-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 54号

《巻頭言》
『標準化-食のビジネス・エコシステムに向けて』

二宮正士 東京大学農学生命科学研究科

 今、ビジネスや研究の世界では、データに関わる「標準化」の議論が盛んです。標準化は、何もデータだけの話ではありません。最も典型的な例は、私達の使っている「言語」であり、言語があるからこそ、私達は他の人と意思疎通をすることができます。スーパーで売られている食品用のパッケージには、決められた形式に沿った品質表示があるからこそ、記述の範囲ではありますが、その内容を客観的に知ることができます。これも標準化の例です。いまさら当たり前ですが、「標準化」は社会における情報の流通を加速し、客観性や説明力を向上することにより相互の理解や信頼を確立するとともに、効率化やコストダウンを図るための基盤ということになるわけです。

 そのような視点で見れば、『GAP規範』も持続的農業生産を実現するためのリスク管理の作法を共通的に認識できるように記述した「標準」そのものであり、環境保全、食の安全、労働安全、動物福祉の担保に関して、相互に信頼性を共有するための共通言語と見ることができます。食の生産・流通・加工・消費が相互に関連し合う食のビジネス・エコシステム(以下、「食のエコシステム」という)を考える時、必要になるのはGAPやHACCPといったリスク管理に関わる「標準」があり、そればかりではなく、トレーサビリティに代表されるデータの共有とデータの流通に関わるものなど、様々な領域や階層での標準化が、その実現に必須になります。

 ドイツで提唱された「インダストリー4.0」は、従来の大規模化による効率化ではなく、小規模で分散するビジネスユニットを、必要に応じて臨機応変に組み合わせて、大規模化をも凌駕する効率化をはかろうとする考えです。そこでは、大規模化では不可能だったオンデマンド型でパーソナライズされた製品やサービスをタイムリーに提供することを目指しています。私は、一部の流通やメーカーを除いて、多くは小規模な食関連プレヤーにとって、日本での「食のエコシステム」の確立に、「インダストリー4.0」はまさにぴったりであると思っています。

 また、日本の多様で豊かな地域食材とそれにともなう多様な文化を将来にわたり支えるためにも、「インダストリー4.0」の発想はもってこいです。それを可能にするのは、IoTやクラウド、AIといった情報技術ですが、その実現には基盤としての様々な標準化が絶対的に必須です。

 現在、国の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(ITの総合戦略本部)の主導で、様々な標準化の議論が行われています。農業関係でも、総務省や農水省が環境データや圃場データを標準化するためのガイドラインが公表されました。そのような動きは歓迎すべきですが、そのような動きの中で、とても気になるのが、「標準のガラパゴス化」です。グローバル化で世界がつながる中で、日本だけの標準化はあり得ません。上記のガイドラインに限っても、標準化の恩恵を受けるべきセンサーメーカーや温室メーカー、機械メーカー、農業ソフトメーカー、商社などが、限りある日本のマーケットから世界に出て行くために、「ローカルな標準化」ではとても困るはずです。

 米国に始まり世界にメンバーが広がりつつある民間団体AgGateway(http://www.aggateway.org/)は、全く逆のプロセスで農業に関わるデータ流通の効率化を図ろうとしています。AgGatewayは、データの流通を図りたいメンバー(企業)の間を繋ぎ、それにより効率化できると判断したメンバーは、とりあえず必要なものをボトムアップで実装してくという極めて現実的な方法をとっています。このようなボトムアップのやり方では、企業ドメイン毎の部分的標準化が進んでしまい、目指す「食のエコシステム」を実現する障害になるという意見も理解できないことではありません。また、トップダウンの大きなデザインを否定するものではありません。

 しかし、本当に使える実装を考えれば、現実的なのはボトムアップによるアプローチしかないように思えますし、複数の標準をシームレス化する作業の方が、最初から全てをトップダウンで設計するより効率が良いと思います。

 AgGatewayの例では、使えるものは何でも利用しようとする柔軟さを持っており、日本でガイドライン化されている標準でも受け入れられる可能性もあります。そうして貰うためには、もともと世界を意識した標準化のガイドラインである必要がありますし、常にそれを世界に説明する努力が必要になります。

 欧州でビジネス・エコシステムの基盤構築をめざすFIspace(https://www.fispace.eu/)プロジェクトもEU政府主導で始まりましたが、AgGatewayのメンバーになり、現実的なすりあわせを行おうとしているようです。

 ビデオの「ベータ」やコンピュータのTRON、最近では携帯電話のいわゆる「ガラケー」のように、最良と信じる技術が、常に世界の標準になるわけではありません。2020年の東京オリ・パラでの食材問題のように、世界標準を忘れたガラパゴス化で、最後に困るのは自分達です.当たり前のことですが、標準化の議論でも、世界で認められ、生き延びるためには、これまでの経験に大いに学ぶ必要があります。

2017/7


《連載第6回》 『スペインには、日本でのGAP推進のヒントがいっぱい!』
アルメリアの農業経営「マネジメントとコントロール」に学ぶ

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

農業マネジメントと農場コントロール

 欧州では、EU共通農業政策(CAP)の持続可能な農業の推進のための補助金支払い(グリーニング)の評価規準として「GAP規範」が考慮されています。また、スーパーマーケット・チェーンでは、農業法人や農協(Agricultural cooperative)などのサプライヤーに対してGLOBALG.A.P.、BRC、IFSなどの民間の食品安全基準認証を取得することを要求し、その要求事項は、世界の食品業界(GFSI)のグローバルな広がりとなっています。

 そのため、アルメリアの農業者が目指すGAP(Good agricultural practice、適正農業管理)は、「環境配慮要件」(Cross compliance)の補助金につながる法令遵守(Compliance)と、農産物販売の信頼確保につながる農場認証(Farm assurance)で支えられています。その意味でGAPとは、農業管理(Farm management)と農場統制(Quality control)の良好な実践のことです。

 農業管理と農場統制の良好な実践は、目指すべき農業経営そのものです。したがってアルメリアでは、農業経営体(農家、農業法人)でも農協(および出荷組合)でも、GAPは農業経営のトップ層が深く関与する重要なマネジメントの課題です。農業経営体および経営体を統括する農協などの全ての経営資源である「農地、農業者、施設、資金、情報」を管理するマネジメントの役割は、組織の目的を達成するために経営効果(利潤)を最適化することにあるのです。したがって農家は、儲かる農協に結集することになります。それが力となってアルメリアの農協は、農産物の取扱い量が拡大しているのです。

農協組織による農場の統括管理

 GAPの広義の概念である農業経営が、P・D・C・A(Plan・Do・Check・Action)サイクルで効果的にマネジメントされるためには、法令遵守はもちろんのこと、農場の統制の質として、規範や規準、目標、ルールなどと、農場の実践にズレが起こらないよう、ちょうど良い具合に制御・調節・統制をすることが必要です。つまり、狭義の概念では、GAPの実践は、統制の質を高めることです。アルメリアでは、アンダルシア州のGAP規範やGLOBALG.A.P.認証のIFA(チェックリスト)、自ら策定した農場内の様々なルールなどの要求事項に従うことが管理、統制の主な内容です。

 アルメリアの農業法人や農協などによるGAPへの取組みで特に重要なことは、形式的なチェックリストではなく、自分達の農場およびその経営で「予防原則」をとることです。即ち、

  1. 農場に潜むリスクを検討し最善の対策を決める。
  2. 起こり得る不適合をなくすための予防的措置を実施する。
  3. 発生したあらゆる不適合を分析して原因を究明する。
  4. 適切な再発防止のための取組みを行う、ことなどです。

 これらのP・D・C・Aサイクルは、農家で完結するものだけではなく、農業経営体を束ねて統括している農協が、傘下の経営体全体を含めた「農産物生産販売会社」としての全体の経営管理として実施されているのです。

営農指導と農場統制

農業のマネジメント農場のコントロール

 農協に所属する農業技術員(テクニコ)による各農場のリスク評価と営農指導に基づいて高レベルの統制(QMS)が行われている結果として、農協組織全体の農業経営管理サイクルが確実に回っていくのです。

 傘下の農家は、農協という農産物生産販売会社の製造ラインとして、組織目標に沿うべく規範、規則、手順に従って、それらから逸脱しないように、逸脱したら元に戻るように、農業者の行動・動作をコントロールして農業生産活動を行います。

 農業生産活動の情報は、必要なポイントで農協組織全体のP・D・C・Aに組み込まれ、個々の農家の活動に回復不可能な逸脱があれば、組織全体のチェック(C)で確認される仕組み(情報システム)になっています。農業技術員は、農家の統制の水準を確認し、その適正度を評価・判定します。その結果、例えば農産物品質に関わる不適合が確認されれば、選果場の荷受け口で、投入拒否などの適切な措置がとれるのです。

信頼確保のための第三者認証

 GLOBALG.A.P.などの国際規格のGAP認証の審査員でも基本的に同じことを要求しています。農業技術員による指導・評価や民間認証の検査・監査の基本は、「GAP規範」と当事者によるリスク評価に基づく農場統制の妥当性です。評価や監査の対象としては、農業経営方針として環境宣言や人権配慮、食品安全についての方針などがあるかどうか、それらを実現する管理システムが妥当かどうかなど、農業管理の状況にも言及します。具体的には、農場統制が適切に行われ、国際規格の農業管理が行われているか、つまり、世界的な要望事項である持続可能な農業経営を行う企業であることが証明できるかどうかが問われているということです。

