-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 59号

《巻頭言》
GAPでCSRとSustainable Brandsを

田上隆多 一般社団法人日本生産者GAP協会 事務局長

 このタイトルを見て、「流行りの横文字を並べて、無理やり関連を持たせようとするセンスのないタイトルだ」と感じられるかもしれないが、決してそうではない。GAPとCSRとSustainable Brandsの意味や範囲は大きく重なり、密接に関係しているからである。

GAP

 GAPとは、Good Agricultural Practice = 農業の適正な実践という直訳となり、FAOでは、「GAPは環境的にも経済的にも社会的にも持続可能な農業を行うことであり、安全で健康的な農産物の供給をもたらす」と説明している(※1)。

 私達人間が天然資源や生態系を保全するのは、人間活動への否定的な観点ではなく、自らの人間活動が永続的に持続するために、その基盤である天然資源や生態系を利用し続ける必要があるからである。それにおいて、地球上の全ての人が平等に資源を利用できることが望ましいが、現実はそうではない。経済格差によって充分に資源が利用できない人々がいたり、安全で健康的な農産物を入手できない人々がいたりする。また、社会的・文化的な要求を満たすことなく労働に従事せざるを得ない人々がいるのも事実である。強制労働、あるいは充分な教育を受けていないことなどにより知らずに危険な作業を行っている人もいる。

 このような課題は、国や地域によってレベルが異なるものの、いずれの国や地域でも幾つかの問題を抱えている。日本の農業においては、戦後、農薬や肥料の使用量の増加による環境汚染が顕在化したり、農産物由来である可能性が高いとされる食中毒事故が多発したり、農作業中の死亡事故率が増加したり、外国人実習生の人権問題が表面化したりしており、このような問題を是正することが課題となっている。

CSR

 CSRとはCorporative Social Responsibility =「企業の社会的責任」という意味で、企業は経済活動において社会へ与える影響について責任を持つということである。企業は製品やサービスの提供という企業活動を通じて社会へ価値を提供し、良い影響を与えているはずであるが、一方でその企業活動に伴う負の影響、例えば、製品製造時において製造地での環境汚染があったり、原料調達時において原料生産地における環境汚染や経済格差の拡大や労働環境の悪化が発生する恐れがあったりする。企業は、このような負の影響について全てのステークホルダーに説明し、影響を最小化する責任がある。

 この10~20年間、大企業を中心にCSRの専門部署と最高責任者を置いて様々な対応に取り組んできている。財務、法務、マーケティングなどと並んで、その専門部署と最高責任者を置くということは、それだけ企業活動にとって重要視されているということである。

 企業活動を単純に表現すれば、企業は製品やサービスが直接の顧客や社会から評価されることで収益を得て企業の発展と存続を目指し、それが評価されなければ収益が得られず、企業の発展と存続が危うくなる。多くの企業がCSRに取り組んできたのは、製品やサービスそのものだけではなく、企業活動に伴う負の影響についても対応しなければ、企業の発展と存続を危うくするという認識があるからであり、現実に企業のステークホルダーである直接的・間接的な顧客、株主や投資家、そして社会全体がCSRに注目し、その結果を重視していることを意味する。このことは、当然、企業の営業戦略を大きく左右する。

Sustainable Brands

 ウィキペディアで検索しても、Sustainable Brand/サステナブル・ブランドという言葉は出てこない。Sustainable Brandsは、2006年にアメリカで生まれたブランド・イノベーターが集まるグローバルコミュニティで、社会に対する言い訳や横並びのCSR的活動ではなく、サステナビリティ(持続可能性)をビジネスに取り入れ、自社の競争力とブランド価値を高める経営、イノベーション、マーケティングのレイヤーでの活動である(※2)。2017年3月に第1回東京大会が開催され、2019年3月には第3回が開催されている。

 CSRやサステナビリティに関連する活動として、一時期は、企業の主たる事業とは別に、稼いだ利益の一部を還元する形で、環境保護活動をしたり、海外支援事業を行ったりする企業が目立った。上述の"横並びのCSR的活動"はこのような活動のことを示しているであろう。

 国連で採択されたSDGsに見られるように、国際社会はサステナブルな社会の発展を目指しており、社会全体が求めることである。社会全体が求めるCSRは、まさにサステナブルな方法で企業活動が行われることである。企業は、企業活動を通して顧客や株主や投資家から支持されなくてはならない。

 これまでは、製品やサービスが支持されるべく、マーケティングを行い、企業ブランドの構築に努めてきた。しかし、今や製品やサービスにだけではなく、その企業活動自体のサステナビリティにも求められるようになってきており、これからの企業は、全ての企業活動をサステナブルなものとすることで、自社の競争力とブランド価値を高めていくことが必要となる。

GAPとCSRとSustainable Brands

 現在の社会全体が企業に求めるものがサステナビリティであり、企業活動を通してそれに応えることがCSRであり、企業にとってサステナブルなブランド構築が重要となる。当然、農業も例外ではない。

 農業企業とは、農産物を生産し販売する事業を行う組織体であるから、農家、農業会社、JAや生産組合、農場と契約する集荷販売業者などがこれにあたるであろう。販売する農産物はもとより、農地の維持管理、資材の調達と使用、雇用、地域社会との関わりなど、その全ての活動がサステナブルであることが農業企業にとってのCSRであり、顧客や株主や投資家に対してブランド価値を高めていくことが、農業企業自体のサステナビリティに繋がることになる。

 筆者は、GAP・持続可能な農業の要素として、コンプライアンス、社会的責任、リスクコントロール、環境持続性、採算性、社会的受容性、製品品質(安全性・嗜好性等)の7つを定義している。農業企業にとって、法令や社会規範を遵守し、安全で健康的な農産物を顧客に提供し、生産活動を通して水質や生態系への負荷を低減し、労働者の安全と健康を守ることがCSRであるし、これらのリスクをコントロールができる組織構築に投資することがサステナブルなブランド構築に貢献することになる。

 ここ数年、GAPへの取組みやGAP認証を取得する動きが活発になってきている。「GAP認証さえ取得すればブランドになる」ということでは決してないし、一方で「GAPは農業倫理であり、ビジネスとは関係ない」ということでもない。GAPとCSRとSustainable Brandsの関係性についてよく理解し、GAPによってCSRとSustainable Brandsを実現し、これからの時代の「良い農業」を目指していきたいものである。

※1 FAO GAP  http://www.fao.org/3/y8704e/y8704e.htm#P27_471
※2 サステナブル・ブランド http://www.sustainablebrands.jp/event/sb/

2019/7


日本のGAP 全てはここから始まった 《連載第1回》

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

イギリスからの一通の手紙 グローバル化と規格の標準化

2 July 2002
Dear Hisanobu

Empire World Trade Ltd.
Enterprise Way Pinchbeck,
Spalding Lincolnshire PEII 3YR

EUREP GAP

EUREPGAP is an integrated management protocol set up by a large number of European supermarket retailers. It is designed to stop the proliferation of a large number of separate supplier protocols, each requiring separate paperwork and auditing. All of our major customers are supporting the EUREPGAP system, including Tesco Safeway and Marks & Spencer.

Some of these customers have now started setting deadlines for compliance with EUREPGAP as a condition of supply. The following deadlines have been set.

1 October 2002 All suppliers must be registered with EUREPGAP and have agreed a contract with a certification body.
1 January 2004 All suppliers must have completed a EUREPGAP inspection.
1 January 2005 All suppliers must have corrected any noncompliance against the "major musts" section of the inspection.

For more details on the EUREPGAP system and the bodies authorized to carry out inspections, please consult the EUREPGAP website on www.eurep.org

ユーレップGAP

 EUREPGAPは、ヨーロッパの多数のスーパーマーケット小売業者によって作られた(農場)統合管理基準書です。個別の事務処理と監査を必要とする個別のサプライヤー基準書が増えすぎないように作られました。テスコ、セーフウェイ、マークスアンドスペンサーなど、当社の主要な顧客の全てがEUREPGAPシステムを支持しています。

これらの顧客の中には、供給条件としてEUREPGAPに準拠するための期限を設定し始めたところがあります。以下の期限が設定されています。

2002年10月1日:EUREPGAPに登録し、認証機関との契約に同意しなければなりません。
2004年1月1日:認証の検査を完了していなければなりません。
2005年1月1日:検査の"必須項目"不適合は是正されていなければなりません。

EUREPGAPシステムおよび認証機関の詳細については、EUREPGAPのWebサイトをご覧ください。www.eurep.org
(現在は名称変更のため www.globalgap.org )

