GAP普及ニュース 57号
【年頭のご挨拶】
農場現場から提案する人類的視点のGAP
田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長
平成31年の新春のお喜びを申し上げます。こうして毎年正月になると、我が家にも1年の実りと幸せをもたらす「年神様」が降りてくると信じていますので、締飾りや鏡餅などを飾り、雑煮を食べてお迎えします。日の出とともにやってくる年神様を拝めば、直前までの師走の喧騒からも解放されて清々しい心持になれるのは、何とも有り難いことだとしみじみ思います。もしも年神様が来られなければ、このところの反世界的なナショナリズムや特定の経済的な利益だけしか考えない世界の国々や各地域のエゴイズムに、重苦しい気持ちになった毎日から逃げ出せなくなるかもしれません。
昨年は残念ながら、経済の発展、開かれた世界、自由な貿易などに象徴されるグローバルな社会が、「人類の未来に明るい兆しをもたらす」21世紀の政治的・社会的思想が、急激に崩れ落ちていくのではないかと感じられるような出来事が続きました。アメリカと中国の露骨な貿易戦争やイギリスのEU離脱などはその象徴的な出来事です。
我が国の農業においても、今や外国人労働者無くして成り立たない事態になっていることやその対策が労働力の国際経済的な面でしか考えられていないのではないかと思うと、年神様を迎えながらも、またもや暗鬱な気持ちになってしまいます。
食と環境の維持を担う農場経営に対する社会的な信頼の証として登場してきたGAPによる農場認証(FA:Farm Assurance)は、農産物の取引がグローバルだからこそ登場した「相互信頼の制度」です。農場認証の制度自体は、農産物という商品を通したサプライヤー間の信頼に基づく制度ですが、そもそもGAPそのものは、持続可能な社会作りのために農業者が果たすべき社会的使命です。つまりGAPの目的である「人と環境に優しい農業」は、思想的にもグローバルでなければならないものです。それは、"わが国発"や"自国ファースト"の経済至上主義ではなく、SDGsに示された達成目標を人類的視点で考える本物のグローバル化でなければならないのです。そのためには、GAPを単なる管理手法として手順を教えるだけのGAP教育ではなく、『農業規範』そのものが示す倫理感と、その『農業規範』から逸脱しない「農場における自己コントロール技術」の普及として捉えていくことが重要です。
本年は、日本生産者GAP協会が開発し培ってきたGAP教育システム『グリーンハーベスター(GH)農場評価制度』をGAP教育とGAP実践の現場で大きく育て、日本のGAP普及を前進させたいと思っています。
今年も一年間、どうぞ宜しくお願い致します。
2019/1
《巻頭言》
BAP農場をGAPにするコストについて考える
田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長
GAPはいくら掛かるのか?という質問
GAPについての相談で一番多いのは「GAPを取るには幾らかかるのですか?」という質問です。良く聞いてみると、知りたいことの一つは「どのGAPが良いか」「そのGAP審査料は幾らですか」ということで、もう一つは「GAP導入の費用はどれぐらいか」ということです。質問者の多くは、GAP認証を取得することになったか、または取得を検討している人達です。中でも多い質問は「GAPを取るために農場で必要な施設や装置などの費用について具体的に知りたい」という質問です。「具体的に」というのだから、こちらから「農場のリスク評価をしましたか」「農場改善の計画書を作りましたか」などと尋ねてみると、「GAPに関して何もしていないので知りたい」という答えです。そのために私は「そもそもGAPは・・・」と説明することになるのが常です。すぐにもGAPに取り組もうという人達が、まるでGAP、つまり適切な農業行為の実施要件がパッケージになっていて、それを導入することでGAP認証を取得できると考えているかのようです。
農林水産省では、一昨年(2017年)から、『「GAPをする」ことと、「GAPを取る」ことは別です』と指導しています。それを聞いた人達の中には、「結局GAPは取るのでしょう?」つまり「GAPは取るものであり、取るためにはGAPをやらなければならない」と考える人が多いようです。そして「どのGAPを取るのが良いでしょうか」「そのGAPを取るためのコストは?」「そのGAPをやるためのコストは?」と尋ねてくるのです。
GAPは持続可能な農業のための自己管理プログラム
GAPと略されているGood Agricultural Practicesについて少しでも学んでいれば、また、農産物サプライチェーンで求められる農場認証(FA:Farm Assurance)の意味を知っていれば、このような質問にはならないのではないかと思っています。少なくとも日本生産者GAP協会の『日本GAP規範』を読んだ人や、同じく協会の「GAP実践セミナー」を受講した人、さらには協会の「GH農場評価員」の研修を受けた人であれば、このような質問はしないと思います。
「GAP」や「農場認証(FA)」に関しては、これまでの農業経営では考えていなかった「持続可能な農業を実現するための自己管理プログラム」の導入・運営が問われるわけですから、GAPの担当者ともなれば、そのために必要な経費は、可能な限り正確に把握したいと考えるのは当然のことです。
しかし、持続可能な農業の自己管理プログラムというものは、どこかにパッケージがあって、それを買って使えば良いというものではありません。はじめに農業経営があり、その実現のために農場管理を適切にコントロールすることが「GAPをする」ということなのです。したがって、どれかのGAPに合わせて「GAPをする」というものでもありません。
GAPの標準化で流通が容易に
GAPや農場認証(FA)は、今や高いレベルで標準化が進んでいます。そのために、例えば民間の農場認証であるGLOBALG.A.P.を取得した農場を視察すると、農場施設の様々な場所に、似たような掲示物があり、自己管理プログラムの実施やその検証に利用する記録帳票なども、ほとんど同じような様式になっています。また、全国のあちこちの農場で利用が始まった生産記録システムでは、クラウドサービスのものも多くなり、それらは正に標準化の賜物とも言えます。JAの生産部会などなら、すべての構成メンバーが統一のコンピューターシステムを利用することによって、産地全体の農業の品質管理システム(Quality Management Systems:QMS)の運営が容易になります。そうなれば、農産物のサプライチェーンで求められる「大きなロットの農場認証」が日本でも可能になり、それこそが日本農業が目指すべき農場認証の姿です。
農場認証を必要としているのはサプライヤーです。農産物の第一次サプライヤーはJAなどですから、農場認証の対象となります。農業者は生産者としてJAに出荷するメンバーということです。JAが販売する農産物は、農場認証取得団体としての標準化が必要であり、そのためにはGLOBALGAP認証制度のオプション2のように、JAが農場認証を取得しなければなりません。そのために構成メンバーをコントロールする「QMS」が必要であり、GAPも農場認証も「標準化」がポイントであることには間違いありません。
しかし、それでも、「GAPをする」も、「GAPを取る」も、パッケージという訳にはいきません。なぜならGAPは導入するものではなく、「GAPではない農場をGAPにする」ことだからです。
「GAPをする」のは手法
