『スペイン地中海沿岸部の大規模施設園芸および畜産におけるGAPの取り組み状況に関する調査報告』
中村正士 株式会社アジア地域連携研究所
1. 調査の目的
近年、我が国では各地域で農畜産物生産における適正農業管理(GAP:Good Agricultural Practice)の取組みが始まっているが、まだ普及率は極めて低いのが現状である。こうした中で、東京五輪・パラリンピックの食料調達を巡って農業の持続性の観点から所謂GAP認証取得が必要とされたことから、GAPに対する関心が高まっている。
しかし、現実にはGAPの取組による農畜産物生産における食品安全や環境保全、労働安全の確保が農家経済の向上や農産物の流通・販売に具体的な必要性や効果については必ずしも明確になっているとは言いがたい。
今回の調査では、先進事例としてヨーロッパ各地に農畜産物を輸出しているスペイン地中海沿岸地域のを取り上げ、GAPの取組の背景および実態、農業関連組織の役割などを明らかにすることを目的としている。
2. 調査期間
平成29年11月20日~24日(5日間)
3.調査地域の地理的概要
- (1)調査地域の位置
スペインは、17の自治州からなっており、州の下に更に50の県、その下に郡がある。
今回の調査地域は、スペイン東部の地中海沿岸に位置するカタルーニャ州(州都バルセロナ)およびアンダルシア州(州都マラガ)である。調査地域を図‐1(地図)に☆印で示した。
カタルーニャ州はGerona、Lérida、Barcelona、Tarragonaの4県からなり、面積32,110 km2でスペイン全土の6.3%を占め、人口は752万人(2015年)である。カタルーニャ州では、バルセロナ市内と市中心部から北西に車で2時間ほどのソルソーナ(Solsona)およびルロベラ(Llobera)で調査を行った。
アンダルシア州は、面積87,270 km2であり、人口は839万人(2015年)である。Almería、Granada、Jaén、Córdoba、Málaga、Sevilla、Huelva、Cádizの8県からるなる。アンダルシア州では、アルメリアとエルエヒドで調査した。
- (2)調査地域の気候
調査地域は地中海に面した地域であり、気候は一年を通して雨が少なく、温暖な気候である。図2には施設園芸がアルメリアと東京の月別平均降水量と平均気温を示した。アルメリアの降水量は、5月から9月までは少なく10月から3月までが多い。他方、東京では3月から10月までの農耕期間に多い。図には示していないが年間の降水量を見てみると、アルメリアでは200mm、東京では1529mmとアルメリアの7.5倍弱に達する。
気温については、アルメリアの年間の平均気温は19.1℃、東京は15.1℃となっている。アルメリアの気温は、7月、8月はほぼ東京と同じ気温であり、一年を通じてみると東京より高い。
日照時間について、アルメリアと東京を比較したのが図-3である。斜線の東京では年間を通じて200時間を下回るが、アルメリアでは、1年を通してほぼ200時間を上回っている。
気候の面からスペインの地中海沿岸部と日本(関東)を比較すると、地中海沿岸部は日照時間が圧倒的に長く、また冬期の気温も高い。従って、地中海沿岸部は、水の確保が問題であるがエネルギー消費が少なく、豊富な日照により果菜類や果樹の生産には有利な地域といえる。
4. 調査結果
- (1)調査結果の要約
訪問先は、農協の連合会、連合会の会員農協および組合員の農場など全11カ所である。今回の調査における訪問先と主な調査内容を下表にまとめた。
この調査から得られた主な知見は以下の通りである。
-
- ① 農産物の生産や販売での農業協同組合の役割が重要であり、組合および行政府は家族経営農家の維持を中心に考えている。
- ② 地域のAgroCOOP(農協)と連合会は、大規模流通業者のバイイング・パワーに対抗するため、選果場の共同利用や認証管理などで連携を強めている。
- ③ 調査地域の農業生産では、水資源の確保や家畜の糞尿汚染対策などの環境対策が重要となっている。
- ④ アンダルシア地方の施設園芸は、海外からの農業労働者なしには成立せず、労働者の教育や福利厚生などの課題がある。
- ⑤ スペインの地中海沿岸地域のカタロニア州およびアンダルシア州から農産物がドイツや英国、オランダ、スウェーデンなど北ヨーロッパに輸出されている。
- ⑥ 環境や労働、食品安全に対するEUの政策と同時に輸出農産物を扱う大規模流通業者が、GlobalG.A.Pをはじめとする認証を農協(生産者)に要求している。
- ⑦ 農産物の販売を担う農協は、農産物の認証に責任をもっており、品質管理を生産者に任せるのではなく、認証基準をテクニコ(技術者)が生産者に指示することによって実施している。
- ⑧ 農産物の生産工程管理など営農全般亘って、農協のテクニコが重要な役割を果たしている。
- ⑨ 農協は複数の認証制度にそれぞれ対応しており、費用も負担している。
- ⑩ 調査した農協の選果施設は、非常に衛生的で明るく、作業環境の面からも優れている。
- ⑪ テクニコが圃場での生産履歴を記録することによって、選果場から販売先でも容易にチェックできるシステムが導入されている。
月日 | 地名 | 調査先と調査概要 |
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11月20日 | バルセロナBarcelona | ① Unió de Pagesos de Catalunya 所在地:Carrer d'Ulldecona, 21, Barcelona カタルーニャ(Catalunya)州を代表する農協の連合組織で、組合員に対する行政との交渉や土地や税に関する相談、生産技術指導などの事業を行ってる。組織体制、事業内容、組合に対するサービス、GAP認証等の取り組みなどについて調査した。 |
ソルソーナSolsona | ② Agroxarxa (Unio de Pagesosの子会社) (Solsona, Lleidaにて説明を受ける) Unio de Pagesos傘下の営農支援組織Agroxarxaと組合員農家から、農林業を営むメンバーに対する会計や技術、保険などのサービスの内容、GAPの認識、現場の実践などについて調査した。 | |
