-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

『イギリスのレッドトラクター表示制度について』

山田正美一般社団法人日本生産者GAP 協会理事

設立の経緯と現在までの変遷

 イギリスには、自国産農産物の栽培・飼養から流通・加工・包装、販売までの一連の過程を高い管理規準で保証するレッドトラクター(Red Tractor)という表示制度があり、国民の間に良く知られています。これは単に食品の安全だけではなく、農村景観を含めた環境保全や、家畜を苦痛から解放するアニマルウェルフェアなどに関する高い管理規準を満たしていることを保証するシステムになっています。

  この制度は、2000年6月に開始されて以来10年以上経過し、現在はイギリス国内で広く定着してきており、民間ベースでのGAPの推進に大きな役割を果たしています。このGAP普及ニュースに紹介することで日本のGAP(Good Agricultural Practice:適正農業管理)を考える上での参考にしていただければと思います。

設立の経緯

 1990年以前のイギリスでは、それぞれの食品会社が独自の基準を設けて食品の安全性を確保していましたが、1990年代の終わりになると、食品会社が独自に行うよりは、作物、食肉、酪農などのそれぞれの食品産業部門の中で全国的に統一された管理規準により検査する方がはるかに効率的で判りやすいことが認識されるようになってきました。

ロゴマーク

  一方で、1990年代にはBSE(Bovine Sponge Encephalopathy:牛海綿状脳症、通称「狂牛病」)が大きな問題となっており、イギリス政府が大量の牛(最終的に630万頭余り)を焼却処分するなど、食の安全に対する不安が高まっていた時期でもありました。

  この時期に行われた消費者の意向に関する研究によると、買い物客は農業者や生産者が適正農業管理の規準を満たしているという保証、すなわち農業者が行っている環境保護やアニマルウェルフェアの取組みを独立した検査官が検査しているということを確認したいという意向を持っていることが示されました。また、消費者が購入する商品にトータルで信頼を与え、容易に認識できるシンボルを望んでいることもわかりました。

  こうしたことを踏まえ、イギリスのNFU(National Farmers' Union:全国農民連合)による一連のワークショップを通して、1999年10月に「リトルレッドトラクター」ラベルを導入する構想が固まってきました。このマークの狙いは、消費者が店舗の中で簡単に認識でき、また生産・栽培・流通過程や品質について一定規準による監視が行われていることを保証し、かつ多様な農畜産物をカバーする単独の認証マークにすることでした。

  その後、大手スーパーの参加も得て、青果物・食肉・乳製品を統合する単一の食品マークであるリトルレッドトラクターのロゴが決まりました。2000年の春にリトルレッドトラクターのラベルの承認を管理するための独立機関としてNFUの関連団体としてAFS(Assured Food Standards)を設立し、各保証スキームの規準を満たす生産者・食品加工業者・包装業者にラベルの使用ライセンスを与えるようになりました。こうしてリトルレッドトラクターロゴの導入は2000年6月13日に開始されたわけです。

ロゴマークの改訂

改定版

 その後、レッドトラクターの会員は増加し、2005年にはレッドトラクターロゴの変更を行っています。初期のロゴに表示されていた"British farm standard"(イギリス農場規準)という文字が"Assured Food Standards"(保証食品規準)に変更されるとともに、イギリス国旗の図案を取り入れています。文字の変更は、レッドトラクターに付託された権限が、農場における規準に適合しているだけではなく、加工施設や包装まで含めた食品の安全、品質を維持している規準に適合していることを反映させたものになりました。また、新しいデザインにイギリス国旗を追加した理由は、買い物客にその食品がイギリス国内の農場から来たことを簡単に見分けられることも目的としています。

  現在、このレッドトラクターに加盟している農民は78,000人で、食品加工業者や食品包装業者500社以上、飲食業提供業も2,000社以上が参加しています。農民の加盟率は、部門により70%~95%となっています。品目にもよりますが、国内農産物の80%程度をカバーしており、かなり定着しているといえます。2010年6月は設立してから10年目に当たり、レッドトラクター週間を設けるなどしてマスコミにも取り上げられていました。

  次号以降、レッドトラクターの認証スキームなどについて順次掲載していきます。

(主な参考資料)
  • レッドトラクターホームページ(http://www.redtractor.org.uk/)、2011.2取得
  • レッドトラクターPRパンフレット、2010.11
  • (社)全国農業改良普及支援協会「イギリス、オランダにおける民営化後の農業改良普及活動と環境保全型農業及び食の安全・安心への取り組み」2005.3
  • 日本貿易協会(JETRO)「英国における食品の安全性確保の取組み(要約)」2003.2
  • レッドトラクター担当者の私信、2011.6