GAPの推進に関して、「GAPをする」の論理で考えると、「どのように?」の質問に対して、「GAPはこのように行う」という"やり方"を提供することになります。そうなるとGAP指導は、"農業生産工程管理手法"の伝授ということになるのです。例えば、農場認証を取得した農場のやり方をそのまま導入したいということになり、「各種の規則や手順書を下さい」ということになり、標準化された農場管理規則や手順書を入手すると、その「管理規則と手順書に合わせて農場改善を行う」ことと考えてしまうのです。
それが、GAPの取組みの最初の相談で、いきなり「改善の費用を見積もって下さい」となるのです。経費が明らかにならなければ、「GAPをする」もスタートできないと考えることになり、ここでGAPは、事業も農業も思考停止になってしまいます。
「GAPにする」のは思想
「GAPにする」の論理で考えれば、問題は解決します。GAPという概念は、新たに始まった取組みですが、農業は昔からずっと取り組んできた仕事であり、GAP(適切な農業行為)でも、BAP(不適切な農業行為)が少々あったとしても、農業者は食料生産の産業として世のため人のために役立ってきましたし、今も役立っています。
ただし、化学物質の使用や工業化された現代農業のやり方の中には、環境破壊や資源枯渇をもたらし、場合によっては人の健康を害するようなことも起こすことが判ってきて、欧州で先ず「農業由来の汚染行為をBAPであると認識したことから、これからの農業はGAPでなければならないというGAP概念が作られた」のです。
したがって、GAPという農業手法を導入するのではなく、今行っている農業のうち、BAPであるやり方を認識し、改善し、新たな手順として日常化するという思想が生まれ、その実行が求められるようになったのです。つまり、「GAPではない農場をGAPにする」ことがGAPなのです。
GAPはリスク評価から始める農場管理プログラム
「GAPにする」ためには「どのように?」すれば良いのか。それは、「自社農場のBAPを明らかにして、必要な改善を行う」ことです。具体的には、農場経営と農場運営上のリスク評価を行うことから始めなければなりません。「どこが問題なのか」「なぜ問題なのか」「どの程度問題なのか」を明らかにし、必要とあらば、これまでのやり方を大胆に改善するのです。 その際の改善は「他の農場と一緒」ではありません。どの位リスクがあるのかと言う「リスクレベル」を中心にして、自社農場の独自の事情を考慮し、その結果、独自の改善方法を見つけることになります。コストをかけないか、コストを限りなく削減した改善を考えることも大切なことです。改善で大切なことは、リスクを削減するか、許容できる範囲にまでリスクを低減することです。そのために必要な経費は、GAPの結果として判るものでもあります。農場経営と農場運営上のリスク評価を行わなければ「農場をGAPにするコスト」は算定できません。改善の仕方は「他の農場と一緒ではない」のです。全ては、リスクの内容と自社農場の独自の事情によるのです。
BAPを改善してGAPが終わる訳ではありません。GAPや農場認証で最も重要なことは、リスク評価に基づいて改善した農場管理のやり方を「継続する」ことです。『持続可能な農業の実現』というGAPの目的を達成するためには、日本では、日本の農業規範から逸脱しない日常の農場管理(コントロール)が必要になりますから、農場の管理システムとして体系化し、経営体で自己管理プログラムとして運営されなければなりません。
この管理・運営体制の構築では、その多くは担当者による「工夫と改善」で行われるために、GAPのコストとして「特別に計上する必要がない」という事例が多く見られます。農場認証で検査員が重視するのも、当該農場に「直接的な問題があるかどうか」だけではなく、「予防原則」に従って、「問題が起こった場合でも対応できる仕組みがあるかどうか」になります。このような視点で考えると、農場管理プログラムを構築することが「GAP導入の経費なのかどうか」ということももう一度考えてみる必要があります。ついでにいえば、認証会社の料金は、検査員が当該農場の経営管理や運営体制を把握するために必要な審査時間で決まりますから、検査を受ける農場は、自社農場そのものの内容を正確に把握しておくことが大切になります。GAPにおいても、手法だけ導入しても、その思想を見失ってしまえば、肝心の目的を見失うことにもなりかねません。
2019/1
2019年度 セミナー等の予定
2019年度の各種セミナー・シンポジウム等について、下記のスケジュールで実施する予定です。
グリーンハーベスター農場評価制度(「GH評価制度」)では、GAPの理解と普及のための教育システムとして、農業者、農業指導員等によるGAPの自主管理を推奨しています。
4月4日(木)-5日(金) 7月25日(木)-26日(金) 10月24日(木)-25日(金) | 『GAP実践セミナー』 |
5月30日(木)-31日(金) 8月26日(月)-27日(火) 11月21日(木)-22日(金) | 『農場実地トレーニング』 |
6月27日(木) -28日(金) 9月5日(木) -6日(金) 12月19日(木)-20日(金) | 『農業者のためのHACCPセミナー』 ※ウェブ受講可 |
12月13日(金) | 『農業者のためのQMSセミナー』 |
2020年 1月23日(木)/24日(金) | 『GH評価員試験』 |
2月の予定 | 『GAPシンポジウム』 |
2019/1
2018年度 GAPシンポジウムの予告
テーマ『東京2020で動き始めた農産物サプライチェーン』
1日目のテーマ:「動き始めたマーケット」
2日目のテーマ:「マーケットに応える産地の戦略」
- 【開催趣旨】
日本では農産物の輸出促進のためにGAP農場認証を促進する政策が推進されていますが、国内の農産物サプライチェーンでは未だGAP農場認証は取引要件になっていません。そんな中で「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」では、組織委員会が目ざす持続可能な社会への貢献のために、大会に係る食料およびその原材料を供給する農業者にGAP農場認証の取得や公的機関によるGAP農場確認を求められることになりました。
これを契機に日本の多くの農業産地や農業者がGAPの管理水準を向上させ、結果として国内の農産物サプライチェーンからの信頼を確保できれば、オリンピックレガシーとして日本農業の振興に貢献することになります。
本シンポジウムでは、東京2020の「食料調達基準」を満たすサステナビリティ(持続可能性)とフードセイフティ(食品安全)の取組を実現するケータリング会社やスーパーマーケットなどの、オリンピック後の「農産物調達要件」を想定してその対策を考えます。そのためにヨーロッパ最大の夏野菜産地スペインのアルメリア県からエルヒド市農業評議員(元農業技術員)のマヌエル氏を講師として迎え、家族経営農業を束ねたGAP認証制度でEUへの最大の野菜産地作りに成功した取組について学びます。また、国内で産地のGAP戦略を目指している農業法人やJAグループ、産地を支援するJAグループGAP支援チームなどの取組について紹介し、オリンピック後のGAP戦略について議論を深めます。
- 【開催概要】
- 日 時:2019年2月27日(水)10:35 ~ 2月28日(木) 16:30
- 会 場:東京大学 弥生講堂 一条ホール(東京都文京区弥生1-1-1)
- 主 催:一般社団法人日本生産者GAP協会
- 共 催:農業情報学会 (一社)GAP普及推進機構 (NPO法人)経済人コー円卓会議日本委員会
- 後 援:全国農業協同組合連合会
- 参加費:主催・共催・後援団体の会員 \10,000、一般 \15,000、学生 \2,000、情報交換会 \3,000
- 展 示:企業等による情報展示(開催期間中)、出展料 一般:\80,000 会員:\60,000