グローバル化と規格の標準化

 手紙の主のエンパイヤー・ワールド・トレード(EWT)社は、1990年代から2000年代当時、イギリスで最も取扱高の多い果実卸売業者でした。グローバル化社会の到来といわれたこの時期にEWT社は日本のリンゴの輸入を始めました。売り込んだのは青森県弘前市の片山林檎冷蔵庫で、農場主の片山寿伸氏は、欧州のおもだったリンゴ市場を研究した結果、1998年にEWT社独自の「農場管理基準書:EWTサプライヤー・コード・オブ・プラクティス(SCP)」の審査を受けて、イギリス市場に向けて小玉の王林(欧州では日本の大きさのリンゴは大きすぎて売れない)を輸出し始めました。

 それから5年、欧州の農業事情は一変し、農産物流通の世界にも大変革がもたらされることになりました。これまで各スーパーマーケットや卸売業者がサプライヤー(供給者・出荷者)に対して取引条件として要求していた各社独自の「農場管理基準書」以外に、特に輸入農産物を対象に「EUREPGAP規準」として標準化し、各国の農産物輸出業者に要求することになったのです。それが「イギリスからの一通の手紙」です。

リンゴの輸出は農家の生残り作戦

 当時の日本のリンゴ生産者は、加工用リンゴの価格の圧倒的な下落で困り果てていました。日本のリンゴ生産の半分を占める青森県では、全生産の約20%が低価格のもので、加工用に回されていました。生食用と加工用の合計販売金額でぎりぎりの再生産価格だったリンゴ生産でしたから、1990年の自由化から急増した濃縮リンゴ果汁の輸入のために、国内生産の加工用リンゴは買手がつかない状態となってしまい、リンゴ経営の困窮状態をもたらしたのです。弘前大学の宇野忠義氏は、「輸入自由化後に果汁輸入が増大し、日本のリンゴ生産農家に極めて深刻な打撃を与えており、今や恐慌状態にある」と分析していました。また、台風被害のあった2004年には濃縮果汁輸入量が9万4千トンにも上り、生果と果汁の合計の輸入量が生果換算で80万トンに達しました。これは、日本のリンゴ全生産量75万4千トン(農林水産省調査2004年)を超える量です。

 リンゴ園で収穫した木箱(20kg入り)一杯のリンゴが200円、時には50円にしかならない時もあり、引き取ってもらえない場合さえありました。「せめて1,000円になれば、パートさんたちに給料を出せるんだが・・」という生産者の声を聴きました。片山氏のEWT社へのリンゴ輸出は、青森リンゴ農家の死活問題を解消する対策だったのです。現在では、国産リンゴの輸出総量が3万トン程度になっていますが、その殆どは台湾への輸出です。2004年に青森りんごの輸出調査が始まり、大幅に伸びたのは2013年からですが、今や台湾向けは頭打ちだといわれています。

15年遅れた日本のGAP認証対策

 日本政府の日本再興戦略会議2014年改訂版では、「農産物の輸出拡大を図る上では、国際的に通用するGAPの取得を推進する必要がある」として、GLOBALGAP認証などの取得を勧める政策を打ち出しました。2002年7月に受け取った「イギリスからの手紙」から実に12年も経過してからのことでした。

 その後、現実的に農場の認証取得を後押ししたのは2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催計画によるものです。大会組織委員会から「持続可能性に配慮した農産物の調達」として有機農業や国際的な農場認証基準が要求され、国はやっと生産地のGAP指導と認証の支援に乗り出したのです。しかし、その政策によるGAP支援は2020オリ・パラ東京大会が終了するまでと言われていますので、その後は純粋に日本農業のGAPおよびGAP認証の普及が問われることになります。

世界で日本だけが"何故?"

農業のあるべき姿として求められる持続可能な農業"GAP"と、生産者と消費者を信頼で結ぶ懸け橋としての"GAP認証"は、世界共通の情報であり、世界で同時に意識されてきたはずです。

 例えば、「持続可能な社会に向けて、環境・経済・社会という3つのバランスを考慮する必要がある」と定義した国連環境開発会議(地球サミット,リオデジャネイロ,1992年)の翌1993年に、日本は、「環境基本法」を制定し、自然資源の消費を抑制して環境への負荷をできる限り低減する「環境立国宣言」(1994年)を閣議決定しています。そして、新農業基本法と言われて1999年に制定した「食料・農業・農村基本法」は、持続可能な農業をその基本理念としています。

 2002年7月の「イギリスからの手紙」は、世界の農産物流通の大変革の同時進行でした。欧州の農産物輸出国スペインやイタリア、欧州に農産物を輸出するアフリカ、アジア、南北アメリカでも、生産者や農業協同組合は、同じ時期に「イギリスからの手紙」や「ドイツからの手紙」をもらっていました。そして即座に対応したのです。

 手紙に示されたEUREPGAPに準拠するための期限に対応して、日本では、2003年に認証機関に登録し、2004年に検査を受け、2005年1月1日までには"EUREPGAP認証状"を受け取っていました。これは、欧州各国でも、欧州に輸出する世界中で、まさに同時進行だったのです。

 その後、スペインやイタリアなどの零細農家を結集する組織は生産者に対するGAP教育であり、耕作する農場の殆ど(スペイン・アルメリアでは91%,2017年)がGLOBALGAP登録農場になっています。

 日本でも、手をこまねいていたわけではありません。最初にGAP認証にかかわった縁から、GAP先進国を訪ねて実態調査を重ね、日本でのGAP普及とGAP認証の取得を推進するために書籍の出版やセミナー・講演会・シンポジウムの開催などを続けています。国会や政府への進言なども行い、2005年には当時の総理大臣小泉純一郎と片山氏の面談では、「農産物輸出とGAP認証」は、その後の施政方針演説で攻めの農政の事例として取り上げられています。

スタートラインから一歩踏み出して国産の信頼を

 今から15年前に、同じスタートラインに立った日本のGAPですが、未だにスタートラインの上に立っている感じです。それでも「東京2020後」を"GLOBALGAPに準拠するための期限"と宣言して活動を開始したスーパーマーケットや卸売会社が目立つようになりました。これらはHACCPの義務化政策と相まって加速されており、消費者の安心にはつながります。

 しかし、農産物の量からみて、GAP認証農場が増えているのは日本以外の国々です。輸入に頼っている日本の食品流通を考えれば、農産物輸入がますます増えて、日本農業は縮小・衰退に向かいます。2020オリ・パラ東京大会の終了後を考え始めている現在、何としても日本のGAP戦略を考えなければなりません。

 「持続可能な農業を政策の柱に据えるべきである」という声もあり、農政は補助金でも持続可能な農業を考慮して動き始めているようです。その意味でも、いよいよ「日本的なGAP」のスタートですが、そもそもグローバリズムから生まれたGAPやGAP認証です。農産物輸出が当然の産業政策である各国が歩み続け、より良い農業(GAP)として成功を収めてきましたが、残念ながら日本は数年前までは例外の国でした。これからは、一歩進んだ諸外国の農業ビジネスや農業政策の事例に学んで、より信頼される日本農業の振興に進んでいくことが必要です。

 GAPは生産者と消費者を信頼で結ぶ懸け橋なのですから。

引用:「リンゴ果汁輸入の急増が日本のリンゴ経営に与えた影響」弘前大学農学部生命科学部学術報告9号p.68-79(2006-12) 「GAP入門」田上隆一著2008.4 GAP普及センター(農山漁村文化協会)

2019/7


2018年度 GAPシンポジウムの講演内容

テーマ『東京2020で動き始めた農産物サプライチェーン』
日時:2019年2月27日(水)10:35 ~ 2月28日(木) 16:30
会場:東京大学弥生講堂 一条ホール(東京都文京区弥生1-1-1)
主催:一般社団法人日本生産者GAP協会
1日目のテーマ:『GAP戦略をEU ナンバーワンのスペ インに学ぶ』
2日目のテーマ:「マーケットに応える産地の戦略」
【開催趣旨】

 日本では農産物の輸出促進のためにGAP農場認証を促進する政策が推進されていますが、国内の農産物サプライチェーンでは、未だGAP農場認証は農産物の取引要件になっていません。そのような中で「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」では、組織委員会が目指す持続可能な社会への貢献のために、大会に係る食料およびその原材料を供給する農業者にGAP農場認証の取得や公的機関によるGAP農場確認を求めることになりました。

 本シンポジウムでは、東京2020の「食料調達基準」を満たすサステナビリティ(持続可能性)とフードセイフティ(食品安全)の取組を実現するケータリング会社やスーパーマーケットなどの、オリンピック後の「農産物調達要件」を想定してその対策を考えたいと思いますが、そのために、ヨーロッパ最大の夏野菜産地スペインのアルメリア県からエレヒド市の農業責任者を務めてこられたアントニオ・エスコバル氏を講師として迎え、家族経営農業を束ねたGAP認証制度でEUへの最大の野菜産地作りに成功した取組について学びます。また、国内で産地のGAP戦略を目指している農業法人やJAグループ、産地を支援するJAグループGAP支援チームなどの取組について紹介し、オリンピック後のGAP戦略について議論を深めます。