認証制度の概要

 前号では、レッドトラクターのロゴマークを管理しているAFS(Assured Food Standards:食品規準認証組織)の設立の経緯などについて紹介しました。今回は、レッドトラクターマークを表示するために必要な認証制度の概要について紹介します。

  この認証制度の最大の特徴は、単に農産物を生産する農場だけの認証ではなく、農産物の輸送や加工、包装といったフードチェーンも含めた全体を認証の対象としています。これにより、消費者はレッドトラクターのロゴマークのついた食品は、生産現場から小売店の棚に並ぶまでの一連の流れの中で、認証規準に従った管理がなされ、安心して食べられるイギリス産の食品であるということを確認することができるようになっています。

  このシステムを支えている認証システムは、基本として6種類の農場認証規準とサプライチェーンなどの規準から成っています(表1)。

表1 レッドトラクターの認証スキーム(基本)
農場の認証基準(6種類) 流通・加工等の認証基準
★コンバインクロップ(穀類、油糧種子、豆類、甜菜)
★青果物(果実、野菜)
★鶏生産(鶏肉)
★イギリス産豚(豚肉)
★酪農場(牛乳)
★イギリス産食肉(牛肉とラム)
★家畜移送
★家畜市場と収集センター
★食肉処理場、小分け、包装施設
★農場内給餌に対する産業界実践規範
★サプライチェーンを通しての適用規準
検査 ★検査と制裁措置に関する規準
注:農場認証の6つの部門のスキームは全てAFSが所有しています。その他、イギリスの一部で運用されている特定の分野における多くのスキームは、『同等なもの』として認識され、これらのスキームによって認証された農場からの生産物は、レッドトラクターロゴを付けることができます。
ロゴ

 こうした認証規準の基本的な考え方には次のようなものがあります。

健全な環境の維持

家畜

 イギリスの農業者は国土面積の四分の三を管理していることから、農業は景観と田園地帯に大きな影響を与えることになります。そのため、レッドトラクター認証の農業者に、野生生物の生息地を保護することや小川や河川の汚染を確実に防ぐことを要求しています。青果物(果物や野菜)の規準では、農産物の安全を確保し、環境を保護するため、特に農薬の使用を減らすことに重点を置いています。

アニマルウェルフェア

 イギリスをはじめヨーロッパでは、家畜にストレスを与えずに飼育するための詳細な規準があります。レッドトラクターに認証された農業者は、家畜の休息場所と充分な大きさの退避所、さらに新鮮な水と適切な飼料の供給が要求されます。牛、羊、豚、鶏といった家畜が、自然な振る舞いができるよう、充分なスペースの提供も要求されています。

食品の安全

 どこでも発生する可能性のあるサルモネラやカンピロバクターといった食中毒菌が食品について安全を脅かすことのないよう、レッドトラクターの食品安全の規準は、農産物の生産者や食品のメーカーに対し、清潔であることを保証し、かつ農場からスーパーマーケットの棚に並ぶまで一貫して汚染のリスクを最小にすることを要求しています。

専門家による厳密な規準作成

 レッドトラクターの規準は、フードサプライチェーンの専門家、経験豊富な科学者およびアニマルウェルフェアや食品安全・作物保護のような問題についての個別の専門家と相談しながら、数年にわたって改良され洗練されてきたものです。また、最新の科学的成果については調査した上で更新しています。そして規準の中身は国民がいつでも見られるようウェブサイトに完全な形で公表しています。

厳格な検査と違反した場合の処罰

 規準の検査は、農業者や食品会社に都合良く解釈できるような曖昧なものではなく、意味のある実践可能なものであるべきだとしています。そして、レッドトラクター規準に沿って仕事をしている78,000人の農業者、400以上の食品包装業者および食品メーカーは、一部の例外を除き、少なくとも一年に一度は厳格に検査されることになっています。扱っている食品にレッドトラクターのロゴマークが表示されるためには、その食品に関係する全ての人達がレッドトラクターの規準に従わなければなりません。懸念すべき相当の理由を見つけた場合は、躊躇せずに認証を一時停止させるなど、厳格な運用が行われています。

家畜2

  以上紹介したように、レッドトラクターの認証規準では環境保護やアニマルウェルフェアなど、GAP規範の遵守にもかなりの力を入れています。認証規準と厳格な検査がセットとなって、レッドトラクターの規準が守られてきており、国民にも大きな信頼を得ている要因となっているものと考えます。

