-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 53号

《巻頭言》
グリーンハーベスター(GH)農場評価制度によるGAPレベルの向上

山田正美 一般社団法人日本生産者GAP協会 常務理事

 日本の農業生産現場におけるGAPの普及・推進を図ってきました(社)日本生産者GAP協会の活動は、今年度で丸10年になります。この間に、GAP発祥の地であるイングランドの『GAP規範』の翻訳・出版や日本版『GAP規範』の出版、2ヵ月に一度の「GAP普及ニュース」の発行、GH農場評価制度の開発と普及など地道に活動を続けてきましたが、日本におけるGAPは、まだまだ普及しているという状況にはなっていません。ここにきて2020東京オリンピック・パラリンピックの食材調達基準(案)が示されたことで、GAP認証がにわかに世間の脚光を浴びるようになってきているようです。

 私が住んでいる福井県では、リーダー的な農家が2~3年前からGAPの推進を農家や団体に働きかけ、県、普及センター、農協とも連携しながらGH農場評価制度による農家へのGAP普及とGAPレベルの向上を目指して活動をしています。この活動の中で、私も農家の集まりで講演を行ったり、GH評価を希望する農家へのGH評価を行ったりしてきました。数多くの評価を経験することで、農家の一般的な傾向が見えてきています。このような評価の経験から、GAPの視点で見た農家の改善点を理解するのに役立つと思いますので、この場を借りて紹介させて頂きます。

 なお、GAP普及ニュースの第52号にも関連の記事を掲載していますので、併せて読んでいただければと思います。

 GH農場評価制度は、ご存知のように『日本GAP規範』や『GLOBALG.A.P.基準』などを参考に約100項目の評価項目を定め、それぞれの項目に対する評価の時点での状態を「問題なし→0」「軽微な問題→1」「潜在的な問題→2」「重大な問題→3」「喫緊の問題→4」として評価し、対象とする農場の具体的な改善を促す教育システムになっています。GH農場評価制度は、認証に対する「合格、不合格」を判断するものではありません。あくまでも評価した時点での農場のGAPのレベルを示すものであり、農場の具体的な改善を促すための評価制度となっています。評価項目は、以下のような7つのカテゴリーに分かれています。

(1)農場管理システムの妥当性(圃場図や緊急時のマニュアル準備など経営全体の項目)
(2)土壌と作物養分管理(過剰施肥の回避や肥料成分の流亡防止などの項目)
(3)作物保護と農薬の管理(環境に配慮した病害虫防除や農薬の安全な保管などの項目)
(4)施設・資材と廃棄物の管理(肥料や燃料、廃棄物の保管管理などの項目)
(5)農産物の安全性と食品衛生(安全な農産物の出荷と食品衛生に関する項目)
(6)労働安全と福祉の管理(農作業事故防止や労働法の遵守等などに関する項目)
(7)環境保全の便益の取組み(景観や生物多様性の取組みなどの項目) 

 GH評価させていただいた農場は、主に稲作経営で、地域の中でも一目置かれているような組織や専業農家ということになります。そうした農場のGH評価を十数件行って得た結果から、重要で基本的な共通する改善点について述べさせてもらいます。

1.リスクや手順を文書にして確認
 GH評価の場合、最初に経営全般の話を聞き、適正に管理されているかどうかを聞き取ります。この際に、一番感じるのは、日頃考えていることが「文書に記録されていない」ということです。GAPでは『リスク管理』ということが重要になります。農場での活動によって生じる環境の汚染や農作業の事故、食品の安全を脅かすようなリスクを極力抑えるようにするために「どうしたら良いのか」ということは、常識的には理解しているようですが、それを文書にしたり、地図に落としたり、というところまでは「記録されていない」というのが現状のようです。文字にすることで問題点をより明確にし、さらに地図に落とすことでより身近なものとして問題点を共有することができるようになります。文書化には、他にも緊急時の対応手順や、クレーム対応と商品回収手順、衛生管理手順などがあります。
スチール棚に置かれた農薬
2.農薬の安全な保管
 全ての農薬を鍵のかかる農薬保管庫に安全に保管している農場はほとんどないというのが現状です。写真のように、スチール棚に裸で置かれていたり、作業舎の片隅に置かれたりしていて、誰でもいつでも取り出せるようになっています。まずは、鍵のかかる保管庫で安全に保管するということから始める必要があります。
3.農薬の調合時や洗浄の際の環境汚染の防止
 農薬の調合時や作業終了後の農薬散布機の洗浄時に、希釈液が排水路に流れ出る可能性がある場所で作業をしている事例がたくさん見られます。万一、ここで希釈液がこぼれたらどこへ流れていくのかということについて、もっと配慮する必要があります。その上で、残った希釈液の安全な廃棄場所を非農耕地に設定することを考える必要があります。
4.燃油の条例に従った貯蔵
 米麦等の乾燥機やボイラーのための燃料タンクを設置する場合は、設備の導入時に防油堤や消火器などを設置する場合がほとんどです。しかし、トラクターなどの農機具の燃料としての軽油をドラム缶で保管する場合によく見られるのですが、防油堤や火気厳禁の表示、消火器などがない場合が大半でした。
5.廃棄物の焼却禁止
 『廃棄物』に関しては、廃ビニールや農薬の空になったポリ容器などはJAの回収で処理している場合が多いのですが、粉剤の空になった紙袋や段ボール箱などを作業舎の周りで焼却しているという場合が結構見られます。野焼きは原則禁止になっていますので、ご注意ください。
廃棄物の野外焼却(野焼き)
ヘルメットなしのクレーン操作
6.危険な作業でのヘルメット、防護用品の着用
日頃の農作業において、危険な作業はたくさんあります。例えば、天井クレーンの操作や、フォークリフトの運転、梯子を使った高所作業などですが、ヘルメットを着用して作業をしている現場を見たことがありません。また、農薬を取り扱う場面でも、散布時はマスクやゴーグル、手袋をしていても、調合する時には素手で行っているなど、作業の安全性に対する認識が甘いと言わざるを得ません。ヘルメットや防護用品などは、しっかり着用しましょう。

 以上、初めてGH農場評価を受ける農場の評価結果から、GAPの改善を要する基本的なところを紹介しました。

 GH評価を受けた農家が、こうした評価結果を受けとることで、初めて問題点を自覚し、改善につなげていただける場合がほとんどです。まずは、自分の経営の問題点を把握することが第一歩となります。その点でGH農場評価制度はGAPレベル向上のための効果的なツールになると確信しています。どうぞ気軽にご活用ください。

 今回、GH評価させていただいた農場が、指摘させていただいた問題点を改善し、次の評価の時に「どれだけレベルが上がっているのか」を楽しみにしたいと思っています。

2017/4


2017年度シンポジウム・セミナー等の予定

 2017年度の各種セミナー等について、下記のスケジュールで実施する予定です。

 2017年度GAPシンポジウムと併せて、奮ってご参加下さい。

 グリーンハーベスター農場評価制度(「GH評価制度」)では、GAPの理解と普及のための教育システムとして、農業者、農業指導員等によるGAPの自主管理を推奨しています。

 また、ご好評をいただいていますスペインGAPツアーについても、宜しくご検討下さい。

開催期日シンポジウム・セミナー等
2017年
4月27日(木)-28日(金)
7月27日(木)-28日(金)
10月26日(木)-27日(金)

『GAP実践セミナー』
場所:文部科学省研究交流センター(茨城県つくば市竹園2-20-5)
定員:25名  参加料:27,000円(税込)、(当協会会員19,440円)

5月25日(木)-26日(金)
8月24日(木)-25日(金) 11月21日(火)~22日(水)

『農場実地トレーニング』
場所:文部科学省研究交流センター(茨城県つくば市竹園2-20-5)
定員:25名  参加料:27,000円(税込)、(当協会会員19,440円)

6月22日(木)~23日(金)
9月21日(木)~22日(金)

『農業者のためのHACCPセミナー』
場所:文部科学省研究交流センター(茨城県つくば市竹園2-20-5)
定員:30名  参加料:32,000円(税込)、(当協会会員23,000円)

2018年(2017年度)
3月1日(木)~2日(金)

『GAPシンポジウム』
場所:東京大学農学部弥生講堂一条ホール(東京都文京区弥生1-1-1)
参加料:主催・共催会員10,000円、一般15,000円、学生2,000円

2017年
11月26日(火)~12月3日(水)

『世界のGAP先進地スペイン研修ツアー』
スペイン・アルメリア州、カタルーニャ州
定員:25名  参加料:未定

 
前回のスペインGAP研修ツアー

2017/4


《特別寄稿》
「食品事業者へのHACCPシステム義務化の動きと農場に及ぼす影響」

日佐和夫 (社)新日本スーパーマーケット協会 シニア・アドバイザー
食品安全技術マネジメント研究所「食品安全技術専門会議」委員長
大阪府立大学 21世紀科学研究機構
食品安全科学研究センター&微生物制御研究センター 客員教授
東京海洋大学大学院 食品安全管理専攻 元・教授 農学博士