 アルメリアの農協などの認証への取組みから学ぶことは、GAP認証制度は、健全な農業であることを消費者や取引先企業に説明するための手段だということです。

 日本が国際レベルのGAPを目指すためには、農業の質的レベルを国際標準にすることが重要であり、そうなれば、結果としてGLOBALG.A.P.認証が増えることになります。そもそもGAP認証は、グローバル化の申し子です。分かりきったことですが、原因と結果を取り違えてはいけません。日本のGAP認証制度が発展し、海外に進出することは大切なことではありません。日本の農業経営体をより強固なものにするために、農業組織の管理の内容と、農場コントロールの質的レベルを向上させて、消費者からの信頼を取り戻し、国内における日本農業の信頼度を高め、結果として日本農業の国際的な評価を上げることが重要なことなのです。

2017/7


2017年度シンポジウム・セミナー等の予定

 2017年7月以降の各種セミナー等についてのスケジュール(予定)です。

 2017年度GAPシンポジウムやスペイン研修ツアー等と併せて、奮ってご参加下さい。

 グリーンハーベスター農場評価制度(「GH評価制度」)では、GAPの理解と普及のための教育システムとして、農業者、農業指導員等によるGAPの自主管理を推奨しています。

なお、GAPシンポジウムと先進地ツアーは、前号の案内とは日程が変更されています。

シンポジウム・セミナー等開催期日開催場所・定員・参加料
『GAP実践セミナー』 2017年
7月26日(木)-27日(金)
10月25日(木)-26日(金)

場所:文部科学省研究交流センター(茨城県つくば市竹園2-20-5)
定員:25名  参加料:27,000円(税込)、(当協会会員19,440円)

『農場実地トレーニング』 2017年
8月30日(木)-31日(金)
11月29日(木)-30日(金)

場所:文部科学省研究交流センター(茨城県つくば市竹園2-20-5)
定員:25名  参加料:27,000円(税込)、(当協会会員19,440円)

『農業者のためのHACCPセミナー』 2017年
9月27日(木) -28日(金)

場所:文部科学省研究交流センター(茨城県つくば市竹園2-20-5)
定員:30名  参加料:32,000円(税込)、(当協会会員23,000円)

『GAPシンポジウム』 2018年(2017年度)
3月5日(月)~6日(火)

場所:東京大学農学部弥生講堂一条ホール(東京都文京区弥生1-1-1)
参加料:主催・共催会員10,000円、一般15,000円、学生2,000円

『世界のGAP先進地スペイン研修ツアー』 2017年
11月19日(日)~27日(月)

スペイン・アルメリア州、カタルーニャ州
定員:25名  参加料:未定

2016年度 GAPシンポジウムのテーマと開催趣旨

 今回のGAPシンポジウム(2月9~10日)のテーマは『GAP実践と農産物バリューチェーン』であり、開催の趣旨は、以下のようなものです。

 世界共通の課題である「持続可能な社会づくり」は、農業の価値観をも変えることになり、グローバル社会で期待される農産物の品質も変化しています。EUの夏野菜の生産基地であるスペイン・アルメリアの農業関係者は、これまでの「姿かたち、味、鮮度」に加えて、「農産物の特性、フードセーフティー、生産方法、トレーサビリティ、環境への取組み、社会的責任などの認証」が重要な要素であると考えています。そのために行うことは、生産者に対するGAP教育と、生産組織によるGAP農場の統一的管理です。農協では、最終の利益を増大させるという目標に向けて努力をしています。生産現場を含めた全体を統合的に管理する「農産物バリューチェーン」を構築し、家族経営の枠を超えた組織として、一貫したコスト計算や、作業の機能配分の合理化などにより、「農業分野における最終利益を増大させる」ことを目標にしています。アルメリアと同じように、零細農家がほとんどの日本の農業経営体が、どうすれば農産物バリューチェーンを構築できるのか、先進事例に学び、実現の手法について議論を深めます。

2017/7


『GAPシンポジウム2日目のパネルディスカッションの記録』

 今回のシンポジウムでは、興味ある報告が多数ありましたが、紙面の都合上、ここでは2日目のパネルディスカッションの概要のみに留めます。パネルディスカッションは、会場からいただいた2日目の演者に対する質問用紙による質問への回答を中心に進められました。 登壇していただいた方々は次の通りです。

田上隆一(司会)(日本生産者GAP協会・理事長)
菊池克利(栃木県農政部経営技術課)
松浦勇生(岐阜県農業会議)
菅江弘子(福井県農林総合事務所農業経営支援部)
佐野英敏(静岡県温室農業協同組合クラウンメロン支所)
田上隆多(日本生産者GAP協会・事務局長)
登壇者
生産者にやる気を出してもらってGAPに取り組んでもらうための工夫

<司会> 生産者組織にGAPに取り組んで貰うために、GAPの意味や意義を説明していますが、実際に生産者にやる気を出して貰うのは難しいものです。そんなときの工夫について教えて頂きたい。

〇先ずは、県の事業を使って、現場の普及員やJA職員等により生産者に対して「やってみませんか」というところから進めています。「高く売れるかどうかも分からない」「面倒くさい」ということもあるのですが、まずはやってみて、つまらなかったらその取組みは「その産地には合わないのかな」ということになります。

〇わが県でも、モデル農場の育成ということで、長年GAPに取り組んできたわけですが、なかなか理解をいただけません。一旦は取り組んでいただけても、「定着していかない」というようなことがあります。私もどうしたらよいか悩んできたところですが、今はリーダー的農家の方が自ら「やっていこうじゃないか」ということで、いろいろなところで声掛けをしていただいています。やはり、リーダーとなる方が、「これって、やらなあかんのやで」と伝えていってもらうことが一番てっとり早いかなという認識でいます。

ビジネスとのつながりは

〇GAPの実践が売上げに直結するといった感じではなく、例えば、農薬や肥料などの在庫管理ができるということで、「コストの低減につながる」といった意見などがありました。

GAPに対する買い手側からの反応

<司会> GH農場評価の中で、「物事が道理に従ってちゃんと片付けられたか」「危険につながる在庫がどれだけあるか」というのは重要な管理上の要件になります。そうした取組みに対して、買い手側からの反応というのは何かありましたか。

〇それが取引条件の中でプラスになったということはありませんが、GAPの勉強でいろんな方に声掛けをすると、意外にも肥料屋さんとか、農薬メーカーの方とか、コメの卸さんとかが来て貰えます。注目度が高まっているのではないかと思っています。

<司会> ということは、日常の話の中で、あるといえばありですね。GAPがこんなに話題になっていますけれど、世界の潮流はビジネス上の買い手側が生産者にGAPを要求して始めて広がっていくものであり、日本ではまだまだという状況の中で、今回のオリンピック・パラリンピックというものをきっかけに、「そうなるべきだね」という動きが出始めたのではないかなという感じですね。

普及員やJA営農指導員によるGH評価員の資格取得

<司会> T県では、GH評価員はJA職員一人となっていますが、これから研修を受けた普及員(300人以上)がGH評価員の資格を取得する方向で考えていますでしょうか。

〇わが県では、平成28年から評価員養成講座を3日間開催し、「3日間受講した方は受験してもらう」となっていますが、受験費用の予算化がうまくいかず、基本的には自主的に受けていただくというのが、今年と来年の状況です。

<司会> この件について、GAP指導者養成講座を受けている県の受講者数に対して、GH評価員資格試験の受験者数あるいは合格者数が比例していないのですが、概況を教えていただけませんでしょうか。

〇GAP指導者養成講座は2008年から始まって、全国に広がっています。予算を確保する問題も多分にあろうかと思います。その他に、指導者養成講座の次のステップに行くということで、評価の技量を高めることを決断した県が普及員を中心に動き始めています。

農家へのGAP推進方策

<司会> Sさんに、JAの営農指導員の指導員養成や評価員資格の取得も推進しているとのことですが、地域のJAの組合員さんへの普及・推進はどのような形で実施していますか。あるいは今後どのようなことを期待していますか。

〇営農指導員は、農業者の会であったり、野菜関係の生産部会であったり、稲作関係の会であったり、いろんな組織を持っていますので、そちらの方で推進を図っていただくという形で進めています。まだ具体的には進んでいませんが、「現在研修をしている」というところはいくつか出てきています。

<司会> 進する側がやりたい人に広げていくというのもいいんじゃないかと思いますが、その点についてはどうですか。

〇最初にもお話したのですが、やはりやる気のある人でないと「なかなか着いて来られない」「定着しない」といったようなことが、長年指導してきて分かってきたことです。今は、若い人にやる気のある人が出てきており、優先して指導していきたいと思っています。

<司会> T県は、県主導で「農家のために」ということで一生懸命推進しておられますが、何か感想、あるいは今後の推進などについてお考えがありましたらよろしく。

〇いろんなところでGAPの推進を図っているのですが、今のところ、JAさんとか生産部会を通してやってきましたので、なかなか組織内の合意が得られません。そこで、来年度以降については、やり方を変えてみてはどうかと考えています。要は、生産法人とか、農業法人といったところにもアプローチをかけていこうと思っています。

