『グリーンハーベスター評価制度の概要』
田上隆多 GLOBALGAP検査員、GH上級評価員
一般社団法人日本生産者GAP協会 理事・事務局長
持続的な農業経営と産地育成のためのGAP教育システム
2012年4月1日、『「日本GAP 規範」に基づく農場評価制度』が正式にスタートしました。通称名をグリーンハーベスター評価制度、省略して「GH評価制度」と呼びます
GH評価制度は、農場や生産組織が健全な農業を実践するための指標を提供する農場評価制度です。農場や生産組織が「日本GAP規範」の示す内容をどの程度達成しているかを評価します。GH評価制度は、農業経営や生産技術などの改善指針を提供し、自己啓発に資する「GAP教育システム」として開発されました。農場や生産組織は、この評価結果に基づき、「自然環境や農業環境」、「農業に携わる人や生活者」、「農産物と食品」などに関係するリスクを低減するための改善計画を実践します。
GH:グリーンハーベスターの由来
自然環境との調和の中で営み、私たちが食料として口にするために収穫する産業としての農業をイメージして、“Green”+“Harvester”としました。
GH評価制度は、農産物の取引相手として農場や生産組織を「保証」することを目的とした制度ではありません。農場や生産組織が、GAP規範の一定水準を満たしていることを「証明」することで、生産者の自己啓発に資することを目的としています。
評価の種類
GH評価制度には、次の3種類があり、それぞれの評価規準を用います。
- 農場評価:部会などの生産組織に所属しているか否かに係わらず、農場単独での遵守レベルを評価します。
- 組織評価:所属する複数の農場の管理・監督の状況を評価する「事務局評価」と、所属する個々の農場の管理状況を評価する「サンプル農場評価」からなります。
- 施設評価:生産組織が管理し、組織評価の対象農場が共同で使用する農産物取扱い施設の管理実態を評価します。施設評価は、組織評価のオプションとして評価を受けるかどうか選択することができます。
- 農業分類
- ‐組織
- ‐全農場共通(作物栽培農場、畜産農場に共通する内容)
- ‐作物共通(作物栽培農場に共通する内容)
- ‐水田畑作(米麦豆類)
- ‐園芸等(露地園芸・施設園芸・その他)
- ‐畜産共通(畜産農場に共通する内容)
- ‐牛(肥育牛/乳牛)
- ‐豚
- ‐鶏
- ‐施設(共同で使用する農産物取扱い施設:オプション)
-
管理分類
-
《農場評価規準》農場評価規準は次の7区分の管理分類で構成されます。
- 農場管理システムの妥当性
- 土壌と作物養分管理
- 作物保護と農薬の管理
- 施設・資材と廃棄物の管理
- 農産物の安全性と食品衛生の管理
- 労働安全と福祉の管理
- 環境便益の取組み
-
《組織評価規準》組織評価規準は次の2区分の管理分類で構成されます。
- 組織管理システムの妥当性
- 販売管理システムの妥当性
-
《施設評価規準》施設評価規準は次の4区分の管理分類で構成されます。
- 施設管理システムの妥当性
- 燃料と廃棄物の管理
- 農産物の安全性と食品衛生管理
- 労働安全と福祉の管理
-
《農場評価規準》農場評価規準は次の7区分の管理分類で構成されます。
GH評価制度の特徴
GH評価制度の最も特徴的なことは、各評価項目の表現にあります。GLOBALGAP等の他の農場認証では、各項目に対して適合(○)か不適合(×)かの二択であるのに対し、GH評価制度では、0~4の5段階で表現します。(※該当外、加点を含めると7段階)
これは、「どこが問題なのか」だけでなく、「どの程度問題なのか」という要素を重要視しているからなのです。また、制度の目的として、認証の取得可否=合格・不合格を決めるものではなく、評価を受けた農場や組織が具体的に是正アクションを起こすための示唆とするために重要なのです。
この5段階評価は二択評価と比べて非常に難しく、当協会では、評価員養成のためのセミナーを開催しており、評価業務を行う評価員になるためには試験を受けなければなりません。評価員養成については、次の連載回で詳しく紹介します。
評価記号 | 評価名 | 評価点数 | 評価内容の定義 |
---|---|---|---|
- | 該当外 | 0 | 管理すべき項目でない。 |