2018年度 GAPシンポジウムの講演内容
総合討論

 「GAP戦略をEUナンバーワンのスペインに学ぶ」と題して、特別講演の講師のアントニオ・エスコバル氏とアルメリア視察経験者の皆さんが、エスコバル氏の講演を伺った後に「東京2020後に実現すべき日本農業のあるべき姿」についてさらに議論を深めました。

総合討論出席者
エレヒド市農業・家畜・環境部部長 アントニオ フェルナンド エスコバル氏
日本生産者GAP協会 常務理事 山田正美氏
農協流通研究所 理事長 立石幸一氏
株式会社AGIC 取締役事業部長 田上隆多氏
司会進行:日本生産者GAP協会 理事長 田上隆一氏

アルメリアの農業基本政策と農業教育

田上:アントニオ・エスコバルさんに、先ず、エレヒド市やアンダルシア州の基本的な農業振興政策からおたずねします。

アントニオ・エスコバル氏

エスコバル:アルメリアでは、様々な農業政策が進められていますので、農業に取り組む若年人口が増えています。

 また、農業従事者や生産者が引退した後も、「総面積の20%はなんらかの耕作に使ってもよい」という政策があります。65歳で正式に退職年齢になっても、66歳から70歳までは、退職金にプラスアルファの公的支援金、補助金と二つの支払いを受けることができます。

 70歳以降は、年金だけの支援になります。例えば、その世代交代で56歳の若い世代が引き継いだ場合、専業農家でなければいけません。そして、少なくとも5年間は、専業農家として生産活動に従事しなければ、先ほど言ったような公的支援は受けられません。

田上:有難うございました。続けてエスコバルさんに、先ほどの講演の最後のところで学校教育の話が出ておりました。この具体的なプログラムを、子供達に対して、どこで、どのように行っているのか、考え方と実践についてお聞きしたいという質問が来ております。

エスコバル:スペインの教育制度、教育の管轄の問題もあるのですが、州レベルで、例えば、教育の教科を決めるときに基本教育として、まずどこの地域でも絶対行わなければならない教科と、それ以外にその地域の特性に合った教科、地域を理解するために必要と思われる特別の教科を横断型教科といった形で取り入れることができます。アルメリアの場合は、地域の特性として「農業」が一番重要な産業であり、子供達のご両親はほとんどが農業生産者ですから、「農業を維持するためには、環境を守ることがいかに大切か」ということを横断型教科の中に取り入れて子供達に教えています。

 私達としては、「環境保全がいかに大切か」、「農業を維持するためにいかに環境が大切なのか」というメッセージを伝えたいと思っています。メッセージが子供達に浸透していくことが農業にとって非常に重要だと思います。

田上:有難うございました。

 会場からエスコバルさんに質問です。子供達への環境保全の教育の話がありましたが、具体的には当事者である農業者が実践していくにあたって、より高度な専門的な知識が必要となります。とりわけ病害虫防除の天敵利用について、市が条例を作るほどの強力な方針を出しいていますが、害虫と益虫、天敵を指導する指導員には、「どの様な技術を習得し、どの様な方法で農家に実践させているのか」という質問です。

エスコバル:答えとしては、農業大学等で農学士になった人とか、生物学を専攻された方であれば、そういう指導員(テクニコ)になれます。例えば、先ほどの天敵が住めるような緑のインフラを敷地内の1%に作る場合、市役所の方が農家にライセンスを出しますが、「どういった植生の組合せで、温室の周りの施設や緑の植生を作らなければならないのか」というような知識を持っています。テクニコは、先ほど言ったように、農学士や生物学の専門資格を持った技術者ですから、プロジェクトを作って、「こういった植生にすればこういった害虫を防ぐことができる」というような形で対応するわけです。普通は、3種類の植生を組み合わせることが多く、背丈の小さい雑草のようなものと、中程度の高さの灌木と、普通の木(高い木)の3つの組合せが多いといえます。どういった組合せで、どういった植生のものにすれば、害虫を防除できるかといったところを、エンジニアが計画を作って、それを市役所に提出して、役所がその建設のライセンスを出すというやり方になっています。専攻としては、農学士であるとか、生物学の専門です。

田上:有難うございました。私が知っている情報では、州全体で千人とか数千人というテクニコがいるということですが、エレヒド市には何人のテクニコがいるのですか、実態を把握されていますか

エスコバル:正確にはわかりませんが、アルメリア県で二千人、そのうちの半分くらいは、エレヒド市の農業技術者だと思います。

日本の営農指導はテクニコから何を学ぶ

田上:有難うございます。エスコバルさんへの質問がまだあるのですが、立石さんに質問がいくつか来ていますので、立石さんにもお聞きしたいと思います。

 「本県もグリーンハーベスター(GH)評価制度を通じて、生産者は自主的に農場管理の改善に取り組んでおり、JA職員は評価改善のアドバイスなどを通じて職員自身が自信を高めつつあります。そこで、日本型テクニコの考え方について二つ質問します。

 ひとつは、JAグループでテクニコ制度を確立する場合、要件としては何を掲げたらよいでしょうか。現在の営農指導制度と対比して考え方をお聞かせ下さい。

 2つ目は、農業改良普及員制度との関係について、整理が必要だとすれば、何が必要でしょうか。技術指導面は指導員に依存している傾向が強いと思いますので、アドバイスをお願いします」ということでございます。

立石:私がスペインで見てきた、いわゆる「テクニコ」という職種は、高い義務というかステイタスがあり、専門的な大学を出た方がそこを狙って就職先に選びたいぐらいの給与だと聞いています。「待遇が良くてステイタスが高い」、そういう職種です。片や日本では、そういうレベルのものではないようで、TACも頑張っていますが、より専門的なアドバイスで継続的に農家をサポートできるレベルに持っていくには、かなり大変だと思います。それ相当の資格や人づくりなどが必要ですし、簡単ではありませんが、本来このGAPという取組みは、民間と行政が一体化し、地域全体が一丸となってやっていかないと、なかなか成功しないと思います。そこにポイントがあるんだろうと思いますが、本来は、国家資格のようなものがあって、レベルを合わせていくというところからスタートするのが良いと思うのですが・・・。

 県の改良普及員については、従来からの役割があるわけですから、そこのところとの連携ですね。まさに、地域の特性を理解し、実務経験を積み重ねた改良普及員が核になり、行政と連携することで、日本型テクニコになり、それが生かされるのかな、それと行政とが連携する形が一番いいのかな・・・と思います。

米国や欧州の農薬残留検査について

田上:有難うございました。ディスカッションになっていなくて、大変申し訳ありませんが、出来るだけいろいろなご質問に答えようと思っております。

 立石さんにもう一つ続けて質問です。FSMAの件なんですが、FDAが行っている査察がありまして、要求事項が105条で規程されていますが、分析の相当な費用負担があるだろうと思います。それは、農業者から反発などがあるのか、それは、どの様に説明しているのか、という質問なのですが、これについて立石さんはお判りでしょうか。

 少なくとも年1回は、いろんなことをやっているようですが・・・。

立石:FDAが、あくまでも抜打ちでやるわけですけれども、なにか問題があった時の費用負担については、制度化に求めているということが書いてありました。私もそこは正確に覚えていないのですが、かなりの負担感はあるようです。

田上:これについては、どこかで調べる必要があるかもしれませんが、何か形にはまったように、「年一回調べなさい」とか、「出荷の前にやりなさい」という形式的なものじゃないという風にFSMAの専門家から聞いたことがあります。

 さて、認証と言いますか、検査というものが問われていますが、エスコバルさんにエレヒド市の様子をお聞きしたいと思います。残留農薬分析について、農家によっては、「年1回やるっているよ。」「2回やっているよ。4回やっているよ。」なんて人もいました。ということで、「それだけ農薬を沢山使っているということでしょうか」という質問が来ています。

エスコバル:先ほどは、円グラフの中で1回から4回分析するということだけで、内容を具体的に申し上げていませんでしたが、残留農薬の分析を依頼する人は殆どいません。分析項目としては、土の肥沃度、水質であるとか、作物の葉自体を分析するというようなものです。それから、作物の樹液の分析をしたりします。これが主な分析項目で、残留農薬の分析を依頼する農家はまず殆どいません。

 例えば、今申し上げたのは、農家の方が優先する分析ですが、商品としての青果物自体の分析は、卸売業者がします。そして、その料金は生産者に払ってもらうという形になっています。

GAPは生産者と消費者との信頼の架け橋

田上:宜しいでしょうか。少し長い質問が来ていますので読んでみます。

 「現在、官民あげてGAPをしよう」、「GAP認証を取ろう」という動きが活発になっています。これについては、東京五輪の食材提供のための手順という意味合いが強いように感じます。実際のところ、アジアGAP やグローバルGAP認証よりも、都道府県GAPの方が生産者の方々からも要望があるのですが、これは、消えていくGAP認証のように思います。そこで、ポスト五輪オリンピックの後を見据えてのGAP、本物の意味でのGAPに取り組んでいきたいのですが、その指導が極めて大切になると思います。そこで、その方法を定着させるにはどうしたらいいでしょうか」というものです。