11月21日 | ルロベラ Llobera | ③ Granja Godall 所在地:C-451, 22, Llobera, Lérida 兄弟3人で飼料生産、繁殖・肥育、加工・販売(Granja Godall)を行っている養豚・加工農場を視察した。循環農業に基づく持続的な農場経営、マーケティング、農場認証などについて調査した。 |
11月22日 | エルヒド El Ejido | ④エル・エヒド市役所 所在地:Calle Cervantes, El Ejido, Almería 農産物輸出でビジネス拡大する企業農家を支えるエルヒド市役所で市の農業の概況や行政としての支援やテクニコの役割について調査した。 |
⑤ CAMPOSOL S.C.A. 所在地:Paraje Laimun, 13, El Ejido, Almería UNICAに加入する農協で、パプリカ、ズッキーニ、ナスなどを取り扱う。選果場を視察し、農産物の荷受・選果工程や組合員管理、テクニコ(営農指導員)の役割などについて調査した。 | ||
11月23日 | バラネグラBalanegra | ⑥ Cabasc S.C.A.所在地:Ctra. Málaga, km 400, Balanegra, Almería UNICAに加入する大規模農協の選果場を視察した。パプリカ、ズッキーニ、ナス、インゲンなどを取り扱う。テクニコの業務内容や認証制度について調査した。 |
⑦ Cabasc組合員の農場(クアン氏農場) Cabasc 農協の組合員農家を訪問し、パプリカ栽培農場の概況や農場管理、GAPの取組み状況、テクニコの役割などについて調査した。 | ||
⑧ Cabasc組合員の農場(アントニオ氏農場) Cabasc農協の組合員農家を視察した。パプリカ栽培農場の概況やGAPの取組み状況や農場管理、テクニコの役割などについて調査した。 | ||
⑨ 連合会UNICA 所在地:PITA, Av. de la Innovación, Almeróa 10農協が組織する連合会で、選果場を共同で運営している。青果物を中心としたマーケティング・販売と集荷・選果を行う。認証制度の取り組みや販売、品質管理などについて調査した。 | ||
11月24日 | アルメリア Almeria | ⑩ Hispatec 所在地:PITA, Av. de la Innovacion, Almería 農業分野専門のシステム開発会社。選果場に出荷された農産物を圃場から売り先までをICTを活用し統合管理する「農業ERP( Enterprise Resource Planning)」システムについて調査した。 |
⑩ Bio Sabor S.A.T所在地:Crta. San Jose, Km2,San Isidro de Nijar, Almería 有機栽培によるトマトやパプリカを生産する大規模法人経営。Bio Sabor の農場および選果場を視察した。有機栽培とIPMで野菜生産に取り組み、高い利益を上げる生産組織の施設栽培と先進的選果場を調査した。 |
- (2)各視察先での調査結果
- 1)カタルニヤ農民連合(Unio de Pagesos de Catalunya)所在地:バルセロナ
Unio de Pagesos de Catalunya(以下UPC)は、1974年に設立された農業協同組合(第2レベル*1 )である。本部はバルセロナにあり、本部は農業省も資金を出して建てた農民組織が入る"CASA DE L'AGRICORA" という建物に入っている。本部の他に25カ所の事業が州内にある。州内には、同じような農民組合組織が3つあり、約3万人の農家のうち約67%が組合に加入しており、UPCの組合員は約6000人である。組織体制としては、13名の理事と50名の職員からなっている。
もともとは農業者労働組合のような組織であったことから、今でも「労働組合」という呼び方をしているが、自営農業者の協同組合である。74年当時は、100%家族経営農家であったが、法人化が進み家族経営は減少している。組合員の栽培する農産物は、果樹、野菜、オリーブ、ブドウ、ナッツ、穀物などのほか、畜産農家(鶏、豚、牛)である。
組合の活動は、社会的な運動(環境問題、農家の直接販売への支援)に重点を置いており、農業者と行政との橋渡しによる農業の保護を目指している。他の2つの農民組織は政治的な影響が強いという違いがある。
UPCの主な事業は、行政への政策要求、自営農家への教育、ITの技術指導、情報提供などである。月間誌として「LA TERRA」を発行している。農家への技術指導および作物共済、災害保険などのサービスは、別組織(子会社)の Agroxarxaがコンサルタント業務を行っている。組合費は、年間150ユーロ(戸別)で、若い農家は安くしている。
北アフリカや南米からの農業労働者が数多く来ており、カタロニア農業はこうした季節労働者が担っている。しかし、労働組合から出発した組合でありながら、こうした労働者は組合員ではない。当組合は社会的な貢献として、こうした農業労働者のためにファンドを作って支援を行っている。
子会社のAgroxarxaは、UPCのコンサルタント・サービスを行う組織であり、7名の役員と130名の職員がおり、内70人は技術者である。技術の普及に関しては、州政府の機関であるIRTA(Institut de Recerca i Tecnologia Agroalimentàries)注)が食品および農業分野の試験研究・研究開発を担っており、Agroxarxaはここの研究成果を活用している。
(注)IRTA(英語名はInstitute for Food and Agricultural Research and Technology)は、カタロニア州政府の農業および食料、地域活動に関する試験研究機関として1985年に設立された。188人の研究員と488人の補助スタッフを擁し、3つのセンターがある。研究対象分野は、農業、家畜・作物生産、食品加工、林業、養殖、漁業、農業食品経済、環境・気候変動である。試験研究は、18の研究部と大学や公共機関、CSICなどと協力して行われている。2015年の年間投資額4.157百万ユーロ(5億5千万円)。
(出典:http://www.irta.cat/en-US/Pages/default.aspx)GlobalG.A.P(G-GAP)は全ての農家が取り組んでいるわけではないが、IPMへの取り組みは盛んとのことである。G-GAPについては生産者組織でなく輸出業者や消費者協同組合が主に技術指導を行っている。G-GAPの認証取得が求められるのは、野菜、フルーツの販売業者から求められている。