- 参加申込:http://www.fagap.or.jp/seminarsymposium/sym201902/index.html
- 【プログラム】
- 【1日目】2月27日(水)「動き始めたマーケット」
『東京2020で持続可能性が問われる中、自社の対応や仕入れ先への働きかけに大きく動き始めた農産物マーケットの実情を探り、先進国スペインの優良事例から直接学ぶ』
-
10:35~10:40 開会 10:40~11:00 主催者挨拶:(一社)日本生産者GAP協会 常務理事 山田正美 11:02~12:00 基調講演:(一社)日本生産者GAP協会 理事長 田上隆一 12:00~13:00 昼食休憩/展示交流 13:00~13:50 講演:農協流通研究所 理事長 立石幸一 13:52~14:32 講演:JA全農GAP推進対策課 課長 門永章宏 14:32~14:52 休憩/展示交流 14:52~15:50 特別講演:エルヒド市農業評議員 マヌエル・ゴメス 15:50~16:00 質問用紙回収・準備 16:00~17:30 総合討論司会:石谷孝佑 17:45~19:30 情報交換会: - 【2日目】2月28日(木)「マーケットに応える産地の戦略」
『動き始めた農産物マーケットに応えるため、GAPに取り組む産地の戦略について、事例から学ぶ』
-
9:00~9:20 受付/展示交流 9:20~10:40 田上理事長 10:42~11:30 JAGAP支援チーム 高橋昭博 11:30~12:30 昼休憩/展示交流 12:30~13:10 JAたじま 谷垣康 13:12~13:52 JA北九州 野上哲也 13:54~14:34 JR九州ファーム 飯干寛之 14:34~15:00 休憩/展示交流 15:00~16:30 全体討論司会:田上隆一
2019/1
GAPに関する質問と回答
【質問】県が審査員を育成することでGAP推進になりますか?
私は〇〇県で2020東京オリ・パラ大会後のGAP推進を担当している者です。2020オリ・パラ大会の終了で県によるGAP確認制度は終了し、その後は「国際水準GAP」を推進していきます。推進施策の一つとして、県内にGLOBALG.A.P.認証の審査員を配置して欲しいという要望があり、県が負担金を出している民間団体に審査員を育成してはどうかと思いました。審査員が近くにいることで、指導(コンサル)が受け易くなることや、旅費などの審査にかかる費用が安くなることなどのメリットがあると考えました。
GLOBALG.A.P.協議会に相談したところ、「GLOBALG.A.P.では認証審査とコンサルは同じ組織ではできない」ということでした。そして「県としては、指導者育成を充実する方が良いのではないか」と助言をいただきました。
そこで御社に質問です。「認証する審査員を育成することがGAP推進になるのか、また、2020オリ・パラ大会後のGAP推進のために県に期待することがあれば、ご意見を下さい。」
(回答)GH農場評価制度で国際水準GAPの指導者育成を
GAP推進施策の一つとして、「県内にGLOBALG.A.P.認証の審査員を配置して欲しいと現地から要望があり」とのことですが、審査員は個人で審査業務をすることができません。GLOBALG.A.P.認証は、ISOの各種認証と同じように、IAF(インターナショナル・アクレディテーション・フォーラム:国際認定協議会)に加盟したAB(アクレディテーション・ボディ:認定組織)から認定を受けたGLOBALG.A.P.認証のCB(サーティフィケーション・ボディ:審査会社)が行うものです。つまりGLOBALG.A.P.認証の審査(組織監査ならびに農場検査)を行う具体的な人は、CBの社員(雇用契約など)です。また、GLOBALG.A.P.認証の一般規則では、CBの審査員がコンサルティング業務を行うことを禁止しています。以上の理由から、審査員の養成はGAP認証農場の推進施策には直結しません。
GAP推進に必要なのはGAP指導者(コンサルタント)です。世界で一番GLOBALG.A.P.認証の農家数が多いスペインにはFA(ファーム・アシュアランス:農場認証)コンサルティング会社が多数あります。これらの会社は、アンダルシア州の特に欧州一の夏野菜産地であるアルメリア県に集中していますが、日本生産者GAP協会ではこれらの会社などと交流し、その教育内容などを参考にしながら「GAP指導者養成講座」およびその基本である「GH農場評価制度」を作りました。
質問者の県でも、多くの方(普及指導員、JA営農指導員)が養成講座に参加され、GH評価員資格試験の合格者もたくさんいます。特に、GH評価員の試験合格者は「GAP指導者としての資質」がありますから、この方々が、「農場評価」だけではなく、「評価結果に基づく農場管理制度の構築」と「農業者に対するGAP教育」を推進していけば、結果として「国際水準GAPの指導者」が誕生します。
株式会社AGICでは、GH評価員試験合格者に対してステップアップの研修会も実施しています。この研修の受講者が、実際の農場評価の実践と併せて指導力を磨いていきます。AGICで、GLOBALG.A.P.認証のコンサルティングを行っている人達も、このカリキュラムでレベルアップしていますので、参考にして下さい。
【質問】GLOBALG.A.P.認証で土壌診断は必須ですか?
前回お電話で、土壌の残留農薬の件について相談しましたが、GLOBALG.A.P.認証に当たっては必ず土壌診断をやらなければいけないのでしょうか。現在、畑全体に元肥を施し、ハクサイの定植時期が迫っているところですが、元肥の施用前に土壌診断は必ず必要でしょうか。お返事お待ちしております。
(回答)「要求事項だから土壌診断をする」のではなく、施肥量の正当性を証明する必要があれば、科学的な検証を行うべきです。
GAPは「農場運営の自己管理プログラム」ですから、「理屈が通ること」(論理的)が大切です。全てにおいて、「認証制度で要求されるから・・する」ということではなく、現代社会が目指すサステナビリティな社会作りのために農業者が求められていること、行うべきことは何か・・を考えて、わが農場における環境汚染を「少しでも削減すること」に努めるべきだと思います。
その意味では、すでに元肥を圃場に前面散布したということですが、2つのケースでBAP(不適切な処理)の可能性を考えてみることが必要かもしれません。1つは、作物が必要とする量を把握しないで肥料を投与したかもしれないこと(過剰投与になるかもしれません)、もう1つは、作物が吸収できない範囲(畝間)に投与された肥料は過剰な投与となること、です。
土作りで投入された堆肥や、計画された元肥や追肥等の関係性が分かりませんので、一概には言えませんが、肥料過多の可能性を疑ってみることが必要と思われます。
肥料が多いか少ないかは、今回の施肥の記録で確認することになります。いただいた質問の中の情報で不足しているデータは、作付けする予定の作物の必要栄養量のデータと、作付けする土壌中の栄養成分の量のデータです。したがって、今回の施肥がGAPであることを証明するためには、
- ・作付ける作物が要求するNPKを調べて下さい。また、関連の文献を当たってみて下さい。
- ・作付けする圃場の可給態窒素を、大まかでもいいですから計測してみて下さい。
大方の偏りをpHやECなどで推定できるのであれば、その簡易な測定でもかまいません。簡易な検査キットがあれば良いのですが! 正確を期するのであれば、今回は検査会社に出すという選択肢もあると思います。幸い施肥前の土壌サンプルがあるということですから、土壌検査を選ぶことができます。
【質問】研修修了者がGAP指導者としての力量を付けるための経験は?
