-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 51号

《巻頭言》
『情報ネットワークのセキュリティ対策の重要性』

中島洋 美ら島沖縄大使
株式会社MM総研所長

 生産者GAPは「持続可能な農業」を追求しているが、ネットワークを基盤にして高度に発達してきた私達の住む社会も「持続可能」を目指している。今、そのネットワークの基盤が激しく揺さぶられている。もちろん「持続可能な農業」はネットワークを不可欠のインフラとして利用している。その基盤が揺るがされているとあれば重大な危機である。

 情報ネットワーク社会の「危機」のうち、以下の2つを点検してみる。

 1つは、国境を越えてやってくる「サイバー攻撃」である。かつては技術オタクの個人的な愉快犯が中心だったが、いまは利益を目的にした犯罪者集団や国家を背景にした専門集団が、情報の窃取や改ざん、システムの破壊といった攻撃を加えてくる。

  次に、災害による情報ネットの機能不全である。大地震や暴風雨などの自然災害やテロ、疫病の流行による人的資源の欠損などに由来する情報ネットの停止である。

  先ず、最も大きな脅威はサイバー攻撃(サイバーテロ)である。手口も巧妙で多岐に及んでいる。攻撃の内容が派手で、影響がいち早く発覚するのは「DDOS」と呼ばれる攻撃だ。あるシステムに一斉にアクセスを集中させて、そのシステムを機能不全に陥らせる。欧米でも、日本国内でも、国税庁などの中央官庁のサイトや新聞社、航空会社のサイトなどが、この攻撃でアクセス不能になり、サービスが利用できなくなる事件がしばしば起きている。

  農産物のネット通販ビジネスなどはこの脅威にさらされている。農産物の物流情報のシステムに攻撃が加えられれば物流が大混乱に陥る。農産物が消費地に届かない事態や輸送途上に長時間滞留して品質の毀損の恐れもある。システムに保管していた作業記録が喪失すれば、生産者GAPの仕組みが打撃を被るかもしれない。ただ、すぐに異常事態を検知して攻撃を仕掛けてくるルートを特定すれば、ルートの遮断などの対策を講ずることができる。攻撃を早急に検知する監視体制の確立が必要である。 厄介なのは、攻撃を受けたことがすぐには気がつかないケースである。コンピューターウイルスがそれだ。ウイルスを仕込んだサイトに巧みにアクセスさせて感染させたり、メールに添付してうっかり開封させたりする。心理の隙をついて、様々な方法でパソコンや情報システム内に様々な機能をもつコンピューターウイルスなどを忍び込ませる。所有者に気がつかれずに侵入したパソコンを支配して、上記のDDOS攻撃を仕掛ける道具にされたりする。

 もっと大きな被害は「破壊」や「情報流出」である。流出する

  「情報」はコピーなので、原本が残っていて、気がつくのが遅れる。気がつかないままのケースもある。ウイルスがシステム内に保管してある情報をコピーして外部に流出させるのである。流出した情報が悪用されて初めて発覚するのがほとんどである。米国政府職員の人事記録が大規模に流出や、大手のネットビジネスの会員の個人情報の大規模な流出、クレジットカードの口座やパスワードの流出など、深刻な被害が報告されている。ネット社会の存続を脅かす危機である。

  記憶装置などのシステムを破壊するウイルスもある。保管していた情報ファイルが破壊されては、企業活動も行政も個人の生活もマヒしてしまう。単に1つの装置だけではなく、システムの中の別の機器に次々と感染して情報ファイルを破壊しつくしてしまう。

  最近では逆に、記憶装置の中にある情報ファイルを勝手に暗号化してしまい、復号化するためには暗号を解くカギが必要になるという犯罪事例が続出している。攻撃者は、この後に暗号を解くカギを知りたければお金を振り込むように要求してくる。ファイルを「人質」のようにして「身代金」を要求する攻撃である。

  これらの「流出」「破壊」「人質」攻撃には共通の対策が登場している。「秘密分散処理」という方法である。簡略化して説明すると、ファイルを暗号化、断片に分割し、分散して保管する手法だ。それぞれの断片もバックアップをとっておく。どの断片が盗まれても、破壊されても、断片だけでは「情報」として復元されることがない。バックアップがあるので、破壊されても人質になっても問題ない。水際で防衛するのではなく、ウイルスに侵入されるのは防げないと覚悟し、破壊されても盗まれても、大丈夫な仕組みである。

  しかし、次々と新しい攻撃が編み出されて来る。国家が関与して大規模な「サイバー軍」が編成されているようである。日本政府としても組織的にサイバー攻撃からの防衛に取り組み始めている。2015年秋には急きょ「サイバーセキュリティ基本法」を成立させ、16年1月に内閣府に「サイバーセキュリティ戦略本部」を新設して防衛体制の構築を急いでいる。ただし、人材が決定的に不足している。行政府の情報ネットワークや情報資産を守るのもまだおぼつかない状態である。民間のサイバー防衛には全く手が回らない状況なので、民間は自衛の組織を作らなければならない。

  インターネットに全てのモノが接続する「IoT」が、情報ネットワーク社会の目標になってきたが、セキュリティの観点からみれば、攻撃対象になる膨大な機器が登場することになる。農業分野も、生産現場から流通、消費に至るあらゆる場面が「IoT」の一部になる。

 「持続可能」なネットワーク社会を実現するのにもう1つ問題なのが「データセンターの配置」である。現在、日本のデータセンターの72%が首都圏に集中しているとされる。地震学者の間では、首都圏を大地震が襲う確率は「30年以内に70%」の確率とされている。

 首都圏のデータセンターの多くは、建物自体は耐震・免震構造に変えられつつあるものの、停電対策、通信回線維持、運用要員の確保などで問題を抱え、震災後は一定期間、情報処理機能を喪失する懸念がある。停電しても自家発電の準備があるが、燃料の備蓄は72時間分が最大で、それ以降は石油基地からの補給に頼ることになる。しかし、道路の寸断などによって燃料の安定補給は難しい。

 首都圏のデータセンターの20%が停止しても、日本全体の15%近くの情報処理機能が喪失する。日本の経済社会は機能不全に陥る。世界経済の重要なプレイヤーである首都圏の機能が失われれば世界経済が大混乱に陥る。

 首都圏に集中するデータセンターの大半を遠隔地に分散させることが最も効果があるが、現状変更には抵抗があってなかなか進まない。次善の策として、バックアップ用に地方各地にデータセンターを新設し、リアルタイムにコピーを送って分散・保管する方法がある。分散・保管用のデータベースでは能力が余剰になるように思われるが、実はそうでもない。

 今後、IoTの進展でデータ処理量は急膨張する。このデータ処理に対応するのに、地方のデータセンターが有効に働く。ネットワークのセキュリティ対策とデータセンターの地方分散は、「持続可能なネットワーク社会」のために待ったなしで取り組まなければならない課題である。

2016/11


《連載第4回》 『スペインには、日本でのGAP推進のヒントがいっぱい!』
アルメリア農業に学ぶ

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

アルメリア農業は21世紀の発展産業

 ビニルハウス農業の成功で、緩むことのない経済成長を遂げているスペインのアルメリア州は、この30年間で人口が40万人から70万人超へと75%も増えています。

 欧州で唯一広い砂漠があるアルメリアに、イスラエルの開発した点滴灌漑による栽培技術が導入されると、近隣地域から移住して来た農業参入者などの農業労働者が増え、必然的に農業施設・設備や、肥料・農薬、温室用のビニル資材などの農業関連企業が進出し、それらの社員が増えると、続いてスーパーも銀行も、住宅や自動車関連などの様々な生活関連産業が盛んになり、人口が増加して切れ目なく経済が発展してきました。