加工品については、G-GAPは要求されないが、ワインやチーズは原産地表示を要求される。果樹の80~90%は輸出なので果樹農家4000戸の全員がGAPを取得をしている。野菜は輸出ものはGAPを取得。野菜は輸出は少なく、野菜生産農家約1000戸のうち80~90%がG-GAPを取得している。野菜については、輸出しているものもあるが輸入しなければならないものもある。食品工業がカタルニアの主要産業なので、こうした認証制度に対応していく必要がある。一部の生産者のなかには有機認証を取得しているものもいる。有機栽培の規準はG-GAPより厳しく、有機認証を取得すればG-GAPの取得は必要ない。果樹の場合、有機認証は園内のすべての樹種で取得する必要がある。有機の認証については、生産者と販売業者が協定を結んで認証を取得している。有機栽培とIPMの取り組みについては、7%スペイン政府、残りカタルニア政府から補助が出ており、全作物の43%で補助を受けている。
有機、IPMはUPCは教育に関与しているが、GAPは民間の認証システムということでG-GAP認証や教育はやっていない。
カタロニア州は、豚の生産が盛んで670万頭(2013年)以上を生産している。これらの豚は、80%が大企業の委託生産であり、豚の生産には問題を抱えている。現状では、相変わらず大企業による農家への豚の委託生産は減っておらず、生産者は弱い立場に置かれている。こうしたこともありUPCの畜産分野での活動として、市場の価格の低下による畜産農家の影響を少なくするために、UPCが業者との仲介を行って極端な価格の下落を回避している。
畜産分野での技術指導は、大企業およびUPCが行っている。衛生面の指導や必要な衛生設備の整備費用は企業が負担している。アニマル・ウェルフェアや環境に関する事項ついては農家が責任をもつことになっている。
最も大きな課題は、水の確保と地下水や河川の水の汚染防止である。面積当たりの頭数に関するEUの規制が強くなっているなか、汚染問題が2箇所で発生している。こうした汚染は、豚の糞を撒くことから起こるが、処理プランへ運搬し処理すれば良いが輸送コストの問題と処理プラントへの補助金が出なくなったので中止されており、解決が難しくなっている。
*1 スペインの農業協同組合は3段階制で、農家が直接加入する協同組合(第1レベル)、農協間で連合会を形成するのが第2レベルの農業協同組合、更にそれらの連合会が全国組織を形成する場合は第3レベルの農業協同組合連合会である。
- 2)Agroxarxa 所在地:カタルーニャ州バルセロナ
Agroxarxa のJorudhi(会計責任者)、Anna(サルサ地区責任者)から説明を受けた。
Agroxarxaは前項のUnio de Pagesos de Catalunya(UPC)の100%出資の子会社である。技術指導や保険業務などのサービスを組合員に提供する有限会社として、1991にUnióde Servicios a la Pagesia SL母体に設立され、当初、限られた人的・技術的資源で、農業経営者にサービスを提供することに焦点を当てた税や会計、保険などを扱っていた。その後、農業連合会(Unió de de Pagesos de Catalunya)は、この会社を通じてカタロニア州全域の農業従事者と牧場経営者にサービスを提供するようになり、農業者のサービス・ニーズに特化した専門知識を有する組織として成長した。
表-● Agroxarxaの業務内容 事業項目 事業内容 保険サービス 農業保険 - ・農業保険は畜産と作物が対象で農水省が管轄する公的な保険
- ・一般畑作物および果樹、飼料作物、油用作物、切り花、育苗中の作物
- ・家畜保険;対象畜種は、豚、牛、羊、ヤギ、ウマ、牧羊犬、養蜂、家畜へのワクチン接種や遺伝的鑑定も対象。
- ・生産者組織や森林も対象
一般保険 農家を対象とした災害保険 会計コンサルティングと経営指導 税務 税金に関するアドバイス、納税事務処理など 会計業務処理 会計に関する研修、税制に基づく会計記録作成、税務検査対応、税金決済の助言と会計処理、財務諸表の作成 労務 社会保険、給与計算、特別農業制度、紛争処理、雇用関係の税務など 雇用労働の募集 労働者の選定・仲介、宿泊施設に関するアドバイス、労働者宿泊施設の最低限条件確認、労働許可、契約、ブドウ栽培などへの労働者派遣など 経営指導 エコノミストや弁護士などの専門家による商業上のアドバイス 法律相談 契約や相続、登記、税などに関る法的な手続きの支援 資産管理 車両や建物に関する登録変更手続き、各種公的手続き、不動産管理 技術支援 助成金・補助金管理 公的助成金やEU補助金の手続き 技術指導 農業に関連したエンジニアリングや報告書の作成、技術的・環境的アドバイス 鑑定評価 土地の評価、建物、建物、農場および施設の評価。企業や活動の評価)、土地・建物の評価、農場および施設の評価、企業や活動の評価、売却、住宅ローン、相続、収用の評価と行政の責任、損害その他の格付け 公共事業に対する農場保全 行政手続きの助言、公共事業からの農場保護に関するアドバイスなど 森林管理 私有の森林管理と改善の技術計画、公的森林の管理計画、狩猟計画、防火計画、森林管理に関するアドバイス 出典:http://www.agroxarxa.com/serveis/より作成 カタルニア州全体がサービスの対象地域となっているので、州内の27地区に事務所を置いている。従業員は全体で157名おり、この内テクニコ(技術者)*2 が35~40%を占め、その内90%が資格を持っている。テクニコには機械技術者や会計専門家、フィールド・エンジニアなどがいる。
Agroxarxaのサービスはだれでも受けられるが、UPCの組合員は利用料が安く設定されている。
Agroxarxaの年間売り上げは約9億円とのことである(保険は含まれていないと思われる)。
農業協同組合がテクニコの雇用する場合でも、国や州の補助はほとんどない。日本の農業改良普及員とは違う位置づけであるが、州政府の公的試験研究機関であるIRTAがテクニコに対し、肥培管理技術や新しい技術の情報を役割を担っている。