+ | 加点 | +5 | 環境便益などプラスの要素の実施が確認された。 |
0 | 問題なし | 0 | 適正に管理されおり、改善の必要がない。 |
1 | 軽微な問題 | -5 | 改善を推奨する。リスクや管理ミスの可能性はない。 |
2 | 潜在的な問題 | -10 | 改善を求める。潜在的なリスクまたは部分的に管理の欠陥がある。改善されなければ重大な問題につながる可能性がある。 |
3 | 重大な問題 | -15 | 早期の改善を求める。重大なリスクまたは管理の欠陥がある。 |
4 | 喫緊の問題 | -20 | 直ちに改善を求める。危害の発生・法令等の違反および差し迫った重大なリスクがある。 |
二つ目の特徴は、GH評価制度では、評価を受けた農場や組織に対して、全ての項目についての評価報告書を提出することです。他の農場認証では通常、不適合項目についての内容のみを伝えますが、GH評価制度では、評価表に記入した全ての内容を報告書として提出します。農場や組織の管理状態を正しく把握し、問題が残る部分を是正することに寄与するのがこの制度の目的ですから、「なぜ問題なのか」も含めて評価員が発見した事実と判断した内容を全て農場や組織にフィードバックすることが重要です。
さらに、管理分類ごとに各評価の集計表を作成します。自分の農場や組織のどの分野に、どの程度の問題があるのか、どの課題から優先的に取り組むべきか、この表で俯瞰することができます。最終的な評価の表現方法は、持ち点1000点から、評価分類に準じた点数を減点して表します。評価3が2つ、評価4が1つあれば50点減点で、総合点数は950点となります。
管 理 分 類 | 評価+ | 評価0 | 評価1 | 評価2 | 評価3 | 評価4 | 管理分類小計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
+5点 | 0点 | -5点 | -10点 | -15点 | -20点 | ||
1.農場管理システムの妥当性 | |||||||
2.土壌と作物養分管理 | |||||||
3.作物保護と農薬の管理 | |||||||
4.施設・資材と廃棄物の管理 | |||||||
5.農産物の安全性と食品衛生の管理 | |||||||
6.労働安全と福祉の管理 | |||||||
7.環境便益の取組み | |||||||
全管理分類の合計点数 | |||||||
総 合 点 数 | |||||||
総 合 評 価 |
次回は、評価の手続きと流れと評価員教育プログラムについて解説します。また、現在、複数の都道府県でGH評価制度を採用する動きがあります。普及現場でのGH評価制度の活用についてご紹介いたします。
評価の手続きと流れと評価員教育プログラム
第1回では、本制度の目的と位置付け、評価の種類、評価項目の構成、評価方法の特徴について解説しました。第2回は、評価の手続きと流れ、評価員教育プログラムについて解説します。また、現在、複数の都道府県でGH評価制度を採用する動きがあります。普及現場でのGH評価制度の活用についてご紹介いたします。
評価の手続きと流れ
まず、評価の申請から報告書発行までの流れを以下に示します。
- 入会手続き(農場 → 当協会)※評価を受けようとする農場が利用会員でない場合
- 農場評価の申請(農場 → 当協会)
- 日程調整・見積り(当協会 → 農場)
- 現地調査(評価員、農場)
- 調査費用の請求(当協会→農場)
- 調査費用の支払い(農場→当協会)
- 報告書の作成(評価員)
- 評価・判定(当協会評価委員会)
- 総合評価証書の発行(当協会→農場)
農場では、評価を受ける前に、まず「日本GAP規範」の内容を理解し、評価基準項目に沿って自らの管理状況を確認し、不適切な部分があれば改善して下さい。その上で、専門の評価員が伺って評価を行います。本制度は、適正な農場管理に向けた改善の指導を行うことが目的ですから、事前に自らが把握している改善点は、予め改善しておくことが原則です。 なお、本制度は当協会の会員サービスの一環として位置付けていますので、評価を受ける農場や生産組織は、先ず当協会の利用会員に入会して下さい。
