-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

『青果物の品質とは何か、どのように高めるか』

石谷孝佑 農産物流通技術研究会 理事

はじめに

  昨今は、農産物に対して安全性とともに品質が強く求められる時代になっています。一昔前は、農産物は「見栄え」の良いものが求められたのですが、最近では、消費者の多くが、安全性はもとより、美味しさや栄養価など、見た目ではわからない本物の品質を求めるようになっています。

  食品実は、食品の「品質」の中には、重要な要素として「安全性」が入っています。「食品とは、安全で栄養があり・・・」という食品の定義の通り、安全でないものは食品とは言えませんので、これまで生産者は常に安全性を含めた品質の良いものを生産しようと努力を続けてきました。実際には、農業は病害虫や雑草との戦いであり、その中で一定のルールに基づいて農薬等を用いて農業生産を行っています。

  そこで、青果物の安全性をより確実にするために、適正な農業の実践であるGAPに取り組みたいという理由も理解できます。GAPは「人間活動と自然環境との調和」を考えた農業の実践ですし、その中で生産者は食品としての安全性と品質に優れた農産物を生産しなくてはなりません。環境と人に配慮した農業を行うことが、すなわち安全な農産物の生産につながります。農産物は、安全だけでは商品になりません。同時に、見て美しいばかりではなく、香りが良く食べて美味しく、栄養的に優れたものでなくてはなりません。

  そこで、「品質の良い農産物」とはどのようなものか、「農産物の本物の品質」とはどのようなものなのか、そして、どうすれば品質に優れた農産物を生産し、消費者に提供できるのか、考えて行きたいと思います。

「品質」の定義と概念

果物

 品質という言葉の本来の意味は「品物のもつ性質」のことであり、商品学の分野では「商品の良さの程度を表す総合的な概念」であり、「商品の質的な市場価値」であると定義されています。このようなことから、「品質は商品の命である」と言えます。言い換えれば、品質とは「ある商品が、ある時点、ある場所で、使用者に評価された平均的な使用価値を表すもの」と言えます。ここで使っている「商品」という言葉を「農産物」に当てはめてみると、「農産物の品質は、質的な市場価値」であり、「品質は農産物の命である」となります。

  もう少し細かく見てみますと、商品学の品質の概念には、①商品が生産された後、流通され消費されていくまでの過程の「開発、設計、生産、出荷、流通、保存、購入、使用、消費、廃棄」などの各段階において「品質」を考える視点と、②商品市場における「使用価値」を、ある方法で客観的に評価する「等級」とか「グレード」などで表されるものの2通りがあります。

  これを農産物で考えて見ますと、先ず栽培する作目・品種の選定、栽培の時期と作型、土作りと防除などの栽培条件の選定、収穫時期・時間、出荷調製の方法とレベル、輸送・配送、販売の温度・時間等の流通環境の条件など、農産物の生産・供給の各段階において品質を考える視点があります。それぞれの生産段階で品質を考えないと、最終的に良い品質の農産物はできないということです。農産物は、一般に収穫した直後が最も鮮度・品質が高く、流通環境によって次第に鮮度・品質が低下していくもので、収穫してすぐ売る直売所は一般に鮮度は良いといえます。しかし、それぞれの段階で品質を高める努力をしなければ、収穫後すぐに販売しても必ずしも品質が高いとは言えません。

  次いで、消費者との接点である販売の時点で、いかに消費者に評価されるかという品質の視点があります。生産された農産物には、色や形・大きさや傷などの外観や、糖や酸などの味のバランス、香り、歯ざわりなどの嗜好性にバラツキがありますが、一般には外観規格によって選別され、「等級」という便宜上の「品質レベル」に分けて出荷されます。

