『メニュー偽装問題』
GAP普及ニュース36号(2014/1)掲載
佐々木茂明
一般社団法人日本生産者GAP協会 理事
昨今、有名ホテルのレストランなどでメニューの誤表示や偽装が頻発し、マスコミ上で論争が展開されてきました。多くのニュースでは、利用者への謝罪などについて『レストランを経営するホテル側は、名誉回復にどのように対応していくのかが注視されている』と締めくくっています。
この偽装事件を扱った時に、マスコミは、偽装に利用された一次産品を提供している農林水産業界がどのよう考えているのか、生産者の気持ちを考慮していただけたのでしょうか。
この「GAP普及ニュース」を読まれている方々の大多数は、農産物の生産現場に関わって仕事をしておられる方々と思います。私はかつて生産現場に関わる仕事をしていた頃、よく課題になっていたのが農産物の「産地表示」でした。
和歌山県内には温州みかんの産地といわれるところが4ヵ所あります。最も規模の大きな産地は有田地方ですが、現在は「有田みかん」の商標で流通されています。しかし、かつて「有田みかん」と表示する段ボール箱に入ったみかんが産地の生産量を上回る時代があり、和歌山県内の至る所のみかん産地で「有田みかん」と表示されて出荷されていました。酷い場合は、他府県から加工用みかんに近い温州みかんを仕入れ、有田地方で荷造りして「有田みかん」と称して販売していた悪徳業者もいました。私達には、それらを厳しく注意して回った経験があります。しかし、それは一昔前の話です。
現在、産地表示がJAS法で義務付けられて既に13年が過ぎている今日、消費者に近いはずの流通・外食業界において「メニューの誤表示」がまかり通り、偽装が横行し、「違っていました」で済まされてしまう現状を知り、日本の食品産業の規制の曖昧さには、今更ながら驚かされます。しっかりルールを守って営業されている外食関係者が大多数であると信じますが、有名ブランドの老舗店がこのような不祥事を起こす原因には、横暴な経営側にも問題があるのではないかと想像しています。日本の工業を含む製造業は、技術革新と各種の社会ルールを守ってきたからこそ、今日までこのように発展してきたのだと思います。今、そのようなルールが希薄になり、なくなってきているのではないかと心配しています。 企業の経営面を優先させ、リストラなどにより、積み重ねてきた技術や知識を切り捨ててきた背景がそうさせているのではないかとも思います。調理に携わっていた調理人(技術者)ならルールが大切なことは判っていたはずです。農業経営においても、生産現場の労働安全と生産物の安全性を担保できなければ、食品を生産する仕事に携わる資格はないと考えています。
経営のために偽装に手を染めるのは許されないことですが、決められたルールをきちっと守っている生産現場の経営が、ちゃんと成り立っていくような社会の常識を作り上げていく必要があると思っています。これが日本のGAP規範の背景にある農業倫理であり、取引上の商道徳であり、これらのルールが守られる社会を作り上げていく必要があると思います。
農産物の生産から流通においては、それぞれのルール(GAPなど)を遵守し、安全で信頼できる商品を消費者に届けられる仕組みの充実が問われています。今回の食材偽装事件を教訓にし、報道するマスコミも、ごまかしのない社会的ルールを構築する方向に向かって欲しいと思います。
GAP普及ニュースNo.36 2014/1