課内で、今後の○○県のGAP推進についてディスカッションしました。その中で、今後は普及指導員、営農指導員だけでなく、農業者等の希望者についても「GH評価員研修+ステップアップ研修」を受講して貰い、「指導者として育成したらどうか」という意見が出ました。普及指導員も人員削減されて業務が多忙であり、増加するGAP指導の全てに対応することは難しい面もあります。
当県では現在、GH評価員研修を受講した後は、普及指導員等が数件の農場評価を実践していますが、農業者等がGH評価員研修を受講した後にステップアップ研修を受講するには、どのくらいの実践と時間が必要とお考えでしょうか。すでに育成した事例がありましたら、その経験をお教え下さい。
(回答)3農場のGAP実践(リスク評価、問題改善、コントロールシステム構築、GAP教育)を支援して下さい。
ご指摘のように、普及指導員、営農指導員、地域リーダー農業者がGAP指導者になることが、日本では現実的であり、良い推進方法だと思います。現に、日本生産者GAP協会では、これらの三者(+農業関係企業)をGH評価員養成講座の対象者と考えて研修会を開催しています。
さて、GH評価員試験は「GAP知識の確認」であり、GH評価員養成の「課程修了の試験」です。その修了者(GH評価員試験の合格者)を対象に行う「ステップアップ研修」が、GAP指導者としての技量を養う研修です。
GAPの知識を取得した人が「GAPの技量」を身につけるためには、
- ① 実際の農場で、「リスク評価」と「農場評価」を行い、
- ② 農業者とともに「問題の改善」に取り組み、
- ③ 農場管理の「仕組み(コントロールシステム)づくり」を支援し、
- ④ 作業者にGAPの指導(コントロールシステムの説明)をする
などのことが必要です。
GH農場評価制度の教育課程で言えば、例えば「GH評価の結果が400点だった農場(農家)を、700点ぐらいのレベルにまで引き上げる支援をする」ことです。この課程を、1農場でも実施すれば、かなりの力が付きます。その上でステップアップ研修会を受講することで、更なる専門的な知識と指導の技術を磨くことができます。
また、同じことを更に2農場で実施すれば、様々な局面での対応に出会い、個別農場へのGAP指導の力量が付きます。㈱AGICのコンサルタントおよびその指導を受けて各地でGLOBAGAP認証の支援を行っている人達も、上記の課程を経ています。
【質問】○○県GAP確認制度で、個別の農場の調査を何件か実施する中で、判断基準について調査員の方から質問が出ています。
<判断基準について確認事項>
① 種苗管理について(果樹の場合)
今回、○○の梨部会で調査を実施しましたが、苗についてはJA(協議会)が管理しているとのことでした。品種などについては把握しておりますが、農薬については記録が不足している部分がありました。JA側の主張として、果樹の場合、苗から成木となって収穫できるまでに3~10年かかる中で、トレーサビリティの点で「農薬の使用記録がどこまで必要なのか」という質問です。(苗を購入した後の個々の農家における農薬使用の記録は全て揃っていました。)
苗の管理段階において散布した農薬が、最終的な収穫時の残留農薬に影響するリスクは限りなく低いとしても、苗を購入した時点でどのような農薬を使用したかについての情報は必要と考えていますが、アドバイスをいただければと思います。
(回答)
①種苗記録の具体的な目的は、栽培者、加工者、小売業者および管理者についての情報が辿れ、偽装やその他のトラブルを防ぐために監督機関に報告できることなどを示すことです。
この資材登録で、使用された物質が各種資材の仕様書に適合しているという基本的な保証が与えられることで、種子や苗木の購入者を保護する(知的財産保護に関する法律を守っている)ことを目的としています。要求事項の同じ文の中で「および種子処理の記録を入手し、保管していること」を要求していますが、梨などの「果樹」は、その部分は「適用除外」ですから、問題ではありません。GLOBALG.A.P.では、多年生作物でも適用除外にできると言っています。
<判断基準について確認事項>
② 収穫に使用する器具(ハサミ)の洗浄について
梨の収穫に使用するハサミについて、刃物用のクリーナー(アルスコーポレーション)を使用し、よく拭き取ってから収穫しているとのことでした。クリーナーは食品用の洗剤ではないため、安全性をどこまでみるかについてですが、このクリーナーは刃物の切れ味を良くするため、一般的に良く使われているもののようです。よく拭き取った後に水で洗った方が良いのかという質問ですが、成分によっては水洗いしても落ちないものもあるかと思います。可食部にハサミが触れていないことを考えると、よく拭き取ってから使用しているのであれば許容範囲と考えておりますが、どうでしょうか。
(回答)
②刃物用のクリーナーは、刃物の表面を削ることで、果実に付着する可能性のある化学物質や微生物の汚染リスクを低減することもあると思いますが、刃物の衛生管理としては不十分と言わざるを得ないと思います。また、使用前に必ずクリーナーを使うかと言えば、そうでもないと思います。したがって、洗浄・消毒による衛生管理が必要と思われます。ただし、梨の芯切りバサミは、軸を切る訳ですから、あまり神経質にならずに、切取り(収穫)作業の終了後、ハサミを保管する際に、汚れを拭き取ったり、洗浄したりして清潔なケースなどに保管することが望ましいと思います。
梨は皮が薄くて痛みやすいので、直接触れる手やハサミや籠などは、可能な限り清潔に保つように工夫したいものです。
<判断基準について確認事項>
③ 輸送時の農産物汚染リスク対策について
梨の輸送について、雨の日はシートを被せていますが、それ以外はシートなどを被せていないとのことでした。輸送時間が10分程度と短く、JAに輸送した梨を選果場で選果し、埃や異物混入などのリスク管理はJA側で行っているとのことです。輸送途中で汚染されるリスクは比較的少ないと思いますが、「シートは必ず被せるように改善する」として良いでしょうか。
(回答)
③JA側で行っている埃や異物混入などのリスク管理は、JA側(選果場)の課題であり、サイト(農場)から選果場に農産物を搬入する際のリスク管理は農場側のリスク管理です。JA側におけるリスク管理は、いわばHACCP的管理ですが、農場のGAP管理としては、輸送車の形状や輸送の経路、輸送時間などによって、リスクは異なると思います。
想定されるリスクを如何にしたらコントロールできるかについては、それぞれのサイト事情に応じた管理の方法を取ることが必要です。一概に一律で決めるものではありませんが、シートで覆うことを組織の標準とすることは、多くのサイトをカバーし、産地の信頼確保としてはかなり有効ではないかと思います。部会のルールになったら、その規範は全員が守らなければなりません。
*前提条件としての実施規則や衛生管理が重要であることに違いはありませんが、基本は「GAPはリスク評価から始まる」ということです。その意味ではチェックリストにあるかどうかではなく、「現場のあり方が論理的であるかどうか」ということを重視して判断したいです。