 農業発展のためには規模拡大が必要だという考え方が一般的ですが、アルメリアの「プラスチックの海」と言われるビニルハウスで野菜を栽培する農業者は、家族中心の零細農家がほとんどで、平均の耕作面積は1.5ヘクタールです。成長・発展し続けるアルメリア農業は、経営体の規模が拡大するのではなく、零細農家を農業協同組合が組織化することで、事実上の企業(ヴァーチャル・コーポレーション)として欧州最大の夏野菜産地として「農業ビジネス」を展開しているのです。

 欧州一の野菜産地のイメージは、現地を訪ねてみれば一目瞭然です。宇宙から見た一面のビニルハウス群は既に紹介しましたが、道路を走っているだけでも、その様子が分かります。アルメリア空港から街への自動車道から見える立看板は、トマトやスイカ、メロン、ピーマンなどの農産物か、種苗、農業資材、温室資材、梱包資材、運送会社、販売会社、コンサルティング会社など、農業関連のものばかりです。

アルメリアの組織的農業が目指すもの

 欧州では、持続可能な農業を求める欧州共通農業政策の公的な規制と助成(クロスコンプライアンス・環境配慮要件)の下で、GLOBALG.A.P.のような農業経営体に対する民間認証が根付きました。欧州の消費者は、農業者が環境に配慮した農業を実践することに対して支払う補助金政策(直接支払い制度)を支持している訳ですが、同時に、食品スーパーなどの農家に対する民間認証を通して農産物の「安心」をも購入しているのです。

 持続可能な農業に対する民間認証という制度は21世紀に急成長し、膨大な野菜を毎年ヨーロッパやほかの地域に輸出するアルメリア農業およびアルメリア経済にとって、決定的に重要な要因となりました。

 組織的な認証で農家を束ねる農協にとって最も重要な機能は、これまでの経験と勘による組合員の経営ではなく、個々の家族経営の枠を超えた「事実上の企業としての農業コスト計算を行う」ことや、「組織全体で行う作業の機能配分を合理化する」ことなどです。農協の業務と農家の営農活動を統合的に管理するERP(Enterprise Resources Planning)コンピュータシステムは、選果場に集中する農産物を、圃場の段階から把握して売り先までトレースし、農場の人材、圃場、資材、作物などの全体を、選果場の人材、設備、資材などの経営資源とともに統合管理し、業務の効率化や経営の全体最適を目指す手法です。

 アルメリアの農業が目指しているものをまとめてみると、

  1. EUマーケットからの要求に応える持続可能な農業(及びその認証)の実現
  2. 生産技術支援(技術指導員の営農指導)によるオーガニック栽培への段階的移行
  3. GAP管理による直接販売を前提とした「農産物バリューチェーン」の構築

に絞ることができます。

 そして、アルメリア農業を支えているものは、①生産者(農業経営体及び農協)への政府からの指導(公的規制)と農業振興支援(補助金)、②農協系銀行(カハマル)その他金融機関による継続的な融資、③自治体と農業経営体との農業振興の連携、及び関連企業(資材、物流、経営)との協調・連携、を挙げることができます。

アルメリア農業発展の基本は、日本発の「改善」と「5S」

改善

 EU域内の農産物流通ではGLOBALG.A.P.認証が取引の最低条件になっています。そのため、生産者に対するGAP教育と、農協などによるGAPの統一的管理(営農指導)が必要となりました。また、EUの食品安全に関する法的規制では、選果場の食品衛生自己管理システムが義務化されています。そのため、選果・出荷場の適正管理によるBRCやIFS、FSSC22000など食品安全管理の認証取得が定着し、同時に選果・出荷場の業務改善が推進されたのです。

 農協の選果場を視察すると驚かされることがあります。場内の掲示板に、日本語で書かれた「改善」や「5S」などの文字がみられることです。その昔、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と謳われた日本経済は世界の羨望の的となり、その「管理規格」は世界企業の見本となりました。しかし、21世紀になると、世界の工場はアジアに移り、近年はアセアンの国々にシフトしています。

 図1日本発の「改善」や「5S」などの管理規格の本質は、それぞれの国の工業に引き継がれて成長を支えています。そして、欧州などの先進諸国では、工業分野から取り入れて、農業分野の経営管理の「管理規格」としてそれらを活用することとなった訳です。

 先進的な農業管理技術を視察に行った日本人の筆者らが、それらを見ることとなったのは、皮肉な運命のようにも思えたのですが、アルメリアの農協関係者が、筆者らを、改善の心を持った日本人として尊敬の念をもって対応してくれたことはとても嬉しいことでした。同時に、日本の農業関係者はこの事実を知って、その意味を噛みしめ、謙虚に学ばなければならないと強く感じました。

新興産地との競争、差別化は品質と信頼

 アルメリア農業と完全に競合するメキシコ、ペルー、モロッコからの安価な農産物の輸入攻勢が激化し、アルメリア農業は、より高品質なオーガニックなどの生産技術の革新と、生産・販売のコストの圧縮による高度な経営改善の実施が求められています。

これまでの農産物の品質
⇒ 味、外観、鮮度
農産物バリューチェーンでの農産物の品質(農業の品質)
⇒ 農産物の特性、フードセーフティー、生産方法、トレーサビリティ、環境への取組み、社会的責任などの認証

 これまでの競争要件は農産物の「品質」でした。その内容は、農産物商品の「姿・形、味、鮮度」でした。これらの品質要件は、新興産地の生産技術の向上で、すぐにでも達成可能となりますので、圧倒的に安い労働力と低コスト資材などで、農産物の価格では競争の余地がなくなるほど厳しい状況となります。

 先進国の農業は、今後「何をもって差別化するか」が最大の課題です。グローバル社会で期待される農産物の品質は変化しつつあります。これをどう捉えるかですが、アルメリアの農業関係者は、

 これまでの「姿・形、味、鮮度」に加えて、「農産物の特性(消費の場面に合わせた商品)、フードセーフティー(故意による危害にも備える)、生産方法(産地と生産者の物語)、トレーサビリティ(サプライチェーンの一員としての義務)、環境への取組み(自然と資源の保護)、社会的責任(ビジネスと人権)」が必要であると考えています。つまり、持続可能な農業と倫理的な農業の認証取得による「消費者信頼」こそが、農業生き残りのポイントだと考えているのです。

 このような農産物品質の多様化は、農場管理の内容を複雑化させ、業務量も大幅に増加させました。そのために農協などの農業生産組織では管理方式の標準化を進め、農産物の生産、選果、出荷、販売のICT化が進んでいます。また、日本と同じように、農産物の価格はバイイングパワーでスーパーマーケットが決定しますが、農協が生産側のサプライヤーとして、販売に関して限りなくスーパーに接近することによって、リアルな生産情報と買い手側のタイムリーな情報を総合化させるという戦略的なデータ活用にも努めています。

アルメリア農業に学ぶ

 日本がアルメリアに学ぶ「農業・農協改革」では、農産物輸出がキーになりますが、そのための前提条件である「GAPおよびGAP認証についての概念」が日本では正しく理解されていません。例えば、「GAPは競争ではない」というのは個々の農家に対して当てはまることですが、農産物を販売する主体である農協においては、「ビジネス上の差別化」になります。圧倒的な低価格が予想される途上国からの農産物輸入の増加や、すでに大量に輸入されている加工品や調理品においては、GAP認証による明確な差別化戦略を持たなければ、EU域内の農業者は競争のステージに立つことすらできません。その点で、EU域内での取引の最低条件となっているGLOBLG.A.P.認証は、輸入農産物に対する防波堤となっています。