 このご質問は、それをテーマに今回のシンポジウムを企画しておりますので、是非、今日に引き続き、明日もご参加いただければと思います。明日は国内の様々な事例について議論します。

 ついでに、質問ですから、申し上げますと、明日のところは、私どもがかかわって組織として、適切な農場管理ができるようにしていく、マーケットに向けて一つの団体として実施する、マーケティングを前提にして進めていく、そのためには、明日の場合には、グローバルGAP 認証を取ったところだけに限っていますが、農場認証は取得してもしなくても、生産現場でやることは同じという前提で、ポストオリンピックに向けては「GAPで生産者と消費者との信頼の架け橋」ができればよい、という考え方もあります。つまり、説明責任として証拠を立ててエビデンスをしっかりして、「我々生産者の管理はこのようにしています」ということを買い手側に認めて貰えば良いのですが、この点で、次の質問者の最大の問題は、市場にただただ出荷していると言うことになると、今、私が申し上げた「生産者と消費者との信頼の架け橋というGAPの効果」が出て来ないという問題があります。そこのところですね。単に「認証をとるかどうか」ではなくて、今日のエスコバルさんの話にもありましたように、農産物を売る(消費者に買ってもらう)という前提の中で、「農家にとってこれなら良い」ということがなければ「GAPなんてやらないよ」というお話も直接ありました。その通りだと思います。そこのところを「支援者や指導者、行政や農協がしっかりと手当てをする」ということがGAP推進の要件じゃないかと思います。

  これと似たような質問がいくつかありました。明日の発表会では、様々な場面でご活躍されているチームの皆さんの話をお聞きいただいて、是非参考にしていただければと思います。

行政が支援するのはGAP認証ではなくIPMや環境保全の教育と農業振興

田上:次に、エスコバルさんに質問です。

 グローバルGAP認証の取得は全農場の91%ということですが、それは、出荷先、流通からの要望ですか。また、認証取得のための支援はどのようにしているのですか、という質問が来ています。講演の中で全体的にその話があったかとは思いますが、絞っていただいて、要望がどのようにあって、グローバルGAP認証のためにどのようにしているのか、この二つの問いについてご説明をお願いします。

エスコバル:いろいろなタイプの認証があるわけですが、どういう認証を取るのかに関して、アルメリアで一番盛んな産業は農業ですが、自分達の収益、そしてその利益に直結するのが各種の認証であると言えます。アルメリアの場合、土地の価格は1ヘクタールあたり40万ユーロです。1ヘクタール当たりの売上げ6万ユーロ、その半分の3万ユ―ロが1ヘクタールあたりの利益だと言われています。こういう状況にあって、自分達の出荷したものが製品規格に合っていない、あるいは不良品だと言われて返品されることなどが絶対あってはならないわけです。ということは、そういう状態を考えて、卸売業社が「出荷する相手国が求める規格は何か」ということを見据えて、「この規格が必要ですよ」ということを生産者の方に伝えるわけです。最も広く普及し、より包括的な規格を持っているのがグローバルGAPであるという理由で、グローバルGAP認証をもっていれば有利ということになります。ただ、他のUNEとかネイチャーズチョイスなどの規格もありますが、より包括的なのはグローバルGAPであり、規格の内容としては、グローバルGAPに収斂されつつあります。グローバルGAPの認証を持ち、かつ他の認証を複数持っている人が多いというのは、内容が似たような規格になっているからだと思います。

 それから、認証を取得するために、どの様な支援が得られるかということですが、グローバルGAP認証を得るための助成金や補助金というものは全くありません。ただ、例えば話の内容で、グローバルGAPについて話すにしても、植生のインフラを作るための内容は何でも良いのです。テクニコから、そういった指導目的で集会を開く、あるいはセミナーを開く、そういった何かの研修会を開くときには、その集まりに対して補助金が出ます。

田上:有難うございます。私も、日本のGAPが進まない理由の一つに、「GAPをする」とか、「GAPをとる」とか言っているところに、すでに問題があると思っていて、様々なところでずっと訴えを続けています。そうではなくて、「健全な農業であること」、「農業で消費者に喜んでもらい、自分もしっかり所得を得たい」、これが良い農業(GAP)としてマーケットの信頼が得られ、消費者の信頼が得られれば、農業として成功するわけです。ただそれが、社会的に言うと「認証を受けないと証明ができない」ということです。様々な努力をされているエレヒド市の農業にしても、「農産物流通がグローバルな展開になってきて、グローバルGAP認証が求められてきた」ということです。それから僅か18年しかたっていないということです。

 私達は、「大切なことは農業そのものの信頼である」と思っていますし、良い農業(GAP)というのは、認証に合わせるのではなく、今求められている理想の農業のあるべき姿、方向性に合わせ、「自分の農業の中では、どうするのか」ということをしっかりと計画し、それを実施していくということであると思います。その意味で、私共日本生産者GAP協会は「日本GAP規範=農業のあるべき姿」と考えており、その形が実践出来れば、どのような認証制度であっても、それは良い評価を受けるということを申し上げています。今日のお話を聞いても、まさにその通りで、テクニコさんは、グローバルGAPの指導をするわけではなく、ネイチャーズチョイスの指導をするわけでもありません。このことは、エスコバルさんの言葉の端々から聞こえてきたと思います。

 日本におけるGAPの普及の現状を見てみると、そのことが全然理解されていないようです。認証支援や補助金の質問が非常に多いので、一つにまとめてエスコバルさんにお答えいただきました。「そういうことなのだ」という理解を、こういった研修会やシンポジウムの中でご理解いただければと思います。

農業と環境の条例でGAP内容の規制と支援

田上:エスコバルさんに、違う質問がきています。エスコバルさん、「規格外の青果物を飼料にする施設が間もなく稼働し、これには企業がかかわっている」ということですが、「このとき、大企業が呼びかけたのか」という質問がありましたが、「そうではなく、地域の中でやった」ということですが、そのいきさつをもう少し説明をお願いします。「そういうことをやっているのは、需要側、つまり畜産に関係のある企業の人達がそれをつくっているのですか」という質問がありました。宜しくお願いします。

エスコバル:これは、市役所の自分達が主導して環境規制を作ったというところからスタートしています。廃棄される青果物を処理して羊用の飼料を作る工場を作るに至ったということです。

 市役所が考えたのは、例えば、収穫量が非常に増えてしまった時に、市場の価格をあまり落とさないために、青果物の一部が廃棄されたり、畑にそのまま残されたりします。その畑に残ったものを羊が勝手に食べていたというそういう状況がありました。そうすると、青果物ですから腐敗もしますし、生のまま食べているという状況は、無駄でもありますし、環境自体にも良くありません。そこで、羊の餌として与えるために、「青果物を保存できるような形で処理したものでなければならい」という市の規則を作りました。そうすることによって、廃棄野菜による環境破壊を防げますし、安全な形である程度の期間保管できる飼料を羊に食べさせることができるということを考えたわけです。

 条例で規則にして義務化することにより、それを守らない人に対しては、罰金を徴収するとか、ある意味で罰則を適用することができるようになり、市のイニシアティブで工場を設立しました。

田上:有難うございます。そのイニシアティブで始まったものの中に農村衛生計画、グリーン・インフラストラクチャー、今の野菜廃棄物を飼料にするものなどがありますが、そのことについての生産者からの抵抗と言いますか、反発などのマイナスの反応はなかったでしょうか。あった場合には、どのようにしたのでしょうか。

エスコバル:おっしゃる通り、勿論これが「市の条例だから」、「市の規則だから」という形で、生産者に向かおうとすると、当然反発がくるわけですね。ですから、先ほどのスライドで「マスコットを作って様々なキャンペーンを繰り返した」といいましたが、「こういった規制を行って、それを守ることが、あなた達の収益につながるんですよ」というようなメッセージの伝え方をしました。そうしないと、「市役所が一方的に規制した」ということになり、生産者に敵対勢力の様な受止め方をされてしまいます。そこで、「皆さんの収益と如何につながるのか」というメッセージを伝えるようにしました。

 条例化し、規則化することにより、強制的に守らなければならない仕組みになるわけですが、それは均しく誰もが守らなければなりません。一人だけが守って、他の人は守らない状況を許すようになれば、その目的は遂行されないわけですが、「皆が一緒に守りましょう」という風になれば、誰か外れるような人がいれば、周り近所の生産者が「あの人は守っていない」といって市役所に通報することにもなり、そういう動きになっていくということを期待しています。