はじめに

 今日本でHACCPシステムを義務化する動きがある。規制行政担当者の見解では、HACCPシステムの規制は実施されるであろう。今回、HACCPシステムが規制強化されるという確度の高い予測に基づき「食品製造・調理加工とHACCPシステム義務化の動きと農場に及ぼす影響」について述べてみたい。

 先ず食品製造・調理加工の定義と形態であるが、一般的に食品製造の形態は、大企業では装置産業的形態であり、生産品目が多く、中小・零細企業では、連続のバッチ生産や人海戦術的生産の形態が多い傾向にある。大企業は少品種大量生産であり、中小・零細は多品種少量生産の傾向がある。一方、飲食店のセントラルキッチン(CK)や小売業のバックヤード加工(水産、畜産、青果、惣菜・寿司・米飯、インストアベーカリー等)などは、装置産業型の連続生産のイメージより、連続バッチ生産や人海戦術的調理加工で代表される調理加工のカテゴリーに含まれる。また、これらとは別に、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおける訪日外国人観光客へ対応するために、飲食店HACCPの導入も検討課題とされている。つまり、英国基準庁のSFBB(Safer Food Better Business:Food Standards Agency(FSA))及び米FDAのRetail HACCP(Managing Food Safety: A Manual for the Voluntary Use of HACCP Principles for Operators of Food Service and Retail Establishments:U.S. Department of Health and Human Services,FDA,Center for Food Safety and Applied Nutrition,April 2006)などを参考に検討されているようである。

 このように、HACCPシステムの義務化、HACCP規制において、外国の事例を参考にすることも重要と思われるが、特に国家戦略である「日本食文化」、とりわけ「和食文化」を海外に認知させるためには、日本独自の規格が重要であると思われる。

 「日本食文化」や「和食文化」では、魚介類の刺身など「生食文化」と言っても過言ではない食文化である。魚介の「生食」や、納豆、塩辛、漬け物などのそのまま食べる発酵食品、生ビール、生醤油などの「生」を強調する加工食品は、加熱を伴わない調理加工である限り、加熱殺菌食品より食中毒のリスクが高くなることは当然である。しかし、筆者のスーパーマーケットでの品質管理経験から、魚介刺身の「異味・異臭、食あたり等」の苦情より、日配加工品(豆腐、麺類などの低温流通食品や惣菜、和生菓子などの常温流通食品)における「食あたり、腐敗、変敗、変色等」の苦情の方が圧倒的に多いことを経験している。すなわち、飲食店では「生だから危険、加熱するから安全」であるが、広域流通の冷蔵食品などでは「生だから安心、加熱するから危険」である。つまり、加熱された食品は、冷却(目標冷却温度および冷却時間)により安全確保ができるものであり、製造後、喫食までの時間が長いものについては、工場段階での冷却が重要である。加熱により多くの微生物が殺菌され、特定の微生物が残存し、その微生物が優勢的になり、急激に増殖することにより腐敗が起こることを認識すべきであろう。一方、刺身などは、生の製品中に含まれる多様な固有微生物の存在により、食中毒菌と互いに拮抗し、温度管理や鮮度管理の中で特定の食中毒菌や腐敗細菌などへの抑制が働くものと推測している。従って、水分が多い「生の食品」は、食中毒について考察することも重要であるが、そのものの鮮度保持を考えることがビジネス上の信頼関係を確保するための重要な要件の一つである。

 一方、ノロウイルスやO-157など感染症など、少量の汚染で発症する食中毒は、原料や手・指などの洗浄がその対策の中心となり、従来の食中毒菌による対策である加工・調理の衛生管理に加え、生鮮原料のGAP管理や用便後の手洗いマニュアルなどの管理が必要であろう。

1. HACCPシステム義務化の動向

 HACCPシステムの義務化への動きを述べます。2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催される際に、政府は訪日外国人観光客に対応して、原則、EU HACCPシステム規制に準じた全食品の義務化、特に、飲食店へのHACCPシステムの義務化を導入しようと考えているようであり、中でも和食を重要視しているようである。その理由として、日本の食文化の安全性を世界に向けてアピールし、受け入れて貰うことが施策の中で検討されている。一方で、米国の「食品安全強化法」では、ある企業規模以下では「適用除外」とされており、この議論も必要であろう。

 このような状況の中でHACCPシステム規制は、制度設計の中で業界団体のヒアリングが行われている。中小・零細が多い業界団体の意向を十分反映されているとは言えず、「HACCPシステムありき」の中で規制とその運用がなされ、「現場ありき」の考え方への配慮が低いと推察される。

 日本食のアピールとしては、和食の中での「生食である刺身」や加熱工程のない発酵食品などが挙げられる。刺身については、温度管理を中心に、日本伝統の鮮度管理技術と食味向上技術である血抜きや神経破壊などが、グローバルに評価されるかが課題である。これらの多くはハードル理論で説明ができるのではと考えている。

 ハードル理論(ハードルテクノロジー)とは、幾つかの制御方法を組み合わせて微生物の増殖を抑えたり、促進したりする方法であり、イカ塩辛や漬物等への塩の使用量などがその例である。

 欧米の水産魚介類の流通においてはヒスタミン検査が行われている。これは、欧米での取扱い保管や鮮度管理の意識、ヒスタミンに関するリスク評価などが影響していると思われる。一方、日本では殆どヒスタミン検査をルーチンで実施することはない。これは、水産魚介類に関する鮮度技術(生きの良さ)の歴史的・経験的な違いである。これも「和食文化」と言えるかもしれない。確かにヒスタミンは科学的根拠に基づくものであり、「生きの良さ」は経験と勘であるが、鮮度、品質、安全などの「総合的品質」は、有効的な科学的根拠であると考えている。

 例えば、農産物などの生鮮品の輸出目標が「2020年までに1兆円」というのが政府の方針である。そのためには、日本の衛生管理レベルが欧米と同等であることが求められる。その中で、日本におけるHACCPシステムの義務化、HACCP規制がなされることになる。実際にも、日本の食品安全に関する現場的評価は、欧米各国のものより劣っているとは思われない。遅れているのは、認証システムとしての安全(HACCP)認証システムが機能しているかどうかであり、客観的な評価システムの遅れであると推察できる。

 しかし、厚生衛生行政の中では、GMPや危害要因の認識などの食品安全管理技術が劣っていると判断されている。過去に、工業製品について、優秀な日本的総合品質管理システム(JTQC)が高く評価されたにもかかわらず、ISO 9001認証がなされておらず、マネジメントシステムができていないことが、「システム認証」されていないという欠落があり、「機能していない」と判断され、EUへの輸出ができなくなった時期があった。同様の食品輸出規制が「HACCPシステムであり、ISO 22000やFSSC 22000などである」と厚生衛生行政や農林水産行政の中で認識する必要がある。それ故、食品輸出では、ある程度グローバル規制は適用されるものと予測されるが、国内生産の企業については、グローバル規制とは別の柔軟な対応が求められるべきであろう。

 日本の諸政策の歴史において、政府(官僚)は、一部の外国には寛容であるが、一方で、一部の外国や国内(国民や企業など)には異常に厳しいことは、明治時代からの歴史が証明している。このような状況で、大企業及や堅企業はHACCPシステム規制に問題はないが、問題は、行政などから食品製造に関する機密事項の文書(一部HACCP文書に含まれる)の提出を求められることである。基本的には、前述したようにHACCP計画一覧表の提出を求め、食品衛生監視員は、これがPDCAとして機能しているかどうかを評価(監視・監査)すれば良いのである(厚生省翻訳ビデオ:FDAのHACCPトレーニングマニュアル参照)。一方、ISO22000やFSSC22000などでは、監査員が必要書類の提示を求め、現場との関係において不適合であるか、適合であるかを評価する。不適合である場合、不適合で欠陥の度合いにより改善措置を求める。一定期間後、改善措置報告がなければ承認を取り消すこともある。また、中小・零細企業についは、上記、機密事項に抵触する事項もあるが、HACCPシステム規制に反発しているのが実情である。

2.日本におけるグローバル対応における歴史

 日本のグローバル対応の歴史は、工業製品のEU諸国などへの輸出にあたって、ISO 9001取得(当時は1994年版、現在は2015年版)が注目された。つまり、ISOを取得していない企業は、EU諸国などに輸出が出来なかったのである。つまり、いくらJTQC(Japanese Total Quality Control)に基づく製品が優秀であっても、品質マネジメントシステム(ISO 9001)を取得していなければ、国際競争の「場」から外されていた。その後、工業製品においては、ISO規格のJIS規格化(同等性)などを実施し、普及に努めた経緯がある。また、GAPにおいてもEUREPGAP(現在はGLOBALG.A.P.)などの導入や「カイワレ大根O157事件」などの発生により、GLOBALG.A.P.が日本において認知されるようになってきてはいるが、日本の農家(食品で言えば零細事業者が多い)では、農業の構造的な現状が課題とされている。

