境に優しい農業"を実現できるように、"良い農業のやり方"を研究し、教育と訓練を行っています。これが私たちの仕事です。
質問2.どうしたらその仕事に就くことができますか?
回答 農業を勉強し、命の大切さを考え、それを実行してみることです。 農業は一つの専門知識だけでは理解できません。植物の育成を初め、作物の栽培や家畜の飼育には、充分な経験を積むことが必要ですし、その基礎となる生物学や化学などの基本的な知識を持つことや、機械やコンピューターの操作を覚え、また、気象のことや経済のことも理解することが必要になります。また、何よりも人間の命に係わる"食料"についての深い知識が必要になります。
しかし、それらの知識は特別なことではなく、学校で学ぶ様々な教科で得られるものばかりです。日頃、先生や両親、先輩などと話すことや、テレビ放送されている命に係わる内容のことや、人間に優しく接することなどについても、自分で考えてみることが大切です。それらは、食べて、遊んで、仕事をして、そのために行う全てのことに関係していることが分かります。
身近なところから"命の大切さ"を考えることで、何が良いことで何が悪いことなのかが分かるようになると思います。物事の善悪の判断がつくようになると、普通の常識的な人間であれば、"人と環境に優しい農業"を実現するための研究や教育を職業にすることができます。
質問3.苦労したことや、どのような時に嬉しくなるか教えて下さい。
回答 多くの農業の実践者は、持続的農業の大切さを理解しています。農業は、原理・原則だけで解決できるものではありません。農業は、工業にも商業にも、その他のサービス業にも深くかかわりあっています。そのため、「人と環境に良いことだから」と言って、一つのやり方だけを押し付けても、全ての人が賛成するとは限りません。こちらが"人と環境に優しい農業"と思っても、都合の悪い人が必ず出てきます。考え方には賛成していても、時間や時期的に不都合だったりする場合もあります。「そんなことは法律にないから」と言って断られることもたくさんあります。
それでも、「今はできないが、必要なことは分かる」と感じてくれる人はたくさんいます。そういう人達が、「言われたから」ではなく、自分自身で考え、自分の意志で、"人と環境に優しい農業"を、今できるところから始めてくれていることが分かったときには、心からの喜びがわき上がります。よく観察してみると、殆どの農家さんは持続的農業管理のことを理解していることが判ります。
2019/10
株式会社Citrusの農場経営実践(連載33回)
~人材不足の影響がこの夏に~
佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役
弊社の定款の1つに人材育成がある。これまで3名の社員の自立就農を成功させてきたが、ここにきて来春の就農を決めた社員が誕生したことは格別に嬉しい。
昨年の12月末に1人の社員が就農目的で退社した。続いて、今年の1月にもカンボジア農業技能実習生が退社した。いずれも予期していなかったことである。昨年3月に新規採用した農林大学校の卒業生は「数年間は弊社で働く」と表明していたので、「農の雇用事業」を適用して順調に進んでいた。しかし、みかんの収穫時期に入った11月ころから会社を休むようになり、理由を尋ねると「親類の農地を借りて農業をはじめる準備をしている」と打ち明けられた。会社としては非常に残念なことではあるが、農業人材の育成を弊社の基本方針に挙げていることから、独立することを拒むわけにはいかず、退職願いを受理した。
続いてのカンボジア農業技能実習生の退社は、制度上の問題で継続雇用が出来なくなった。その理由とは、以前に述べた通り、実習は「野菜部門」が条件であり、昨年、弊社がホウレンソウの生産から撤退したため、「果樹部門のみでの実習は認められない」と受入機関から指摘された。
この春には正社員の新規採用を計画したものの、農林大学校の卒業生を確保することが出来なかった。やむなく正社員一名で3ヘクタール余りのみかん園を管理することとなった。剪定作業、薬剤散布、施肥はなんとか社員の週休二日制においてもクリアー出来てきたが、夏場に入り、時間を要する摘果作業や除草作業の遅れで苦労した。今年の夏場は多雨であったため、雑草が勢いを増して繁茂し、御進物ニーズを中心に生産している中生温州みかん園の50アールが雑草(カズラ)に覆われ、みかんの樹が見えない状況となった。その理由は、極早生、早生と園地毎に順番に摘果作業を実施し、定期的に病害虫防除をおこなっていたが、重要な摘果作業を優先して、そのみかん園のみ除草作業を1回見送ってしまったためである。雑草に覆われた果樹は、薬剤散布が出来ない状態になってしまった。やむなくグロワー/シッパーとしてスタートした株式会社みかんの会に作業の応援を求め、社員ら9名の若者が3日間で50アールの樹園地の除草を完了させてくれた。著者ひとりの個人経営であったなら、既に諦めていたかもしれない状況であった。