 日本の農業・農協などの経営的課題を再確認し、アルメリア農業に学ぶ対応策について考えてみます。

1)良い農産物を作る生産技術と有利販売を目指す販売技術とを結びつける。
 EUは基本的に同じですが、スペインの農業技術指導者(普及員)は、その専門性によって、生産技術担当、選果場運営担当、情報システム担当、販売担当などに分かれて、全体として農協に所属するなど、農業経営体に直接関与しています。
 日本の普及制度は、普及指導員が都道府県に所属しており、農業者に対して公平に生産技術指導、経営指導、行政指導などを行うため、農協などの農業経営体に直接関与しません。農協の営農指導員は、農業者に対して圧倒的に人数が少なく、農業経営に直接関与できない状態です。農業者に対する教育が無ければ農業は成り立ちません。
2)農産物の委託販売をやめて売買契約を結ぶ。
 スペインの農協が大躍進した理由の一つに、1990年代からセリ市場への出荷を減らし、組織内に販売担当者を置き、スーパーマーケットなどに直接販売したことを挙げることができます。そこから、GAPやGAP認証が始まり、生産基準の統一が行われ、農業者と圃場、選果場と販売戦略の統合的な管理が行われるようになりました。
 生産活動と販売事業が分離した(モノづくりと収入が直結していない)日本の農協の状態は、自立したビジネスとは言えません。売り手と買い手を合わせない(売買を行わない)中央卸売市場での委託販売でしたが、その機能をこれまで通りには果たさなくなった今でも、農業生産の経営体だけが依然として仲卸任せの委託販売ということでは、農業が自立した産業にはなりません。
3)スペインも日本も、生鮮農産物の販売価格はスーパーが決める。
 食品の安全性や環境負荷の少ない商品を求める消費者の要望がある一方で、競合他社の販売価格に敏感なスーパーマーケットが、“値頃感”で販売価格決めるのは、グローバル世界では共通のようです。 これらに対する農産物生産側の努力のポイントをアルメリアに学べば、
  1. 農協が統合管理することで、生産段階(農家の門を出るまで)のコストを圧縮する。
  2. 農協は販売に関与することで、流通経路と販売機会のロスを無くす。
  3. 農業者の持続可能な農業への取組みが、商品の差別化につながる。
という点です。
4)農業経営体が関われる生産者から販売先までのトータルコストの圧縮を目指す。
  1. 先進国農業の生残り策としては、無駄の削減、生産・選果場・出荷コストの圧縮が必要である。
  2. GAP認証による農業者への負荷の増加に対しては、業務の効率化システムが必要である。
  3. 差別化が可能なのは、CO2削減、人権保護、トレーサビリティ、環境保全などである。
そのためには全ての経営資源を把握して統合化することが必要です。
5)農業経営体(農協など)の対応策
  1. 農協などの農業経営体は、普及指導員などを活用し、持続可能な農業の実現を目指す。
  2. 「利益を獲得して農業者(組合員)に配分する農業」へと、農業のビジネスモデルを転換する農協BPR(business process reengineering)を実践する。
  3. 農産物生産の指導と、販売(回収ではなく、売上を上げる)向上対策を関連づけ、最終利益の増大という目標に向けて、生産現場を含む農協全体を統合的に管理する。

 農産物のバリューチェーンは、情報の統合化により、家族経営の枠を超えたコスト計算や作業の機能配分の合理化などにより、農業分野における最終利益を増大させることです。

 避けては通れないグローバル化の中で、日本の農業が生き残って、その地位を確固たるものにするためには、EUの域内で戦い、今、途上国との競争で生き残りをかけて戦い続けているアルメリアの農業の「代替農業技術」「小規模農業経営管理」に学ぶことは大変重要なことです。

 是非関心を持ってチャレンジしてみて下さい。

2016/11


GAP認証で農業の差別化を図る
『環境の管理と保全に関する計画書』日本語訳 その2

 国際規格のGAP認証は、農産物取引の最低限の要件になっていますから、スペイン・アルメリア州の農協では、組合員のGLOBAL G.A.P.認証取得率は100%ですが、取引上の優位事項ではありません。

 グローバル社会において競争になるのは、消費者に訴求力のある「サステナビリティ」(持続可能性)への取組みです。そのため、農協の連合会では「農場管理規則」のうち、「環境の管理と保全に関する計画書」を重要視してGAP指導に当たっているのです。

 欧州で最大の面積を誇る施設園芸産地のアルメリア州で多くの系列農協を持つ農協連合「UNICA」の「農場管理規則(Cuaderno de Canpo 2013/9)」の「環境の管理と保全に関する計画書」(Plan de Gestion y Conservacion del Medio Ambiente)を日本語に翻訳して「GAP普及ニュース」に掲載しています。

 今回は、「その2」を掲載しますので、是非参考にして下さい。

環境の管理と保全に関する計画書 2013年9月2日改定

2.農業活動

2.1.集約農業

 雨に頼る農業から灌漑農業に移行したことによって農業は飛躍的に集約化されました。灌漑技術のおかげで一定面積当たりの生産量は増加し、以前は作物が生産できなかった季節でも生産ができるようになりました。しかし、農業は自然の資源を大量に使用するようになり、自然界のバランスも脅かしかねない存在となりました。集約農業は、資源、特に水を大量消費する農業といえます。こうした作物の生産は膨大な投資と人件費と高い生産技術を必要とします。このような「集約灌漑農業」を行う作物には次のようなものがあります。

1) 温室で栽培される野菜
2) 野外で栽培される野菜
3) 果物(ブドウ、オリーブ、ナッツは除く。これらは灌漑を使用して広範囲に栽培される 作物の部類に分別される。)
4) 切り花

 灌漑には点滴灌漑、地中滲出灌漑(地下灌漑)、スプリンクラー、マイクロスプリクンクラー、センターピボット灌漑、畝間灌漑、越流灌漑、湛水灌漑など多くの方法があります。この中で点滴灌漑や地中滲出灌漑などは作物の根がある部分にだけ水を放出するので最も効率的な灌漑法です。

 スプリンクラー灌漑や地表一面に水を放出する灌漑法の欠点は、灌漑水の蒸発により農場の湿度を一気に上げてしまい、気温が高い時と重なれば作物に病気を蔓延させてしまう恐れがあります。

 青果物の生産では、まだ畝間灌漑、越流灌漑、湛水灌漑が多く使用されていますが、より効率性の高い灌漑法に移行しつつあります。特に点滴灌漑と地中滲出灌漑の技術は近年になって飛躍的に進歩し、それらを通じて滴下施肥も行えるようになりました。

 野菜生産では、更に人工的な農業生産が行われています。プラスチックのマルチフィルムによる畝の被覆、トンネル被覆、温室、砂栽培、水栽培などが例として挙げられます。このような人工的な生産法は環境に大きな影響を与えかねません。使用済みマルチフィルムの放置は土壌を汚染し、使用済みマルチフィルムを燃やすことは大気の汚染につながります。これを避けるためには生分解性のプラスチックフィルムを選択して使用するべきです。

 また、集約農業における肥料や農薬の過剰散布や無計画な散布は土壌や水源を汚染しかねません。

2.2.温室栽培

 温室栽培は、近年になって一気に発展し、地域に広まりました。温室栽培は環境に様々な影響を与えるので、この章で特別に取り上げる必要があります。

 地中海地域で使用される温室は、欧州の他の地域で使用されているタイプとは少し違います。地中海地域では気温が高いので、温室内に暖房設備がなく、カバーはプラスチックでできています。欧州の他の地域では、暖房設備の付いたガラスタイプの温室が一般的です。この点から考えると、地中海地域の温室は温度管理のための電力消費がない分、「環境にやさしい」といえます。

 温室が環境に与えるマイナスの影響は、廃棄物(プラスチック、培土、作物の残渣など)の管理問題と景観に与える影響でしょう。しかし、温室のプラス面はマイナス面を遥かに超えています。現在は大半の廃棄物が再利用できるようになりましたし、温室農業は雇用を生み出し、地域の経済に貢献し、自然資源(特に太陽光と水)を最大限に利用することを可能にしました。温室は、二酸化炭素排出の減少にも貢献しました。