農家からAgroxarxa に対しては、会計や補助金支援のニーズが高いとのことである。技術指導については、野菜のみについて言えば5%程度の農家の利用率であり、余り利用者はいない。穀物などについても技術指導サービスの利用は少ない。一方、IRTAは独自の開発成果を普及する体制はなく、昔からテクニコによる民間主導の普及体制となっていることは興味深い。穀物の育種なども民間企業が主導して行っており、企業がテクニコなどを通じて農家に普及することが多いので、Agroxarxaは今後フィールドでの指導に力を入れる計画とのことである。
xarxaの具体的な事業は、表-●に示す通り多岐に亘っている。この表には書かれていないが、直販(インターネットを含めた)や加工品販売、環境保全、加工事業なども行っている。また、全ての農家にサービス(情報)が行き届くように農業関連組織の情報伝達が標準化されたが、Agroxarxaは農家に情報を伝えることができる組織として政府から認証を受けている。
*2 「テクニコ」とは技術者のことで、スペインでは農業分野だけでなく種々の技術者がテクニコと呼ばれている。農業分野では、テクニコは国の資格試験と一定の実務経験のほか農水省トレーニングが要求され、テクニコで構成する協会もある。
- <カタルニア州の地理的概況>
カタルニア州は、スペイン全土の面積の6.3%、人口の16%を占める。一人当たりGDPは、ヨーロッパ平均より高い。州には41郡(Comarques)があり、その内8郡は年間の降雨量が400mm、12郡が500mm以下の地域である。海抜1000m以上の地域が20%を占め、斜度20%以上の地域も50%を超え、平坦な農地は少ない。事業内容に森林管理や狩猟計画などがあるように、森林も多く約64%を占めている。自然保護区は全体の30.4%におよびこの地域では開発が制限されている。
- <農業の概況>
カタルニャ州の食料の自給率は約40%である。農家の平均年齢は、41.6才と比較的若い。しかし、中心部から外れると高齢化が問題となっている。
面積規模からするとアメリカやブラジルに劣るので、「質」で競争することを考えているとのことである。
州内の農業形態としては64%が畜産、耕種は33%である。耕種の作物としては、果実、花、野菜、穀物などである。畜産では豚、鶏、牛が飼養されており、そのうち豚が最も多く、全体の56%を占めている。豚肉の加工品の生産が盛んであるが、輸出が最も多いのは生肉である。
この地域の特徴として、有機栽培による生産が多いことが上げられ、約3200戸が有機栽培を行っており、IPMに取り組む農家も多い。G-GAPは、バルセロナの野菜地帯は多い。
その他のの地域では、GAPは取り組みはあるがG-GAP認証の取得は少ない。
- <食品加工>
19.7%が食品加工業(14%が輸出):世界的食品展示会もある。ヨーロッパで最大の食品市場がある(バルセロナ)。リソーナやメルカバーナと言った代表的食品会社があり、IRTAが大学と連携して開発をおきなっている。
- <協同組合>
農協(AgriCoop)は、生産自体の役割は大きくないが、販売と選果を含む加工については大きな役割を担っている。レリダ(Lleida)には、AgriCoopが多くある(全体の35%を占める)。果樹や野菜のAgriCoopは493組合あり、州全体の販売額の67%と多いが、畜産組合は497組合もあるにも拘らず、販売額では21%と少ない。
- <補助金>
農家に対する補助金は、EUのルールに基づく補助がある。ヨーロッパ全体では平均25%の補助率だが、カタロニア州は12%と低い。畜産への補助金はないが、野菜は4.45%、穀物の59.5%の補助を受けている。EUの目的は、農家を減らさないための補助金であり、個人農家を減らさないことを目的にしている。
農業を営む人は補助金は誰でも対象となり、直接支払いは、農地面積とGAP(環境保全)への補助である。環境支払いについは、農業振興地域に対して支払われる補助金である。有機栽培などは環境支払いの補助金に入る。新規就農への補助金、競争力に対する補助金、ソーラーパネルへの補助金、グリーツーリズムへの補助金がある。生産から流通までバランスのとれた補助を目指しており、農業に関する補助金は以下の通りである。
(1)直接支払い(生産にリンクした)
- ① DPB(Base payment rights)
- ② Greening(conditioned payment to Good Agricultural Practices)
(2)地域開発整備
- ① 農業維持補助金(地域別/生態的な制限)
- ② 農業競争力資金
- ③ 若年層の就農(新規就農または継承支援)
- ④ 候変動緩和
- ⑤ 多様化:補完的な活動に対する投資(アグーンツーリズム)
- 3)Granja Godall 所在地:カタルーニャ州ソルソーナ(Solsones)
Granja Godall は、農家の3人兄弟で飼料生産から豚の肥育、加工までを行っている農場である。農場は1970年に両親が開設したとのことであるが、農場の建物はかなり前からあったもののようである。豚の生肉を出荷することが農場の当初の目標であり、5年ほど前までは、穀物生産と養豚のみであったが、経営が苦しく加工品の製造販売に乗り出した。
農場は250haの農地を所有しており、長男が飼料となる穀物を生産している(航空写真の左側)。
次男が養豚場(航空写真の右側)で使う飼料は、小麦、大麦、牧草(乾)で生産しており、50%程度は長男の畑から採れる穀物で賄っている。
飼育している豚は、デュロック(母豚はランドレースとデュロック・ゴダーリを掛け合)、イベリコである。デュロックは、穀物のみで育て、イベリコはドングリを食べさせるとのことで、背中に脂肪分が多い。母豚は約700頭、全体で8000~1万頭を年間生産している。屠場で枝肉にし、約75%を業者に出荷し、残り25%をGranja Godallで加工している。養豚場は4名の従業員と管理者1名で運営している。
現在、三男は、加工場で豚肉の加工品を製造しているが、それまでは農場独自で加工工場は持っておらず、2013年にSolsonaとBioscaの道路の交差点(航空写真の中央)に加工施設と事務所、店舗を持った施設を州の補助金を受けて開設した。また、バルセロナ市内にも販売所を設けており、2ヶ所で直売しているほか市場に出荷している。この加工工場ができたことによって、自分達で製造したものが売れるようになり、経営状態が良くなった。以前は、大企業の豚の預託があったが今はなくなった。
