-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 55号

【年頭のご挨拶】
失われたGAPの10年間を取り戻す

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

 平成30年の新春のお慶びを申し上げます。

 GAP普及ニュースの創刊は平成20年8月で、今回で10回目の年頭のごあいさつになりました。創刊号では、『GAPの世界は目まぐるしく変わっています。様々な視点で世界と日本の動きをお知らせし、できるだけ客観的な視点でGAPの普及に関することをお伝えいたします。』と書きました。本誌の第55号までの間にイギリスやスペインなどのGAPや農場認証を巡る農業情勢などを報告し、特に《日本と欧州のGAP比較とGAPの意味》では22回の連載で、日本のGAP普及に様々な提案をしました。

 有難いことに、御厨貴氏を代表とする「震災後の日本に関する研究会」発行の『"災後"の文明』で国際政治学者の遠藤乾氏が「国内連携とグローバル化」の中で、この連載文を引用されています。

 しかし、日本ではEUで発展してきたGAPの理念である"農業分野の持続可能性への取組み"が「本来のGAP概念」として認識されず、本来は民間で取り組まれるべきスーパーマーケット等の農産物サプライチェーンの農場認証制度(FA:Farm Assurance)とその対策が、途上国と同じように、国の政策課題として取り上げられるばかりでした。このボタンのかけ違いから、既に10年の年が過ぎています。

 平成26年のGAP普及ニュース第40号の巻頭言「2020東京オリンピックで国産野菜を供給できない可能性」と、「ロンドン・オリンピックの"サステナビリティ"への取組み」の報告を契機に、俄かにGAPとGAP農場認証に関心が集まるようになりましたが、日本では、未だにマスコミをはじめ「GAPは食品安全のためであり、農場認証の取得で達成する」という位置づけのままです。「本来のGAP概念」の普及に努めてきたこれまでの10年間を振り返ると、日本だけが"GAPを空回りさせている"と言わざるを得ません。

 筆者らが普及に務めてきた「GAPの概念」が活かされた国際規格であるGAPの農場認証制度、即ちGLOBALG.A.P.に対しても、わが国では"食品安全+@のGAP"と解釈する独自の展開をし、"ガラパゴス化"しています。

 近年は、「国際的な食品安全団体」の要求事項に合わせることに関心が集中し、「本来のGAP」の目標が見えにくくなっています。

 そもそもGAPは「全地球的な課題」であり、1992年のリオの「地球サミット」、2012年の「リオ+20」と、国連の持続可能な開発会議が目指す社会づくりにおける農業分野の実践課題として考えるべき重要問題です。ポスト「2020東京オリンピック・パラリンピック」のGAP農場認証という当面の課題を乗り越えるにあたっても、「本来のGAP」の意義と意味を良く理解し、「本来のGAP」の「失われた10年間」を取り戻さなければなりません。

2018/1


《巻頭言》
『正しいGAPの理解に向けて一層の努力を!』

石谷孝佑 一般社団法人日本生産者GAP協会 常務理事

 謹んで 新年のお喜びを申し上げます。

 一昨年は、イギリスのEU離脱や、アメリカ大統領にトランプ氏が当選するという反グローバリズムの動きが顕著になりましたが、昨年の欧州は、多少落着きを取り戻しているように見えます。一方で「北朝鮮」と言うリスク要因が拡大し、トランプ大統領との駆け引きなどが不安定化の大きな要因になっています。

 今年は、北朝鮮問題が何らかの決着を見る年になると考えられ、その帰趨が心配されます。また、反グローバリズムのトランプ政権がどのように世界と係っていくのか、これにも目が離せません。

 一方、日欧EPAとTPP11では、日本政府の努力もあり、最終的な合意にまでこぎつけました。しかし、これらの自由貿易協定の前に立ちはだかるものは、日本における国際認証の低い普及率です。オリンピックの開催で農産物・食品の国際認証の重要性にやっと気が付いた日本政府は、今年、食品安全認証の基礎であるHACCPを義務化する段取りになりましたが、農業におけるGAPの義務化には程遠い状況です。また、食品用包装資材のポジティブリスト制度や食品の原料原産地表示についても今年には法制化し、何とかオリンピックに間に合わせようとしています。

 日本の農産物・食品に係る産業界は、典型的な内需型産業であり、国内のニーズに特化した産業になっています。これまでは、農産物・食品は輸入するものの、輸出は殆ど無い状況でした。海外に進出している包装資材関連の企業も、現地の農産物・食品を日本のニーズに合った商品を包装して日本に輸出するのが主目的であり、現地の商品を包装しても、現地で売るための包装にはあまり貢献していなかったということです。最近、人口減少社会になって、日本国内の農産物にも、やっと輸出に目が向いてきました。

 日頃の疑問は、日本の農産物・食品は何故これまで海外に出ていかなかったのかと言うことです。勿論例外もあり、醤油や味の素、照り焼きソースなどの調味料は以前から海外に出ており、カップラーメンやレトルト食品は世界製品になっています。外食のラーメンも海外では人気の日本食ですが、担い手の多くは韓国人や中国人で、日本人はまだまだ少数派のようです。

 日本の農業技術、食品加工技術、食品包装技術などには優れたものが多いのですが、その一方で、「海外で普及していないものが非常に多い」ことにも気付き、その理由を考えてみました。これらの優れた技術は、日本と言う島国で、日本語しか使わない閉鎖的な社会で、厳しい競争に打ち勝って作られた「ガラパゴス化された技術や製品」なのではないかということです。

 「ガラパゴス化」という言葉は、日本独特のビジネス用語なのです。

 商品やサービスなどの分野で、充分な大きさの日本のマーケットの中で、単独で成立しうる特異性の強い社会環境と激しいシェアー競争により生まれる「高度な技術」と言う意味に使われています。国内のマーケットで成功するには、日本と言うローカルなニーズや法律・規則に基づいた独自の進化が必要であり、限られたマーケットで利益を上げるためには、必然的に高品質・多機能で高価格な製品やサービスになります。その結果、国際競争力を失ってしまうということで、日本の携帯電話の「ガラケー」(ガラパゴス携帯)がその典型例とされています。

 ところが、このガラパゴス製品は、日本ではごろごろしています。性善説社会の中の厳しい競争で生まれ、日本でしか生きていけない商品として、ガラケーはもとより、多機能のファクシミリもまだ生きています。発泡酒や軽自動車も日本独特の法規制の賜物、日本の音楽やハイビジョン放送も日本独特のものがあり、ガラパゴス化されているということです。

 日本の「ガラパゴス化」とは、独自に進化している間に、「世界の事実上の標準」(デファクト・スタンダード)が決まってしまうということです。そういえば、日本の法律・規則もガラパゴス化の宝庫のように見えてきました。日本は、まだ性善説社会を維持している数少ない国ですから、農産物は「国産」と言うだけで安心してしまう国民が多いということです。ですから、性悪説社会の中国や欧米では農産物・食品の「安全認証」が必要なのです。これが、日本で国際認証が普及しない大きな理由と考えられます。かといって、Japan Brandでは世界に通用しません。

 国際的には、一定のルールで認証された民間団体の方が、国よりずっと国民から信用されています。日本では、国の方が何となく信用されてきたという実績がありますが、これもガラパゴスであり、ここにきて、この評価が変わるかもしれません。 食品の安全性評価の法規制も、先進国はもとより、途上国でも次々と法律が立派なものに変わり、先進国では日本だけが取り残されてきたような状況でしたが、オリンピックでやっと目覚めたといっても過言ではない状況です。そして、今ごろになって「日本発の国際標準を」などとピント外れなことを言っているようです。今は、できるだけ早く世界標準にキャッチアップし、日本の法整備を進めることが何よりも必要ですし、民間活力を育て、それを尊重していく姿勢が必要です。いつまでも天下り団体中心の「ガラパゴス」でいることは許されません。

 農産物の農場認証(FA:Farm Assurance)には「オリンピックのため」に応急措置がされるようですが、抜本的な取組みはこれからという状態であり、寂しい限りです。そもそも欧州では、持続的農業のために作られた「GAP規範」があり、GAPが義務化されており、これを遵守している農家には戸別の補償金が出て、環境に良いことをやればクロスコンプライアンスで奨励金まで出る制度になっています。

 このGAPを順守している農家・農場の農産物に対して、小売り・スーパーの団体が、食品安全から見て信頼できるかどうかを認証しているのがGLOBALG.A.P.などの農場認証です。「スーパーで安心して売れるかどうか」、「オリンピックで安心して使えるかどうか」を決める農場認証は、主に輸入品に対して行われるものであり、その認証は信頼できる民間団体が担っています。GLOBALG.A.P.は、民間団体が運営する農場認証です。

 アセアンや中国などの開発途上国では、民間団体が充分育っていないので、半官半民の団体や国の組織が農場認証を担っていることもありますが、基本は、スーパーが遠くの国まで経費をかけて調べに行く費用を肩代わりするための農産物の安全認証システムです。アセアン10ヵ国で使われている農場認証は、GLOBALG.A.P.に基づいて作られたASEANGAPを用いています。アセアン諸国が農産物を輸入する場合には、GLOBALG.A.P.認証が必要になります。イギリスの大手のスーパーであるテスコは、現在も「ネイチャーズ・チョイス」という農場認証制度を維持しており、海外からの一級品の農産物を輸入する場合には「ネイチャーズ・チョイス」認証されたものを輸入し販売しています。私が見学したタイの農産物輸出業者は、欧米に輸出する農産物は全て「ネイチャーズ・チョイス」の認証を受けていました。

 日本では、国の「GAP規範」がなく、よって立つものが無く、したがってGAPが殆ど行われておらず、国がリードする農場認証(いわゆる商業GAP)にのみ頼っているような状況です。これでは、アセアンの途上国にも及ばない状況です。