現地での評価時間は、原則として、1農場につき4時間、事務局は8時間としています。農場の規模、圃場や施設の所在地、外部委託先の有無や所在地などの状況、組織体の農産物取扱い施設の規模や所在地などにより、所定以上の時間が必要となる場合もあります。
評価員は、評価規準に基づき農場や生産組織に対して聞取りを行ったり、現地を確認したりして現状の調査を行い、管理状況について全て評価シートに記入します。全ての項目を記入した後に、記入内容についてその場で農場や生産組織に確認をとり、評価シートに対応者が署名をして現地での作業を終えます。その後、評価員は、評価報告書を作成し、当協会の評価委員会が評価報告書の有効性を判定して評価証書が発行されます。評価を受けた農場や組織には、全ての項目について記述した詳細評価報告書、評価結果を集計した評価集計表、評価証書を合わせて送付します。
本制度は、評価を受けた農場や組織の具体的な改善に寄与するための制度ですから、証書が発行されることが重要なのではなく、農場や組織の管理状況と全体のバランスを示した「評価集計表」と、具体的な「評価レベル」と、そこに理由が書かれた「詳細報告書」こそが最も重要なものになります。
本制度は、農場の認証制度や保証制度ではありませんので、認証期間や有効期間などは設けていません。したがって、1年後に更新するなどの必要はありません。農場の再評価を希望される場合は、自ら必要なタイミングを判断して評価依頼をして下さい。ただし、詳細評価報告書を受け取って6ヵ月以内に再評価を希望する場合は、「是正項目」のみを評価することができます。
評価員教育プログラム
本制度では、適正な運用と品質の向上のため、評価員教育プログラムを提供し、評価員および評価員指導者を育成しています。このプログラムには、GAPに関する知識と技能を習得するための研修プログラムと評価員の段階的な育成に向けた評価員育成制度および評価員試験があります。
研修プログラムには、(1)GAP実践セミナー、(2)農場実地トレーニング、(3)都道府県主催の「GAP指導者養成講座」、(4)GAP検定の4つがあります。このプログラムは、本制度における専門の評価員を育成するだけでなく、GAPを実践する方やGAPを推進する方にとっても農場の現状を正確に把握し、課題抽出する能力を高める重要なものです。
(1)GAP実践セミナーでは、講義と演習を通して、GAPの正しい理解、農場評価と監査、農場や地域での実践について学びます。演習では、仮想農場の判定結果を基に、0から4の5段階でリスクレベルを判定する訓練を行います。セミナーの詳しい様子については、GAP普及ニュース第25号「2012 春期GAP 実践セミナーの報告」をご覧下さい。(2)農場実地トレーニングでは、実際の農場に赴き、自分の目で現場を見て農場評価の現場を体験します。トレーニングの詳しい様子については、GAP普及ニュース第27号「第1回農場実地トレーニングの結果の報告」をご覧下さい。(3)都道府県が主催する「GAP指導者養成講座」があり、3日間で当協会の指定するカリキュラムを履行するものです。(4)GAP検定は、テキストによる独習を通して、GAPに関わる知識を分野ごとに学びます。また、独習の効果測定として、検定試験を受験することができます。(1)と(2)は茨城県つくば市内にて定期的に開催しています。なお、(4)は現在準備中です。
評価員教育プログラムは、本評価制度における専門の評価員を育成し、評価員の能力を維持・向上するためのものです。本評価制度における農場評価は、当協会が正式に認めた評価員のみが行います。評価員として認められるための要件は、下図に示し通り、GAP実践セミナーの修了(もしくはGAP検定合格)と農場実地トレーニングの修了の後、3件以上の農場評価実践経験を積み、その後、評価員試験に合格することです。
GAP実践セミナー修了 もしくは GAP検定合格 |
評価員補 | 受験資格 評価員試験 |
※専門性ごと 評価員 |
受験資格 主任評価員試験 |
主任評価員 | 受験資格 上級評価員試験 |
上級評価員 |
農場実地トレーニング修了 | |||||||
農場評価3件 | |||||||
評価員試験合格 | |||||||
組織評価3件 | |||||||
主任評価員試験合格 | |||||||