  ここで言う品質は、それ自身で何らかの効果を発揮するというものではなく、商品がどの位あるのかという全体量と、等級という指標を元に商品に付けられる価格、場所(生産地、生産者、売り場等)、時間(商品としてのライフサイクル、販売の季節・時間帯など)、それ自身が持っている安全性や使用価値、商品に関連する情報(広告、表示、評判等)、販売サービス(品質保証、展示、説明等)などの他のさまざまな要因との関係で考えられ、使用価値が評価されます。ですから、特定の農産物については、生産される時期の生産量、設定された価格、生産地と消費地、安全性・美味しさの情報、販売サービス、消費者の意識、リピート(再現性)の有無などによって「売れる・売れない」という状況が大きく変わります。美味しさを求める消費者は、たくさん生産される旬の時期に比較的安い価格で品質の良い野菜や果物を買うことができますが、周年消費する消費者や珍しさを求める消費者は、生産量の少ない時期に比較的高い価格で買うことになります。これは、消費者の購買行動の違いであり、時代や地域、生活レベルなどにより変化します。

野菜

  商品(農産物)が利用される「場所と時間」、「場所と量」、「場所と価格」、「時間と価格」などの相互の関係については、一般の市場では品質と直接関係なく変動する場合も多く見られ、実際にはそれぞれの要因が相互に複雑に絡み合っています。代表的な例としては、「品質」という大きな背景のもとで、農産物では生産量(季節)と価格、荷扱いの規模(産地)と価格、品揃え(市場機能)と価格などについて相互に密接な関係が見られます。

  商品の品質を把握する方法には、自然科学的な方法による「物」としての品質を把握する方法と、社会科学的な方法による「経済」的価値の面からの品質を把握する方法があり、実際にはこの両者の調和が重要になります。

品質の基本的特性と機能的特性

品質評価ポイント

 食品の品質要素は、先ず大きく二つに分けることができます。1つは、食品が本来備えていなければならない「栄養があり、安全である」という「基本的特性」であり、もう1つは、食品が人の感覚や生理などに及ぼす「作用、働き」としての「機能的特性」です(図1)。商品の品質についての概念を最初に確立したシューハートの分類(図2)でいえば、前者は性能因子であり、後者は性状因子、嗜好因子に相当するものです。

  基本的特性には、①三大栄養素(蛋白質、脂質、炭水化物)の他に、繊維やビタミン、ミネラルなどの体の維持に必要な栄養素があり、②農薬、重金属、中毒細菌、毒素などの有害物質がなく安全であるという二つの重要な要素があります。

  栄養特性は、健康を維持するという視点で「食品の一次機能」とも言われており、栄養がないことを謳っている健康食品などは現代の食生活のあだ花のようなものといわざるを得ません。また、食品の安全性は、食品であるという必須の条件であり、危険なものは販売してはいけないのは食品衛生法の言葉を待つまでもなく、食品を扱う大原則になっています。昨今の「安全であれば品質が良い」というような風潮は大きな誤りであり、安全性は守られて当然であり、品質が良いということは、食品として「優れた品質特性を持っている」ということです。これらの栄養と安全は、食品の外観からは全く判断できないので、抜取り検査やその結果の公表などが重要になります。

シューハートの品質の分類

  食品としての優れた品質特性、すなわち人の五感に与える作用の機能的な特性には、①「見て美しい」、食べて「好ましい味がして美味しい」、「良い歯触り・舌触りがあり美味しい」、嗅いで「良い香りがする」などに代表される「嗜好特性」と、②血圧調節作用やコレステロール低下作用、免疫力強化などの「生体調節機能がある」という二つの特性があります。前者は、食品の「二次機能」、後者は「三次機能」とも言われます。この食品のもつ第三の機能に着目した食品群をいわゆる「機能性食品」といいますが、正確には「生体調節機能性食品」であり、特定の有効成分が証明されている一部の食品は「特定保健用食品」として厚生労働省から認可され、商品化されています。