 日本は、正しいGAPの理解に向けて一層努力することが必要であり、持続的農業を基本とした国の「GAP規範」を作り、これに基づいたGAP施策を行い、農場認証は信頼できる民間に任せ、環境に悪いことをした場合には罰金を科し、良いことをした場合には、クロスコンプライアンスのリストに基づいて奨励金を出すことも考えたら良いでしょう。

 いづれにしても、GAP施策により、既に農業環境が悪化している地域を回復させるとともに、持続的な農業に国は力を入れることが必要です。

2018/1


GAPとは何か 先進地に学び、根本思想から問う

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

~日本のGAP推進ブーム~

日本のGAP政策

 GAPは、Good Agricultural Practices(適正農業管理)の略ですが、日本では2004年に農林水産省消費安全局から「食品安全ジーエーピー」という名称で、農産物・食品の安全性を確保する農業生産分野の規則として登場しました。2008年には農林水産省生産局の所管となり、「農業生産工程管理手法」と名前を変え、2010年には「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン(農水省ガイドライン)」が策定されました。その後、日本政府は、農産物の輸出促進のために、これまでのGAPを見直し、国際的に通用する規格に取り組むことを決めました(「日本再興戦略」改訂2014)。2015年からは、GAPを所管する部署は、農林水産省生産局農業環境対策課になっています。2017年現在は、輸出促進と東京五輪対策を中心に、GAPの実施と認証の取得を積極的に推進しています。

東京五輪の調達要件

 2020年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京五輪)を間近に控えた大会組織委員会は、世界で最も持続可能なオリンピックといわれている2012年の「ロンドン大会」に倣って、東京五輪でもSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)が掲げる持続可能な社会の実現に向けて、農畜水産物の「持続可能性に配慮した調達コード」を定めました。

 この調達コードを満たす農場認証(Farm Assurance)の事実上の国際認証規準(デファクト・スタンダード)といわれるGLOBALG.A.P.認証をはじめ、日本版の農場認証や農林水産省のガイドラインに準拠した都道府県等の農場確認が原料調達の要件とされました。開催まで1,000日を切った12月現在、都道府県のGAP推進担当者は、GLOBALG.A.P.などの認証取得の支援と、自らが実施する農場確認の体制づくりに奔走しているようです。

ロンドンから日本農業へアドバイス

  一口に「ロンドンに学ぶ」とは言いますが、ロンドン大会で調達規準とされた英国の「レッドトラクター認証」は、日本とは事情が大きく異なり、五輪の原料調達要件に応えるために普及したわけではありません。

 ロンドン大会が開催される遥か以前から、イギリス国内の農産物・畜産物の生産農場の75%~90%(耕種、畜種によって異なる)がレッドトラクター認証を取得していました。この認証制度の創設者は、イギリスの農業者団体のNFU(全国農民連合)です。NFUの会員は1990年代から、農業に対する消費者の信頼を勝ち取るために、環境保全や人権保護、食品衛生のコンプライアンスに主体的に努めてきていました。

 レッドトラクターの代表取締役のデビッド・クラーク氏は、日本のGAPの取組みに対して、次のようにアドバイスをしてくれました。(⇒ 以下は、日本における筆者の解釈です)

  • 何を守りたいのかを明確にする ⇒ 目標は地域農業振興および日本農業の発展
  • 実現可能な制度にする ⇒ 日本には高度な農業改良普及制度がある
  • 認証制度のプロモーションを行う ⇒ 認証ビジネスではなく、消費者の信頼を得る行動
  • 消費者に信頼される食品提供は業界の存続につながる ⇒ 農業本来の目標達成のために
  • 海外に目を向けながらも自国に合った制度を作る方が有益 ⇒ 日本の農業者の主体性が必要

東京五輪後の持続可能な社会づくりに貢献

  このような現状を理解した上で、日本ではなおGAPやHACCPの東京五輪対応と、2020東京五輪後の農業と食料産業の健全化を確立し、国内外の消費者の信頼性向上に努めなければなりません。民間によるGAP農場認証という国際的な要求事項を避けることなく、日本の実情に合った形での世界的な信頼を取り付ける解決策を考えることが大切です。また、GAPの推進は、五輪のための農産物調達を目標にするのではなく、五輪の開催をきっかけに持続可能な農業の生産体制や事業者としての食品衛生の管理体制を実現し、東京五輪後の持続可能な社会づくりに貢献できるようにすることを考えるべきです。

~農業のパラダイムシフト~

GAPは地球的な課題

 EUの共通農業政策(CAP)では、1980年代になると"農業における環境問題は、地域的な課題ではなく、地球的な課題である"ということになり、環境支払による生態系の保護、環境脆弱地域への援助規則の制定など様々な政策が登場しました。1991年には「硝酸指令」と「作物保護指令」が公布されました。「硝酸指令」は家畜糞尿や化学肥料の窒素成分による地下水や湖沼、河川の汚染を防止すること、「作物保護指令」は化学合成農薬の使用に伴う環境汚染の防止が目的です。EUに加盟する多くの国で環境の脆弱地域を指定して「適正農業規範(Code of Good Agricultural Practices:GAP規範)」を遵守する政策が始まりました。

国内農業の保護と農産物輸出対策

 特にGATT(関税及び貿易に関する一般協定)ウルグアイ・ラウンド以降にはGAP規範の見直しが行われ、「環境保護・景観維持と両立する農業生産方法に関する規則」が制定されました。EUは、アメリカやオーストラリア等の農産物輸出国から貿易自由化のために農業政策の根本的な変更を要求され、「マクシャリー改革」を行うことでGATTウルグアイ・ラウンドが決着したのです。この改革による域内の共通価格の引下げや農地の休耕は、生産調整や環境保全の目的を持つ反面、農家所得を引き下げることになるので、農家に対する新たな所得支援策として直接支払による「環境支払」の制度が導入されました。直接支払と環境規準遵守の結合を図るクロスコンプライアンスの導入です。

 2003年のCAPの中間見直しでは、「GAPはやって当たり前の時代」と言われ、2005年以降は、環境にとってプラスのことを奨励する「GAP以上」のGAP規範(環境や景観に対する明らかな便益)を規定し、直接支払の要件にしました。

 政策としてのGAPは、適法農業として「汚染者負担の原則」に立ち、"GAPは農業者としての最低限のマナーである"と表現しています。

持続可能な農業の教育と人材育成

 このように、近代農業が抱えるマイナス要因に気付いたEUでGAPの概念が生まれ、GAPを実現するために、1999年に作られた補助金体制の中で、農業技術の助言システムが作られ、スペインなどでは農業技術員(テクニコ)制度で、個別農家の一人一人が公認のテクニコによってサポートされる仕組みです。その他の国でも、肥料や農薬の使用などについて公的な指導員の指導を受けなければならないという制度になっています。

 ちなみに2014年以降の「EUグリーニング」は、「持続可能な農地は、公共の天然資源(市場価格で守られない公共財)であり、この世話を日常業務の一部とする農民の利益を財政的に支援する」という直接支払政策になっています。

 スペインのカタルーニャ州政府は、1,400人のテクニコを養成して農業者のGAPを指導しています。農畜水産食品省のマリテル大臣によれば、GAP政策で解決しなければならない最大の課題は「窒素循環のアンバランス」(2017年1月30日の聞取り)」だそうです。同州は養豚が盛んで、その糞尿による窒素成分は農作物で吸収するのですが、全て吸収するには栽培面積が30%足りないそうです。

~政策GAPと民間のGAP認証~

GAPは先進国の国際戦略

  EUではクロスコンプライアンスで事実上義務化されたGAP規範の遵守は、農業者の環境保全型農業の目標になり、GAPの実施は2005年までにほぼ定着しました。それを機に、EUREP(Euro-Retailer Produce Working Group:欧州小売業者農産物作業グループ)に参加する企業は、2005年から輸入農産物に対して現在のGLOBALG.A.P.認証の前進であるEUREPGAP認証(以下、GLOBALG.A.P.認証という)の取得を条件付けました。

 これは、見方によっては、巧妙な非関税障壁という国際戦略かもしれません。WTO(世界貿易機関)においては、国内農家への生産補助金や輸入農産物への関税では輸入農産物に対抗できなくなっています。しかし、民間レベルで行われている仕入基準で、欧州の生産者が当然に行っているGAP規準に関する農場認証ですから、輸入農産物の仕入れ要件にしても何ら問題がありません。このようにしてGLOBALG.A.P.認証はますます普及することになったのです。

買手側のコストを生産側に付替えられた農場認証費用

  日本では、2004年に青森県の有限会社片山りんごがGLOBALG.A.P.認証を取得したのが最初です。片山リンゴは、1998年にロンドン最大の果物卸売会社EWT社のSCP(SUPPLIER CODE OF PRACTISE)農場認証検査を受け、1999年に輸出を開始しました。当時の認証検査費用は、全て買い手側(EWT社)の負担でした。

 ところが、2002年にEWT社から通知があり、欧州のスーパーマーケットは2005年1月1日から、最低でもGLOBALG.A.P.認証がなければ仕入れないということになりました。上級スーパーの「マークス&スペンサー」や中級の「ウェイトローズ」、大衆的な「テスコ」などでは、独自の農場認証基準で仕入れ先の農場を検査していました。片山りんごは、販売を続けるために、経費をかけて最低基準のGLOBALG.A.P.認証を取得しました。

 筆者は、2003年にテスコの農場認証規準「ネイチャーズ・チョイス」の文書を入手しましたが、その冒頭に「遵守しなければならない」と述べてあるイングランド政府の環境規準であるイングランド版「GAP規範」も入手し、EUREPGAP認証の取得支援に役立てました。これ以降、農場認証にかかる費用は全て売り手側(農協や農家)の負担になりました。

