『日本農業遺産とSDGs』
GAP普及ニュース75号(2023/5)掲載
佐々木茂明
日本生産者GAP協会 理事
農業生産法人(株)Citrus代表取締役
和歌山県有田地域のみかん栽培の礎を築いた「有田みかんシステム」が令和3年に日本農業遺産に認定された。食品産業全般における生産と流通、供給システムを持続可能としてきたことが認定の背景にあるように思う。その申請内容をみてみると、本システムは「みかん生産者による優良品種の探索と農家による苗木生産の組み合わせで、自立性の高い産地形成、地形の組み合わせに応じた栽培技術の開発、及び日本初のみかん共同出荷「蜜柑方」(江戸時代に紀州藩が作った共同出荷組織)を起源とする多様な出荷組織の共存を核とした持続的農業システム」とされている。
現在日本で最も生産量の多い果実であるみかんの栽培を日本ではじめて生計の手段にまで発展させ、400年以上にわたる有田地域の発展を可能にしたシステムである。有田地域では、室町時代より在来のみかんを栽培しており、安土桃山時代に現在の熊本県より小みかんを導入し、品種改良により「紀州みかん」を生み出し一世を風靡した。このように有田地域では高い観察力を持った農家が日々の農作業の中で数多くの優良品種(枝変わりの突然変異)を見出し、品種のバリエーションを高めてきた。
また、多くのみかん産地はでは苗木を産地以外の専門業者から購入しているが、有田地域ではみかん農家の一部が産地農家のニーズに応える高品質な苗木を産地内で生産するシステムで、2年生土付き苗の供給を可能として生育を早める技術が定着している。それにより、産地内での優良品種の発見・育成・苗木生産が速やかに進められ、産地の自立性が確保されてきた。
一方、有田地域の地質は三波川帯・秩父帯・四万十帯等に分けられ、その地質に適した品種が選択されている。また、地形は複雑で土壌の流亡を最小限に抑えるため石積みによる階段畑が築かれている。その技術は現在においても他産地のモデルとされている。石積みによる畑地の造成は有田地域の地形を活かし、みかん栽培区域と居住区域を分離させ、気象災害や生物多様性を考えた仕組みが形成されていると説明している。
販売手法は、江戸時代につくられた日本初の共同出荷組織「蜜柑方」が、みかんの生産から販売までを確立していく手段として取り組まれ、それが現在も機能していると考えられる。申請内容の概要は以上であるが、歴史が示すとおり、有田みかん産地の農業形態が持続できてきたことは間違い無い。そのそれぞれの取組がSDGsの中にあるように考えられる。合わせて個々の取組が現在のGAPに位置付けられる部分もある。持続可能な農業とは歴史を振り返えると見えてくるような気がする。今、農林水産省によって進められている「みどりの食料システム戦略」にあっても農家が生計を立てられるシステムでなければならない、そうあってほしいと願っている。
現在、和歌山のみかん産地は、「世界農業遺産」を目指し、持続力を高めるためにブラッシュアップしている。
2022年12月19日に農林水産省が世界農業遺産への認定申請を承認した地域に和歌山県が選ばれた。産地は「和歌山県有田・下津(ありだ・しもつ)地域の石積み階段園みかんシステム」として「国連食糧農業機関(FAO)」への申請書作成中
GAP普及ニュースNo.75 2023/5