①嗜好特性の分類

 食品は何と言っても美味しさが大切です。頭で理解して「健康に良い」と思っても、美味しくなければ長く続けて食べられませんし、その逆に、美味しすぎるものは、時として食べ過ぎて体を壊すことにもなります。このように、人は常に美味しいものを求めて食生活を営んでいるといえます。 この美味しさ、すなわち「嗜好特性」は、「色」や「形」の見て好ましい、「味」や「香り」、「食感 (力学特性)」の食べて美味しいという五つの要素があり、これらは食品に含まれる化学成分の含量や物理特性の測定、人による官能評価などで示されます。これらの品質要素は、食を豊かにするとともに、食品の品質指標としても大変重要ですが、見て美しいと言う食品の色や形は美味しさを想像させるだけであり、外観品質は美味しさの決め手にはなりませんが、消費者の購買意欲を刺激する重要な要素にはなります。消費者がふたたび購入するかどうかは、食べて美味しいという味、香り、食感などの品質要素が大きく影響します。食べてみるということは、食品の美味しさについて最も多くの情報を与えてくれますので、馴染みのない食品や美味しさを売るものでは、よく試食販売が行われます。

  食品の美味しさを表す嗜好特性にも、化学的な成分や物理的な特性を測定する客観的な品質と、官能検査(食味試験)で評価される主観的な品質があります。色を例にとって言えば、化学的な色素成分の含量があり、物理的な光学特性の明度、彩度、色調などの数値があり、官能検査で評価する「色あい」や「つや」「くすみ」などの評価結果があります。官能評価には、個々人の過去の経験や主観による違いもあり、評価する環境の温湿度や光の強さや色などの外的な条件も加わります。また、その場の雰囲気や評価する人の体調といった人の心理的・生理的条件によっても違いが見られます。官能検査にはこのような不安定な要素がありますが、数多くのパネルにより条件を整え、評価結果を統計処理すると、非常に的確な評価が得られるのも官能検査の特徴です。 前述のシューハートによる品質評価要素は(図2)、大部分が嗜好特性に属するものですが、品質の測定と評価が客観的に行えるかどうかという視点で、性状因子・性能因子(客観的)、感覚因子(準客観的)、嗜好因子(主観的)などに分類しています。

マーク

  前回までに、「品質」には多くの要素があることを述べてきました。食品とは「安全で、栄養があるもの」ですから、安全であることは必須の条件ですが、安全であれば品質が良いかといえば、それは違います。食物を食べるのは、私達の生命を守るためですから、栄養があることも必須の条件です。食物の溢れている現代では、食品の重要な要素として「楽しむ」ことがあり、太りすぎの人達には「栄養が少ない」ものの方が好まれていますが、これは本来の食品を食べる目的ではありません。

  食品の安全性が担保されていない国では、安全であることが証明されている食材は高値で売られています。中国では、「青果物に農薬がついていることは当たり前」であり、農薬を洗い落とす専用の洗剤が売られており、殆どの人が洗剤を使って野菜類を洗っています。より安全である農産物として、中国農業部(農業省)が主導する「無公害農産物」、「緑色農産物」があり、環境保護総局が主導する「有機農産物」などがあり、普通のものの2~3倍の価格で売られています。卵や加工品にも、無公害、緑色、有機のものがあります。私は、安心できる直売所などのイチゴを洗わずにそのまま食べていますが、日本でしかできない芸当かと思いながら、美味しいイチゴを味わっています。

  現代は食が豊かになり、特に青果物の美味しさが求められています。日本では、青果物の重要な品質は何かと言えば、それは「美味しさ」、「鮮度」であり、味、香り、歯触り、色あい、形状であり、体に良い機能性です。日本でも、時々農産物の農薬残留などがクローズアップされますが、世界のどこの国より安全性に気を付けて生産されていますし、今では農薬残留も厳しく管理されるようになっています。中国では、日本の農産物や食品が「安全である」と言うことで引っ張りだこになり、高値で販売されるようになっています。

野菜

  農産物の品質は、生産されたものが保存・流通されている間に低下していきます。中でも青果物の場合には、基本的な特性の栄養素も、嗜好特性の味、香り、歯触り、色調も流通される間に劣化し、多くの機能性成分もその効果が低下していきます。そこで、この品質を良い状態で消費者に提供するためには、第一に素早く流通させることであり、第二に低温流通や包装などの品質保持技術を使うことです。青果物は、迅速に流通させれば、お金のかかる品質保持技術などは必要がなくなり、簡単な包装だけで品質の良い青果物を提供できます。