加工工場には、100万ユーロ投資していおり、その内40~45万ユーロはカタルーニャ州政府の補助である。ソーラーパネルを設置すると40~45%の補助が得られると同時に工場の電気も賄える。こうした補助金は、家族経営の農家に対しては優遇措置がある。豚の飼育舎でも、ソーラーパネルで発電した電気を使用して子豚の暖房などに使っている。
この養豚場では、抗生物質を使わない飼育をしており、認証機関からはそのための記録が求められている。カリタックスの認証を得るため、年600ユーロを支払っている。認証検査項目としては、飼育密度や飼料、アニマル・ウェルフェアなどである。EUでは、1ha当りの豚の飼養頭数は30頭に規制されている。畑への散布量は州で決められているが、8~10月と1月は、畑への散布が認められている。農場では130万Lの汚水タンクを持っており、年間10ヶ月間分は貯留できることから環境汚染の問題はなく、周辺には人家も少なく散布しても苦情はない。
今後の展望としては、自家加工の割合を増やしたいと考えている。そのためには、ストリー性のある加工品を作り、ブランドを浸透させていく必要がある。今のところコンサルタントは使っていない。
- 4)EL EJIDO市役所 所在地:アンダルシア州
マニュエル・ゴメス氏(市役所農業部長)とアントニア・エスコバル氏から市の農業概況について説明を受けた。
- <農業概況>
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エルヒド市は、州の農業生産量の50%を占めており、農業および関連産業が主な産業である。また、農業に関連する資材企業も多い。アルメリアは、50年間でハウス栽培では世界のトップクラスの地域となった。ここまで農業が発展したのは技術革新の成果と市民の努力があったからである。
農地は約3万haである。この地域のGDPの約60%が農業生産によるもであり、農産物の生産は120万トンを上回っている。畜産は余りなく、昔はヤギ、羊があったが今はいない。
アルメリアの気象条件は、年間の日照時間が3000時間もあり、ハウス栽培に適しており、ハウス栽培は1万5千haに上る。また、この地域のハウスでは、冬期間(10~5月)でもヒーターなしで収穫が可能であることから、ハウスでは年1.48回生産が出来る。作物は、ピーマン、インゲン、スイカ、メロン、ズッキーニ、ナス、きゅうり、トマトを生産している。
50年前から品質を重視し、環境に配慮した生産をしており、農産物のトレサビリティーや安全性を重視した生産を目指している。2017年には、農家の92%がG-GAPを取得した。また、ここ数年有機のニーズが増えており、それに従って有機農産物の生産が伸びている。
EUの方針に従って持続可能性に配慮した農業に力を注いでいるが、有機農産物の生産に対して特に公的補助金はない。
生産した農産物の約75%が輸出で、イタリア、ドイツ、フランスなどが主な輸出先である。地中海料理は健康増進にも優れユネスコの世界遺産に認定されており、我々は健康を輸出していると自負している。
農家数は約8000戸で、その約85%(5290戸、農家人口にして約1万3千人)が家族経営の農家で、平均の耕作面積は2.5haである。
こうした家族経営を支えているのが農業関連企業や海外からの農業労働者である。農業関連の従事者2万7千人に上る。その内、海外からの労働者は約2万2千人であり、20%が海外労働期間に制限がないモロッコ、ルーマニア、ブルガリアからの労働者である。海外からの労働者に対するスペイン語の教育は市が行っているが、海外からの労働者の教育も課題となっている。
- <ハウス栽培や農業の課題>
この地域には、ビニールハウスが多いが、その理由は、この地域には昔はブドウの棚栽培が多くあったことこら、その棚にビニールを掛けてハウスに利用したのが始まりである。
ハウス農業の課題としては、水の不足、インフラの整備、技術向上、有機の拡大などが上げられる。
現在、農業などで使う水は、80%が井戸(150~200m)から得ており、7%は貯水池と河川、残り13%は海水を浄化している。海水の浄化水の価格は井戸水の3倍にもなるが、水利用者が負担している。こうした水の問題もあって、この地域でのハウス面積を拡大することは難しくなっている。
また、ビニールの廃棄の問題もある。現在は、製造者、輸入業者、農協、倉庫業者が資金を出して、市内にビニールのリサイクル工場を建設した。また、市役所は選果場での廃棄物を処理する会社を設立し、環境保全に努めると同時に有機物の循環にも取り組んでいる。
農産物の輸送は、99%がトラックで、鉄道や船がまだ十分ではなく、農産物の輸送手段の拡大が課題となっている。
農家に対する補助金は、州が10%、国が15%、EUが75%負担している。補助金の使い道としては、水道のインフラなどに対して補助金を出している。市の担当者の説明にはなかったが、今後UKのEU離脱やギリシャの負債問題などから補助金の在り方が再検討される懸念があると思われる。
この他、新規就農対策や雇用労働力、家族経営状況、認証に関するに対する課題もあるとのことであった。
一方、市では、食品イベントなども開催し、農業や関連食品産業に対する支援を行っているとの話である。
- <GlobalG.A.Pの農家の取り組み>
G-G.A.P やトレーサビリティーが農家に浸透している背景は、売り先のスーパーの要求していることがある。G-GAPの認証取得は、農家とスーパーや農家と農協の関係であり、行政は関わっていない。農家はG-GAPに取り組んでも、販売価格には反映されるわけではなく、輸出と国内販売で価格差があるわけでもない。こうした農家の取り組みは、結果的には、農産物の品質向上や環境保全、農産物のトレサビリティーや安全性の確保、農業労働者の労働環境の向上などにつながっている。
生産の持続可能性を確保するため、ハウス内についてはアンダルシア州の責任とし、外部は市の責任で監督を行っている。ハウス外には、植物を植える(1%)規制も作った。
- <技術普及のシステム>