 2003年当時は、オランダやベルギーの農業者の中にはGLOBALG.A.P.認証にひどく反対している人達がいました。

~GAPの意義と意味~

GAPは21世紀農業の政策プログラム

 第二次世界大戦後、世界の農業は、大規模灌漑や農作業の機械化、新品種の開発、化学合成農薬と化学肥料の開発などで生産性を向上させ、地球の歴史上これまでにない爆発的な人口増加に対応してきました。

 ところが、化学肥料の多投による土壌肥沃度の低下や硝酸態窒素による地下水・河川水の汚染が地球規模に拡大して、自然環境を破壊していることが分かりました。また、化学農薬の使用が原因の水系や土壌の汚染や生態系の破壊、農産物の基準値を超えた農薬残留による人の健康被害などの問題も起こってきました。

 これらに輪をかけるように、急激なグローバル化と行き過ぎた経済主義によって人の健康被害が拡大しています。BSE問題、O-157やサルモネラなどの食中毒事件が広域化し、さらに、劣悪な労働環境や職場での人権侵害などが影響しているのか、故意による食品危害が起こるなど、近代農業や食品産業は、これまで予期しなかった重大な問題を抱えるようになりました。

 農業生産性の向上という近代農業の「光」は、その「陰」の部分で「環境破壊、資源枯渇、健康被害」というマイナス効果を引き起こしていました。将来世代のニーズを満足させる能力を損なうことなく、今日世代のニーズを満足させる社会を創るための持続可能な社会への取組みには、1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)で確認された「環境・経済・社会」という3つのバランスが必要です。GAPは「持続可能な社会づくりに貢献する」というアジェンダ21の農業分野の重要な課題です。

  1. 持続可能な発展とGAP規範の位置付け

     日本では、1993年に「環境基本法」が制定されました。持続可能な社会づくりが基本理念であり、自然資源の消費を抑制して環境への負荷をできる限り低減することを目標としています。農業分野では「環境負荷低減型農業」「循環型農業」「環境保全型農業」などと表現される「持続可能な農業(Sustainable agriculture)」を行うことが求められています。

     日本政府は1994年「環境立国宣言」を行い、農業分野では「化学農薬や化学肥料の節減」「家畜糞尿の適切な管理」「農地周辺の生態系の保全」などが目標とされました。

     これらを受けて、1999年には日本の農業生産活動全体の在り方を、環境保全を重視したものに転換するための「食料・農業・農村基本法」が制定されました。2005年には、農業者が環境保全に向けて取り組むべき最低限の規範として「環境と調和のとれた農業生産活動規範」が策定され、2010年に農水省ガイドラインが策定されるという流れになりました。

  2. GAP・GAP規範・GAP規準・GAP認証を理解する

     イングランドのGAP規範によれば、「GAP(適正農業管理)は、自然・資源を保護し、農業と経済が持続できるようにしながら、環境汚染を引き起こす危険性を最小限に抑える行為」です。そして、農業者がよりシンプルに容易に法令を理解し、環境汚染を避ける効果的な措置をとるのに役立つガイドブックが「GAP規範」です。

     日本ではGAPに関わる言葉の定義が統一されていないために、GAPを語るときに混乱が生じることがあります。「GAP、GAP規範、GAP規準、GAP認証」の概念を以下のように分類すれば理解しやすくなります。

    ① GAPは、適切な(Goodな)農業者の農業実践や習慣的な行為のことであり、
    ② その適切さの根拠を記述したものがGAP規範です。
    ③ 農業者の農業実践がGAP規範を遵守しているかどうかを評価する尺度としてGAP規準(いわゆるチェックリスト)が作られ、
    ④ 評価の結果が一定のレベルに達していれば、Goodな農場として保証される制度がGAP認証制度です。
  3. GAPにおけるGOODの3原則

     本稿では適正農業管理と訳したGAPですが、GAPのGoodの内容を考えてみると、GAPにおけるGood(適切)は、Better(より良い)でもなければ、Best(最も良い)でもありません。敢えて例えれば、Not Bad(悪くはない)です。

     自然環境や資源を保護するためには、汚染を引き起こす危険性を最小限に抑えるというGAPの定義からも、GAPは「不適切な行為がない農業」、即ち適切な農業行為のことなのです。

     そして、農業行為が「不適切ではない」という条件には、適切な農業行為の要素として次の3つを挙げることができます。

    ① 法令や科学に基づいていること
     農水省のガイドラインは、取組事項とそれに関連する法令等をまとめたものであり、それらが科学的知見に基づいて有効な取組みをすることであると規定しています。
    ②予防原則を採っていること
     重大な或いは不可逆的な損害の恐れがあるときには、科学的な証拠や因果関係が充分に提示されていない段階でも、「そのリスクを評価して予防的に対策を採らなければならない」という原則です (地球サミットのリオ宣言第15条) 。
     GAPは、リスク評価から始めます。農場における問題点を明らかにし、問題解決の対策を立てて農場管理の規則や手順を策定し、それらのルールに従ってリスク管理(コントロール)することがGAPの要件です。
    ② 汚染者負担原則を採っていること
     環境破壊は発生源が優先して改善されるべきであり、汚染者支払の原則です。イングランドのGAP規範では、「圃場は拡散汚染源である」として、過剰な肥料の投与を規制しています。

~GAPは農業倫理~

自由主義社会で人と環境にやさしい農業を営む倫理は

  21世紀の現在、日本を含む世界の先進諸国を主導・先導している倫理は「最大多数の最大幸福」を原理とする功利主義的自由主義です。それは、個々人の利益追求の総和としての社会的利益を目指すという考え方ですが、単なる「利己主義」に陥らず、「全体利益」を保障する唯一最大のルールが、「他者危害排除の原則」です。しかし「人に迷惑をかけなければ自分の好きにして良い」という原則は、環境問題や命の問題では極めて弱い倫理規定です。なぜなら、全体にじわじわ進行する環境破壊や食品危害などは「他者への危害」とは見え難いからです。

 GAPという環境保全や衛生管理のための農業活動や行動が、資本主義経済の商品としては馴染み難い点も問題です。環境や安全に配慮した農業は一般に生産コストが高くなりますが、安いものを求める消費者もいますので、安全に対しては「手抜き」が行われるという懸念もあります。

 環境問題では、まだ見ぬ未来世代を「他者」として配慮の対象とするのは更に難しいようです。考えが及ぶのはせいぜい孫世代までであり、数百年後の人類の子孫達のことを考えて、具体的に適切な実践を今やるのは更に難しいということです。

環境のメンテナンスという農業の価値

 農林水産省は、GAPを農業者の自主的努力に求めていますが、農業者がGAPの意義を理解して取り組もうとしても、その行為の成果が得られなければなかなか取り組めませんし、それを持続することができません。EUでは、域内の農業振興政策としての農業補助金を、「GAP規範に基づく農場査定」による「環境支払」「直接支払」で実施しているために、農業者のGAP規範遵守に対する大きなインセンティブになっています。

 農業の生産性向上という目的を最適化する「部分最適」が、環境や生命という大きな地球システムに対して問題を起こしていれば、生態系の中でしか生きられない人類の生存という「全体最適」が阻害されます。目先の損得や便・不便にとらわれず、農業問題に対しても、長期的・包括的な行動方針を作りだしていかなければなりません。

 市場価格に守られない公共財としての「環境」のメンテナンスという農業の価値をどのように評価し、真の持続的農業生産システムを構築していくかが日本社会に問われています。GAPは「農業倫理の課題」です。

 本稿は、「真の持続的農業生産システムの構築」,AFCフォーラム2017/10,特集"徹底解説・GAPを説く",日本政策金融公庫農林水産事業本部に掲載したものを改題・加筆・修正したものです。

2018/1


2017年度GAPシンポジウムの予告
テーマ『オリパラに向けたGAP指導と本来の農場評価体制』

【開催趣旨】

 2012年のロンドン・オリンピック&パラリンピックは大会運営のすべてにおいて世界一持続可能な大会と称されました。そのうち、食材調達基準には英国農民連合のレッドトラクター認証を採用しました。「大会開催の前から農畜産物の約8割程度がレッドトラクター認証を取得していたから、大会組織委員会の目標である持続可能性が達成できた」と言われています。

 2020年の東京オリンピック&パラリンピックでは、ロンドン大会とは反対にGAP農場認証をとることを目標にしなければならない事態となっています。多くの産地で関係者が努力して認証を取得するということですが、最終目的は大会後のグローバルな経済社会の要求に応えることができる日本農業の体制整備であることには間違いがありません。

 東京オリンピック&パラリンピックを契機にGAP農場認証を取得して、それをレガシーとして大会以降の農業振興を図るためには、数合わせやその時だけの農場認証ではなく、地域農業振興のビジョンに従った農業者のGAPの実現と農場認証についての体制整備をすることが必要です。

 GAPの体制作りで最も重要なことは教育であり、なかでもGAP指導者の養成が喫緊の課題になっています。

 今回のGAPシンポジウムでは、東京大会後の地域農業振興を見据えた持続可能な農業推進のための人づくりと、それを前提としたオリンピック&パラリンピック用の食材供給のためのGAP第三者確認制度への取組みについて議論を深めます。