<司会> そういう点で、実際のGAP認証というのは、何度も申し上げているように、取引上の要件とされているわけで、農業振興という大きな枠よりは、農産物取引の個別具体的な課題ということになります。これを何とかしないとGAP認証はスタートしません。これについて、農業会議の方では何かお考えがありませんか。

〇GAPについての特別の周知とか普及活動はあまりしていません。どちらかというと、いろんな話をする中で、GAPに近いことが出てくると、「それならやりませんか」とか、やる気のある人のところでは「もうやっていますよ」「こんなことしましたよ」とか、とっつきにくい形ではなくて、面白そうな形で話をしています。こうやって、やりたい人とか、興味を持った人を、うまく一緒に仲間に入れていくみたいな感じでやっています。

<司会> 個別具体的に、そういう繋がりがあったら、マッチングさせていくということですかね。有難うございました。

農家へのGLOBALG.A.P.取得の推進

<司会> 次に、Sさんのご発表の中身に関わるのですが、GLOBALG.A.P.取得ができるような農場を育成していくということで、平成29年から「毎年6経営体を育成する」となっています。これは国の政策があって、その方向に進むということだと思うのですが、実際の感触としてそれはできると思いますか。あるいはそんなものではなくても、幾らでもできるとお思いなのか。現場は一生懸命やっているけれどもまだまだという反応もあるでしょう。こうした中でGAPを進めていく担当者として、どう予測し、その中では何が重要なのか、その所でのお考えをお持ちでしたらお聞かせいただけますか。

〇私自身は、GLOBALG.A.P.認証までは難しいなという印象を持っています。ただ、国の支援事業で補助もかなり出ているという中で、JGAPを受けようかなという方がちらほら出てきています。しかし、毎年GAP認証を更新していくということに関しては、経営者の考えが左右するのかなということを感じています。また、輸出を考えている方につきましては、GLOBALG.A.P.認証もあるのかなと思っています。

<司会> Kさん、国は閣議で決定してまでGLOBALG.A.P.を推奨しています。閣議で決定したから農林水産省が動き出したといってもいいかもしれません。そこにオリンピック・パラリンピック組織委員会から「世界に通用するものにして欲しい」という要望がありました。しかし、現場はそこまでいっていません。つまり、日本の青果物・穀物あるいは畜産物の流通において、GAP認証が求められているという実態にはまだなっていません。しかし、国は「国際的になる」と言っており、それを実践する都道府県には「やりなさい」と言っています。そのことについて、どんな風にお考えなのかぜひお聞かせください。

〇当県は、あくまでも昨年策定した推進方針に基づいて、GAP認証の普及をこれから5年間で進めていきます。その中にGLOBALG.A.P.認証の取得支援という文言を入れさせて頂いていますので、県全体としては、そちらの方向に進むとは言えます。

 しかし、現場としては、約6割が系統出荷ですので、実際の取引で、市場からは認証を求められていない現状で、どうやって進めていくのかということです。

〇「隣のI県、G県が始めたよ」ということになれば、多分現場の方が動き出すのかなと思っています。そうは言っても、事前に準備はしておかなければならないので、指導者の養成と支援ができる体制、最低でもGH農場評価で700ポイントは取れるような実力をつけたいと思っています。認証取得の波がもっと早く来た場合には、スピード感を持ってやらなくてはならないとは思っていますが、現状では、今申し上げたような課題に向けてやっていきたいと思っております。

<司会> S県としては、今の課題はいかがですか。国からのGLOBALG.A.P.の要請があり、そして実際の現場があり、それから、これからの我が国の食品流通関係の事情の中で、この課題をどのようにお考えなのか、教えていただければと思います。

〇(会場から)当県はGH評価制度を勉強させて頂いています。事務系職員も含めて普及職員達は、例のチェックリストをベースにできているかいないかを見て現状確認をするという制度を昨年10月から始めました。基本的にはGLOBALG.A.P.で、JGAPはあまり進めてはいませんが、GLOBALG.A.P.を取ることへの支援であろうとのことです。農家がしっかりGAPを実践していれば、GLOBALG.A.P.をベースにSGAP(S県ローカルGAP)というものを作っていますので、これをしっかりやって頂くことによって、将来GLOBALG.A.P.を取りたいという人が現れたら、それはプラスしてやって頂ければよいと考えていて、実際そういう農家さんが現れてきているということです。

<司会> I県はどうでしょうか。

〇(会場から)一普及員ですので、詳しいところまでは分かりませんが、私の知っている情報として提供させて貰います。当県では、田上先生にご指導を頂き、GH評価員資格というものを普及員とJAの営農指導員が取っています。また、全農の方でも、今後認証型GAPを取っていこうということで、県の方と協力して連絡会みたいなものを設け、今後県内のモデルJAを決め、その中で認証型のGAP取得をどんどん増やしていくことを狙っているところです。

<司会> 県がご苦労する一番のところが、今のような所ではないかなと思います。ビジネス自体がそうなっていないにもかかわらず、国家的要請として「こうあるべきだ」ということですね。その方向としては大方の人が納得できるでしょうが、しかし、それを「どうやって実現していくのか」というのがなかなか大変なところだろうと思います。方向さえ間違っていなければ、皆でやっていくべきところかもしれませんが、やり方にもいろいろあることも付け加えるべきかもしれません。

GH農場評価で協会に求めること

<司会> 先ほどのSさんの発表で、まずは導入部分で「簡易版」というのをやられていました。GH農場評価の評価項目として書かれている文面だけでは判らない所が多いという発言がありましたが、項目の中身を判りやすくするために、協会に何か求めることはありますか。

〇講演の最後の方で触れたのですが、GH評価の各項目に直結した形で、手引書みたいなものがあると非常に指導しやすいなということをつくづく感じていまして、今そういったものを検討中だということをお聞きしましたので、早く発行していただくと大変有難いと思います。

〇(協会)GH農場評価規準は、あくまでも評価員が使うツールとして開発してきました。しっかりした評価をして貰うためにGH評価員試験をやっていますが、実際に評価規準を使う側から今のようなご意見があったものと思います。現在、「農場評価ガイドブック」という形で、協会の評価委員会の中で、作成をしているところです。今年度中に一通りの形ができればいいなという段階であります。形ができた段階で皆様に公開できればと思っています。(注:今夏発行予定)

農業会議所における県、JAとの連携方法

<司会> 農業会議所の稲作経営者会議では、GH評価などで、県の普及指導員やJAの営農指導員との教育連携などを行っているという話がありました。それは具体的にどのようになっていますか。

〇まだチームというような段階であり、システムにはなっていません。GH農場評価を受けたいとか、勉強したいという会員さんのところで、学びの場をセッティングしています。その時には、県のGAPの担当者にも連絡して、そこから現地の普及員の方にも連絡して貰い、普及員さんからの繋がりで営農指導員さんにも声をかけて貰って、なるべく理解者というか、仲間を増やしてやっていこうとしています。

JA中央会としての動き

<司会> どこの県でも、行政は自らがやるわけではなく、リードできるのは農協とか、農業会議所とかいろいろあります。実際に動いている例を知っているのですが、N県の中央会さん、行政との連携、あるいは中央会としての取組みなどについて、ご意見をお聞かせ頂ければと思います。

〇(会場から)中央会のJAグループの考え方と致しましては、今日も各演者がお話しされましたように、「認証ありき」ではないという考え方です。要するに、認証を受けられる予備軍をいっぱい作ることが、新潟県全体の安全リスクの低減に寄与するという考え方でやろうと考えています。

<司会> 有難うございました。一般的に、国は「なかなか県が動いてくれない」、県は「農協さんはなかなかやってくれないんだよね」と、農協は「組合員が動かないんだよ」と、こういう話をよく聞くのですが、大体構造的にはそのようになっているようです。実際にGAPをやりたいという意識の高い農家もいますので、ここを行政がリードすればうまくいくのですが、なかなか難しい問題もありそうです。

JAが地域の集落営農法人の複数をまとめてGLOBALG.A.P.認証を取得する動き

<司会> 会場に、S県のJAのTACで大活躍しているWさんがおられるはずなので、ご活躍の状況をちょっとご披露いただけるとありがたいのですが・・・。それから、連合会や県などの連携も併せてお聞かせいただけると有難いです。

〇(会場から)当県の場合は、集落営農が盛んで、そこで法人の組織化が進んでいます。当管内は、地域が結構広くて、150程の法人が活動しています。その中で、繋がりのある狭い地域を考えた場合、法人経営の連携が必要になってくるだろうということで、Oという地域でやっています。連携していく上で一番大切なことは、「考え方を揃える必要がある」ということです。一緒に作業するのは良いのですが、作業した結果、労働事故が起こったり、法人の中ではきちんと記録する所やしない所があったり、作業を委託した先で、農産物に農薬残留が出ると、地域を巻き込んだ大きな問題になってしまいます。そこで、GAPというものを提唱し、田上理事長の協力を得て、GH農場評価についての講義から進めていきました。現在は、GLOBALG.A.P.の認証取得に向けて取り組んでおり、3月に認証取得の本審査となっていますが、補助金の関係もあり、取得時期が延びるかもしれません。今そのような状態で活動させていただいております。