 最近発表された調査によると、世界では45万haの土地で野菜生産が行われており、そのうち13万haが地中海地域にあります。アルメリアは、一番広い面積の温室が野菜生産に使用されている州であり(その面積は2万4千ha)、これはスペイン全体の温室栽培面積の半分に相当し、イタリアの温室栽培面積と同じ大きさです。

 スペイン南東部の野菜生産のha当たりの収益は年約6万4千ユーロにもなり、アルメリア州の温室栽培は全体で年160億ユーロもの収益を上げています。スペインの公式データによると、2007年にはアルメリア州の人口の16%が農業(農業関係の企業職員は含まない)に従事しており、2001年のデータによると、250社の農業関係の企業が平均1社あたり25人を雇っています。

 環境的な側面から見ると、温室栽培での太陽光の利用はとても効率的です。温室が熱を逃がさないので、熱として赤外線を最大限に利用できます。また、アルメリアの全ての温室では点滴灌漑による栽培や水耕栽培が導入されているので、水の利用がとても効率的です。野外で栽培されるトマトと温室栽培で栽培されるトマトを比べると、温室栽培の方が45%も水を節約します。きゅうりで比べると24%の水の節約になります。温室栽培では土壌侵食や砂漠化の問題も軽減されます。

 気候に左右されず栽培できる温室栽培は、収穫時期を調整でき、その作物の栽培適期ではない季節にも栽培できるので、収穫量を増やすことができ、年間を通じて国内や国際市場の需要を満たすことができます。

 最近の科学的な調査によると、温室栽培は大気中の二酸化炭素の量を減らすことにも貢献します。温室では植物が活発に光合成をおこなって二酸化炭素を吸収し、作物の残渣は堆肥として再利用されますので、二酸化炭素の更なる排出は行われません。温室栽培は環境的にとても良い栽培法だといえます。また、温室のカバーが太陽光を反射することで、土地が熱を吸収するのを防ぎ、地域の温暖化防止にもつながるといわれています。

 温室のマイナスの側面としては、プラスチックや作物残渣などの廃棄物の問題です。作物の残渣は、今日では全てが堆肥として再利用されていますが、プラスチックでは一部リサイクルできないものがあります。パーライト、ロックウール、火山砂利などの培土は、今でも再利用もリサイクルもできません。2年で1ha当たり60 m3から80m3のロックウールが廃棄されますが、これは生物分解しない上に人体にも有害です。

2.3.粗放農業

 粗放農業とは、資源を集中的に使用せず、持続可能な形で土地を利用する農業といえるでしょう。粗放農業では、休閑期間が重要な役割を果たします。その土地の雨量と土壌の特性に応じて休閑のやり方は変わってきます。休閑を行うことによって地中の水分を増やし、次の作物の栽培に必要な水分を確保することができます。休閑は地中の窒素分を固定し、地力の回復にも貢献します。そして、地中の病原菌の駆除にも役立ちます。

2.4.環境対策

 農業は経済的活動というだけではなく、地域の環境を保持するための活動として捉えなければいけません。以前は、農業活動は地域の生態系と共存し、人間が自然資源を利用しつつ、自然との新しいバランスを生み出していました。

 ここに挙げる環境対策とは、農業の非集約化、周囲の環境の保全、景観や歴史的価値の保持などを通じて環境と調和した農業を推進することです。環境対策の焦点は、水、土壌、自然災害、生物多様性、景観の5つの分野にあります。これらの分野において9つの環境対策が考えられます。

1) 農業の非集約化
2) 自然の動植物の保護
3) 化学肥料・化学農薬の使用量の最適化
4) 土壌浸食の防止
5) 湿地帯の動植物の保護
6) 特に重要な生態系の保護
7) 灌漑水の節約
8) 景観の保護と山火事等の防止対策
9) 農地の総合的管理

 具体的には、土地の傾斜に直角に耕運する、輪作を行う、水を効率的に利用する、土地に関する情報を収集して肥料の散布を最適化する、作物の残渣を燃やさず堆肥化する等の方法があります。

(次号に続く)

次号以下で翻訳掲載します。
3.農業生産の様々な側面
 3.1.肥料
 3.2.農薬 人体への危害 野生動物への危害 農薬の代替法
 3.3.廃棄物 農業活動で出る廃棄物
 3.4.遺伝子組換え作物
4.農業活動が周囲の環境に及ぼす影響
 4.1.生物多様性
 4.2.景観
5.農業活動の多面性
6.環境に関する目標

2016/11


2016年度 シンポジウム・セミナーの予定

 2016年度のGAP実践セミナー、農場実地トレーニングと、GAPシンポジウムを下記のようなスケジュールで実施する予定です。奮ってご参加ください。

 グリーンハーベスター農場評価システム(GH評価制度)では、農業者、農業指導員等による自主管理を推奨しています。

2016年11月

時期シンポジウム・セミナー
11月

農場実地トレーニング
開催日: (仮)11月24日(木)・25日(金)
場 所: 文部科学省研究交流センターおよび研修農場   定 員: 10名
受講料: 一般 25,000円、会員 18,000円 (税別)

12月  
2017年 2月

2016年GAPシンポジウム
開催日: 2017年2月16日(木)・17日(金)
場 所: 東京大学弥生講堂               定 員: 200名
受講料: 一般 15,000円、会員 10,000円、学生 2,000円 (税別)

2016/11


2016年度GAPシンポジウム・開催予告
 2016年度 GAPシンポジウム
テーマ『GAP実践と農産物バリューチェーン』

一般社団法人日本生産者GAP協会

【開催趣旨】

 世界共通の課題である「持続可能な社会づくり」は、農業の価値観をも変えることになり、グローバル社会で期待される農産物の品質も変化しています。

 EU夏野菜の生産基地であるスペイン・アルメリア州の農業関係者は、これまでの「姿・形、味、鮮度」に加えて、「農産物の特性、フードセーフティー、生産方法、トレーサビリティ、環境への取組み、社会的責任などの認証」が重要な要素であると考えています。

 そのために行うことは、生産者に対するGAP教育と、生産組織によるGAP農場の統一的管理です。農協では、最終利益の増大という目標に向けて、生産現場を含んだ全体を統合的に管理する「農産物バリューチェーン」を構築し、家族経営の枠を超えた組織としての一貫したコスト計算や、作業の機能配分の合理化などにより、「農業分野における最終利益を増大させる」ことを目標にしています。