  品質の面からいうと、特に呼吸量が多く、鮮度低下の著しい葉菜類、未熟果菜類などでは、収穫の当日か翌日に販売できる産地の直売所が優利であり、都市部にも、輸送の迅速化や都市内で収穫できる野菜を販売する八百屋さんができれば、消費者にとっては望ましいと考えられます。とは言っても、青果物の産地と大消費地とは距離的に離れていますから、品質を大切にした産地と直結した流通・販売が望まれます。

② 流通特性

 食品では、基本特性(一次機能)や嗜好特性(二次機能)、生体調節機能特性(三次機能)などのそれぞれの品質要素と、その二次的特性には、時間の経過とともに変化する「速度」で表される「流通特性」があります。これは、言葉を変えれば、「日持ち」という品質要素です。 食品の流通特性は、流通過程で起こる安全性、栄養特性、嗜好特性などの個々の品質要素の変化を「速度」という概念で表したものです。流通過程における成分変化には、水分の増減による吸湿や乾燥、化学成分の増減による栄養成分や呈味成分の変化や、組織や歯触りなどの品質低下、色素や脂質などの劣化による変質などがあります。

消費者

  青果物では、水分の蒸散による萎れや目減りが先ず問題になり、5%の目減りがあると商品価値が損なわれます。また、呼吸による生理・代謝によって引き起こされる鮮度や品質の低下があり、微生物の増殖などによって引き起こされる変敗や腐敗などがあります。農産物の流通過程で外観や成分の変化が少ないものは、品質が安定して日持ちが良く、流通特性が優れているということになります。

③付加特性

 食品には、豊かな生活に寄与する文化性、簡便性、合理性、経済性などの視点で評価される「付加特性」があります。これらは、人の価値観により、個々の食品に対する品質要素の評価に違いがでることで説明されます。 食品の付加特性は、評価する人の過去の経験などによる好き嫌いや、年齢や性別による評価の違い、こだわりや生活レベルなどによる価値観の違いなどにより、同じものでも評価が大きく違ってきます。アメリカなどの多民族国家では、住んでいる地域や、民族や宗教などの違いによって、食品に対しても大きな価値観の違いがあります。

  このように、消費者の価値観の違いを捉えて、食品の望ましい品質を考えることも重要な視点になっています。

低温流通の重要性

野菜

 青果物は、一般の加工食品などとは異なり、生きているところにその特徴があります。すなわち、青果物は、収穫・調製された後、流通・販売され、家庭やレストランなどで調理されるまで生きて呼吸をし、青果物の品質・美味しさなどと密接に関係する糖や有機酸を消耗し、成長・成熟・老化を続けています。また、蒸散により水分を外部に放出しており、しおれが起こったり、つやが落ちたりします。このような青果物の生理作用を理解し、品質が良く、美味しい青果物を消費者に提供するには、直売所のように、地場で採れた青果物をその場で提供するのが一番です。

  しかし、実際の産地と大消費地は離れていますので、青果物の良い品質を長く保つには、その生理作用、特に呼吸と蒸散を抑えることが重要なポイントになります。そのためには、特に呼吸量の多い野菜は、収穫後できるだけ早く予冷し、低温に保持することが重要です。昭和30年代の後半から、夏場には葉野菜の真空予冷が行われ始め、現在に至るまで予冷、低温保持などの低温管理についての技術普及が行われ、様々な方法により低温流通が行われるようになっています。

  予冷法は大別すると、①冷風冷却、②真空冷却、③冷水冷却、④砕氷冷却、⑤冷水冷却などがあり、冷風冷却には強制通風冷却と差圧通風冷却があります。予冷の問題点としては、予冷にコストがかかるので、日本では主に夏場にしか行われないことや、一旦予冷をすると一貫した低温流通をしなければならないので、市場を通らない商物分離の流通システムが確立されたものについて行われるものと理解されます。この点、最近ブームになっている直売所では、収穫されてから店舗に並ぶまでの時間が短いので、鮮度が良く、予冷する必要がなく、流通経費もかからず、多くのメリットがあるといわれています。

