『協会の歩みとGAPを取り巻く3つの変化』
GAP普及ニュース43号(2015/5)掲載
山田正美
一般社団法人日本生産者GAP協会 常務理事
私どもの日本生産者GAP協会は、その前身のGAP普及センターの時代から数えると、8年間に亘って本格的なGAPの普及に向けた活動を続けてきています。
この間、GAPの発祥の地であるヨーロッパの調査を重ね、代表的なGAP規範であるイングランド『GAP規範』を翻訳して、その精神をGAPシンポジウム等で供に学んできました。また、この『GAP規範』の考え方を参考に、普及組織を中心に各分野の専門家にご協力を頂き、日本農業にふさわしい『日本GAP規範』を刊行し、改定をして参りました。この『日本GAP規範』に基づいて農業現場の調査・分析を行うとともに、農業現場をGAPの視点から改善するための『農場評価・教育制度(グリーンハーベスター評価システム)』の開発も行って参りました。
これまでに得られた成果については、セミナーを開催して技術指導をするだけではなく、都道府県の普及指導員を対象にした「GAP指導者養成研修会」を実施して、農業現場をGAPの視点から評価・改善できる人材を育成して参りました。また、毎年開催しています「GAPシンポジウム」においては、その時々に関心の高いGAPの課題について参加者と議論を重ねてきました。
こうした地道な活動により、ヨーロッパの国や地域で定着しているGAPのように、公知された日本のための『日本GAP規範』に基づいた農業実践の普及を推進してきましたが、未だGAPが日本農業に定着したとは言えない状況です。ヨーロッパではGAPが環境に良い農業の取組みとして既に義務化されています。また、流通する農産物に対しては『GAP規範』に基づく農場認証が求められるようになり、それらの認証が輸入農産物に対しても課せられ、世界的な農産物の流通では、GLOBALG.A.P.認証が農場認証の代表的な基準となっています。
日本では、農産物の輸出がまだ圧倒的に少ないことや、高品質で安全性の高い「日本ブランド」があると言われていることなどが、日本でGAP普及が進まない理由であるとされてきました。
しかし、ここにきてGAPを取り巻く環境には以下のような3つの大きな変化が現れてきました。
変化の一つ目は、農林水産省が2020年までに農産物の輸出量を1兆円以上に拡大する目標を立て、輸出向けの農産物には国際的に通用するGAP認証を進めていることです。
二つ目は、東京オリンピック・パラリンピックにおいて構築されるであろう「フードビジョン」ではロンドン大会で確立された「サステナビリティ」が踏襲されるため、東京オリンピック・パラリンピックで使われる食料の調達基準では、GAP農場からの農産物の調達が期待されることです。
三つ目としては、GFSI(Global Food Safety Initiative)など、世界の主要な食品企業などが、農畜水産物などの第一次産品についても食品安全の管理システムに取り組むことを強く要求していることが挙げられます。
このように、最近のGAPを取り巻く状況の変化は、これまで日本生産者GAP協会が推進してきました本格的なGAPへの取組みの必要性が高まっていることを示唆しています。
先般のGAPシンポジウムでは、グローバルな食市場で求められる持続可能な農業と、そのための国際的な農場認証について、各界の第一人者にご登壇いただき議論を深めて参りました。現代の食品流通は、地域や国を超えて広がっている中で、農産物の安全性の確保はもちろんのこと、環境保全や農作業の安全確保などに配慮した世界に通用するGAPの国内での本格的な普及が急務になっている状況を再認識することができました。 この意味で、日本生産者GAP協会の『農場評価・教育制度(グリーンハーベスター評価システム)』が生産者のGAPレベルの向上に役立つものと確信しています。普及指導員、営農指導員の皆様と共に本格的なGAP普及に尽力していきたいと考えております。
(2015年3月12~13日に開催されましたGAPシンポジウムの挨拶を元に加筆・修正しました。)GAP普及ニュースNo.43 2015/5