 アルメリア州と同じように零細農家が殆どの日本の農業経営体が、どうすれば農産物バリューチェーンを構築できるのか、先進事例に学び、実現の手法について議論を深めます。

【開催概要】
日 時:2017年2月16日(木)10:50~17:30 / 情報交換会 17:30~19:00 / 2月17日(金)9:20~16:30
会 場:東京大学 弥生講堂 一条ホール(東京都文京区弥生1-1-1)
参加費:主催・共催・後援団体の会員 \10,000、一般 \15,000、学生 \2,000、情報交換会 \3,000
展 示:企業等による情報展示(開催期間中)
主 催:一般社団法人日本生産者GAP協会
後 援:未定
共 催:農業情報学会(予定)、NPO水産衛生管理システム協会(予定)(一社)GAP普及推進機構(予定)NPO経済人コー円卓会議日本委員会(予定)
H P:http://fagap.or.jp/seminarsymposium/sym201702/index.html(予定)
【プログラム】
2月16日のテーマ『日本で行う農水産物バリューチェーンの構築』
10:50~
・開  会: 東京大学大学院生体調和農学機構・教授 二宮正士
・基調講演:「スペインで農産物バリューチェーンを探る」
 日本生産者GAP協会・理事長 田上隆一
《昼休憩》
・特別講演:「ロンドンオリンピックの食品調達基準"レッドトラクター"」  ~消費者の英国食品への信頼を回復するために~
藤原ゆりえ(英国在住・農業コンサルタント)
<日本で取り組まれている農産物バリューチェーンの事例>
・講  演:「卸会社が取組む農産物バリューチェーン」
 ㈱ベジテック 徳留康幸/碧井真
・講  演:「人と海を結ぶ、新大船渡魚市場の建設」
 大船渡魚市場㈱ 専務取締役 佐藤光男
・講  演:「農商工連携による東北まちづくりの実践」
 NPO法人 遠野山・里・暮らしネットワーク・会長 菊池新一
・講  演:「農産物直売所から学ぶ新たな農産物バリューチェーン」
 みずほジャパン 井戸英二
・講  演:「スペイン視察ツアー報告」
 日本生産者GAP協会・理事事務局長 田上隆多
・ 『質疑応答』および『情報交換会』
2月17日のテーマ『GH評価制度に基づくGAP推進体制の構築』
9:20~
・講  演:「GH評価制度における教育プログラムとGH評価員試験について」
 日本生産者GAP協会・理事事務局長 田上隆多
・講  演:「GAP実践の法則」
 日本生産者GAP協会・理事長 田上隆一
・事例発表:「栃木県のGAP推進戦略」
 栃木県農政部経営技術課 菊池克利
《昼休憩》
・事例発表:「岐阜県稲作経営者会のGH評価への取組みについて」
 岐阜県稲作経営者会議
・事例発表:「若手普及員とJA営農指導員によるGH評価試験への挑戦」
 高志農業改良振興会(福井県福井市)
・事例発表:「生産者によるGLOBALG.A.P.内部検査の実施と販売戦略について」
 クラウンメロン支所
・情報展示/休憩
・ 『全体討議(パネルディスカッション)』 2日目発表者、司会:田上隆一

2016/11


《GAP現地研修ツアー2016のご案内》
スペインには日本農業再生のヒントがいっぱい!

田上隆一 一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

世界のGAP先進地スペイン研修ツアーに是非ご参加下さい

 日頃より、GAP普及の件では大変お世話になっています。

 イギリスの青果卸売業者EWT社から、GAPの認証を要求された青森県弘前市の生産者とともに、2003年にイギリスを訪問してから、私は毎年のように欧州各国のGAP実践とGAP認証の実態を見てきました。その中で、農協出身の私にとって最も参考になったのは、スペイン最大の夏野菜産地であるアルメリア県の農業協同組合とその組合員農家の取組みです。

 アルメリアには、ビニルハウスが36,000ヘクタールもありますが、農家一戸当たりの栽培面積は1.5ヘクタール程度で、産地全体の約90%は家族中心の零細農家なのです。ここでは、毎日のGAP(適正農業管理)の実践とその認証の指導は、農協の営農指導員の仕事です。営農指導員と組合員農家にとって「GAPとは毎日の営農活動」そのものなのです。従って、組合員にとってGAPの認証は当たり前であり、組合員数が500人の農協なら500人が、2,000人の農協なら2,000人の組合員が認証を取得しています。

 日本では今、農産物の輸出対策として、またオリンピック・パラリンピックの持続可能な食料調達の規準として、国際規格のGAP認証が求められようとしています。

 しかし、これまで日本では、欧州で始まったGAP(持続可能な農業管理)の本質や、本場のGAP認証(国際取引の条件)にあまり触れてこなかったために、未だに「GAPの国際規格は難しい」と勘違いしている人が多いようです。

 日本の農業が世界で認められるためには、「国際規格の壁は高い」というこれまでの誤解を解いて、農業関係者が正しくGAPとGAP認証を理解することが必要です。

 農家が多いスペインに行ってみることが一番です。日本と同じように零細農家を組織している農協が、日本とは反対に、世界一のGAP認証の取得国となったスペインの現地に行って、現場を見て、関係者と話すことだけで、これまでの誤解は解消されます。

 「世界のGAP先進地スペイン研修ツアー」を企画しましたので、是非ご参加くださいますようお願いいたします。

世界のGAP先進地スペインの研修ツアー

2017年1月29日-2月6日
スペインには日本農業再生のヒントがいっぱい!

 スペイン南部はGAPの先進地であり、ヨーロッパ最大の夏野菜生産基地として躍進しています。今回のツアーは、日本生産者GAP協会が2004年から6回視察を重ね、交流を深めてきたスペイン・アルメリア県を中心に、農家・企業・農協による地域農業がGAPで稀に見る躍進を遂げている実態とその背景を探ります。 地域農業を支える行政、研究所と関連農協・企業、生産・出荷・販売の現場を視察し、それぞれのキーパーソンと意見交換します。世界最先端の「代替農業技術」と「小規模農業経営管理」に学ぶ経営技術力アップの研修です。

  • スペインは、国際規格のGAP認証農家の数が世界で一番多い国です
  • 生産組合でも農協でも、GLOBALG.A.P.認証の取得率は100%です
  • 「上位(持続可能な農業)のGAP」で差別化し農産物の輸出額は大幅に増えています
  • 農協や生産組合が取り組む農産物バリューチェーンで、生産者の利益が増えています
  • エルエヒド、ギソナなどは行政支援の農業クラスターにより地域人口が大幅に増え、農業で成功しています

 このツアーでは、GAPが地域農業振興の切り札であることを確認します

 このツアーでは「GAPは難しい」と思っている日本の農業関係者の誤解を解きます

主なツアーポイント

アルメリア県のビニルハウス群
1.組合員の総意で儲ける会社になった農業協同組合を視察

 21世紀型地域農協の見本とも言える企業活動のギソナ農協と組合員農場を視察します。

 ・銀行・保険・農畜産物、食品加工、スーパーマーケット等の事業成功のポイントについて意見交換します。
 ・カタルーニャ政府の農林大臣と面談します。
2.GAP認証農家数が世界一のアルメリア農業の現場を視察

 農業ビジネスの要である農協や生産組織を訪ね、「生産者へのGAP総合教育」と「選果場の統合管理」について視察します。

 ・「農産物バリューチェーン」について、生産段階の資源(農家・農地・作物・施設・認証取得)情報と、販売段階の資源(商品品質・出荷・運送・販売先)情報の一貫した管理について担当者と意見交換します。
 ・ICT活用で効率化を図る生産情報処理と、選果場に集中する農産物を圃場から売り先まで統合管理する「農業ERP」を視察します。
3.攻めの農業をリードする政策とそれに応える農家を視察
躍進するカンポソル農協の選果場と役員
 ・農産物輸出でビジネスを拡大する企業農家と、それらを支える行政エレヒド市役所の農業・環境部と情報交換会を行います。
 ・先進的な生産技術(IPM、オーガニック)で持続可能な農業に取り組み、高い利益を上げる生産組織を訪問して、農業経営のポイントを視察します。
 ・農産物輸出事業、地方市場や産地卸売業、スーパーなどを視察して、内外の農産物流通の実情を視察します。

世界のGAP先進地スペイン研修ツアー日程計画(訪問先が変更になる場合があります)

月日(曜) 地  名時刻 交通 日  程
1 1/29(日) 東京(羽田)集合
東京(羽田)発
ミュンヘン着
ミュンヘン発
バルセロナ着
10:45
12:45
16:50
19:20
21:20
LH715

LH816
各自羽田に集合



(バルセロナ泊)
2 1/30(月) ソルソーナ バス
ギソナ農協事業活動と組合員農場の視察 
(ソルソーナ泊)
3 1/31(火) バルセロナ
バルセロナ発
マラガ着
アルメリア
バス
VYorIB
バス
世界遺産サグラダファミリア
カタルーニャ政府農林大臣との面談