【開催概要】
日 時:2018年3月5日(月)10:45~17:30/3月6日(火)9:20~16:30
会 場:東京大学 弥生講堂 一条ホール(東京都文京区弥生1-1-1)
参加費:主催・共催・後援団体の会員 \10,000、一般 \15,000、学生 \2,000、情報交換会 \3,000
展 示:業等による情報展示(開催期間中)
主 催:一般社団法人日本生産者GAP協会
共 催:農業情報学会、一般社団法人GAP普及推進機構、特定非営利活動法人経済人コー円卓会議日本委員会
後 援:全国農業協同組合連合会
【プログラム】
2018年3月5日(月)『オリパラに向けたGAP指導と本来の農場評価の体制構築』
10:45-11:00 会講演:「GAPで守るものは何か」 (一社)日本生産者GAP協会・常務理事 二宮正士(東京大学)
11:00-12:00 基調講演:「GAPとは何か。先進地に学び、根本思想から問う」 (一社)日本生産者GAP協会・理事長 田上隆一(AGIC)
13:00-13:45 特別講演:「農林水産省によるGAP推進施策について」 農林水産省生産局農業環境対策課 課長 及川仁
13:45-14:30 特別講演:「日本農業を本気で守るJAグループのGAP推進」 全国農業協同組合連合会 参事 立石幸一
15:00-15:40 講  演:「GH評価員の養成とJA生産部会の品質コントロール」 JA茨城県中央会県域営農支援センター営農 マーケティング支援室 金澤泰俊
15:40-16:20 講  演:「GH評価員の養成と福井の新しい米品種の農場管理の標準化」 福井県農林水産部地域農業課エコ農業 食料安全グループ 細川幸一
16:20-17:30 総合討論:「GAP指導者に求められる力量を身につける」 司会:田上隆多 パネリスト:講演者
17:40-19:30 情報交換会:
2018年3月6日(火)『本来の農場評価に向けた第三者確認制度の構築と運営』
9:20 - 9:50 講  演:「オリンピック後の持続可能な農業と農場管理の評価」 (一社)日本生産者GAP協会  理事長 田上隆一(AGIC)
9:50 -10:20 講  演:「GAP指導の力量を身につける"GH農場評価制度と評価員試験"」 (一社)日本生産者GAP協会  事務局長 田上隆多(AGIC)
10:20-11:10 講  演:「GH評価制度で確認する養豚業の管理」 岐阜県農政部農業経営課地域支援係 中島敏明
11:10-12:00 講  演:「GH評価制度で確認する牛の繁殖・肥育管理」 えびのトレサ農園  代表 成光昭男
13:00-16:30 報  告:「GH評価制度を活用した茨城県GAP第三者確認制度について」 茨城県農林水産部産地振興課エコ農業推進室 佐々木史生
・報  告:「岐阜県GAP第三者確認制度におけるGH評価員試験の活用」 岐阜県農政部農産園芸課クリーン農業係 技術課長補佐兼係長 青谷英樹
・報  告:「普及員と指導員のGH評価制度教育と資格試験対策」 JA福井県中央会組合員トータルサポートセンター農業企画課 木下良弘
・報  告:「JAのGH評価員によるGAPコンサルティングの内容」 JA営農指導員
・報  告:「GH評価員による産地のGAP指導・普及について」 茨城県鹿行農林事務所 振興・環境室農業振興課 田中知恵
・質疑応答:「オリンピック後の本来の農場評価のために」 司会 田上隆一
※内容につきましては、変更になる場合もございますので、その旨ご容赦下さい。

2018/1


2018年度セミナー・シンポジウム等の予定

 2018年度の各種セミナー・海外調査・シンポジウム等について、下記のスケジュールで実施する予定です。2017年度のGAPシンポジウム(3月5~6日)と併せて、奮ってご参加下さい。

 グリーンハーベスター農場評価制度(「GH評価制度」)では、GAPの理解と普及のための教育システムとして、農業者、農業指導員等によるGAPの自主管理を推奨しています。

 また、ご好評をいただいていますスペインGAPツアーについても、来年度予定していますので、宜しくご検討下さい。

開催期日シンポジウム・セミナー等
2018年
6月15日(金)

『GAP入門セミナー』  ※※新設セミナー※※
場所:都内予定 定員:50名
参加料:10,800円(税込)、(当協会会員8,100円 税込)

4月26日(木)-27日(金)
7月26日(木)-27日(金)
10月25日(木)-26日(金)

『GAP実践セミナー』
場所:文部科学省研究交流センター(茨城県つくば市竹園2-20-5)
定員:25名、参加料:27,000円(税込)、(当協会会員19,440円 税込)

5月24日(木)-25日(金)
8月30日(木)-31日(金)
11月29日(木)-30日(金)

『農場実地トレーニング』
場所:文部科学省研究交流センター(茨城県つくば市竹園2-20-5)
定員:25名、参加料:27,000円(税込)、(当協会会員19,440円 税込)

6月13日(水) -14日(木)
9月27日(木) -28日(金)
12月20日(木)-21日(金)

『農業者のためのHACCPセミナー』
場所:文部科学省研究交流センター(茨城県つくば市竹園2-20-5)
定員:30名、参加料:32,000円(税込)、(当協会会員23,000円 税込)

2019年(2018年度)
1月 日時は未定

『GH評価員試験』
場所:文部科学省研究交流センター(茨城県つくば市竹園2-20-5)
定員:1日につき8名、受験料:30,000円(税込)

2019年(2018年度) 2月 日時は未定

『GAPシンポジウム』
場所:東京大学農学部弥生講堂一条ホール(東京都文京区弥生1-1-1)
参加料:主催・共催会員 10,000円:一般 15,000円、学生 2,000円

2018/1


GAP指導者必携の書グリーンハーベスター(GH)農場評価ガイドブック
~発刊特集~
~農業者のGAPレベルの向上のために~

あなたは、農場管理の実態を見てGoodかBadか判断できますか?

 あなたが見ている生産現場、農場管理の仕組み、作業者の行動などに対して、チェックリストが何を求めているのか、農業者に具体的に伝えられますか?

◆GAP指導者が農場に出向いたとき、GAP規準が要求する事項ごとに現場が白(Good)か黒(Bad)かを判断することは大変に難しいことです。真剣に考えればほとんどが灰色(Gray)のように感じるものです。
◆指導者は灰色の度合いを、薄いか、中程度か、濃いか、または黒なのかを判断できる力量を持たなければなりません。
◆指導者が力量を上げるためには、以下の3つのステップがあります。
1)GAPを知る(知識を吸収する)こと
GAP本来の意義やGAPの具体的な意味を、まずは知識として吸収することが必要です。そのためには「日本GAP規範」を読むことです。
2)GAPを理解する(意味や内容を説明できる)」こと
農業の知識を得るとともに農業の習慣などを含んだ実際(Practices)を知って、GAPを説明できるようになることが必要です。
3)GAPを把握する(農場評価ができる)こと
その農場の農業活動におけるリスク評価を行い、農場管理計画を立て、それを実行・制御できるようになることが必要です。

1)の力量をつけるために「GAP実践セミナー」があります。

2)の力量をつけるために「農場実地トレーニング」があります。

2)の力量を確認するために「GH評価員検定試験」があります。

3)の力量をつけるために「GH評価員技能研修」があります。

【グリーンハーベスター農場評価ガイドブック】は、GAP指導者必携の書です。

*詳細は、一般社団法人日本生産者GAP協会のホームページをご覧ください。

グリーンハーベスター農場評価ガイドブック刊行に当たって

イギリス・スペインに学んだGAP教育制度

 一般社団法人日本生産者GAP協会は、すべての農業関係者がGAP(適正農業管理)を理解して、持続可能な農業に取り組むことが日本農業の発展につながると考えています。そして、農業者や農業組織への経営改善指導を行うとともに、指導を行うGAP指導者の育成に努めています。

 そのGAP教育のモデルとして、持続可能な農業というGAPの基本的な考え方や方向性(云わばGAP思想)は、イギリスの適正農業規範(Code of Good Agricultural Practice)およびNFU(National Farmers Union:全国農民連合)が開発・運営した持続的農業支援の「レッドトラクター制度」に学んでいます。

 また、グローバル社会におけるビジネス戦略としての農場認証(Farm Assurance)への産地や組織の取り組み方(云わばGAP手法)は、スペインのアンダルシア州アルメリア県の「GLOBAL G.A.P.認証」への取組みに学びました。

 前者は、行政が行う21世紀型農業政策としての持続可能な農業への取組みであり、後者はグローバルな食品市場の要求に対応して農協などが行う経営改善です。

必要なのはGAP規範とGAP指導者

 イングランドには1990年当初から行政が策定する「適正農業規範」(Code of Good Agricultural Practice)があり、すべての農業者は、EUおよび国内の法規制と、それらに伴う全国農民連合の指導の下で環境保全型農業に努めてきました。

 2000年になると適正農業規範の遵守がEUの小売業者から生産者に対する農産物仕入れの要求要件となり、EU最大規模の夏野菜産地であるスペイン・アルメリアの農業者は、農産物の買い手側から、最低でもGLOBALG.A.P.(発足当時はEUREPGAP)認証を求められることになりました。そのため、農協などでは農業技術員を雇用して、農業者の農場管理を改善・指導し、企業的な営農管理体制を整えました。

全国農民連合生産者の国内貢献

 これまでに(一社)日本生産者GAP協会では、イングランドの全国農民連合と交流し、会員農家が取り組む消費者信頼のための持続可能な農業の方向性と指導内容に触れました。

 全国農民連合は、会員農家のための農業プロモーションおよびロビー活動を目的として1908年に設立されています。1980年代から1990年代にかけて、イギリスでは狂牛病などの食品事故が多発し、1990年に食品安全法(Food Safety Act)が制定されて食品業界全体の食品安全意識が高まりました。全国農民連合は、会員農家の更なる自主的な意識の強化を推進し、①英国農場基準(British Farm Standard)を作って全国の隅々まで57,000生産者会員のGAPの実践指導を徹底したのです。また、2000年には、②食品保証基準(Assured Food Standard)認証も開始しました。