  冷水冷却は、冷水のシャワーや氷水への浸漬などによる方法で行われますが、冷却速度が速く確実で、しおれることもなく、設備コストも真空冷却などよりはるかに安価であり、通いのプラスチックコンテナーで多くの青果物が流通されている東南アジアでは、地下水を利用した冷水冷却が多く使われています。しかし日本では、ワンウェイの段ボール輸送が多いため、水を使う冷水冷却は殆ど行われていません。

  砕氷冷却は、アメリカから輸入されるブロッコリなどで耐水性の段ボール箱により行われており、多くの青果物について0℃の条件が品質保持に優れた効果のあることが理解され、日本国内でも発泡スチロール容器を用いた砕氷冷却が一部で行われています。鮮度保持の効果は確かなものがありますが、水濡れを嫌う日本では発泡スチロール容器が必要であり、コストと容積・重量が増すことや廃棄物・環境などの問題があります。

  青果物の予冷庫は、強制通風冷却が最も多く、次いで差圧冷却であり、真空冷却の予冷施設は少なくなっています。この他に、統計上にはない「一坪冷蔵庫」があります。農家が一坪程度の小型の予冷庫を設置して、イチゴなどを収穫した後に、そこで直ちに予冷することで果実の扱いや遠距離出荷などを可能にしています。

  青果物のコールドチェーンを確立するためには、予冷後から出荷までの間、市場での取引の間、包装作業の間、小売店の店頭など、青果物が置かれる場所に低温保管庫やショーケースなどが必要となります。しかし、実際には、一定の低温が保たれ、一貫した低温流通が行われているところは多くないようです。現在、市場での低温化の重要性が認識され、低温保管庫が作られるところが多くなっています。また、青果物の輸送においても一定の低温を維持できるようにすることが重要であり、低温輸送車輌、冷凍冷蔵コンテナなどが利用されています。

青果物の鮮度保持包装と日本の流通

  青果物は、一般の加工食品などとは異なり、生きているところにその特徴があります。すなわち、青果物は、収穫・調製された後、流通・販売され、家庭やレストランなどで調理されるまで生きて呼吸をし、青果物の品質・美味しさなどと密接に関係する糖や有機酸を消耗し、成長・成熟・老化を続けています。また、蒸散により水分を外部に放出しており、しおれが起こったり、つやが落ちたりします。このような青果物の生理作用を理解し、品質が良く、美味しい青果物を消費者に提供するには、直売所のように、地場で採れた青果物をその場で提供するのが一番です。

野菜

  しかし、実際の青果物の産地とその消費地は一般にかなり離れていますので、青果物の良い品質を長く保つには、その生理作用、特に呼吸と蒸散を抑えることが重要なポイントになります。

  青果物鮮度保持の原理はシンプルなものであり、昔からそれほど変わっていません。青果物の品質低下は、大部分が収穫後も生きて呼吸をしているところから来るものであり、①蒸散による水分の消耗、②呼吸による糖・酸等の成分の消耗、③代謝活動による細胞の成熟・老化、④微生物による変敗などであり、その結果として、①「しおれ」や②「味の低下」、③「外観、歯触りの変化」、④腐敗・カビの発生などの品質低下が起こります。このようなことから、青果物は古くから地産地消が行われていました。

  一般に、葉野菜、花野菜などのように呼吸量、蒸散量の多い青果物ほど品質低下が速く、環境温度が高いほど呼吸量、蒸散量が高まり、品質低下は早まります。夏場の常温下で単純に包装してみると、蒸れや結露が起こり、「成分の消耗」はもとより、「異臭」や「腐敗、カビの生育」などが短時間で起こり、品質が急速に低下することが分かります。