農業に関する技術開発はアンダルシア地方として行っている。こうした技術開発は、行政、市役所、農協が一緒になって行っている。市役所職員として、農業大学出身で試験に合格したテクニコが8~10名いる。農家が農薬、肥料の使用するに当たっては資格が必要で、アンダルシアでは3段階資格(Basic、上級、指導者)がある。
- <有機栽培>
消費者の健康重視ということもあり、有機栽培がドイツ、イギリスなどの中欧でが広がっている。但し、有機栽培の取り組みは、農家にとってはハイリスク、ハイリターンである。農家の200戸(面積の2~3%)が有機栽培に取り組んでおり、有機栽培農家は認証取得は義務化されている。
- 5)CAMPOSOL S.C.A. 所在地:Almería州 El Ejido市
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CAMPOSOL S.C.A.のアントニオ会長から説明を受けた。
この地域には、9~10農協(Agri-COOP)があり、エルヒド市の中で一番古い農協である。CAMPOSOLには、186戸の農家が加入しており、CAMPOSOLは前出のUNICAに加盟している。新規の加入は、それほど多くはないが毎年3~4%程度増えてるとのことであった。現在、農家の農協加入率は60%程度である。
- <Agri-COOPの組織の概要>
理事は、5年に1回選挙で選出されることになっている。CAMPOSOL農協への加入には1戸当たり、最低6000ユーロの出資が必要である(但し、議決権は出資額とは関係なく1農家1票である)。
農家は1農協へしか加入できないが、農家が自由に選択できる。農家は、農協の選択する場合は支払い条件、サービス、距離によって決める。農家の40%は農協に属していない。Agri-COOPには資材供給を専門とするものもある。
- <生産と販売>
CAMPOSOLの組合員の総耕作面積は 220haである。農家農家の平均耕作面積は1~1.5haである。CAMPOSOLの野菜の扱い量は約2万2千トンで、品目はパプリカ、ズッキーニ、ナス、キュウリ、スイカ、メロンなどである。販売先は、国内が8%、ドイツが82%、カナダ、アメリカが10%となっている。CAMPOSOL の農産物の販売はUNICA が担当している。CANPOSOLの手数料は2%である。また、UNICAは営業手数料5%と運送費20%、を取っており、UNICAは利益は出せないので、加盟Agri-COOPに1.5%程度を戻している。
- <CAMPOSOLのテクニコ>
CAMPOSOLにはテクニコは14名おり、そのうち農場サービスのテクニコは3名である。
農協のサービスは、選果施設の運営、技術指導やコンサル、品種選定、G-GAP指導と認証の管理、経営指導、生産計画などである。
種苗の開発については、品種改良は民間が行いテクニコを通じて普及のが一般的で、公的な機関が介在することはない。栽培技術の普及も民間主導でテクニコや資材会社がテクニコを通じて行い、技術指導については行政の関与はない。
農協は補助金申請のサーポートなども行っているが、農協は技術指導やその他のコンサル・サービスなどに対する賦課金は農家から徴収していない。
- <認証制度の取り組み>
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CAMPOSOLが取得している認証は、選果施設・倉庫の認証と農場のIPM認証がある。G-GAP、SMETA、GRASPなど幾つかの認証を取得している。CAMPOSOLでは当初、農家の40~50%がユーレップGAPの認証を取得することを目指していたが、スーパーの要望もありG-GAPを100%取得することになった。現在、UNICA傘下の農協および農家は全てGLOBALG.A.Pの認証を取得している。また、加入農家は100%IPMに関する認証を取得している。大規模流通業者による認証制度は内容的に似てるが、各社ごとに多少異なる。認証の中には社会的な影響などを含むものもある。
CAMPOSOL にはQCマネージャーがおり、BRC、IFS,SUMETAなど認証取得や管理を行っており、CANPOSOL が認証料を負担している。認証の維持には各認証ごとに1万ユーロ程度の経費かかっている。
テクニコは、70haを担当し10日に1回の割合で農家を訪問している。土壌診断は農家が自ら実施しており、残留農薬の分析はCANPOSOLが責任を持って実施している。収穫前にテクニコがサンプルを採取し、抜き取り農薬残留検査を行っている。
QCマネージャー(テクニコ)は、製品の品質管理とトレサビリティーなども管理する。
- 6)CABASC S.C.A. 所在地:Ctra. Málaga, km 400, Balanegra, Almería
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CABASC は、UNICA Groupに加入にしている大規模農協である。大規模小売店に対抗するため8年前に5農協でUNICAグループを形成した(現在は10農協)。選果場を共有することがUNICA加盟の条件となっている。
UNICAは30万トンを生産し、うちCABASCの生産量は約8万トンで最も多い。90%は輸出で残りが国内で消費である。
視察したCABASCの選果場は、パプリカ・ナスに特化している選果場で、他の品目はUNICAグループの他の選果場に出している。UNICAが輸出しているのは、最も多いのがドイツ、続いてUKである。
CABASCの組合員は、750戸で作付面積は850haであり、平均1~1.5haである。農家が農協を選択する場合は、選果施設が自分の農場からどの程度離れているかいよって決めることが多いので、UNICAが組織されたことによって、近くの選果場に生産した野菜を持ち込めば作物ごとの選果場に移送も行ってもらえるので利用が便利になった。農協の代金精算は、2週間の取引価格を平均して支払われる方式である。
UNICA有機栽培が80~90haがあり、農水省が認証機関を通じて認証(ENAK)。有機専門の選果場もある。
G-GAP は100%取得している。BRC,IFS,QS ,TESCONature(TTPS:パッケージまで行える認証), BCCR, SMETA, Aプラスなどの認証も受けている。各認証は、1つの認証機関が複数の認証を扱うが、各認証は、似たような項目もあるがそれぞれ別に審査が行われる。UNICAがG-GAPの認証を得ており、CABAC自身はG-GAPの認証をもっていない。