(主な参考資料)
  • レッドトラクターホームページ(http://www.redtractor.org.uk/ )、2011年2月取得
  • レッドトラクターPRパンフレット、2010年11月

認証農家の思い

ロゴ2

 前回、前々回と、イギリスにおけるレッドトラクター認証の設立経過や認証制度について紹介してきました。この制度は、イギリス国内で良い農業管理(GAP)を行なっている農場で生産された穀類、青果物、畜産(食肉、乳製品)などの多くの部門の農畜産物が流通・加工・包装を経て店頭に並ぶまでの一貫した認証制度です。

  今回は、レッドトラクター認証を受けた農業者がどのような思いで生産しているかということについて紹介します。

Rosey Dunnさん(畜産農家)

Rosey Dunn

 私達が消費者に食べ物がどのように生産されているかについて話をするとき、レッドトラクター認証制度を紹介することが素晴らしい説明になります。レッドトラクター認証のロゴは、高いレベルのアニマルウェルフェアと環境規準を保証していますので、レッドトラクターのマークに注目して協力して貰えば、私達のような認定農家を支援することになります。レッドトラクターの規準に従って農業をすることは、私達が注意深く農業活動をしていることを意味しています。

  また、レッドトラクターの検査を受けなければならないということは、様々な法律上の規制やその他の規制についても本気で取り組まなければならないことを意味しています。アニマルウェルフェアは、これからの畜産にとって特に重要です。欧州の人々はアニマルウェルフェアに関する法律の多さに驚かれるかもしれません。レッドトラクター規準では、さらにそれを補強しています。私達の飼っている牛の全てに充分な空間と敷料、充分な餌と水を確実に与えることができているかどうかに、いつも苦労しています。環境に関しては、野生生物を保護し、小川を汚染しないよう、私達が守らなければならない規準があります。また、法律では決められていませんが、私達がいろいろな野生生物(例えば蝶や鳥、小さな哺乳類)の生息を支えるために、穀物畑のまわりに牧草と野生の草花の混植を発達させるための6メートルの境界地を持っています。

 

Jonathan Tipplesさん(穀作農家)

Jonathan Tipples

 私達は、レッドトラクター農場認証制度が開始された1997年にコンバインクロップで参加しました。小麦製粉業や麦芽生産者、種子破砕業者、飼料製造業者などを含むイギリスの全ての主要穀物のバイヤーは、レッドトラクター認証農場で生産されている穀類を指定しています。なぜなら、それが高い規準で管理され、生産されているという信頼を消費者に与えているからです。

  コンバインクロップのレッドトラクター認証のスキームは、大麦やオート麦、ライ麦、えんどう豆、豆類、甜菜を対象としています。その認証スキームは、生産物が安全であることを確実にするために、化学農薬の使用方法、貯蔵場所の衛生状態、肥料の安全な貯蔵、穀物が汚染されない貯蔵方法などのような、安全で高品質の農産物・食品を生産するための要となる領域をカバーしており、適正農業管理(GAP)の総合的な規準を提供しています。また、私達は、鳥や昆虫その他野生生物の自然生息地を保護し促進しているレッドトラクターのメンバーであるだけでなく、森林や水路、生垣を保全するための政府の環境スキームのメンバーでもあります。

Chris Fogden さん(養豚農家)

Chris Fogden

 私達は食品を生産しており、その食品が高い規準で生産されているということが重要です。レッドトラクターの認証を得ている英国豚は、この規準の検査を受け、適合していることを示しています。レッドトラクター規準は、私達が第二の天性といわれるほど、ほとんど習慣になるまで身に付けることが必要になります。私達には、これらの規則の全てのことを実施しているという証拠や、獣医さんに四半期ごとの訪問を受けて豚の健康と福祉についての検査を受けることが必要になります。

  私は、イギリスの農業を支えることが非常に重要だと考えています。そして、消費者が購入した食品が、レッドトラクター認証の商品であることは、まさしくイギリスの農場から来たものであることを保証してくれます。レッドトラクターの規準の要求事項として、環境に気を配っているということも重要なことです。私は、野生生物の生息環境に関心を持っていますが、私達の飼っている豚の近くで、珍しいイシチドリのような鳥が自由に巣ごもる様子を見られるのは、本当に素晴らしいことです。