  このようなことから、青果物の品質・鮮度を維持する原理は、①流通環境を低温にして呼吸・蒸散を抑え、②包装することにより蒸散・呼吸を抑え、③エチレン等の影響を受けるものはこれを抑え、成分の消耗をできるだけ少なくするということになります。従って、青果物の品質保持の基本は、「収穫後速やかに冷却して呼吸、蒸散、代謝を抑え、低温を維持するとともに、包装により蒸散・しおれや呼吸・成分の消耗をさらに低下させる」ということになりますが、これは話の上であり、日本の現実はそう簡単にはいっていません。 日本の冬場は、外界の温度が低いので、それ程大きな問題はありませんが、初夏から夏場を経て秋口まで、外界の温度が高いときの流通が大きな問題です。遠隔地から青果物を運ぶ場合には、葉物などは真空予冷をしたりして品温を下げますが、包装作業、積込み作業、輸送の間の温度制御がきちっと管理されているところが多くはありません。

  欧米や欧米のスーパーが数多く進出している途上国では、コンテナ輸送に切り替わっており、安価で効果的な散水予冷が行われていますが、日本は未だに段ボール包装を行っているため、予冷に水が使えないという問題があります。

野菜

  また、古くから指摘されている点は、夏場に「卸売市場で低温が切れる、コールドチェーンが切れる」ということであり、市場の低温化が叫ばれてきましたが、近年では、青果物の品質保持のために「できるだけ現物は市場を通さない」という方向になってきました。「予冷した痛み易い青果物は、市場を通さず、直接量販店などに持ち込む」か、「市場を通す場合には、予冷をしない」と言うことになっていきました。後者の場合には、「品質は二の次」ということになってしまいます。

  さらに、包装作業についてですが、青果物を予冷し、呼吸量を下げてから低温を維持しながら包装作業をしなければなりませんが、このような条件が満足される施設は、日本では非常に少ないと言わざるを得ません。日本の消費者は鮮度志向ですから、いたずらに長持ちされた青果物は好まないようですが、それとて外観志向です。鮮度保持がなされていなければ、確実にビタミンなどの栄養成分や糖・酸などの呈味成分が減り、組織の老化が進み、不味くなっているはずです。

  欧米や欧米系スーパーの多い途上国では、青果物のコンテナ輸送、水による洗浄、散水・真空予冷、冷風脱水、包装が低温下で行われており、冷凍車で配送され、温度管理された冷蔵ショーケースで販売されるなど、温度管理、品質管理が行き届いている。日本では、残念ながらこのようなシステムはまだ出来ておらず、こういう意味でも、地産地消の新鮮な青果物を販売する直売所が人気になる理由もよく理解できます。

包装資材の品質保持効果

  青果物は、一般の加工食品などとは異なり、生きているところにその特徴があります。すなわち、青果物は、収穫・調製された後、流通・販売され、家庭やレストランなどで調理されるまで生きて呼吸し、青果物の品質・美味しさなどと密接に関係する糖や有機酸を消耗し、成長・成熟・老化を続けています。また、青果物は、蒸散により水分を外部に放出しており、このために萎れが起きたり、表面のつやが落ちたりします。このような青果物の生理作用を理解し、品質が良く美味しい青果物を消費者に提供するには、直売所のように、地場で採れた青果物をその場で提供するのが一番です。

  しかし、大規模な産地が、都会の真ん中にある店に、その日に採れた生鮮野菜を届けるのは非常に難しい。そこで、一定の規格で選別したものを、鮮度を保ちながら効率的に配送する必要があります。この時には、鮮度保持の基本である「低温と包装」により、青果物の呼吸と蒸散を抑制し、含まれる成分の消耗を抑え、品質を保持します。

  青果物は、10℃のときの呼吸量で便宜的に4つに分けています。図1は、野菜の呼吸量(1時間当たりのCO2 mg/kg)を示していますが、カテゴリー1の野菜は呼吸量の最も少ない「いも・たま」のような根菜類で、10℃での呼吸量が10mg/kg以下のものです。とても品質変化が少なく、簡単な包装でも常温でもほとんど問題がありません。