 これは個人的な感想なのですが、近畿自体がGAPの取組みに対して、今一盛り上がりがありません。県はどちらかというと、集落営農法人の経営分析とか、営農の問題点の指導をしていくというような話はできるので、そういうことをきっかけとして、GH評価を続けていけたらなというようなことを今日のシンポジウムで感じました。県もJAも、農家さんからつつかれたりすると、やらざるを得ません。そこで、一番問題だと思っていることは、いわゆるマンパワーです。普及員や営農指導員が年々減っている中で、それをやりだすと、普通の業務がなかなか困難になっていくという現状が目の前に見えています。こういう取組みは、どっぷりと組織に関わらないと、なかなか効果的な指導ができないので、そこらへんが一番悩みです。

<司会> 突然の指名でしたけれども、有難うございました。

 GLOBALG.A.P.の要請が来たことに対して、「何か良い案はありませんか」ということですが、すでにこういう形で、「もう間もなくGLOBALG.A.P.認証の取得という状況まで来ています」という事例を紹介して頂きました。本当によかったと思います。

GAP担当者の人事異動に伴う指導レベルの変化と組織としての対応

<司会> GAP担当の行政の皆さんは頑張っていますが、人事異動で担当者が変わりますし、そうすると指導のレベルが変わることもあります。T県のKさん、こうした場合、どうしますか。

〇当県では、平成20年から指導者養成を続けています。ですから人事異動または県の普及指導員が新たに採用された場合は、1年目もしくは2年目には指導者養成の講座を受けて貰うようにしています。農協についても、GAP指導者養成講座を受けていない場合は、極力出て貰うようにお願いをしており、人事のところは何とか対応しているつもりです。

<司会> Sさんはどうですか。担当が長いと思いますが、いろいろおやりになられていますよね。

〇F県では、やはり偏ったところがあって、GAPに関わる人とそうではない人のギャップが結構あるような感じがしています。資格の方も、去年から県全体での取組みが始まりましたので、県庁の方に「全員取れ」という勢いでやって貰うと、どこにいても指導ができる体制が取れるのではないかなと感じています。

農産物の海外輸出とGAP

<司会> 行政関係の質問が集中していましたが、クラウンメロン支所のSさんお願いします。インドネシアの輸出の予定はその後どうなっていますか。

〇結局、インドネシアには輸出できないということで、そのまま据え置きになっています。その間、香港とドバイから注文があり、そちらの方に輸出していくようにしています。

<司会> 昨日講演された(株)みずほジャパンさんと、タッグを組むと良いと思いますがどうですか。

〇昨日も交流会で話をしましたが、タイは輸出禁止になりそうなので、入ることはできないようです。

<司会> なかなか様々な要因がありまして、そこのところは単に「GAPは輸出のパスポート」なんて言われた時代がありましたが、必ずしもそういうものではないということですね。

内部検査員、内部監査員

<司会> まだあります。内部監査員、内部検査員は何人いますか。

〇北部、中央、南部と3ブロックあるのですが、各ブロックに2名ずつ内部検査員がいて、それとは別に、内部監査員が2名います。ですから、合計8名ということになります。内部検査員でHACCPトレーニングをまだ受講していない人が3名いるので、受講している3名をチェックリストの記入の方に回ってもらって、あとの3名は一緒について回ってもらうことにしています。

生産履歴の記録方法

<司会> もう一つ、生産履歴は紙ベースでやっているのですか。もしそうだとすれば、これからコンピュータ活用のことは考えていますか。

〇自分が農作業をやっているときに、パソコンを使うということは、例えば、消毒をやっている時にパソコンに入力するということは、すごく面倒なことです。私のところでは、農薬庫の中に栽培履歴を全部貼ってあります。「農薬を使ったらすぐ書く」ということです。栽培履歴は汚くなりますけれども、それが本当の姿だと私は思っています。

これから認証取得しようとする人に対するアドバイス。

<司会> これから認証を取得しようとする人に、アドバイスを一言いただけますか。

 〇今年も若者を6名誘ったのですが、その内、結局残ったのは1名でした。元々の信頼関係もありますので「とにかく一緒にメロンを作り続けようよ」「そのためにはGAPが必要だよ」という思いだけでやっています。

欧州やアジアにおけるGAP思想の浸透

<司会> 自由主義経済でグローバル化が進んでいるイメージの欧州で、もちろん国により違いがあると思いますが、自然環境や農業環境を重視する考えや、GAPの思想、いわゆる本来のGAPの取組みが浸透しているのでしょうか。もう一つは、日本から輸出が始まっている東南アジアはどうでしょうか。

 昨日発表させて頂きましたスペインのカタロニア州農林大臣の最も印象的だった言葉は、「私どもの農業由来の環境汚染に対する努力がまだ30%足りません」と言っていたことです。これは、「畜産から出た糞尿を自国の農産物生産で利用できる量が耕作面積で3割足りない。これを達成しなければならない」という使命感を持っているのです。そのことに対する施策がGAPということなのです。

 この点で、日本の農業政策を見ると、環境保全型であったり、循環型農業だったりしても、その目標というものがありません。それが欧州に行くと、政策が明確です。それと、もう一つ日本と違うのは、農業施策はEUから出てくる支払いで行われているということです。農業政策で環境に良いことをしていれば、「これは市場原理では回収できない財産ですから、環境直接支払いとしてEU市民の税金で賄います」という市民のコンセンサスがあるからです。それに対しては「国としての規制がある」ということです。

 日本の場合には、これに関して法制化されているものがありませんから、「頑張ろうね」と皆さんに言われるだけです。それに対してEUは、例えば「硝酸指令」「作物保護指令」「水枠組み指令」などの法規制があります。こういったもので「何をどれだけにするのか」ということが決まっていて、それが明確な法規制になっていますから、「それに合っているのか、合っていないのか」ということで、農業・環境政策として充分にできるのです。このことがEUの農民に浸透しているので、農民はあまり細かいことを考えていません。結局、「生産者は補助金があるからGAPをやるんだよ」という表現もありますが、「それをやることは環境にとって大切だ」ということは染み通っています。染み通っているからこそ、EU市民もそれを了解しているのです。

 「了解はするけど、本当にどうなのかな」ということが心配で、実はあるジャーナリストは、「どこの国の誰さんに対して、何年何月何日に何に対してどれだけEUが支払ったのか」という情報をデータベースにしてインターネットで公開して、誰でも見ることができるようになっています。欧州はここまで来ているのです。そうすると、「あの人は3000万円もらっている」「なのにあいつは悪いことをやっている」という電話をかける人がいるんだそうです。そうすると、全体で1%の査察を実施しているというけれども、やばいところにはすぐ査察に行って、そこには返金させる・・というような政策になって、結構厳しい話ですね。でも、そういうことがあって、地球環境の保全へのEUの貢献があるわけで、日本がGAPをどうするかということは、国にも考えてもらわなければならない重大な話だと思います。だからこそ、買い手であるスーパー業界も「GAPをやらない農場からは買わないよ」というような大義が通るわけです。

 もう一つの大義は、欧州は、「農産物生産の最低規格、即ちGLOBALG.A.P.を持っていない所からは輸入を受けませんよ」と言っています。「輸入を受けない」と厳しいことを言っても、欧州に輸出する途上国は、為替レートが安いから、採算が合うので輸出してくるのです。タイの人達は、「GLOBALG.A.P.は食品安全じゃないよ、環境保全とかIPMをいっているんだよ」と知っています。「途上国の経済だけでは守れない環境をGAP認証で守っているのです」という大義が通っているんです。

 こういうグローバルでダイナミックな社会の中での挑戦ということですから、GLOBALG.A.P.はスタンダードになったんだろうと私は思っています。

 彼らはいつもそのことを言いますね。自信を持って言います。商売上の話、取引の要件としての話だけでなく、大きな社会のシステムの中で捉えると、ちゃんと働いているなという感じもします。日本では、今までそういうものが要求されてこなかったけれど、そういう考えを理解した上で、「自分の地域の農業の発展のためにはどうあるべきか」ということを考えるのが良いのではないかと思います。その点では、東南アジアは圧倒的に進んでいます。日本ではカルフールも撤退しています。アメリカのスーパーもちゃんと入れません。ところがアジアにはどんどん入っています。カルフールも来るし、テスコもウォルマートも来ます。テスコが入ると、GLOBALG.A.P.はどんどん減ります。テスコが進出すると、GLOBALG.A.P.は最低基準ですから、そんな規準ではテスコは喜んでは買わない。だから、テスコが要求している「ネイチャーズチョイス(テスコのGAP規格)」を取るようになります。ますます西洋的な仕組みになっていくのですが、いわば国際規格が進むということになります。このことに我々も気付いていかなければいけません。今、工業製品も日本から去ってアジアにシフトしているように、農業の理念や仕組みまでも、そうなってしまっているようです。そういうことをちゃんと考えないと、日本のグローバル化も、国内の農業をどうするかということも、解決がつかないんじゃないかなと思います。