評価監督3件 | |||||||
上級評価員試験合格 |
評価員試験は、(A)「日本GAP規範」と「GAP総合講座」に関する基礎知識と応用力を問う筆記試験、(B-1)調査済みの事実が記された評価項目について評価内容のレベル判定を行う実技試験、(B-2)試験官とのロールプレイングで、未調査の評価項目について聞取りを行い、事実の確定と評価内容のレベル判定を行う実技試験、(C)(B-1)と(B-2)の結果に関する報告書の4部で構成され、それぞれ8割以上の点を取得できれば合格となります。
2012年12月11日(火)に長野市内にて第1回評価員試験が開催されました。3名が受験し3名ともに合格しました。今回受験された3名は、2~3年前から数回に亘り評価員教育プログラムに参加し、実践を積んできた方々です。早速のご活躍を期待しています。
上図の主任評価員とは、農場評価だけでなく組織評価を実施できる者を指し、上級評価員とは評価員や主任評価員を指導・育成することができる者を指します。また、各評価員は、評価員の技能の維持・向上を図るため、3年に1回技能研修を受けなければなりません。
評価制度の要は、質の高い評価員を育成することです。当評価制度では、当協会が評価員教育プログラムを直接運営し、妥協のない評価員の育成を目指します。
普及現場で採用されるGH評価制度
GH評価制度における評価員の教育プログラムを採用する都道府県が増えつつあります。本制度の評価員教育プログラムの前身である株式会社AGICによるGAP指導者養成研修を含め、これらを実施しているのは、2012年12月31日現在で、23府県になりました。
秋田県、山形県、福島県、栃木県、神奈川県、長野県、静岡県、岐阜県、滋賀県、富山県、福井県、京都府、和歌山県、岡山県、広島県、島根県、香川県、徳島県、高知県、福岡県、長崎県、大分県、沖縄県
これらの府県では、府県の行政やJAグループが研修会を主催し、普及指導員や営農指導員らを対象にGAPの理解と農場評価能力の向上を集中的に行っています。地域によっては、3年から5年にわたり継続して実施しているところがあります。一度受講して「なんとなく分かった」で終わるのではなく、実践に結び付けることが重要です。ちなみに長野県では、(1)基礎講座、(2)実践講座、(3)監査員養成講座と3段階の講座を設定し、実践的講座を繰り返すことで、農場評価の技量を高める教育プログラムにしています。
普及指導員や営農指導員らは、農場に対して農場経営や栽培技術に関する専門的な知識を持って指導する立場であると思いますが、知識の伝達だけではなく、実際の農場管理の不適切な部分を明らかにし、その改善を示唆する情報を提供することが重要です。こうした農場評価の技量を持つことは、普及指導員や営農指導員にとって必要不可欠と言えます。
グリーンハーベスター農場評価制度は、一昨年11月のシンポジウムを契機に暫定的にスタートし、昨年6月に正式に発足した新しい制度です。商業ベースの商品認証制度ではなく、農場やその関連組織、産地自身の農業の質などの向上を目指す教育プログラムとしての評価制度です。当協会は、農場評価と評価員教育プログラムを通して、日本農業の向上に貢献していきます。
GH評価報告書の事例
連載の第1回では、GH評価の内容や特徴について、第2回では、GH評価の手続きと評価員教育プログラムについてご紹介いたしました。最終回の第3回は、具体的に評価報告書の事例を示し、このGH評価をどのように農場経営に反映することができるかご紹介したいと思います。
評価集計表
初めに、GH評価の各項目について評価個数を集計し、減点数を計算して総合点数と総合評価を記載した「評価集計表」から見ていきます。
GH評価の評価集計表は、農場管理分類による「評価分類」と農場評価の値としての「評価名」のマトリクスになっており、どの分野にどの程度の問題やリスクがあるのかを容易に見ることができます。表1に示す農場では、作物保護と施設設備及び廃棄物管理の分野に評価4(ピンク色)が一つずつあり、改善の必要な喫緊の課題を抱えていることが分かります。また、評価3(黄色)については、管理分類1から5までに1つずつあり、農場経営の全般に亘り重大な課題が残されていることが分かります。