野菜類の保存温度と呼吸量

  カテゴリー2の野菜は呼吸量が10~30mg/kgのトマトやキュウリ、ナスなどの未熟果菜類です。カテゴリー3の野菜は呼吸量が30~100mg/kgのホーレン草やレタスなどの葉菜類です。カテゴリー2の野菜は低温と包装により呼吸を抑えて、着色や軟化などの追熟・老化などを抑制します。また、カテゴリー3の野菜は低温と鮮度保持包装により活発な呼吸と蒸散を抑えて、萎れや変色・老化などの鮮度・品質の低下を抑えます。

  カテゴリー4の野菜は、最も呼吸が活発な青果物で、きのこ類や、花や芽の部分を食べる野菜・山菜類、カット野菜などがこれに当たります。このような呼吸量の多い野菜類は、10℃以下のしっかりとした低温管理が必要になります。

  図1から判りますように、縦軸の呼吸量は対数になっており、野菜の温度が少し上がっても呼吸量は大きく高まり、呼吸が激しくなります。このようなことから、カテゴリー4の野菜は特に、低温保持と包装により鮮度保持をすることが重要になっています。特に夏場では、包装した野菜類は低温に保持しないと、包装内が蒸れて簡単に品質が低下してしまいます。包装するときに、上部を開けたり、大きな穴を開けたりする開封系の包装では、蒸散を防止する程度であり、それ以上の大きな鮮度保持効果は期待できません。

  MA包装(Modified Atmosphere Package)による鮮度保持効果を期待する場合には、青果物の呼吸量に合わせた酸素透過性の高いフィルムを選ぶ必要があり、この目的には、各種微細孔フィルム、パーシャルシールや各種の高透過性ラップフィルム、低密度ポリエチレン、ポリプロピレンなど鮮度保持フィルムが用いられます。

残念ながら日本では、青果物を流通させるときの温度管理がしっかりしていない場合が多いので、スーパーの冷蔵ショーケースなどでは、通常、袋の上部をオープンにしたり、大きな穴を開けたりした包装形体が多くみられます。そのような場合には、一般に「防曇ポリプロピレン」が多く用いられています。

農産物直売所の特質と品質保持上のメリット

  農産物、特に軟弱野菜は、流通・販売過程における鮮度低下が激しい。一般に青果物は、収穫から市場を通してスーパーの店頭に並ぶまで3日間ほどかかる。この間に歯触り・味・香りなどの美味しさや、目に見えないビタミンなどの栄養成分が消耗し、蒸散により水分も減り、「みずみずしさ」という鮮度の低下が起こる。直売所で売られる農産物の中でも、トマトやイチゴ、果物などように、完熟したものを収穫したその日に店頭に並べることができるものがあり、消費者の中には、直売所でこのような採れたての青果物の美味しさに初めて気がつく人もいる。

  これまで農協の直売所は、規格に合わないもの、量が少なく荷として纏まらないもの、多少傷のあるものなどが安い値段で売られる場所であった。生産者にも問題があり、ほとんどの生産者は、自分の労働力を賃金に換算したことがなく、自分の生産した農産物に値段を付けたことがない。たくさん収穫した場合には、親戚や近所の人にただであげるなどの癖がついている。

tomato

  そんな生産者が、直売所では「自分で付けた値段で売れる」、「市場に出荷するより高い値段で売れる」、「自分で作った珍しい農産物でも売れる」ことなどを知った。消費者は、スーパーの農産物より鮮度が良く、品揃えも多く、珍しいものがあり、値段も安いことを知った。近年、直売所が急速に発展してきた背景には、以下のような直売所がもつ本質的なメリットがあったと言えよう。