2019/1
GAP語呂あわせ
GAP思想とGAP手法、GAP哲学とGAP手順
田上隆多 株式会社AGIC GAP普及部長
Good Agricultural Practiceと農業生産工程管理
日本では、英語のGood Agricultural Practiceを「GAP」と略語で表し、マスメディア等では、「農業生産工程管理(GAP)」という表現が定着しているようです。GAPという言い方は世界各地で確認できますが、2007年に農林水産省が農業振興政策で定義した「農業生産工程管理」という言葉は日本独自の表現です。原文の一語一語にとらわれず、GAPの意味やニュアンスを汲み取って農業者にも判り易く表現することで、現場のGAP普及に役立てたいという狙いだろうと思います。
農林水産省の定義は、「GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)とは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組のことです。これを我が国の多くの農業者や産地が取り入れることにより、結果として持続可能性の確保、競争力の強化、品質の向上、農業経営の改善や効率化に資するとともに、消費者や実需者の信頼の確保が期待されます。」というものです。
このように、「農業生産工程管理(GAP)」を行うためには、「新たな農場管理方式を取り入れなければならない」という説明を受けて、農業者から、日本生産者GAP協会に対して、農業生産工程管理の「手法」についての問合せやGAP実践指導の要求が多くなっています。そして、その多くはGLOBALG.A.P.やJGAP等の農産物サプライヤーを対象とした農場認証(Farm Assurance)の取得を目的にしているか、認証が当面の目的ではないとしても、民間の農場認証の審査規準をGAPの標準と考えている農場主や関係する組織などが多いために、具体的にはどのような「手順」で実施すればよいかという「文書にまとめた手順書が欲しい」という要望になるのです。
現在のところ、わが国でGAPを推進するための最大の誘因となっている2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会の食料調達のための農場認証の取得対策では、大会開催の期日が迫っているせいもあって、要求は、専らGAP管理手法の教授と、GAP実践のための手順書の伝授ばかりです。その他に、サプライチェーンと直接的には関係がないと思われる農業大学校や農業高校などでもGLOBALG.A.P.認証を取得するところが多くなり、当面の目標である認証取得のための「手法の教授」と「手順の伝授」によるGAP認証支援ばかりが多くなっています。
GAP手法の思想は
農場認証の本来の狙いは「農業者が人と環境に優しい農場管理で、持続可能な農業実践に向けて努力しているか」について、「補助金を支払う行政府や農産物の買手側が評価する」ことです。
EUの共通農業政策では、1992年から農業者への「環境支払・直接支払」の補助金制度により、環境保全と公衆衛生を要件とした「適正農業規範」(Code of Good Agricultural Practice)に基づく公の査察として農場認証を行ってきました。また、2000年頃になるとスーパーマーケットが契約栽培農家の信頼性を確認するために「適正農業規範」と「食品衛生規則」に基づく農場認証を行うようになりました。前者はクロスコンプライアンスとして、後者はGOBALG.A.P.認証を中心としたグローバルな農産物取引の農場検査として普及しました。
農業者の本音は、「補助金獲得のためのGAP」、「農産物販売のための農場認証」ではないのか、という見方もあります。しかし、EUのGAP実践農業者には、「GAPは農業分野における持続可能な社会作りへの貢献活動」であり、「環境保護は市場価格では守られない公共財のメンテナンス」であるという自負があります。また、認証制度の普及が高いレベルになると、非認証では取引されないという意味で、認証が消費者信頼になっています。
GAP手続きを哲学する
第三者が行う「農場認証(FA)」の内容は、当該農業者が、環境保全保護、労働安全衛生、家畜福祉衛生、食品安全衛生の視点で「農場内のリスク評価を行い、-問題点を明らかにし-必要な改善を行い-制度化・規則化し-教育実践し-必要な検証を行う」という「農場コントロール」のための「自己管理プログラム」が正常に運用されているかどうかを評価・確認することです。
その意味で、GAPとは、「農場管理が農業規範から逸脱しないようにコントロールするための自己管理プログラム」ですから、それを取り入れる農業者がGAP指導者に対して、手法(やり方)の教授と手順(やる段取り)の伝授を求めるのは当然のことです。そして、関係者が手法を理解して手順に従って進めれば、農業者は誰でも容易に認証を取得することができます。農場認証制度はその評価規準が標準化されているからです。
しかし、農場認証(FA)はGAPではありません。認証の取得は、審査対象の農場において農業規範から逸脱しないための農場コントロールを適切に行うための自己管理プログラムが「正常に運用されていることを確認した」ということの証明に過ぎないのです。この自己管理プログラムが正常に稼働し続ければ、当該農場はGAPである、つまり目指すべき適切な農業が実現されるということになります。
2019/1
GAP関連用語の解説
『GAPとFAとHACCP』
石谷孝佑 一般社団法人日本生産者GAP協会 常務理事
HACCP(ハサップ)に関する『改正食品衛生法』が昨年の6月に国会を通過し、1年半後の2020年6月から正式に義務化されます。
農場にある農作物は、収穫された瞬間から『農産物』という「食品」になり、 HACCPの順守が求められるようになります。「農作物」を取り巻く圃場環境には食品安全に係る重要なハザードがたくさんありますので、その収穫物である「農産物」の食品安全等のリスクを最小限にし、安全性を担保するために、農場認証(FA)によるリスク評価が行われます。しかし、残念ながら、日本では、GOBALG.A.P.認証やJGAP認証などの農場認証があまり普及していません。これは、スーパーなどの流通サイドが農産物の買入れ条件に入れていないのが大きな要因です。
ところが、日本もやっと欧米並みになった「HACCPの義務化」では、農産物も、水産物も、それをカットしただけの軽度な加工食品も、HACCPシステムの導入が義務化されます。
大手の食品企業では、HACCPに対して既に欧米並みの対応をしており、HACCPの基本をきっちり実践するように「規準A」に位置付けられ、中小規模の食品工場では「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を実践するよう「規準B」に位置付けられています。しかし、農産物や水産物は、まだ明確な指示はありませんが、今後、厚労省から説明があると思います。