①レッドトラクター農場保証基準 (Red Tractor Farm Assurance) の特徴
  • 農産物が農場から出荷されるまでの認証(On Farm)
  • 動物の福祉、食品の安全性、トレーサビリティ、環境保護をカバー
  • 農場で使用されるすべての項目をカバー:化学物質(肥料、農薬、獣医薬品など)飼料、農機具、倉庫、運搬、委託会社、取引業者、CAPコンプライアンス
  • ISO17065承認の認証機関が監査
②レッドトラクター食品保証制度 (Red Tractor Assured Food Standard)の特徴
  • 食物のトレーサビリティ、食べて安全、責任生産の保証システム
  • ユニオンジャック(イギリスの国旗)で、イギリスで栽培、加工、包装を保証
  • 牛肉・豚肉・家禽、乳製品、穀物、果実&野菜などの製品をカバー

 2012年のロンドン・オリンピックでは、全国農民連合は57,000生産者会員のデータを所持してサプライチェーン・ミーティングに参加し、食品調達に大きな貢献をしました。大会組織委員会およびフードビジョン委員会を教育して調達をリードし、結果は、レッドトラクターの採用によってイギリスの安全な食材の提供が追加費用無しで実現できたのです。全国農民連合は、「会員である生産者にオリンピックのためだけに生産量と運営方法を変更させない」方針を貫いて、レッドトラクターは、サプライチェーン全体で一層の信頼を得ています。

アルメリアの持続可能な農業実践とGAP民間認証

 (一社)日本生産者GAP協会は、スペイン・アルメリアの自治体(エレヒド市)や農協、農業関連企業などとの交流を深めて、GAPの実践とGAP認証の普及・指導について学び、日本国内でGAPの効果を実証しながら試行錯誤を重ね、GAPの普及と指導者の教育に努めてきました。

 アルメリア農業にとって2000年以降の農業は、正に持続可能な農業の実現です。農業協同組合(Agro-COOPs)による生産と販売の協同事業が成熟し、施設園芸野菜の栽培で地域全体が農業クラスターとなったエレヒド市などを中心に、欧州の一大野菜生産基地となりました。エレヒド市の農業者の農地所有の平均は1.5 haで、殆どが農協のメンバーである小規模な家族農家(13,500戸)です。農協は、組合員が生産した野菜の選果場をもっており、欧州を中心としたマーケットに対応した商品化に力を注いでいます。

 アルメリア農業の発展と成長は、零細な規模の農業生産者と農協などの農業企業体への支援策として「農業生産技術」と「農産物バリューチェーン技術」の進歩に多額の投資をしていることからもたらされています。組織的な認証取得(GLOBALG.A.P.その他)で農家を束ねる農協にとって最も重要な機能は、これまでのように経験と勘による農業生産を行う組合員の集合ではなく、個々の家族経営の枠を超えた「事実上の企業としての農業コスト計算を行う」ことや、「組織全体で行う作業の機能配分を合理化する」ことなどです。

 農協の業務と農家の営農活動を統合的に管理するERP(Enterprise Resources Planning)コンピュータシステムは、選果場に集中する農産物を、生産計画の段階から把握して売り先までトレースするために、農場の人材、圃場、資材、作物などの生産資源全体を、選果場の人材、設備、資材などの経営資源全体とともに統合管理する、組織を超えたグループ全体の業務の効率化や経営の全体最適を目指す経営管理手法です。

 アルメリアの農業が目指しているものをまとめてみると、

①EUマーケットからの要求に応える持続可能な農業(及びその認証)の実現
②生産技術支援(技術指導員による営農指導)で、IPMからオーガニック栽培への段階的移行
③GAPの統合管理による直接販売を前提とした「農産物バリューチェーン」の構築
に絞ることができます。

GH評価制度の構築とGAP教育

 日本には、イングランドのようなGAPを規定する適正農業規範がありませんでした。また、アルメリアのようにGAPを指導する農業技術員がいませんでした。

 日本で2000年代当初、GAPのために用意されたものは「食品安全に対する農作業の評価表(チェックリスト)」だけです。大手スーパーや生協などが、安全な農産物を調達するために利用したものや、都道府県などが農業者の農産物安全生産の自己診断用に用意したものなど様々なチェックリストがありましたが、それらの多くには「審査規則」や「評価ガイド」などがないために、チェックリストの使い方すら分からない状態でした。そのために農業生産の現場ではチェックリストを農業者に配布するだけでGAPの指導(こうすれば良い農業になるという農業指導)は行われず、日本ではいまだにGAP実践やGAP認証が一般化していません。

 そこで、(一社)日本生産者GAP協会では、「日本GAP規範Ver.1.0」を刊行し、「日本GAP規範に基づく農場評価制度(グリーンハーベスター農場評価制度)」を構築して、農業者へのGAP啓発・推進活動を行うとともに、農業者に対するGAP指導を行う人材としてのGH評価員育成の育成事業を行っています。

 GAP教育システムとしてのGH評価制度は、農業者や生産組織などの農業経営体が「日本GAP規範」の内容をどの程度達成しているかを、「GH農場評価規準」に基づいて「GH評価員」が客観的に評価し、農場管理や生産技術などの改善指針を提供することを目的とした制度です。

農場評価ガイドブックの刊行

 GH農場評価を受けた農業経営体は、その評価結果に基づいて、人と環境および農産物と家畜などに関するリスク低減の改善計画を実践することになります。GH評価制度は、農業経営体を持続的な農業へと導くための農業者や生産組織のGAP教育システムであるため、GLOBALG.G.A.P.などの国際規格のGAP認証を取得するための教育訓練システムとしても便利で有効な制度です。

 GAP実践のためには正確なGH農場評価が必要であり、そのためにはGAP指導者の高い「農場評価力」が求められます。「日本GAP規範」の正しい理解は当然のこと、同時に農業現場でのリスクを見抜く観察力と洞察力が必要です。また、評価に当たっては幅広い情報収集が必要ですが、それは主に農場関係者からの聞き取りによって得られるため、評価員は寛容性、倫理性、外向性などの力量も求められます。

 (一社)日本生産者GAP協会では、農場評価の能力を高めるための評価員教育プログラムを実施しており、2017年3月までに全国で3,257人が基本コース(GAP実践セミナーと農場実地トレーニング)の研修を修了し、GH評価員補となっています。これらの人達が自信をもって責任あるGH農場評価ができるようになるために、「GH(グリーンハーベスター)農場評価ガイドブック」を刊行しました。

 このガイドブックでは、農場評価の研修や実践の場で役立つよう「GH農場評価規準」の項目ごとに確認事項を明らかにし、評価の視点を明示していますので、利用者はポイントを外さない適切な農場評価が可能になります。「GH農場評価制度」は、コントロールされた健全な農業であることを農業者自身が確認することであり、その結果、適切にマネジメントされた経営体であることを消費者や取引先企業に説明するための手段です。このガイドブックを利用して、足元の農業問題の正確な把握に努め、持続可能で高度な農業経営管理を目指して頂きたいと思います。

「グリーンハーベスター農場評価ガイドブック」の事例紹介

3 圃場、施設、設備、栽培地などでの農業活動におけるリスク評価
分類番号項 目 内 容評価の上限確認事項
1.3
○圃場、樹園地、温室、キノコ栽培地や畜舎、農産物取扱い施設などの生産場所などの他、資材倉庫や設備および栽培地などの生産資材のリスク評価を行ったことが分かる記録がある。
○このリスク評価の結果から、環境保全、食品安全、労働安全、(必要な場合は)動物福祉の観点から持続的な生産が可能であることが示されている。
○また、リスク管理に必要な地図や図面(リスクマップ)などを作成している。リスク要因の変化が考えられる大きな変更があった場合には、地図や図面等を更新している。
リスク一覧表
リスクマップ

評価の視点

 全ての圃場や施設にどのような潜在的リスクあるいは物理的・化学的・微生物的なリスクがあるかを認識していること(リスク認識)が重要である。その上で、地図などにそのリスクを表示し、作業者が危険個所を理解できるようになっていることが重要である。日頃の作業の中で、注意する必要があると感じた場所はリスクマップに随時追加することも大切である。また、年に一回は見直し、必要な個所を改善してリスクがなくなった場合には、リスクマップから削除する。

 これらの諸点を総合的に評価する。

 なお、リスクを最小限に抑えるための管理計画とルールの作成・順守は「全1.5」で評価する。

<リスク評価の方法>
ステップ1:作業現場の巡回、作業者への聞き取り、過去の事故調査などにより危害要因(ハザード)を特定する。
ステップ2:誰がどのような危害を受ける可能性があるかを見極める。
ステップ3:リスクを評価し、危害要因の除去やリスクの低減について検討する。
ステップ4:作業計画/所見を作成し、それらを実行する。
ステップ5:リスク評価を見直し、必要に応じて更新する。
<圃場に関するリスク一覧表の例>
No. 場所 リスクの内容 影響 予防対策 リスクの程度 備考
1 圃場「北1」 アレルギー作物のソバを栽培 人によりアレルギー発症 乾燥調製時の交差汚染に注意
2 圃場「南1」「南2」 代掻き時の濁水流出 排水路への養分流出、 畔塗の徹底/浅水代掻きの試行
3 圃場「南2」 隣地果樹園からの農薬が飛散(ドリフト) 残留農薬 隣地農家との話し合い
<圃場のリスクマップの事例>
<小規模農家の作業舎のリスクマップ事例>
参考
【GAP規範Ver1.1】 [1101][1102][1103][9301]
【G-GAPVer5】 [AF 1.2.1][別紙AF1]
【GAPガイドライン】 [茸1][飼料8][茸7][茸8][茸9][茸10]