(アルメリア泊)
4 2/1(水) アルメリア
エレヒド
バス
①エレヒド市行政の農業支援
エレヒド市役所とCUAM、テクニコ(普及員&営農指導員)のGAP指導活動
②農業協同組合の農業ビジネス最前線
 ・CAMPOSOL(農協の生産者教育とGAP認証、テクニコの指導と農場現場)
 ・CABSC(UnicaグループのICT活用、HispatecのERPagroシステムの活用)
 ・LAS HORTICHUELAS(農協の「改善」運動やRFID使用の出荷情報)
 ・CASi 組合員教育と農産物ビジネス(コスト・コントロール)
③スペイン農業のトレンド
Agrocolor(GLOBALG.A.P.の上位(社会的責任)認証と今後のGAP認証制度)
 ・Biosabor(オーガニック認証と農産物輸出の最新事情)
 ・Hispatec(農業ビジネス支援のためのEPRagroシステム)
(アルメリア3連泊)
5 2/2(木) アルメリア
エレヒド
バス
6 2/3(金) アルメリア
エレヒド
バス
7 2/4(土) アルメリアから
グラナダへ移動
バス
世界遺産アルハンブラ宮殿
(グラナダ泊)
8 2/5(日) グラナダから
マラガ着
マラガ発
フランクフルト着
フランクフルト発


13:05
16:10
17:50
バス

LH149

LH716




(機内泊)
9 2/6(月) 東京(羽田)着 13:05 羽田で通関後解散

参加要領                申込期限:2016年11月15日(火)

  • エレヒド市役所幹部との交歓会を予定しています。
  • 日本から添乗員と田上の2名が同行します。
  • 現地では専門のスペイン語通訳が付きます。

*お申込みは別紙の項目をご記入いただき電子メールかFAXでお送りください。
研修ツアーのお問合せは、下記にお願いします。

旅行計画:日本生産者GAP協会(担当:田上隆多)
お問合せ:TEL 029-861-4900  FAX029-856-0024 E-mail mj[アットマーク]fagap.or.jp

日程:2017年1月29日(日)~2月6日(月)
定員:20名(実施人員15名以上)
参加費用:398,000円(会員)
430,000円(非会員)
■食事/朝7回昼4回夕6回(機内食を除く)
■利用航空会社/ルフトハンザ航空
 その他、現地航空機、バス
■一人部屋追加費用/40,000円(7泊)
■ビジネスクラス追加費用/個別
*参加費用に含まれるもの*
●日程に表示される往復の航空運賃(エコノミー)
●日程に表示される借上げバス等の交通費
●現地案内と通訳料
●日程に表示される食費、交歓会費用
●宿泊費:ホテル(2名1室)
*参加費用に含まれないもの*
●渡航手続諸経費:パスポート代理申請手数料
●上記以外の食事費用
●個人的費用(交通費・電話代など)
●自由行動中の一切の費用
●羽田空港までの往復交通費用
●手荷物超過料金
●海外旅行傷害保険料

2016/11


スペイン農業の危機を乗り越えた産地のGAP
2011年のEU、O-104死亡者47人、感染者3,922人の大事件の顛末

 右図は、2011年に筆者が情報収集した「グローバル化で拡散する食中毒事件」の経過です。

 農産物および食品のサプライチェーンにおいては、サプライチェーン全体で行う食品安全管理が必要であり、今日では農産物の生産段階においてGAPが必須となっていることを説明している資料です。

 私にとって6回目となった2016年7月のスペイン、アンダルシア州の訪問で、新たに分かった地元の対応について、行政や報道の問題と併せて、あの時の大事件の顛末を報告します。

はじめに

 現在の農業生産、特に施設園芸の作物において使用されている高度な技術は、季節を問わず、品質や見た目が均一で、多様な種類の農作物を大量に生産できるため、消費者と共に、生産者へも多くの利益をもたらしています。その一方で、生産・販売や消費の過程で偶発的汚染があった場合は、広範囲の地域で、多数の消費者や販売者に影響を及ぼすリスクを負っています。

 農産物・食品の生産と販売の過程では、生産者と販売者による衛生管理と取扱いに注意し、保健当局による予防策とモニタリングで、残留農薬や微生物環境の衛生品質を保っています。しかし、非常にまれに、食品由来の感染症が消費者に起こっており、今のところそれを完全に防止することはできません。事件が発生すると社会的不安も増大し、特に死亡者が発生する集団感染の場合には、報道されるニュースにより、効果的な感染回避法や、感染の可能性がある場合の対処法などを消費者に即刻示すよう世論から迫られます。

原因究明の経過とその課題

国  名患者数(人)死亡者数(人)
ドイツ3,78545
オーストリア5
チェコ共和国1
デンマーク26
フランス13
ギリシャ1
ルクセンブルグ2
オランダ11
ノルウェー1
ポーランド3
スペイン2
スウェーデン531
英国7
*スイス5
*カナダ1
*米国61
合  計3,92247

 2011年5月、ドイツ北部を中心に溶血性尿毒症症候群(腸管出血性大腸菌の食中毒による貧血と急性腎不全を伴う症候群)が多発する中毒事件が発生しました。最初の発症日は5月8日で、明らかな関連性が認められる最後の発症例は7月4日とされています。それから3週間たった7月26日に終息宣言が出されました。

 腸管出血性大腸菌を原因とする感染者は約4,000人、死亡者が47人に上る大規模な集団中毒であり、記録的な食中毒事件でした。細菌感染に関して比較的安全と考えられていた西洋社会における感染の流行はまさに恐怖であり、ここ数十年間に先進国で記録された感染性病原体に起因する食料安全保障問題の中では最大級の危機となりました。

 原因食材として、当初より生野菜との関連が指摘され、ドイツ北部地方の発芽野菜農場との疫学的関連が示されましたが、種子の汚染、生産過程における汚染、流通過程における汚染など、どの段階で汚染が起きたのかは今もって不明のままです。

 初期の中毒の原因と、特定された国での農産物生産の両者に根拠がなく、最初に告発されたスペインのキュウリの生産方法には矛盾がありました。告発されたスペイン園芸農業の灌漑法や栽培法について深い理解があれば、意味のない警告を避けることができ、根拠のない非難を避けることができたであろうと言われています。

 その一方で、このような危機の後には、生産者とマーケティング担当者は、今後その作物への汚染を無くすための生産方法や、その作物の生産に関する技術的な詳細情報を消費者に知って貰うにはどうするべきか、という課題の明確な指針を学ぶことにもなりました。

 原因究明では、2011年6月にフランスにおいて、ドイツの事例との関連は不明ですが、細菌学的には同一の病原性大腸菌を原因とする小規模な中毒が発生し、種子の流通経路の遡及調査が行われ、その結果、エジプトから輸入されたフェヌグリーク(香辛料の一種)の種子がドイツとフランスに流通したことが示されました。エジプトにおける種子生産からドイツとフランスへの種子の流通において、何らかの要因で大腸菌に汚染されたことが示唆されていますが、エジプト政府はこれを否定しています。

判断の誤りと風評被害

 5月26日にハンブルグ市の保健当局が「スペイン産のキュウリが原因である」と発表したため、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、ベルギー、ルクセンブルグ、チェコ、ロシアでキュウリの輸入禁止措置が採られ、この風評被害でイタリア、オーストリア、フランスのキュウリの売上げも激減しました。パリでは、スペイン産だけでなく、フランス産のキュウリもほとんど売れなくなり、1本あたり20ユーロセントであったキュウリの値段は5~7セントまで暴落しました。

 当初のスペイン産キュウリが感染源という発表は、5月31日に「誤りであった」との訂正がなされましたが、スペインではこの1週間で2億ユーロ(約234億円)の損失が出たと報道されました。スペイン政府は、ドイツ保健当局に対し損害賠償請求を行いました。

 スペイン農業協同組合によれば、「禁輸措置が中止されないと、2億8700万ドルの損失、7万人の雇用が失われる恐れがある」と訴えました。これらに対してドイツのメルケル首相は、EUが財政支援を行うと述べています。スペインのバレンシア州ではドイツ領事館の前に300kgのキュウリをばらまく抗議行動を行う農民も現れました。6月7日、EUは臨時農相理事会を開き、EUから総額1億5000万ユーロ(約176億円)の支援を行うように要請をしています。