 一方、食品ではグローバル化の前に、欧米の圧力があったと理解している。この圧力により日本のHACCPシステムが異常性を持ったと著者は理解している。すなわち、国際調和(Harmonization)である。この国際調和により「総合衛生管理製造過程の承認制度の創設(以下丸総)」がなされたと理解している。即ち、食品衛生法での製造規格に適合しない製品の輸入・製造・販売である。当時は、「生ハム:非加熱食肉製品」などが対象にされた「食肉製品規格」(食品衛生法)の改正により、これらの食肉製品の輸入・製造・流通・販売が可能となった。

 従って、これらに対応するために、食品衛生法で製造基準に適合しない製品については、「丸総の承認」があれば、輸入・製造・流通・販売が可能になると言うことになる。このように、製造基準に適合しない食品の製造については、その安全性について厳しく審査して承認する必要があることは当然である。一方、厚労省は、強制法である「食品衛生法」の中に、製造規格に適合した品目(5品目)についても任意の規格として承認を与えることとした。これが、HACCPシステムは「厳しいもの」「大企業がするもの」「レベルが高くないとできないもの」「HACCP関連文書は全て作成し、それを開示し、作成した文書は全て申請しなければならない」(FDAのHACCP監視マニュアル参考:厚生省翻訳ビデオ)などの風潮が定着したものと推測している。更には、5品目以外にもHACCPシステムの取得を推進している。これが、自治体HACCPである(多くの自治体は「丸総」を基本として認定)。このことが、食品安全政策の中で、「最初の問題点である」と著者は推察している。特に、乳業業界は、厚生行政政策に対応した代表的な業界の一つであろう。

 他方、近年言われている国際化(Globalization)は、食品の輸出に対する国家戦略と言われているが、同じく影響を受けるのは、「輸入食品の排除?」「国内産業の保護」であることを忘れてはならない。しかし、この分野では、過去の工業製品と同様に、日本は国際規格の導入にかなり立ち後れている。その原因の一つに、行政政策として、産業振興という視点が欠落していることである。その背景としては、事業者での視点ではなく、経産省、農水省、厚労省の縦割り行政の中で進められていることが大きな問題であると推測している。

 これらの対策のために「HACCPのFlexibility対応」「日本発国際規格(食品安全規格)の発信」「ISO 22000のJAS化」など、HACCPを巡る課題は多いと予測している。一方、これらの国際化においてHACCPシステム規則の承認・監視や国際規格の審査・認証などに関与する食品衛生監視員や第三者および第二者監査員、さらにはそれらの監視員・監査員が、中国や東南アジアなどで実施している工場監査の内容について、欧米などの監査員と比較され、評価されていることを忘れてはならない。つまり、監査員の力量とその所属する組織の監査員に対する教育/訓練の力量などが問われてくるであろう。 また、日本では、国家規格に基づいて自治体行政も対応している。だが、輸入検査(検疫所)で合格したものが、自治体検査で不合格になった場合の行政的対応である。試験検査において、製品中の有害生物及び有害物質などのバラツキと処理される場合が多いが、今後は、国際取引の中での法的裁判事例などの研究が必要であると推察している(1987年:昭和59年6月24日、宮崎県で発生した西ドイツ製のキャビアの缶詰で発生したボツリヌス中毒は、当時、厚生省の統計上「原因不明」として処理された)。

 輸入相手国への査察の問題であるが、民間企業ではかなり実施されている。日本の厚生労働省などによる海外査察があると思われるが、EU規則や米国食品安全強化法などに基づく日本への査察をみると政府機関あるいはその依頼された機関からの査察頻度は、日本のそれに比べて多いと推測している。

 一方、ある国では、自国のHACCPシステムの規則はないが、輸入相手国にはHACCPシステムの規則を求めているケースもあるようである。今回のHACCPシステムの義務化においては、輸入相手国にHACCPの義務化を求めるのではなく、自国の食品事業者にHACCPシステムの導入を厳密に求めているような気がしてならない。ある統計では、消費者が不安に思っていることに輸入食品および原材料が上位に上げられている。このことから、こういう目的ならば、国内事業者のみに厳しいHACCPシステムを求めるのではなく、輸入相手国とその企業に対してHACCPシステムの査察を強化すべきであろう。

3.食品工場監査の問題点

 工場監査の問題について、以前のGAPニュースで述べたことがあるが、今回はまず、監査に関連する業務に関する用語について、表1に「監査ケーススタディ」(越智克吉:2007)から引用してお示しした。

表1 監査とは
用 語 用語の定義または意味
監 査 ある事象・対象に関し、遵守すべき法令や社内規程などの規準に照らして、業務や成果物がそれらに則っているかどうかの証拠を収集し、その証拠に基づいて何らかの評価を行い、評価結果を利害関係者に伝達すること
審 査 詳しく調べて、適否・優劣・等級などを決めること
検 査 製品、プロセス製品またはサービスが規定された要求を満たすことを、適切な測定・試験を伴った観察と判定から評価する系統的な実験
点 検 悪い箇所や異常などを一つ一つ検査すること
調 査 物事の不明な点や事実などを明らかにする

 この表では、監査、審査、検査、点検、調査などの定義などを述べているが、食品工場を対象として記述されたものではなく、経営的な法人監査などを対象にしている。しかし、対象が異なるだけで、監査などの基本的な考え方は同じと考えている。一方、食品分野では、技術的なこと、あるいは食品安全に関する専門技術的なことを重要視する余り、このような社会科学的な手法について評価しない傾向がある。

 食品安全管理における工場査察は、一般に「監査」と呼ばれている。しかし、意識ある食品経営者は、現在実施されている監査について、表1の視点から疑義を抱いていることをどれだけの監査員は自覚できているのか課題である。ある監査機関の責任者は、現在の監査員で、まともな監査員は10%、すぐ辞めて欲しい監査員は10%と公言している。すなわち、監査員の90%がグレー又はブラック監査員と言うことになる。私達はこの発言を真摯に受け止め、今後、監査員の教育・訓練のあり方を見直す必要がある。

4.グローバル取引における現状の問題点

 グローバル取引において、日本の食品事業者がグローバルスタンダードに適応できる法的規則を制度設計し、法制化することとされている。十分に正論であるが、日本の厚生衛生行政は、輸入相手国ではなく、自国の国内事業者に厳しくすることを優先しているような感じがする。その理由として、「外国人観光客の安全性を優先」と言ったことが上げられている。しかし、外国人観光客にとって、食文化を欧米化することが観光客の誘致なのではなく、台湾や韓国の屋台、タイのナイトバザールでの飲食店など、それぞれの文化を観光化し、インバウンドもそれを求めてしている。

 食品安全に関しては、最低限の要求事項として重要である。一方では、食品安全は絶対でないこと、特定の環境で発生した食中毒などのリスクを全ての食品に適応していること、リスクの発生頻度という視点が欠落し、リスクの発生件数である分子だけが一人歩きし、その対象の全体数である分母、さらにはリスク発生率などについては余り議論がされていないこと、さらにさらに、ケーススタディとケースコントロールスタディなどが問題点として議論されることが少ないことなどが問題であろう。

 このようにグローバルな対応としての国内規制を否定するものではないが、SPS協定が経済戦争の中に成り立っていると考えれば、規制の運用法も厚生行政の中で考慮する必要があると思われる。つまり、国内消費を対象とする事業者(中小・零細)への運用を考慮すべきであるという点である。

 一方、輸出および大手事業者は、国内規制はもとより、輸出相手国の規則に対応はできるものと思われる。しかし、対EU水産食品規則で見られる(後述)ように、対EU輸出国との比較においては、日本の規則要求事項の運用が厳しいように感じるのは私だけであろうか。グローバル取引における食品安全の議論は、技術論の中では科学的根拠に基づくものでなければならないとあるが、別な視点での議論を加える必要があるのではないかと感じている。

5.HACCPシステムとは

1)国際調和(Harmonization)

 「総合衛生管理製造過程」が創設された要因は、当時、「食品衛生法規格基準」の不適合製品は、国際調和=圧力(特に欧米からの輸入食品)であったことの認識が欠落していると思っている。すなわち、欧米規格との整合性が国際調和であると言える。日本の国内規格によって不適合の欧米製品は、例外事項により国際協調あるいは国際圧力に対応することであったと理解している。この例として、「丸総」≒ JAPAN HACCPの創設がこれに該当する。従って、当時、欧米からの食品添加物表示や食肉製品規格の改正は、グローバル化ではなく、国際調和と言う名のもとの国際圧力であったと考えている。その一つが「総合衛生管理製造過程の創設」であると理解している。