① 鮮度を重んじる野菜を朝採りしてすぐ店頭に出せば、新鮮で美味しい。 直売所の一番の売れ筋はトマトであるが、採りたての完熟ものが店に出せる。
②採れたてなので鮮度が良く、店で冷蔵する必要がなく、簡易な包装で良い。
③地域の土壌や気候に適した野菜・果物を出店すれば、美味しい商品になる。
 近くに産地があり、生産者が輸送・陳列を直接行うので、経費がかからない。
④美味しいと感じたら生産者の名前を覚え、同じ人のものを買うことができる。
⑤地場で採れる旬の野菜・果実が手に入り、試食の可能なところも多い。
⑥作物やその品種・規格に制限がなく、様々な青果物を販売・購入することができる。
⑦販売手数料は販売価格の15~20%と安く、価格もスーパーより安いところが多い。
トマト

 良く管理された直売所で、農家が自信を持って売る農産物は一級品が多い。直売所のこのようなメリットが、直売所人気の理由であるが、大きく発展した背景には、以下のような事情もある。

  2004年(平成16年)に卸売市場法が改正され、卸売業者の買付け・集荷が自由化され、「委託集荷」から「買付け集荷」にシフトするに伴い、生産者と卸売業者との利害が一致しない場面が増えてきている。一昨年(2009年)の4月からは卸売りの手数料が自由化され、一般の商品と同じように、生産者から安く買えば卸売業者の収入が増える垂直の競争関係が生まれてきた。

  昨今のデフレ時代を反映して低価格志向を強める大手スーパーは、商品のプライベートブランド化を加工品のみならず青果物をも対象にするようになり、大手スーパーに荷を納める青果物の買付け業者は、産地の生産者組合などから直接買い付けるケースも多くなってきており、買付け業者と農協が競争関係になる場面が出現している。特に昨今の大手スーパーの低価格路線は、多方面にひずみを生みつつあり、売り手のスーパーが「値頃感」として販売価格を決め、流通経費をとってから産地の買取り価格を決めるという方式では、買取り価格が生産者の生産費を下回る懸念がでている。

  2009年6月のフードシステム学会では、ある大手スーパーにおけるプライベートブランドのりんご価格が低価格で非常に安定していることが報告され、講演の先生はスーパーの買付業者による独占禁止法の「優越的地位の濫用」の懸念に触れておられた。食品製造業では大手スーパーの具体的な「優越的地位の濫用」が指摘されており、2009年6月に独占禁止法が改正され、2010年の1月からはその罰則が強化された。青果物流通においても、当然、「独占禁止法」「下請法」を適用しても良い事例が増えているといえる。生産者と流通業者が垂直の競争関係になれば、今までのような委託販売ではなく、直接価格を決めて売買契約をし、商品に対する責任も購入者に移転する欧米方式の売買契約にする必要が出てきているといえよう。

  また、スーパーでは、青果物の低価格化により青果物は儲からない商品になりつつあり、スーパー単独で品揃えをするのが難しくなったところでは、一部を農協などに委託をするインショップが行われ、青果物売り場の一部または全部を農協や集荷業者に委託するようなところも出てきている。

  一方、流通業者や外食チェーンなどの産地における直接買付けにより、集荷量・取扱量が減りつつある農協では、直売所のメリットを生かして利益を確保する方向に出てきているともいえよう。ここ数年、農事組合法人やNPO法人、生産者集団などの様々な組織が農産物直売所を始めており、農協もここに来て直売所に力を入れ始め、巨大直売所が次々と生まれている。

  直売所は、特に青果物に鮮度を求める消費者のニーズに合っており、生産者にとっては、自分の作ったものが自由な価格で直接販売できることと、青果物の種類や品種、栽培方法などに対する自分達の工夫が活かされること、品質の良いものを出店すると、消費者から反応が直接返ってくることなどに大きな魅力を感じているようである。

  直売所でGAP認証を受けているところはまだ2ヵ所であるが、今後、消費者に支持される直売所も増えていくものと考えられ、環境への配慮、品質・鮮度と安全・安心で売り出す直売所も増えるものと考えられる。

GAP普及ニュースNo.11~No.18 2010/1~2011/3