-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

『GAP普及ニュース 巻頭言集』

 普及ニュースに掲載された、有識者による巻頭言。

『石の上にも3年』
~グリーンハーベスター農場評価で見るGAPのレベルアップ~

GAP普及ニュース62号(2020/3)掲載

山田正美
一般社団法人日本生産者GAP協会 常務理事

 この原稿を書いている2020年の3月19日段階では、新型コロナウィルスの感染がヨーロッパやアメリカで急速に広がっており、収束の見通しが立っていません。このため国境閉鎖や外出禁止令を出す国も出ているほどです。日本は欧米諸国より一足早く感染が始まりましたが、学校の休校やイベントの自粛などが功を奏し、感染の広がりは緩慢になっているように見えます。こうした中、東京オリンピックを開催できるのかどうかが大きな話題となっています。

 ここで、この後の理解を深めるために、言葉の意味を示しておきます。

  GAPとは、持続的な農業を実現するための適正な農業管理の行為を示すものです。農林水産省の 「GAPをする」というのはGAPそのものを意味しています。

  BAPとは、上記GAPに至るために改善を要する「良くない行為」をいいます。 GH農場評価制度は、正式にはグリーンハーベスター農場評価制度といいます。環境保全と食品安全、労働安全などを目指した持続的な農場経営と産地育成のためのGAP 教育システムです。農場のGAP評価は、それぞれの評価項目を原則として5段階で示し、改善を要するBAPの点数を合計し、1000点の持ち点から差し引いた点数をGH農場評価の総合得点として示すもので、農場のGAPレベルの目安にすることができます。

  農場認証(FA)とは、量販店等が、自分達の販売する農産物に対して付加価値を付けるため、「食の安全・安心」や「環境配慮」などの取組みを行っている農場を、販売者が定める認証規準に従って行う農場認証のことです。非営利組織フードプラス(本部ドイツ)が行うGLOBALG.A.P.やイギリスの巨大スーパーのTescoが行う Nature's Choice、日本の非営利組織が行うJGAPなどが農場認証の事例としてよく知られています。農林水産省の「GAP認証をとる」というのは農場認証を取るということを意味していますが、そもそも「GAP認証」という言葉は日本でしか通用しない言葉です(GAP普及ニュース第61号p8~9「GAPの本質と世界の潮流に触れたスペイン・アルメリア視察」)。

  さて、3年前の2017年の春に遡りますが、「サステイナブル」(持続性)を前面に出した東京オリンピックで使用する食材が農場認証を受けた農場からの供給であることが条件となり、農林水産省は急遽「農場認証」を取得した農家数を2020年までの3年間に3倍にするという計画を立てて推進してきました。そのことによりGAPという言葉がマスコミの話題に上ることも多くなり、多くの国民にGAP(持続的農業実践)というものを知っていただく良い機会になったと思っていますが、実はここのGAPは「農場認証」という意味なのです。

  今年はそのオリンピック・イヤーなのですが、現状ではオリンピックそのものが1年延期されるという事態になっています。

  農林水産省は東京オリンピックの食材供給に関連した農場認証取得の推進とは別に、『2030年までに国際水準のGAPがほぼ全ての産地で行われていること』という目標も掲げています。これは必ずしも農場認証を取らなければならないということではなく、ほぼ全ての産地で国際水準のGAPに取り組んでいるという状態になることを指していると思われます。こちらの方は一部の先進的農家だけでなく、ほぼ全ての農家に関係してくるので、農家に対する影響は桁違いに大きいと言えます。

  これからはGAPに興味のある先進的農家だけではなく、大多数の普通の農家も国際水準GAPに取り組んでいる状態にならなければならないことを示しています。

  私はこれまで福井県や福井県農業会議の依頼を受けて、主に初めてGAPに取り組む農家を対象にGH農場評価を数十件行ってきました。その結果、GAPの視点から改善すべき事項の共通の傾向が見えてきています(GAP普及ニュース53号の巻頭言参照)。

  今回はGAPに複数年取り組んでいる農業法人の1年目、2年目、3年目、4年目と年を経るごとに、どのように改善が進んでいくのかをGH農場評価の総合得点と改善を要するBAPの点数でまとめてみました。

  初めてGH農場評価を受けると、1年目の評価点数は大体400点台となります。この例の平均では485点となっています。この点数は1000点満点から改善を要する項目(BAP)の点数を差し引いで計算していますので、大切なのは改善すべきBAPの点数515点ということになります。2年目になると評価点数が634点と約150点向上します。このことは改善すべきBAPの項目が150点分改善されたということを意味します。3年目になると評価点数が730点(BAP270点)、4年目には810点(BAP190点)となり、3年間改善を続ければ、かなり高いGAPレベルに達することになります。このレベルになりますと、農場認証の取得も現実的になってきます。

  個別の評価点数の変化(折れ線グラフ)を見ていくと、1年目に450点の農家が2年目にはいきなり800点になり、3年目は900点となっている農家もあります。この農家は経営主も従業員も積極的にGAPに取り組んだ農家でした。また、この図の中では1例のみですが、2年目から3年目にかけて評価点数が下がっている農家も見られます。仕事の忙しさでGAP対策にかまっていられなかったということも考えられます。

  いずれにしても、3年間改善の努力をしていただければ、かなりのGAPレベルに達することはこれまでのGH農場評価を実施してきた経験から申し上げることができます。こうした経験を踏まえ、GH農場評価制度を利用したGAP実践レベルの向上のイメージは以下の図のようになると考えてい ます。

  私の経験から、GAPに取り組むように勧めると、多くの人は「評価点数の結果が低いと格好が悪い」とか、「GAPは金がかかるし面倒だ」とか思っている人が多く、すんなり始めてくれる人が少ないのも現実です。私は「どうせやるなら早い内に恥をかいて、必要なところには投資をして改善した方が、後から恥をかかなくて済みますよ」ということを申し上げています。

  『石の上にも3年』という諺を頭に入れて、GH農場評価を受け、GAPの評価レベルの向上に取り組んで見られてはいかがでしょうか。

GAP普及ニュースNo.62 2020/3