2)国際化(Globalization)

 国際化とは、国家間あるいは民間などで合意した認証のGlobal Standardについては、相手国からの査察(EU,FDA,USDAなど)により、国際規格を遵守するように求められると共に、国内規格への対応を求められる。しかし、一方では、日本の規格を海外に発信し、日本で策定した規格を国際社会に承認するように求めていくことが可能である。すなわち、日本発「食品安全規格」である。特に、それぞれの国の食文化、例えば日本の食文化である生食を含む「和食」、殺菌工程を含まない「発酵食品」などがこれに該当するであろう。

3)「総合衛生管理製造過程」の創設とHACCPシステム規制

 前述の通り、「総合衛生管理製造過程」の創設(1996.5)は、国際調和の中で法制化されたものである。その目的は、食品衛生法の製造基準に適合しない食品を輸入するにあたって「総合衛生管理製造過程」の創設によって食品衛生法の例外事項を設定したと言っても過言でない。従って、HACCPシステムの規制は、「総合衛生管理製造過程」の承認制度より著しく緩和すべきであろう。

4)HACCP義務化における食品衛生監視員への不安

 HACCP義務化・規制を想定した場合、これは私の推測であるが、来年あるいは来年度に国会審議を経て承認され、1年間の猶予をもって法制化されるものと思われる。これまでに食品衛生監視員に対して、厚労省は「HACCP教育/訓練が十分にできるのか」と言うことを不安に感じているようである。この事実は、評価者(食品衛生監視員など)による評価のバラツキが予測されることから、食品事業者としては困った状況になるかもしれない。「食品事業者のレベルが低い」などとの批判はさておき、早急に、評価者の教育/訓練をお願いしたいと思っている。

5)HACCP規制と現行の許認可事項

 HACCP規制が実施されていない現在、現行の営業許可、自治体および業界のHACCP、国際標準などとの「相互認証はなされるのか」という問題である。近年の状況では、移行期においては、零細企業などに対して、現行営業許可と併用されることも推測される。しかし、自治体や業界のHACCPについては、その内容に多様性があるので、相互認証は判断できないと思われる。しかし、業界のHACCPについては、農林水産省の協力の下で作成された「手引き書」に基づいて作成されたHACCPシステム関連文書は評価されるものと思われる。

6)HACCPシステムの要求事項

 Codexの「食品衛生の原則」の付属書であるHACCPガイドラインでは、要求事項については、「Must」「Should」「Will」の用語を使用している。しかし、日本語になると、その多くは「しなければならない」と翻訳されている。日本の食品衛生行政における監視は、「端から」「総花的に」実施されることが多い。しかし、グローバルな資料(例えばUSDA:米国農務省のFSIS:Food Safety Inspection Serviceの査察 )の評価内容には「重要度」「要求内容」などの概念によってランク付けがなされているようである。例えば、ISO9001:2015版の序文に記載されている要求事項は、表2に示す通りである。

表2.ISO9001:2015序文記載の要求事項
用 語 要求事項
Shall 「~しなければならない(要求事項を示す)」
Should 「~することが望ましい(推奨を示す)」
May 「~してもよい(許容を示す)」
Can 「~することができる」「~できる」「~し得る」など(可能性または実現性を示す)

 以上のことから、HACCP の12手順7原則の文書要求(申請文書)を見直す必要がある。その概要を以下の表3に示した。

表3.Codex HACCPの12手順7原則の要求事項
手順 段階 12手順7原則 
準備段階 HACCPチームの編成 Should
製品の記述 Should
意図する用途の特定 Should
フローダイアグラム Should
フローダイアグラムの現場確認 Should
7原則 ハザード分析 Should
重要管理点(CCP)の設定 Should
管理基準(CL)の設定 Must
重要管理点管理のモニタリングシステムの決定 Must, Should
10 改善措置の設定 Must
11 検証手順の設定 Should
12 手順及び記録に関する文書化の設定 Should

 上記の表からすれば、準備段階では全て「Should(~することが望ましい)」であり、7原則の中では、CLの設定、モニタリング方法の決定の一部、改善措置の設定の3つに「Must(~しなければならない)」の要求事項を求めている。それ以外は、全て「Should(~することが望ましい)」である。

6.対EU水産食品規制の問題点

 対EUの水産食品規制に関しては、ミラノにおける「食のオリンピック」(2015)で提供する予定であった「鰹節」が輸出できなかったことなどを契機に問題にされた。即ち、1.日本における規制許認可官庁の特異性、2.EU規則文書の翻訳と周知などの問題がある。表4は対EUの輸出水産食品に係わる各国の認定機関である。

表4.対EU輸出水産食品に係わる各国の認定機関
国名 認定工場数 認定機関
米国 947 FDA認定、審査実務はNOAA(海洋漁業局)
中国 567
インド 237 商業省
タイ 290 水産局
インドネシア 170 海洋水産省
韓国   64 農林水産食品部
スリランカ   29
日本   27 都道府県知事、保健所設置市長、特別区
大日本水産会HP資料を基に作成

 表4では、認定機関は、産業省庁が多い傾向にあるが、日本では規制省庁になっている。このような状況において、「食品安全とは何か」を見直す必要があると考える。補足資料として、表5に、対EU輸出水産食品に係わる各国の加工場認定数を示す。

表5.対EU輸出水産食品に係わる各国の加工場認定数
順 位 国名(認定加工場数)
1-10位 米国(947)、カナダ(627)、中国(567)、ベトナム(393)、モロッコ(358)、タイ(290)、インド(237)、ペルー(195)、チリ(174)、インドネシア(170)
11-20位 アルゼンチン(142)、チュジニア(107)、ニュージーランド(91)、トルコ(86)、ロシア(79)、オーストラリア(77)、バングラデッシュ(75)、イラン(70)、クロアチア(69)、ブラジル(66)
21-30位 大韓民国(64)、セネガル(61)、エクアドル(60)、グリーンランド(58)、南アフリカ(51)、モーリタニア(44)、メキシコ(42)、フィリピン(36)、台湾(34)、スリランカ(29)
31-40位 マダガスカル(27)、アルジェリア(27)、日本(27)、ナミビア(25)、マレーシア(23)、オマーン(21)、ウガンダ(20)、ベネズエラ(19)、パナマ(17)、イエメン(16)
41-44位 タンザニア(15)、アルバニア(15)、ガーナ(13)、ミャンマー(13)
大日本水産会HP資料を基に作成

 表4と表5から推測すると、認定機関が産業省庁か規制省庁かによって認可工場数が大きく異なることが推測される。このような状況では、日本の輸出振興は、国内事情の理由により抑制されることになる。

 一方、EU規則(原文)では、「好ましくないカビ」と書かれているが、日本の対EU輸出水産食品の取扱要領(翻訳)では、単に「カビ」としか翻訳されていない。すなわち、カビを用いた発酵食品は、輸出する以前に、日本国内の段階で輸出できないことになる。また、鰹節は燻煙工程があるので、煙に含まれるベンズピレンが問題となる。しかし、一般の燻煙魚のようにそのまま食べるのものではなく、主に調味料(だし)として食されるので、摂取しても極めて微量であるといえる。このようなそれぞれの食文化に関わる問題は、当該二国間での交渉における「MOU:Memorandum of Understand」に期待するものである。

7.食品安全オーバースペックが輸出に及ぼす影響

 日本の一部の消費者は、安全・衛生管理に完全性を求めており、それが可能であると誤認し、錯覚していることを認識していないと感じている。すなわち、一般に、食品安全とは関係なくとも、全ての物事に完璧性を求める国民性である。それ故、許容限界(Critical Limit)以下であっても、「ゼロリスク」を求める傾向にある。

 一方、このオーバースペックが中国などでの信頼を得ているようであるが、その多くは生鮮品であり、さらにその多くは「ゼロリスク」ではないが、その栽培、養殖、飼育などにおける品質の良さに、付帯的あるいは結果的に得られる安全確保技術の評価と思っている。すなわち、決して、「安全」を軽視するわけではないが、「安全リスク」より「品質リスク」の方が重要である食品群もあるという認識も必要であろう。

8.行政による食品監視と民間における第二者及び第三者監査の問題点

 監査する側(監査者)と監査される側(被監査者)の間において、いろいろな確執や優位性の中での問題が多い。しかし、それらの問題については、被監査者は認識しているが、監査者の多くはその問題点に気がついていない場合が多いことが多々見られる。それを一言で表現すれば「監査者は先生になっていることに気がつかない」で処理できる。表6は、行政監査、第二者および第三者監査対応のための一般事例について述べたものである。