 以上3人の生産者の農業に対する思いを紹介しました。いずれの生産者も、レッドトラクターの規則を守るために、日頃から苦労しながら細心の注意を払って安全な農産物の生産に取り組んでいることが判ります。また、三人とも強調していたのは、野生生物の生息地の確保や環境保全に対する配慮に関心をもって取り組んでいることも判り、そのことに誇りを持っているということです。

  GAPの基本である「環境に対する配慮」が、レッドトラクターの認証農家に深く浸透していることをうかがうことができ、レッドトラクターの認証がGAPの基本とも共通していることを改めて認識しました。

(主な参考資料)
  • レッドトラクターホームページ(http://www.redtractor.org.uk/ )、2011年2月取得 (上記アドレスの記事は既に改訂されたため、現在は見ることができません)
  • レッドトラクターPRパンフレット、2010年11月

運営体制について

Perter Kendall

 この連載のこれまでの記事の中で、イギリスにおけるレッドトラクター・ロゴマークの認証は2000年に食肉、牛乳、果物、野菜などのような一次農産物でいち早くスタートし、2006年には、このロゴマークが「ソーセージの中のひき肉」のように一種類以上の原料からなる加工食品にも適用できるよう対象が拡大されてきたことを紹介してきました。また、部門による違いはありますが、イギリスの農民の70?95%が参加しているという非常に影響力の大きな制度でもあることをご紹介しました。

  今回は、このような認証制度を運用しているAFS(Assured Food Standards:食品基準認証組織)の運営体制について紹介します。

  AFSの設立のいきさつは、このシリーズの第1回目(GAP普及ニュース第21号)で紹介しましたように、農業者が「環境保護やアニマルウェルフェアといった適正農業管理(GAP)を遵守して生産した農産物」を、統一したマークで表示することを目的に、農民の組織であるNFU(National Farmers' Union:全国農民連合)が設立したものです。

  レッドトラクターのロゴマークは、農場からスーパーの棚に並ぶまでの全ての過程を保証するシステムであるため、運営には農産物 を生産する農民の組織であるNFUはもちろん、フードチェーンに関係する全ての部門が関係してきます。具体的にはNFU(イングランドとウェールズ)、アルスター農民連合、農業及び園芸開発委員会、デイリーUK、英国小売業組合などのような組織が参加しています。

  これらの組織は、役員会に自分達の関心事や専門知識を持ちより、AFSの運営に関わっています。しかし、レッドトラクター制度が消費者の利益のために運用されることを保証するために、特定の組織あるいはその組織系列からの不当な要求を受けることがないよう、AFSは独立した非営利組織として設立されています。

  AFSの役員会は、独立した議長と主要農産物部門およびその他の主要なフードサプライチェーンを代表する委員会によって運用され、委員会には著名な学者、消費者および獣医学、アニマルウェルフェア、商取引基準、環境などのそれぞれの部門を代表する専門家が含まれています。

  以下にAFSの運営の要となっている役員会の主要なスタッフとその経歴などについて紹介します。

表 AFS役員会の主要なスタッフ一覧 (2011年12月現在)
役 職 氏 名 経 歴 等
議 長 David Gregory 大手高級スーパーで食品製造や消費者関係戦略立案の業務経験がある。国立食品研究所の所長、英国栄養財団の理事長、チルド食品会社の非常勤取締役など、主要産業の役職を勤める。
副議長 Meurig Raymond 兄弟で農業を経営し、農地約1000ha、乳牛、肉牛、羊をそれぞれ600,600,2500頭飼育している。NFUの元副代表である。
部門統括者 養豚 Philip Richardson 約30年間の養豚経験がある。養豚業発展に貢献しデイビッドブラック賞を受賞している。
牛肉とラム John Thorley OBE 全国羊協会や全国畜牛育種家協会に属し、多大な貢献をしている。これらの貢献で大英帝国勲位を授与されている。
生鮮食品 Prf. Mark Tatchell 国際園芸研究所と国立ロザムステッド研究所に勤務していた。大学生物化学部の名誉教授でもある。
家禽 Ted Wright 七面鳥産業にも従事した経験があり、国際派。英国家禽会議の前議長である。
穀類と甜菜 Matthew Read 王立農業大学卒。約1300haの農場で小麦、春大麦、油糧ナタネ・アマ等を栽培している。
食品流通 農場経営 Richard Davis 秋播き小麦やトウモロコシ等を125haで栽培している。また、120頭のホルスタインと70頭の肥育牛を飼育している。
食肉加工 Stuart Robert 2007年の口蹄疫の蔓延時、英国食肉加工協会を管理していた。現在アングロ食肉加工勤務
家禽加工 Philip Wilkinson OBE 大規模乳製品メーカーの営業部長の経験がある。酪農産業への貢献により大英帝国勲章を授与されている。
課税団体 John Cross 畜産と耕作の複合経営の5代目農家。NFUの牛肉とラム推進会議の元議長である。EBLEX委員会の議長でもある。
その他 消費部門 Diane McCrea 英国、欧州の消費者団体の代表として食品や消費者行政のコンサルを行なっている。
農業環境 Les Firbank 農業と環境の関係を研究している生態学者。長年、農業環境政策にも関わってきた。
取締り組織 Malcom Taylor 多くの地方の規制部局の代表として役員会に参加している。食品や農業部門の規制などに36年の経験がある。
アニマルウェルフェア Malcolm Taylor 34年間の獣医の経験がある。王立獣医大学の学長。英国獣医協会の理事長でもある。大英帝国勲章を受賞している。