スペイン・アンダルシア州政府と産地(農協、生産者)の対応

 2011年5月29日「疑いをかけられた2社が、アンダルシア州政府により営業停止処分にされた」という報道がなされましたが、自治体の関係者からの聞き取りでは、報道とは異なり、1社のみだったということでした。

 州政府は、農林水産省、厚生労働省とともに、告発された園芸作物に関する現地調査を行いました。その結果、ドイツ・ハンブルグ市の保健当局から疑いをかけられたキュウリのロット番号のトレーサビリティによる追跡調査をし、生産者とフィンカ(登録圃場)およびビニルハウスを特定しました。即座に特定できたハウスのキュウリおよび関係する場所のあらゆる人や土壌、施設、資材などを検査した結果、原因菌とされている細菌には全く感染していないことが判明しました(該当する農業生産者に関しては、個人情報保護法により個人名を教えることはできないとのことです)。

 アンダルシア産の野菜のトレーサビリティの適正さを証明することができたのは、産地の全ての農産物は、生産・選果・出荷・輸送・販売・小売のサプライチェーンの各プレイヤー(経営体)の全てが、入荷-処理-出荷のトレーサビリティ情報を記録・管理していたからです。

 アンダルシア州当局は、疑いのあったロット情報をドイツから貰い、そのロット番号のトレーサビリティ・データを追いかけて、何処の農場のどの圃場か、即座に把握ができたのです。またこの仕組みで、当該農産物の販売ロットや、その前後の農産物が、いつ、どこを経由して、どこに販売されたかも明らかになりました。

 損害賠償金は、FEGA(スペイン農業補償基金、Fondo Espanol de Garantia Agraria、http://www.fega.es/en)という機関を通してEUに請求し、これが支払われました。この機関は、農林水産、食品、環境に関連した被害等に対して支払いをする機関です。このような損害に関する賠償金の案件は、2011年6月17日に作成されたEU規制 585/2011 で対応しているそうです。

 今回の一連の状況から判断して、EUはスペインの農業に対し、全面的にサポートをしています。

最後に

 この事件は、発生から5年が経過したことや、多くの人達が驚きと強い関心を持ち、知りえた事実などもマスメディアの報道が主だったことなどから、食中毒事件の全体像や、スペインや自分の地域に関連する一連の問題を正確に把握している人が少ないようでした。そのため、聞き取りでも正確を期するために、当時の担当者ではないが、アンダルシア州やエレヒド市の役所の現在の担当者に文献などを基に調べてもらいました。

 最後に、私自身は、検証はしていないのですが、アルメリア県の農業関係企業の方々が口々に話してくれたことがあります。2015年10月27日に民事訴訟に係るドイツの裁判所の判決以降、現在も「ドイツのテレビでは、スペイン野菜への謝罪のキャンペーンを行っている」ということと、「スペインの野菜は安全です」と言うことを、ドイツの有名な女優を使って、スペインの青果物の安全性を訴える番組を継続している」ということでした。

2016/11


《リスク認識の重要性》(risk perception)

規範委員会

 2011年5~7月にかけて欧州で起こった野菜を原因とするO-104による中毒事件は、死者47人、感染者4,000人近くを出して終息したが、感染源は今もって不明のままである。この理由は、僅かの菌数(60-80個)でも中毒が起こるとされることである。これに先立つこと僅か1ヵ月の2011年4月に、富山県を中心とした焼肉屋「えびす」のユッケで、O-111と O-157による中毒が発生し、死者5名、感染者181名を出した。こちらの方は原因がはっきりしており、直ちに調査が行われ、富山県から詳細な報告書が出ている。そこには「中毒が起こるかもしれない」というリスク認識の欠如が見てとれる。

 まず、「えびす」では、衛生管理マニュアルがなく、従業員の検便も行われていなかった。また、ユッケ用の生牛肉であるが、生食用の衛生基準に基づく加工は行われていなかった。包丁はユッケ専用のものではなく、適宜洗浄してアルコール噴霧で消毒していた。原料肉は、開封後、筋や脂身を必要に応じて取り除いていたが、生食用食肉の衛生基準に明記されている表面を均一に取り除くトリミング作業は行われていなかった。さらに、中毒を多く出した店舗では、当日使用分の細切りしたユッケ用の肉を全て一つのボールに入れ、混ぜ合わせて品質を均一にする操作を行っていた。

 そこで、ユッケへの「リスク認識」であるが、1990年既に埼玉県浦和市の幼稚園で、死者2名、感染者268名にのぼるO-157の集団感染が発生していた。その後、1996にはO-157による集団感染事件が多発し、発生件数が87件、患者数は10,322人、死者は8人にのぼっていた。連日の報道で、多くの人がO-157による中毒の危険性、特殊性を知ることになった。この一連の事件を契機に、学校給食の衛生管理の徹底、食材納入時のチェック、温度計を使った調理中の中心温度の確認などが行われるようになり、給食の保存条件の改善と保存期間の延長が図られるようになった。

 この頃、野外焼き肉パーティーなどは「生焼けになるといけない」と言って次々と中止になった。これは、多少行き過ぎた「リスク認識」の一つであろうが、そのような雰囲気であった。牛の約20%が腸管出血性大腸菌を保菌しているということで、牛糞置き場などが汚染源にならないよう隔離されたり、閉鎖されたりした。

 それから僅か10年後には、公私とも「リスク認識」が薄くなり、安価な生肉のユッケや生レバーを食べるようになっていたのは驚きである。多くの人が食べていても、公に気が付かれることもなく、牛肉の生食に対する「リスク認識」が希薄になり、「リスク分析」も「リスク管理」も行われなくなっていたようである。「リスク認識」の重要性が改めて問われている。

2016/11


輸出相手国の残留農薬基準値に対応した病害虫防除マニュアル

 GLOBALG.A.P. Ver.5のINTEGRATED FARM ASSURANCE(農場認証規準)_全農場・農作物基本・コンバイン作物・青果物_によると、農作物に係る「残留農薬検査」に関する管理ポイントでは、次のことが要求されています。

1) 販売先国(たとえば、販売先の市場)の最大残留基準値(MRL)に関する情報を持っていることを示すことができますか。
2) 生産者が販売先とする市場のMRL基準に対して、適合するための措置をとっていますか。
3) 全ての登録品目について、生産物が販売先国のMRLに適合するかどうかを判断するためのリスク評価が行われていますか。
4) リスク評価の結果に基づいた残留農薬検査を実施した証拠がありますか。
5) 正しいサンプリング方法に従ってサンプリングを行いましたか。
6) 残留検査は、国の所轄官庁によるISO17025または同等の規格の認定を持つ試験所が行っていますか。
7) 最大残留基準値(MRL)を超えてしまった場合に、とるべき行動計画がありますか。

 「残留農薬検査」は各国が管理しており、基準値などが異なっているものが多いので、農産物の販売に当たって生産者は、その国の法令を遵守しなければなりません。国内販売ならば日本の残留基準値を、EUへの販売ならばEUの法令に従わなければなりません。

 日本の通常の防除体系で使用される農薬の中には、輸出相手国でその農薬の対象作物が生産されていないので、その農薬が登録されていない等の理由により、輸出相手国の残留農薬基準値が日本の基準に比べて極めて低いものが多く存在しています。その結果、輸出向けの農産物に使用できる農薬が限定されることになります。

 こうした状況の下、農林水産省では、農産物の輸出促進を図るため、平成26年度より、輸出重点品目について、輸出相手国での残留農薬基準値が設定されていない農薬等の使用を低減する新たな防除体系を確立し、その効果の提示を行いつつ産地へ導入することを目的とした「農産物輸出促進のための新たな防除対英の確立・導入事業」を実施しています。