表6.行政監査、第二者及び第三者監査対応のための一般事例
  1. 基本的に監査者と被監査者は対等であることの前提(認識)
  2. 指摘及び指導事項に対する対応
    1)指摘及び指導事項に対して、その根拠を求めること
    2)指摘及び指導事項で明示された根拠に対し、
    ① 根拠の妥当性を議論
    ② 妥当性が確認されれば、それを遵守しない場合のリスクを確認
    ③ リスクに対して、発生頻度と重篤性を確認
    ④ その対策のための費用対効果(コスト・ベネフィット)を議論
    ⑤ 状況によってFlexibility(柔軟な)対応を模索する(ハード&ソフト)
  3. 監査員とコミュニケーションが取れない場合
    1)監査内容を監査者又は被監査者が記録を取る
    2)記録内容を双方が確認してサインをする
    3)上記2)が難しい場合は、録音を提案する
    4)録音不可なれば、文書で協議する
    5)被監査側は、記録に基づいて改善する覚悟が必要
  4. 上記、3の対応は、「監査者と被監査者は対等」を確認した上で監査者または上級監査者(又は組織)に理解を求める
  5. 状況によっては、監査記録を根拠に「監査員の担当変更」「監査組織の変更」などを考慮する

 以上、表6に示した行政監査、第二者及び第三者監査対応のための一般事例について、詳しく説明する必要はないと思う。それぞれの監査現場で、監査員と被監査員が表6の関係を配慮しながら監査業務を進めて頂ける環境ができれば幸いであると共に、それが、監査者側と被監査者側とは、「対等である」と思っている。

 以上のように、今後、HACCPシステム義務化へのプロセスにおける問題提起をしたが、現状は、監視/監査サイドおよび事業者は、共に「HACCPパニック」に陥っており、「HACCPマジック」の状態であると推測している。したがって、今までのHACCPの概念を取り除き、「HACCP is Simple、Simple is Best」をベースとして、「Trade off HACCP」がどこまで許容できるのか、「丸総」からどのように脱却できるのか、これらは行政/事業者/監査機関などの課題であり、それをそれぞれの「食品現場」で実施することが、HACCPの「Flexibility(柔軟性)」であり、結果として、日本の安全確保は、低コスト化、迅速化、事故率の低減化などの効果が、HACCPを導入する中で見いだされると思っている。このことは、過去における日本のHACCP導入過程への反省がないと、「なかなかできないこと」であることは断言できよう。

2017/4


GAPの先進地スペインの現地研修ツアー2016の報告

多田 誠 ティーエーディーエー

 2017年1月30日から2月3日の5日間、日本生産者GAP協会が主催する掲題のツアーに参加した。5日の間に、行政、農場、選果場、セリ市場、資材メーカー、ITベンダー、認証機関など、多岐にわたる訪問先があり、計11ヵ所の視察を行うという盛沢山の内容となっていたが、見学した範囲でも、欧州の農産物生産基地であるスペインの全体像に近いものを知る良い機会となった。持続可能な農業と地域振興のためには、EUや行政のバックアップ、農産物バリューチェーンの最適化のためのERP(Enterprise Resource Planning)等のシステム活用、現場でGAPを指導するテクニコ(農業技術指導員)が重要なキーワードになると感じた。農場認証としてのGAPに関しては、これを特別に意識することもなく、当たり前の前提として取り組んでいるという実態が最も印象的であった。以下に訪問先順にその概要をまとめた。

◆1日目

1)カタルーニャ州農畜水産食品大臣との面会

 Departament d'Agricultura, Ramaderia,Pesca i Alimentacio、農畜水産食品大臣他3名、嵯峨濃明子氏(在バルセロナ日本国総領事館) 同席

  • カタルーニャ州の農業の実態(2004~2014年)について冊子に沿って概略の説明を受けた。カタルーニャ州の輸出先はEUに次いで日本であり、その60%は肉(内90%が豚)であり、ワイン等である。カタルーニャ州は60%が森林で、都市が10%、残り20%が灌漑された農地である。
  • EUやスペインの方針を受けてEUのGAPのルールに従い、カタルーニャ風にアレンジした州政府のGAPルールに従い、畜産はこれに動物福祉を加えている。カタルーニャ州のGAP規範を決め、その指導に力を入れている。 カタルーニャ州では、農業生産者に対するコンサルティング、トレーニング、技術補助を行うテクニコ(農業技術指導員)がその主役となる。テクニコは農業系の大学を卒業し、更に専門のトレーニングを積んだ人が州政府の資格試験に合格して就任する。
  • 農家の若手(40歳以下)の後継者を育成するための農業専門学校が14校ある。この農業専門学校は、失業率が高いスペインにおいて、就労率を上げるための手段でもあるという。
  • カタルーニャ州としてIRTA(Instituto de Recerca i Tecnologia Agro-alimentaries)で、R&D(Research and Development)は行なっているが、GLOBAL G.A.P.(以降GGAP)についての直接的な支援は行なっていない。GGAPは民間のシステムであり、企業側の問題でしかないので、行政は口を出すべき問題ではないという考え方であった。
  • 「GAP政策の課題は」という質問に対して、「窒素循環のアンバランス」と応えていた。畜産の糞尿排出量と穀物生産圃場での窒素分の消費量のバランスが取れていないということである。そのために糞の処理を適切にしないと畜産の規模拡大ができないという(糞尿処理内容と圃場への投入量の記録等が必要)。
  • 農業への補助金は70,000~80,000ヵ所の農家に対して、56,000件の申請があり、申請者の中の10,000件が環境保護に関する補助金を受けている。この差の46,000ヵ所の農家は、CAPによるEUからの直接支払いが行われている。補助金は農家収入の20%程度であり、地理的に不利な人、若い人、女性などに対して補助金が有利に受けられるようになっている。補助金を得るにはビジネスプランの提出が必要であり、スペインの国からの補助金は減っているという。
  • EUの直接支払いの施策としてgreeningという施策の説明があった。EUの2014年から2020年のプログラムにgreeningが入ってきた。EUとしての農業・農村開発施策(CAP)の一環としての直接支払い制度のことであり、詳細は以下のurlを参照して頂きたい。 https://ec.europa.eu/agriculture/direct-support/greening_en

◆2日目:ソルソーナ

2)グランハ ゴダイ:養豚・加工農場訪問(Granja Godall)

 Gganja Godall(豚肉加工所→飼料生産農場→養豚農場→農家で試食)

  • 飼料作物の栽培から配合飼料の生産、養豚、ソーセージ・生ハム加工まで一貫生産している農家を訪問した。この農家は、1800年代から200年以上の歴史を持ち、360haの広さの農場を持つ。農場では6,000tの飼料を生産し、収穫した飼料はトラックごと計量し、飼料の配合を行っている。抗生物質を使わない初めての工場であり、糞尿は堆肥化しているが、規制では380haに撒く必要がある。実際の作物圃場は280haであり、余剰の堆肥は他社に供与している。この場合、輸送費のみ自社持ちであるが、将来は堆肥の引取りも有償になりそうである。この農場も、堆肥の生産と自家農場での消費のバランスが取れていないのが実態であるが、地域全体では堆肥が不足しているので、余剰の堆肥は引き取って貰っている。
  • 毎年16,000~18,000頭の豚を出荷しているが、15~20%は自社での加工へ回し、他は屠殺場へ卸している。卸したものはここでカットできるが、自社ブランドの管理はしていない。一般的には110ユーロ/頭で取引されているが、この農家のものは130ユーロ/頭と高く取引されている。飼料の消費量は、肉1kgあたり2.8kg(一般は2.5kg)なので、その分コストはかかっている。豚の品種の維持のためには、病気の予防などの衛生面に注力している。そのため、屠殺場との行き来のトラックは汚染源になる可能性が大きいので、専用のトラックを使っている。加工品は、毎週3,000kg出荷している。
  • ライ麦、小麦、トウモロコシ、大豆、菜種などの飼料作物は、栽培から加工まで自社で資材を循環させており、飼料の配合については、抗生物質などに頼らず、乳酸菌など使って豚の腸内環境を改善して健康な管理を行い、飼料の加工時も市販の配合香辛料や調味料など使わずに独自の製品づくりを行っている。
  • 飼料は100%自給している。豚の品種もドイツにある業者が開発したオーガニックな品種(デュロック・ゴダイ)をスペイン内で独占的に肥育する権利を得て肥育している。豚の品種開発に4年、その後1年間、肥育テストと、顧客による食味調査を行なって生産に入った。赤身部分に適度なサシが入るように肥育するのに苦労している。フレッシュな生肉用は生後6ヵ月までで、9ヵ月から12ヵ月が生ハム用である。
  • 豚舎内は、確かに異臭やハエ等がなく、健康に育っている感じであった。豚舎の各部屋には排気用のファンがついているが、排気しないと高温になるので、停電等でファンが止まると携帯にアラームが入るようになっていた。
  • 生まれた豚は、授乳期を過ぎるまではオス・メス分けずに育て、授乳期が過ぎると分け、オスは男性ホルモンで肉が固くなるため去勢する。EUのルールに則った工場で飼料から加工までの一貫プロセスで年1回の審査がある。アニマル・ウェルフェア(動物福祉)に関しては、カタルーニャ州の監査が年1回、畜産農場の総合認証(CALITAX)については、年2~3回ある。
  • 以前から自家製のソーセージを製造していたが、5年前に新しく加工所を作った。費用の100万ユーロの内、30万ユーロは補助金である。建物を平屋にすると州の許可が必要で、許可を得るのに2~3年かかるので、短期間に許可を得るために加工所は2階建にした。この加工所は小高い丘の上にある。標高が高いからか、この時期、周りは一面の小麦畑であり、他の植物(木や雑草類)は見当たらなかった。
  • 加工工程は、屠殺処理のみ外注し、入ってきた肉はロット単位でのトレーサビリティ管理となっており、その履歴は伝票に記載し、ロット番号や屠殺場のマークが肉本体にマークされていた。この番号が最終の商品までついて回るようであった。肉の塊を部位ごとに切り分ける工程では人がやっているが、押さえる方の手に金属製の網の手袋を使用している。これも作業者の安全確保を考えた規制であり、義務化されていた(細かいことだが、左利き用も準備されていた)。腸詰用の腸は購入品であった。肉のカット後2~3日間熟成し、ミンチ → ひき肉 → ソーセージ製造 → パッケージ、ラベリングの順で処理加工される。
  • ソーセージの場合は、腸詰め後の熟成(カビを生やす)のやり方にノウハウがあり、湿度コントロールとのことであった。早く乾燥させると固くなり、遅いと柔らかくなる。元々持っている水分を時間軸でコントロールすることで、一定の水分を保つようにし、このための専用の熟成庫があった。湿度センサーの情報が携帯に入るようになっており、乾燥機の稼働指示も携帯からできるようになっていた。