ASEANのGAP事情

<司会> この質問で、当協会の常務理事で、1年の3分の1位はフィリピンやタイで食品関係の仕事をしている石谷さんにお聞きしたいと思います。

〇タイでは、90年代に市場で販売する青果物を農薬に漬けると長持ちするというようなことが言われ、酷い農薬汚染により健康被害が多発したようです。それでタイ政府が1997年頃、QGAPというGAP規準を作って一生懸命指導し、今では生産者のQGAPの普及率が80%近くまでなっています。タイに行かれると、野菜などの包装の表面にQGAPのマークが入っており、ほとんどがQGAPです。その他には、有機認証とGLOBALG.A.P.ですが、タイの中ではGLOBALG.A.P.はあまり普及しませんでした。タイは青果物を欧米や日本、アセアン諸国に輸出していますから、欧州への輸出農産物はTESCOグレードですね。ほとんど有機に近いような、非常に厳しい審査をパスして青果物を輸出しています。ある農産物輸出会社は、欧州やアメリカや、日本へもたくさんの農産物を輸出しています。

 ASEANは、オーストラリアの指導で、ASEANGAPというのを作りました。これは、GLOBALG.A.P.とほとんど同じですが、その中のセーフティモジュールだけは2015年末までに完全にASEANGAPと同等性を持った各国のGAP規準を作り上げることになり、田上事務局長もラオスに行ってLAOGAPの指導をされました。ASEANの域内の農産物の輸出入については、共通のASEANGAPになります。で、ASEANに輸入されるものについては、GLOBALG.A.P.が求められることになると思います。現在、日本からはほんの少しの農産物しか輸出されていませんから、今のところあまり厳しい要求は出てこないと思われ、「日本ブランド」でも済んでいるかと思われますが、量が多くなれば、当然GLOBALG.A.P.が求められことになると思われます。

 ASEANのGAPの状況は、国によって皆違いますが、フィリピンの場合、輸出用のマンゴー農園に行くと、皆さんPHILGAPを取っています。輸出用については必ずGAP認証を取っているようです。フィリピンの場合、GAP認証を取ると、GAPのマークではなく、産地のマークが付けられるということです。というようなことで、これからだんだん日本の農産物の輸出量が増えてくれば、輸出するためには当然GLOBALG.A.P.が求められてくると思っています。

都道府県ごとの規範について、

<司会> 北海道の方の質問の中で「都道府県ごとに規範があるのは問題があるのではないか」という質問に対して、「国が決めるべき」との回答がありました。私のGAPに対する認識としては、モラルとルールを遵守することが重要であるから、その生産者ごとにルールは異なるものだと思っています。例えば、大きなところからいうと、条約が国際的にあり、国のローカルな法律があり、さらに地方の条例があります。農産物を生産する団体には規約があり、生産部会ごとの約束事があり、そして家庭には家訓があります。そこに収斂してきます。つまり、農産物の種類や生産環境、条例などが異なる都道府県ごとに異なる規範・規準があって当たり前と考えていますが、いかがでしょうか。

中国におけるGAP政策の失敗について

<司会> もう一つ、中国のCHINAGAPの失敗についてという質問が来ています。

  このCHINAGAPの失敗とその課題について、昨日と今日も少し触れましたが、JGAPの取組みと似ているように思います。アドバンスとベーシックの2段階ですね。輸出用と国内向けのGAPですが、補助金や認証の取得料金などで政府が介入しています。マークの貼付、マークを貼って区別する、これがCHINAGAPでの課題だったのですが、酷似しているように思います。

 これについての考え方は、欧州とアジアでは違うのかなということです。文化的な、思想的な背景が違うと、近代民主主義を取り入れても、そこの具体的な手続きが違い、あるいは手続きは似たようなものであっても、中身が違ってくるのかなということを感じています。私は、これまでに3回、北京で中国政府のGAP関係者に会って、この問題を議論してきたのですが、「あらら」と思っていました。そして今は、日本の周りを見たら、また「あらら」と思っています。ヨーロッパ人とアジア人は違うのかなという感想を持っているだけです。このような類似性について、学問的にメスを入れられませんかね。どうしたら良いのか結論は出ませんので、これでご質問の方にご了解できればと思います。

行政による認証GAPの取得目標設置について

<司会> もう一つ、民・民の取引ツールとして活用されるGAP認証の取得を、行政が年間6件掛け4年で24件と目標を立てています。このような目標というものが適切なんだろうか。最初は、地域で認証したのはいいが、その後継続ができないということも想定されますがいかがですか。

〇(会場から)先ほどのGLOBALG.A.P.の認証計画件数の6件ですが、あくまでも目標です。個人的な感想でいいますと、GLOBALGAP認証までは無理かなと思っているのですが、そのくらいできたらいいなということです。

<司会> いわゆる努力目標ですね。「そういう方向に持って行きましょう」ということです。これを県のスケジュールに完璧に乗せるわけではありません。なかなか難しいところですね。

日本のマーケットの現状

<司会> 海外のGLOBALG.A.P.は、主にスーパーが主体となっていると思うのですが、日本のスーパーの現状はいかがでしょうか。買い手側の人で何か情報をお持ちの方いらっしゃいませんか。

〇(会場から)現状、GAP認証された商品というのは、量販店から要求があって認証を受けたものということなのですが、そもそも消費者のGAPに関する認知度が低いかなということを個人的には感じています。実際に、GAP認証がオリンピックの調達コードの中の要件になった時に、幾分動きが出てくれればと思います。

<司会> その点について、私見を述べさせていただきますと、これは政策がないからだと思います。欧州は、1996年に食品取扱事業者が衛生管理のマネジメントシステムを使うことを義務付けました。それがEU全体の中で2003年にハイジーンパッケージとして4つの法律が厳しく決められました。それで食品取扱事業者は、自分の内部で、例えばHACCPのような自己管理プログラムを、現実にはBRCとかIFCの認証を取得するということですが、そうなりますと、仕入れ調達物に問題があった時には、生産側に対しても要求を出せることになります。つまり、川下から川上に様々な要求が出てくるようになり、農場におけるマネジメントに対しての要求も出てきます。

 日本では、そういうこと無しに、いきなり政策的に「農家はGAPをやれ」といっても、販売先がHACCPに取り組んでいなければ、農家にだけ実施しろといっても、生産者には現実味が伴わないんじゃないかと思います。「買い手側に理解させろ」「消費者に理解させろ」と、そういう方法を農水省はすべきだという人がいますが、それでは世の中は動かないのです。

 そうではなく、社会がダイナミックに動くというのは取引の中で、B to Bの中で動いていきますから、直接の買い手が要求すれば生産者は取り組むでしょう。私が2002年に、今のGLOBALG.A.P.に出会ったのは、欧州にりんごを輸出していた弘前市の生産者の片山さんが、2005年からGAP農場認証が必要になると通告されたので、2003年に売り先に調査に行って確認したからです。輸出を続けるためには必要であることが分かりました。それだけの話で、そのような状況を作り出すためには、川上も含めて、日本の流通全ての食品取扱業者に対して衛生規範というものを義務付け、「自己管理プログラムがちゃんと動かなければ業務は認められませんよ(HACCPの義務化)」という政策になれば、川上の農業にまで遡るようになる、という風に思います。

農業の労働衛生管理について

<司会> 私は、農薬残留で大問題になった時に「最大の被害者は農家である」という論文を書いたことがあります。ところが、それは随分たたかれました。でも、「そもそも違うのではないか」という思いがずっとあった時に、GAPに出会いました。この考え方は大切だと思いました。そうしたら、米国でも欧州でも、そのような消毒剤、化学物質、衛生商品を使うことに関しては、行政が責任もって指導しているのです。そして、農場の中に、その講座を受けた人が必ずいなければなりません。

 昨日、講演で紹介しました「アンダルシア州政府がやっている免許制度」は、日本の自動車教習所のように、受講スタンプを全部貰ったら試験を受け、試験が受かると免許証が来る。そして、免許証を持った人だけが薬や農薬、化学肥料を買うことができる。それ以外の人には売らない。これを国策で行っているのです。その中で「衛生」というのが非常に重要視されています。

 GLOBALG.A.P.には、「あなたは、衛生剤や農薬などを取り扱う能力がありますか」という質問事項がありますが、その時に免許証が証明になります。つまり、信頼できる農家は「教育を受けているのかどうか」ということが極めて大切な認証の要件なのです。日本の場合、昭和36年の農業基本法では、農業近代化の他に構造政策も大きな柱でしたが、農業近代化で農家所得向上には努めたけれど、農業を守るいわゆる構造政策を実施しなかったために、多くの経営体は家族単位のままであり、米国や欧州のような農業者の免許制度はできませんでした。今さらということになりますが、生産技術だけではなく、法令や安全管理などの情報伝達をしなければなりません。

 ちなみに、2003年に農薬取締法が改正になった時から、農薬を取り扱う人が遵守しなければならない規則「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」が出されています。A4用紙数枚のドキュメントで、内容は読めばわかりますが、しかし、それを見たことがあるという農家の人に出会ったことがありません。ここの政策のギャップを何とかしなければなりません。農林水産省は「ちゃんと作っているんですよ」「細かいものを作っているのですよ」「通達まで出しているんですよ」と言っても、肝心の農家に届いていないんです。これは、どのようにするのがよいのか、一緒に考えて頂きたいと思います。こういうことも日本の農業の重大な課題の一つです。