周辺の園地では、除草が追いつかずに放置してきた樹園地が今年は特に目立ってきているような気がする。おそらく弊社のように助っ人を求める環境が無いのかもしれない。この作業で摘果作業が1週間程度遅れたため、通年なら早生みかんの摘果作業が終了し、9月中旬には中生・晩生温州の摘果作業が始まり、途中で極早生みかんの仕上げ摘果を実施することになるの戦力になったグロワー/シッパー株式会社みかんの会の社員と弊社の社員の合同作業チームであるが、今年は少し省略して、収穫の準備に入ることにした。
現在は、みかんの収穫のためのアルバイトを募集しているが、残念ながら今のところ応募が無い。収穫に入る10月末迄にアルバイトを確保出来るかどうかが大きな課題である。
農作業を行う人材が周辺に本当にいないことから、みかん農業がこのまま続けられるかどうか疑問である。外国人労働者に頼るか、或いはスペインのアルメリア地方のような移民による農業の体制を確立することでもない限り、安心して農業を維持したり、拡大したりすることができない状況にあると痛切に感じている。
このような状況の中で、著者らは農業法人のモデルとして、また、グリーンハーベスター(GH)農場評価のモデルとして、あちこちからの要請に応えて出かけてお話をしているが、人材不足による深刻な現実の問題が、GAPに関する講演の内容と矛盾を感じている今日この頃である。
2021/1
編集後記
食讃人
田上理事長の連載の二回目である。欧米では、人は神のスチュワード(執事)として自然を守り、周りの人達に誠心・誠意を尽くすために規範(コード)を設けている。残念ながら、日本にはこのような宗教的背景はないが、『日本GAP規範』の「はじめに」の冒頭に書いたように、倫理として農業や人との関係は「性善説」から成り立っていると考えている。そのためにも、農業に係わる生産者やサプライヤーが性善説に立って行動できる公的な『規範』を早く構築して貰いたいものである。
前回のGAPセミナーで紹介されたスペイン・エルヒド市の学校教育用のスペイン語パンフレットを、山田理事が解訳して下さった。このようなエルヒド市の取組みには敬服させられる。
昨今、台風19号による人的な被害や家屋、交通機関の被害など、多方面の被害が報告されている。被害を受けた地域は、長野・福島・宮城・茨城・千葉など広域に及び、農産物の被害だけでも1000億円を超え、被災者の数も一昨年の北九州豪雨、昨年の西日本豪雨の被害を超えたという。被災者の方々には心よりのお見舞いを申し上げる。
千曲川の氾濫で被害を受けた長野市のリンゴやハウス内のトマトなどは無残な姿であった。追いかけるように襲ってきた台風20 号、21 号と温帯低気圧により、またまた被災地が大きな水害を受けた。千葉・福島・茨城の各地で広大な農地が再び水没し、農業被害は更に拡大している。
このような大雨による浸水被害は「地球温暖化によるものであろう」とマスコミは報じているが、必ずしも温暖化のせいばかりであるとは言えない。昔は広葉樹の森や谷内田などが降った雨を一時貯留してくれたが、保水機能が低下した針葉樹の森や水田の耕作放棄地などでは、降った雨がすぐに河川に流れ出てしまう。山林や水田の管理などの治山・治水の停滞も指摘されておりダムや堤防の再構築も必要であろう。政治に期待したい。
民主党政権時、「コンクリートから人へ」というスローガンのもと、脱ダムが推進され、その象徴として八ッ場ダムの建設がストップされた。安倍政権になってから建設に向かい、今回の大雨の前に完成し、その大きなダムがあっという間に満杯近くなったということがマスコミで報じられた。お陰で利根川水系は洪水を免れている。
今回の激しい水害は多くのことを教えてくれた。雨による災害のリスクに対して、リスク管理が充分できていないことが多く露見した。内水氾濫で使えなくなったタワーマンション、長い間堤防を造らず放置されていた高級住宅地、水没地域に置かれていた多数の新幹線車両、堤防が決壊したらどうなるのかというリスク管理ができていなかった。荒川が決壊した時の都民250万人避難計画が新聞に出ていたが、現実になっていたら未曽有の大災害になっていたであろう。
今回の台風19号は、1958年の狩野川台風にコースや大きさが似ている。狩野川台風の時は一日で700mm近くの雨量が観測され、1300人近い犠牲者が出たという。また、これまで最大の台風は戦前の室戸台風(1934)であり、戦後は伊勢湾台風(1959)、第二室戸台風(1961)が災害の規模からみても最大である。これらは、いずれも地球の寒冷化の時代に起こっており、1980年以降に始まった温暖化の時代には、これらの台風を超えるスーパー台風は来ていない。過去を記憶し、リスク管理に反映させ、深刻な災害を避ける智恵にしたいものである。
2019/10