◆3日目:エレヒド

3)エレヒド市役所農林部訪問 (Anyutamiento de El Ejido)

 市長、市農業委員長、エレヒドの企業家、農家の方々との面談し、エレヒド市50年の歴史の説明があった。

  • ・エレヒド市の特徴は、天候が良いこと(3000hr./年の日照時間、年間平均気温21℃)、起業のパワーと努力に優れていることが市の発展に大きく寄与しているといえる。エレヒド市としては、物資の配送、苗木の調達、技術のR&Dなどに注力している。ほぼ100%の農家が農薬を使用しておらず、13,000haのハウスの内の10~13%はオーガニックであり、新しい技術を導入して、さらにオーガニック生産を増やす努力を続けている。これまで、エレヒド市の発展は、起業家がリードしてきたといえる。
  • ・エレヒド市の発展は1960年代からスタートし、初期はブドウ栽培用の棚の作製技術から、1970年代のハウス製造技術に発展し、苗木の生産などに業態を拡大していきながら大きくなってきた。農家の80%以上は家族経営であり、これが協同組合化していった。GAP認証は1990年代に徐々に導入され、生産体制が変化してきた。テクニコが生産者と流通を含む実需者との間を繋ぐというミッションを持って対応している。特に実需者の要求を生産者に伝えるテクニコの役割は大きく、GAP認証の必要性などを伝える役割を担っている。
  • アルメニア県の中でエレヒド市が農産物の出荷の50%を占める(13,000haのハウスで300万t/年の生産)。今後の方向性は、持続可能な農業の追求である。このために、①水の確保(海水の淡水化、グラナダの地下水の活用、泉の水の利用)、②残渣の活用(作物の枝などの栽培残渣約100万tのコンポスト化、規格外農産物等の食品残渣約5万tの飼料化)、未利用農産物のリサイクル、③価格変動への対応(価格の安定化)などに力を入れている。また、農業+観光(ゴルフ場、ヨットハーバー等の建設)にも今後は力を入れる計画である。農業の持続可能性という面で、石油由来の資源への依存を減らすため、ハウス資材については100%再資源化し、電力等も再生可能エネルギー(貯水湖にソーラーパネルを浮かべて発電する等)への転換も行っているが、補助金の負担が大きくなっているのが課題である。
4) アグロポニエンテ:農協のセリ市場+選果・包装工場訪問(Agroponiente)
  • 5ヵ所に選果場を持つ農協で2,500農家が組合員、出荷する農家は4,000名で3,000haが生産者のコードを持っていて、農協のERP(Enterprise Resource Planning)システムでの管理の対象になっている。35万t、22,500万ユーロの売上げがあり、輸出が70%を占めている。仕向け先は27ヵ国であり、大きいのはドイツ、オランダ、フランス、U.K、ポルトガルである。この農協は従業員900名を抱える。
  • 2,500軒の農家については、契約時には認証を取得して貰う。98%はGGAP認証をベーシックなものとして取得している。認証の取得には技術支援も行っており、テクニコ20名、品質管理5名がサポートしているが、支援を受けている農家は限られており、1,500軒の農家は自分達で認証を取得している。
  • 農家がこの会社と取引するメリットは、①技術サポート、②高めの買取り価格、③午前中出荷すると、その日の午後に入金される支払いシステム、④出荷拒否も可能なこと、などである。
  • 最近では、アボガト、パパイア、チリモヤなどの果実も始めている。オーガニックは3年前に始め、現状ではオーガニックの比率は10%程度である。
  • セリは電子化されており、前日の同一品目の落札金額に対し110%の価格からスタートして、入札価格を下げていく仕組みである(日本の花卉のセリに似ている)。バイヤーは価格のみで入札し、その後に実物を見て品質を見定め、購入量を指定する。この段階では、生産者には「どこに、幾らで売れたか」が携帯に連絡が入る仕組みになっている。このシステムはERPAGRO ESPATEC社製である。荷を受け入れ、セリを行う建屋と、選果・梱包を行う工場は異なっている。
  • 現在、モロッコ等のアフリカ産のGGAP認証農産物との競争が始まっているが、アフリカのGGAP認証は怪しいとしてEUが監視を強化している。
5)小規模協同組合の選果・包装工場訪問(Acrena SAT 251)

 入荷、保管、選果、梱包の一貫工場である。入荷したロット毎に番号が振られてトレーサビリティ管理される仕組みを持っている。

  • 86名の組合員で構成する農協で、圃場は組合員平均で5ha、合計で450haの農場が対象である。86名の会員は100%が家族経営で、1家族2名が平均的である。農産物の90%が輸出用で、仕向け先はU.K、オランダ、ドイツ、北欧、U.S.A、カナダである。国内出荷は夏場のスイカ、メロンのみで5,000万ユーロの売上げがある。98%は選果場の近辺に住む農家である。
  • 毎年4月に、9月から翌年6月までの週間出荷予想量を各農家に提出して貰い、これの70%を生産プランとして使っている。残りの30%は、変更のある量として、リスク対応の在庫として扱っている。
  • テクニコは4名雇用しており、毎週1回はすべての農場を巡回している。テクニコのサイン無しには、勝手に肥料や農薬を使えないなど、バイオロジカルコントロールの全ての指導を行っている。ただし、決定権は生産者自身にあり、テクニコの結果責任は問われないが、テクニコの指示に従っていれば天候、気温等の要因を除いて管理上のリスクは少ないといえる。しかし、結果を出せないテクニコは、解雇されることもある。GGAP認証の詳細に関してはアップデートが多く、コンサルティング会社や認証会社などの指導を受けている。
  • GGAP認証の取得は、10年以上前に組合員の100%が達成しており、基本はオプション2である。最近ではGRASP(GLOBALG.A.P. Risk Assessment on Social Practice)への対応も2016年4月に組合員の100%が認証を達成している。オーガニック(リーフ認証)は450ha 中の24ha(6%)である。英国の高級スーパーであるマークス&スペンサーの要求には、LEAF Marque(Linking Environment And Farming)認証で対応している。

◆4日目:エレヒド

6)ハウス資材会社の試験ハウス訪問(Criado Lopez)

 エレヒド市のハウス用資材の30%のシェアを持つ会社で、2400万ユーロの売上げがある。資材の製造は別工場で行い、ここでは顧客向けのサイズへのカット、縫製作業を行なっている。この会社は、資材提供までであり、実際の敷設作業は、農家自身や専門業者が行っている。資材販売がメインであり、常に在庫を抱えてスピーディーな対応や、R&Dなどのサービスで差別化している。近年、温暖化の影響か、次第に暖かくなっているので、害虫が増えており、害虫防除のためのネットのニーズが増えている。