グリーンハーベスター農場評価ガイドブックについて

 このガイドブックは、『日本GAP規範』が規定している適正農業管理について、農業者や生産組織がどの程度GAPを実践しているのかを評価する『グリーンハーベスター(以下GHという)農場評価制度』の手引書です。

 一般社団法人日本生産者GAP協会が運営する『GH農場評価制度』は、個々の農場や農業の生産組織が、それぞれの農場管理において、『日本GAP規範』が示す内容をどの程度達成しているかを、GH評価員が『GH評価規準』に基づいて監査・評価し、農業経営や生産技術などの改善指針を提供することを目的としています。

 『GH評価規準』の種類には、組織管理、全農場共通、作物共通、水田畑作・園芸(茶)、畜産共通、牛・豚・鶏、施設、の規準があります。このガイドブックでは、『GH評価規準Ver2.0 20170428』に規定されている全農場共通、作物共通、水田畑作・園芸(茶)の規準による評価の解説を行っています。

 『GH評価規準Ver2.0 20170428』は、以下の規範および規則、規格、基準等に準拠しています。

◆日本GAP規範 Ver.1.1 -環境保全、労働安全、食品安全のための適切な農業実践の規範-, 一般社団法人日本生産者GAP協会編, 2014年5月30日, 幸書房
◆「日本GAP規範」に基づく農場評価制度一般規則(Ver. 1.1), 2012年6月1日発効, 一般社団法人日本生産者GAP協会
◆GLOBALG.A.P.Ver.5 Integrated Farm Assurance, All Farm Base - Crops Base - Combinable Crops - Fruit and Vegetables, Edition 5.0-1_Feb2016、ただし、GGのIFA基準のうち日本の農業で非該当を思われる項目(日本で禁止されているポストハーベストなど)および当該認証制度そのものに関する独自の項目は除外しました。
◆農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン(最終改定平成24年3月6日)について、農林水産省生産局農業環境対策課により完全準拠していることが本年4月に確認されました。

 『GH評価制度』は、都道府県の行政機関、普及指導機関、農業協同組合などで、農業者の自己啓発と自己改善に資する「GAP教育システム」として活用されてきました。また、国際的な農場認証制度GLOBALG.A.P.などの取得のための「GAP指導システム」として、民間のコンサルティング会社等がGH評価に取り組んでいます。

 『GH評価制度』は農産物の取引相手として農業者や生産組織を「監査・認証」することを目的とした制度ではありません。農業者や生産組織がGH評価の結果に基づいて「自然環境や農業環境」「農業に携わる人や生活者」「農産物とその食品」等の品質制御(クォリティコントロール)を充実させ、農場管理(ファームマネジメント)の水準を向上させていくためのものです。

 農業者および生産組織の農場管理に対するGH評価は、当協会が任命する評価員(GH評価員)が行います。当協会は、評価員が一定の高いレベルで『日本GAP規範』の農場評価に関する専門的な知識と技量を保っていることを保証するため、「評価員教育プログラム」に基づいて評価員を養成しています。評価員の段階的な指導の後には「評価員試験」があります。なお、評価員制度・評価員試験については、『「日本GAP規範」に基づく農場評価制度一般規則(Ver. 1.1)』をご覧下さい。

 このガイドブックは、評価員教育プログラムのテキストであり、GH評価員にとって必携の手引書です。また、GAPの実践を指導する農業普及指導員やJA営農指導員、農業や農家指導の実践者および農業経営の改善を自ら実践しようとする農業経営者・生産者に対して、この手引書は農業経営管理上の多くのヒントを提供します。

 このガイドブックは、GAPに関する単なるチェックリストの解説ではありません。ガイドブックの利用者は『日本GAP規範』を理解していることが必要ですが、ガイドブックの利用を通じてGAPの意義を一層理解し、農場改善の方法を発見することが可能になります。利用者は、農業経営の実践管理(マネジメント)と農場業務の運営制御(コントロール)の実態を把握し、適切な農場評価を行うことができるのです。

 このガイドブックは、『GH評価規準Ver2.0』の農業マネジメント(セクション1)と、農場のコントロール(セクション2~セクション7)の規準項目ごとに、「確認事項」と「評価の視点」を明示するとともに、評価レベルの判断に役立つ様々な事例を多く提示しています。これらを基に利用者は、農場管理の「どこが問題なのか、なぜ問題なのか、どの程度問題なのか」について評価対象農場のマネジメントおよびコントロールの質(クオリティ)を「評価レベル」として判定します。

 評価員によって判定された規準を満たしていない評価項目(評価レベル1-4)は、「評価集計表」で総合点数(1,000点を満点とする)から減点され、評価結果は「合計点数」と「総合評価」で表現されます。

 農業者や生産組織は、評価された点数を目安にして農場の改善課題を具体的に認識して改善に努めることになります。高得点は優良な農場の証となり、段階的に向上していく点数は農場の努力の目安となります。「詳細評価報告書」に記された評価結果は、農場改善への「道しるべ」であり、経営努力の方向を示すものです。

*詳細は、一般社団法人日本生産者GAP協会のホームページをご覧ください。

目次
グリーンハーベスター(GH)農場評価規準Ver.2.0の項目概要

8

評価レベルの見方

12

セクション1 農場管理システムの妥当性

13

セクション2 土壌と作物物養分管理

33

セクション3 作物保護と農薬の使用

50

セクション4 施設・資材と廃棄物の管理

71

セクション5 農産物の安全性と食品衛生

95

セクション6 労働安全と福祉の管理

116

セクション7 環境と生物多様性の保護

131

GH評価ガイドブック参考資料(GLOBALG.A.P. Ver.5.02対応)

135

  リスク評価様式事例集

136

  手順書・表示の事例集

149

  記録様式の事例集

170

用語解説

184

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自分達で取り組む「GH評価制度」がおすすめ

高橋広樹 みずほ農業経営者会事務局
株式会社みずほ 生産部長

全国初のJGAP団体認証取得

 茨城県つくば市の農産物直売所「みずほの村市場」に出荷する生産者団体「みずほ農業経営者会」は、2008年3月に農産物直売所としては全国初のJGAP団体認証を取得しました。野菜や果樹の農場が36、米などの農場が7、品目数の合計80品目で、多様な農産物を生産する団体の構成員全員が同時に認証を取得するという意味でも他に例がない認証取組の結果となりました。

 「みずほ農業経営者会」がGAPに取り組み始めたのは、2006年に残留農薬基準のポジティブリスト制度が始まり、基準値超過による事故を未然に防ぐために厳格な管理が必要になったのが一つのきっかけです。直売所への出荷者の農産物から残留基準値を超えた農薬が検出された場合、それがたった1人でも、直売所全体に影響が及んでしまいます。例え科学的には全く問題のないレベルでも、メディアの報道により過剰に影響してしまうのが「食の安全・安心」なのです。

 また、農薬の問題以外にも、全国の野菜産地で、堆肥や肥料のやり過ぎによる地下水の硝酸イオン濃度の増加が指摘されていました。硝酸イオンの問題は、野菜の品質にも関係していることなので、GAPの取組みを通して、より厳密に管理し、品質の向上に繋げられないかと考えました。EUでGAPが普及したのも、地下水や湖沼の硝酸汚染が日本以上に深刻だったことが一つの要因です。

 GAP認証を取得するにあたって生産者全員の合意を得るまでには時間がかかりました。当初は「作業場の改善にお金がかかる」「審査経費などの新たな経費が発生する」「記録が煩雑過ぎる」「衛生管理が厳しすぎる」など、多くの反対意見がありました。しかし、紆余曲折を乗り越え、農産物の更なる品質向上と直売所の消費者信頼のために、構成員の農場管理品質の統一を要求要件とする団体認証を取得したのです。

JGAP認証取得の中止

 JGAPの更新審査は2013年までで中止しました。途中、2011年3月11日の東日本大震災による原発事故が起こり、放射能測定等の風評被害対策に経費がかかるようになったこともあり、一年に1回、およそ100万円のJGAP団体認証の審査費用が負担になってきました。

 改めて品質向上と消費者への信頼確保を総合的に検討した際に、そもそも、直売所は消費者に直接販売するものなので、JGAPのような流通側の都合(生産者の良否を簡便に選別する方法)による認証は必要がないと判断しました。直売所で販売する農産物の生産は、構成員全員の農場管理が法令や規則に従ってコントロールされ、持続可能な農業という「本来のGAP」が達成されれば良いわけですから、JGAP認証の更新は中止しました。

低コストで運用できるGH評価制度

 流通側に対する認証は必要なくても、農産物直売所としての消費者信頼の対策は継続して必要です。残留農薬の基準値違反などが発覚すれば、消費者との信頼関係が崩れてしまいます。放射能による風評被害がまさにそうでした。

 そこで、組織によるGAP管理をより低コストで運用できる制度として、農産物直売所の「みずほの村市場」では、(社)日本生産者GAP協会の進める「GH農場評価制度(Green Harvester)」を取り入れることにしました。GH農場評価制度とは、「日本GAP規範」をもとに、GAPの教育システムとして開発されたGAP規準です。

 JGAPなどではチェックリストの各項目について「○か×か」(適合か不適合か)が問われるのですが、GH農場評価制度では、管理の在り方について「問題なし」から「軽微な問題」「潜在的な問題」「重大な問題」「喫緊の問題」と5段階評価になります。GAPは農業者の行為のことであり、「○か×か」を判定しかねる事柄も多々あるので、このような評価法は、農場改善の優先順位を考えるためにも非常に有効です。

 個々の課題項目の評価点数を集計して、最終的に1000点満点で総合評価します。「環境便益の取組み」によるプラス評価がある場合には1000点を超えることがあります。農場管理の項目ごとに、また、総合評価で農場ごとに点数が出るので、重点的に改善が必要なところが一目瞭然となります。また、団体として構成員の農場ごとの段階的な改善指導もし易くなります。800点以上なら国際規格のグローバルGAP認証も難しくないでしょう。