総合得点 | 評価+ | 該当外 | 評価0 | 評価1 | 評価2 | 評価3 | 評価4 | 管理分類小計 | |
管理分類 | 点数 | 5 | 0 | 0 | -5 | -10 | -15 | -20 | |
1.農場管理システムの妥当性 | - | 0 | 4 | 1 | 6 | 1 | 0 | -80 | |
2.土壌と作物養分管理 | - | 6 | 6 | 4 | 1 | 1 | 0 | -45 | |
3.作物保護と農薬の管理 | - | 3 | 14 | 1 | 5 | 1 | 1 | -90 | |
4.施設・設備と廃棄物の管理 | - | 1 | 5 | 1 | 4 | 1 | 1 | -80 | |
5.農産物の安全性と食品衛生 | - | 2 | 9 | 0 | 4 | 1 | 0 | -55 | |
6.労働安全と福祉の管理 | - | 0 | 8 | 1 | 3 | 0 | 0 | -35 | |
7.環境保全と生物多様性の保護 | 1 | - | - | - | - | - | - | 5 | |
評価レベルごとの指摘項目数 | 1 | 12 | 46 | 8 | 23 | 5 | 2 | - | |
管理分類の合計点数 | -380 | ||||||||
総合点数(=1000点-管理分類の合計点数) 総合評価 |
620 | ||||||||
未達 |
一方、労働安全と福祉の分野には評価3以上がないので、この分野についてはあまり顕在的な課題はないことが分かります。また、環境保全と生物多様性保護の分野にプラスの評価が一つあり、環境保全に関する積極的な実績があることが分かります。
なお、評価1から評価4までの評価の意味と評価内容の定義は、下の表2に示す通りです。
評価名 | 意味 | 評価点数 | 評価内容の定義 |
該当外 | 評価該当外 | 0 | 管理すべき項目でない。 |
評価+ | 加点 | +5 | 環境便益などプラスの要素の実施が確認された。 |
評価0 | 問題なし | 0 | 適正に管理されおり、改善の必要がない。 |
評価1 | 軽微な問題 | -5 | 改善を推奨する。リスクや管理ミスの可能性はない。 |
評価2 | 潜在的な問題 | -10 | 改善を求める。潜在的なリスクまたは部分的に管理の欠陥がある。改善されなければ重大な問題につながる可能性がある。 |
評価3 | 重大な問題 | -15 | 早期の改善を求める。重大なリスクまたは管理の欠陥がある。 |
評価4 | 喫緊の問題 | -20 | 直ちに改善を求める。危害の発生・法令等の違反および差し迫った重大なリスクがある。 |
総合点数 | 総合評価判定 | ||
右の件に該当していない | 評価3が5項目以上あり、評価4がない | 評価4が1項目以上ある | |
900~1000*点 | 最優秀 | 優秀 | 未達 |
800~895点 | 優秀 | 優良 | 未達 |
700~795点 | 優良 | 努力 | 未達 |
600~695点 | 努力 | 未達 | 未達 |
595点以下 | 未達 | 未達 | 未達 |
上記のように、GH評価の「評価集計表」は農場経営者にとって「農場経営の全般に亘るリスクマップ」として経営判断に貢献することができます。
ちなみに、この農場の総合点数は620点であり、総合評価は「未達」であると表現されています。下記の総合評価の判定表と照らし合わせると、総合点数だけで見ると、総合評価は「努力」となるべきですが、評価4が2つあるために「未達」へと格下げされています。改善の必要な喫緊の課題である評価4が一つでもある場合は、全体の点数が良くても、農場経営上致命的な事態になりかねないからです。
この評価を受けて、この農場が評価3を3つと評価4を2つ改善すると、総合点数は「705点」となり、総合評価は「優良」となります。減点対象である評価1から評価4の数は39個ありますが、評価3と評価4に絞って、わずか5つの課題を改善するだけで、農場全体のリスクレベルは一気に下がります。このように、経営上の課題について優先順位をつけて、最も効率的で効果的な改善を選択するための判断材料となることこそが、本評価制度の最大の特徴であり狙いなのです。