田上:有難うございました。エスコバルさんへの質問はまだ続くのですが、他のパネリストの皆さんは、実際にエレヒドに視察に行かれた方々ですので、知識がさらに磨かれたと思いますが、今日、どういう感想をお持ちになられたのかを後ほどお聞きしますので、準備をお願いします。

 エスコバルさん。続けますが、今の農産物の廃棄についてですが、大体の経過はわかりました。その場合に区分されているのか、つまり、「GAP認証の農場のもの」というのが、飼料になっても安全性というのが大切ですから、それがしっかりとトレサビリテーと申しますか、「GAP認証の農場のものとして区別されているのか、それがずっと付いていくのか」という質問がありました。

エスコバル:当然、認証を受けている青果物で、市場に出荷できなかったものだけを飼料としています。この場合には、羊用の飼料として確保します。それ以外のものは入りません。

生産者を束ねて農産物販売のビジネス

田上:明解なお答え、有難うございます。専門的な新しい情報なのですが、エスコバルさんに質問する前に、私の方から少し説明します。

 ウニカとアネコープと二つの言葉が出てきますが、これは、日本でいうと農協の連合会です。向こうは"連合"ではなく、ファーストステージの農協、セカンドステージの農協と表現されています。つまり、農協から集荷してそれをマーケットで販売するという「売ることを重点に考えている農協」がウニカであり、アネコープということですが、私がたまたま知った事例では、「今迄アネコープに加盟していたけれども、去年からウニカに変わった」という農協もありました。競争の中で、そのようなことが行われているようです。

 そこで質問です。「ウニカ・グループが2017年にアネコープ・グループと共同でウニカフレッシュという会社を設立したそうですが、これは、グローバルGAPを軸にしたEU内への生鮮青果物の輸出を目的とした会社なんでしょうか。それとも、ほかの目的なのでしょうか」という質問が来ています。

エスコバル:おっしゃる通りで、EU市場へ輸出するためには、この程度の規模のグループを作らなければいけないということで、ウニカフレッシュが作られました。ウニカフレッシュの組合員といいますか、構成員になっているのは、一つ一つの規模を考えると非常に小さな協同組合であり、ヨーロッパのテスコであるとか、カルフールであるとか、大規模なスーパーや企業と競争するためには、規模的にも対等なマーケティング・カンパニーを作らなければいけないということで、このウニカフレッシュというのが作られました。この構成員となっているのは5万トン以下の規模しかもっていない協同組合が一緒になって、ウニカフレッシュというのを作っているわけです。一緒になることによって、大規模なヨーロッパのテスコやカルフールなどと対等に交渉できる立場を得たのです。

田上:グローバルGAP認証やその他の認証で要求される事項は、マーケティングの中で行われているマーケット対応です。「本来あるべき姿だからGAPをやれよ」ということではなくて、「どの様に農産物を販売していくのか」ということですから、売り方として、「相手とどのように有利な販売をして行くか」というための売る組織がなければいけません。他の質問の中に「どうやって部会の統制をするのか」、「どうやって組織を大きくしたらいいのか」という質問がありましたが、全てが農産物の販売にかかっているのです。残念ながら日本のGAP推進の中では「農産物を販売するんだ」という点がすっぽ抜けているんじゃないかという言う気がしていました。

 ようやく全中・全農さんが、農産物の販売を前提にして「どうやって売り先の信頼を獲得していくのか」ということのために「GAP認証というものに取り組もう」ということで、新しいチーム(JAグループGAP支援チーム)が出来ているわけです。明日は、その話もお聞きしますが、そこのところが、ポストオリンピックにおける我々が取り組まなければならい大きな課題の一つであり、GAPは、当然のことながら、農産物の販売を前提とする対策なんだと思います。いろいろな質問が出てきますが、そこのところが解決していかない限り「GAP認証も何のため?」ということになってしまうのではないかと思います。

セリで農産物購入の権利を買う

田上:エスコバルさんへの質問ですが、それと同じように、概念としてとても大切なものが、産地市場での購入する権利、つまりセリで「購入の権利を買う」ということです。これは概念の問題ですから、もちろん農産物を買うのですが、「権利を買う」ということは日本では考えられない発想です。なぜなら、日本では「農産物の売買」ではなく、生産者は青果物の荷をどんどん置いていくだけだからです。そのことをエスコバルさんにもう少し話していただけると有難いです

エスコバル:まず、例えば以前、卸売市場でセリが行われているとき、生産者が自分の規格に合わせて青果物を分類し、卸売市場に持って行ってセリに参加し、卸売の人達は実物をみて値段をつけるやり方ですね。昔、普通にやっていたのは、生産者が主観で分類し、「大体同じくらいの品質で同じくらいのサイズだから一つにまとめよう」と主観的に分類したものです。なるべく良いものを上に乗せようとしますよね。ですから、卸でセリによって値をつけようとする人は、その一番上にある良い品質のものをどけて、奥にどんなものがあるかを見て、同じ品質のものがそこに揃えられているか、同じ形で同等の青果物があるのか品定めした上で、値をつけてセリ落とすことになります。目の前の実物を見てセリ落とすという形です。しかし、こういうやり方しかできなかったのは、標準の規格がその当時は存在しなかったからです。

 規格がないところでは、主観的に生産者が振り分けたものを見て、それを判断して値をつけます。それが、規格があって、認証という形になったらどうなるかというと、少なくとも認証された青果物は同じ品質のものであり、「同じ規格で揃えられたものがそこにある」という前提で取引が進むわけです。ですから、実物を見ないでも、ここで認証されたトマトが卸サイドでセリをかけられたとすれば、認証されたこのタイプのトマトを1kg買う権利を購入することになり、そうすれば、認証されたトマトであれば、どこの業者が持ってきたものでも、1kg分のトマトが買えるということになるわけです。実物がなくても、規格に従って認証を受けているものであれば、ここに集まっているものは「すべて同じ品質のものである」という考え方の下で、「1kgあたりこの価格で、この青果物を買います」という形で値をつけていくというのが「権利を購入する」ということなのです。

パネルディスカッション風景 右からエスコバル氏、通訳、立石幸一氏、田上隆多氏、山田正美氏

田上:お分かりいただきましたでしょうか。大方の方は頷いておられますが・・・。

経営トップはGAPの外形ではなく、中身を考えて下さい

田上:エスコバルさん、有難うございました。この質問は、立石さんにお答え願いましょう。

 「国内でGAP実践を拡大するには、GAPの現場指導ができる営農指導員の育成をしなければいけません。このことは勿論ですが、にもかかわらず、単協の農協の上層部の組合長とか役員の理解があまりありません。JAとしてGAPの実践に取り組もうとする意識が役員、職員の皆が持たなければならないのですが、その意識改革のために具体的に何をどう働きかけたら良いのかご指導お願いしたい」という質問が何人からかきています。

立石:これはもう・・・GAPをきちんと捉えて、その動きを受けてやっていくという意識が求められるわけですね。だから、そういう人がやらなきゃいけないのですが、そうでなければ・・非常に情けない。素晴らしい方も大勢いらっしゃいます。ですから、そういう中では、何度も何度も、あらゆる形でそのような状況をつくり、行政などにも繋げていき、体質を変えて頂くと良いですね。私達は連合会です。あらゆる手段で、そういう動きをしっかりと発信するイメージで行くべきだと思います。必要があれば、個別に言われれば、我々も行って話をします。そういう動きをやはり、よく判っている方が、その方の持っているプロトコルやレベルに合わせて、そういう話で理解しなくてはいけませんね。その人の持っている特性や、いろいろな地域の中で育んでこられたその方の背景などを踏まえた中で、その現場に伝えていかなくてはならないと思います。

田上:有難うございました。実は、日本中の多くの農協から「お前来い」といわれて説明会とか講演会に行きますが、その際にご挨拶だけして帰ってしまう役員が圧倒的に多いようです。これで職員がうまくやって行けるのかと私は心配になります。ですから、このようなシンポジウムを開催しているんです。私がJGAPをやめてからもう12回目になりますが、「これじゃいけない。どうしてもGAPの中身を知ってもらわなきゃいけない」と思っています。今まではGAPの形だけなんです。「GAPってどうやってするの? 整理整頓してね。認証はこうですよ」・・・と。入れ物や形なんです。形はいくら説明しても、ところであなた、「あなたの農業ってなあに」と聞いたときに、何も出て来ないのではないの?「農業のGOODプラクティスになっていない」。適正な農場管理というものは、あなたの生産現場に存在するわけで、そこをどうやって掘り下げていくのか? 中身はどうなっているの? 誰がどのようにやっているの? 何を作っているの? どういう風に作っているの? それってどうなの? というふうに農業の中身を考えていく、その中身を考えた時に、「環境に負荷かけてないの?」、「食品安全の問題で落ち度はないの?」、「労働問題は大丈夫ですか?」ということなどを考えていけばいいのであって、こっちにあるものを持っていって、これどうぞと、「うちのシステムを使えば誰でも農業が良くなる」ということはないと思います。それを伝えたくて、ずっとこのシンポジウムを続けています。ですから、「組合長さんを連れてきて下さい。」今日ここにいる皆さんは良く理解ができていると思いますが、それをどう伝えて良いか判らない(という質問もあります)、とすれば、こう言う機会に是非、直接知って頂いて、経営者というのはかなり敏感ですから、こういうシンポジウムに来ればよく理解できると思います。場合によっては、職員よりも経営者は理解が早いと思います。ですから、経営トップにどうやってその機会をつくってあげるかということが、私共の仕事なんじゃないかと思っています。機会に恵まれなかったら、その人はいつまでも次のアクションに移れませんね。