 ここに示した主要スタッフには、農場経営の経験のある者や、現在農業経営に携わっている人、その分野の著名な専門家により構成されていることから、現場などをよく知っている人達による意見交換や意思決定がなされていることがうかがえます。

(主な参考資料)
  • レッドトラクターホームページ(http://www.redtractor.org.uk/ )、2011年12月取得
  • You Tube, "NFU and partners at the BBC Good Food Show 2010," 2011年10月取得 (http://www.youtube.com/watch?v=lOkCZ0NyUhs)

対象としている食品の範囲

 レッドトラクターのスキームはこれまでにも述べてきましたように、農場での栽培管理から流通・加工を含め、小売店の棚に食品として並ぶまでを一貫して認証するものです。もちろんGAPを実践している農場で栽培された農産物や畜産物が基本となります。

Chris Fogden

 イギリスのレッドトラクター認証がスタートした2000年当初は、農場のGAPの実践を認証するものであり、キャベツや人参、肉、牛乳といった一次農産物だけが対象でした。そのため、せっかくGAPの実践農場で生産されたものであっても、バーベキューように調味料の付いた肉や味付けされた牛乳、油で揚げたポテトチップスなどは対象となりませんでした。最終的に食品を購入する消費者からすれば、多くの種類の加工品についてその原材料が環境保全などGAPを実践している農場で生産されたかどうかの素性を知りたいというのは当然の要求でもありました。こうしたことから、加工品についても原料農産物がGAP実践農場で生産され、加工品の主原料となり、加工や流通のプロセスでも一定の基準を満たしたものについては2006年から対象にしています。

  このため、レッドトラクターのスキームは農場での生産に関するGAP(適正農業管理)だけでなく、加工や流通に関するGMP(適正製造管理)やGDP(適正流通管理)、さらには外食や小売に関するGRP(適正小売管理)も含めたものとなっています。

認証食品

  加工品にまで対象を拡大したことにより、ロゴマークも変更しています。また、加工品のどの原材料(成分)が保証されているかを消費者がわかりやすいように、ロゴマークの下に表示することになっています。この場合、表示されるレッドトラクター認証の原材料の割合は65%以上と決められており、その他のレッドトラクター認証の原材料も含めて、レッドトラクター認証の原材料のトータルが95%以上でなければならないことになっています。このことは、5%以内のレッドトラクター認証でない成分、例えば調味料、ハーブ、スパイスといった量の少ない成分は許容していることになります。

  レッドトラクター認証は、加工食品にまで範囲を広げたこともあって、イギリスの食品業界では最大の商品認証マークとなっており、他のいかなるマークよりも幅広い食品をカバーしています。その結果、レッドトラクターの飲料・食品の価値は毎年100億ポンド(約1.2兆円)以上になっているとのことです。イギリスの国産であることと、環境保全などのGAPを実践している農場で生産された農産物であるということ、レッドトラクターのマークが分かり易くよく知られていることなどから、ここまで広く国民の支持が得られたものと思います。

 

 日本においてGAPを普及させるためには、生産者だけでなくフードサプライチェーンの協力が欠かせません。また、そうした生産者と関係業界のGAP推進に対する努力を消費者がきちんと理解し、側面から支援するという体制がとられることが重要になります。その点、イギリスにおけるレッドトラクターの取組みは、今後の日本のGAP発展の参考になるものと思われ、5回にわたりシリーズで紹介させていただきました。(完)

(主な参考資料)
  • レッドトラクターホームページ(http://www.redtractor.org.uk/ )、2011年2月取得
GAP普及ニュースNo.21~No.25 2011/7~2012/3