農業現場における労働問題

<司会> 労務管理についてですが、労働時間とか賃金などについて「農業は労働法の限りにあらず」ということがあります。こういったことも、オリンピックで問題になるかもしれません。もし、そういう状態が日本の農業労働の実態だと思われれば、人権に関わる問題になりかねません。こういう問題に関してこれまでにもいろいろと言われていますが、私達の農業の世界から具体的に提示してはいません。農業者からの活動もなく、認識されていないとすれば立法者も動けません。こういったことで「国民のレベルと国会のレベルは一緒だ」といわれますが、まさにそういうことかなという感じがします。このような問題は、国民合意まで持って行かなければいけません。ただのGAP、「良い農業のやり方」ではありますが、それこそ私達の生きる方向を決めるサステナビリティ、持続可能な社会づくりの中のコア(核)であると考えています。

食品事故における小売業者と生産者の責任

〇(会場から)今の議論の中で、私が気付いたことは、欧州などの先進国が進んできた背景の中で、もう一つ議論に加えたいと思うのは、消費者自身の「消費者目線」です。何故、量販店がGLOBALG.A.P.規準、あるいはそれ以上の厳しいGAP規準を生産者側に要求するのか」と言いますと「これには法律があるから」という誤解もあったのですが、やはり一番は、消費者自身が「持続可能性に配慮した農業をやって貰っている、そういう農業を通じて生産された農産物を求めている」ということです。

 例えば、水産物で言えば「持続可能な漁業でとった魚なのか」ということを強く量販店なり、お店に求めてくるというように聞いています。日本では、食品事故、微生物汚染が起きたときに、すぐ産地に目が行きます。「どこの産地のものなのか」「誰が作ったのか」となります。ところが、欧米では、まず売ったお店が追及されます。お店の評価が下がって、いわば社会的な制裁を受けるのです。そこで、量販店はそういうことを起こさないために、売った農産物が問題を起こさないために、大変な努力をしている結果が、GAP的な規準を作ろうということに繋がったようです。

日本とEUの消費者の違い

<司会> 海外事情に詳しいIさんにお聞きしたいのですが、どうして日本の消費者とEUの消費者の違いというのが生まれてしまうのでしょうね。

〇これは、日本の消費者に無条件の国産信仰というのがあります。例えば、お隣の中国では「農産物が危ない」と思われていますが、輸入時点での検査によると、中国産の違反件数だけが異常に高いわけでもなく、日本国内の食品の違反率もほぼ同じくらいです。日本に入ってくる中国産農産物が、決してそんなに危ないものではないのですが、ただ、日本の消費者が無条件に国産の方が安心だと思っているだけです。そういいながらも、流通がどんどん発達していって、地域だけで起こっていた食中毒事故が、国中で起こった時に、それはどうなるかということです。そこは、我々を含めた消費者が考えていかなければならないと思います。

<司会> 今は、食品がグローバルな流通になっていますから、我々の知らない所で様々なリスクが起こっています。だからこそ、グローバルな取引をしているグローバルな食品会社というのは、このことに敏感になっていて、GFSIなどを通じて「しっかりしましょう」という動きに出ています。そのことに私達も気づいていかなければなりません。

 時間が来てしまいました。「どうしてもこれだけは」という質問なり、ご意見がありましたら、よろしくお願いします。

オリンピック食材調達(案)での公的機関による確認

〇(会場から)私は個人営業していますので、これだけ組織立ってGAPの推進をすることはできないのですが、個人のコンサルタントとして、JGAPを推進していきたいという風に思っていますが、オリンピックの食料調達の関連で、三つの条件があって、それをクリアーするためには、GLOBALG.A.P.、JGAPアドバンス、それで終わりかと思ったら、その後に例外規定みたいな感じで変なのが入ってきて、公的機関による確認ですか、畜産の方ではGAPチャレンジシステムという何かわけがわからんものが入ってきて、そうなってくると、まともなGAPが却ってブレーキがかかるような、何か懸念が感じられるのですが、どうなんでしょうか。

<司会> この件についてお答えしていただける方、どなたかいらっしゃいますか。

〇(会場から)あくまでも聞いた話です。全ての認証制度を導入する方がいいだろうという議論はあったようですが、今の認証された経営体の数が、全部合わせても5000経営体にも満たないわけです。そこの人達が全員オリンピックに食材を提供していただければ賄えるのでしょうが、そんなことは不可能です。生産量の10%も出して貰えば・・・と計算してみると、とても賄えません。この3~4年で、もし増えなかったら・・という懸念もあるので、そうなれば底辺を広げざるを得ません。ただ底辺を広げたにしても、無条件に広げて「何でもあり」と言われると、かえって、いろんな問題があるでしょうから、何らかの歯止めはつけたい。そこでGAP共通基盤ガイドラインがあり、これは農業に対する考えかたのガイドラインですから、これに基づいたものを、何らかの証明があるものということになって、「最低限、県なり、県の行政なりがチェックしてくれているものだったらよい」ということにしたら何とか賄えるのではないかという目算が多分あったんだろうと思います。

 東京オリンピックの組織委員会の作業部会ですが、農業の専門家の方、あるいは生産側の専門家の方がいらっしゃらないので、どうしても特別委員として入っていらっしゃる農水委員の方のお話を尊重する形になって、それがああいう形になったんだろうと思います。逆に、我々がこの3年で認証をもっと増やしていけば、そんなこと言わなくてもいいんじゃないかと思っています。

<司会> 多分そういういうことだろうと思いますが、ますます北京オリンピックの時に似てくるなと思っています。北京オリンピックの時には、中国政府が「2年間で認証を取得せよ、そうすれば使える」といったのですが、「農産物の流通は源から国が監視する」という方向になりました。これは、国が監視すると、どの程度似ているのか、似ていないのか判りませんが、結構似ていそうな感じになってきました。つまり、西欧的取引関係、契約関係の中での信頼というものをエビデンスで構築していなかった、ビジネスモデルがなかったアジアの実態が、それをせざるを得ない状況にさせたのかなという感じも致します。

 いずれにしても、オリンピックでは、「おもてなし」を本当に喜んで貰えるものにしなければなりませんので、「日本はこれでいいんだ」となれば、それなりの評価になると思います。

 最後になってもっともっと言いたい人がいたのではないかと思いますが、いただいた質問に答えるのが精一杯でした。時間がオーバーしていますので、これで閉じさせていただきます。ご登壇の皆さん、どうも有難うございました。会場の皆さんありがとうございました。

2017/7


グリーンハーベスターGH評価システム(連載4)
GH評価制度の概要とGH評価員試験

田上隆多 株式会社AGIC 事業部長

GH評価制度の概要

 GH評価制度(正式名称:「日本GAP規範」に基づく農場評価制度)は、農場や生産組織が健全な農業を実践するための指標を提供する評価制度として、農業経営や生産技術などの改善指針を提供し、生産者の自己啓発に資する「GAP教育システム」として、一般社団法人日本生産者GAP協会が開発し、2011年10月1日に発行されました。2012年6月1日発行のver1.1には、日本で初めて畜産分野(牛、豚、鶏)の評価規準も定めました。平成28年度末からその改定に取り組み、ver2.0(2017年4月28日版)は、「GLOBALG.A.P. IFA ver5」をカバーしており、また農林水産省により「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン」の完全準拠が確認されました(5月9日現在)。http://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/gap/guideline/index.html

 GH評価制度は、農場保証(IFA)、いわゆる農場認証ではなく、GH農場評価報告書に基づいて全ての農場が自らの改善に役立てることを目的にしています。いわゆる農場認証の結果は「合格(認証取得)」と「不合格(非認証)」に分けられますが、GH評価制度では、このような線引きはなく、評価結果のありのままの姿と改善の方向を報告するものです。

 GH評価制度には3つの特徴があります。1つ目は「5段階評価」です。各項目(要求事項)を○(適合)か?(不適合)かの二択で評価するのではなく、0~4の5段階のリスクレベル(図1)で評価します。ほとんどの場合、リスクは「ある」か「ない」ではなく、「どの程度か」と表現するのが正確です。むしろ「リスクがない」と言い切れるケースは稀です。経営の視点に立ってみても、常にリスクは存在し、変動します。農業経営は、常に存在するリスクを見つめ、できるだけリスクを小さくし、リスクと付き合っていくことだとも言われます。農業経営のリスクをより正確に分析する手法として5段階評価が採用されました。

図1 GH評価の評価レベル

 2つ目は「減点方式」です。加点方式でもなく、達成率方式でもありません。これも経営のリスク管理の視点に則しています。経営体によって業務の範囲や規模、抱える品目や人員が異なれば、リスクの範囲も異なります。圃場や建物の数が多いほど抱えるリスクも増えます。取扱品目が多いほどリスクの範囲も増えます。使う資材が少ないほど、管理すべきリスクが減ります。100種類のリスク管理をしなければならない農場が、99種類のリスク管理に成功し、1種類のリスク管理に失敗しているのと、10種類のリスク管理をしなければならない農場が、9種類のリスク管理に成功し、1種類のリスク管理に失敗しているのでは、リスクレベルは同じです。これは、加点方式でも達成率方式でも正しく表せません。図1の通り、リスクレベルが大きいほど減点配分が重く設定されています。GH評価制度の点数を上げるには、減点配分=リスクレベルが大きい課題から取り組む必要があります。これは、より致命的なリスクを避けなければならない農業経営にとって自然な選択となります。