 私は、GAPのことやGAP認証のことで、何度もイギリスやドイツ、ベルギー、フランス、イタリア、スペインなどに行きました。特にイタリアやスペインの生産現場や農協では何度も感動して、今回は、シンポジウムの講師としてスペインの方に日本に来て貰うまでになりました。そうしない限り、深く広く欧州の農業事情、GAP事情を理解することはできませんでした。日本の多くの人にも理解して貰いたいと思い、続けてGAPの普及活動をしているわけです。皆さんにも、決定権者に機会を与えるということを重視していただければと思います。

 先々週になりますが、「農政ジャーナリストの会」という会合がありまして、そのジャーナリストさん達の勉強会でGAPに関する講演をしました。私の話の内容ですが、マスコミ関係、雑誌関係の農政ジャーナリストの皆さんは、「初めて聞いた。GAPってそういうことだったのか」という反応でした。NHKの解説員もびっくりしていました。それなら「今までマスコミの皆さん方はGAPをどのように広報していたのですか? GAPをどのようなものだと新聞やテレビで言っていたのですか?」と聞かざるを得ませんでした。「国の受け売りですか?」と尋ねたら「そうかも知れません」と言っていました。だとすれば、日本は永久にGAPが定着しないのではないかと心配されます。しかし、実際にはそんな心配は無用ですね。地方行政も、農業ビジネスの現場も、ゆっくりですが、確実に認識が高まって来ていますから、いよいよ日本でも食・農・環境事業の本体を掴んで改革の一歩を踏み出すことになるだろうと思います。そういう機会をしっかりと共有することが大切なんじゃないでしょうか。

日本農業はアルメリアのGAPに学べ

田上:山田さんにお聞きします。私共は、何度も何度もアルメリアに行って、エレヒド市の皆さんにも迷惑かけながら、「また来たのか」といわれるほど迷惑をかけながら、食い下がって本物をつかもうとしています。山田さんもアルメリアに行っていますが、今度は、日本に来て貰って、皆さんの前で話をして貰い、山田さんなりに「アルメリア農業から何を学ぶべきか」「それを日本でどう生かすべきか」ということでまとめていただければと思います。それから、次々とお聞きしたいと思います。

山田:私は、もう9年前になりますが、アルメリアのエレヒド市を訪れました。9年前ですから、およそひと昔前ということになりますが、その時もアルメリアの地域が一体となって組織的に産地を運営していました。例えば土壌分析、水質分析、養分分析、残留農薬分析をする機関、またGAP指導や栽培技術指導をするテクニコの人達、大規模な選果場や、卸売業者、行政組織が一体となって産地を支えるために組織的な取組みをしていました。非常に印象的であったことを覚えています。先ほどエスコバルさんから、市場に出荷できなかった大量のハネ品を羊の餌として利用するという対策を新たに追加されたというお話も、行政などが「農家にとって何が良いのか」ということを常に考えながら、産地が前進しているなという印象を受けました。日本にも早くこういったモデルになるような産地作りが出てきたらいいなという認識です。

田上隆多:私もアルメリアに3回程訪問させて頂いています。アルメリアの農業というよりは、恐らくは、日本人との違いかもしれませんが、訪問先で聞くいろいろな言葉で感じるのですが、「自分達がどうしたいのか、それぞれの人がどうしたいのか」ということがありますし、それを多分、民主的に決定していくというプロセスがあるんだろうと思いますし、日本にも基本的にはあると思いますが、日本では、思っていてもあまり言いません。誰かが決めたことに対して「やるのか、やらないのか」という話ばかりに聞こえてきます。視察を終えて日本に帰って来ると、せっかくアルメリアに行っても「そうは言っても、反発があったでしょう」という話ばかり質問する方がいます。「自分達はこれからどうしたら良いのか」、「皆でどう作っていくのか」という主体的な発言があまりないのです。自分の農業の問題、その解決策としての基本的な対策を積み重ねているのが、アルメリアだろうなと思います。そう考えると、私は、「日本でも、幾らでも、今からでも進めることは可能である」と、そういう感想を持っています。

GAPと民主主義

立石:スペインの明るい元気な農業をみてしまって、本当に地域一体となれば、いろいろなことができるんだっていうことが判りました。特に、協同組合って、どうしてもなかなかうまくまとまらない中で、一定の方向性を決めて進めていくのは難しいところもあるんですが、先ほどから、エスコバルさんの話を聞いていて、行政側からの規制、ペナルティーを伴った規制がかけられるというところに、特にプロセスが悪い時に、工夫が必要なんだということが判りました。

 逆にエスコバルさんに質問したいんですが、日本ではパブリックコメントのようなもので説明し、問題を投げかけてから、生産者による投票などを通して実行に移しますが、アルメリアの場合、例えば「3分の2が賛成すれば全員をしばれる」というような仕組みがあるのでしょうか?そう言った民主的な仕組みや手続きが条例であるんでしょうか?

 絶対、反対者はいるんです。必ず、どんな場面でも、どこでも、何をしても、いつも反対する人がいるんです。私もそれで随分苦労してきた人間の一人なんです。農産物の販売などでも、直面するんですが、ほとんどの人が「こうしましょう、こうしたほうがいいですよ、必ず成功させましょう」と言っても、反対する人は必ずいるんです。強力にそれを押し切ってくれるような強い組合長がいれば何とかなることもあるのですが、地域全体となるとなかなか難しいんです。プロセスのところは行政の力を借りるとか、どんなふうにやっているのかという質問をさせていただきます。

エスコバル:民主的なプロセスで、投票で何かを決定するということではなく、今はマーケットが決めるのです。市場で「どれが売れるのか、どれが売れないのかを決める」という形になっていると思いますので、生産者側は、その「市場が決めるルールで売れるようなシステムになる」ので、なるべく良い価格で売れるようなものを作っていくということだと思います。ですから、民主主義でそのプロセスを決めているのは市場だと思います。生産者の方は、その市場が決めたルールに従ってその規格に合った生鮮産品を作れば必ず売れるし、それも良い価格で売れることを知っています。ですから、認証を取ろうというモチベーションになるんだろうと思います。

立石:エレヒド市の規則や条例で「規制」かける、罰則を伴う規制をかけているケースがありますね。その場合には、当然、何かプロセスがいるんじゃないでしょうか。行政から罰則をかける、「これをしなければアウトですよ」という規制をかけて全員を従わせる。その場合のプロセスはどうでしょうか。市がルールを決めて生産者全員に周知していくわけでしょうか。そのためにプロセスはどうなるのでしょうか。

エスコバル:まず、市の条例ですから、市議会で市議会議員が投票で決めるわけです。市議会議員は4年毎に選挙で選ばれるわけですから、当然市議会議員が投票で条例として制定したものは、市の条例として発布されて施行されます。当然、それに反対する農民の方もいるでしょうし、納得できない人もいるでしょうが、そういう人は、そういった条例を提案した市議会議員には、次回は投票しないというように選ぶことができるわけです。ただ、その条例を市議会の本会議にかける前には、市の中に農業審議会というものがありまして、その中の構成員になっているのが、企業代表であるとか、農民組織の代表者であるとか、生産者団体の代表とか、それから大学関係者、銀行、灌漑組合など、様々な関係者が構成員となっており、そこで審議されたものが市議会にかけられて条例として制定されますので、勿論、その提案を政治家として認めるかどうかは、自分の政治的な意志であるわけで、自分が賛成して投票したことによって有権者に反するかもしれませんが、政治的な責任としてその人が投票を決めるわけです。

持続可能な農業は何を目指すのか

エスコバル:個人的な話ですけど、「天敵で害虫を駆除する」ということで、植生によるインフラを提案したのは、当初このシンポジウムに来る予定のマニュエルさんだったのですが、私は、個人的にはそれには反対したんですが、その条例案は通り、そのようになったわけです。私は反対したんです。マニュエルさんが、植生に天敵を入れて害虫を退治するというのは、生産者からの受けも非常に良かったですし、組合からの評判も良く、組合側は、自分達が負担するから温室を作りなさいいということになり、組合がお金を出して作るようになりましたので、非常に成功事例だったと思います。