  • 同社は、大学などと連携して唐辛子エキスを含浸させた不繊布の開発などを行なっている。
  • 同社は、農業情報の獲得のために、3000㎡の実験・評価用のハウスを設置している。視察ではパプリカ栽培用のハウスを見学した。この実験用ハウスを使って栽培試験も行なっており、灌漑水への酸素、オゾンの注入効果、ヒドロジェルの活用などの試験を行っている。現時点では、コンサルティングは行わずに、資材販売に特化している。将来の方向としてはコンサルも考えているとのことである。資材は100%リサイクルを目指しており、GAPの面では、害虫防除用の資材という位置付けで捉えている。
  • 現在のニーズは、水不足対策、異常気象への対応、収穫量を増やす技術などである。
7)ラスパルマス:AGRONECA S.A.T 代表者のハウス訪問 (Las Palmas)

 見学したのはナスのハウスで、アルメニアでは最もナスの出荷が多いハウスである。S.A.Tの他の100名の農家は、ズッキーニ、トマト、ナスを多く生産しており、仕向け先は、95%が欧州で、U.K、フランス、アイスランド、イタリア、オーストリアなどである。売上げは15,000万ユーロである。

  • ハウスはネットで、色はイエロー、ブルーである。ミツバチを授粉用に使っている。9月から翌年6月までが収穫時期であり、毎週一箇所2回の収穫作業を行っている。栽培は4本立てで、Grow Bag(5~6年は持つ)を使用し、個別灌水施設を使っている。7~8月は残渣を全て撤去し、ビニルカバー+散水+太陽光による土壌消毒を行っている。残渣にプラスチック類などが混入すると引取りは有料になり、なければ無償で引き取って貰え、コンポスト化される。ハウス資材として約8,000tの主にポリオレフィンのプラスチックゴミがでるが、リサイクルの費用は農家の負担である。
  • トラクターとフォークリフト兼用の農業機械(写真)があり、これは農家のニーズに応えたものと考えられる。
8)農協ムルヒベルデ(Murgi Verde CSA)

 ムルヒベルデ農協の選果場を見学した。ここを含めて組合として4ヵ所の選果場を持っており、内2ヵ所はオーガニック専用である。組合員は500農家で、圃場面積は1,300haであり、内400haがオーガニックで、オーガニック面積比率ではこのS.A.T.が最も高い。組合の従業員は1200名で、売上げは15,000万ユーロで99%は輸出であり、欧州とU.S.A、カナダ向けである。

  • 認証は全ての農家で対応している。GGAPはベーシックな認証として対応し、その上に顧客が要求する認証(GRASP 、Nature's Choice、LEAF、BioSUiSSE・・)を取得している。選果場が取得している認証はBRC(British Retail Consortium)、IFS(International Food Standard)である(これらの認証取得は訪問した全ての農協に共通している)。
     スーパーマーケット間の差別化として個別の要求が増えているのが実情である。そのための仕掛けが選果場内の至る所にある。異種混合ライン(異種とは顧客別という意味)という印象であり、例えば、同じロットのパプリカを多様な顧客(ストアー・ブランド)向けに商品化して流している。スーパーマーケット別のパッケージで出荷しており、農協独自のブランドによるマーケティングは行っていない。

◆5日目:アルメリア

9) 認証会社アグロコロール(Agrocolor)
  • 作物別、輸出先別にすると55種の農業関連の審査、認証へ対応している。現在1農場が取得する認証スキームは4~5種類である。主な認証制度は、UNE15500認証(GLOBALG.A.P.の同等性認証を取得): 3434農場、6400ha、GLOBALG.A.P.認証(全ての農業者にとって最低限の規準):6890農場、3270ha、BioSUiSSEなどのオーガニック認証:2096農場:52000ha(アーモンド・オリーブを含む)、GRASP:GLOBALG.A.P.のQMS監査と同時に行う農業従事者の待遇(人権・給与等)を規定する。スイスで販売する際はこの取得が必須である。Nature's Choice:英国のスーパー・テスコの独自認証、LEAF(Linking Environment And Farming)、IP認証(アンダルシア政府のインテグレイテド・プロダクツ)その他に、農産物を取り扱う農協などでは、BRC(British Retail Consortium):英国系、IFS(International Food Standard):フランス系、ドイツ系のスーパー等で取得が必須とされる。他にも、原産地呼称のディオ(DOP)等、多くの認証がある。DOPは誰が保証し誰が保護するのかについては、そもそもはEC(欧州連合)の規制なので、各国の認証機関が認証する。即ち、行政の代りにアグロコロールのような会社が行う。認定・保護はスペイン政府が行っている。
  • 審査員数は、全社員53名中正社員は35名で、契約社員は4名である。対象地は95%が国内で、その他は南米、北アフリカ(モロッコ、セネガル)などである。クライアント(依頼人)数は、GGAPでは400~500件で(オプション1が50%、オプション2が50%)、トータルで3500クライアントである。インスペクターの目合わせ教育としてスキームマネージャーがおり、代表として外部で勉強してきて社内で勉強会を年1~2回行っている。
  • 検疫、残留農薬検査の内容は、農産物の実と葉であり、農業に用いる水、土の検査である。
  • GGAPの実施の受審者は、オプション1は 農家、テクニコ、農協のテクニコであり、オプション2は、農家、テクニコである。
  • アグロコロールのスペイン国内でのシェアは、1位から2位であり、コンペティターにはSGS、ビューロベリタス、テュフズードなどであるが、他社は農業以外の認証も扱っている。
  • 「55種の認証」というが、本来GGAPは共通化のためではなかったのか、と言う疑問に対しては、むしろ「55種に削減されている」ということであり、GGAPは大前提であり、この認証が無いと輸出ができないことになる。欧州の大手チェーン店は、これに更に上乗せした規格の認証を要求している。80%はGGAPのみで対応しているが、55種も残っている理由は、実需者側、生産者側(DOP)の両者にニーズがあるからである。
  • 農家の費用負担については、GGAPは、小売り側が要求した場合は小売りの買取り価格に上乗せして買ってもらう。複数の規格の認証審査を行う場合には、まとめて1回の審査で対応が可能で、費用もその分安くなる。
  • なぜGGAPが普及したのか、その理由は、スペインのキウリ、英国の牛肉について、グリーンピースによる不買運動などがあり、流通側が責任を取りたくないので、農業現場での認証が定着し、今も拡大しているのではないか、と言うことであった。
10)イスパテック:農協系銀行のシステムベンダー(Hispatec)

 大手農業法人の60%がイスパテックのシステムを使っており、このシステムの利用については、テクニコの役割が大きい。それがスペイン農業の在り方になっており、農業専門のERPシステム開発会社は他にはない。創立は1985年であり、18%は銀行が出資している。従業員は100名で、スペイン以外ではペルー、メキシコ、モロッコなどで、600万ユーロの売上げがある。

 主要ユーザーは農家、農業法人、農協(S.C.A、S.A.T)である。

 このシステムでは、種子、肥料・飼料等の資材から、生産工程、賃金の面までの管理が可能で、農場、選果場、工場までトータルに管理ができる。携帯またはパソコンでオペレーションが可能であり、農場にいても携帯でオペレーションが可能で、そのままERPに情報がインプットされるようになっている。GIS情報(マップ情報)とリンクも可能である。また、その場で天気予報も見られる。

 農家はテクニコから指示をうけて作業などの実績を入力する。実際のデモ画面では、テクニコの氏名を入力するフィールドがあった。このシステムは、誰が入力しても使えるが、実際の使い方としてはテクニコが使うようにできている。スペイン国内では既に400社に販売しており、アルメニア/グラナダ地域では65%のシェアを持っており、スペイン国内では大企業の50%が使っている。IoTやAIについては、今後EUからの補助がありそう、と期待している。スペインは、今や世界でも上位の農産物輸出国であり、世界の農産物需要に対応してきた実績とノウハウがある。生産から消費者まで一気通貫のシステム専用の会社である。

11)有機農産物の生産法人「ビオサボール」(Bio Sabor S.A.T)

 ビオサボールの農場の70%は兄弟4人で回している、残り30%も親戚のものである。

 雇用は、農場が300名+α、選果場が約300名で、売上は4,300万ユーロである。200haのハウスで生産している農産物の100%がオーガニックである。生産品目は、トマト、キウリ、ピーマン、ズッキーニなどであり、加工品としては、ガスパチョスープ、トマトジュースで、後者は日本にも輸出しているとのことである。ミニトマトの「チェリーエンジェル」はここだけの品種である。防除には硫黄燻蒸を行っている。生産期間は10月から翌年7月までで、8月にまた新しく定植し、10月前半ぐらいから再び出荷を始める。この簡易元肥として、羊の糞+麦の堆肥、転耕+有機肥料(硫酸塩(硫酸加里)を入れている。その他は、水、カルシウム、カリ肥料である。