いずれにしても、農産物や水産物を扱うスーパーなどでは、それらの食品安全を担保するために、農場認証(FA)を行った信頼できる圃場のものを仕入れる必要があると考えられます。
タイなどのアセアン諸国では、食品を加工するHACCP工場では、GAP農場からの原料を使うのが常識になっています。ラオスのコーンジュースの加工工場を訪問した時に、GAP農場の原料を使いたいということで、GAP(FAのこと)の普及を強く要望されたことがあります。
GAPやFAの実践では、初めに農場などのリスク評価をします。農場には様々なハザード(危害要因)があり、農産物HACCPとの共通のハザードが殆どです。また、HACCPシステムを実践するときの前提条件として「一般的衛生管理:PRP」が求められますが、これも殆どがGAPやFAと同じです。したがって、スーパーで販売する農産物やバックヤードで加工する時のHACCPは農場認証をしっかりやっておかないと安全性を担保できないことになります。
HACCPの求める「一般的衛生管理」は、以下の様なものです。
- 施設設備の整備と衛生管理
- 従事者の衛生教育
- 施設整備、機械器具の保守点検
- そ族・昆虫の駆除
- 使用水の衛生管理
- 排水・廃棄物の衛生管理
- 従事者の衛生管理
- 食品等の衛生的な取扱い
- 製品の回収プログラム
- 製品等の試験検査に用いる設備等の保守管理
HACCPにおける「一般的衛生管理」は、農場認証におけるGAP、BAPの評価ポイントとそっくりです。要するに、GAPの入口のリスク評価はHACCPシステムによるものなのです。ですから、農場認証を取得していれば、安全性を担保するベースができていることが判ります。逆に言えば、「一般的衛生管理:PRP」ができていなければ、HACCPシステムも、農場認証も難しいということです。
上の図で示すように、食品加工では、加熱工程がある場合が多く、その場合にはCCP(重要管理点)の設定が比較的容易ですが、生鮮野菜・果実や生鮮魚介類などでは加熱工程の設定が難しいので、一般的衛生管理を徹底することで安全性を担保しなければなりません。対象とする野菜などの物自身の「ハザード分析」によって明確にされたPRPを「オペレーション前提条件プログラム:Operation Pre-requisite Program(OPRP)」といい、生鮮農産物などの多くは「PRPより重要で、CCPにできない重要な管理点:OPRP」でコントロールすることになります。
最近では、国際的に農産物による食中毒が起こっています。これらの中毒を予防して、農産物の安全性を担保するためには、HACCPをしっかり行い、衛生管理を担保することが重要であり日本でも義務化になりました。2020東京オリンピック・パラリンピックまでには、しっかりと実践したいと思います。
2019/1
GAPのeラーニングサービスの紹介
山田正美 一般社団法人日本生産者GAP協会 常務理事
政府がGAPの本格的普及を推進しており、普及指導員や営農指導員にとって農家や生産組織に対するGAP指導が欠かせない状況となってきています。そうした中、GAPの基礎をパソコンやタブレットで学習できるeラーニングサービスがNECソリュージョンイノベータよりリリースされましたので、概要を紹介します。
なお、学習内容の原案は筆者が提供したものですが、限られた作成期間であったため、現時点では日本生産者GAP協会としての監修が間に合っていないことをご了解下さい。
学習の対象者:
この「GAP学習ソフト」の利用者としては、以下の方々を想定しています。
- 都道府県の農業普及指導員や農協の営農指導員など、農家を直接指導している方々
- GAPに取り組んでおられる農業者で、経営を改善していこうとしている方々
これまでGAPの研修に参加したが、さらに詳しく学びたいと考えていたり、これまでGAP指導もしてきたが、再度GAPの全般的な知識を学びたいと考えている方にもお勧めします。
学習されるGAPの範囲
学習項目を設定するにあたり、なるべく広く学習していただきたいとのことから、以下に示した3つのGAPに関する代表的な資料を参考にしています。
- 「日本GAP規範 ver1.1」(日本生産者GAP協会刊)
- 「生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン」(野菜・米・果樹・茶・きのこ)」(農林水産省)
- 「GLOBALG.A.P. ver.5.0 (AF・CB・CC・FV)」(Food PLUS:ドイツ)
この「GAP学習ソフト」では、上記1.2.3.を、それぞれ【規範】【ガイドライン】【GGv5】とし、テキスト画面の右上に記載し、学習委項目がどの資料に対応しているかを示すことで学習者の便宜を図っています。
学習方法
- テキストを良く読んだ上で、関連する設問を解いてみます。正解は1つとは限らず、複数の正解もありますので、注意して解答して下さい。間違えた場合には、設問の解答欄の下に表示されるコメントを良く読んで理解して下さい。
- 学習した後、数日から1週間後に再度テキストを読み、問題を解いてみることで知識を確実なものにすることができます。不正解であった場合には、何度か挑戦して確実な知識としてしっかり覚えて下さい。「不正解」であった問題だけを表示することもできますので、効果的に学習することが可能となっています。
- 応用問題では、現場の写真と状況の説明から、「何が問題なのか」を総合的に判断する目を養います。
学習の到達目標:
この「GAP学習ソフト」をしっかり学習して頂くことで、GAPの基本を学ぶことが出来ます。グローバルGAPなどの農場認証を取得しようとする人にとっても役立つ内容となっています。
GAP学習システムの章構成
GAPを理解するための設問は、学習しやすいように11の章に分類してあります。 章の構成と内容は以下の通りです。
章 | 内 容 |
---|---|
第1章 GAP概論 | GAPが生まれた背景、定義、種類、リスクの考え方に関すること |
第2章 農場管理 | 圃場マップや緊急時のマニュアル準備など経営全体に関すること |
第3章 土壌と養分の管理 | 肥沃な土壌の維持や施肥、養分流出防止等圃場の管理に関すること |
第4章 農場の水管理 | 農業用水の安全確保や無駄のない潅漑、排水に関すること |
第5章 農薬、肥料等資材の管理 | 農場内における資材(農薬・肥料・燃油)の管理に関すること |
第6章 作物保護と農薬の使用 | 農薬の環境に配慮した安全な使用に関すること |
第7章 廃棄物の管理 | 廃棄物の保管や処理、再利用などに関すること |
第8章 農産物の安全管理 | 農産物の安全を考慮した収穫や調製、出荷に関すること |
第9章 事故防止と労働安全 | 農作業による事故の防止や農業機械等の取扱いに関すること |
第10章 環境と生物多様性の保護 | 環境と生物多様性の保護や景観の保全に関すること |
第11章 応用問題 | 現場写真からリスクを発見するための設問 |
テキストと問題の事例:
第3章11節〔土壌汚染物質の種類〕のテキストと設問の例を一つ掲載しますので、この学習システムのイメージをつかんで下さい。 このようなテキストと関連する問題が約100問設けられており、学習者の都合の良い時間に学習できますので、効率よくGAPの基礎を習得できると思います。
サービスの利用
このサービスはNECソリューションイノベータ―より『タブレットで学べる指導者のためのGAPの基本と実践』という名称で提供されています。興味のある方はインターネット検索で、NECソリューションイノベータのスマートアグリサポートセンターまたは株式会社日本農業サポート研究所までご連絡下さい。団体申込みだけでなく、個人での申し込みにも対応しています。
2019/1
株式会社Citrusの農場経営実践(連載30回)
~外国人技能実習生受け入れ現状~~
佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役
2018年12月の国会で「外国人労働者受入拡大」法案が成立したが、成立した時点では詳細は明らかになっていないという。しかし、外国人労働者の受入れ拡大に関する法整備には期待している。筆者の経営する農業生産法人株式会社Citrusでは、現行の制度の下で、3年間の契約で外国人技能実習生を迎え入れ、既に1年が経過した。そこで、現状の問題点と今後の課題について整理してみる。
弊社が外国人技能実習生の受入れに至った背景と受入れの実務についてまとめてみると、毎年収穫のための労働力確保に苦労していて、10月から12月にかけて人材が集まらない現状が数年間続いたことにある。そこで外国人技能実習生制度を知り、受入れを試みたということである。
この制度を調べてみると、①収穫期のみの受入れは出来ない、②みかん等の果樹栽培での技能実習制度はそもそもない、③受入れ期間は最短6ヵ月で、最長では3年間になっていて、現状の経営形態では受入れは出来ないことが判った。そこで、これらの課題を解決するために、弊社は野菜の栽培部門を導入することにしたが、現状の会社構成員に野菜農家がいないため、地域の野菜農家で野菜管理の労力確保に困っている仲間を取締役に迎え、会社の登記事項を変更した。これにより、野菜部門での外国人技能実習生の受入れを可能にした。技能実習のための年間の農作業が「野菜栽培管理」を主体とし、果樹の作業は収穫時のみの3ヵ月とし、野菜栽培を勉強して貰うという調整ができた。
しかし、この制度をしっかり理解しておかないと、昨年5月17日の日本農業新聞の12頁の「外国人実習生失踪急増で農家苦悩」の記事にあったような事象が発生した時に、受入れ農家を救ってくれる公的な組織はなく、泣き寝入りで戸惑うことになる。今国会でもこのことが取り上げられて議論されたのを見た。失踪する原因の1つに「最低賃金で過酷な労働を課せられる」ことが理由に挙げられていたが、受入れ農家からの言い分として、現在のシステムにおける必要経費に問題があることに触れてみたい。
他県や他の受入れ組合の状況は判らないが、弊社の取組みを1つの事例として紹介してみる。弊社の場合は、弊社の取締役が経営する別会社で、農業技能ではないが外国人の実習生を受け入れていることから、システムは複雑ではあるが、既に大凡の話は聞いていた。現行制度における仕組みは、実習生を受け入れようとする場合、受入れを希望する農家や農業生産法人は、受入機関として認められている非営利団体の組合の組合員になる必要がある。
例えば、地域の農協が受入機関とすれば、その農協の組合員とならなければならないシステムになっている。有田地方にはそのような組合組織がないため、弊社は日本トータル情報事業協同組合(所在地三重県内)の組合員となり、組合にカンボジアからの実習生の受入れを希望した。弊社は何故カンボジアの実習生を希望したかというと、カンボジアで研修生を送り出している機関を運営するHIRAYAMA Co. Ltd.所属の日本人から、「カンボジアの実習生は意欲が高い」との情報を得ていたことからであり、日本トータル情報事業協同組合にこの送り出し機関と連携するよう依頼した。送り出し機関の選定については、組合の理事会で決定されたようで、希望通りカンボジアの実習生を受け入れることが出来た。
経費面については、当初、組合賦課金、組合出資金などで9万円余りと、受入手数料(渡航費や講習期間中の宿泊費など)として29万円を支払った。これとは別に、実習生の管理費等として月に4万2千円を組合に納めている。この管理費については、実習生の私生活を管理してくれているのかどうか良く判らない経費と、送り出し機関の経費が含まれ、毎月請求書が届くので、これらの経費は全て組合に送金している。月々の実習生の給与は、正社員と同様の経費を受入農家が直接実習生名義の銀行口座に振り込むルールになっている。衣・食・住は実習生が負担しているが、アパートの契約や電気の契約は、地域住民になっているのに、不動産会社は契約に応じてくれないので、受入機関の名義で契約し、家賃等は給与から差し引いている。 この他、実習生に対して技能取得を確認するためのテストが義務づけられていて、そのテストに不合格となると帰国しなければならないシステムである。その受験費用は受入農家の負担となっている。今年の7月にテストが全国農業会議所によって実施され、無事合格したので一安心した。不合格になった場合には特別講習を受けさせることが出来るが、1人当たり25,000円の経費が掛かるという。実習生には和歌山県の最低賃金を少し上回る給与を支払っているが、組合に納める月々の経費を合わせると受入農家の負担はかなり大きいといえる。
幸い、カンボジアの実習生は働きが良いので、受入農家としては仕事上の問題はないが、メンタルの面での対応には言葉の壁があり、結構面倒である。11月11日の読売新聞には、外国人労働者への日本語教育制度の講師資格が記されていたが、現場ではその制度が生かせるのか疑問である。現状では近隣にカンボジアの母国語であるクメール語が話せる通訳がいないので苦慮している。1年が経過した今では、実習生は日本語で直接話しかければ仕事には差し支えない程度になっている。また、平仮名の読み書きは出来てきている。しかし、GGAPの取得に向けて外国人労働者向けの農作業マニュアルをクメール語に翻訳しなければならない課題もある。また、実習生はスマホを持っているが、日本では携帯電話料金が高額なため、電話番号は取得していない。日々の連絡には、Wi-Fi接続でSNSによる情報交換のみとなっている。
これらの課題は、組合に管理費を支払っているものの、日々の問題への対応にはあまり期待はできない。これまで受入れ農家として組合に支払ってきた経費についてまとめると、先にも述べたように、昨年11月に受け入れた時点から1年間で88万円を支払った。公立大学の経費に例えると、入学金を当初に納め、年間の学費を納めるのに匹敵する金額を組合に支払いながら、実習生には給与を支払っている。弊社としては、この経費負担が問題となっており、残された2年間の維持費が他の役員から問題として指摘されている。組合負担が低ければ、実習生に最低賃金を適用する必要性はないと考えている。