フィールド内部監査はテクニコが行いテクニコ自分の担当農場以外を審査する。QCマネージャーはテクニコの監査を行う。QCマネージャーの監査は、外部のコンサル機関などが行う。
テクニコは、フィールド9名、QC(品質管理)関係は5名。担当面積は、1人で100ha(農家数は90戸程度)である。QCマネージャーとテクニコ・マネージャーは、UNICA職員であり、情報が共有できるようになっている。
テクニコは生産のノウハウをもっており、農家に対し農薬や肥料の施用の指示を行い、農家はその指示に従って作業を行う。分析で残留農薬などが出るとペナルティを払ったり撤退を指示されることもある。従って、テクニコと農家との信頼関係が非常に重要であり、農家が別のテクニコを指名することもあるとのことである。
- 7) Cabasc組合員の農場(クアン氏の農場)
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テクニコのセラフィン氏の案内で、Cabasc組合員農家を視察した。
農場は、野菜施設栽培を行っており、面積は2haである。主にピーマン(パプリカ)とスイカを栽培しており、4名の従業員を雇用している。
ハウスの土壌は元々あった土壌に砂を混ぜており、毎年堆肥を施用して土づくりをしている。この地域は、風が弱く強固な骨組みは必要なく、ビニールは3年に1回程度の張替えである。
作物の管理は、7月に移植し、3ヵ月後から収穫を開始する。1月は緑のパプリカを収穫し、3月ごろは黄色や赤のパプリカを収穫する。パプリカの生産量は約10トン/haである。
1日の水の散布量は1㎡当り3~4Lであり、8~9月は毎日、冬期間は2~3日に1回散布する。水は井戸水を利用しており、月300~400ユーロになり、夏期間はヘクタール当り4000ユーロもかかる。
売り上げ金額は、1㎡当り1ユーロで1ha当り9万ユーロと言ったところである。
農家がIPM実施状況、液肥の濃度や施用量、農薬の使用日などについてフィールドノートに記録し、テクニコが訪問時に確認しサインする。水の分析結果や残留農薬分析結果なども記録もフィールドノートに綴じてあった。
テクニコは、90~100ha(80戸)を担当しており、2週間に1回の間隔で農家を訪問し、作業や記録をチェックすると同時に機械の動作チェックなども行う。農場主は、テクニコとは毎週連絡を取っている。農薬の散布する作業者はライセンスが必要である。
収穫物は、自分のトラックで選果場に運搬する場合とUNICAのトラックで選果場に運搬する場合がある。
- 8) Cabasc組合員の農場(アントニオ氏の農場)
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テクニコの元大農場で働いた経験もあるロベルト氏の案内で、Cabasc組合員の農場を視察した。経営面積は3haである。
栽培作物は、パプリカ、スイカで、ある。パプリカは時期をずらし、ほぼ夏から冬にかけて生産している。収量は、6~7kg/㎡(6~7トン/10a)で80セント/kgである。
水は井戸水が水源でパイプで供給されている。害虫対策の農薬散布が天候不順で収穫のタイミングと合わないことが問題である。
アントニオ氏の農場では、選果場への野菜の運搬は、自分のトラックかUNICAトラックで運んでいる。
テクニコは、技術的な相談だけでなく農協の営業と農場の橋渡しの役割を果たしている。営業はフィールドを回らないので農場の生産状況はテクニコが伝えることになる。
肥料・農薬の銘柄は、最終的は農家だがテクニコに相談することが多い。害虫などは、テクイコが分からない場合は、州の機関の研究所で無料で判定してもらえる。農場間の技術の交流は余りないく、民間の資材業者やテクニコが技術を伝える役割を担っている。また、こうしたテクニコの養成はアンダルシア州が行っているとのことである。
- 9)連合会UNICA( UNICA group)所在地: Edificio Pitagoras, Parque Cientifico-Tecnologico de Almería (PITA), Av. de la Innovación, 15 04131 Almería
ホセ・アントニオ氏から話を聞いた。
UNICA の前身であるCasur S.C.A. (Agri-COOP)は、1994年に設立され *3、2009年にUNICAに名称変更した。青果物を中心としたマーケティングおよび販売を行う協同組合連合会(Agricoopレベル2)である。本社はアルメリアの科学技術パーク(PITA)にある。UNICAグループを構成する協同組合は、Cabasc、Casur、Cohorsan、Cota 120、El Grupo、Ferva、Agrolevante、Parafruts、Camposol、EuropeansおよびBioFresh*4で、2017年時点で11農協からなっている。1年半前には、スペイン最大の協同組合で畜産と穀物の農協連合会(レベル2)であるAN Groupとも提携を結んでいる。
UNICAに加盟している農協の販売権(分荷権)は、UNICA Freshがもっており、販売高は約3億2千万ユーロとなっている。UNICA Freshは、ANが50%、UNICAが50%を出資する会社である。取り扱い高は、毎年20%増えているとのことである。
UNICAの選果場の従業員数は3,100人以上、農場作業員数は9,000人で、1,900人以上の農家が2,300ヘクタール以上の温室と1,000ヘクタールの露地栽培圃場を保有、12ヶ所に選果場がある。10人は営業マンおり、更に20人のアシスタントがついている。UNICAの営業所はないが、ANの販売ネットワークがある。
UNICA傘下の農協の組合員農家は、生産した作物によって決められた各農協の選果場に収穫物を持ち込むことになっている。各農協の選果場に作物を分担することによって、選果場の設備投資を抑制することができるということである。一方、農協がUNICAに参加するためには条件があり、品質管理ができていない農協は加入できない(実際に加入できなかった農協もある)。従って、農協も組合員の加入に当たっては、厳しい品質管理を要求せざるを得ない。そのことが農家の認証取得のインセンティブとなっている。