 私が「緑のインフラ」に反対した理由は、非常に管理が難しいと思ったんです。雑草の方が強いものですから、それを天敵のサンクチャリー(保護区)として天敵を守るために使うのですが、手入れが必要なわけで、非常に管理が難しいじゃないかと思ったんです。しかし、結果的には、非常に受けが良かったですし、組合側もお金を出してくれるというので、爆発的にヒットしました。

田上:有難うございました。エスコバルさんから、最後にグローバルGAP認証の基準についてコメントをいただけるということです。よろしくお願い致します。

エスコバル:将来、グローバルGAPの規格に入るだろうと思われるのが「硝酸」についてです。現在は、農業者が人工の硝酸(化学肥料の窒素)と自然の硝酸(有機肥料の窒素)の割合がどのくらい使われているかということを調べると、まだ基準の中には入っていませんが、将来的には、自然の硝酸と、人工の硝酸のバランスを調べるという規格が入ると思います。これは、アイソトープ(同位体)フットプリントといいまして、カーボン(炭素)フットプリントとか、ウォーター(水)フットプリントとかを調べるのは割合簡単だと思いますが、将来的には、土地の栄養分として、人工のものがどれだけ使われて、自然のものがどれだけ使われたかというアイソトープ・フットプリントという指標が規格に入るのではないかと思います。

田上:今の追加でいただいたコメントに関してですが、グリーンハーベスター(GH)農場評価の中では、この人工的な窒素と自然の窒素の総量を考慮して、「過剰な施肥になっていないかどうかを確認していますか?」という基準項目で農場評価をしています。ただし、「それらを計算して根拠の数値を示せ」とまでは要求していませんが、当然ながら、人工的なもののバランスがグッド・プラクティスを求める以上は、農業のエコロジカル・フットプリントが求められてくるかもしれないという感じはしております。

 ただ今のコメントも含めまして、私達は、「本来GAPでなければならない」と言われることになったもともとの原因は、今日の、私の報告でも触れさせて頂きましたが、そこからGAPの理念をスタートさせていますので、やはり、適正農業を証明するためには、そのエビデンスが求められることになるのかなと、話を聞いていて感じました。

スペイン・アルメリアGAPツアーに参加してください。

田上:皆さんには、是非、スペイン・アルメリアに行ってもらいたいと思います。エスコバルさんも、エレヒド市役所の皆さんも、アルメリアで待っていてくれますので、是非お考え下さい。アルメリア県の農協、それから、連合会、農家、資材会社、色々なところと交流をこれまでもしています。今年も、11月に企画しておりますので、これは、GAP普及ニュースで案内を致しますので、必ず見ていただいて、以前は、メールで、PDFを送っておりましたが、あまり、大きくなってきたのでどこかのサイトに置いといて、ダウンロードしてもらうことになっています。

 やはり、「聞くと見るでは大違い」というところもあります。本当に違いが分かるのには、現地に行くことが一番だと思います。今の日本の関係者に求められることは、本当の現場を知ることだろうと思っています。

 それから、今日の資料では、スペイン語の部分の「言語の壁」があります。この部分を日本語翻訳してGAP普及ニュースで皆さんにお伝えして行きたいと思っておりますので、GAP普及ニュースを期待してお待ちいただければと思います。

文責:一般社団法人日本生産者GAP協会・出版委員会

2019/7


世界のGAP先進地スペイン研修ツアー vol.3のご案内
2019年11月17日-11月25日

東京2020後のGAP戦略を考える日本農業再興のヒントがいっぱい!

このツアーで、GAPは難しいと思っている日本人の誤解を解きます
このツアーで、GAPコントロールが市場支配力を持つことを学びます
このツアーで、GAPが地域農業振興の切札であることを確認します
アルメリア農業主な訪問エリア

 スペイン南東部のアルメリアは、ヨーロッパ最大の夏野菜生産基地で、GAP認証割合100%の先進地です。 日本生産者GAP協会が2004年から親交を深めてきたアルメリアの農業関係者を訪ね、稀にみる地域農業の発展を遂げた農業クラスターの実態、特に農協による生産者指導と農産物販売のポイントを探ります。 地域農業を支える行政機関や大学の支援、地域経済の柱である農家と農協や農業法人などの生産・出荷・販売の現場を視察し、それぞれのキーパーソンと意見交換します。また、先端の生物学的制御とマーケティングチャネルの改善、それらを可能にした小規模農家の協同化に学び、日本農業の再興を考えるGAP研修ツアーです。

  • スペインは、国際規格のGAP認証農家の数が世界で一番多く、農協がリードする園芸産地です
  • 上位(持続可能な農業)のGAPで差別化し、農協の農産物輸出額は大幅に増えています
  • エルエヒド市は、行政支援の農業クラスターで、地域人口が大幅に増えている農業振興の地域です
  1. 期 間:2019年11月17日(日)~25日(月)
  2. 対象者:JA・行政のGAP担当者,その他(定員20名)
     ※申込は先着順で受付します。最低催行人数は15名の予定です。
  3. 参加費:(会員)48万円、(非会員)50万円
     ※参加費の最終確定は参加人数確定後となります。8月中に連絡致します。
     ※取消料は9月13日以降に発生します。詳細は別表のとおり
  4. 申込方法
    1. 所定の様式でEメール又はFAXにて送信して下さい
       FAX:029-856-0024  Eメール:mj@fagap.or.jp
    2. 期限:2019年8月8日(木)
  5. その他
    1. 成田空港から事務局員が同行し、現地では専門のスペイン語通訳が同行します。
    2. 現地での詳細なツアー日程は8月中に連絡いたします。
    3. このツアーに関するお問合先は下記にお願いします。
       (一社)日本生産者GAP協会(担当:田上隆一)
       TEL:029-861-4900
参加条件
■ 食 事/朝7回、昼5回、夕6回(機内食を除く)
■ 利用航空会社/イベリア航空
■ 一人部屋追加費用/概算5万円(7泊)
■ ビジネスクラス追加費用/個別問い合わせ
*参加費用に含まれるもの*
● 日程に表示される往復の航空運賃(エコノミークラス)
● 日程に表示される借上げバス等の交通費
● 事務局同行費用、現地案内と通訳料
● 日程に表示される食費(アルコール類含まず)
● 宿泊費:ホテル(2名1室)
*参加費用に含まれないもの*
● 渡航手続諸経費:パスポート代理申請手数料
● アルコール類、上記以外の食事費用
● 個人的費用(交通費・電話代など)
● 自由行動中の一切の費用
● 羽田空港までの往復交通費用
● 手荷物超過料金
● 海外旅行傷害保険料
取消規定  おひとり様当たり
取消日(契約解除日)取消料・企画料
9月13日(金)から10月1日(火)まで16,500円
10月2日(水)から10月11日(金)まで22,000円
10月12日(土)から11月15日(金)まで78,000円
11月16日(土)以降参加費用の100%

主なツアーポイント

  1. GAP認証農家数が世界一のアルメリア農業の現場を視察
    • 農業ビジネスの要である農協や農業法人を訪ね、「生産技術とGAPの総合教育」と「圃場と選果場の統合的一貫管理」について視察します。
    • 「農産物バリューチェーン」について、生産段階の資源(農家・農地・作物・施設・認証取得)情報と、販売段階の資源(商品品質・選果・運送・販売先)情報を統合管理する「農業ERP」システムを視察します。
  2. 攻めの農業をリードする政策の実態とそれに応える農家・農協を視察
    • 農産物輸出でビジネスを拡大する農協と、それらを支える行政エルエヒド市役所の農業・環境部と情報交換を行います。
    • 先進的な生産技術(IPM、オーガニック)で持続可能な農業に取り組み、高い利益を上げる生産組織を訪問して、農業経営のポイントを学びます。
    • 農産物輸出事業、地方市場や産地卸売業、スーパーなどを視察して、スペインおよびヨーロッパの農産物流通の実情を視察します。
  1. 83の農協を束ねアルメリアの農産物の70%を販売する連合会を視察
    • COEXPHALは、アルメリア青果物の生産者と消費者を結びつける協会です。ビジネス成功のために生産技術の革新と生物学的病害虫防除を実践。労働者福祉を優先し、農場認証で環境に優しい農業生産方法をリードしています。
    • 協会翼下の農協は、大量販売(低価格)から消費者側に移行、スーパーマーケットチェーンへの直接販売を可能にし、その付加価値はアルメリアの産地に残して農協の組合員に再分配されます。
  2. 大学と行政の共同による持続可能な農業の研究開発と人材育成を視察
    • 生産者の価値を付加するための重要な行動は、生産過程で農薬の使用を減らす生物学的防除と総合作物生産の実行です。検査機関の運営、営農指導員の人材育成で持続可能な農業を支援しています。
  3. アルメリア農業をリードしてきた専門家に直接聞こう
    • 日本生産者GAP協会では、2019年2月のGAPシンポジウムに、アルメリア農業の中心地であるエレヒド市の農業・環境部長アントニオ・エスコバルさんをお迎えし、いよいよ国際水準のGAP農業にならんとする日本の農業関係者に世界最先端のGAPについて直接お話をしていただきました。
      今回のツアーでもエスコバルさんにお世話になり、アルメリア農業のキーパースンを訪ねる予定です。
GAPシンポジウムで講演するエスコバル氏