農作業に従事する態度には問題はないが、実習生の農業への学習意欲については少し物足りなく感じている。カンボジアへの帰国後の目標を聞いてみると、お金儲けがまず目標にあることが納得できた。日本語での会話が出来るようになって判ったことであるが、実習生は日本で仕事をするために、カンボジアの出国機関に日本円で60万円を支払ったようであり、その資金は銀行から30万円、出国機関から30万円、それぞれ借金して支払っていると聞いた。現状の制度では、実習生の受入れ農家の斡旋料に関わる経費が過大であることが問題であると考える。以上がこれまでの経過である。
現在、国会において外国人技能実習の期間が5年間に延長され、実習生受入をJAが行い、組合員からの受託やJAの施設で従事するような話も聞いている。また、特区として行政が応援する受入機関を設立して進めている県もあると聞いている。この制度が拡大され、法整備が整えば、労働力不足の農家が外国人実習生を容易に受け入れられるシステムになり、実習生にも受入れ農家にも経費負担が少なくなると期待している。
この制度では、日本で学んだ農業技術を母国に帰って活かすために日本に来ているのであろうが、余り積極的に技術を学ぶ姿勢は見えてこない。ただ、与えられた職務はきちっとこなしてくれているから、体験しながら技術を取得しているのだろうと推測しながら指導をしている。しかし、趣旨を考えると、受入機関としてちょっと後ろめたさも感じることがある。
現状は、非営利団体の民間受入機関の組合員ならなければ受入れが実施できないシステムになっていて、有田地方では外国人労働者の受入についてはJAや行政はノータッチであったが、これを打破し、国会でこれだけ議論されたことであるから、農業者が安心して外国人実習生を受け入れられる体制を公的に整備し、支えて欲しいと考えている。
一方で、今後の会社運営への不安が高まった。これまで自立就農した社員は県農業大学校を卒業した農業や林業などの第一次産業を営む家庭の子弟であり、将来自営することを想定した採用であった。しかし、来春に就農予定の社員は非農家出身であり、将来は弊社の担い手として活躍してくれる社員と期待していた。勤続5年目を迎えた今春に自立就農したい意向を示したので、弊社の運営を担って欲しいと慰留に努めたが、令和2年9月1日付けで令和3年2月28日退職とすると届けが出された。会社の運営を考慮しての早めの届けは有難かったが、本音を言うとちょっとショックを受けた。本人は着々と自立就農を模索していたようで、新規採用当時はここ有田地方でみかん農家になることが夢だと語っていたが、本当にこんなに早く自立就農まで進むとは全く予測していなかった。
現在の生産現場は、就農予定をしているその社員と、今年3月に新規採用した和歌山県農林大学校就農支援センター社会人課程を修了した女子社員1名と、コロナ禍で研修開始が5月末にずれ込んだが、有田川町事業として有田川町に着任した地域おこし協力隊の青年男性33才(3年間)の3名で運営している。この10月末からは、和歌山県農林大学校就農支援センター社会人課程の男性34才の研修生が1ヶ月間の予定で弊社にてインターンシップに入る。研修の事前打合せにおいてインターンシップ研修生は来春の就農を予定していると聞いている。
今のところ現場の運営はなんとかクリアー出来そうであるが、収穫の繁忙期のアルバイト確保は進んでいない。今年度は、県外からのアルバイト募集は控えている。昨年までは、古民家やアパートでの集団生活をベースにしてアルバイト勤務に就いて貰っていたが、コロナ禍での感染リスクを避けるために、地元での雇用を中心に計画している。幸い1名の地元要員の雇用が決まっている。「コロナ禍で失業したので・・」と東京から問合せがあったが、例年のようなCitrus寮としてのアパートの確保を取りやめたため、残念ながらお断りする結果となった。
人材育成については有田川町の地域おこし協力隊員1名と、就農支援センター研修生のインターンシップ1名、それに、今年3月に新規採用した女子社員の令和2年度第2期の「農の雇用事業」が8月から2ヵ年間採択され、この事業による研修4回目に入ることが出来た。それぞれの研修はこれまで順調に進めることが出来ている。
2019/1
編集後記
食讃人
昨年は、FGAP協会も、AGICも、急に超多忙になり、ニュース発信が滞ることになり、誠に申し訳ありませんでした。今年も忙しさはあまり変わらないかと思いますが、スタッフを増やし、仕事の段取りを調整して、少しでも余裕を持てるようにしたいと思っています。
今に始まったことではありませんが、日本では、GAP(適正農業管理)とFA(農場認証)が混同されて使われていますので、いらぬ誤解を与え、正しい用語の使い方を説明することが多くなっています。そこで、昨年の6月にHACCPの義務化が国会で通りましたので、用語解説のところで、同じようにリスク評価から始める「GAP」(適正農業管理)と、「FA」(農場認証)と、「HACCP」(危害分析重要管理点)について、その違いと関連性について図を作ってみました。
そもそも世界のデファクトスタンダードになっているGGAPは、生産者から「農産物を買うか買わないか」を決める「農場認証(FA)」です。明確な買い手がいないのに農場認証を取得したり、生産圃場も充分にないのに補助金で農場認証を取得する高校や大学が現れたりしています。
GAP(適正農業管理)が義務化されている欧州では、環境に良い農業が義務ですが、環境保全や安全性に問題のある農場で作られた農産物が途上国等から輸入されないように、農場認証の取得が普及されています。「うちのスーパーは、環境や安全に配慮されて生産された農産物を販売していますよ」という印にGGAPなどの農場認証が使われています。また、欧州の大手スーパーでは、GGAPより高度な有機栽培に近い自前の農場認証を持ち、これに合格しないとスーパーで売って貰えない例もあります。
ところが、日本では「輸出用GAP」というような頓珍漢なGAPがあるようです。言葉を変えれば、「環境にも安全性にも配慮していない日本の農産物の中で、これだけは環境と安全性に配慮していますよ」「どうぞ輸入して下さい」と途上国に向けて言っているように聞こえます。その前に、国で『GAP規範』を作って、国内農業で本物のGAPを義務化し、逆に「環境と安全に配慮していない農産物は輸入しませんよ」と言ってみたいものです。これには、スーパーさんの取組みがキーになるのでしょうか、生産者団体さんの取組みがキーになるのでしょうか。
認証が普及しない背景には、日本独自の「性善説社会」があり、「日本の農家はちゃんと環境を守り、安全な農産物を作っているはずだ」という信頼があるのでしょうが、国際社会では通用しません。それが証拠に、アセアンに農産物を輸出するのにGGAP認証が求められます。「本当に環境を守っているんですか」「安全性が守られているんですか」と問われているのです。
農業も、もうそろそろ世界の一員になっても良いのではないでしょうか。
2019/1