UNICAは、コショウ、トマト、唐辛子、キュウリ、ズッキーニ、ナス、レタス、ブロッコリー、マスクメロン、スイカ、梨、りんご、アスパラガスや柑橘類などを扱っている。年間取り扱い高は、約3億ユーロで約30万トンの野菜を扱っている*5。
テクニコに対する教育は、各農協のQCマネジャーがUNICA従業員となっているので情報共有している、外部のコンサルタントを利用して研修も行っている。G-GAPについては毎年更新があり、50人のテクニコに対し2年に1回研修を行っている。大規模量販店がGAP認証を求めるのは、問題が発生ことが切っ掛となっており、2011年に起きたキュウリの大腸菌の問題の時にドイツからトレサビの強化が求められたことなどがその例である。
近年、有機栽培が増えており、こうした傾向は消費者の嗜好によるものである。また、大規模量販店はクマト、スナックキューブといった新商品を求めている。
テクニコは、農業大学を卒業し栽培、認証、食品衛生の他にG-GAPやIPMの研修を受ける必要がある。
G-GAPによって水、エネルギーの削減ができることから、持続可能な農業の実現という観点から農家にとって必要な手法である。大規模流通業者との取引には認証が求められが、認証の費用はUNICAが支払うので、農家は直接の負担は少ない。
規格外は加工用に回っているが、農家の品質問題なので価格の不満はない。ANには専用の加工用選果場があるので、加工用の規格外野菜が不足していても大きな問題とはならない。
なお、選果場では、HispatecのERPAgroシステムと自社開発のシステムを使って管理している。
*3 https://www.bloomberg.com/research/stocks/private/snapshot.asp?privcapId=48925877
*4 https://www.linkedin.com/company/unica-group
*5 http://www.freshplaza.com/article/136222/Spain-AN-and-Unica-Group-to-merge
- 10)Hispatec社 所在地:Parque cientifico Tecnologico de Almería, Edificio Cajamar
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Hispatec社はアルメリアに本社があり、約30年前に設立された農業向けのシステムを開発する会社である。従業員は約100名で、スペイン国内の他地域にも事務所がある。
選果場に出荷される農産物について、生産から選果、出荷、販売までを統合管理するERP Agro( Enterprise Resource Planning)システムについての説明を聞いた。
このシステムは、圃場でテクニコなどが使用作物名や品種、使用資材などの情報を入力し、選果場に出荷される農産物についての生産履歴などの記録や選果時のデータがデータベース化されており、バーコード管理できるようになっており、販売先でも確認できるようになっている。
このシステムは、UNICA傘下の選果場でも使われており、スペイン国内だけでなくメキシコなどの国外でも使われているとのことである。
- 11)Bio Sabor S.A.T 所在地:Crta. San Jose, Km 2, San Isidro de Nijar, Almería
Bio Saborのテクニコのホセ・ルイス氏から話を聞いた。
Bio Sabor S.A.T は、2008年に設立された家族経営の会社である。ここでは、100%有機栽培でミニトマトやメロン、スイカ、キュウリ、パパイヤ(試験段階)の生産を行っている。施設の総面積は310haに上り、圃場関係で350人、選果場で350人の従業員が働いている。作業員は、北アフリカやアラブ諸国、東ヨーロッパからの労働者が多く、こうした海外からの労働力無しには農場は運営できないこともあり、住宅や休憩施設、福利厚生などにお金をかけている。今回視察した選果施設やビニールハウスは、2015年に建設されたもので、まだ非常に新しい。選果場は、体育館のような柱のない構造で非常に明るく、手洗いの設備や休憩施設なども整備されており、清潔であった。作業者の健康や労働環境に配慮した設計という印象を受けた。
Bio Sabor では、先進的な生産技術(IPMなど)で、有機栽培に取り組んでいるが、有機は慣行栽培より収量が劣る。連作障害は、作物のローテーションで回避している。また、害虫はネットの使用や硫黄による燻蒸、各種ハーブ植栽などで防いでいる。一方、有機栽培の農産物は20%程度価格が高く、価格変動が少ない点が有利である。しかし、ドイツなどでは、有機の価格が慣行栽培を下回ることもあるとのことであった。
乾燥地帯で水は出来るだけ節約する必要があり、ハウス内の作物の上にビニールを被せそこに溜まった水滴も利用している。そうした努力で、水の消費量を前年より30~40%削減できたとのことである。冬の寒い時間帯は、ハウス内を温めることもある。
ミニトマトを栽培しているハウスを視察したが、ここのトマトは11月まで収穫し、最終的に茎は16mにもなるとのことであった。収穫されたトマトは、選果場でロットごとに糖度を測定しており、下限値(10度)を下回ると加工に回される。加工は、外部の工場に委託しており、ガスパチョ(野菜の冷スープ)は人気がある。
スウェーデン向けなどの一部の生鮮ミニトマトは、品質保持のため茎をつけたものを出荷している(写真)。
BioSabor社は、GlobalG.A.PだけでなくEcological production、 GRASP、 British Retail Consortium (BRC)、 International Food Standard (IFS)、 ISO9001、 BioSuisse、 Naturland, 有機JAS(日本農林規格)、The European Vegetarian Label (V-LABEL)、 AGROCOLOR、 CAAE、SOPHISCERTなど多くの認証を取得している。有機農産物では、日本のJAS有機の認証も取得しており、加工品は日本にも輸出されている。欧州を中心に20カ国に輸出していることもあってこうした多くの認証を取得しているが、EUのなかで輸出するのであればもう少し整理できないのかという疑問が湧いた。