 GH農場評価制度なら、協会に費用を払って専門家の農場評価を受けたとしても3分の1以下の費用で抑えることができます。もちろん、公開されている評価項目に従って、自分達で取り組むこともできます。この場合には費用はかかりません。

GAPは差別化のためのものではない

 GH農場評価は、第三者認証制度ではないので、対外的な宣伝効果は弱いかもしれません。しかし、ヨーロッパで生まれたユーレップGAP(現在のグローバルGAPの前身)も、消費者に表示しないというのがルールになっています。GAPは本来、宣伝に使うものではないからです。

 そもそも、ヨーロッパ(EU)のGAP(適正農業規範)は、環境保全や公衆衛生が目的であり、農業者が当然やらなければならないことを規定したもので、他の誰かと競争するものではないのです。ヨーロッパの農家全てがグローバルGAP認証を取得しているわけでもありません。グローバルGAPなどの農場認証制度は、あくまでも商取引に利用する民間の認証制度であり、大手流通業者の取引基準に過ぎないのです。

 日本の場合、GAPは食品安全に偏っており、認証を取って差別化しようという認識の方が多いようです。しかし本来、食品の安全性は競争したり、差別化したりすべき事柄ではないと思います。

 ちなみに、認証をとるためのチェックリストのことを「これがGAPだ」と思われている方が多いようですが、GAPのチェックリストは規準(レギュレーション)であって、審査員が使うものであり、その大元には『GAP規範』があります。GAP発祥の地イギリスでは、政府が規定した『GAP規範』があります。その『GAP規範』(適切な農業のあり方について、その考え方や法律など)に基づいてGAP規準(チェックリスト、物差し)が作られているわけです。

 ところが、日本にはそもそも国が主体的に作るべき『GAP規範』がありません(ガイドラインはある)。そこで一部の県では、(社)日本生産者GAP協会の『日本GAP規範』を基に、県単位で『GAP規範』を作成しています。

認証制度でない本来のGAPを推進すべき

 日本では現在、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの食材調達基準や農産物輸出の条件としてGAP認証が注目され、この流れは更に進むと思われます。しかし、認証には多額の経費がかかります。政府はGAPの初年度の審査費用などの補助事業を進めていますが、更新審査には補助がありません。

 本来ならば、GAPは『規範』として実践を義務化すると同時に、公的機関が公費で助言や審査を行ない、農業の免許のようにすることが理想です。緊縮財政の今の政府には無理だと思いますが、ヨーロッパでは、持続的農業を推進するためのGAP(商業利用のGAP認証ではない)を義務化することで、「直接支払い」等の補助事業とセット(クロスコンプライアンス)にしています。ヨーロッパで「補助事業は農家のためではない」、「国民自らが食を確保し、豊かな環境で暮らすための選択」であるという考え方が国民に支持されているのは、本来のGAPのおかげといえます。

2018/1


GAPに関する質問と回答

田上隆多 株式会社AGIC GAP普及部長

 日本生産者GAP協会のGH評価員試験に合格して産地で指導をされている普及指導員の方からGAPに関するご質問を頂きました。質問者の同意を得ましたので、質問とその回答について読者の皆様と共有したいと思います。

質問1:農業用に使用する河川水の水質検査について
(質問内容)
 ある生産者から『現在、当地域では河川水をポンプアップして自然流下で圃場に配水しています。河川水を利用するにあたって、実施すべき分析法(分析項目や分析間隔)があれば教えて欲しい』との要望を受けました。水田に関しては、分析すべき項目があるとネットで確認しましたが、畑作で利用する水質に関する情報を上手く見つけることができませんでした。主な品目は、ピーマンやインゲン(ともに灌水のみ)ですが、一部で葉菜類も栽培しており、葉菜類に関しては可食部にもかかるような散布法とのことでした。

(回答)  水が可食部にかかるようでしたら、飲用できる水質が推奨されます。飲用できる水質については、一般的には簡易井戸水検査等で検査される約10~12項目がありますが、微生物的リスクから考えると、少なくともそのうち"大腸菌:検出されないこと"と"一般生菌数:100個/ml以下"の数値はクリアしたいところです。

 最近、栽培中に使用する水の水質についての質問が多くなっています。日本には、栽培中に使用する水の水質について規定した法令等はないようですので、ケースごとに科学的にリスク評価して判断することになります。最も重視すべきは、水由来の食品汚染です。特に農業用水を含む河川水については、一般的に大腸菌が検出されることが多いので、可食部に直接触れる使い方の場合は控えた方が良いでしょう。一方で、トマトやピーマンの根元に灌注する場合で、可食部に直接触れない場合には、大腸菌にそれほど神経質になることはありません。また、水稲の場合も大腸菌への考慮はほとんど不要ですが、地域によってカドミウム汚染の有無について考慮する必要があります。それぞれの作物による可食部への吸収と可食部への直接接触の2点が、栽培中に使用する水の水質について確認すべきところです。

質問2:農薬の毒劇物と普通物とを分けること関する根拠法などについて
(質問内容)
 ある生産者から『農薬の毒劇物は、普通物と保管庫を分ける必要があると聞いたが、根拠法などを知っていますか?』との問い合わせがありました。こちらについて上手く情報を検索できませんでしたのでご指導いただけると助かります。

(回答)  下記の法律「毒物及び劇物取締法」の該当条項および厚生省薬務局長通知「毒物及び劇物の保管管理について」により、毒物及び劇物を取り扱う農業者は、毒物および劇物はその他の物(普通農薬も)と明確に区分された毒物劇物専用の保管場所に施錠して保管する必要があります。

 なお、"明確に区分された専用の場所"の解釈について、個人的な見解としては、一つの施錠した保管場所の中で、例えば施錠した倉庫内で普通物の棚と毒劇物の棚を分けて、明確に区分されて保管するなどすればそれでも良いと考えます。ただし、法令や通知に基づく指導は、通常、都道府県の権限による指導になりますので、法令文書で明確に読み切れない解釈については、それぞれの都道府県で確定すべきかと思いますので、ぜひご検討下さい。

【毒物及び劇物取締法(最終改正:平成二七年六月二六日法律第五〇号)】
第二十二条一項
第十一条、第十二条第一項及び第三項、第十六条の二並びに第十七条第二項から第五項までの規定は、毒物劇物営業者、特定毒物研究者及び第一項に規定する者以外の者であって厚生労働省令で定める毒物又は劇物を業務上取り扱うもの(→農業者はここ)について準用する。
第十一条 → 取扱(盗難、紛失、飛散、漏えい、漏出等の防止)
第十二条第一項及び第三項 → 貯蔵(貯蔵する場所に医薬用外毒物・劇物の文字を表示)
第十六条の二 → 事故の際の措置(保健所、警察署、消防機関への届出等)
第十七条第二項から第五項 → 立入検査等
【毒物及び劇物の保管管理について(薬発第三一三号)(昭和五ニ年三月二六日)(厚生省薬務局長通知)】
1 法第十一条一項に定める措置として次の措置が講じられること。
 (1) 毒劇物を貯蔵、陳列等する場所は、その他の物を貯蔵、陳列する場所と明確に区分された毒劇物専用のものとし、かぎをかける設備等のある堅固な施設とすること。
 (2) 貯蔵、陳列等する場所については、盗難防止のため敷地境界線から十分離すか又は一般の人が容易に近づけない措置を講ずること。

 (質問者から追加の連絡)『毒劇物の保管法』について農薬工業会にも問い合わせたところ、農薬工業会としては、田上さんから情報提供をいただいた「各都道府県知事あて厚生省の薬務局長通知」を持って『毒劇物専用のもの』を『専用保管庫』と判断しているようです。田上さんが仰っていたように、最終的には【県の見解】になろうかと思います。

 私が今まで触れた情報の中では、都道府県でこれについて明示した公的な通知やガイダンスは見たことがありません。都道府県の担当者の方は、まず自分の行政区での見解を明らかにして下さい。

 また、「明確」の程度について都道府県によって異なるということですので、広域で営業される企業の方は各都道府県に見解を求めてください。

2018/4


株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載28回)
~はじめて営業利益が出た~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 2012年に会社を設立して5期目の決算で、初めて営業利益が出た(表1)。過去4年間の経営では毎年の営業損失200万円オーバーが続いていた。これまで、この営業損失は農地借上げ事業農の雇用事業、加工施設整備事業、貯蔵庫整備事業などに関わる国・県・町からの補助金を営業外収入として計上してきたので、過去の決算上の黒字が2回、赤字が2回、300万円の株主資本が3期目で純資産を190万円に減らしてしまった。これを5期目で純資産を272万円にまで取り戻せた。しかし、純資産は30万円弱のマイナスである。

  5期目の決算で、何よりも嬉しかったのは、みかん経営のみで32,964円の営業利益を計上出来たことである。5期目でやっと、純資産を272万円にまで取り戻せた。多くの先輩農家からは、「たったそれだけの利益しか出せないのか」と笑われるかもしれませんが、農業生産法人を設立して5年目にして、やっとみかん経営でなんとかやっていけるめどが立った。しかし、そうはいっても施設投資に経費を費やしたため、社長報酬の大半を未払いとし、現金は常に会社に残してきている。

  農業で生計を立てる難しさが、農業経営を実践して初めて理解できた。これでは農業の後継者が残らないのがよくわかる。国・県の関係機関は、常に「農業後継者の育成」と音頭をとるが、生産者が、労賃を含む生産経費を下まわらない販売価格を設定できる農業構造に変えなければ、「農業の持続性」を維持することは困難と考える。農産物の生産者は、生産物の価格を決める権利を事実上持っていない。そして、今も昔も、農業を取り巻く産業界にお金が落ちて、末端の生産者にお金が回ってこない状況にある。