2019/7


2019年度セミナー等の予定

 2019年度の各種セミナー・シンポジウム等について、下記のスケジュールで実施する予定です。

 グリーンハーベスター農場評価制度(「GH評価制度」)では、GAPの理解と普及のための教育システムとして、農業者、農業指導員等によるGAPの自主管理を推奨しています。

開催期日シンポジウム・セミナー等
4月4日(木)-5日(金) 済
7月25日(木)-26日(金)
10月24日(木)-25日(金)

『GAP実践セミナー』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:24名、参加料:30,000円(税込)(当協会会員24,000円税込)

5月30日(木)-31日(金) 済
8月26日(月)-27日(火)
11月21日(木)-22日(金)

『農場実地トレーニング』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:24名、参加料:30,000円(税込)(当協会会員24,000円税込)

6月27日(木) 28日(金) 済
9月5日(木) -6日(金)
12月19日(木)-20日(金)

『農業者のためのHACCPセミナー』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:24名、参加料:35,000円(税込)(当協会会員28,000円税込)

12月13日(金)

『農業者のためのQMSセミナー』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:24名、参加料:21,000円(税込)(当協会会員16,800円税込)

2020年
1月23日(木)~24日(金)

『GH評価員試験』
場 所:つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20番3号)
定 員:1日につき最大7名、受験料:31,000円(税込)

2月27日(木)~28日(金)

『GAPシンポジウム』
場所:東京大学農学部弥生講堂一条ホール(東京都文京区弥生1-1-1)
参加料:主催・共催団体会員 10,000円、一般 15,000円、学生 2,000円

「農業者のためのHACCPセミナー」のワークショップ ~グループ発表風景~

2019/7


株式会社Citrus株式会社Citrusの農場経営実践(連載32回)
~グロワー/シッパーを目指して~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 株式会社Citrusの設立7期目の決算が終わった。今期もまた大きな誤算があった。

  2年前に地域の有限会社の野菜農家が倒産に追い込まれた。社名や取引先は匿名とさせていただきますが、立派な施設が放置されるのを見かねて、その会社をなんとか復帰させようと弊社と流通会社の「サンライズみかんの会」が仲介して、野菜生産を継続させるために農作業やパッキング作業に社員を送り込み、また、野菜の販路をみかんの取引先でもあった業者に取り次ぎ、おおよそ半年の間、その生産販売に挑戦したが、今年の1月に見切りをつけた。

  支援をすると、当初その生産者に約束はしたものの、問題は弊社の要求に応える商品生産の努力を怠ったことに原因があり、弊社の担当役員が「継続は困難」と判断したのである。これにより、半年間で、弊社のみで230万円あまりの損失が出た。決算ではこの損失はみかんの売上げでカバーできたが、見通しがあまかったと反省している。

  しかし、この取組みによって得られたものもあった。一昨年より弊社と姉妹会社になったある流通業者の「株式会社サンライズみかんの会」との連携を強固なものに発展させるきっかけとなった。昨年7月「株式会社サンライズみかんの会」の役員の執行体制が改革された。弊社の代表取締役である著者が取締役となり、生産部門と流通部門の連携を強め、アメリカ型のグロワー/シッパーを目指すことになった。


株式会社みかんの会関係者一同(令和元年5月1日)

  そして、令和元年5月1日に新社名で「株式会社みかんの会」の竣工式を執り行うことになったのである。この会社は、先にも述べた流通会社であり、平成15年に津田兼司氏が「株式会社サンライズみかんの会」として設立した農産物流通業の会社であった。有田みかんの産地直送販売を目的としているが、農協組織や任意の出荷組織ではなく、新たな農産物流通を目指して設立されたものであり、その原型は、1990年代にアメリカにおける青果産業の構造変化を学び、日本より早くから大規模なスーパーマーケット・チェーンやレストラン・チェーンが展開されていたアメリカの青果を供給する流通チャンネルである大都市の卸売市場の役割より、産地におけるシッパーの役割は大きかったという報告を知り、それを目指していた。それを裏付ける論文が2011年から2013年に岩手大学の佐藤和憲氏(現在:東京農業大学)によって発表されている。

  当社は、近年アメリカで伸びてきているグロワー/シッパーを目指し、「株式会社サンライズみかんの会」が著者の経営する農業生産法人へ出資し、共に連携を強めてきた。ここにきて、野菜部門の失敗からグロワーとシッパーの連携を強固なものにする必要性が問われ、この在り方を検討してきた結果、役員人事、社屋の新設、社名の変更となったのである。野菜部門の失敗は引き金ではあったが、最大の要因は設立から15年が経過した段階で、これまで、このグロワー/シッパーの成果が出はじめたことから、これまで「株式会社サンライズみかんの会」は貸倉庫で事業を展開してきたが、更なる展開を図るため、若手の宮井健太代表取締役(31才)が社員に30才代の若手4名を起用し、設立者の指導の下、自社で新社屋を確保し、社名も「株式会社みかんの会」に改名し、この度めでたく竣工式を迎えたということである。それと同時に、過疎化が進む和歌山県の農業を少しでも活性化したいということから、地方の創生として有田郡有田川町糸川400番地の山間部に会社を設け、地域の農家と共に発展させたいと意欲を示している。

  弊社は昨年12月に正社員1人が就農のため退社した。また、カンボジア技能実習生が野菜部門での研修受け入れだったことから弊社の野菜部門撤退が外国人技能実習制度に反することとなりやむなく退社となった。この人材不足を回避するため、弊社は株式会社みかんの会と連携して農繁期には両会社の社員で対応していこうと試みている。6月に入り、農作業の継続困難となった園地を弊社とみかんの会共同で管理を引き受けることが決まった。これからは単独で農業を営み悩むのではなく、組織で地域農業を維持していくグロワー/シッパー形態を実現していきたいと考えている。そしてそこに若者が集まる事業を展開していきたいものである。

   次なる課題は、シッパーがグロワーに対してGAPのルールをどのように浸透させていけるのか問われている。


株式会社みかんの会の自社社屋

 一方、次年度からの会社運営については、先ずは、令和3年度の新規採用者の募集を始めた。これまでも農林大学校卒業生の採用をポリシーとしているので、採用案内を出したが、提出時期が遅くなり、学校から、現在は「応募者ゼロ」との返事を受けたばかりである。今後は農林大学校に関係するような地元の若者で農業志向をもつ青年を模索していこうと口コミで募集を始めたところである。 また、経営者である著者が今年5月末に病気入院したこと期に、農業生産法人の在り方についても取締役会で検討を始めた。近い将来は、著者も取締役を務めると同時に、株式会社Citrusの法人構成員で、農産物販売事業を展開している「株式会社みかんの会」と連携して、アメリカ型のグワーシッパーを目指すとした課題を進めることとなった。

 このコロナ禍において、経営面では「高収益作物次期作支援交付金」の申請や「経営継続補助金」の申請を既に行っている。「経営継続補助金」の採択は未定であるが、「高収益作物次期作支援交付金」は申請書に偽りがない限り交付されると聞いている。また、農済の収入保険契約も8月末に基準金額が示されたので、ちょうどサインを済ませたところである。あとはコロナ禍での販売はどうなるか、異常気象下での自然災害の発生など、気がかりなことばかり続くが、人材育成を進めるために前に進むしか無いと考えている。

2019/7


編集後記

食讃人

 2月末に開催されました「2018 GAPシンポジウム」の概要は、前号に掲載しましたが、スペイン・アンダルシアのエヒド市からお招きしたエスコバル部長の貴重な基調講演の原文はスペイン語でしたので、これを日本語に翻訳して掲載する予定でしたが、時間がかかっており、次回に送ることに致しました。そこで、初日のパネルディスカッションをテープ起こしし、少し長くなりましたが、掲載させて頂きました。このパネルディスカッションでは、質問がエスコバル部長に集中し、大変貴重なものになりました。このテープ起こしは、事務局の山藤さんの労作によるものです。ご一読いただき、参考にしていただければ幸いです。

 GAPの入口のリスク評価はHACCPシステムによるものですから、農場認証を取得していれば、HACCPにおける「一般的衛生管理」についてのベースができていることが判ります。HACCPシステムでは、原料の受入れ時に原料の安全性を確認することも必要になりますから、HACCP 工場では、GAP農場からの原料を受け入れる重要性が判ります。

2019/7