 3つ目は「集計表と詳細報告書」で、項目は、①農場管理システムの妥当性、②土壌と作物養分管理、③作物保護と農薬管理、④施設・設備と廃棄物の管理、⑤農産物の安全性と食品衛生、⑥労働安全と福祉の管理、⑦環境保全と生物多様性の保護の7つの管理分類に分けられており、集計表では管理分類ごとに各評価の個数を集計しており、どの分野にどの程度のリスクを抱えているかが一目瞭然となります。経営者は、農場の資源(いわゆる人・物・金・情報・時間)を効率良く利用するよう調整する必要があるので、全てのリスクを完璧にこなすのではなく、効率的な資源配分により効果的にリスク管理を行う必要があります。管理分類ごとに5段階評価の結果を集計することは、農業経営の資源管理の判断にも寄与します。GH評価では、集計だけでなく全ての項目の詳細レポートを農場に提出するので、具体的に「どこが」「なぜ」「どの程度」問題なのかが良く分かります。

GH評価員試験

 GH評価制度の適正な運用と品質向上のために、GH評価員の教育プログラムが提供されており、研修プログラムとして「GAP実践セミナー」および「農場実地トレーニング」があり、評価員の段階的な育成プログラムとして「GH評価員試験」があります。

図2 評価集計表
  評価 評価+ 該当外 評価0 評価1 評価2 評価3 評価4 管理分類小計
管理分類 点数 5 0 0 -5 -10 -15 -20
1.農場管理システムの妥当性   4 4 2 0 0 0 -10
2.土壌と作物養分管理   3 12 2 0 0 0 -10
3.作物保護と農薬の管理   2 15 3 3 0 0 -45
4.施設・設備と廃棄物の管理   3 4 3 2 1 0 -50
5.農産物の安全性と食品衛生   1 6 5 3 1 0 -70
6.労働安全と福祉の管理   1 9 1 0 0 0 -5
7.環境保全と生物多様性の保護 0             0
評価レベルごとの指摘項目数 0 14 50 16 8 2 0  
    管理分類の合計点数 -190
    総合点数(=1000点-管理分類の合計点数) 810
    総合評価 ☆ ☆ ☆
図3 評価証書

 GH評価員試験は、(A)「日本GAP規範」と「GAP総合講座」に関する基礎知識と応用力を問う筆記試験、(B-1)調査済みの事実が記された評価項目について、評価内容のレベル判定を行う実技試験、(B-2)試験官とのロールプレイングで未調査の評価項目について聞き取りを行い、事実の確定と評価内容のレベル判定を行う実技試験、(C)"②③"で行った評価内容に関する最終報告書を作成する実技試験があり、(D)③のロールプレイング時には、受験者のヒアリング技術について採点されます。(A)、(B-1)と(B-2)の平均、(C)、(D)のそれぞれの適合率が80%以上で合格となります。 2012年10月から現在までに96名の方がGH評価員試験に挑戦しています。ストレートの合格率は約6割で、不合格者は追試により合格となっています。試験結果を考察すると、受験者は主に以下の分野について理解が不足していることが分かります:GAPの意義、トレーサビリティの意味・要件、IPMの意味・プログラム、関連法令。また、評価技量については、聞き取りの掘り下げが充分でないこと、聞き取りに漏れがあることが分かります。

GAP実践セミナー終了 評価員補 受験資格
評価員試験
※専門性ごと
評価員
受験資格
主任評価員試験
主任評価員 受験資格
上級評価員試験
上級評価員
農場実地トレーニング終了
農場評価3件 
評価員試験合格 
組織評価3件 
主任評価員試験合格 
評価監督3件 
上級評価員試験合格 

2017/7


柑橘栽培における適正な灌水量の確認のための簡易積算降雨計の作成

高橋 健 沖縄県中央卸売市場

 「日本GAP規範」に基づく農場評価(以下、GH評価)を行い、改善を要する項目があった場合に「どのように改善を行なえば良いか?」と農業者から問われて、その回答に困ったことがある指導員は多いと思います。もちろん改善方法に「絶対」という方法はないと思いますが、農場管理の優良事例や改善事例を集積して共有することで、改善方法の提案をする際の一助になると思います。

 今回は、GH評価における「作2.1.2:作物の健康を維持する観点および水資源保護の観点から、適正な灌漑を行っている」についての改善事例を以下のように報告させて貰います。


 平成28年度は、沖縄県ではタンカンの豊作年となりました。ところが、沖縄県名護市のK氏の農場では、摘果を行なったにもかかわらず、小玉の果実が多かったことが課題として残りました。

 K氏は、タンカンの収穫を終えたところで「もしかしたら、果実肥大期の後半(9~11月)の降水量が少なかったのでは?」と仮説を立てました。

 そこで、沖縄気象台のHPで半旬毎の降水量のデータを確認したところ、平成28年9~12月までの降水量は、概ね平年より少なかったことが判りました(図1)。

 加えて、K氏はタンカンの果実肥大期における適正灌水量について考えました。タンカンの栽培時期別の適正降水量のデータは見つけられませんでしたが、県外の他の柑橘類(中晩柑)の果実肥大期における適正灌水量に係る複数のデータを検討した結果、pFであれば1.8~2.3、灌水量であれば15~20t/10a/7日間程度ではないかと推察されました。pF値の測定には専用器具が必要であることに加え、K氏がpF計の設置や読み取りの技術を習得していないことから「毎週の積算降水量を確認する」と云う結論に至りました。

 この場合、15~20mm/週の降水量があれば、降雨だけで十分な灌水ができたことになります。

 改めてK氏が9月~12月の降水量を確認したところ、25mm/旬(概ね15~20mm/週に相当)に達していない時期を確認すると、H28年度では12旬中で7旬(58%)もありました(図2)。平年値であれば、この期間の降水量は25mm/旬程度かそれ以上であることから、K氏は改めて「H28年の果実肥大期後半は自主的な灌水を行なわなければならない年だった」と反省しました。同じ失敗を繰り返さないことを決意したK氏は、農場に設置する簡易積算降雨計を作成しました。降雨計の作り方は以下の通りです。

○材料(主として廃材を用いたため200円弱の経費で済みました)
  • 廃材(廃棄木製パレットを分解して利用)
    • 台座となる板(縦:横:厚さ=12cm×12cm×2cm)×1枚
    • 支柱となる角材(縦:横:長さ=4.5cm:5.5cm:約130cmの角材×1本
    • 縦:横:長さ=2cm×2cm×16.5cmの木片×4本
    • 500mmペットボトル×1本
    • 塩ビパイプ(VU管外径60mm)×30cm×1本
  • 購入した材料
    • 45mmコースレッドビス×4本
    • 65mmコースレッドビス×2本
    • プラスチック製のじょうご×1個
    • マスキングテープ
    • 塗料(炭酸カルシウム、木工用ボンド、墨汁)
    • セメント、砂、バラス×適量
○組み立てに用いた器具、道具
  • インパクトドライバー
  • ホットガン(メルトガン)
  • カッターナイフ
  • 計量カップ
  • 油性マジック、修正液、鉛筆
  • 水平器
○作り方
  1. ペットボトルのキャップに穴を開け、プラスチック製の「じょうご」を差し込み、メルトガンを用いて固定する(写真1)。
  2. 台座となる板の対角を結ぶ線を引き、板の中央を確認する。
  3. 板の裏に支柱となる角材を当て、概ねの位置を確認し、ビスで固定するための下穴を開ける。
  4. 台座の中央にペットボトルを立てた際に支えとなる部分を作るために、木片を4本立てるように配置し、45mmコースレッドビスで固定する(写真2)。
  5. 材料となる角材、板と木片に塗料を塗る。市販のペンキを用いても良いが、今回は土壌改良材の炭酸カルシウムと木工用ボンドを3:1に混ぜ、水と墨汁を適量加えて固さを調整して塗料とした。
  6. 台座に支柱となる角材を65mmコースレッドビスで固定する。
  7. 「じょうご」の口径に合わせた水量(表1)をペットボトルに注ぎ、降水量の目安となる数値を書く。このとき、ペットボトルに直接書き込んでも良いが、マスキングテープ等を用いると簡単に目盛りが作成できる(写真3)。
  8. 簡易積算降雨計を設置する場所に25cm程度の深さの穴を掘り、塩ビパイプを挿し込み、その中に台座の支柱を立てた後に隙間にコンクリート(セメント、砂、バラス=1:3:3に水適量を混ぜたもの)を流し込み、数日間硬化を待つ。
  9. 台座が地面と平行にはっていることを水平器で確認した後に、じょうご付きのペットボトルを設置し完成(写真4)。
表1

 K氏は、以下の使い方を考えています。

  • 毎週土曜日に簡易積算降雨計内に溜まった雨量を確認する。
  • 5mm未満/週の場合は、2回/週の灌水を行なう。
  • 5mm~10mm/週の場合は、1回/週の灌水を行なう。
  • 15~20mm/週の場合は、灌水を行なう必要がない。