 この事業では、産地の協力を得ながら、青果物や茶を対象として、

(ア)日本と輸出相手国の残留農薬基準値の比較、
(イ)国内で使用される農薬の残留実態、
(ウ)化学合成農薬代替防除技術

 などを整理した「病害虫防除マニュアル」の作成や現地説明会の開催に取り組んでいます。

【利用にあたっての留意事項】

 マニュアルに掲載している各国の残留農薬基準値は、調査を行った時点の数値です。輸出相手国の残留農薬基準値は、予告なく変更されることがありますので、防除体系を検討する際には、必ず最新の情報を確認して下さい。

 以下のホームページ(web site)に、いちご、茶(煎茶・玉露、抹茶・かぶせ茶)、りんご(無袋、有袋)、なし、かんきつ等の病害虫防除マニュアルが掲載されています。

http://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/boujyo/export_manual.html

2016/11


株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載24回)
~法人設立5年目を迎え、軌道修正~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 平成12年4月に農業生産法人を設立して5年目を迎えた。ここに来て、温州ミカン農業の規模拡大の困難さを実感している。当初、遊休農地を借り受け、目標の管理面積を5ヘクタールとしていましたが、このまま計画を進めてよいかどうか迷い始めている。 今年の6~7月、農林水産省近畿農政局や和歌山県農林水産部から相次いでみかん生産農家の課題について問合せがあり、いろいろと議論させていただいた。近畿農政局は、有田振興局においてみかん生産をしている農業生産法人との意見交換会を開催した。その会に弊社Citrusに出席依頼が届いた。

  開かれた会議には近畿農政局からは部長や和歌山支局長ら職員7名が出席していた。意見交換は「なぜ有田みかん産地に農業生産法人が少ないのか」をテーマに、現在法人化している組織から意見を聞きたいとのことであった。出席していたのは、株式会社早和果樹園、株式会社伊藤農園、そして弊社の3社のみであった。

  早和果樹園は2000年に農業生産法人を設立し、2014年に6次産業化の優良事例表彰で、最高の農林水産大臣賞を受賞した和歌山県屈指の会社である。法人化する以前は、農家7戸のみかん出荷組合として組織されていた。近年の取組みは、有田に大型のみかん搾汁工場(写真1)を設置したことが挙げられる。

写真
有田初の温州みかん搾汁工場(2015.12完成)

  一方、伊藤農園は、1897年創業で、明治時代からのみかん商人としての老舗であり、2009年になって法人化している。TV番組の日経スペシャル「ガイアの夜明け」(1月13日放映)でも紹介され、ジュース加工などで販売実績を伸ばしている会社である。

  両社は有田市に拠点を置き、国内はもとより、世界を相手に数億円を売り上げるライバル会社同士である。前号で紹介したが、弊社の売上げは両社の足下にも及ばない状況であるが、近畿農政局からの質問への回答によって、共通の問題が見えてきた。それは、栽培面積の限界点である。早和果樹園は「会社として7ヘクタールを7名の社員で管理している」と答え、伊藤農園は「10ヘクタールを10名で管理している」と答えた。1社で管理している面積では伊藤農園さんが有田で一番の大きな規模のようで、有田振興局によると「有田みかん産地では1組織としてこれ以上の規模はない」とのことであった。いずれの会社においても、通常管理面積は社員1名当たり1ヘクタール程度である。個人の専業農家の平均は2ヘクタールであることから、みかん生産農家が法人化しても「栽培管理が合理化され、大規模経営が可能になった」とはいえないとの見解で一致した。

  その原因に、社員として、みかん栽培管理のスキルアップを求める人材、また、温州ミカン栽培が好きといった人材の確保が容易でないことと、それに加えて、収穫期の臨時の労力確保が難しくなってきた背景等が見えてきた。弊社もこの課題は同様であり、数回にわたり本誌で紹介させていただいた。近畿農政局からは、米や野菜の大規模経営の法人の事例が出され、機械化が進んでいるが「みかん栽培ではどうか」と問われたが、出席者は、みかん生産園における整枝剪定・摘果・収穫・施肥・運搬等の作業の9割が手作業であり、機械化が困難である現状を報告し、「米や野菜生産のような合理化は出来ない」と訴えた。

  「では、法人化のメリットはどこにあったのか」という問題についての意見交換となり、早和果樹園は「法人化することで、今の早和果樹園に発展させることが出来た。法人化に取り組まなければ、普通のみかん生産農家のままであったと思う。法人化することで、年間を通して収益をあげることと、社員の労力配分を考えるようになり、6次産業化の結果である温州ミカンの加工を思いつくことが出来た」と述べた。伊藤農園は「今までは老舗にあぐらをかいていたが、バイヤーからの信頼を高めるために法人化をした。加工部門の規模を拡大するにつれ、新たな取引先へ拡大するには法人化が不可欠な時代となってきた」との意見であった。これらの意見交換を通じて、弊社の方針であった「栽培面積の規模拡大」は優先せずに、6次産業部門をうまく活用する方向で収益を伸ばすよう頑張ってみようと考え始めている。


近畿農政局主催の意見交換会(7月15日有田振興局)

  和歌山県農林水産部から意見を求められた内容は、長期計画作成に当たり「中間管理機構を活用したみかん生産農家の規模拡大は課題化出来るか」であったが、筆者の経験から「青果物生産のみの経営では不可能である」と回答した。しかし、農政局との意見交換を通じて「6次産業を導入し、雇用を安定化すれば、社員1人当たり1ヘクタールの管理は可能なことから、社員数に応じた規模にまで生産面積の拡大は可能である」と考えるようになった。しかし、そのためには農業生産法人化と6次産業化を一体的に進めなければならないと思う。JAが運営する大型協同選果場に出荷している農家は法人化や6次産業化を望んでいないようなので、これらの農家では規模拡大は労力に限界があり、無理と思われる。

  弊社は、様々な考えが交差する中、近畿農政局や和歌山県からの問合せがあったことで、この5年間の農業生産法人運営についての反省と今後の方向を考えるチャンスを得ることが出来た。筆者は、今後の会社運営を考え、現状の規模と加工面の充実で経営を安定化させさる方向でしばらく進め、農業の雇用事業などを積極的に取り入れ、人材育成にも力を入れていこうと決意している。


ガイアの夜明けの取材を受ける伊藤社長(伊藤農園ホームページより)

2016/11


編集後記

食讃人

 今回は、中島理事に「情報ネットワークのセキュリティ対策」についての巻頭言をいただいた。今回のアメリカ大統領選挙を見ても、インターネットが非常に重要になっており、相手側の情勢を探るための国際的なハッキングなども報道されている。そういう私のPCもウイルスに汚染されている兆候がある。厳に気を付けたい。

 GAPの先進地であるスペインには学ぶべきものが非常に多い。学ぶべきものはきちんと学び、先ずその本質を理解する必要がある。その学びの意義を田上理事長がニュースに連載されているので、是非続けてお読みいただきたい。

 また、スペインに直接行って、見聞きしてくるのも非常に有意義であり、スペイン・ツアーを企画したので、是非参加して理解を深めて頂きたい。こういう時に、先達の解説は非常に有難いものである。「リスク認識」と同じで、見る目が無ければ、そこに行っても「どのように見れば良いのか」「何が問題なのか」「どのように活用したらよいのか」などが皆目判らない。リスクがあっても、「リスク認識」が無ければリスクが全く見えないのと同じである。

 日本は「先進地のルールは難しい」として、少し易しい独自のものを作りたがるが、日本のこういうものが国際標準になった例は殆どない。むしろ、日本にとって有害であり、本質を誤解させる恐れさえある。先ず、「学ぶべきものは正しく学ぶ」ところから始めるべきである。

 日本のものが欧米で標準化されて日本に戻ってきている事例が多い。マクロビオティクスやCSA(consumer supported agriculture)や、パーマカルチャーなどがそれである。どうも日本人は、社会ルールを体系化するのが苦手のようにも見える。それとも、単に英語での発信力が弱いだけのことであろうか。

2016/11