 新しい選果場は2016年9月にオープンしたばかりで、トレーサビリティの仕組みができあがっている。選果場でBSブランドのものやユーザーパッケージのものに包装している。生産量の90%が22ヵ国への輸出で、オーストリア、オランダ向けの輸出が多い。今年はパパイアの栽培も始めており、テクニコは6名である。日本ではトマトの洗浄はやらないが、ここではトマトの洗浄を行っており、水のみでの洗浄なら鮮度保持に影響がないことを評価・確認しているとのことであった。硫黄燻蒸を行っていることから、硫黄成分を洗浄するという意味もある。

 設立時の総コストは、土地・設備に600万ユーロ、内数の370万ユーロの50%は補助を受けた。消費期限の7~15日間を決める要因は、色、糖度、菌数、硬さであり、保冷トラック輸送も同じ基準である。GRASPへの対応として言語トレーニングなども行っている。トマトの品種開発は、シンジェンタ、モンサントに依頼している。オーガニックの需要が伸びているのは、販売のメインがドイツだからであり、フランスが今後伸びるとみているが、全体的に伸びているといえる。

 BSのFB:https://www.facebook.com/empresabiosabor/posts/725407097629089

2017/4


株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載26回)
~各種人材育成支援に取り組んで~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 地元の有田中央高校のインターシップ(就業体験活動)を支援した。平成29年1月31日、2月1日の2日間、弊社の生産部門に3名、系列の流通部門の「サンライズみかんの会」に4名の生徒を迎え、就業体験をして貰った。この制度は、高校1年生に対して、将来就業する可能性のある業種や事業所での実習を通じて、将来の進路に向けて具体的なイメージを持つとともに、2年生以降におけるコースの学習について見通しを持つのが目的として実施されている。

 この高校は、かつて農業専門高校として栄えた時代(著者が生徒だった頃)には農業コースがあったが、現在は普通科のみになっており、総合学科として農業コースが存在するが、十数名と少数になっている。弊社で体験した生徒の内、1名が近隣農家の子弟であり、その他の生徒は非農家の子弟であった。体験学習を終了した後は、全員が農業への興味を示した。

 実習体験指導を弊社の社員に任せたのがよかったのかもしれない。社員の一人は同校の卒業生であり、この制度の体験者であることから、うまくリードしてくれたようである。実習では、温州みかんの剪定技術を指導したところ、学校に帰ってから「温州みかんの選定が出来るようになった」と生徒が先生に自慢したと学校から報告を受けた。社員らは教えることの難しさを知ったようであるが、いづれにしても双方にとって良い学習の場となったと考えている。

 同校の教育課題に「生き方・在り方ゼミ」というのがあり、これに著者が農業生産法人として講師を務めた。2年生を対象に「様々なことでチャレンジし続けること」の大切さや、「日々一生懸命取り組むことが成功に繋がること」など、「社会で生きていく上で必要な心構えを教えて欲しい」との要望があり、課題が大きいので受けることを躊躇したが、農業分野の講師が少ないというので協力することにした。

 2月17日当日、学校に着くと24名の講師が一同に会して講義方法の説明を受け、それぞれの教室に向かった。やはり農業部門を受け持ったのは早和果樹園社長の秋竹氏と地元の農産加工業者、そして著者の3名であった。教室に入ると5名の生徒が待っていて、座談会形式で話し合いをした。生徒たちは卒業後の将来の目標について語ってくれた。1時間毎にクラス替えがあり、計8名の生徒を担当した。それぞれのクラスに農業を目指す生徒がいて、一人は農業大学校への進学を、もう一人は「農業に就農したい」としっかりと語ってくれた。学校の先生方の指導もあって・・と思うが、「それぞれがしっかりとした口調であったので安心しました」と担当の先生方に報告し、楽しい時間を過ごすことができたと挨拶して帰路についた。

 以上が高校生への支援活動の一端であるが、2016年度4月には、和歌山大学に食農総合研究所が設立された。その目的は、「地域創生」を牽引する人材の育成を目指して、和歌山県域内における農林水産物や食品の付加価値を高めることであり、地域経済の活性化に寄与することを目的とした研究を「学生教育に活かすこと」としている。最初の4年間は、文部科学省からの支援があり、その後の在り方は成果次第であるという。

 研究課題に、①都市と農村の共生、②地域資源の活用、③ICTの活用とあり、著者がICT活用のアドバイザーに依頼され、3月3日に初めてのアドバオザー会議に出席した。国の財政諮問会議にも登場する長野県飯田市の牧野光郞市長をはじめ、「チョーヤ梅酒」の専務取締役、日本総研の主席研究員、京都大学の教授など、他のアドバイザーの顔ぶれに驚いて、ちっと引いてしまったが、農業出身者は著者以外にはいない。会議では、GAPに触れ、ロンドンオリンピックにおけるレッドトラクターの役割などについて話をし、農業認証について提案したが、これにICT担当の教授が興味を示し、幾つかの質問が出た。アドバイザー会議の終了後、牧野市長の公開講座があり、聴講した。終了後の市長らとの雑談の中で、農業も地域連携をもっと強化しなければいけないことを学んだ。今後、この組織の動向は、弊社との関わりなど含め、機会があれば紹介していきたい。

 さて、弊社の本業では、昨年10月から「農の雇用事業」による社員教育に入っている。昨年3月、農業大学校の新卒者を社員に迎え、「農の雇用事業」による助成金を申請し、平成28年度の第3回で採択され、今年の2月に第1期目の助成金交付申請を行った。その結果、決算期の3月中に助成金388,000円が受けられることとなった。今回、弊社は2度目の採択を受けたが、2年間一括申請で毎年の申請は必要ないようであるが、正規社員として採用して4ヵ月が経過した後でないと申請できないように規制されていた。採択直後に事業実施説明を受けたが、参加農家から助成金交付申請書が簡素化されれば、申請したい近隣農家がいっぱいいることが告げられた。やはり報告内容は、1ヵ月単位から週単位に研修生と指導者の感想と所見を書き入れなければならないようになっていた。弊社としても、良い記録になるので有効活用させて貰っている。これは、研修生と指導者が共にICTを活用しているから容易に出来ているようである。「農の雇用事業」の担当者によると、現実に採択者の中にはICTが導入されていない場合があるので、申請指導に時間が必要であり、また、申請者も「これが大仕事である」と訴えていた。

 弊社では、2017年度の新卒者を新しい社員として迎えたいので、3月7日に農業大学校に対して社員募集を正式に依頼した。会社を設立して丸5年が経過し、少しは農業の後継者育成への支援が出来たかなと自負しているが、外部評価を受けるには経営実績を高めていかなければならないと考えている。

和歌山大学食農総合研究所 パンフレット引用

2017/4


編集後記

 今回は、1月の「スペインGAP研修ツアー」、2月の「GAPシンポジウム」、3月の「農業のHACCPセミナー」と、当協会にとって大きな行事が立て続けにあり、協会のスタッフの皆さんはこの時期超多忙になり、1ヵ月遅れになってしまいました。本来であれば、スペイン研修ツアー特集、GAPシンポジウム特集などを組ませて頂くことになりますが、スペイン研修ツアー特集の代わりに、協会監事の多田さんの報告書で特集に替えさせて頂きました。

 今回は、義務化が近いと言われていますHACCPについて日佐理事に特別寄稿して頂きました。日本は県別・物別HACCPという「特殊なHACCP」になっており、また、輸出用の国内商品に対してHACCP認証を求めており、本来、日本への輸入品の相手国とその企業に対してHACCPの順守を求めるべきものが疎かになっているようです。

 また、スペイン研修ツアーについて、多田さんに報告して頂きました。この中で、欧米でなぜGGAPが普及したのか、その理由は、スペインのキウリ、英国の牛肉について、グリーンピースによる大規模な不買運動があり、スーパーなどの流通側がこれらの責任を取りたくないので、農業現場での安全認証が定着し、今も拡大していると言うことでした。ところが、日本のスーパーなどの流通側は、同様に責任を取りたくないので、欧米のような農場認証ではなく、農家や加工メーカーに責任を転嫁するようになっています。これが、日本での農場認証が進まない理由になっているようです。そして、海外からGGAPの認証を求められると、輸出用GAP認証と言うようなおかしなことになっています。本来は、環境汚染を犠牲にして安い農産物を生産したものが日本に入ってこないようにするはずのGGAPですが、それを「開発途上国から求められる」というおかしなことになっています。日本は、環境負荷を犠牲にして安い農産物を輸出している国なのでしょうか。

 佐々木さんの連載記事も26回を数えます。いよいよ、地域を牽引する人材の育成を目指して活動を始められました。実りある成果を期待しています。

2017/4