詳細評価報告書(評価規準ごとのコメントと判定)続いて、農場での調査で確認した事実とその評価判定を項目ごとに記載した詳細評価報告書を見ていきます。下の表4には評価0から評価4のそれぞれについて各1例ずつを抜粋しています。
各項目のコメント欄には、インタビューに対する回答や目視により確認した事実を簡潔に記載しています。各項目の内容で要求されていることを「問題なく実施できている」事実を確認できること(以降「ポジティブな事実」という)、もしくは「実施できていない」事実を確認できること(以降「ネガティブな事実」という)をそれぞれ記載します。特に、課題がある評価1から評価4について、ネガティブな事実だけでなく、ポジティブな事実があれば、そのことも記載します。
本制度の目的の一つとして、現場の課題を洗い出すことがありますが、課題を正確に把握するためには、「何ができているのか」、「何ができていないのか」ということについて、ありのままの事実を客観的に表現することが重要です。なぜなら、各項目の内容が要求していることに対して、自分の農場は「何が出来ているのか」、「どのような管理をしているのか」を記載することは、今まで無意識に、あるいは経験則でなんとなく実施できていたことを明示し、認識させることができるからです。
農業分類 | 項目番号 | 項目内容 | 上限 | 評価 | コメント |
全 | 1.1 | 圃場・畜舎などの生産場所、農産物取扱い施設、資材保管施設は、名称・記号等で識別されており、生産場所は、図面や地図上で照合できるようになっている。 | 4 | 2 | ・圃場は全て名称で区別されている。 ・小作料管理のための台帳と、当年度作付けした作付履歴としての圃場名一覧があるが、管理している全圃場が一覧になっていない。圃場台帳、圃場地図、農場図は作成されていない。 |
全 | 1.6 | 文書化されたルールに基づいて行動できるように、研修や教育活動等が行われている。 | 2 | 1 | ・日常的にコミュニケーションをとっている。 ・パート作業者へはプロパー作業者がOJT形式で指導教育している。 ・必要な技能や情報を定義し、周知・習得に向けた研修や教育の計画を立てて推進することを推奨する。 |
作 | 2.3.5 | 肥料は、使用する都度記録し、記録簿には以下の項目が記録されている。 ① 使用した場所 ② 使用した年月日 ③ 肥料の商標名 ④ 肥料の成分 ⑤ 使用量 |
4 | 3 | ・ノートに施肥の記録がある。 ・作業日誌に作業日ごとに作業地域を記入しているのみで、具体的に圃場名は記入してない。 ・商標名、成分名の記入がない。 |
全 | 4.3.1 | 燃料の貯蔵設備は、消防法に準拠した市区町村の条例に従っている。また、周辺は火気厳禁とし、周辺に燃えやすいものが置かれていない。 | 4 | 4 | ・軽油を400リットルの灯油タンクに貯蔵している。 ・軽油は通常、200リットル以上貯蔵する場合は、市町村へ届出が必要。 |
作 | 5.2.1 | 繰り返し使う収穫用のコンテナや器具は、定期的に洗浄・消毒し、清潔に取り扱い、保管をしている。また、農産物に汚染や異物混入がないような手順で収穫している。 | 4 | 0 | ・コンバインはシーズン中3回程度、点検清掃を実施する。シーズン前には、グリスアップ、オイル交換、ラジエーター整備などを行う。 ・トタン片等が風で圃場に入ってしまい、コンバイン刈取り時に混入してしまう。→乾燥調整の時点で除去工程がある。 |
GH評価による「評価」を受けた農場には、上述の詳細な評価報告書と評価集計表を合わせて、右のような評価証書をお渡しします。
右の証書は、農場認証のような「合格/不合格」を示したり、むやみに農場の信頼性を謳ったりするものではなく、今までの連載記事で説明してきたように、農場の現時点における管理状況を詳しく示したことの証になります。この農場評価証書が意味をもつのではなく、詳細評価報告書と評価集計表とこの証書とが一体となって初めて、評価内容を通して今後の農場経営の向上に寄与するものとなります。
少しでも多くの農場が、昨日の結果ではなく、明日への道標として、このGH農場評価制度を有効に利用して頂きたいと思います。そして、持続的な農業を実現しましょう。
GAP普及ニュースNo.29~No.31 2012/11~2013/03