 この方法で成果がどこまで出せるかはわかりませんが、「タンカンは露地で灌水をしなくても大丈夫」、「毎年の降水量を感覚と記憶でしか管理していなかった」と云う従来の状態よりは、きめ細やかな栽培管理ができそうです。また、積算降雨量は、農薬散布後の残効期間にも影響することが知られています。病害虫防除をより科学的に行なう観点からも簡易積算降雨計の設置はお薦めです。

2017/7


株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載27回)
~労働力確保が深刻さを増す~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 昨年、新規採用した社員の「農の雇用事業」が2016年10月に採択され、今年の4月に第2期目の助成金申請を終えたばかりである。今回は2ヵ年間の事業となっているので一安心しているが、2018年度の新規採用のめどが立っていない。もう世間では社員募集のイベントが開催されているが、「募集は簡単ではない」と企業の担当者が話しているニュースを聞いた。和歌山県内の工業系の高等専門学校に1000社ほどの募集があり、卒業予定者は全部で100人ほどというから、本当に人材不足のようである。イベントに参加した生徒のコメントは「何を基準に就職先を選んだら良いか迷っている」とニュースで流れていた。

 著者が農業大学校に勤務していた時代は、工業系、商業系の高校からも多数農業大学校に入学していたが、今は高卒での就職率が高まってきたことからかもしれないが、今年度の農林大学校への入学は「29名」と地元のテレビ番組で話していた。その内訳を聞いて、学生の進路が様変わりしてきたと感じている。そのニュース番組は、和歌山県がスポンサーになっており、「今年、農業大学校が農林大学校に改名された」と紹介していた。従来の農業を目指すための園芸学科は継続されているが、新たにアグリビジネス学科と林業経営コースが新設され、卒業後の目指す進路が少し違ってきているようである。従来の農業を目指す園芸学科へは、わずか16名とのことであり、学校に聞いてみたところ、園芸学科内でも就農希望者は少ないような雰囲気の返事が返ってきた。弊社としては、規模拡大に併せてこの学校の卒業生を新規採用していくことをポリシーとしているが、これまで得た情報にから判断して、社員確保が難しくなってくることが予測される。

 それに加え、さらに苦労しているのが収穫時の臨時雇用の確保である。ここ2年間はアルバイトの募集に対し、応募数が激減した。会社を設立して3年間は、アルバイトの募集に対して応募者が多数であり、15名程度を確保して、周辺農家の収穫支援隊として地域に期待される会社となっていたが、2年前は弊社の労働力確保がやっとであった。昨年は、和歌山県が主宰する「グリーンサポート(農業アルバイト募集サイト)」では応募はゼロであった。そこで、民間の有料サイト2社を活用して募集したところ、応募者はあったものの、農作業がはじめてのアルバイターがほとんどで、3日間も続かなかった。収穫の全シーズンを通じて定着してくれたアルバイトは1名であり、後は期間限定の条件で作業してくれたアルバイトで、僅か3名であった。ここにきて、今日のニュース内容や昨年の状況から、収穫時の労力確保に大変不安を感じている。

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 弊社の新年度の役員、社員、関係者合同の総会で、人材確保を議題に取り上げ対応を検討した。今後は、外国人研修生を受け入れることも視野に入れて情報を収集している。しかし、外国人研修制度は、柑橘農業には適用させにくい課題もある。最長の研修期間は3年間であり、技術を習得した頃には帰国となる。また、試算では年間1人当たり210万円の経費を準備する必要がある。さらに、年間を通じて研修を必要とする作業があることや、果樹農業で受け入れた場合には、野菜や他の作物の作業はダメとか、柑橘栽培のみでは現行制度をクリアーするにはハードルが高いと考えられるが、このような形での労働力の確保も考えていかなければいけない時代に入ったような気がする。いずれにしても、農村人口の高齢化によって人口減少が続く中、農業の労力確保は皆無に近い状況が続くことを身近に感じてきた。近年、みかんの取引などでお付き合いのある農業関連の業界でも同様であるというから、生産現場と関連業界と連携した労働力の確保を模作しているが、法的な課題もあり、なかなか名案は出てきていない。

  この原稿を書き上げた直後に、マッキンゼー社からタイムリーなインタビューを受けたので、併せて報告する。この背景には、現在マッキンゼー社の社員として働いているI氏が東京大学農学部の出身で、4年前の秋に弊社に卒業論文の情報収集にやってきたことがある。当時、アルバイトのメンバーと収穫作業を一緒にやって貰った経緯があり、そのことから会社でコンサルを依頼される同僚に、柑橘農業における現場の短期労働の実態を話したようであった。その同僚のS氏から電話インタビューがあり、聞かれた内容は「短期アルバイトの年齢層や行動パターンと、その人経費などであった。伝えた内容は、上記の内容に加え、近年の状況として、農作業の未経験者の応募数の増加とその問題点、宿泊施設のプライバシー確保が要求される課題や、人手欲しさによって時間給が1500円程度にまでつり上げられてきたことなど、雇用側も経費負担が大きくなったことをあげた。「他の農村での人材不足の状況はどうか」とS氏に尋ねてみると、都市近郊の野菜などの施設園芸農家では、時間単位での女性アルバイトを活用している例を紹介してくれた。しかし、山間地でのみかんの収穫作業には合理的ではないとの結論になったが、これからは時間単位のアルバイトの可能性も考えなければならないかもしれないと後になって思った次第である。

2017/7


編集後記

食讃人

 巷で広まっているものに「若手官僚の提言」というものがある。正式のタイトルと副題は「不安な個人、立ちすくむ国家~モデルなき時代をどう前向きに生き抜くか~」と言うものである。経産省の官僚は、日本の産業のみならず、日本の問題を丸ごと考えて、折に触れて提言をしてくれる。そこで述べられている提言は、国際政治から経済、技術、社会、民族・文化・宗教まで広範囲に問題を捉え、方向性を示している。

 資料は、私達が現在持っている漠然とした不安や不満をリストしている。漠然とした不安や不満の源は、「早すぎる世の中の変化」「溢れる情報」、しかし、「変わらない社会の仕組み」「見えない将来」などである。そのつぶやきの多くは、国に、社会に対する不満として滞留し、選挙などを通じて突然牙をむくが、その変化は失望に変わることが多い。

 かつて、人生には目指すモデルがあり、自然と人生設計ができていた。今は、人生100年、昔よりは豊かになり、社会的リスクは減ったが、個人の不満・不安は増幅し、このまま放置すると社会が不安定化しかねないと危惧している。「個人が安心して挑戦できる新しい社会システムが必要になっているのではないか」と私達に問いかけている。

 かつては、政府、企業、メディア、宗教、民族などの「組織中心の社会」であったが、今は「個人中心の社会」になっている。そこでは、相互に情報発信し、自由だが不安がある。風評があり、フェイクニュースがある。このような不安な現状を「秩序ある自由に変えられないものか」と各論で問いかけている。それらは、①居場所のない定年後、②寂しい人生の終末、③母子家庭の貧困、④貧困と教育格差、?活躍の場がない若者などであり、これらの課題を解決する目標を示せない政治家と役人がいるのである。

 日本は世界一の長寿国である。65歳で定年になっても、その後10年の健康寿命があり、この健康寿命もどんどん延びている。高齢者の体力・運動能力は、この15年で5歳ほど若返っている。そして、70歳を過ぎても働きたいと思っている人は6割を越えているが、現実は、高齢者が働く場所はなく、60歳を過ぎて働いている人は、パートも含めて25%程度であり、社会的な活動もしていないのが実態である。

 社会の価値観が大きく変わりつつある現在、「人生100年として健康な限り社会参加ができる社会に」「子供の教育を最優先に投資をする社会に」「延命治療はしない医療に」「意欲と能力のある人が公務を担う社会に」するように少しずつ変えていくことが必要であると提言している。

 このような中で、加計学園問題を見てみると、その内実が少し見えてくる。役人が、定年後の天下り先を作ろうとするのも、医学会・獣医学会などが岩盤規制で既得権を守ろうとするのも理解はできるが、それでは日本は変わらない。「政治がそれに風穴を開ける」といって国家戦略特区を作っているが、これにも「首相への忖度があったのではないか」として民進党やマスコミがかみついている。役人はそもそも能力のある人達であるが、その人達が民間の活動を邪魔したり、天下り先で税金を無駄に使ったりするのは、ご法度である。

 この提言には農業問題は入っていないが、農業を巡る問題は一向に改善されていない。農業者は260万人と減少の一途であり、平均年齢は66歳と高齢化し、65歳以上が6割に、75歳以上は3割になっている。耕作放棄地は、東京都の面積の2倍に近い40万haに近づいている。

 「日本GAP規範」を作って良く判ったことは、日本は法律に基づく制度の構築が非常に遅れていることである。これは、天下り団体の作るガイドラインで多くの行政施策が行われているからであり、欧米の法律・制度をコピーした中国やアセアンの法制度からも大きく遅れることになった。これは、農水省ばかりでなく、厚労省も同様であり、食品衛生法の大改正で、やっとHACCPが義務化され、包装資材がポジティブリスト制度に移行しようとしている。

2017/7