損益計算書
表1 損益計算書

  先日、地元選出の参議員の世耕弘成経済産業大臣の話を聞いた。大臣は、中央の大手企業に対して「口には出せない下請け事業のホンネ」という冊子を示し、「5%カット」などの下請けいじめのようなことのないように指導しているという。これば、下請け事業者の「製造経費の変動に応じた発注を」ということらしい。

  農産物の流通経路は複雑で、対象が不特定多数なので、どこが下請け事業者の製造(生産)原価を評価できるようなシステムにできるのかが難しいが、今の生産から消費に至るまでの構造改革をしていかないと、永遠に農村の荒廃は続くと思われる。

  5期目で黒字化できたのは、流通の改革と生産物の品質向上にあったと思われる。流通面では、製品の品質を確保して損益分岐点の価格を示し、販売の取引交渉に望んできた。品質向上の面では、借地での農園の土作りと、病害虫管理を徹底することで、先輩農家が管理しているみかん園に匹敵する農園にもっていった。ここまでくるのに5年の歳月が必要だったということになる。果樹のような永年作物の場合には、中間管理機構を介して農地を借り受けても、すぐに黒字化するのは困難である。

  著者の体験では、農業委員会が管理する農地銀行(現在の中間管理機構)に託される農園に優良な農地は見つからない。このような現状の元で、新規参入して農業を始めようとするには、ハードルが高すぎるように思う。資本のある企業でさえ、著者が知り得る限り、この5年間で2社が農業生産から撤退もしくは流通事業に主流を置くようになった。

  テレビや雑誌で優良農家を紹介しているのをよく見るが、裏を返せば、零細農業が依然として大多数を占めている中での優良農家のように思える。早く農業の構造と、食品産業の構造を見直し、生産者が生産原価を割らなくても良い価格で販売が出来ないものか、今後も模作していきたい。

2018/1


GAP関連用語の解説
《デファクト・スタンダード》

 de factoとはラテン語で「事実上の」の意味。ISO(国際標準化機構)、DIN(ドイツ工業規格)、JIS(日本工業規格)などの標準化の機関等が定めた規格ではなく、市場における競争により実際に広く採用されている「結果として事実上標準化されている基準」を意味している。逆に、標準化機関などによって定められた規格をデジュリ・スタンダードという。

 メーカーの独自の技術や仕様を使った製品が、マーケットの中で数多く販売され、広く普及することによって、他のメーカーの製品もその規格に対応するようになり、その規格が事実上の標準となったものである。製品がデファクト・スタンダードを確立すると、製品の国際競争力が高まりマーケットが大幅に拡大され、大きな利益が得られることになる。例としては、通信規格のTCP/IP、パソコンのWindows OS、DVDプレーヤーのBlu-ray、メモリーカード市場におけるSDカードなどが挙げられる。

 農産物の農場認証では、アメリカを除く世界中で広く普及しているGLOBALG.A.P.がデファクト・スタンダードになっており、多くの国がこれに従っている。ASEANGAPもCHINAGAPもGLOBALG.A.P.と内容は同じものであり、このデファクト・スタンダードに従ったものになっている。

2018/1


《事務局便り》

 12月に理事会を開催し、今年度の事業を見直すとともに、来年度の事業計画を決定しました。当協会の計画に基づいて(株)エイジックが実施しているGAPのコンサルティング事業やグリーンハーベスター(GH)農場評価システムの普及事業などへ一層力を入れることになり、スタッフも強化しつつあり、来年度はさらにスタッフを強化し、業務を平準化する予定です。

  来年度の目標は、GAP普及ニュースの発行を年4回とし、書籍の出版を強化する予定です。今年度の8月には、グリーンハーベスター(GH)農場評価のためのガイドブックを出版しました。来年度は、懸案である「GAP入門」の改訂版を出版し、「GAP入門セミナー」を開始し、日本で誤解されているGAPの本質と小売りのための農場認証について判りやすく解説する予定です。

 「農業者のためのHACCPセミナー」も、今年の食品衛生法の改正でHACCPが義務化されるのに伴って、テキストの中身を一層充実させる予定です。HACCPシステムは、GAPの前段のリスク評価で採用されており、食品工場などで用いられているISO22000にも用いられています。

2018/1


編集後記

食讃人

 世の中はめまぐるしく変わっています。GAPを巡る状況も大きく変わっています。これらの変化を記憶にとどめるために、毎年年末に「私の選んだ今年の重大ニュース」を選んでいます。人によって「何が重要で、何がそれほどでもない」というのが大きく変わります。マスコミの報じ方や、関心の度合いでも大きく変わりますが、世界は混沌の度合いを深めているように感じています。

 私の選んだ国際版の第1位は、勿論トランプ大統領の就任です。これは、某新聞の読者と同じでした。就任直後にTPPから離脱し、6月にはパリ協定から離脱し、北朝鮮やイスラムと対峙し、様々な騒ぎを起こしましたからこれらを含めても当然でしょう。

 第2位は、北朝鮮が核実験をし、弾道ミサイルを発射し、東アジアや米国などを緊張状態にしていますから、私達にとっても重大であり、これも某新聞の順位と同じでした。

 第3位は、私はイラクのバスラ、シリアのラッカがイラク軍やクルド軍によって完全制圧され、IS(イスラム国)が弱体化したことを挙げましたが、某新聞は18位でした。随分評価が違うものです。離散したISのテロリストが、どこでどのようなテロを起こすのか、大いに危惧されます。イギリスのコンサート会場のテロで多くの死者を出したのも、フィリピンのミンダナオ島で町を占拠し、国軍との戦闘で1200余の死者を出したのもISであり、この事件を第14位に挙げましたが、某新聞では30位以内にも入っていません。読者の評価は随分違っているのを感じました。

 第4位は、中国の共産党大会で承認され、習近平政権が2期目に入りましたが、後継者らしい人はおらず、3期目も狙っているらしいということです。東アジア情勢に大きな影響を及ぼす中国の独裁的になったリーダーですから、私は高く位置付けましたが、某新聞では第17位でした。

 第5位は、ドイツの連邦議会選挙で最大与党が第1党を占め、EUの中心であるメルケル路線が維持されたとして、ほっと一安心しましたが、こういう地味な結果は、某新聞では第30位以内にも入っていませんでした。これは大変残念なことです。

 第6位は、フランス大統領に39歳のマクロン氏が当選と言うものですが、これは某新聞でも同じ第6位に選ばれています。EUの中で長年政権を担ってきたメルケル首相が順位にも入らず、39歳と言う若いマクロン氏が初当選したのを選ぶ読者の認識に驚いてしまいます。反グローバル化の流れに棹差したということでは、メルケル首相も同じように選ばれて欲しいニュースでしたが・・。

 第7位は、スペインのカタルーニャ州の独立問題を挙げました。カタルーニャ州が行った国民投票で独立賛成票が90%になったというもので、これは某新聞でも第19位に選ばれています。この続きがあり、この結果に驚いたスペイン政府は、プチデモン首相を追放し、議会を解散して、今回、スペイン政府が主導したカタルーニャ州議会選挙で、プチデモン氏が当選し、州議会議員の過半数を独立派が占めたことで、一挙に対立が激化し、反グローバル化の流れが巻き戻されたように感じています。スペインの政治的、経済的な混迷が深まりそうで、非常に心配なニュースです。

 第8位は、韓国のパク大統領が罷免され、ムン・ジェイン大統領になったことを挙げましたが、某新聞はパク大統領の罷免だけを第5位に選んでいます。ムン大統領との合わせ技で第8位が適当なところと考えています。韓国大統領は、辞めた後に悲惨な末路を遂げるのが常であり、ムン大統領になっても、反日と告げ口外交は相変わらずであり、不安定な状態には変わりがないので、第8位くらいが適当かと考えていましたが、某新聞では第5位で、まあまあ近い評価かと思います。

 第9位は、金正男氏がマレーシアの空港で暗殺された事件です。某新聞は第3位に挙げていますが、ショックな事件です。ただ世界的に見て第3位に挙げるのは問題かと思います。

 そして第10位は、アメリカが韓国にTHAAD(サード)を配備し、中国が大反発したことです。某新聞では、やっと第30位に位置付けられていますが、実際には、サードは北朝鮮だけではなく、中国・ロシアの軍の動向まで把握されるということで、中ロが強く反発しているということです。

 私が10位以内に選ばず、某新聞が選んでいるものには、第4位に、カズオ・イシグロ氏のノーベル文学賞があります。私は、ICANとの合わせ技でも第15位です。日本が選ばれた訳ではないので、位置付けはこんなものかと考えています。某新聞が第7位に選んでいるのが「英政府がEU離脱を正式に通告した」というものです。これはそれほど大きな事件ではなく、1つの流れにすぎないと考え、私は第20位にしていました。また、第8位はアメリカのラスベガスで銃が乱射され、58人が死亡したというものですが、私は第30位にも入れていません。アメリカという銃社会が生む闇ですが、今年も来年も、また同じような事件が起こるでしょう。そして、某新聞の選んだ第10位は、「メキシコ地震で死者300人」というものです。日本的な感覚では、地震の被害を防ぐには建物の耐震強度を高めることが必要ですが、途上国ではそうもいかないことが被害を大きくしています。地震も必ず起こる天災であり、大被害を出さない対策が必要になります。

 と言うことで、第1位、第2位は、私と某新聞と同じトップニュースでしたが、これらは日本国民にとっての最大のニュースであったといえます。以下、第10位までに同じニュースが入ったのは4件で、あとの4件は見解が大きく分かれました。皆さんはどうでしょうか。

2018/1